労働生産性の国際比較2 ※ u購買力平価(ppp)について...

33
[目次] 1 1. OECD 加盟諸国の国民 1 人当たり GDP と労働生産性 (1) 国民 1 人当たり GDP の国際比較 ………………………………………………………..1 (2) 就業者 1 人当たり労働生産性の国際比較 ……………………………………………..3 (3) 就業者 1 人当たり労働生産性上昇率の国際比較 ……………………………………...6 (4) 時間当たり労働生産性の国際比較 …………………………………………………….7 (5) 時間当たり労働生産性上昇率の国際比較 …………………………………………….11 2. 産業別労働生産性の国際比較 (1) 主要先進 7 カ国の産業別労働生産性のトレンド ……….…………………………….14 (2) 製造業の労働生産性水準の国際比較 ……………….………………………………..…22 3. 世界銀行等のデ-タによる労働生産性の国際比較 (1) 就業者 1 人当たり労働生産性の国際比較 ….………………………..…………….….24 (2) 就業者 1 人当たり労働生産性上昇率の国際比較 ……….…………….……..…..……28 本稿執筆に際し、宮川努・学習院大学教授より有益なコメントをいただいたことに謝意を表したい。 ※※本稿は 2018 11 月に OECD 等が公表していたデータに基づいている。 労働生産性の国際比較 2018 [要約] 1. 日本の時間当たり労働生産性は 47.5 ドルで、OECD 加盟 36 カ国中 20 位。 OECD データに基づく 2017 年の日本の時間当たり労働生産性(就業 1 時間当たり付加価値) は、47.5 ドル(4,733 円/購買力平価(PPP)換算)。米国(72.0 ドル/7,169 )3 分の 2 程度 の水準に相当し、順位は OECD 加盟 36 カ国中 20 位だった。名目ベースでみると、前年か 1.4%上昇したものの、順位に変動はなかった。主要先進 7 カ国でみると、データが取得 可能な 1970 年以降、最下位の状況が続いている。 2. 日本の 1 人当たり労働生産性は、84,027 ドル。OECD 加盟 36 カ国中 21 位。 2017 年の日本の 1 人当たり労働生産性(就業者 1 人当たり付加価値)は、84,027 ドル(837 )。ニュージーランド(76,105 ドル/758 万円)を上回るものの、英国(89,674 ドル/893 )やカナダ(93,093 ドル/927 万円)といった国をやや下回る水準で、順位でみると OECD 加盟 36 カ国中 21 位となっている。 3. 日本の製造業の労働生産性は 99,215 ドルで、OECD に加盟する主要 31 カ国中 15 位。 ・日本の製造業の労働生産性水準(就業者 1 人当たり付加価値)は、 99,215 ドル(1,115 万円/為 替レート換算)。円ベースでみると着実に上昇を続けているものの、近年は為替レートの影 響でドルベースの水準が伸び悩んでいる。順位でみると OECD に加盟する主要 31 カ国の 中で 15 位となっており、昨年から順位を 1 つ落としている。

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Page 1: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

[目次]1

1. OECD 加盟諸国の国民 1 人当たり GDP と労働生産性

(1) 国民 1 人当たり GDP の国際比較 ………………………………………………………..1

(2) 就業者 1 人当たり労働生産性の国際比較 ……………………………………………..3

(3) 就業者 1 人当たり労働生産性上昇率の国際比較 ……………………………………...6

(4) 時間当たり労働生産性の国際比較 …………………………………………………….7

(5) 時間当たり労働生産性上昇率の国際比較 …………………………………………….11

2. 産業別労働生産性の国際比較

(1) 主要先進 7 カ国の産業別労働生産性のトレンド ……….…………………………….14

(2) 製造業の労働生産性水準の国際比較 ……………….………………………………..…22

3. 世界銀行等のデ-タによる労働生産性の国際比較

(1) 就業者 1 人当たり労働生産性の国際比較 ….………………………..…………….….24

(2) 就業者 1 人当たり労働生産性上昇率の国際比較 ……….…………….……..…..……28

※ 本稿執筆に際し、宮川努・学習院大学教授より有益なコメントをいただいたことに謝意を表したい。 ※※本稿は 2018 年 11 月に OECD 等が公表していたデータに基づいている。

労働生産性の国際比較 2018

[要約]

1. 日本の時間当たり労働生産性は 47.5 ドルで、OECD 加盟 36 カ国中 20 位。 ・OECD データに基づく 2017 年の日本の時間当たり労働生産性(就業 1 時間当たり付加価値)

は、47.5 ドル(4,733 円/購買力平価(PPP)換算)。米国(72.0 ドル/7,169 円)の 3 分の 2 程度

の水準に相当し、順位は OECD 加盟 36 カ国中 20 位だった。名目ベースでみると、前年か

ら 1.4%上昇したものの、順位に変動はなかった。主要先進 7 カ国でみると、データが取得

可能な 1970 年以降、 下位の状況が続いている。

2. 日本の 1 人当たり労働生産性は、84,027 ドル。OECD 加盟 36 カ国中 21 位。

・2017 年の日本の 1 人当たり労働生産性(就業者 1 人当たり付加価値)は、84,027 ドル(837 万

円)。ニュージーランド(76,105 ドル/758 万円)を上回るものの、英国(89,674 ドル/893 万

円)やカナダ(93,093 ドル/927 万円)といった国をやや下回る水準で、順位でみると OECD

加盟 36 カ国中 21 位となっている。

3. 日本の製造業の労働生産性は 99,215 ドルで、OECD に加盟する主要 31 カ国中 15 位。 ・日本の製造業の労働生産性水準(就業者 1 人当たり付加価値)は、99,215 ドル(1,115 万円/為

替レート換算)。円ベースでみると着実に上昇を続けているものの、近年は為替レートの影

響でドルベースの水準が伸び悩んでいる。順位でみると OECD に加盟する主要 31 カ国の

中で 15 位となっており、昨年から順位を 1 つ落としている。

Page 2: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ
Page 3: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

1

(1) 国民 1 人当たり GDP の国際比較

日本の「経済的な豊かさ」を国際的に比較するにあたっては、国民1人当たり国内総生産

(GDP)を用いることが一般的である。国民1人当たりGDPは、

人口

国内総生産=人当たり国民 GDP1

によって算出される。国民1人当たりGDPを

各国通貨からドルに換算する際は、実際の

為替レートでみると変動が大きいため、

OECDが発表する物価水準の違いなどを調

整した購買力平価(Purchasing power parity/

PPP)を用いている。

先進36カ国1で構成されるOECD(経済協

力開発機構)加盟諸国の2017年の国民1人当

たりGDPをみると、第1位はルクセンブルク

(104,175ドル/1,038万円)であった。以下、

アイルランド(75,304ドル/750万円)、スイ

ス (64,835ドル/ 646万円 )、ノルウェー

(61,576ドル/613万円)、米国(59,774ドル/

595万円)といった国が上位に並んでいる(図

1参照)。

日本の国民1人当たりGDPは、43,301ドル

(431万円)で、36カ国中17位であった。これ

は、米国の7割強に相当し、英国(43,402ドル

/432万円)やフランス(42,858ドル/427万

円)とほぼ同水準にあたり、イタリア(39,621

ドル/395万円)をやや上回る水準である。

また、OECD平均と比較すると2017年(43,726ドル/436万円)はわずかに下回った。日本の国

民1人当たりGDPは、1990年から2007年までOECD平均を上回っていたが、その後をみると

OECD平均を前後するような水準で推移している。

1 現在の OECD 加盟国は 2018 年 7 月のリトアニアの加盟で 36 カ国になったことから、各種比較も 36 カ

国を対象としている。ただし、本稿及び付表等に記載する過去の OECD 平均などのデータは当該年の加

盟国ベースによるものである。1991 年以前のドイツは西ドイツのデータとしている。

1

OECD 加盟諸国の国民 1 人当たり GDP と労働生産性

104,175 75,304

64,835

61,576

59,774

52,825

52,799

52,512

51,496

50,878

50,762

50,032

47,937

46,705

44,956

43,402

43,301

42,858

40,546

39,621

38,540

38,350

38,116

36,350

34,886

32,585

32,411

31,905

31,575

28,782

28,215

27,813

27,582

27,092

24,013

19,093

43,726

0 15,000 30,000 45,000 60,000 75,000 90,000 105,000

ルクセンブルク 1

アイルランド 2

スイス 3

ノルウェー 4

米国 5

アイスランド 6

オランダ 7

オーストリア 8

デンマーク 9

ドイツ 10

オーストラリア 11

スウェーデン 12

ベルギー 13

カナダ 14

フィンランド 15

英国 16

日本 17

フランス 18

ニュージーランド 19

イタリア 20

イスラエル 21

韓国 22

スペイン 23

チェコ 24

スロベニア 25

エストニア 26

リトアニア 27

ポルトガル 28

スロバキア 29

ポーランド 30

ハンガリー 31

ラトビア 32

ギリシャ 33

トルコ 34

チリ 35

メキシコ 36

OECD平均

(図1)OECD加盟諸国の1人当たりGDP

(2017年/36カ国比較)

単位:購買力平価換算USドル

Page 4: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

2

※U購買力平価(PPP)について

購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

る。通常、各国の通貨換算は為替レ-トを用いることが多いが、為替変動に伴って数値にぶれが生じる

ことになる。そのため、各種の比較にあたっては、為替レ-トによるほかに購買力平価を用いるように

なっている。購買力平価は、国連国際比較プロジェクト(ICP)として実施計測されており、同じもの(商品

ないしサ-ビス)を同じ量(特定のバスケットを設定する)購入する際、それぞれの国で通貨がいくら必要

かを調べ、それを等置して交換レ-トを算出している。

例えば日米で質量とも全く同一のマクドナルドのハンバ-ガ-が米国で1ドル、日本で100円である

とすればハンバ-ガ-のPPPは1ドル=100円となる。同様の手法で多数の品目についてPPPを計算し、

それを加重平均して国民経済全体の平均PPPを算出したものが、GDPに対するPPP(PPP for GDP)にな

る。購買力平価はOECDや世界銀行で発表されており、OECDの2017年の円ドル換算レ-トは1ドル

=99.594円になっている。

19

20

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17 17 17

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4 4 4 4 4 4 4 4

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15 15 15 15 15

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20 20 20 20 20

7

5 5 5

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8

10 10

8 8

7

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8

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12 12

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0

5

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19701975

19801985

19901991

19921993

19941995

19961997

19981999

20002001

20022003

20042005

20062007

20082009

20102011

20122013

20142015

20162017

(図2)主要先進7カ国の国民1人当たりGDPの順位の変遷

米国

カナダ

日本

英国

ドイツ

フランスイタリア

日本の国民1人当たりGDPは、1990年代初めにOECD加盟国中6位まで上昇し、主要先進7

カ国2で米国に次ぐ水準になったこともあったが、経済的停滞に陥った1990年代半ばから他

の主要国に遅れをとるようになった。2000年代になると主要先進7カ国の中でも下位に落ち

着くようになり、OECD加盟36カ国で比較しても、1970~1980年代半ばとほぼ同じ17~19位

程度で推移するようになっている。もっとも、2010年代に入ると、2011年の19位を 後に主

要先進7カ国で 下位の状況を脱し、2015年にはフランスを上回るなど、順位でみれば緩や

かながらも上昇基調にある。

直近5年間の1人当たりGDPの推移をみると、日本の上昇幅(2012年比+16%/2017年名目

ベース)は、米国(同+16%)とほぼ同程度であり、欧州諸国でも経済が比較的好調なドイツ(同

+17%)とも遜色ない状況にある。近年の主要先進7カ国の1人当たりGDPは、60,000ドル近い

米国が突出しており、50,000ドル強でドイツが続いている。その後、45,000ドル前後のカナ

ダ、英国、日本、フランスが分布しており、上位グループとはやや開きがある。

2 日本・米国・英国・フランス・ドイツ・イタリア・カナダの 7 カ国。

Page 5: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

3

国民1人当たりGDPによって表される「経済的豊かさ」を実現するには、より少ない労

力で多くの経済的な成果を生み出すことが欠かせない。それを定量的に数値化した指標の1

つが労働生産性である。日本のように中長期的に就業者数の増加や就業率の改善が期待でき

なくなっても、労働生産性の向上でカバーできれば、国民1人当たりGDPは上昇する。だか

らこそ、持続的な経済成長や経済的な豊かさを実現するには、労働生産性の上昇が重要だと

いうことになる。賃金を増やす上でも、賃金の原資となる付加価値を効率的に生み出すこと

が重要であり、それを定量化した指標として労働生産性が利用されている。そうした観点を

ふまえ、ここでは労働生産性から日本の国際的な位置付けをみていきたい。

労働生産性は、一般に就業者1人当たり、あるいは就業1時間当たりの成果(付加価値額な

ど)として計算される。国際的に比較するにあたっては、付加価値(国レベルではGDPに相

当)をベースとする方式が一般的である。本稿でも、労働生産性を

労働時間)または就業者数就業者数労働生産性

(

GDP

(購買力平価(PPP)により換算)

