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JPEC レポート 1 平成 27 年 4 月 16 日 中国で再燃するメタノール・ガソリン(MTG)生産 2015 年 3 月、中石化煉化工程集団有 限公司(SEG)は、石炭を原料としたメタ ノールから合成ガソリンを製造する MTG(Methanol-to-Gasoline)に関する 自社独自プロセスを開発し、MTG 商業 プラントを建設した実績を持つ ExxonMobil Research and Engineering (EMRE)と共同開発契約に合意した。 すでに中国では、2009 年に山西省の 山西晋城無煙煤砿業集団公司が ExxonMobil のプロセスを使用して年 産 10 万トンの MTG プラントを建設し、これを同 100 万トン規模に引き上げることを決定し ている。 2014 年 5 月には雲南先鋒化工公司が、中国科学院 山西石炭化学研究所 (ICC-CAS) や賽 鼎工程有限公司(SEDIN)と共同で開発したプロセスを使用して MTG プラントを建設した。 成都天成碳一化工有限公司も自社プロセスを開発して2014 年から生産を開始している。こ のほか、中国では多くの MTG プロジェクトが計画されている。 もともと MTG 技術はメタノールから芳香族炭化水素を生産(MTA:Methanol-to-Aromatics) するために研究されていたものであり、すでに中国では MTA 方式による商業プラントが建 設され、また多くの計画も進められている。(P11 参照) 中国では昨今 石炭燃焼による大気汚染が深刻化している。そこで環境対策の一環として、 石炭由来オレフィンや合成天然ガスの生産計画が相次いで打ち出されており、その中で石 炭液化およびMTG プロジェクトも復活した。今回は世界最大の石炭生産・消費国であり、世 界第 2 位の石油消費国でもある中国の MTG プロジェクトを紹介する。 1.中国のエネルギー生産と需給 1-1.中国の原油と石炭生産 中国の 1 次エネルギー生産は、原油も微増しているが、主力の石炭が 2000 年以降に大き く伸びている。 原油生産は、緩やかながら拡大基調にあり、1990 年代に年産 1.6 億トン台に乗り、2004 年に 1.7 億トン、2005 年に 1.8 億トン、2008 年に 1.9 億トン、2010 年で 2 億トンを突破 2015 年度 1.中国のエネルギー生産と需給 1-1.中国の原油と石炭生産 1-2.石油の対外依存度拡大 2.MTG プロジェクト 2-1.中国が進める石炭由来の液体燃料生産 2-2.ExxonMobil の MTG プロセス 2-3.中国国産 MTG プロセス開発 2-4.その他主要 MTG 計画 参考 . メタノールからの芳香族炭化水素製造

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JPEC レポート

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平成27年4月16日

中国で再燃するメタノール・ガソリン(MTG)生産

2015年3月、中石化煉化工程集団有

限公司(SEG)は、石炭を原料としたメタ

ノールから合成ガソリンを製造する

MTG(Methanol-to-Gasoline)に関する

自社独自プロセスを開発し、MTG 商業

プラントを建設した実績を持つ

ExxonMobil Research and Engineering

(EMRE)と共同開発契約に合意した。

すでに中国では、2009年に山西省の

山西晋城無煙煤砿業集団公司が

ExxonMobil のプロセスを使用して年

産10万トンのMTGプラントを建設し、これを同100万トン規模に引き上げることを決定し

ている。

2014年5月には雲南先鋒化工公司が、中国科学院 山西石炭化学研究所 (ICC-CAS) や賽

鼎工程有限公司(SEDIN)と共同で開発したプロセスを使用してMTGプラントを建設した。

成都天成碳一化工有限公司も自社プロセスを開発して2014年から生産を開始している。こ

のほか、中国では多くのMTGプロジェクトが計画されている。

もともとMTG技術はメタノールから芳香族炭化水素を生産(MTA:Methanol-to-Aromatics)

