うつ病等の精神疾患合併妊産婦の 診療と支援につい...
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うつ病等の精神疾患合併妊産婦の診療と支援について
資料3
岡井 崇
1
0%
2%
4%
6%
8%
10%
12%
14%
大うつ
病
hypert
ensio
nPPH
preterm
diabete
s
preclam
psia
IUGR
placen
tal ab
rupti
on
精神疾患(うつ病)は妊娠の合併症の中で最も頻度が高い疾患
Dr Alain Gregoire, DRCOG, MRCPsychConsultant/Hon. Senior Lecturer in Perinatal Psychiatry, SouthamptonChair, UK Maternal Mental Health Alliance より
2
東京都23区の妊産婦の異常死 年別事例数
0
2
4
6
8
10
12
05 06 07 08 09 10 11 12 13 14
その他
自殺
病死
例数
年
総数89例
自殺事例(63例)における精神疾患の有無
無し(61%)
うつ病(35%)
躁鬱病、統合失調症 (4%) 妊娠中
総数23例
無(40%)
うつ病 (10%)
産後うつ病(33%)
不詳(10%)統合失調症(5%)
産後うつ病+統合失調症(3%)
産後総数40例
3東京都23区の妊産婦の異常死の実態調査(順天堂大学 竹田省、東京都監察医務院引地和歌子、福永龍繁)より
医療体制強化等で防ぎうる群
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15
20
25
15-1920-24 25-2930-3435-39 40-44
自殺病死
総数63例総数19例
例数 例数
年齢
妊産婦の異常死亡症例の年齢分布
年齢
4
東京都23区の妊産婦の異常死の実態調査(順天堂大学 竹田省、東京都監察医務院 引地和歌子、福永龍繁)より
出産数
0
10,000
20,000
30,000
40,000
50,000
0
5
10
15
20
25
15-1920-2425-2930-3435-3940-44
出産数
0
5
10例数
自殺の時期-産褥期1年未満
1M 2M 3M 4M 5M 6M 7M 8M 9M 10M ⒒M 12M 不明
産後
自殺の時期-妊娠中
0
5
10
15例数
妊娠
2M 3M 4M 5M 6M 7M 8M 9M 10M
5東京都23区の妊産婦の異常死の実態調査(順天堂大学 竹田省、東京都監察医務院引地和歌子、福永龍繁)より
英、瑞西,東京都の周産期自殺率の比較中間報告
UK & NI(2015)
• 期間:2009-13• 統計局
• 妊産婦死亡率
3.7 / 出生10万
• 追跡数:101名
• 自殺率:
2.3/出生10万
Tokyo(2016)
• 期間:2005-2014• 人口動態
• 妊産婦死亡率3.96/出生10万
• 追跡数:63名
• 自殺率:
8.7/出生10万
政府統計 e-statおよび東京都監察医務院と順天堂大学の共同研究より
Sweden(2015)
• 期間:1980–2007• 死因統計局
• 妊産婦死亡率
4.7 /出生10万
• 追跡数:103名
• 自殺率:
3.7/出生10万
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東京都における女性の自殺率(平成26年)
警察庁「自殺統計(平成26年)」および総務省「平成26年10月1日現在推計人口」より
対人口10万人
0
5
10
15
20
25
20-24 25-29 30-34 35-39 40-44 45-49
総自殺率(人口10
万人対)
女性自殺率(女性
人口10万人対)
年齢区分(歳)
東京の周産期自殺率(8.7)
妊産褥婦は、健診等にて定期的に医療機関を受診しているにも関わらず、その自殺数は同世代の一般女性の約2/3に及ぶ。
東京都23区の妊産婦の異常死の実態調査のまとめと考察
妊産褥婦の自殺者63例/10年間
周産期自殺率: 8.7 (10万出生対)東京都23区の人口:約900万人
(参考)大阪大学法医学教室からの先行報告妊産褥婦の自殺者9例/3年間大阪市の人口:約270万人
自殺の時期は妊娠中1対産後2自殺の時期
妊娠中は妊娠2ヶ月が突出
産褥期では3ヶ月4ヶ月が多い
精神疾患がないのは約半数(30/63例)(その中には育児に悩むも、受診を拒否していた事例もあり)
・ 精神疾患合併症例や発症リスクの高い症例の適切な抽出
・ 周産期医療と精神科の連携診療体制 が重要である。8
「精神疾患合併妊産婦に対する大学病院を拠点とした産科・精神科・小児科・地域連携」(兵庫医科大学 精神科神経科学講座 清野 仁美)
分娩予定の妊婦のうち、産科医が「精神疾患の既往and/or現症を聴取し、精神科コンサルテーションに同意し精神科受診した妊婦に対する研究
約10%の妊産婦
が精神科コンサルテーションを要すると判断された
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医療機関による精神疾患合併妊産婦に対する診療体制のあり方について(例)
本研究における総合病院-地域医療連携体制(精神科診療の必要度別)
