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73 石油・天然ガスレビュー オマーン:BPが天然ガス鉱区権益を取得、 新規開発案件への外資導入が進む BGに続き、BPがタイトフォーメーションガスを有するガス探鉱・開発鉱区の契約を締結。 オマーンは国内ガス需要の急増を背景に、早ければ2008年以降ガス供給不足に直面する可能性があ り、構造性ガスの新規開発を急ぐ。 オマーン政府は、石油、ガス分野とも、これまでのPDO主導の開発から、積極的な外資導入による 開発促進策に転換。 1.BPがKhazzan、 Makaremガス田の開 発契約を締結 BPとオマーン石油ガス省は2007年1 月22日、Khazzanガス田、Makaremガ ス田等の同国中部陸上エリアの探鉱・開 発に関する生産物分与(PS)契約を締 結した(図1参照)。 マスカットで開かれた調印式には、オ マーンのMohammed Bin Hamad Al Rumhy(ルムヒ)石油ガス相、BPの E&P部門CEOで8月にBPグループCEO に就任予定のTony Hayward氏が参加し た。 オマーン政府は、石油・天然ガスの生 産能力拡大のため、これまで同国の上流 事業を主導してきたPDO(Petroleum Development Oman、出資比率:オマー ン政府60%、Shell 34%、Total 4%、 Partex(ポルトガル)2%)以外の企業 の参入を認める方針を打ち出しており、 今回のBPとの契約は、2006年4月に第 60鉱区(Abu Butabulガス田等)の開発 契約を締結したBGに続く、2番目の国 際石油企業(IOC)とのガス開発契約と なる。 Nasser Al Jashmi石油ガス省次官によ ると、BPはIOC各社との競争を勝ち抜 いて権益を取得した。 Platts(2007年1月23日付)によると、 本プロジェクトへの応札会社には、① BP、②Shell、Total、Mubadala(UAE)、 ③Nexen(カナダ)、Dubai Energy (UAE)、④BG、BHP(豪)、伊藤忠商事、 ⑤Petro-Canada、⑥Eni、Sonatrach(ア ルジェリア)等の企業、コンソーシアム が含まれている。 BPの提案書は、Khazzanガス田と Makaremガス田の 開発のみならず、両 ガス田を含む同国中 部のMiqrat、 Amin、Buahと Barikエリア(計 2,800km 2 )の、主に 深度4,500mに広が るタイトフォーメー ションガスに対する 埋蔵量評価の実施も 含まれており、この 点が天然ガス開発の 拡大を目指すオマー ン政府から評価され た模様である。 タイトフォーメー ションガスは、浸透 性が極めて低い貯留 層に含まれているガ スであり、コール ベッドメタン(CBM)やメタンハイド レートと並ぶ非在来型の天然ガスの一種 とされ、高度な探鉱・生産技術が必要と されている。 BPによると、今回のPS契約の対象鉱 区のガス埋蔵量は20~30Tcf程度と見積 もられ、早ければ2010年からの生産を目 指す。 契約の詳細は不明だが、報道によると、 イラペル マーウジア ラビア UAE カタレーン イエマスカット Qalhat <Oman LNG> Sohar Fujairah Salalah 16” ガスP/L 48” ガス P/L 同上 32” ガス P/L Barik Saih Rawl Makarem Khazzan Saih Nihayda 図1 Khazzanガス田・Makaremガス田の位置図 出所:JOGMEC

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Page 1: P073-075 トピックス 猪原 · 2018-02-16 · tact system k y m c 73石油・天然ガスレビュー オマーン:bpが天然ガス鉱区権益を取得、 新規開発案件への外資導入が進む

TACT SYSTEM

K Y M C

73 石油・天然ガスレビュー

オマーン:BPが天然ガス鉱区権益を取得、新規開発案件への外資導入が進む

➢BGに続き、BPがタイトフォーメーションガスを有するガス探鉱・開発鉱区の契約を締結。➢ オマーンは国内ガス需要の急増を背景に、早ければ2008年以降ガス供給不足に直面する可能性があり、構造性ガスの新規開発を急ぐ。