するために研究されていたものであり、すでに中国ではMTA方式による商業プラントが建

設され、また多くの計画も進められている。(P11参照)

中国では昨今 石炭燃焼による大気汚染が深刻化している。そこで環境対策の一環として、

石炭由来オレフィンや合成天然ガスの生産計画が相次いで打ち出されており、その中で石

炭液化およびMTGプロジェクトも復活した。今回は世界最大の石炭生産・消費国であり、世

界第2位の石油消費国でもある中国のMTGプロジェクトを紹介する。

1.中国のエネルギー生産と需給

1-1.中国の原油と石炭生産

中国の1次エネルギー生産は、原油も微増しているが、主力の石炭が2000年以降に大き

く伸びている。

原油生産は、緩やかながら拡大基調にあり、1990年代に年産1.6億トン台に乗り、2004

年に1.7億トン、2005年に1.8億トン、2008年に1.9億トン、2010年で2億トンを突破

2015 年度 第1回

1.中国のエネルギー生産と需給

1-1.中国の原油と石炭生産

1-2.石油の対外依存度拡大

2.MTGプロジェクト

2-1.中国が進める石炭由来の液体燃料生産

2-2.ExxonMobilのMTGプロセス

2-3.中国国産MTGプロセス開発

2-4.その他主要MTG計画

参考.メタノールからの芳香族炭化水素製造

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した。さらに2014年は、2.1億トンまで増加した(2014年は国土資源部発表資料)。これ

は、アジア最大であるのはもちろん、サウジ以外の中東産油国やアフリカ産油国を遙かに

上回る量である。ただ、大慶や勝利など大型油田の生産量がピークを過ぎて下降に向かっ

ており、西部内陸地区および海洋油田の増産はあるが、その増産余力は少なくなっており、

近くピークアウトするものとみられる。

石炭は2000年以降に生産が急増しており、2000年の石油換算6.9億toe(13.8億トン)