として計測を行っている。労働生産性の計測に

必要な各種データはOECDの統計データを中心

に各国統計局等のデータも補完的に用いてい

る。また、各国のデータが随時改定されること

から、1970年以降全てのデータについて過去に

遡及して修正を行っている。 上述の算式から計測した2017年の日本の就

業者1人当たり労働生産性は、84,027ドル(837万

円)であった。OECD加盟36カ国の中でみると、

21位にあたる(図3参照)。これは、ニュージーラ

ンド(76,105ドル/758万円)を上回るものの、英

国(89,674ドル/893万円)やカナダ(93,093ドル

/927万円)、OECD平均(95,464ドル/951万円)

をやや下回る水準である。また、米国(127,075

ドル/1,266万円)と比較すると、概ね2/3程度

となっている。

2017年の労働生産性が も高かったのは、ア

イルランド(164,795ドル/1,641万円)であった。

アイルランドの労働生産性水準は1980年代く

(2) 就業者 1 人当たり労働生産性の国際比較

164,795

143,770

127,075

122,902

118,155

117,307

108,405

106,998

105,454

105,091

104,179

101,810

100,940

100,207

100,123

94,220

93,554

93,093

89,674

87,756

84,027

76,105

75,941

75,137

73,825

73,719

71,217

69,090

67,855

67,517

67,339

65,093

62,461

60,250

53,743

45,058

95,464

0 30,000 60,000 90,000 120,000 150,000

アイルランド 1

ルクセンブルク 2

米国 3

ノルウェー 4

スイス 5

ベルギー 6

オーストリア 7

フランス 8

デンマーク 9

オランダ 10

イタリア 11

オーストラリア 12

ドイツ 13

スウェーデン 14

フィンランド 15

スペイン 16

アイスランド 17

カナダ 18

英国 19

イスラエル 20

日本 21

ニュージーランド 22

トルコ 23

スロベニア 24

韓国 25

チェコ 26

ギリシャ 27

ポルトガル 28

スロバキア 29

リトアニア 30

ポーランド 31

エストニア 32

ハンガリー 33

ラトビア 34

チリ 35

メキシコ 36

OECD平均

(図3)OECD加盟諸国の労働生産性

(2017年・就業者1人当たり/36カ国比較)

単位:購買力平価換算USドル

Page 6: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

4

らいまで日本と大きく変わらなかったが、1990年代後半あたりから法人税率などを低く抑え

ることで米国の多国籍企業を中心に欧州本部・本社機能をアイルランドに相次いで呼び込む

ことに成功し、高水準の経済成長と労働生産性の上昇を実現した。こうした動きは近年国際

的にも厳しい視線にさらされており、今後も高い労働生産性水準を維持できるかには不透明

感が漂うものの、1998年から2018年までの20年間でアイルランドは労働生産性水準を名目

ベースで2.7倍にまで引き上げており、主要国の中でも突出した上昇幅になっていることは

注目に値するだろう。また、アイルランドでは持続可能な成長や競争力強化を目的とした機

関(National Competitiveness Council)が、海外直接投資などの事業パフォーマンス・コスト・

生産性・雇用の視点が生活の質改善や企業の競争力強化に重要であり、特に生産性の改善が

競争力強化の も重要な原動力になるとして、初めて生産性に焦点を当てた調査や提言を行

おうとしている3。そうした動きも今後の生産性の動向に影響を及ぼす可能性がある。 第2位は、ルクセンブルク(143,770ドル/1,432万円)となっている。ルクセンブルクは、人

口60万人弱で面積も神奈川県とほぼ同程度の小国ながら、これまでも非常に高い労働生産性

や1人当たりGDPを実現してきた。これは、アイルランドと同様に法人税率などを低く抑え

て数多くのグローバル企業の誘致に成功していることに加え、産業特性的に生産性が高くな

りやすい金融業や不動産業、鉄鋼業がGDPの半分近くを占める独特の産業構造による部分

が大きい。特に、金融業をみると、EU圏における富裕層向けのプライベート・バンキング

の中心地の1つとして、数多くの世界的な金融機関が進出している。ただし、グローバル企

業に対する税優遇に対して欧州委員会から厳しい指摘がなされているのはアイルランドと

同様であり、今後の対応いかんによっては同国の生産性水準も少なからず変動する可能性が

ある4。

3 日本生産性本部による現地ヒアリングによると、上記機関が 2019 年 3 月を目標に生産性向上に向けたレ

ポートのとりまとめを進めている。詳細が分かり次第、別途レポートしたい。なお、National Competitiveness Council(NCC)の詳細は http://www.competitiveness.ie/を参照されたい。

4 日本経済新聞 2017 年 10 月 4 日付記事,毎日新聞 2018 年 3 月 21 日付記事などによる。

1970年 1980年 1990年 2000年 2010年 2016年

1 米国 オランダ ルクセンブルク ルクセンブルク ルクセンブルク アイルランド

2 ルクセンブルク ルクセンブルク ベルギー 米国 ノルウェー ルクセンブルク

3 カナダ 米国 米国 ノルウェー 米国 米国

4 オーストラリア ベルギー イタリア イタリア アイルランド ノルウェー

5 ベルギー イタリア ドイツ イスラエル スイス スイス

6 ドイツ ドイツ オランダ ベルギー ベルギー ベルギー

7 ニュージーランド アイスランド フランス アイルランド イタリア オーストリア

8 イタリア カナダ オーストリア スイス フランス フランス

9 スウェーデン オーストリア アイスランド フランス オランダ デンマーク

10 オーストリア フランス カナダ オランダ デンマーク オランダ

- 日本 (20位) 日本 (20位) 日本 (15位) 日本 (21位) 日本 (21位) 日本 (21位)

(表1) 就業者1人当たり労働生産性 上位10カ国の変遷

Page 7: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

5

日本の労働生産性は、1990年代初頭に米国の3/4近い水準だったものの、2010年代に入っ

てから米国の概ね2/3前後で推移している。これは1980年代半ばとほぼ同じ水準である(図5

参照)。とはいえ、2017年の米国の名目労働生産性水準は2012年からの5年で12%上昇してい

るが、日本も同時期に生産性が11%上昇しており、2000年代のように日米の生産性格差が緩

やかながらも拡大する傾向には歯止めがかかったといってよい。

そもそも労働生産性はGDPなどで表される成果を分子とし、就業者数や就業時間などを

分母とする計算式で表される指標だが、これまでは分子となる名目GDPがなかなか拡大せ

ず、分母となる就業者の減少などが寄与して生産性を上昇させてきた。しかし、近年は、良

好な経済情勢を背景に企業の人手不足が続いており、就業者数も増加トレンドへと転じてい

る。また、人手不足への対応として企業の省力化・システム化投資も活発化している。製造

20 20 20 20

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18

17 17

18

19

18 18 18 18 18 18

19 19

6

7

6 6 6

5 5 5 5 5

6 6 6

7

9 9

10

11

13

11 11

9

10

12

13

14

13

16

15

14

13

14

13

12

14

13

12 12

10

8

7 7 7

6

7 7

5 5 5

6

8 8 8 8

9 9

8

7

8

7

8 8

9

8 8 8 8

7

8 8 8 88

9

5 5 5

4 4

3

4 4 4

3

2 2 2 2 2

3

4 4

6 6 6 6

7 7 7 7 7 7

9

10

11 11

10

11

3

4

8

7

8 8 8

9

10 10 10

11

10

12 12

13

14

15

14 14 14

15

16

13

14

15

16

18

16 16

17 17

16

17 17

18

0

5

10

15

20

1970

1975

1980

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

2016

2017

(図4)主要先進7カ国の就業者1人当たり労働生産性の順位の変遷

米国

カナダ

英国

ドイツ

イタリア

フランス

日本

1970 1980 1990 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

カナダ 91.4 90.5 85.1 81.2 81.0 79.0 78.3 77.4 78.7 78.9 78.2 77.8 75.5 74.4 74.6 73.9 75.1 75.9 72.8 72.8 73.3

フランス 69.4 86.8 88.8 86.2 87.1 87.0 85.2 83.7 83.8 85.8 86.2 86.1 84.6 84.2 85.5 84.3 86.7 84.3 83.5 84.2 84.2

ドイツ 76.1 92.1 95.0 82.7 83.6 83.7 83.2 82.4 78.8 79.3 79.8 80.0 76.3 78.3 79.5 78.8 79.1 80.0 79.5 79.5 79.4

イタリア 74.4 94.4 98.8 97.5 95.8 93.4 90.8 86.6 84.5 86.4 87.7 89.1 87.0 85.5 85.9 84.1 84.1 82.2 80.9 83.2 82.0

日本 48.8 64.2 76.5 70.5 70.6 70.8 70.3 69.9 69.2 69.3 69.4 68.7 65.2 66.0 65.4 66.5 67.3 65.4 66.1 67.2 66.1

英国 60.4 67.1 72.0 75.4 76.3 76.9 76.8 76.5 74.2 75.7 75.0 75.4 72.1 72.1 71.6 71.8 72.5 71.9 71.2 71.8 70.6

韓国 0.0 0.0 39.1 53.6 54.4 55.6 55.4 55.5 55.5 56.4 58.1 58.4 57.1 58.1 57.2 56.8 55.7 55.0 56.0 57.5 58.1

40

50

60

70

80

90

100

110(図5)米国と比較した主要国の就業者1人当たり労働生産性

米国の労働生産性水準

(米国=100)

日本

カナダ

ドイツ

英国

イタリアフランス

韓国

Page 8: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

6

業向け設備投資が経済成長を牽引してきたかつてのような状況とは様相が異なるものの、再

び設備投資が経済成長に寄与することが期待できるようになりつつあるといえそうである。

そうすると、AIやロボットを開発・製造する企業による新しい研究開発投資を誘発するこ

とにもなるなど、生産性向上に向けたさまざまな相乗効果が期待できる。労働生産性を計算

する上で「分母」にあたる業務効率改善だけでなく、「分子」にあたる付加価値拡大を通じ

た生産性向上にもつながるだろう。米国をはじめとする主要先進国との生産性格差を縮める

には、こうした各種のイノベーションが重要な役割を果たすことになると考えられる。

OECD加盟諸国の2010年代後半(2015~2017年)の

労働生産性上昇率について、物価変動による影響を

除いた実質ベースで比較すると、 も労働生産性上

昇率が高かったのは、ラトビア(年平均+3.4%)で

あった。バルト海沿岸に位置するラトビアは、歴史

的・経済的にロシアとの関係が深いが、リーマン・

ショック後の経済危機で人員削減や賃下げといっ

た構造改革を断行したことで経済回復軌道に比較

的早く復帰し、その後も良好な経済情勢を維持でき

ていることが高い労働生産性上昇率にも結びつい

ている。

第2位は、アイルランドの+3.1%であった。アイ

ルランドは、前述したようにグローバル企業が本社

をおき、EU域内の利益や付加価値を会計的にアイ

ルランドに集中させたことで数字上GDPが急拡大

している。こうした影響から25%近く実質GDPが拡

大した2015年ほどではないが、近年も5~8%近い経

済成長が続いており、それが労働生産性上昇率にも

反映されている。

第3位のポーランド(+2.9%)は、低廉な労働コス

トを武器に自動車や家電といった分野でドイツな

どの生産拠点の有力な移転先として多くの企業誘致に成功している。また、ビジネス・プロ

セス・アウトソーシング(BPO)などと総称される企業の各種業務を代行するサービスの拠

点としての集積が進んでいることも、労働生産性の上昇に寄与している。

(3) 就業者 1 人当たり労働生産性上昇率の国際比較

3.4%

3.1%

2.9%

2.8%

2.7%

2.5%

2.3%

1.9%

1.9%

1.8%

1.6%

1.5%

1.2%

1.0%

1.0%

1.0%

0.9%

0.9%

0.9%

0.8%

0.7%

0.6%

0.6%

0.5%

0.4%

0.4%

0.4%

0.4%

0.3%

0.2%

0.1%

0.1%

-0.2%

-0.5%

-0.7%

-1.2%

0.6%

-2% -1% 0% 1% 2% 3% 4%

ラトビア 1

アイルランド 2

ポーランド 3

エストニア 4

アイスランド 5

リトアニア 6

トルコ 7

韓国 8

フィンランド 9

スロベニア 10

チェコ 11

ノルウェー 12

イスラエル 13

オランダ 14

スロバキア 15

デンマーク 16

オーストリア 17

カナダ 18

スウェーデン 19

メキシコ 20

ハンガリー 21

フランス 22

ベルギー 23

英国 24

オーストラリア 25

スペイン 26

ドイツ 27

米国 28

日本 29

スイス 30

イタリア 31

ポルトガル 32

チリ 33

ルクセンブルク 34

ギリシャ 35

ニュージーランド 36

OECD平均

(図6)OECD加盟諸国の就業者1人

当たり実質労働生産性上昇率

(2015~2017年平均/36カ国比較)