➢ オマーン政府は、石油、ガス分野とも、これまでのPDO主導の開発から、積極的な外資導入による開発促進策に転換。

1. B P が K h a z z a n 、Makaremガス田の開発契約を締結

 BPとオマーン石油ガス省は2007年1月22日、Khazzanガス田、Makaremガス田等の同国中部陸上エリアの探鉱・開発に関する生産物分与(PS)契約を締結した(図1参照)。 マスカットで開かれた調印式には、オマーンのMohammed Bin Hamad Al Rumhy(ルムヒ)石油ガス相、BPのE&P部門CEOで8月にBPグループCEOに就任予定のTony Hayward氏が参加した。 オマーン政府は、石油・天然ガスの生産能力拡大のため、これまで同国の上流事業を主導してきたPDO(Petroleum Development Oman、出資比率:オマーン政府60%、Shell 34%、Total 4%、Partex(ポルトガル)2%)以外の企業の参入を認める方針を打ち出しており、今回のBPとの契約は、2006年4月に第60鉱区(Abu Butabulガス田等)の開発契約を締結したBGに続く、2番目の国際石油企業(IOC)とのガス開発契約となる。 Nasser Al Jashmi石油ガス省次官によると、BPはIOC各社との競争を勝ち抜いて権益を取得した。

 Platts(2007年1月23日付)によると、本プロジェクトへの応札会社には、①BP、②Shell、Total、Mubadala(UAE)、③Nexen(カナダ)、Dubai Energy

(UAE)、④BG、BHP(豪)、伊藤忠商事、⑤Petro-Canada、⑥Eni、Sonatrach(アルジェリア)等の企業、コンソーシアムが含まれている。 BPの提案書は、Khazzanガス田とMakaremガス田の開発のみならず、両ガス田を含む同国中部 の M i q r a t 、A m i n 、 B u a h とB a r i k エ リ ア ( 計2,800km2)の、主に深度4,500mに広がるタイトフォーメーションガスに対する埋蔵量評価の実施も含まれており、この点が天然ガス開発の拡大を目指すオマーン政府から評価された模様である。 タイトフォーメーションガスは、浸透性が極めて低い貯留層に含まれているガスであり、コール

ベッドメタン(CBM)やメタンハイドレートと並ぶ非在来型の天然ガスの一種とされ、高度な探鉱・生産技術が必要とされている。 BPによると、今回のPS契約の対象鉱区のガス埋蔵量は20~30Tcf程度と見積もられ、早ければ2010年からの生産を目指す。 契約の詳細は不明だが、報道によると、

イラン

ペルシャ湾

オマーンサウジアラビア

UAE

カタール

バーレーン

イエメン

マスカットQalhat

<Oman LNG>

Sohar

Fujairah

Salalah

16” ガスP/L

48” ガスP/L

同上

32” ガスP/L

Barik Saih Rawl

Makarem

KhazzanSaih Nihayda

図1 Khazzanガス田・Makaremガス田の位置図

出所:JOGMEC

Page 2: P073-075 トピックス 猪原 · 2018-02-16 · tact system k y m c 73石油・天然ガスレビュー オマーン:bpが天然ガス鉱区権益を取得、 新規開発案件への外資導入が進む

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742007.3 Vol.41 No.2

BPは4年間のガス探鉱期間に約10億ドルを投資し、その後3~4年間の開発期間(投資額約20億ドル)に移行すると見られる。

2.PDOの放棄鉱区が  対象

 オマーンの天然ガス確認埋蔵量は30Tcf(Oil & Gas Journal、2006年末)で、その9割近くが構造性ガスと見込まれている。 大部分は、PDOが保有する第6鉱区

(面積約11万km2で国土面積約21万km2の半分以上を占める)に賦存しており、原油と同様にガス開発もPDOが主導的役割を果たしてきたが、オマーン政府が2004年12月、第6鉱区の契約延長(2012年までの当初契約から32年間延長し、2044年まで)を決定した際、PDOが保有する鉱区の約10%(未開発エリア)を放棄させたことに伴い、新規のガス探鉱・開発鉱区は、PDO以外の企業(BG、BP等)による参入に切り替えられた。 オマーン政府の公式見解では述べられていないが、10%放棄の決定には、PDOのオペレーターであるShellのパフォーマンスに対する政府の不満が背景にあったとも言われている。 2006年4月にBGとオマーン政府がPS契約を締結した第60鉱区は、1998年に

PDOが発見したAbu Butabulガス田(未開発)を含む面積1,500km2の鉱区であり、BPの契約鉱区と同様、タイトフォーメーションガスを有していると考えられている(図2)。 BGは5年間で1億5,000万ドルの投資を行うとしている。2007年1月より地震探鉱が開始され、2007年半ばより試掘井2坑井に対する掘削を行い、埋蔵量評価が行われる予定と伝えられている。

