lcaとカーボンフットプリント -カーボンフットプリントの...

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2 SOKEIZAI Vol.51 2010No.3 経済産業省が中心となって、平成 21 年度よりスタートしたカーボンフッ トプリント制度試行事業について、その概要と海外を含む周辺の動向を 述べるとともに、その評価ツールであるライフサイクルアセスメントと の関係及び違いについて説明した上で、これまでの試行結果に基づく、 今後の課題についてまとめた。 LCA とカーボンフットプリント カーボンフットプリントの考え方 石 塚 明 克 ㈳ 産業環境管理協会 1.はじめに 2.LCA の概要とカーボンフットプリントの関係 カーボンフットプリントとは、直訳すると「炭素 の足跡」である。日頃使用・利用している商品・サー ビスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまで のライフサイクル全体を通して排出される温室効果 ガスの排出量を CO2 に換算して、当該商品及びサー ビスに簡易な方法で分かり易く表示する仕組みで、 日本だけでなく地球温暖化に関連し、温室効果ガス 排出量の「見える化」及び削減手段としての期待が 高まっている。 日本における取り組みは、「低炭素社会づくり行 動計画」(2008 年7月29日閣議決定)において、カー ボンフットプリント制度等による温室効果ガス排出 量の「見える化」について明言されたことから始まっ ているが、カーボンフットプリントを算出するため には、対象となる製品のライフサイクルでの関連 データの収集、収集したデータを使っての温室効果 ガス排出量の計算ルール、及び温室効果ガス排出量 に換算するためのデータベース(共通原単位)など が必要となるが、これらの計算手法は、LCA(ライ フサイクルアセスメント)という手法によっている。 ここでは、カーボンフットプリント制度の概要と、 その数値算定にあたり LCA がどのようにかかわり、 さらに一般的な LCA の実施とどのように異なるか という観点から、現時点のカーボンフットプリント 制度の課題を含めてまとめてみた。 カーボンフットプリントの数値を算定するための ツールとして LCA 手法がその基礎になっている。 LCA とは製品のライフサイクル(原材料調達から廃 棄・リサイクルまで)における投入資源、環境負荷 及びそれらによる地球や生態系への環境影響を定量 的に評価する方法で、環境影響のなかには現在世界 的に注目されている、二酸化炭素を中心とする GHG (温暖化効果ガス)による地球温暖化を始め、酸性化、 富栄養化、資源枯渇などが含まれている。 カーボンフットプリント制度とは、この LCA を 使い、製品のライフサイクル全般で排出された温室 効果ガスに環境影響の対象を限定し、それらの温 室効果ガスが地球温暖化に与える影響の程度によ り CO2 相当量に換算・合計し、表示する制度で、京

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2 SOKEIZAI Vol.51(2010)No.3

経済産業省が中心となって、平成 21 年度よりスタートしたカーボンフットプリント制度試行事業について、その概要と海外を含む周辺の動向を述べるとともに、その評価ツールであるライフサイクルアセスメントとの関係及び違いについて説明した上で、これまでの試行結果に基づく、今後の課題についてまとめた。

LCAとカーボンフットプリント-カーボンフットプリントの考え方-

石 塚 明 克㈳産業環境管理協会

1.はじめに

2.LCAの概要とカーボンフットプリントの関係

 カーボンフットプリントとは、直訳すると「炭素の足跡」である。日頃使用・利用している商品・サービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2 に換算して、当該商品及びサービスに簡易な方法で分かり易く表示する仕組みで、日本だけでなく地球温暖化に関連し、温室効果ガス排出量の「見える化」及び削減手段としての期待が高まっている。 日本における取り組みは、「低炭素社会づくり行動計画」(2008 年 7 月 29 日閣議決定)において、カーボンフットプリント制度等による温室効果ガス排出量の「見える化」について明言されたことから始まっ

ているが、カーボンフットプリントを算出するためには、対象となる製品のライフサイクルでの関連データの収集、収集したデータを使っての温室効果ガス排出量の計算ルール、及び温室効果ガス排出量に換算するためのデータベース(共通原単位)などが必要となるが、これらの計算手法は、LCA(ライフサイクルアセスメント)という手法によっている。 ここでは、カーボンフットプリント制度の概要と、その数値算定にあたり LCAがどのようにかかわり、さらに一般的な LCAの実施とどのように異なるかという観点から、現時点のカーボンフットプリント制度の課題を含めてまとめてみた。