Page 9: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

7

日本の実質労働生産性上昇率は+0.3%で、OECD加盟36カ国中29位であった。これは、米

国(+0.4%)やドイツ(+0.4%)とほぼ同程度であり、イタリア(+0.1%)をわずかながら上回る

水準である。ただ、主要先進7カ国を概観すると、 も高水準だったカナダ(+0.9%)でも1%

を下回るなど、総じて上昇率が低くなっている。こうした情勢から主要先進国各国で生産性

上昇率がスローダウンしていることについてさまざまな議論がされており、これまでの生産

性向上を牽引してきたIT効果の剥落やシェアリングエコノミーの台頭、イノベーションの枯

渇のほか、デジタル化などによって消費者が享受するサービスの低価格化・無料化が進んで

いることが生産性にも影響を及ぼしているのではないかといったことが指摘されている。

日本の労働生産性上昇率は、イタリアに次ぐ低水準だった1990年代後半(+0.7%)から2000

年代前半(+1.5%)に米英に次ぐ水準まで回復した。その後、2000年代後半になると世界的な

金融危機などの影響でマイナス(-0.7%)に転落したものの、2010年代前半(+0.6%)になって

再び回復に転じる推移をたどっている。年代によって傾向に変化が生じているのは近年も同

様であり、2010年代後半に入ると他の主要国と同様に減速傾向へと転じている(図6・7参照)。

労働生産性は、就業者1人当たりだけでなく、就業1時間当たりとして計測されることも多

い。特に近年は、働き方を改革して今までより短い時間で効率的に仕事を行う上でも、時間

当たり労働生産性の向上が重要視されるようになっている。

2017年の日本の就業1時間当たり労働生産性は、47.5ドル(4,733円)となっており、OECD

(4) 時間当たり労働生産性の国際比較

(図7)主要先進7カ国の就業者1人当たり実質労働生産性上昇率の推移

1.9%

1.8%

1.5%

1.5%

0.8%

0.5%

-0.5%

-1% 0% 1% 2% 3% 4%

米国 1

英国 2

日本 3

フランス 4

ドイツ 5

カナダ 6

イタリア 7

(2000~2004年平均)

0.8%

-0.2%

-0.2%

-0.3%

-0.7%

-0.9%

-1.1%

-2% -1% 0% 1% 2% 3%

米国 1

英国 2

フランス 3

カナダ 4

日本 5

ドイツ 6

イタリア 7

(2005~2009年平均)

1.3%

0.7%

0.7%

0.6%

0.5%

0.3%

-0.7%

-1% 0% 1% 2% 3% 4%

カナダ 1

米国 2

英国 3

日本 4

ドイツ 5

フランス 6

イタリア 7

(2010~2014年平均)

2.6%

2.2%

1.7%

1.5%

1.5%

0.7%

0.5%

-1% 0% 1% 2% 3% 4%

米国 1

英国 2

カナダ 3

フランス 4

ドイツ 5

日本 6

イタリア 7

(1995~1999年平均)

Page 10: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

8

加盟36カ国中20位であった(図8参照)5。これは、

50ドル前後に並ぶカナダ(53.7ドル)や英国(53.5

ドル)、OECD平均(53.5ドル)をやや下回るくら

いの水準である。日本の順位は、1980年代後半

から足もとにいたるまで19~21位で大きく変

わらないが、近年は英国やカナダとほぼ同じ順

位のあたりで推移している(図9参照)。

OECD加盟諸国で就業1時間当たり労働生産

性が も高かったのは、アイルランド(97.5ドル

/9,710円)である。第2位のルクセンブルク(94.7

ドル/9,430円)とともに両国の時間当たり労働

生産性水準は、効率的に付加価値を生み出して

いるというだけでなく、前述の通り企業を呼び

込む税制などによる部分もあり、主要国の中で

もやや突出する格好になっている。アイルラン

ドとルクセンブルクの差が、就業者1人当たり

でみたときより縮小しているのは、ルクセンブ

ルクの労働時間がアイルランドより300時間近

く短いことによるものである。

第3位はノルウェー(82.3ドル/8,193円)で

あった。ノルウェーは北海の原油や天然ガスと

いった資源がGDPの2割近くを生み出し、豊富

5 文中の労働生産性水準値はドル・円換算値ともに四捨五入したもの。円換算にあたっては端数処理前の

値で行っているため、文中のドル・為替レートと記載の円換算値の末尾が一致しないことがある。

19 19 19

21 21

20 20 20 20

19

20 20 20

21 21

20

21

20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20

3

2

5 5 5

4 4

5 5

4 4 4 4

5

4

5

4

5 5 5

6

4 4 4

5 5 5

3

5 5 5

7

6 6

5

6

15 15

14

15 15 15

16

15

17

16 16 16 16

17

14

16

18 18

16 16

15

13 13

16

14 14

15

17

16

17 17 17

18

17 17

19

5 5 5

6

5

6

7

6

7 7 7 7

6

7 7

8 8

9

10

9 9 9 9 9

7 7

11 11

12

6 6 6 6 6 6 6 6

7 7 7 7

8

6

7

6 6

5

6

7

6 6

7 7

8

9

10 10 10 10 10 10 10

9 9 9

10 10

9

7 7

8

9

10 10 10 10 10 10 10

11 11

12 12

14

16

18

17 17

16 16

17

16

15

16 16 16 16 16

4

6

8

7

9

11 11

12 12 12 12 12 12

13 13

14

16

15 15 15

17 17

18

15 15

16

18 18 18 18 18 18

17

19 19

18

0

5

10

15

20

1970

1975

1980

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

2016

2017

(図9)主要先進7カ国の時間あたり労働生産性の順位の変遷

米国

カナダ

英国

ドイツイタリア

フランス

日本

97.5

94.7

82.3

73.5

72.2

72.0

69.8

69.3

68.0

67.8

64.7

62.4

62.2

59.7

57.6

55.5

53.8

53.7

53.5

47.5

44.1

43.2

42.4

42.2

41.8

40.4

36.6

36.6

36.4

36.0

35.3

35.0

33.5

32.3

27.5

21.0

53.5

0 20 40 60 80 100

アイ ルラ ンド 1

ルクセンブルク 2

ノルウェ ー 3

ベルギー 4

デンマーク 5

米国 6

ドイ ツ 7

オラ ンダ 8

スイ ス 9

フラ ンス 10

オーストリア 11

スウェ ーデン 12

アイ スラ ンド 13

フィンラ ンド 14

オーストラ リア 15

イ タリア 16

スペイ ン 17

カ ナダ 18

英国 19

日本 20

スロベニア 21

ニュージーラ ンド 22

イ スラ エル 23

スロバキア 24

トルコ 25

チェ コ 26

リトアニア 27

韓国 28

ポルトガル 29

エストニア 30

ギリシャ 31

ハンガリー 32

ポーラ ンド 33

ラ トビア 34

チリ 35

メキシコ 36

OECD平均

(図8)OECD加盟諸国の時間当たり

労働生産性(2017年/36カ国比較)

単位:購買力平価換算USドル

Page 11: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

9

な資源を活用した石油関連産業も発達している。こうした分野は多くの資本を必要とする一

方で多くの人員を必要としないことから、構造的に労働生産性が高くなる傾向にある。小売

などサービス分野においても、日本のような薄利多売ではなく、高福祉高負担を担保するた

めに物価水準が高くなっており、利幅もある程度のせられる環境にあることも影響している

と考えられる。また、ノルウェーのように相対的に労働時間の短い国では時間当たりでみた

ほうが労働生産性が高くなることも影響している。

他にも、労働時間が1,300~1,500時間程度で日本より10~20%程度短いオランダ、ドイツ、

フランスといった国では、時間当たりでみた労働生産性が1人当たりでみるより順位が高く

なっている。こうした国々は、時間当たり労働生産性水準も日本を上回っており、短い労働

時間でより多くの成果を生み出すことで経済的に豊かな生活を実現していることになる。特

に、製造業が盛んで産業構造が比較的日本と近いドイツは、1人当たり労働生産性でこそ第

13位だが、時間当たりでみると第7位となっている。ドイツの年間平均労働時間は1,356時間

(2017年)と欧州諸国の中でも比較的短いが、これも長時間労働が評価されず、短い労働時間

内で仕事を終わらせるために無駄なことを極力省いて仕事を進める意識が高いことが背景

にあるといわれている。こうして高い生産性水準を実現していることは、日本の働き方を考

える上でも参考になるだろう。

同様に、オランダも、年間平均労働時間が1,433時間と短い一方、時間当たり労働生産性

も69.3ドル(6,900円)でOECD加盟36カ国中第8位と高い水準を実現している。オランダは、同

一労働同一賃金を早くから実現し、副業を幅広く認めるなど、近年の日本で論点となってき

た働き方を先んじて実践している。それだけでなく、オランダでは、経済予測や政策分析な

どを行う組織であるCPBが生産性や競争力に影響を及ぼす政策などの分析を行い、イノベー

ションや労働能力向上、労働・生産市場の硬直性の改善、各種の資源再配分の 適化などを

支援することにより、生産性向上を加速させようとしている6。

もっとも、こうした生産性組織(National productivity board)の立ち上げは、オランダ単独で進

んでいるわけではなく、欧州委員会が加盟各国に設立を勧告したことが大きい。これは、オー

ストラリアで行われてきた生産性向上の取り組みなども参考にしながら、EU加盟国で生産

性向上にこれまでより注力しようとしたものである。現状で生産性組織の立ち上げに動いて

いるのは、オランダやフランス、アイルランドなど全加盟国の半分程度にとどまっているが、

EUとしては今後EU加盟国全てにこうした機関を設立し、欧州全域の生産性向上を加速させ

ようとしている。

6 日本生産性本部による現地ヒアリングによると、CPB Nerherlands Bereau for Economic Policy Analsys が

「National productivity board」の役割を 2017 年から担うようになり、各種の政策分析などを進めている。 活動等の詳細は、https://www.cpb.nl/en を参照のこと。

Page 12: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

10

なお、オーストラリアは豊富な地下資源をベースとした強固な経済基盤を持ち、時間当た

り労働生産性水準も57.6ドル(5,732円)と日本を2割近く上回る。また、オーストラリア政府

の独立研究・諮問機関であるProductivity Commission7が経済活動の自由度や生産性の改善に

向けた各種の調査や提言を行っており、企業や政府の生産性向上を支援している。近年では、

「オーストラリア国内の地理的な労働力移動の生産性や経済活動への影響」、「規制に関する

中小企業への影響分析」、「高等教育へのアクセスと成果に関する研究」、「デジタル経済が進

展する中で中小企業の機会を 大化するには」など幅広い視点から調査・提言を行っており、

欧州理事会勧告に基づいてEU加盟国が生産性委員会を設置する際の参考にもされている。

こうした政府と各種組織・企業が連携して生産性向上を加速させようとするオーストラリア

や欧州諸国の取組みは、今後の生産性向上に向けた新しい潮流になる可能性がある。

主要先進7カ国をみると、米国(72.0ドル・7,169円/第6位)とドイツ(69.8ドル・6,955円/第

7位)がやや抜きん出ており、フランス(67.8ドル・6,748円/第10位)が続いている(図9参照)。

米国(1,780時間)のように日本より労働時間が長い国もあるが、日本の労働生産性を米国と比

7 組織や活動の詳細は https://www.pc.gov.au/を参照のこと。

1970 1980 1990 2000 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

就業者1人あたり労働生産性 48.8 64.2 76.5 70.5 69.2 69.3 69.4 68.7 65.2 66.0 65.4 66.5 67.3 65.4 66.1 67.2 66.1

