国内ゲーム市場における市場集中度と...

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2017 年度 卒業論文 国内ゲーム市場における市場集中度と 間接ネットワーク効果 慶應義塾大学 経済学部 石橋孝二研究会 18 期生 大野 将之

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2017 年度 卒業論文

国内ゲーム市場における市場集中度と 間接ネットワーク効果

慶應義塾大学 経済学部

石橋孝二研究会 第 18 期生

大野 将之

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ii

はしがき

日本に限らずゲーム市場では、様々なゲーム機が世代交代を繰り返しながら競争して

きた。各世代では、他の同世代のゲーム機と比べたくさん売れた「勝者」と、あまり売

れなかった「敗者」が存在する。前田 (2014) では、2005 年ごろから 2012 年ごろまで

の Wii と PlayStation3 と XBOX360 による競争を「第 5 次ゲーム機戦争」と位置づけ

た。この競争において、全世界の Wii、PlayStation3、XBOX360 の販売台数は、それ

ぞれ 1 億 90 万台、8000 万台、8000 万台、シェアは 36.6%, 30.7%, 30.7%となり、あ

まり勝者や敗者は生まれなかったといえる。一方で日本国内に限れば、全世界の Wii、

PlayStation3、XBOX360 の販売台数は、それぞれ 1275 万台、884 万台、159 万台、

シェアは 55.0%, 38.1%, 6.9%となり、Wii が勝者となり XBOX360 が敗者となったとい

える。

世界全体では 3 つのゲーム機のシェアはほぼ差がなかったという結果に対し、日本で

はシェアに勝者と敗者が生まれたという結果になったことに着目し、本論文では、国内

ゲーム機市場において Wii が勝者となり XBOX360 が敗者となった原因について、ゲ

ーム機市場が二面性市場であることに着目し、市場に働いている間接ネットワーク効果

に焦点を当てて分析を行った。

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目次 序章・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

第1章 現状分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

1.1 ゲームの分類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

1.2 日本における据え置きゲームの変遷・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

1.3 各ハードウェアの性能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

1.4 日本の据え置きゲーム機のシェアと世界のシェア・・・・・・・・・・・・・4

1.5 購入を遅らせる理由・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

第2章 間接ネットワーク効果の下における市場集中度・・・・・・・・・・・・・7

2.1 据え置きゲーム市場での間接ネットワーク効果・・・・・・・・・・・・・・7

2.2 間接ネットワーク効果が市場集中度に与える影響・・・・・・・・・・・・・7

2.3 間接ネットワーク効果が市場集中度に与える影響の測定・・・・・・・・・・8

第3章 モデルと均衡・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

3.1 単純な 2 期間モデルの例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

3.2 ソフトウェア企業の決定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

3.3 消費者の決定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

3.4 企業の選択・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

3.5 均衡・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

第4章 実証分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 4.1 先行研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 4.1.1 Clements and Ohashi (2005) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 4.1.2 Dubé et al. (2010) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 4.1.3 Binken and Stremersch (2009) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32 4.2 データ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34 4.3 静的なモデルにおける実証分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34 4.4 動的なモデルにおける実証分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39

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第5章 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47

参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48

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序章

据え置きゲーム市場における実証分析は比較的多くあるが、最新の競争である Wii 対

PlayStation3 対 XBOX360 における実証分析はあまり見られなかった。そこで、Wii、

PlayStation3、XBOX360 の、国内の最新のデータを用いて据え置きゲーム市場におけ

る実証分析を行うことが、この論文の意義と考え執筆をした。

本論文の構成は以下の通りである。第 1 章では、国内据え置きゲーム市場における現

状分析を行い、調査や統計をもとに国内据え置きゲームの現状や消費者の動向を探った。

第 2 章では、Stremerch et al. (2007) や、Dubé et al. (2010) で議論された間接ネット

ワーク効果が市場集中度に与える影響についての理論分析を行った。第 3 章では、Nair

(2009) や、Dubé et al. (2010) で議論された動的な市場モデルを用いて理論分析を行っ

た。第 4 章では、Clements and Ohashi (2005) で議論された静的なモデルを用いて実

証分析を行った。また、Stremersch (2009) の結果をふまえながら、Dubé et al. (2010)

で議論された動的なモデルを用いて実証分析を行った。第 5 章では、第 4 章で行った実

証分析の結果について、結論を述べ、考察を行った。

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第1章 現状分析

本章では、国内ゲーム市場における現状を、調査や統計をもとに分析する。

1.1 ゲームの分類

CESA ゲーム白書(2012)で用いられたゲームの分類について、図 1-1 にまとめた。

図 1-1 ゲームの分類

出所:CESA ゲーム白書 (2012) より作成

据え置き型ゲームや携帯型ゲームなどの家庭用ゲームについてのデータが手に入りや

すかった。また、据え置き型ゲーム市場と携帯型ゲーム市場は別の市場であり、携帯ゲ

ーム市場の潜在需要者数の設定が難しいと考えたため、本論文では家庭用ゲームの据え

置き型ゲームに焦点を当てて分析を行った。

1.2 日本における据え置きゲームの変遷

日本における主な据え置きゲームの年表を、表 1-1 にまとめた。用いたデータセット

ゲーム

ソフトウェアコンテンツ非交換

ソフトウェアコンテンツ交換型

業務用ゲーム

業務用テレビゲーム

クレーン&景品ゲーム

メダルゲーム

その他

パソコン用

ゲーム

家庭用ゲーム

据え置き型ゲーム

携帯型ゲーム

スマホゲーム

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では、十分な期間のデータを得ることができたハードウェアは XBOX、PS3、Wii の 3