 カーボンフットプリントの数値を算定するためのツールとして LCA 手法がその基礎になっている。LCAとは製品のライフサイクル(原材料調達から廃棄・リサイクルまで)における投入資源、環境負荷及びそれらによる地球や生態系への環境影響を定量的に評価する方法で、環境影響のなかには現在世界的に注目されている、二酸化炭素を中心とするGHG

(温暖化効果ガス)による地球温暖化を始め、酸性化、富栄養化、資源枯渇などが含まれている。 カーボンフットプリント制度とは、この LCAを使い、製品のライフサイクル全般で排出された温室効果ガスに環境影響の対象を限定し、それらの温室効果ガスが地球温暖化に与える影響の程度によりCO2 相当量に換算・合計し、表示する制度で、京

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3Vol.51(2010)No.3 SOKEIZAI

特集 環境評価の技術と素形材産業

都議定書で対象となっている6種類のガス(CO2、CH4、N2O、HFCs、PFCs、SF6)を対象としている。カーボンフットプリント制度の対象は、ハード製品に限らず、サービスを含むあらゆる製品を対象としている。 以上のとおり、LCAはカーボンフットプリント算定のための基礎となっているが、以下の点で違いがある。 ・ LCAでは、製品のライフサイクルにおける投入資源、環境負荷及びそれらによる地球や生態系

への環境影響を、地球温暖化以外の様々なものについて定量的に評価するのに対し、カーボンフットプリントでは、温室効果ガスに環境影響の対象を限定している。

 ・ LCA では、その評価の目的毎に評価の対象とその範囲(バウンダリー)を、その都度設定した上で評価を行う。これに対し、カーボンフットプリントでは事前に対象とする商品分野別にPCRと呼ばれる基準(「6.」参照)をあらかじめ設定し、そのルールに従って算定を行う。

3.製品に関する情報公開(タイプⅢ環境ラベル)

 カーボンフットプリントは、このように環境影響としての温室効果ガスを、定量的に情報開示するものですが、LCAに基づく定量的環境情報を開示する方法は、タイプⅢ環境ラベルとして国際規格(ISO14025)で規定されており、カーボンフットプリントもタイプⅢ環境ラベルの一種と考える事が出来る。ちなみに、環境ラベルはタイプⅠ(ISO14024)、タイプⅡ(ISO14021)があり、それぞれ以下のような違いがある。

 タイプⅠ環境ラベル;   公に設定した基準に合格したことを示すラベルで、日本の「エコマーク」やドイツの「ブルーエンジェルマーク」などが含まれる。 タイプⅡ環境ラベル;   企業がそれぞれ設定した基準に基づく自己主張ラベルで、企業毎に内容も基準も異なる。 タイプⅢ環境ラベル;   タイプⅠやⅡと異なり、基準は設けずに、定量的情報を開示するラベルで、合否も良否も主張しない。

4.海外のカーボンフットプリント及び国際規格化動向

 カーボンフットプリント制度の導入は、ヨーロッパが早く、イギリス、フランス、スイス、スウェーデンなどで実施されている。その中でもイギリスがもっとも早くしかも熱心に推進していると考えられるが、各国の運用の仕組みはそれぞれ異なるものとなっており、ヨーロッパ内においても共通の仕組みではない。 また、スイスのように商品に直接数値を表示しない例もある。表示の目的は、製品間の比較を目的とするものではなく、削減努力を示すことに重点がお

かれているなど、日本での表示目的とは異なる。いずれも表示はボランタリーであるが、フランスは法制化を目指している。さらに日本の場合のように製品分野毎の算定基準(PCR)を策定しているところはない。 国際規格化の動きとしては、2011 年 11 月をめどに ISO の場で進められているが、これはカーボンフットプリント全体の枠組みを決めるもので、このことにより各国共通の制度運用の仕組みが出来る訳ではない。

5.日本のカーボンフットプリント

(1)これまでの動き 「低炭素社会づくり行動計画」(2008 年 7 月 29 日閣議決定)において、カーボンフットプリント制度等による温室効果ガス排出量の「見える化」が明言され、具体的な制度導入に向けて検討が始まった。2008 年 12 月のエコプロダクツ展において 30 社が参