就業1時間あたり労働生産性 39.6 51.7 66.1 70.1 67.3 66.9 66.7 66.0 63.4 63.7 63.7 64.4 66.0 64.5 65.9 67.0 66.0

40

50

60

70

80

90

100

(図10)米国と比較した日本の労働生産性水準(米国=100)

米国の労働生産性水準

時間当たり労働生産性

就業者1人当たり労働生産性

1980年 1990年 2000年 2010年 2017年1 ルクセンブルク ルクセンブルク ルクセンブルク ルクセンブルク アイルランド

2 スイス ベルギー ノルウェー ノルウェー ルクセンブルク

3 オランダ オランダ ベルギー ベルギー ノルウェー

4 ベルギー スイス オランダ アイルランド ベルギー

5 米国 米国 米国 米国 デンマーク

6 アイスランド フランス フランス デンマーク 米国

7 スウェーデン ノルウェー ドイツ オランダ ドイツ

8 カナダ イタリア スイス スイス オランダ

9 イタリア デンマーク デンマーク フランス スイス

10 オーストラリア アイスランド スウェーデン ドイツ フランス

- 日本 (19位) 日本 (20位) 日本 (20位) 日本 (20位) 日本 (20位)

(表2) 時間当たり労働生産性 上位10カ国の変遷

Page 13: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

11

較すると、就業者1人当たり・時間当たりとも2/3程度の水準であり、主要先進7カ国の中で

もデータが把握できる1970年から も低い状況が続いている(図9・10参照)8。

日本の平均年間労働時間(1,710時間9)はOECD平均(1,759時間)を下回るようになってい

るとはいえ、これは比較的労働時間の短いパート労働者の増加による影響が大きく、2,000

時間を越える水準で高止まりしていたいわゆる正社員の労働時間が短縮に転じたのは、ここ

数年のことである。そう考えると、幅広い企業で取り組まれるようになってきた働き方改革

が浸透する中で短い労働時間で業務をこなすための意識改革やビジネスプロセスの効率化

が進めば、時間当たりでみた労働生産性の改善だけでなく、他の主要国との生産性格差の縮

小にもつながるものと期待できる。

2010年代後半(2015~2017年)の時間当たり実質

労働生産性上昇率(年平均)をみると、日本は+0.6%

でOECD加盟36カ国中23位であった(図11参照)。こ

れは、OECD加盟国平均(+0.8%)を若干下回るもの

の、米国(+0.6%)やフランス(+0.5%)とほぼ同じ水

準である。他の主要先進7カ国では、カナダ(+1.2%)

やドイツ(+1.2%)が比較的好調に推移している一

方、英国(+0.1%)やイタリア(±0%)などをみると労

働生産性上昇率が0%近傍で停滞している。

なお、OECD加盟国で時間当たり労働生産性上昇

率が も高かったのは、就業者1人当たりと同様、

2016年にOECDに加盟したラトビア (+3.9% )で

あった。以下、第2位にポーランド(+3.5%)、第3位

に韓国(+3.4%)、第4位にアイルランド(+3.0%)と

続いている。上位に並んでいるのは、就業者1人当

たりでみたときと大きく変わらないが、韓国をみる

と1人当たり(+1.9%)よりも時間当たり(+3.4%)の

方が労働生産性の上昇幅が大きくなっているのが

8 日米英独仏の時間当たり労働生産性水準については、より詳細に産業別比較(生産性レポート Vol.7「産

業別労働生産性水準の国際比較」2018 年 4 月発表)を行っている。詳しくは下記 URL を参照のこと。 https://www.jpc-net.jp/study/sd7.pdf

9 OECD「Annual Labour force Statistics」による 2017 年の年平均労働時間。本文記載の他国データも左記

による。

(5) 時間当たり労働生産性上昇率の国際比較

3.9%

3.5%

3.4%

3.0%

2.9%

2.8%

2.7%

2.5%

2.0%

2.0%

1.8%

1.2%

1.2%

1.2%

1.0%

0.9%

0.8%

0.7%

0.7%

0.7%

0.6%

0.6%

0.6%

0.6%

0.5%

0.5%

0.4%

0.4%

0.1%

0.0%

-0.2%

-0.4%

-0.4%

-0.5%

-0.6%

-1.4% 0.8%

-2% 0% 2% 4% 6%

ラトビア 1

ポーランド 2

韓国 3

アイルランド 4

リトアニア 5

トルコ 6

スロベニア 7

エストニア 8

スロバキア 9

フィンランド 10

アイスランド 11

ノルウェー 12

カナダ 13

ドイツ 14

チェコ 15

ハンガリー 16

スペイン 17

オランダ 18

チリ 19

スウェーデン 20

イスラエル 21

米国 22

日本 23

メキシコ 24

デンマーク 25

フランス 26

オーストリア 27

オーストラリア 28

英国 29

イタリア 30

ポルトガル 31

ルクセンブルク 32

ギリシャ 33

ベルギー 34

スイス 35

ニュージーランド 36

OECD平均

(図11)OECD加盟諸国の時間当たり

実質労働生産性上昇率

(2015~2017年・年率平均/36カ国比較)

Page 14: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

12

目立つ。アイルランドやスイスのように労働時間が増加したことで時間当たりの労働生産性

上昇率のほうが1人当たりより低くなっている国はOECD加盟国でみると少数派であり、中

長期的にみれば多くの国で労働時間が短くなってきている。

2017年の労働時間が2010年より短くなっている国はOECD加盟36カ国中30カ国を占め、前

年比で短くなっている国も28カ国と多数派となっている。日本の労働時間も、近年は概ね

1,700時間強で推移する状況にあるものの、2010年と比較すると1.3%ほど労働時間が短く

なっている。

日本の場合、これまでのような長時間労働を前提とした働き方を是とする考え方が急激に

変わりつつあり、より短い労働時間で効果的に働こうとする意識やビジネスの進め方が急速

に浸透してきている。また、深刻化する人手不足に対応して、銀行事務や小売の受発注、運

送の集配業務など広範な領域でロボット化・システム化の取り組みが進んでいる。そうした

省力化・自動化に資する取り組みが浸透すれば、これまでのような働き方が一変することに

なるだろう。そうした新しい変革をどこまで進められるかによっても、現状においてOECD

加盟国でも中下位にある日本の労働生産性水準や上昇率は大きく変化することになると考

えられる。

Page 15: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

13

【主要国と日本の労働生産性の推移】

・主要先進7カ国の労働生産性(時間当たり・名目)の推移をみると、米国・ドイツ・フ

ランスが上位グループを構成し、日本・英国・イタリア・カナダが下位グループを構

成する構図が変わっていないことがわかる。

・足もとの 2017 年における日本と米国の労働生産性水準格差は、2000 年より拡大して

いる。ただ、2012 年以降の直近 5 年でみると、名目・実質いずれのベースでみても若

干とはいえ米国との格差が縮小に転じている。

カナダ, 53.7

フランス, 67.8

ドイツ, 69.8

イタリア, 55.5

日本, 47.5

英国, 53.5

米国, 72.0

25

30

35

40

45

50

55

60

65

70

75

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

主要先進7カ国の名目労働生産性の推移(時間当たり/2000~2017年)

カナダ フランス ドイツ イタリア 日本 英国 米国

米国:日本の143%

米国:日本の

152%

米国:日本の

158%(最大)

購買力平価換算USドル

80%

77%

70%

67%

62%

60%

54%

20%

28%

15%

19%

17%

18%

1%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

ドイツ

米国

フランス

日本

英国

カナダ

イタリア

労働生産性上昇幅(2000年→2017年)

名目

実質

15%

15%

14%

12%

11%

11%

9%

5%

4%

5%

6%

3%

1%

2%

0% 5% 10% 15%

ドイツ

フランス

日本

カナダ

米国

イタリア

英国

労働生産性上昇幅(2012年→2017年)

名目

実質

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14

労働生産性は、1 年間に生み出された付加価値を労働投入で除して算出するため、その動

向は経済効率性の改善や各種のイノベーションなどに加えて、景気循環などにも影響を受け

る傾向がある。中長期的なトレンドも、産業構造や成熟度、産業特性に影響を受けるため、

産業や国によって異なることが一般的である。ここでは、そうした労働生産性のトレンドを

産業別に概観するため、2010 年時点の実質付加価値労働生産性水準を 1 として指数化し、

主要先進 7 カ国(米国、英国、イタリア、カナダ、ドイツ、フランス、日本)の 1995 年以降(1995

年~2016 年)の推移を比較している10。

① 製造業の労働生産性トレンド

製造業の労働生産性の推移をみると、各国とも世界的な金融危機の影響で大きく落ち込ん

だ2000年代後半を除けば、1990年代後半から概ね上昇基調が続いている。もっとも、2000

年代後半をみると、米国や英国は日本やドイツほど生産性が落込んでおらず、世界的な金融

危機の影響で世界経済が収縮した際の影響は国によって異なっていたとみることができる。

10 OECD「National Accounts」で分類されている①製造業、②建設業、③卸小売業、飲食・宿泊業、④情報

通信業、⑤金融保険業、⑥不動産業、⑦教育・社会福祉サービス業、⑧娯楽・対個人サービス業、⑨農

林水産業をここでは扱っている。ただし、専門・技術サービスについては、日本のデータが利用できな

かったために扱っていない。また、米国のデータについては、「Bureau of Economic Analysis」(BEA)のデー

タを用いている。先進 7 カ国の産業別データを統一的に収集できる期間を考慮し、2016 年までのデータ

を用いている。

2

産業別労働生産性の国際比較

(1) 主要先進 7 カ国の産業別労働生産性のトレンド

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(図12) 製造業の労働生産性の時系列比較(2010年=1)

米国 英国 イタリア

カナダ ドイツ フランス

日本

1995~

2016年

1995~

2009年

2010~

2016年

米国 3.2% 5.7% -0.6%

英国 2.3% 2.8% 0.4%

イタリア 0.9% -0.3% 1.7%

カナダ 1.3% -2.9% 2.1%

ドイツ 2.2% 1.1% 2.1%

フランス 3.0% 3.0% 2.3%

日本 2.8% 2.1% 2.2%

労働生産性平均上昇率

※データの制約により米国:1998年以降、カナダ:07年以降

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15

90年代後半から足もとまでを平均した年率平均上昇率が も高いのは米国(+3.2%)であ

り、フランス(+3.0%)や日本 (+2.8%)、英国(+2.3%)が続いている。一方、2010年以降の平

均上昇率をみてみると、足もとでは生産性の上昇トレンドが減速している国が多い。特に米

国(-0.6%)や英国(+0.4%)をみると、1995年から2009年まではそれぞれ+5.7%、+2.8%と

プラスの上昇率(年率平均)であったが、2010年以降の上昇率はそのトレンドを大きく下回っ

ている。先進国では生産工程を低コストの新興国に移転する動きが止まらないことが、国内

で生み出される付加価値の拡大を制約する一因になっており、それが生産性の動向にも影響

している。一方、イタリア(+1.7%)やカナダ(+2.1%)の上昇率は2010年代になって改善して

いる。また、日本(+2.2%)は90年代後半から足もとまでの平均上昇率と比べると2010年代に

なってからやや上昇率は低下しているが、それでも+2%を超える上昇率となっており、近

年の労働生産性の動きは主要国でもばらつきが生じるようになっている。

② 建設業の労働生産性トレンド

建設業の労働生産性は、ほとんどの国で長期停滞傾向にある。1990 年代後半以降のトレ

ンド(年率平均上昇率)をみると、 も高い英国でも+0.6%にとどまり、それ以外でかろうじ

てプラスとなっているのはドイツ(+0.1%)である。米国(-1.4%)、イタリア(-1.1%)、カナ

ダ(-1.6%)、フランス(-1.0%) 、日本(-0.1%)ではマイナスになっている。1995 年から 2009

年までの上昇率をみると、主要 7 ヶ国全てでマイナスとなっている。

2010 年以降の推移をみると、米国(-0.5%)、イタリア(-0.6%)、カナダ(-1.5%)、フ

ランス(-1.0%)で上昇率がマイナスとなっており、停滞傾向が続いている国が多い。ただ、

英国(+1.0%)やドイツ(+0.1%)、日本(+3.3%)では上昇率がプラスとなっている。特に日本

では、2010 年代の震災復興工事や、2020 年に開催される東京オリンピック・パラリンピッ

クなどを契機に需給が逼迫する状況が続いていることもあり、これまでの長期低落傾向を脱

して回復基調へと転じている。

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(図13) 建設業の労働生産性の時系列比較(2010年=1)

