3ロール型リングローリングミルの 特徴とその圧延...
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21Vol.54(2013)No.2 SOKEIZAI
リングローリング加工はリング部品の製造方法の 1つで広く用いられている。加工方式の 1つに 3ロール型リングローリングがあり、非対称異形断面リングの製造に用いられている。本報ではその特徴と圧延特性について紹介する。
3ロール型リングローリングミルの特徴とその圧延特性
1.はじめに
中 溝 利 尚 山陽特殊製鋼㈱
近代の工業技術において、ベアリングやギヤ、各種フランジなどに代表されるリング部品は機械や設備の重要な構成要素となっている。リング部品の 1つである軸受素形材には様々な種類があり、深溝玉軸受や自動調芯コロ軸受に代表されるようなリング断面が軸方向対称であるものや、円錐コロ軸受に代表されるようなリング断面が軸方向非対称であるものが存在している。これらリング部品の製造方法の 1つとして、リングローリング加工があり、古くから利用されている塑性加工方法である。リングローリング加工における技術課題の 1つとして、いかにニアネットシェイプ化を図り省エネルギー、省資源を実現するかという点が挙げられる。特に昨今、地球
温暖化を背景とした低炭素社会の実現という社会的要請が高まっており、リングローリング製品のニアネットシェイプ化技術を確立することは、技術的価値が高いと考える。 我々は、ニアネットシェイプ化の要素技術の 1つとして、3ロール型リングローリングミルに着目した。当該ミルを用いた加工では、様々なリング部品が既にニアネットシェイプ化されており、異形断面リング(軸方向非対称断面のリングを含む)の製造について実績がある。そこで、3ロール型リングローリングミルの圧延特性を研究し、異形断面リング成形について一定の知見を得たのでその一部を報告する。
図 2 金型修理工数の比較例図 1 リングローリング加工の模式図
リングローリングは、鍛造により成形された荒地(Preform)リングの肉厚を減少させながら径を拡大し、望む形状・寸法のリング部品を得る加工方法である1)。リングローリング加工の模式図を図 1に示す。この加工方法は他の塑性加工方法と比べて、局所加工である
2.リングローリング加工
メインロール
マンドレル
リング
加工初期 加工末期
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ため必要な加工力が小さく、逐次加工であるため製品の寸法精度が高く、直径を拡大させる加工方法のため歩留まりが良いなど、複数の工業的優位性を有
しており、このため古くから用いられている塑性加工方法である2)。
図 2 3ロール型リングローリングミル
リングローリングミルは、ロールバイト部で圧延に寄与するロール個数により 2ロール型と 3ロール型に区別される。2ロール型は広く用いられている加工方式で図1がその模式図である。現在では半径方向に加え軸方向からも圧下を加えるラジアル-アキシャルミルが一般的となっている。 一方、1950 年代に日本で開発された加工方式として 3 ロール型(斎藤式)リングローリングミルがある3), 4)。3 ロール型リングローリングミルの模式図を図 2に示す。このリングローリングミルは、
3.3ロール型リングローリングミルの特徴
ロールバイト部が3つのロールで構成されているため 3ロール型と呼ばれている。また、メインロールの回転主軸が水平方向から 20 ~ 30° 傾斜しており、ロールバイト部では閉式孔型が構成されている。これが 3ロール型の大きな特徴である。以前から異形断面リングの製造に適用されており、ニアネットシェイプ鍛造品を市場に供給している実績がある。しかし、3ロール型に関しての研究は少なく、基本的な圧延特性を含め、異形断面リングの成形性に関する知見も少ない。
4.3ロール型リングローリングミルでの製品群
当社関連会社のサントクテック㈱では、3ロール型リングローリングミル 10 台を用いて、リング素形材を製造している。写真1に3ロール型リングローリングミルで製造されている製品群を示し、一部外観写真を示す。外径φ520mmまでのリング素形材が製造範囲で、航空機軸受や鉄道車両用軸受を始め、ギヤ素形材なども製造している。軸受素形材のほと
んどはニアネットシェイプで製造されており、ユーザーでの工数削減にも寄与している。ニアネットシェイプの製造技術には、リングローリング前荒地の設計・管理、圧延方法・制御のノウハウが必要不可欠であり、これらの製品群は長年の技術蓄積の上に成り立っている。
メインロール
正面図 側面図
マンドレル
リング
バックアップ
ロール ロールブロック
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特集 回転成形技術の動向
図 4 相当ひずみ、静水圧応力分布の比較
図 3 矩形リングの加工前後寸法
写真 1 ロール型リングローリングミルでの製品群 4)
5.3ロール型リングローリングの圧延特性
5.1 矩形断面リングに対する圧延特性 3ロール型の圧延特性を、実験および有限要素解析を用いて調査した5), 6)。図 3に調査対象の加工前後の形状を示す。矩形断面リングを対象とし、加工での外径拡大率は 1.27 倍である。当該品について、
3ロール型・2 ロール型それぞれで実験および有限要素解析を実施した。解析結果として、最小ロールバイト位置・RD断面での相当ひずみ、静水圧応力分布を図 4に示す。3ロール型では相当ひずみは比較的均一で、静水圧応力もほぼ全域で圧縮である。
矩形リング 自動調芯コロ軸受 深溝玉軸受 円錐コロ軸受
外輪 外輪 外輪
内輪 内輪 内輪
φ200
φ160
φ232
φ163.3
リングローリング
43
φ182
43
φ75
(a) 3 ロール型 (b) 2 ロール型
内径側
外径側相当ひずみ 静水圧応力
(a) 3 ロール型 (b) 2 ロール型