加し、カーボンフットプリントのマークを貼付した製品が試行的に展示され、更に 2009 年 3 月に制度構築の基となる以下の指針と基準が公表された。

 ●カーボンフットプリント制度の在り方(指針) ●商品種別算定基準(PCR)策定基準

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4 SOKEIZAI Vol.51(2010)No.3

(2) 平成 21 年度からスタートした試行制度事業とその狙い

 平成 20 年度までの結果を受けて、経済産業省が中心となり、新たに平成 21年度から 3年間の予定で、カーボンフットプリント制度試行事業をスタートさせた。この事業の主な狙いはカーボンフットプリント制度の本格実施に向けて 2008 年度に策定した指針と基準に基づいて、具体的なルールと実施体制を構築し、そのもとで運用を行いカーボンフットプリ

図 1 カーボンフットプリント制度試行事業の概要

METIPCR

CFP

CFP

6 1

(1)PCR策定 カーボンフットプリントの数値を算定するには、その算定のルールを定める必要があるが、製品分野毎に定める算定基準を PCR と呼んでおり、基本的にはカーボンフットプリント算定表示を目指す事業者などが自主的にワーキンググループを設置し、その場での議論・検討をとおして策定を行う。 策定した結果は、第三者の委員会により審議され認定された後、カーボンフットプリントのホームページ(http://www.cfp.-japan.jp)で公表され、全ての人がカーボンフットプリント算定に利用出来る。PCRに定められる内容は表 2のとおりである。

6.カーボンフットプリント公表までの手順とその運用

表 2 PCRの内訳

ントマークを貼付した製品を市場に流通させ、消費者の反応を見る事である。その内容をまとめたものが図1である。 またこれらの実施結果に基づき、ISO 国際規格に意見を反映させることも同時にこの制度試行事業の目的となっている。2009 年 12 月にはこれらの仕組みに従ってカーボンフットプリント数値を算定し、マーク表示を行った製品が表1の通りエコプロダクツ展で展示された。

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特集 環境評価の技術と素形材産業

表 1 エコプロダクツ 2009展示商品リスト

業者名 展示品 品数

富士フィルム株式会社 富士フイルム デジタルサーマルプレート XP-F 1

コクヨ S& T株式会社チューブファイル<エコツインR>本体および替表紙各 3種類(3センチ、5センチ、8センチ)