米国 英国 イタリア

カナダ ドイツ フランス

日本

1995~

2016年

1995~

2009年

2010~

2016年

米国 -1.4% -1.8% -0.5%

英国 0.6% -0.5% 1.0%

イタリア -1.1% -1.3% -0.6%

カナダ -1.6% -3.1% -1.5%

ドイツ 0.1% -0.3% 0.1%

フランス -1.0% -1.0% -1.0%

日本 -0.1% -1.4% 3.3%

労働生産性平均上昇率

※データの制約により米国:1998年以降、カナダ:07年以降

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16

③ 卸小売業、飲食・宿泊業の労働生産性トレンド

卸小売業、飲食・宿泊業における1990年代後半以降のトレンド(年率平均上昇率)をみると、

米国(+0.9%)、英国(+1.0%)、カナダ(+1.2%)、ドイツ(+1.0%)、フランス(+0.9%)では労

働生産性の上昇率が平均してプラスとなっており、堅調に上昇している。一方、イタリア(-

0.2%)や日本(0.0%)では停滞基調にあり、やや二極化したような傾向にある。

金融危機に伴う世界的な景気後退の影響で各国とも生産性が2009年に落ち込んだものの、

1995年から2009年までの年率平均上昇率をみると、日本とカナダを除く主要国では2016年ま

でのトレンドとほとんどかわっていない。カナダは2007年以降のデータのみ利用可能だった

ことを考慮すると、日本が他の主要国と異なるトレンドにある。日本の上昇率は2009年まで

-0.4%であったが、2010年以降は+0.6%となっており、緩やかながらも回復基調へと転じ

ている。日本の労働生産性は直近をみると再び停滞気味なものの、リーマンショック後に落

ち込んだ経済が回復する過程で生産性も改善したことが影響したものとみられる。

グローバルな競争下で各国のトレンドが比較的収斂されている製造業などと異なり、卸小

売飲食宿泊業といった分野は産業特性として国際競争にさらされるわけではないために国

内経済の影響をより強く受ける傾向がある。そのため、各国で異なる経済情勢や消費動態な

どの趨勢が労働生産性の推移にも反映されているものと考えられる。

④ 情報通信業の労働生産性トレンド

情報通信業の労働生産性は、製造業と並んで主要産業の中でも比較的安定的に推移してい

る。1990年代後半以降の推移をみても、概ね右肩上がりとなっている国が多い。平均労働生

産性上昇率が も高いのは米国(+7.5%)で、ドイツ(+4.0%)や英国(+3.3%)でも年率3%を

超えるペースで生産性が上昇している。フランス(+2.9%) 、日本(+2.3%)、イタリア(+

0.6

0.8

1.0

1.2

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(図14) 卸小売業、飲食・宿泊業の労働生産性の時系列比較(2010年=1)

米国 英国 イタリア

カナダ ドイツ フランス

日本

1995~

2016年

1995~

2009年

2010~

2016年

米国 0.9% 1.0% 0.2%

英国 1.0% 0.9% 1.4%

イタリア -0.2% -0.3% -0.3%

カナダ 1.2% -0.8% 1.6%

ドイツ 1.0% 1.3% 0.8%

フランス 0.9% 0.8% 0.9%

日本 0.0% -0.4% 0.6%

労働生産性平均上昇率

※データの制約により米国:1998年以降、カナダ:07年以降

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17

2.2%)、カナダ(+0.3%)でもプラスの平均上昇率となっている。日本の上昇率はカナダや

イタリアよりは高いものの、米国やドイツ、英国、フランスより低くなっている。これは他

国と比較すると2000年代または2010年以降に生産性が伸び悩んだことが影響している。日本

の場合、この時期も実質ベースの付加価値額は増加基調にあったものの、就業者が他国より

増加していることが影響しているものとみられる。

2010年代の推移をみると、英国(+0.7%)やイタリア(+0.1%)で労働生産性上昇率がプラス

であるものの、上昇率自体は低くなっており、トレンドに変化がみられる国もある。特に2000

年代に入ってから急速に情報通信関連サービスが普及したことでアウトプットも増加し、労

働生産性も上昇したが、それと比較すると2010年代では普及スピードも一段落し、アウト

プットの増加も2000年代と比較すると大きくないため、その値は大きくないと考えられる。

米国(+4.9%)やドイツ(+3.7%)、フランス(+1.9%)、日本(+0.8%)でも上昇率が90年代後半

から2009年までの平均より低下している。

⑤ 金融保険業の労働生産性トレンド

金融保険業における 1990 年代後半以降のトレンド(年率平均上昇率)をみると、主要 7 カ

国ではドイツ(-0.7%)のみマイナスであり、それ以外の 6 ヶ国ではプラスとなっている。

ただし、製造業や情報通信業と比較すると上昇幅がやや低く、特に 日本(+0.5%)では上昇

率が 1%を下回っている。一方、英国(+3.4%)やフランス(+1.7%)では 1.5%を超える水準

で生産性が上昇しており、イタリア(+1.3%)やカナダ(+1.3%)、米国(+1.2%)でも上昇率が

1%を上回っている。先進諸国の間でも、国によってトレンドに違いが生じている。

2010 年代に入ると、2009 年までと比較して英国(-0.2%)の上昇率がマイナスとなって落

ち込む一方、ドイツ(+1.3%)の上昇率はプラスとなっており、労働生産性が改善している。

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(図15) 情報通信業の労働生産性の時系列比較(2010年=1)

米国 英国 イタリア

カナダ ドイツ フランス

日本

1995~

2016年

1995~

2009年

2010~

2016年

米国 7.5% 7.1% 4.9%

英国 3.3% 4.2% 0.7%

イタリア 2.2% 3.0% 0.1%

カナダ 0.3% 0.2% 0.5%

ドイツ 4.0% 4.3% 3.7%

フランス 2.9% 3.2% 1.9%

日本 2.3% 3.2% 0.8%

労働生産性平均上昇率

※データの制約により米国:1998年以降、カナダ:07年以降

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18

カナダ(+2.8%)、日本(+2.5%)でも、1990 年代後半から 2009 年までの平均上昇率と比較し

て 2010 年代は上昇率が大きくなっており、労働生産性の改善がみられる。金融分野では IT

や AI を活用した高速取引や分析技術の向上、新しい金融商品の開発が進んでおり、それが

生産性向上にもつながっていると考えられるが、欧州の金融不安やグローバルな金融活動に

対する各国当局による規制などの影響もあり、金融分野をめぐる環境が国によって大きく変

化している。それが、労働生産性の推移にも反映しているものと考えられる。

⑥ 不動産業の労働生産性トレンド

不動産業の長期的な労働生産性の推移をみると、英国(-0.9%)やイタリア(-1.4%)では上

昇率がマイナスとなっている。一方で、米国(+1.9%)やカナダ(+1.3%)、フランス(+1.2%)、

日本(+0.6%)、ドイツ(+0.4%)では、90 年代後半から現在まででみると比較的堅調に生産

性の上昇が続いている。不動産業の場合、製造業や情報通信業ほど技術進歩によって生産性

が向上するとは考えにくいが、それでも国内外の不動産投資の多寡などによってアウトプッ

トや収益率は国によって異なり、それが労働生産性の動向にも影響していると考えられる。

日本の推移をみると、90 年代後半から 2000 年代初めあたりまで生産性が停滞していたも

のの、2009 年まではやや回復し、以降は上下動を繰り返しながらも、1995 年以降の全体的

な推移をみると緩やかに上昇するような傾向になっている。ただし、2015 年には大きく低

下し、2016 年も低下傾向にある。この一因として、中国人投資家による日本の不動産需要

が一段落したことが考えられる。2015 年 5 月あたりをピークとして 1 元あたり 20 円を上回

るまで円安元高が進んだが、2016 年 6 月には 14 円台となるなど、円高元安傾向となった。

近では 1 元あたり 16 円から 17 円程度で推移している。このような為替レートの変動に

よって、日本のタワーマンションなどへの需要が減退したと考えられる。

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(図16) 金融保険業の労働生産性の時系列比較(2010年=1)

米国 英国 イタリア

カナダ ドイツ フランス

日本

1995~

2016年

1995~

2009年

2010~

2016年

米国 1.2% 3.0% 0.2%

英国 3.4% 5.6% -0.2%

イタリア 1.3% 1.2% 0.5%

カナダ 1.3% -2.1% 2.8%

ドイツ -0.7% -1.9% 1.3%

フランス 1.7% 2.1% 1.1%

日本 0.5% -0.5% 2.5%

労働生産性平均上昇率

※データの制約により米国:1998年以降、カナダ:07年以降

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19

⑦ 教育・社会福祉サービス業の労働生産性トレンド

サ-ビス分野の労働生産性は、製造業などと比べて停滞傾向にあることが多い。一般的に

サービス分野は貿易を行うことができず、国内の経済規模や消費の動向から直接影響を受け

るためである。教育・社会福祉サービス業をみても、主要先進7カ国全てで長期停滞傾向が

続いている。1990年代後半からの各国の労働生産性上昇率は-0.9%(日本)から+0.4%(米国)

の幅に収まっており、ほぼ0%近傍に収斂している。特に介護などの社会福祉サービスや教

育は公的サービスの色彩が強く、価格や新規参入などに何らかの規制がある国が多い。統制

された価格や補助金の存在といった要因は、事業者の生産性を大きく左右する要因にもなる。

日本の労働生産性上昇率は-0.9%と主要国の中で 低水準にあり、1995年から2009年ま

でだと-0.8%、2010年以降でみても-0.9%と主要国では も低い。教育や社会福祉といっ

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(図17) 不動産業の労働生産性の時系列比較(2010年=1)

米国 英国 イタリア

カナダ ドイツ フランス

日本

0.6

0.8

1.0

1.2

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(図18) 教育・社会福祉サービス業の労働生産性の時系列比較(2010年=1)

米国 英国 イタリア

カナダ ドイツ フランス

日本

1995~

2016年

1995~

2009年

2010~

2016年

米国 1.9% 2.5% 0.4%

英国 -0.9% -1.4% -0.2%

イタリア -1.4% -1.6% -0.2%

カナダ 1.3% 0.9% 1.6%

ドイツ 0.4% 0.4% 0.6%

フランス 1.2% 1.2% 1.0%

日本 0.6% 1.0% -0.6%

労働生産性平均上昇率

※データの制約により米国:1998年以降、カナダ:07年以降

1995~

2016年

1995~

2009年

2010~

2016年

米国 0.4% 1.1% -0.3%

英国 -0.1% -0.1% 0.4%

イタリア -0.1% 0.2% -0.6%

カナダ 0.2% 0.4% 0.1%

ドイツ 0.2% 0.3% 0.0%

フランス 0.1% 0.0% 0.5%

日本 -0.9% -0.8% -0.9%

労働生産性平均上昇率

※データの制約により米国:1998年以降、カナダ:07年以降

Page 22: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

20

た分野には、減税、免税、補助金等を含む多くの政府資金が投入されており、付加価値を拡

大して生産性を上げるように事業者が取り組むインセンティブは他の事業分野ほど高くな

い。それが、多少ならずも影響していると考えられる。

⑧ 娯楽・対個人サービス業の労働生産性トレンド

サ-ビス分野の労働生産性が停滞傾向にあるのは、公的な色彩が強い教育・社会福祉サー

ビス業だけでなく、民間事業者が自由な市場で競争することが多いスポーツやテーマパーク、

映画館などの各種娯楽業や、理美容やクリーニング、各種メンテナンスなどが含まれる対個

人サービス業も同様である。1990年代後半以降のトレンドをみると、日本(-2.0%)では

-1%を超えるマイナスとなっている。それ以外の主要国では、-0.7%から+0.3%程度の上

昇率となっている。日本における1995年から2009年までのトレンドをみると-2.3%、2010

年以降のトレンドをみても-1.5%であり、-1%を超えるマイナスとなっている。それ以外

の国でも、2010年以降は-0.7%から+0.5%程度の上昇率となっており、0%近傍で推移しい

ている。当該分野には経済構造の変化に伴ってこれまで多くの雇用が吸収されてきたが、労

働集約的な業態が多く、効率性を劇的に向上させるイノベーションが起きにくいため、付加

価値の拡大を図ることが各国ともなかなか難しい状況にあることが労働生産性の動向にも

表れている。企業レベルでみると新たな付加価値を生み出したり効率性の改善に向けたさま

ざまな取り組みがみられるが、産業レベルの生産性の改善にまでは各国ともなかなか結びつ

いていない。

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(図19) 娯楽・対個人サービス業の労働生産性の時系列比較(2010年=1)