3.ガス需要の急増

 Petroleum Argus(2007/1/1)によると、オマーンの現状のガス生産量は約23億cf/dであるが、このうち約8億cf/dが国内消費(発電、石油化学等の産業向け)、1億cf/dがUAE向けパイプライン輸出

(2008年1Qまでに終了予定)、14億cf/dがLNGプラント(Oman LNG 2トレーン、Qalhat LNG 1トレーン)向けとなっている。このうち、国内消費については、今後、年率4%程度の増加が続くと見込まれている。 LNGプラントも設備増強(デボトルネッキング等)により、既存3トレーンの生産能力約1,100万トン/年を、1,180万トン/年程度(同上)に能力増強する計画や、第4トレーン建設構想が伝えられるなど、ガス需要はますます拡大する見込みである。

 一方で、供給面では、老朽化したYibal油田(随伴ガスを生産)について油層ダメージを低減するため、2007年に約2億cf/d減産する予定であるなど、随伴ガスの生産が頭打ちとなり、生産中の

Barik、Saih Nihayda、Saih Rawl各ガス田への依存度が高まる見込みであるが、大幅な増産は困難な見通しである。 早ければ2008年にも供給不足に陥るとの見方もあり、オマーン政府は、ガスの供給先としてカタールからのドルフィン・プロジェクト(ガス・パイプライン)のオマーンへの延長(フェーズ1:約2億cf/d、フェーズ2:約12億cf/d)に加えて、BGおよびBPと契約した新規ガス鉱区からの早期生産に期待をかけている。

4. PDO中心の石油開発から、積極的な外資導入政策に転換

 オマーンは、ガスだけでなく、石油上流についても、PDOが放棄した鉱区を対象に積極的な外資導入を進めており(探鉱入札を実施)、2006年に相次ぎ落札企業が決定している(表)。 Occidentalは、オ マ ー ン で はPDOを主導するShellに次ぐプレゼンスを有しており、既に北部の第9鉱区、第27鉱区、南部の第53鉱区の権益を有している(図3)。第9鉱区は参入後30年経過 し 、 2 0 0 5 年 の 生 産 量 は 石 油 6 万7,000b/d、ガス1億1,700万cf/dである。第27鉱区は現在探鉱中である。また、第53鉱区(2005年7月契約)には重質油田のMukhaizna油田が含まれており、水蒸気圧入による重質油回収の実績を持つ同社の技術力がオマーン側に高く評価されたとされる。

図2 第60鉱区位置図

出所:BGホームページ

表 2006年入札鉱区の落札企業

第54鉱区 (2006年4月契約)

面積5,620km2、Occidental 70%、三井物産(およびMOECO)15%、Liwa Energy(アブダビ政府系投資会社Mubadalaの子会社) 15%

第56鉱区 (2006年3月契約)

面積5,809km2、Oilex(豪)、Gail(印)各25%、他のインド企業3社 50%

第58鉱区 (2006年4月契約) 面積2,200km2、PTTEP(タイ)100%

出所:各種報道・プレスリリース

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75 石油・天然ガスレビュー

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 また、中国企業も、CNPCが石油資源開発の撤退鉱区である第5鉱区にファームインしたほか、Sinopecも第36鉱区、第38鉱区の権益を取得している。 オマーンの原油生産は2001年の97万b/dをピークに減少に転じ、2005年には約78万b/d(コンデンセート6万b/dを含む)まで減少しており、その維持・回

復は大きな課題となっている。 オマーンの原油生産の約9割を占めるPDOの原油生産も、2000年の84万b/dをピークに2005年には63万1,000b/dまで激減している(図4)。このためオマーン政府は、前述したように第6鉱区の契約期限を2044年まで延長し、引き続きPDOによる開発・生産を決定したが、

PDOには主にEORによる既存油田の生産量の回復を求め、未開発鉱区(石油・ガス)については新規企業の参入による開発を促進するという戦略に転換した。今後も、PDO参加企業以外の石油会社にとって、オマーンへの参入機会は拡大していくものと見られる。

(猪原 渉)

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図3 Occidentalの参入鉱区

出所:Occidental社ホームページに加筆

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200

400

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1,000

1,200

1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005年

千boe/d

コンデンセートガス原油

4242

830830

4949

846846

5454

835835

59592020

832832

128128

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840840

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7373

831831

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7272

771771

250250

6060

702702

287287

4949

661661

289289

5959

631631

図4 オマーンPDOの炭化水素生産量の推移

出所:PDOホームページ