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図 6 異形断面リングの加工前後寸法
一方、2ロール型ではコーナー部分にひずみの集中が観察され、静水圧応力は引張、もしくは弱い圧縮である。これらの相違はロール配置に依存するところが大きく、3ロール型では閉式孔型内で圧延が進行するため、幅広がり(フィッシュテール)が抑制され、かつ、被加工材の肉厚中心まで圧縮の静水圧応力が作用すると考えられる。以上のことから、3ロール型は 2ロール型と比べ、熱処理後の結晶粒度ばらつきが抑制でき、また内部空隙の生成・成長を抑制し圧着させる効果が高いと考えられる。
5.2 非対称断面リングに対する圧延特性 軸方向非対称断面リング(以降、非対称断面リングと呼ぶ)に対する 3ロール型リングローリングミルの圧延特性を、有限要素解析にて調査した 7)。図 5
図 5 非対称断面リング成形の問題点
に示すように、非対称断面リングを圧延する場合の問題点の 1つとして、被加工材の外径周速度とメインロール周速度が一致する点、すなわち中立点が限られていることがある。つまり、被加工材とメインロールは、ロールバイトのほぼ全域においてすべりを生じながら(相対速度を有して)加工が進行している。このすべりは被加工材の表面性状の悪化、ロール寿命の低下、加工中のリングが不安定になるなどの悪影響を及ぼすと考えられる8), 9)。このため、非対称断面リングの安定製造には、ロールおよび被加工材間の相対速度を低減することが重要といえる。 3ロール型リングローリングミルでは、被加工材の左右にメインロールがそれぞれ存在し、かつ独立に回転できる機構となっている。このため、角速度やロール径を調整することで、比較的高い自由度でメインロール周速度を設定することができる。一方、2 ロール型ではメインロールは一体であるため、1点のロール径を決定すると各位置でのロール径は一義的に決定される。この機構の違いにより、製品の外径周速度分布に応じてメインロール周速度を最適化するという手法が実現可能である。 この効果を検証するため、図 6の加工に対して有限要素解析を行い、被加工材外表面の相対速度を調査した(図 7)。なお、3ロール型の条件は、図中に示す部分でロールを分割し、左右メインロールの角速度およびロール径を最適化した条件である。また、製品幅(H)方向を z軸とし、製品幅中央を z= 0 として取り扱った。被加工材とメインロールとの相対速度は、2ロール型では最大 770mm/s であったものが 3ロール型では最大 450mm/s と、約 42% 低減することが可能であった。この効果は前述したように、被加工材の表面性状やロール寿命、加工中の安定性
メインロール
マンドレル
被加工材
メインロール回転軸
マンドレル回転軸
ロール最大径 ロール最小径
被加工材最小径 被加工材最大径
被加工材 回転軸
r
z
θ
H=50
φ D2
H=50
φD3
φD1 φ1.2D1
φ1.9D3
φ1.4D2
リングローリング
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特集 回転成形技術の動向
山陽特殊製鋼株式会社研究・開発センター 加工プロセスグループ〒672-8677 兵庫県姫路市飾磨区中島 3007TEL. 079-235-6304 FAX. 079-235-6157http://www.sanyo-steel.co.jp/
図 7 2ロール型・3ロール型での相対速度の比較
に好影響をもたらすと考えられる。また、ここでは割愛するが、メインロール回転主軸が傾斜していることにより、z軸方向の材料流動が促進されており、外径部の突起成形に対し補助的な役割を果たしていると考えられる。 以上より、3ロール型リングローリングミルの特徴、すなわち、メインロールが左右独立に存在し、その回転主軸が傾斜している点は、被加工材とロールとの間の相対速度を低減させ、外径部の突起成形にも良い影響を及ぼしている。これらの結果から、3ロール型リングローリングミルは、リング素形材のニアネットシェイプ化に対して有益な加工方式であると考える。
6.おわりに
リングローリング方式の 1つである 3ロール型について、その圧延特性に関する研究の一部を紹介した。リングローリングはその工業的優位性のため古くから用いられており、また将来に亘っても活用される技術であると考える。 大径リング部品のニアネットシェイプ化は、低炭素社会の実現という社会的要請を背景に、今後ますます注目されていくと想定される。技術的には、機械・装置のみでは実現困難であり、加工前荒地の設計技術、管理方法、圧延方法の制御など多岐に渡る製造技術が必要である。今後、この分野の技術が進むことを期待するとともに、技術の発展に寄与していく所存である。
参考文献1 ) 日本塑性加工学会:塑性加工技術シリーズ 11 回転加工(1990)106-127.
2 ) 中小企業総合事業団:熱間自由鍛造・鍛造荒地加工及びローリング鍛造マニュアル(2000)133-138.
3 ) 斉藤正之,斉藤正也:特公 昭 34-7408.4 ) 中溝利尚:山陽特殊製鋼技報,11(2004)70-73.5 ) 中溝利尚,中崎盛彦,高須一郎,宇都宮裕:塑性と加工,53-613(2012)40-44.
6 ) 中溝利尚,中崎盛彦,宇都宮裕:塑性と加工,53-613 (2012)45-49.
7 ) 中溝利尚,中崎盛彦,宇都宮裕:塑性と加工,53-616 (2012)51-55.
8 ) 柳本潤,木内学,柴田一良:第 44 回塑性加工連合講演会講演論文集(1993)23-26.
9 )関本靖裕:塑性と加工,23-261(1982)952-957.
3ロール型のロール分割位置
‑800
‑600
‑400
‑200
0
200
400
‑1 ‑0. 5 0 0.5 1
製品幅Hで規格化したz方向位置
相対速度 /mm・s
‑1
2ロール型
3ロール型:最適化
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