米国 英国 イタリア

カナダ ドイツ フランス

日本

1995~

2016年

1995~

2009年

2010~

2016年

米国 0.3% 0.1% -0.4%

英国 -0.1% 0.1% -0.3%

イタリア -0.6% -0.6% -0.7%

カナダ -0.2% -0.8% 0.5%

ドイツ -0.7% -0.9% -0.4%

フランス 0.3% 0.6% -0.6%

日本 -2.0% -2.3% -1.5%

労働生産性平均上昇率

※データの制約により米国:1998年以降、カナダ:07年以降

Page 23: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

21

⑨ 農林水産業の労働生産性トレンド

農林水産業の労働生産性をみると、1990年代後半から2016年までの上昇率は、米国(+

2.6%)やフランス(+2.3%)で2%を超えているほか、イタリア(+1.9%)やカナダ(+1.9%)、英

国(+1.6%)でも1.5%を超える水準で推移している。日本(+1.3%)やドイツ(+1.2%)でも1%

を超える水準で推移しており、90年代後半から2016年までの推移を見ると主要7カ国では総

じて上昇傾向にある。先進国ではGDPに占める農林水産業の比重が小さく、日本でもGDP

の1%程度であるものの、主要国の多くに共通する特徴として生産性が比較的順調に上昇し

ている分野の一つとみることができる。

ただし、2010年の前後で上昇率をみると、各国で労働生産性をめぐる状況が異なることが

わかる。2009年以前と2010年以降の上昇率は、それぞれ米国で+4.8%、+1.9%、英国で+

2.1%、+2.1%、イタリアで+2.4%、+1.2%となっており、1%を超える上昇率を示してい

る。カナダも2010年前後でそれぞれ+4.8%、+0.7%とプラスの上昇率となっている。一方、

同様に2010年前後で上昇率をみると、日本では+2.4%、-1.0%、ドイツでは+4.2%、-0.8%、

フランスでは+3.8%、-0.4%となっており、2010年以前はプラスであったものの、2010年

以降はマイナスの上昇率となっている。特に、主要7カ国の中では日本の上昇率が も低い。

日本では人口減少によって食料需要が頭打ちになっているほか、輸入も増加し、食料自給率

は低下傾向にある。また、2016年は熊本地震や台風などの自然災害によって農林水産業は大

きな被害を受け、これによってアウトプットが大きく減少し、労働生産性を大幅に低下させ

ている。

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(図20) 農林水産業の労働生産性の時系列比較(2010年=1)

米国 英国 イタリア

カナダ ドイツ フランス

日本

1995~

2016年

1995~

2009年

2010~

2016年

米国 2.6% 4.8% 1.9%

英国 1.6% 2.1% 2.1%

イタリア 1.9% 2.4% 1.2%

カナダ 1.9% 4.8% 0.7%

ドイツ 1.2% 4.2% -0.8%

フランス 2.3% 3.8% -0.4%

日本 1.3% 2.4% -1.0%

労働生産性平均上昇率

※データの制約により米国:1998年以降、カナダ:07年以降

Page 24: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

22

労働生産性を国際比較するにあたって

は、上昇率(トレンド)だけでなく、水準を

比較することが望ましい。水準を産業別に

比較するには、産業によって異なる価格水

準を調整した産業別の購買力平価を用い

て生産性を換算することが求められる。し

かし、世界銀行やOECDが公表している購

買力平価は国(GDP)レベルのものであり、

生産性の産業別比較に用いるには適切で

はないとされている。そのため、ここでは

為替変動によって価格がある程度調整さ

れやすい製造業について、為替レートを用

いて労働生産性の比較を行っている11。

為替レートは国際的な金融取引や投機

など様々な要因で変動するため、そのまま

用いると生産性水準にもバイアスがかか

ることになる。そうした影響を軽減するた

め、ここでは当年及び過去2年の為替レー

トの加重移動平均から為替レート換算を

行っている12。また、2017年データが出

揃っていないため、2016年データで比較を

行っている。

こうした手法で計測した製造業の名目労働生産性を比較すると、OECD加盟国でデ-タが

得られた31カ国で も水準が高かったのはアイルランド(447,190ドル/5,026万円)であった。

第2位はスイス(182,423ドル/2,050万円)、第3位がデンマーク(146,481ドル/1,646万円)、第4

位がアメリカ(140,205ドル/1,576万円)と続いている。

アイルランドは、第1章でも言及されているように、1990年代後半から法人税率を比較的

低く設定したことで、グローバル企業の欧州本部や本社機能を誘致することに成功した。製

造業においても例外ではなく、高い労働生産性水準となっている。

11 日本生産性本部では、今回利用した OECD などのデータとは異なるデータセットを利用して、日米英独

仏の時間当たり労働生産性に関する産業別比較(生産性レポート Vol.7「産業別労働生産性水準の国際比

較」2018 年 4 月発表)を行っている。詳しくは下記 URL を参照のこと。 https://www.jpc-net.jp/study/sd7.pdf

12 移動平均は振幅が大きい株式や為替の推移の変動幅を平準化する際などに用いられる手法の一つ。今回

の手法で算出した 2016 年の対ドルレ-トは 112.40 円である。

(2) 製造業の労働生産性水準の国際比較

182,423

146,481

140,205

129,833

122,207

114,860

109,915

107,689

107,366

102,202

101,576

101,494

100,599

99,215

92,404

85,877

85,794

80,389

76,687

73,491

56,979

47,132

36,600

36,135

34,193

32,421

31,895

28,738

27,595

24,823

100,413

0 50000 100000 150000 200000 450000

アイ ルラ ンド 1

スイ ス 2

デンマーク 3

アメリカ 4

スウェ ーデン 5

ベルギー 6

オラ ンダ 7

ノルウェ ー 8

フィンラ ンド 9

オーストリア 10

イ ギリス 11

フラ ンス 12

ルクセンブルク 13

ドイ ツ 14

日本 15

イ スラ エル 16

アイ スラ ンド 17

韓国 18

オーストラ リア 19

スペイ ン 20

イ タリア 21

ギリシャ 22

スロベニア 23

スロバキア 24

ポルトガル 25

チェ コ 26

ハンガリー 27

チリ 28

エストニア 29

ポーラ ンド 30

ラ トビア 31

OECD平均

(図21) 製造業の労働生産性水準

(2016年/OECD加盟国)

単位:USドル

Page 25: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

23

スイスは、時計に代表される精密機械や、医薬品、食品などのグローバル企業が本拠を構

え、こうした企業を中心とする産業クラスターがスイス各地に形成されている。時計を生産

するロレックスや、医薬品産業のノバルティス、食品産業のネスレ等のグローバル企業は、

高い付加価値の源泉となるブランドや、高度な知識・技術を持つ。また、それらの産業特性

として付加価値が高く、結果として生産性が高くなりやすい産業のウエイトが高い経済構造

も、スイスの高い労働生産性水準に結びついている。

第3位のデンマークは、医療費や教育費が無料という高福祉国家であり、賃金も比較的高

いことから製造業における空洞化が懸念されているが、補聴器や高級オーディオ、風力発電

機などのニッチ領域で高い競争力を持っており、付加価値が高く、労働生産性が高い一因と

なっている。また、国家戦略として情報通信技術(ICT)やバイオテクノロジー、医療機器な

どの知識集約型産業を政策的にサポートすることで、産業の国際競争力の獲得につながって

おり、政策的サポートも労働生産性を高めている。日本においても、第五期科学技術基本計

画において「世界 先端の医療技術の実現による健康長寿社会の形成」や「エネルギーの安

定的確保とエネルギー利用の効率化」などに関する様々な技術分野を政策的にサポートし、

「未来投資戦略2018」においても、”Society 5.0”や「データ駆動型社会」への変革を掲げて

おり、日本の製造業が労働生産性を向上させる具体的政策を検討する上で、デンマークにお

ける事例は参考になるであろう。

日本の製造業の労働生産性は、99,215ドル(1,115万円/第15位)となっており、米国の概ね

7割の水準にあたる。また、フランス(101,576ドル)やルクセンブルグ(101,494ドル)、ドイツ

(100,599ドル)をやや下回る水準であった。1990年代から2000年までトップクラスに位置して

いたものの、2005年は8位、2010年は11位、2016年は15位と後退している。トップクラスに

位置する国々との差はさらに開いている。

1 日本 88,093 日本 85,182 アイルランド 154,011 アイルランド 230,321 アイルランド 447,190

2 ベルギー 73,386 アイルランド 84,696 米国 103,967 スイス 164,272 スイス 182,423

3 ルクセンブルク 71,393 米国 78,583 スウェーデン 103,812 スウェーデン 130,804 デンマーク 146,481

4 スウェーデン 69,771 スウェーデン 75,803 フィンランド 103,497 米国 128,394 米国 140,205

5 オランダ 69,568 フィンランド 74,454 ベルギー 99,761 デンマーク 125,744 スウェーデン 129,833

6 フィンランド 67,561 ベルギー 68,427 ノルウェー 99,633 ノルウェー 124,556 ベルギー 122,207

7 フランス 64,289 ルクセンブルク 64,955 オランダ 98,138 ベルギー 121,351 オランダ 114,860

8 ドイツ 62,162 オランダ 63,648 日本 94,186 フィンランド 119,763 ノルウェー 109,915

9 オーストリア 59,914 デンマーク 62,542 デンマーク 88,739 オランダ 115,400 フィンランド 107,689

10 デンマーク 59,104 フランス 61,961 オーストリア 86,597 オーストリア 108,969 オーストリア 107,366

11 ノルウェー 56,832 オーストリア 59,052 ルクセンブルク 85,327 日本 105,569 英国 102,202

12 アイルランド 54,935 英国 59,004 フランス 84,090 フランス 103,143 フランス 101,576

13 英国 51,229 ノルウェー 58,714 英国 83,706 ドイツ 98,699 ルクセンブルク 101,494

14 イタリア 48,094 ドイツ 55,737 ドイツ 78,871 カナダ 92,597 ドイツ 100,599

15 オーストラリア 43,468 イスラエル 54,873 オーストラリア 66,588 アイスランド 91,889 日本 99,215

(単位) USドル (加重移動平均した為替レートにより換算)

(表3) 製造業の労働生産性水準上位15カ国の変遷1995年 2000年 2005年 2010年 2016年

Page 26: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

24

本章では、世界各国の労働生産性を比較する。

グローバル企業が生産拠点などを設置する際に

は、進出先の賃金や地政学的な条件を考慮する。

生産拠点の性質にも依存するが、一般的に賃金の

高いOECD加盟諸国よりも、むしろ低賃金で成長

が見込める中国や韓国、ASEAN諸国といった新

興国に進出することが多い。そこで、ここでは

OECD加盟国だけでなく、世界の幅広い国や地域

の労働生産性について国際比較を行いたい。

比較にあたっては、世界銀行のデータを中心に、

アジア開発銀行や国際労働機関(ILO)、国際通貨

基金(IMF)、各国統計局などのデータも補完的に

使用することで170カ国の就業者1人当たり労働

生産性を計測する13(図22~26参照)。労働生産性

は就業者1人当たりと就業1時間当たりの2種類で

計測されることが多いが、就業者と労働時間を統

計的に把握している先進諸国では2種類が把握で

きるものの、発展途上国では就業者数のみを把握

しており、1種類しか計測することができない場

合が多い。そこで、本章では就業者1人当たりの

労働生産性に注目して比較を行っている。

OECD加盟国以外で労働生産性が高くなって

いるのは、マカオやシンガポール、香港のような

自治区、都市国家のほか、カタールやブルネイ、

サウジアラビアといった産油国が多くなってい

る。2017年の労働生産性が世界で も高かったの

はルクセンブルク (227,031ドル/2,552万円)、第2位がマカオ (191,219ドル/2,149万円)と

なっている。OECDに加盟していない地域であるマカオは、中華人民共和国にある特別行政

区で、1999年までポルトガルの植民地であった。人口は約62万人(2017年)であり、主な産業

13 利用するデータベースの相違により、OECD 加盟国の労働生産性水準と異なることに留意されたい。

3

世界銀行等のデ-タによる労働生産性の国際比較

(1) 就業者 1 人当たり労働生産性の国際比較

227,031

191,219

171,919

171,745

164,665

164,285

135,694

134,967

127,889

124,031

121,324

118,830

116,846

116,710

109,549

106,977

105,612

104,572

103,922

103,347

101,921

100,819

100,079

97,799

93,080

91,082

88,478

88,386

88,160

86,328

84,912

82,999

78,498

78,003

77,827

0 40,000 80,000 120 ,000 160 ,000 200 ,000 240 ,000

ルクセンブルク 1

マカオ 2

アイルランド 3

カタール 4

シンガポール 5

ブルネイ 6

サウジアラビア 7

クウェート 8

プエルトリコ 9

米国 10

ノルウェー 11

香港 12

ベルギー 13

スイス 14

アラブ首長国連邦 15

オーストリア 16

イタリア 17

フランス 18

オランダ 19

デンマーク 20

スウェーデン 21

フィンランド 22

ドイツ 23

オーストラリア 24

スペイン 25

カナダ 26

アイスランド 27

マルタ 28

英国 29

イスラエル 30

日本 31

バーレーン 32

オマーン 33

スロベニア 34

ニュージーランド 35

(図22)世界銀行等のデータによる

世界各国の労働生産性

(2017年/1~35位)