<連携の流れ>産科医が「精神疾患の既往や現症を聴取し、精神科コンサルテーションの必要性を判断。
精神科コンサルテーションが必要と判断され、同意した妊婦は、一旦、総合病院産科、精神科に紹介され、周産期メンタルヘルス管理の必要度(高~低)をトリアージ。必要度に合わせて、適した施設で妊娠・分娩管理を実施。精神症状が悪化した際には、精神科有床総合病院にて管理、分娩を受け入れる体制とした。
総合病院
(精神科有床)産科 精神科
総合病院産科(精神科無床)、産科診療所 精神科診療所
連携診療
連携診療
連携診療
連携診療
高
中
低
<必要度(高~低)別連携診療体制の図>
(兵庫医科大学 精神科神経科学講座 清野 仁美)
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周産期医療センター等の基幹病院での精神疾患合併妊婦に対する院内多職種連携のあり方(例)
母子
家族
医師
助産師
薬剤師
看護師作業
療法士
MSW
PSW
臨床
心理士
• 定期院内カンファレンスで情報共有、方針統一
• 産科支援の必要性が認められた妊婦に対し精神科医、医療ソーシャルワーカー(MSW)、精神科ソーシャルワーカ(PSW)が面談し、情報収集
• 精神科にて医学的治療、心理教育、家族教育
• 妊婦健診時に担当助産師が定期的面談
• 必要に応じ、精神科リエゾン看護師、心理士、薬剤師、作業療法士の介入
• 産前産後の育児機能評価、育児指導
• 妊娠期からの社会福祉サービスの導入準備
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(兵庫医科大学 精神科神経科学講座 清野 仁美)
精神科と周産期医療等の連携体制(例)
周産期基幹病院
精神科医
病院(産科なし)
産婦人科医
産婦人科医
病院や診療所(精神科なし)
精神科医
精神科診療所
地域小児科地域保健行政 等
③地域の連携体制情報共有
産科診察
精神科診察
産科疾患や精神疾患による高次施設紹介・診療連携 等
・地域医療機関等へ情報の還元・地域における継続した支援体制
精神疾患の合併に対しては、母子共に長期の継続した医療的・社会的支援が必要となる。
うつ病を含め精神疾患を合併する妊産褥婦とその家族が、地域で安心して妊娠、出産、子育てを行うためには
・地域における、産科・精神科・小児科等の関連医療機関と地域保健行政間の連携および情報共有を明確化
・精神疾患の増悪等による入院や夜間診察等に対応可能な地域基幹病院の設定と周知
・高次施設での診療情報等の地域へのフィードバックと、地域での長期の支援体制
等が特に必要ではないか
二次医療圏等の連携体制
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①院内多職種連携
②医療機関間連携
1. 精神障害の特性や適切なケア等に対する知識や診療の質の向上のための周産期医
療従事者の教育・研修体制の整備
2. 精神障害を有する妊産褥婦のスクリーニング法と管理法の確立
3. 精神障害を有する妊産褥婦の治療における産科診療施設と精神科診療施設の連携体
制の確立(重症患者の搬送とスクリーニング陽性患者のコンサルティング)
現状の課題および今後の周産期医療体制への提言(案)
1. 周産期における精神障害に関する認識の不足(産科医、助産師、精神科医等)
2. 妊産褥婦精神障害のスクリーニング法と管理法の不統一
3. 精神障害・精神疾患合併妊婦の産科・精神科入院受け入れ先の不足
周産期医療体制と精神科診療の連携についての課題
今後の周産期医療体制整備に対する提言(案)
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参考資料
岡井 崇
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産後うつ病
周産期の女性のうつ病発症率 10%~30%
発症時期 産後1~2週から発症する。
重症度 重症は1~2割
危険因子・精神科既往歴がある・望ましくない出来事・夫からの支援不足・親との不良な関係
• 産後の抑うつエピソードの50%は出産前から始まっている。そのため、まとめて、『周産期エピソード』と呼ぶ
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ライフイベントとしての
妊娠・出産
不適切な養育体験
医療・保健の連携助産師・保健師
による介入
対人関係のゆがみ成人アタッチメントスタイル
夫・実母等からの情緒的サポート不足
生物学的脆弱性精神病の既往歴・家族歴ホルモン学的変化
Biflucoらを吉田・鈴宮による改変
産前・産後のうつ病の発症モデル
・母の社会的不適応・婚姻関係の破綻・母子相互作用の障害
・子どもへの影響情緒、行動、認知発達
産前・産後うつ病発症
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妊娠中の精神障害リスク評価(日産婦学会ガイドライン案)
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☆うつ病に関する2項目の質問
・・・ NICE(英国国立医療技術評価機構)推奨
1. 過去1か月の間に,気分が落ち込んだり,元気がなくなる,あるいは絶望的に
なって,しばしば悩まされたことがありますか?