6

シヤチハタ株式会社 油性マーカー「乾きまペン」 1

株式会社イトーキCZデスク 1プラオチェア 1

コクヨファニチャーベルガー CR-1951SF6□-W 1フレクセル PP-FX0915P81HYN□ 1

株式会社サンケイ三惠工業株式会社

折りたたみイス CF67-MS折りたたみイス CF68-MS 2

折りたたみイス HECMEC HM01 1

アースサポート株式会社 食品廃棄物を原料とした有機質の液体肥料「育つんです !! スクスク(ペットボトル 500ml)」 1

株式会社チクマ男子作業服(ブルゾン・ズボン) 2女子事務服(ジャケット・ベスト・スカート) 3

ミズノ株式会社 ワーキングユニフォーム:ブルゾン、ポロシャツ 2

九セラ株式会社、朝日化工株式会社

学校給食用食器(汁椀、深菜皿、小鉢、マグ) 4

三信化工株式会社 学校給食用食器(トレイ、箸、飯碗、汁椀、仕切り皿) 5

株式会社岡村製作所スカラーライト(机+椅子) 2スカラー(机+椅子) 2

株式会社チクマ 男子小学生用制服(ジャケット・半ズボン) 2

株式会社アシックス ジャムアップジャケット、トレーニングパンツ(学校用体育衣料) 2

カルビー株式会社 60g ポテトチップスうすしお味、60g ポテトチップスコンソメパンチ 2

亀田製菓株式会社 93g サラダうす焼 1カンロ株式会社 155g カンロ飴 12 袋 1テルモ株式会社 テルモ電子体温計 1

ネスレ日本株式会社ネスカフェエクセラ カップコーヒー 1キットカット ミニ 15 入り 1

キーコーヒー株式会社

KEYインスタントコーヒースペシャルブレンド(フリーズドライ 100g 瓶) 1

KEYインスタントコーヒープレミアムブレンド(フリーズドライ 100g 瓶) 1

味の素ゼネラルフーヅ株式会社 AGFブレンディーカップコーヒー10 カップ 1

三信化工株式会社 カップ & ソーサー 2

イオン株式会社 トップバリュ グリーンアイ うるち米 あきたこまち(ギフト) 1

立命館大学、イオン株式会社、JA北びわこ、株式会社神明、大和産業株式会社

うるち米 コシヒカリ(ギフト) 1

イオン株式会社

トップバリュ キャノーラ油(単品とギフト用) 2トップバリュ スーパークリーンホワイト 2品(単品とギフト) 2

トップバリュ ごはん1パック、3パック、5パック 3

トップバリュ 共環宣言 充電池 単 3形 1

計 62

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6 SOKEIZAI Vol.51(2010)No.3

 CO2 排出量の算定方法は、一般に以下の式に従って、各プロセスで算定され、合算される。

  CO2排出量=∑(活動量 i×CO2排出原単位 i ):i はプロセスを指す

 活動量、原単位の例は表 3のとおりである。

7.カーボンフットプリント算定の方法と仕組み

表 3 プロセス毎の計算内訳

8.共通原単位について

 CO2 排出量の算定に用いる共通原単位は、図 2にに示すような考え方に基づいて準備されカーボンフットプリントホームページで暫定版(224 種類)

(2)カーボンフットプリント算定 カーボンフットプリントの数値の算定は、上記PCRで定めたルールに従って算定する。算定した結果は PCR と同様第三者の委員会により審議され検証された後、カーボンフットプリントマークが付与される。 カーボンフットプリントの数値は、以上の 2つの認定/検証を通して、公平性/妥当性の評価を行い、信頼性が担保されることになる。 その他、カーボンフットプリント算定値についての注意点として、以下のようなものがある。

 ・ 製品の使用後に、回収リサイクルされる場合で、同じ製品に戻らない場合(オープンリサイクルの場合)はリサイクルによる効果を製品の側にカウントせずに、リサイクル材を使用した側でカウントとする。これは、ダブルカウントを防ぐ観点から設定されている。

 ・ 一方、例として洗濯機の評価と洗濯機で使用される洗剤の評価をそれぞれで行う際、それぞれで使用段階を設定した場合は、同じ対象に対して別々に算定したことになるので、仮に全ての製品のカーボンフットプリント算定値を総合計しても、全体でのGHG排出量とは一致しない。

が公表されており、全ての人がカーボンフットプリント算定に利用出来る。今後さらに充実を図っている。

図 2 共通原単位

原料

廃出物処理

当該プロセス

当該プロセス上流プロセス

原単位の評価範囲

図 評価範囲について

排出物処理プロセス

大分類 中分類 数

エネルギー ― 14

製造

木材・紙製品 2有機 25無機 19燃料等 11

プラスチック 23窯業・土石 3

鉄鋼 33非鉄金属 24用力 3

輸送 ― 64処理 ― 3

合計 224

CFP制度試行事業用CO2換算量共通原単位データベース

http://www.cfp-japan.jp/calculate/verify/data.html

適当な原単位のないときには

・一次データとしての収集を検討

・他原単位への近似的あてはめを検討

・(それらが不可の場合)事務局へ申請

���

資源採掘電力

 エネルギー

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7Vol.51(2010)No.3 SOKEIZAI

特集 環境評価の技術と素形材産業

10.その他のCO2 排出量に関する仕組みとの関係

 カーボンフットプリントは、同じくCO2 排出量を対象とする「温対法」「排出権取引」「カーボンオフセット」などいくつかの仕組みとでは、カーボンフットプリントがボランタリーで法規制ではないこと以外に、以下のような点で内容や考え方が異なるため、扱うCO2 排出量の数値が、同じ範囲のものであっても同一とはならない。その主な理由は、

 ・ CO2排出量の算定範囲が、企業やサイト(事業所)単位ではなく、製品の全ライフサイクルを対象としていること。

 ・ CO2 排出量の算定にあたり、使用している CO2排出量への換算係数(共通原単位)がカーボンフットプリント以外の仕組みで使用しているものと共通ではないこと。

などによる。

11.課題と今後の取り組み

 平成21年度の試行事業の運用の結果浮かび上がって来た、制度運用上の課題を含む今後検討すべきカーボンフットプリントのいくつかの課題の内、主なものは以下のとおりである。

 ■カーボンフットプリント表示内容とそのルール  ①BtoC と BtoB の区別    カーボンフットプリントのマーク使用はBtoB

製品についてはライフサイクルの一部であることや、個々の製品として取り扱われることがないなどの観点から対象としていないが、BtoB 製品についても単に数値の公表に限らずマークを使用したいとの要望があり、どのようなマークを使用するかも含めて今後の検討課題と考えられる。