から2013年には18.4億 toe(36.8億トン)に達した。これは、全世界の47.4%という巨

大な生産量である(図1参照)。

また、四川省を中心に生産されていた天然ガスは、2000 年まで0.1~0.2億toe程度で

あったが、その後は輸送網の拡充もあって急増し、2013年には1億toeを突破するまで拡

大している。このほか、水力などの再生可能エネルギーも増加してはいるが、1次エネル

ギー生産量全体の中では石炭が圧倒的である。

図1.中国の原油と石炭生産量の推移

1-2.石油の対外依存度拡大

中国は1970 年代から原油輸出国となっていたが、1990 年代に入って急速な経済発展に

伴う国内石油需要の増加で、原油・石油製品とも輸入量が拡大した。1992年に石油製品の

輸入量が輸出量を上回り、1993 年に石油全体として純輸入国に転じた(図2 参照)。その

後、1996年に原油も純輸入国に転じた。2013年に2.8億トンの原油と0.4万トンの石油製

品を輸入し、輸出を差し引き、原油・石油製品合計で2.9億トンの純輸入量を記録した。

2014年の純輸入量は、3.1億トンとさらに拡大している。

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図2.中国の石油(原油・石油製品)輸出入量推移

こうした原油生産量の頭打ちと輸入量拡大で、対外依存度は2009年に初めて警戒ライン

の50%を超えた。対外依存度はその後も上昇し、現在では60%域に達している(図3参照)。

今後は同国の経済成長の鈍化に伴い、石油需要もかつてのような急増はないとみられて

いる。しかし、2014 年まで年産 4,000 万トンの生産量を維持してきた大慶油田は、2015

年から徐々に減産し、次期5カ年計画 最終年の2020年には生産量を同3,200万トンとす

る方針を固めた。同油田では、含水率がすでに93~94vol%に達しており、現状の生産を継

続した場合、早期に経済性を喪失するとされる98vol%に近づくことになるため、今後6年

で同800万トンの減産を決めたものとみられる。このため、これまでかろうじて増産を維

持してきた国内原油生産量が、いよいよ減少に転じる可能性がでている。これにより、同

国の需要拡大が鈍化したとしても、石油の対外依存度は今後も上昇するものとみられる。

図3.中国の石油対外依存度の推移

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2. MTGプロジェクト

2-1.中国が進める石炭由来の液体燃料生産

中国は1980年代から石炭液化に取り組み、1990年代後半には黒龍江省 依蘭県で日本の

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に、雲南省 先鋒でドイツに、陝西省および

内モンゴル自治区 神華で米国にCTL(Coal to Liquid)プラントの立地可能性調査を委託し

実験事業を実施した。その後 天津の実証プラント建設などを経て、神華集団が内モンゴル

自治区で石炭直接液化の商業プラントを建設した。さらに、石炭間接液化についても、

Sasol(南アフリカ)の提案を蹴って、中国科学院 山西石炭化学研究所、伊泰集団、神華集団、

潞安集団、徐州鉱務集団が共同で設立した中科合成油技術有限公司(Synfuels China)が

中国独自技術による実用化に成功した。これにより中国は、石炭直接液化と石炭間接液化

の両プロセスにおいて商業化を実現した世界唯一の国となった。

中国は、こうした石炭直接液化/間接液化の研究開発と並行して、ExxonMobil プロセス

の導入など石炭由来メタノールからガソリンを生産するMTGプロセスの研究も続けてきた。

MTG 商業プラント建設により、中国は石炭からの液体燃料(石油製品)生産において、3

方式の実用化に成功し、国内プロジェクトはもとより、エンジニアリング事業の海外進出

にあたっても技術力を保有した国となった(図4参照)。

図4.石炭からの液体燃料製造フロー

中国は、こうした合成石油製品製造に留まらず、石炭合成ガスを経てメタノールからの

オレフィン製造(MTO:Methanol-to-Olefins)、プロピレン製造(MTP:Methanol-to-Propylene)

および芳香族炭化水素製造(MTA:Methanol-to-Aromatics)する商業プラントも建設した。

また、石炭合成ガスからシュウ酸ジメチル(DMO)を製造し、DMOを還元してモノエチレン

グリコール(MEG)製造するなど、石炭を原料とする石油化学製品の生産する商業プラント

を建設した。なお、MTOはUOP(USA)、MTPはLurgi(独)、MEGは宇部興産からプロセスを導

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入しているが、いずれも並行して国産技術の開発にも成功しており、この分野においても

商業化を進めている(図5参照)。

さらに2012年以降、PM2.5による大気汚染で健康被害が深刻化するなか、石炭燃焼に比

べ環境負荷の低い天然ガス需要が増加し、合成天然ガス(SNG)プロジェクトも計画が続出

するようになった。すでに内モンゴル自治区、新疆ウイグル自治区および遼寧省ではプラ

ントが完成したのに続いて、Johnson Matthey(英)やHaldor Topsoe(デンマーク)のプ

ロセスを導入し、世界的にも例のない数のSNG計画が打ち出されている。

図5.中国が進める石炭から石油製品/石油化学製品への製造フロー

2-2.ExxonMobilのMTGプロセス

MTGプロセスの実用化は、Mobil(現ExxonMobil)によって達成され、中国でも同社のプ

ロセスによりプラントが建設されている。本プロセスは、ZSM-5ゼオライト触媒を使用し

てメタノールをガソリン成分richな液体燃料に転換するプロセスである。

もともとMobilは1960年代にメタノールからの芳香族炭化水素生産の研究を進めていた

が、1970 年代に入って触媒にゼオライト・モレキュラシーブを使用するMTG プロセスの開

発に移行したといわれる。

ちなみに中国では、メタノールからの芳香族炭化水素製造に向けても技術開発が振興さ

れ、清華大学、中国科学院 山西煤炭化学研究所、上海石油化工研究院、北京化工大学など

が開発を進めており、商業プラントが建設されている(P11参照)。

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Mobilは、天然ガスからメタノールを経てガソリンを製造するGTG (Gas to Gasoline)