2. 過去1か月の間に,物事をすることに興味あるいは楽しみをほとんどなくして,し
ばしば悩まされたことがありますか?
1項目でも、「はい」の回答がある場合、
精神科への受診を勧めることを検討する
妊娠中の精神障害リスク評価(日産婦学会ガイドライン案)
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☆全般性不安障害に関する2項目の質問
・・・ NICE(英国国立医療技術評価機構)推奨
1. 過去1か月の間に,ほとんど毎日緊張感,不安感また神経過敏を感じることが
ありましたか?
2. 過去1か月の間に,ほとんど毎日心配することを止められない,または心配をコ
ントロールできないようなことがありましたか?
1項目でも、「はい」の回答がある場合、
精神科への受診を勧めることを検討する
産褥期の精神障害リスク評価(日産婦学会ガイドライン案)
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☆スクリーニング法としては、
EPDS(Edinburgh Postnatal Depression Scale )を用いる。
9点以上の場合は、産後うつ病の疑いと判断し、必要に
応じて精神疾患に豊富な知識・経験のある医師に相談
すると共に医療・行政面を含めた継続的な精神面支援
体制を検討する。
周産期医療保健チーム:助産師、保健師、看護師、産科、精神科、小児科、地域保健行政などのスタッフとの共有質問票。
医療保健チームで共有する3つの質問票の意義
Ⅰ 育児支援チェックリスト →育児環境
Ⅱ エジンバラ産後うつ病質問票→産後うつ病
Ⅲ 赤ちゃんへの気持ち質問票→Bonding障害
「産後の母親のメンタルへルスと育児支援マニュアル自己記入式 質問票を活用した援助の実際」
(吉田、山下、鈴宮、母子保健事業団)「産後の母親のメンタルヘルス支援活動」
(鈴宮、山下、上別府、吉田、母子保健事業団)「産後うつ病ガイドブック EPDSを活用するために」
(J.Cox, J.Holden著 岡野禎治 、宗田聡訳 南山堂)
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現在の女性はなんでも表現し主張しているか?産後うつ病の母親は
自らはケアや治療を求めない
1ヶ月健診をすると10人の1人はうつ病の母親がいるはずなのに・・・・
産後うつ病の女性、何かおかしいという自覚があった:1000人
このうち
• 誰にも打ち明けない 3分の2
• 身内や女性の友達に打ち明ける 3分の1
※ 助産師、ボランティアへ相談した人はもっと少ない
• 紹介状を準備され近医を受診 75人
( 精神科への受診は、その中のわずか17人)
Louis Appleby et. al. (1996)
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児童虐待
ボンディング障害(赤ちゃんへの気持ち
質問票)
不良な身近からの情緒的、社会からのサポートの不足
(孤立的な育児)
若年妊娠若年の母
ネガティブライフ
イベンツ
母親の抑うつ
医療・保健の連携助産師・保健師
による介入
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保 健 所
1.育児支援チェックリスト2.EPDS3.赤ちゃんへの気持ち質問票
一ヶ月健診
乳児健診
退院
出産
妊娠母子手帳発行
予防接種
予防接種
予防接種
予防接種
NICU小児科医:
子どもを通して見る母子メンタルヘルス
健診
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