単位:

購買力平価換算USドル

Page 27: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

25

は観光業とカジノである。ユネスコの世界文化

遺産である「マカオ歴史地区」に聖ポール天主

堂跡等の歴史的建造物があるだけでなく、11月

には公道を使った自動車レース(マカオグラン

プリ)も行われており、観光業に力を入れている。

また、多くのカジノもあり、「東洋のラスベガ

ス」との異名を持つ。マカオは世界各地からの

観光客を集めることに成功しており、一国の景

気に左右されにくい。労働生産性の時系列をみ

ると、2010年以降は20万ドル前後を推移してお

り、比較的高い水準を維持していることがわか

る。

産油国では、第4位にカタール(171,745ドル/

1,930万円)、第6位にはブルネイ(164,285ドル/

1,847万円)、第7位にはサウジアラビア(135,694

ドル/ 1,525万円 )、第 8位にはクウェート

(134,967ドル/1,517万円)が入っている。各国は、

原油や天然ガスの輸出を主な産業としており、

GDPの半分以上を石油関連産業、天然ガス関連

産業等の鉱業が占めている。こうした資源国で

は、所得税や消費税がなく、医療や教育費も無

料であることが多いため、新たな産業を生み出

すインセンティブが向上しにくい。天然資源は

有限であり、いつかは枯渇することから、鉱業

以外の産業を育成しようとしているものの、な

かなかうまくいっていない。労働生産性を見ると高い水準を維持しているが、天然資源が枯

渇すると低下する可能性が高く、持続可能的な経済を構築することが課題となっている。

東アジア、東南アジア諸国では、第2位のマカオや第6位のブルネイだけでなく、第5位に

シンガポール(164,665ドル/1,850万円)、第12位に香港(118,830ドル/1,336万円)が並んでい

る。資源国であるブルネイを除くと、国や地域のサイズが小さいことをいかし、自由な経済

活動ができる環境を整備しながら、金融業や中継貿易拠点としての集積が進んでおり、日本

を大きく上回る労働生産性水準を実現している。特にシンガポールは、人口約560万人(2017

年)、国土は720㎢と、東京23区とほぼ同じ規模の都市国家でありながら、第5位の労働生産

性をほこる。小国ならではの機動的な政策を多く実施しており、例えば公務員給与を民間企

業の業績やGDPに連動させる制度など、政策担当者が経済成長を志向するインセンティブ

が高く、これらの政策が高い経済成長と労働生産性を生み出している。

77,519

77,115

73,761

73,481

71,665

71,078

69,150

68,651

68,007

67,606

67,369

66,962

65,012

64,182

63,319

63,262

62,408

61,603

60,268

58,950

58,010

57,734

56,375

54,267

54,031

53,333

53,234

52,668

50,545

50,086

47,863

47,796

47,266

43,311

43,231

0 20,000 40,000 60,000 80,000100 ,000120 ,000140 ,000

ギリシャ 36

トルコ 37

チェコ 38

韓国 39

赤道ギニア 40

イラン 41

ポルトガル 42

ガボン 43

スロバキア 44

イラク 45

トリニダート・トバゴ 46

リトアニア 47

クロアチア 48

エストニア 49

ポーランド 50

リビア 51

マレーシア 52

ハンガリー 53

ルーマニア 54

ラトビア 55

アルジェリア 56

バハマ 57

モンテネグロ 58

カザフスタン 59

キプロス 60

チリ 61

ロシア 62

パナマ 63

アルゼンチン 64

モーリシャス 65

ウルグアイ 66

南アフリカ 67

ブルガリア 68

レバノン 69

ボスニア・ヘルツェゴヴィナ 70

(図23)世界銀行等のデータによる

世界各国の労働生産性

(2017年/36~70位)

単位:

購買力平価換算USドル

Page 28: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

26

ちなみに、OECD加盟国の多くは50位あたりまでに分布しており、日本(84,912ドル/954

万円)は31位であった。アジア諸国の中でみると、シンガポールの約半分の水準となってい

る。日本の労働生産性は、韓国や中国等の東アジア諸国を上回るだけでなく、オセアニア地

域のニュージーランド(77,827ドル/875万円)も上回っているものの、同地域のオーストラリ

アや、アジア諸国のブルネイ、中東地域の主要な産油国等の資源国家には及ばない水準と

なっている。

36~70位に分布しているのは、東欧諸国や新興経済諸国が多い。OECDに加盟するギリ

シャ(77,519ドル)、トルコ(77,115ドル)、リトアニア(66,962ドル)、クロアチア(65,012ドル)、

エストニア(64,182ドル)、ポーランド(63,319ドル)、ラトビア(58,950ドル)も概ね60,000~

80,000ドルあたりで並んでいる。また、南アフリカ(47,796ドル/67位)も50,000ドルをやや下

回る水準に位置している。

20,596

20,437

20,413

20,078

19,976

19,803

19,777

18,827

18,798

18,075

16,937

16,848

16,673

16,222

15,788

15,643

14,963

14,764

13,460

12,995

12,931

12,302

11,657

11,496

11,214

10,634

10,050

10,019

9,996

9,933

9,627

9,564

9,532

9,238

8,838

0 20,000 40,000 60,000 80,000 100 ,000

ベリーズ 106

パラグアイ 107

ナイジェリア 108

フィリピン 109

ブータン 110

ウクライナ 111

ジャマイカ 112

インド 113

エルサルバドル 114

カーボベルデ 115

ボリビア 116

アンゴラ 117

モルドバ 118

パキスタン 119

トンガ 120

ウズベキスタン 121

コンゴ共和国 122

モーリタニア 123

ラオス 124

ミャンマー 125

ニカラグア 126

コートジボアール 127

サントメ・プリンシペ 128

ベトナム 129

ホンジュラス 130

ザンビア 131

ガーナ 132

レソト 133

バングラデシュ 134

ジブチ 135

パプアニューギニア 136

キルギス 137

ケニア 138

タジキスタン 139

カメルーン 140

(図25)世界銀行等のデータによる

世界各国の労働生産性

(2017年/106~140位)

単位:

購買力平価換算USド

42,857

42,586

42,047

41,864

41,258

41,187

39,774

39,497

39,302

38,684

36,121

35,940

35,851

35,539

34,986

34,798

33,849

33,478

32,827

32,464

31,869

31,069

30,132

29,647

28,047

27,191

26,624

25,870

25,036

24,735

24,526

24,476

22,652

22,141

20,803

0 20,000 40,000 60,000 80,000 100 ,000

マケドニア 71

ボツワナ 72

メキシコ 73

スリナム 74

エジプト 75

トルクメニスタン 76

コスタリカ 77

チュニジア 78

セルビア 79

バルバドス 80

アゼルバイ ジャン 81

ドミニカ 共和国 82

ブラ ジル 83

ベラ ルーシ 84

ナミビア 85

モルディブ 86

スワジラ ンド 87

モンゴル 88

スリラ ンカ 89

セントルシア 90

タイ 91

中国 92

アルバニア 93

コロンビア 94

ベネズエラ 95

セントビンセント・グレナディーン 96

イ ンドネシア 97

モロッコ 98

ペルー 99

エクアドル 100

アルメニア 101

フィジー 102

ガイ アナ 103

ジョ ージア 104

グアテマラ 105

(図24)世界銀行等のデータによる

世界各国の労働生産性

(2017年/71~105位)

単位:購買力平価換算USドル

Page 29: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

27

BRICs諸国を見てみると、ロシア(53,234ドル)

が、概ね50,000ドルのラインに位置している。た

だ、ロシアの場合、クリミア半島をめぐる欧米諸

国の経済制裁などの影響でロシア経済の伸びが

鈍化したこともあり、2011年から50,000ドル前後

で労働生産性が推移している。他のBRICs諸国で

は、ブラジルが35,851ドルで83位、インドが18,827

ドルで113位、中国が31,069ドルで92位となってい

る。2017年の名目労働生産性水準を2012年と比較

した平均伸び率でみてみると、中国が+8.7%、イ

ンドが+6.9%である一方、ロシアが+0.9%、ブ

ラジルが+1.1%となっており、BRICs諸国の中で

も、労働生産性の水準や推移は大きく異なってい

る。中国では経済成長にともなう賃金高騰を背景

に労働集約的な製造分野の海外移転が進みつつ

あるが、労働生産性水準でみるとタイ(31,869ド

ル)に接近してきており、すでにインドネシア

(26,624ドル)を上回っている。1990年代から2000

年代初頭までの低生産性・低賃金といったイメー

ジから脱しつつあり、 近では大手配車アプリ会

社のDiDiや、フィンテック分野のAnt Financial等

のベンチャー企業も数多く起業している。また、

中国から生産拠点の移転が進んでいるのは衣類

縫製といった労働集約的で低賃金であることが

重視される分野が中心だが、移転先をみるとベトナム(11,496ドル)やミャンマー(12,995ドル)、

バングラデシュ(9,996ドル)、カンボジア(6,895ドル)といった労働生産性水準が5,000から

10,000ドル程度の国がよく挙げられている。こうした国と比較すると、現在の中国の生産性

や賃金水準は約3倍程度になっている。

他のアジア諸国をみると、フィリピン(20,078ドル/109位)やブータン(19,976ドル/110位)

が、アフリカのナイジェリア(20,413ドル)や、南米パラグアイ(20,437ドル)などとほぼ同水準

となっている。また、スリランカ(32,827ドル)が89位、パキスタン(16,222ドル)が119位、ウ

ズベキスタン(15,643ドル)が121位、ラオス(13,460ドル)が124位などとなっている。

日本やシンガポール等の国々と、中国やインド、東南アジア諸国、中東産油国の労働生産

性水準を比較すると、アジア諸国の経済発展段階や経済構造が国によって大きく異なること

がみてとれる。

8,724

7,487

7,057

6,895

6,422

6,371

6,196

5,844

5,717

5,657

5,485

5,475

5,152

4,765

4,738

4,621

4,468

4,321

4,264

4,087

3,999

3,827

3,529

3,102

2,963

2,614

2,596

2,368

1,901

1,805

0 20,000 40,000 60,000 80,000 100 ,000

セネガル 141

バヌアツ 142

アフガニスタン 143

カンボジア 144

マリ 145

タンザニア 146

ギニア 147

ガンビア 148

ベナン 149

ソロモン諸島 150

チャド 151

ブルキナファソ 152

ウガンダ 153

シエラレオネ 154

ネパール 155

ハイチ 156

ジンバブエ 157

ギニアビサウ 158

南スーダン 159

エチオピア 160

ルワンダ 161

モザンビーク 162

トーゴ 163

マダガスカル 164

マラウイ 165

リベリア 166

ニジェール 167

コンゴ民主共和国 168

中央アフリカ 169

ブルンジ 170

(図26)世界銀行等のデータによる

世界各国の労働生産性

(2017年/141~170位)

単位:

購買力平価換算USドル

Page 30: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

28

労働生産性を多国間で比較する際には、水準だけでなく、成長率もあわせて確認する必要

がある。そこで、直近5年間(2012~2017年)の実質労働生産性から、年率平均上昇率を国ご

とに算出する(図27~30参照)。

直近5年間の実質労働生産性上昇率が も高くなっているのは、中国(+7.1%)であった。2

位から10位は、アイルランド(+6.6%)、エチオピア(+6.3%)、コートジボアール(+6.2%)、

トルクメニスタン(+6.2%)、ミャンマー(+6.0%)、インド(+5.3%)、モンゴル(+5.2%)、ラ

オス(+5.2%)、カンボジア(+5.1%)と続いている。上位10カ国を概観すると、ヨーロッパ地

域1カ国、アフリカ地域2カ国、アジア地域7カ国となっており、特にアジア諸国において労

働生産性が上昇していることがわかる。中国の場合、近年のGDP統計に疑問を呈する向き

(2) 就業者 1 人当たり労働生産性上昇率の国際比較

7.1%

6.6%

6.3%

6.2%

6.2%

6.0%

5.3%

5.2%

5.2%

5.1%

5.0%

4.9%

4.9%

4.8%

4.4%

4.3%

4.3%

3.9%

3.9%

3.8%

3.7%

3.6%

3.6%

3.6%

3.5%

3.5%

3.4%

3.4%

3.4%

3.3%

3.2%

3.2%

3.2%

3.1%

3.0%

2.9%

2.9%

2.9%

2.8%

2.8%

-5% 0% 5% 10%

中国 1

アイルランド 2

エチオピア 3

コートジボアール 4

トルクメニスタン 5

ミャンマー 6

インド 7

モンゴル 8

ラオス 9

カンボジア 10

ルーマニア 11

ベトナム 12

ウズベキスタン 13

バングラデシュ 14

キルギス 15

タジキスタン 16

フィリピン 17

ドミニカ共和国 18

インドネシア 19

パラグアイ 20

モルディブ 21

アルメニア 22

ジョージア 23

ジブチ 24

ボリビア 25

トルコ 26

タンザニア 27

モルドバ 28

タイ 29

ブータン 30

ギニア 31

ルワンダ 32

モザンビーク 33

パプアニューギニア 34

パナマ 35

マルタ 36

スリランカ 37

アラブ首長国連邦 38

ボスニア・ヘルツェゴヴィナ 39

ブルキナファソ 40

(図27) 世界銀行等のデータによる

実質労働生産性上昇率/年率平均

(2012~2017年/1~40位)

2.7%

2.5%

2.5%

2.5%

2.4%

2.4%

2.4%

2.4%

2.4%

2.4%

2.4%

2.3%

2.3%

2.2%

2.2%

2.2%

2.1%

2.1%

2.1%

2.1%

2.0%

2.0%

2.0%

2.0%

2.0%

2.0%

1.9%

1.9%

1.9%

1.9%

1.9%

1.8%

1.7%

1.6%

1.6%

1.6%

1.5%

1.5%

1.5%

1.5%

-5% 0% 5% 10%

コンゴ民主共和国 41

レソト 42

スロベニア 43

ペルー 44

ガーナ 45

アルバニア 46

カザフスタン 47

モンテネグロ 48

モーリシャス 49

ウルグアイ 50

トーゴ 51

ラトビア 52

ニカラグア 53

マレーシア 54

ガイアナ 55

ケニア 56

イラン 57

エジプト 58

香港 59

パキスタン 60

フィジー 61

アルジェリア 62

リトアニア 63

コスタリカ 64

ブルガリア 65

ナミビア 66

ポーランド 67

モロッコ 68

カメルーン 69

グアテマラ 70

サントメ・プリンシペ 71

ベナン 72

韓国 73

コロンビア 74

チェコ 75

エストニア 76

ネパール 77

ギニアビサウ 78

シンガポール 79

ニジェール 80

(図28) 世界銀行等のデータによる

実質労働生産性上昇率/年率平均

(2012~2017年/41~80位)

Page 31: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

29

もあるが、経済発展が進む中で産業構造の高度化や資本の蓄積が進んでおり、それが急速な

労働生産性の上昇につながっているとみることができる。実際、先進技術を取り入れたベン

チャー企業も多く出現し、企業価値が10億ドル以上の未上場企業である「ユニコーン企業」

が約180社あるとも言われる14。

第3位のエチオピアは、農業が中心でありながら、労働生産性の成長率が高い。1980年代

半ばに大飢饉が発生したことや、政治体制が1974年まで帝政、1991年まで社会主義国であっ

たこと等も影響し、経済成長は停滞した。その後、1990年代後半から経済政策が実施され、

2010年には「成長と変革計画」(Growth and Transformation Plan, GTP)、2015年には第2次GTP

が策定され、経済の重点を農業から工業にシフトしようとしている。政策の一環として鉄道

や道路網、高速道路、携帯電話やインターネットの普及といったインフラ整備が大規模に行

14 2018 年 11 月 20 日日本経済新聞電子版

1.5%

1.4%

1.4%

1.3%

1.3%

1.3%

1.2%

1.1%

1.1%

1.0%

1.0%

1.0%

1.0%

0.9%

0.9%

0.9%

0.9%

0.9%

0.9%

0.8%

0.8%

0.7%

0.7%

0.7%

0.7%

0.7%

0.7%

0.7%

0.6%

0.6%

0.5%

0.5%

0.5%

0.5%

0.5%

0.5%

0.4%

0.4%

0.4%

0.4%

-5% 0% 5% 10%

アイスランド 81

マリ 82

スウェーデン 83

スロバキア 84

エルサルバドル 85

オランダ 86

セネガル 87

オーストラリア 88

カナダ 89

フィンランド 90

イラク 91

ルクセンブルク 92

クロアチア 93

イスラエル 94

フランス 95

ノルウェー 96

セントルシア 97

セントビンセント・グレナディーン…

チリ 99

トンガ 100

チュニジア 101

バーレーン 102

米国 103

ベルギー 104

日本 105

ボツワナ 106

マダガスカル 107

英国 108

ナイジェリア 109

ザンビア 110

ニュージーランド 111

ドイツ 112

スペイン 113

マラウイ 114

ポルトガル 115

メキシコ 116

オーストリア 117

ロシア 118

ウガンダ 119

モーリタニア 120

(図29) 世界銀行等のデータによる

実質労働生産性上昇率/年率平均

(2012~2017年/81~120位)

0.4%

0.4%

0.4%

0.3%

0.3%

0.1%

0.1%

0.1%

0.0%

0.0%

-0.1%

-0.2%

-0.2%

-0.2%

-0.3%

-0.3%

-0.4%

-0.5%

-0.5%

-0.5%

-0.5%

-0.6%

-0.6%

-0.7%

-0.7%

-0.8%

-0.8%

-1.1%

-1.2%

-1.2%

-1.3%

-1.6%

-1.6%

-1.7%

-1.8%

-1.9%

-1.9%

-1.9%

-2.0%

-2.1%

-15% -10% -5% 0% 5%

デンマーク 121

ハンガリー 122

ソロモン諸島 123

バルバドス 124

スイス 125

マケドニア 126

アルゼンチン 127

イタリア 128

プエルトリコ 129

ジンバブエ 130

ベラルーシ 131

シエラレオネ 132

ガンビア 133

南アフリカ 134

ハイチ 135

カーボベルデ 136

ブラジル 137

バヌアツ 138

アゼルバイジャン 139

ギリシャ 140

ガボン 141

アンゴラ 142

スワジランド 143

リベリア 144

キプロス 145

エクアドル 146

ジャマイカ 147

ホンジュラス 148

ウクライナ 149

コンゴ共和国 150

トリニダート・トバゴ 151

カタール 152

南スーダン 153

セルビア 154

バハマ 155

ブルンジ 156

ベリーズ 157

スリナム 158

サウジアラビア 159

アフガニスタン 160

(図30) 世界銀行等のデータによる

実質労働生産性上昇率/年率平均

(2012~2017年/121~160位)

Page 32: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

30

われており、これが労働生産性の上昇にも寄与している。例えば、隣国のジブチやスーダン、

ケニア、南スーダンと鉄道をつなぎ、内陸国であるエチオピアが港にアクセスできるように

なることによって農作物の貿易が可能となる。これは、アウトプットの上昇に直接影響する

ため、労働生産性が上昇することになる。また、携帯電話やインターネット等のICT技術の

普及によっても、効率的な経営に直結し、アウトプットの上昇を通じて労働生産性の上昇に

寄与することとなる。

エチオピアをはじめとした「サブサハラ・アフリカ」に属する国が経済成長をしている地

域として認識されることが多いが、その地域にある全ての国で労働生産性が上昇してきたわ

けではない15。コートジボアールはエチオピアと同様に高い労働生産性上昇率を示している

が、コンゴ共和国(-1.2%)や南スーダン(-1.6%)ではマイナス1%を超えて低下している。

他にも、ガンビア(-0.2%)、南アフリカ(-0.2%)、カーボベルデ(-0.3%)、ガボン(-0.5%)、

アンゴラ(-0.6%)、スワジランド(-0.6%)、リベリア(-0.7%)が労働生産性についてマイナ

スの上昇率となっている。国によって政治体制や資源の賦存量が大きく異なることから、労

働生産性の成長率についても大きく異なっている。

アジア諸国をみると、中国やトルクメニスタン、ミャンマー等上位10位以内に7カ国ある

だけでなく、ベトナム(+4.9%/第12位)、ウズベキスタン(+4.9%/第13位)、バングラデシュ

(+4.8%/第14位)、キルギス(+4.4%/第15位)、タジキスタン(+4.3%/第16位)、フィリピ

ン(+4.3%/第17位)、インドネシア(+3.9%/第19位)の7カ国が上位20位以内にある。

日本の労働生産性上昇率は+0.7%で第105位であった。これは、米国やベルギー、英国な

どと並ぶ水準であり、主要先進国の中でみるとカナダ(+1.1%)やフランス(+0.9%)より低く、

ドイツ(+0.5%)やイタリア(+0.1%)を上回る。

ただし、既にある程度の経済成長をとげ、高い労働生産性水準を実現している先進国で労

働生産性上昇率が1%を超えるような国は少なくなっている。同時に、先進国では人口減少

による少子高齢化や労働人口の減少も課題となっている。労働者数が減少傾向にある先進国

にとって、持続可能な経済発展を維持していくためには、労働者1人あたり労働生産性の向

上が喫緊の課題である。機械設備等の有形資産の蓄積だけでなく、ICTの活用や研究開発活

動、人的資本への投資等の無形資産を蓄積させることで、生産性の向上が期待できる。日本

では既存のシステムに加えて、ICTやInternet of Things (IoT) 等の先進技術を用いて知識や情

報を効率的に活用して経済発展を目指すSociety 5.0が政策として推進されている。ドイツで

も同様の思想から”Industry 4.0”、アメリカでも”Cyber-Physical System (CPS)”が構想され、企

業を中心として様々な取組が行われている。今後、有形資産だけでなく、知識や情報といっ

た無形資産を先進技術を用いて効果的に活用し、労働生産性の向上を通じて、人口減少時代

における持続可能な経済発展を目指すことが求められる。

15 サブサハラ・アフリカは、サハラ砂漠より南の地域を指す。

Page 33: 労働生産性の国際比較2 ※ U購買力平価(PPP)について 購買力平価とは、物価水準などを考慮した各国通貨の実質的な購買力を交換レ-トで表したものであ

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【アジア諸国と日本の労働生産性の推移】

・アジア諸国の労働生産性(1 人当たり・名目)の推移をみると、中国の労働生産性水準が

他国と比較しても急速に上昇している。日本と比較しても、2000 年に 1 割程度(10%)

であったのが、2010 年には概ね 1/4(24%)、2017 年になると 4 割弱(37%)へと大幅に

格差が縮小している。

・中国の労働生産性水準は、概ねタイに並ぶ水準に到達している。ただ、2012 年以降の

直近 5 年間の年率平均上昇率をみると、名目で+8.7%、実質で+7.1%とまだまだ高い

ものの、2000 年以降の平均上昇率を下回るようになっている。

日本, 84,912

中国, 31,069

タイ, 31,869

ベトナム, 11,496

韓国, 73,481

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

80,000

90,000

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

アジア諸国の名目労働生産性の推移(1人当たり/2000~2017年)

日本 中国 タイ ベトナム 韓国

中国:日本の10%

中国:日本の37%

中国:日本の24%

購買力平価換算USドル

61%

489%

138%

192%

88%

15%

325%

72%

111%

54%

0% 100% 200% 300% 400% 500% 600%

日本

中国

タイ

ベトナム

韓国

労働生産性上昇幅(2000年→2017年)

名目

実質

年率 名目2.8%

実質0.8%

年率 名目11.0%

実質8.9%

12%

52%

27%

37%

15%

4%

41%

18%

27%

9%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60%

日本

中国

タイ

ベトナム

韓国

労働生産性上昇幅(2012年→2017年)

名目

実質

年率 名目2.4%

実質0.7%

年率 名目8.7%

実質7.1%