心窩部痛、嘔吐を主訴に来院した食道炎の一例

林郁子

症例

55歳 男性

主訴

心窩部痛、嘔吐

現病歴

2007年1月9日0時より心窩部痛出現。3時か

ら嘔気が出現。6時ごろに3回嘔吐。吐物は

3回とも黒色のもの。8時に歩いて受診。

心窩部痛は今まで経験した中では一番強く、

持続痛、嘔吐直前に増悪する。

既往歴

特になし

手術歴なし

内服

特になし

アレルギー歴なし

嗜好歴

タバコ 20本/日（20歳～35歳）

アルコール 2合/日

毎日 刺身、酢を摂取

社会歴

妻、娘と3人暮らし

職業 大工

出身 与論島

海外渡航歴 なし

家族歴

母 大腸癌

身体所見

BP110/80、BT36.8℃

眼瞼結膜貧血なし、眼球結膜黄染なし

咽頭発赤、腫脹なし

頚部リンパ節触れず

胸部 肺 雑音なし

心 心音整、雑音聴取せず

腹部 グル音低下

圧痛 心窩部、リバウンドなし

直腸診 圧痛なし、潜血陰性

血液検査

CBC；WBC21200/μｌ、

RBC498万/μｌ、Hb16.1、Ht46.5、

PLT214000/μｌ

生化；Na132mEq/l、K3.8mEq/l、Cl93mEq/l、BUN33.9mg/dl、Cre0.8mg/dl、BS150mg/dl、GOT168U/I、GPT104U/I、LDH398U/I、γGTP311U/I、ALP229U/I、Amy134U/I、TP7.8g/dl、Alb4.3g/dl

腹部エコー

胃；著明に拡張

胆嚢；壁の一部がやや肥厚

腹水；なし

腹部CT

上部消化管内視鏡検査

食道；severe

esophagitis

ECJにactive

bleeding

胃、十二指腸；特に所見なし

診断

食道炎

経過①

1/9 入院

NPO

1/11 GIF 止血を確認

経過②

1/12 流動食開始

1/15 心窩部痛増悪したためNPO、PPI点滴

1/16 GIF 食道炎改善

まとめ

粘膜培養 陰性

病理組織 granulation tissue with dense

inflammatory cell infiltration.

No squamous epithelium is found.

No malignant foci.

食道炎

・GERD

・感染性

ウイルス性、細菌性、真菌性

・放射線性

・薬剤性

・腐食性

・自己免疫性

・炎症性

・悪性疾患

考察

既往疾患、薬剤服用歴のないPtであり、放射線性、薬剤性食道炎は考えにくい。

感染性はimmunocompromised hostに起こりやすく、粘膜培養も陰性であり否定的。

心窩部痛、嘔吐以外の症状がないため自己免疫性、炎症性疾患も考えにくい。

病理の結果より悪性疾患は否定。

特発性食道炎と考え、NPOで経過するのを待って食事を開始した。経過良好である。