  ②商品単位とその他の単位当たりの表示の扱い    現状では商品単位を基本としているため、少なくともマークの中に表示される数値は商品単位の数値と限定されているが、単位重量・単位面積などの機能単位での表示を求める声もあ

り、追加情報ではなくマークの中の数値表示のルールも再検討の余地がある。

  ③サービスが対象とする表示単位    サービスの場合、ハード製品と異なり、その機能を無視する事は出来ないため、算定数値は何を対象(単位)にするか、またサービスを提供する際にライフサイクルトータルでの環境負荷よりも資本財の環境負荷が占める割合が無視出来ない程度に大きかった場合、資本財を算定対象に含めるか又は含めないか、など今後の検討にゆだねられている課題がある。更に、廃棄物処理サービスなど、個々の処理単位での実績値が一般の商品の場合のように一定かつ明確ではないものについての扱いも今後明確にしていく必要がある。

    これらの課題は、個々の場合の妥当性のみでなくカーボンフットプリントの制度としてどのような方法をとるかという統一性の問題として議論する必要がある。

9.表示について

 製品に貼付されるカーボンフットプリントマークは図 3に示すものが使用される。 原則として算定の対象範囲がライフサイクルの5つの段階(原材料調達、製造、流通販売、使用、廃棄リサイクル)全てを含む BtoC 製品(店頭を経由して消費者の手元に直接届くもの)は、このマークを使用することが出来るが、BtoB 製品(消費者の手元に直接届くものではない中間材など)の場合で算定の対象範囲が自社工場からの出荷までにとどまるものは、マーク付与の対象にはならない。

図 3 CFP(カーボンフットプリント)マーク

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  社団法人産業環境管理協会  CFP制度試行事業事務局   E-mail: cfp@jemai.or.jp 

 ■ PCRの設定範囲 PCRで設定する製品(分野)の範囲について、現状ではあまり制約を設けずに先行する少数のグループ(1社のみのエントリーであっても)でも PCRの策定取組みが可能とすることを考慮していることもあり、特定の製品だけを対象とした対象範囲の狭い PCRが登録されている。一方、素材/プロセスなどが大きく異なっていても広い意味で目的/用途を同じくする製品をひとまとめにした対象範囲の広いPCR も同じく 1 件の PCR 策定計画として登録されており、PCR毎に対象とする範囲の広さに大きな違いがある。 この点については、今後は PCR登録申請時に何らかの基準を設けて PCR毎の範囲に関する考え方を一定レベルに揃える必要があると考えられる。また既に策定された PCRについても、範囲の狭いものについては、今後新たに登録申請されてくる PCRで、対象とする製品の範囲に重複がなくても、同じ概念で扱えると判断される PCRとの統合ははかっていくなどの方策が考えられる。基本的には PCRで設定する製品(分野)の範囲は、カーボンフットプリント算定に支障の無い範囲で可能な限り広く設定する事が望ましいと考えられる。

 ■ PCR認定手順 第三者による内容のチェック機能として、レビューアによる事前確認を経由して PCR 委員会での審議という手順を踏んでいるが、今後の普及拡大により想定される非常に多数の案件処理に向けたPCR委員会での認定審議の仕方及びその前段階のレビューアの役割も、迅速かつ信頼性等を担保しつつ処理する方法が求められる。

 ■カーボンフットプリント検証 PCR認定同様、あるいはそれ以上に処理案件が大量になると想定されるカーボンフットプリント検証においても検証員と PCR委員会の役割、PCR委員会の中での検証審議の仕方の見直しが必要となる。

 ■原単位(参考データ)の作成と検証 カーボンフットプリントの算定に使用される「CO2 換算量共通原単位」の今後の充実までのつなぎとして、“参考データ” と言う形で暫定的に共通原単位をカバーしているが、その数値の検証及び参考データを含む「CO2 換算量共通原単位」の充実に伴う PCR及びカーボンフットプリント算定数値の改訂ルール確立が必要となる。

 参考文献1 ) カーボンフットプリント制度説明会講演資料(2009年 9 月 14 日東京会場説明会)

2) カーボンフットプリントホームページ  http://www.cfp.-japan.jp3 ) カーボンフットプリント制度試行事業への取り組みとその課題(第 5回日本 LCA学会研究発表)