プロジェクトとして、1986年にニュージーランドで世界初の商業プラントを建設した(図

6参照)。同国は、1次エネルギーの過半を液体燃料の輸入で賄っていたが、オイルショッ

クにより海外支払金額が急増したため、国産天然ガスを利用して液体燃料の自給率アップ

を計画した。1979 年に同国の Liquid Fuel Trust Board は、実用化のメドが立っていた

ExxonMobilのMTGプロセス採用を政府に勧告し、同国 北島の西岸、Motunuiに年産57万

トンのプラント建設を行い、1986年3月から商業運転を開始した。

なおMTGプロセスにおいては、当初 固定床方式および流動床方式の両方式のパイロット

プラントが運転されていたが、規模拡大が容易とされる固定床方式が最終採用された。

図6.ExxonMobilのMTGプロセス

1)晋城無煙煤砿業集団の計画

中国初のMTGプラントは、2009年6月から山西晋城無煙煤砿業集団公司(山西省 国有

資産監督管理委員会が60%強の株式を保有する国有企業)が、ExxonMobilのMTGプロセス

を使用した年産10万トンの実証プラントを建設し運転している。同実証プラントは、石炭

ガス化プラント・メタノールプラントを含んでおり、EPC事業はUhde(独)が担当した。

同集団は、年産 1,000 万トンの炭鉱開発を進めており、石炭を原料とする 400MW×2 基

の石炭ガス化複合発電所(IGCC)、同360万トンのメタノールプラント、同200万トンのク

リーン燃料プラント、同164万トンのファインケミカル品プラント、アンモニア/尿素プラ

ントなどから構成される。これらのプラントは、山西省 晋城市の石炭・電力・石油・化学・

輸送循環経済工業基地に建設される。その第1期計画として、2011年から同100万トンの

MTGプラント建設に着手している。

前段の石炭ガス化にはUhdeのPRENFLOプロセスが採用される。主要原料には、晋城鉱区

から産出される安価な三高炭(硫黄分・灰分・灰溶融点の高い低品位炭)を使用してメタノ

ールを生産する。これをMTGプラントで処理することによりガソリンおよび少量のLPGを

生産するほか、副産品としてテトラメチルベンゼンも生産する。

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ExxonMobilのMTGプロセスは、他の石炭液化プロセスと比較して、ガソリンの得率が87%

以上と高く、生産したガソリンのオクタン価(RON)が92であるため、ほぼこのままでレ

ギュラーガソリンとして使用でき、生産効率・コスト面で優れている。同集団としては、

他の石炭液化プロセスに比べて精製設備の必要性が少ない点を評価してExxonMobilのMTG

プロセスを採用したものとみられる。

2)Sinopecとの流動床MTG技術開発

2015年3月 ExxonMobil Research and Engineering(EMRE)とSinopec傘下のEPC業者

である中石化煉化工程集団有限公司(SEG)は、流動床方式のMTG技術を発展させるための共

同開発契約(CDA)に合意した。両社は、CDAに基づきMTG 技術を商業化するため、MTGお

よび流動床技術分野において双方の専門技術および経験を活用し、全世界での技術ライセ

ンスを行使する目的で技術開発を進めている。現在 両社は、河南省 洛陽市のSEGの研究

施設(旧Sinopec洛陽石油化工工程公司)内でテストプラントの建設を行っている。

MTGプロセスにおいては、反応熱の除去が課題とされてきた。流動床方式を採用すれば熱

移動が高速になるため等温的な反応が可能になり、高い反応効率を得ることが出来る。こ

れに対して固定床方式を採用した場合は、規模拡大が容易だが反応効率は劣るという利

点・欠点がある。

詳細は公表されていないが、ExxonMobilとSinopecは、反応効率に優れ、87%以上のガ

ソリン得率があり、かつより高いオクタン価の製品が得られる流動床方式の商業化を目指

しているものとみられる。

2-3.中国国産MTGプロセス開発

中国におけるMTGプラントのもう一方の方針として国産プロセスによる開発があげられ

る。まず雲南省の雲南先鋒化工有限公司が、中国科学院 山西石炭化学研究所 (ICC-CAS) お

よび中国化学工程集団賽鼎工程有限公司(SEDIN)と共同で開発したプロセスである。2点

目は成都天成碳一化工有限公司が開発したプロセスである。

1)ICC-CAS/SEDINの動向

雲南先鋒化工有限公司がICC-CAS/SEDINと共同開発したMTGプロセスは、固定床一段法

プロセスで、触媒もICCが開発、ガソリンのほか各種石油製品とフェノールなどの石化製

品を生産できる。

同公司は、2007年末から年産3,500トンのテストプラントを稼働し、2009年7月から同

20万トンの商業プラント建設を開始し、さらに2014年5月より合成ガソリンなどの生産

を開始した。

先鋒炭鉱で生産される褐炭の高度利用を目的とする先鋒褐炭クリーン化利用試験モデル

プロジェクトの一環で、年産50万トンの石炭由来メタノールプラントとともに雲南省 昆

明市 尋甸県金所工業園区に建設された。同20万トンのガソリン、同7.8万トンの軽油、

同1.3 万トンのテトラメチルベンゼン、さらにLPG、フェノール、クレゾールなど各種石

油製品と石化製品を合計同47万トン生産できる。なおガソリンは、オクタン価(RON)93の

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硫黄分やベンゼン含有の少ないクリーンな高品質ガソリンが生産できている。さらに、軽

油も硫黄分が少なくなった製品が生産できている。

なお同公司は、2009年7月に先鋒炭の高度利用を目的に雲南解化清潔能源開発有限公司

と雲南省工業投資有限公司が共同設立した。

2)成都天成碳一化工有限公司の動向

四川省の成都天成碳一化工有限公司は、1980 年代からMTG プロセスの研究を開始した。

同公司は、高活性・高選択性触媒を開発し独自技術を確立した。2014年5月から年産6万

トンのモデルプラントを操業している。ガソリンの得率は85%以上で、少量のLPGとわず

かなドライガスが副生する。生産したガソリンのオクタン価(RON)93 で、そのまま自動車

用燃料として使用できる。

2-4.その他主要MTG計画

晋煤集団、雲南先鋒化工有限公司、成都天成碳一化工有限公司のほか、ここ数年で多く

のMTGプロジェクトが発表されている(図7、表1参照)。

図7.主要MTGプラントの立地

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表1.稼働中および建設/計画中の主要MTGプラント

新疆新業能源化工公司は、新疆ウイグル自治区 五家渠市に年産10万トンのプラントを

建設し、2013年10月に生産を開始した。賽鼎工程有限公司(SEDIN)が自社の一段法プロ

セス使用しEPC業務を担当した。なお、同公司は新疆ウイグル自治区政府の新業国有資産

経営有限責任公司が2009年11月に設立した国有企業である。

甕福(集団)有限責任公司は、貴州省 福泉市の貴州天福化工公司に年産1万トンのガソリ

ン(オクタン価 RON 93)を生産するテストプラントを建設した。将来 大型プラント建設

を計画している。

2013年7月に中国慶華能源集団有限公司(China Kingho)は、内モンゴル自治区 フフホト

市との間で世界最大の石炭由来合成ガソリンやオレフィン製造プラント建設に関する協定

に調印した。本協定によると同集団は、フフホト市のトグト工業地区で年産3,500万トンの

低品位炭改質設備を元に、石炭由来メタノールから同1,000万トン規模のMTGプラント、同500

万トンのメタノール-オレフィン製造(MTO)プラントなどの新石炭化学プロジェクトを進め

るとともに、同300万トンのコールタール水素化深度処理設備や火力発電所(100MW×4基)

を建設する。全面的な完成は、2020年を予定している。投資金額や各プラントに採用する技

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術ライセンスなどの詳細は明らかにされていないが、数百億元規模の巨大プロジェクトで、

各プラントが完成すれば世界最大の新石炭エネルギー化学基地となる。

なお、同集団は1996年に設立され、石炭の開発・生産やコークス生産・石炭化学など石炭

産業をコア事業とする民間企業である。

嘉興浙能石油新能源公司は、江蘇省 嘉興市に SEDIN 固定床一段法プロセスにより年産

10万トンのMTGプラント建設を進めている。なお同公司は、浙江浙能石油新能源公司の子

会社である。

河北豊匯投資集団公司は、内モンゴル自治区 豊鎮市に年産30万トンのMTGプラント建

設を計画しており、2013年9月に着工した。2016年に完成予定で、石炭由来メタノールプ

ラントも建設する。

鶴崗龍嘉煤化工公司は、黒龍江省 鶴崗市循環経済区に年産15万トンのMTGプラント建

設を計画している。同プラントは、2015年に完成する予定。なおメタノールは、コークス

炉ガス(COG)から合成する。

山西福裕煤化公司(山西聯盛能源集団の全額子会社)は、山西省 呂梁市の尚家峪工業園区

に年産20万トンのMTGプラントを建設する。本プラントも2015年に完成する予定。

山西省柳林県森沢煤鋁有限責任公司は、山西省 柳林県に石炭ではなく炭層メタンガス

(CBM)からの年産 30万トンのメタノールプラントを経て同12万トンのMTGプラント建

設を計画している。

香港中華煤気公司(Towngas)は、山西省 運城市の新絳県新絳煤化園区に年産70万トン

のMTGプラント建設を計画している。

このほか、内モンゴル自治区 ウシン旗蘇里格経済開発区や陝西省 咸陽市彬県能源化工

園区管理委員会、陝西省 神木県発展改革局などの各産炭地がMTGプロジェクトの誘致を進

めている。

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参考.メタノールからの芳香族炭化水素製造

中国華電集団公司(陝西省 楡林市)は、華電煤業楡林煤化工基地で、華電集団と清華大学

が共同開発した流動床メタノール・芳香族炭化水素製造(FMTA)プラントが2012年1月に

完成し、2013 年1月の試運転を経て、同年3月に中国石油・化学工業聯合会の専門家の審

査を通過した。これにより中国のMTAプロセスは商業化の段階に入ったとみられる。

前述したように、MTAプロセスは、1960年代にMobilが開発したメタノール・芳香族炭化

水素化技術の研究に始まるが、MobilはMTA技術の商業化へと進むことはなかった。

中国の石炭化学生産プロセスの多くは海外からのライセンスによるものが多いが、この

中で、中国が国を挙げて開発を進めているのがMTAプロセスである。中国では、清華大学

や中国科学院 山西煤炭化学研究所、上海石油化工研究院、北京化工大学がMTAプロセスの

開発を進めている。

表2.中国の主要MTAプロジェクト

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<参考資料>

中国科学院山西石炭化学研究所 http://www.sxicc.cas.cn/

賽鼎工程有限公司 http://www.sedin.com.cn/

成都天成碳一化工有限公司 http://www.cdtcc.cn/

EMRE「Methanol to Gasoline (MTG) Production of Clean Gasoline from Coal」

http://www.exxonmobil.com/Apps/RefiningTechnologies/files/sellsheet_09_mtg_broch

ure.pdf

EMRE 「METHANOL TO GASOLINE (MTG) TECHNOLOGY」

http://www.exxonmobil.com/Apps/RefiningTechnologies/files/2014.1205.GTL.NA.pdf

中国の石油産業と石油化学工業 2014年版(東西貿易通信社)

East & West Report各号(東西貿易通信社)

以上

本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、分析

したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは[email protected]

までお願いします。

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次回の JPECレポート(2015年度 第2回)は「世界のタンカー輸送のチョークポイント」

を予定しています。