つであった。よって本論文では、XBOX360 が発売してから、Wii の次世代機の WiiU

が発売するまでの 2005 年 12 月から 2012 年 11 月における、XBOX、PS3、Wii の 3 つ

のハードウェアを分析の対象とした。

表 1-1 国内の主なゲームハードの年表

ハードウェア名 メーカー 発売日 ファミリーコンピューター 任天堂 1980 年 7 月 SG-1000 セガ 1983 年 7 月 PV-1000 カシオ 1983 年 10 月 セガ・マーク III セガ 1985 年 10 月 PC エンジン NEC ホームエレクトロニクス 1987 年 10 月 メガドライブ セガ 1988 年 10 月 スーパーファミコン 任天堂 1990 年 11 月 3DO 3DO 1994 年 3 月 セガサターン セガ 1994 年 11 月 PlayStation ソニー 1994 年 12 月 バーチャルボーイ 任天堂 1995 年 7 月 Nintendo64 任天堂 1996 年 6 月 ドリームキャスト セガ 1998 年 11 月 PlayStation2 ソニー 2000 年 3 月 ニンテンドーゲームキューブ 任天堂 2001 年 9 月 Xbox マイクロソフト 2002 年 2 月 Xbox360 マイクロソフト 2005 年 12 月 PlayStation3 ソニー 2006 年 11 月 Wii 任天堂 2006 年 12 月 WiiU 任天堂 2012 年 12 月 PlayStation4 ソニー 2014 年 2 月 XboxOne マイクロソフト 2014 年 9 月

1-3 各ハードウェアの性能

Wii、PS3、XBOX360 の各ハードウェアの性能について表 1-2 にまとめた。CPU は

ハードウェア内で演算を行う装置であり、3.2GHz だと 1 秒間に CPU の回路が 32 億

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回動作することになる。GPU はハードウェア内でグラフィック関係の処理を行う装置

であり、500MHz だと 1 秒間に GPU の回路が 5 億回動作することになる。メモリは

CPU から直接アクセスできる記憶装置であり、その容量を表にまとめた。Wii に関し

ては公式サイトで正式な値を公表していなかった。PS3 と XBOX360 に関しては、ハー

ドウェアの性能はほとんど同じであることがわかる。

表 1-2 各ハードウェアの主な性能

ハードウェア 発売元 CPU GPU メモリ

Wii 任天堂 − − −

PS3 ソニー 3.2GHz 500MHz 512MB

XBOX360 マイクロソフト 3.2GHz 500MHz 512MB

1-4 日本の据え置きゲーム機のシェアと世界のシェア

3 つの据え置きゲーム機のハードウェア Wii、PS3、Xbox について、日本やアメリカ

などの、各国の販売台数におけるシェアを表 1-3 にまとめた。データは 2011 年のもの

で、ファミ通ゲーム白書(2012)による。日本では、Xbox のシェアは 5%のみで、3 つ

のハードウェアの中でシェア最下位であった。一方、アメリカ、カナダ、イギリスでは、

それぞれ Xbox のシェアは 45%、38%、44%で、シェア一位であった。その他の国でも、

Xbox のシェアは、他のハードウェアとおおむね同じシェアであった。日本のみが、Xbox

のシェアが非常に低いことが分かった。

1.5 購入を遅らせる理由

ファミ通ゲーム白書(2014)が行った、「PS4 購入意向を示しながら購入時期は半年

以上先に延ばす理由」の調査の結果を、表 1-4 まとめた。調査は 2014 年 3 月に行われ

た。理由は複数個回答可能で、理由のうち一つを最大の理由とした。63%の人が、「価

格が高いから」を理由に選んだ。また、41%、35%の人が、それぞれ「遊びたいゲーム

ソフトがまだ発売・発表されていないから」、「発売・発表されているゲームソフトラインナ

ップにまだ魅力がないから」と、ソフトウェアタイトル数の少なさを理由に選んだ。このこ

とから、ハードウェアの価格の高さ、ハードウェアの対応するソフトウェアタイトル数によ

って、消費者はハードウェアの購入を遅らせる決断をすることが分かった。

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表 1-3 Wii、PS3、Xbox のシェア ハードウェア 販売台数(台) シェア(%)

日本 Wii 337,451 37 PS3 1,467,261 58 XBOX 114,075 5

アメリカ Wii 4,397,868 27 PS3 4,423,437 28 XBOX 7,236,027 45

カナダ Wii 360,186 27 PS3 476,778 35 XBOX 514,254 38

イギリス Wii 635,664 24 PS3 840,582 28 XBOX 1,170,960 44

フランス Wii 746,648 36 PS3 814,184 39 XBOX 521,528 25

ドイツ Wii 641130 35 PS3 785,610 42 XBOX 424,410 23

スカンジナビ

Wii 125,349 22 PS3 272,923 47 XBOX 183,134 31

ベネルクス Wii 280,030 35 PS3 366,088 46 XBOX 154,358 19

イタリア Wii 566,514 45 PS3 400,140 32 XBOX 282,204 23

スペイン・ポ

ルトガル

Wii 482,274 42 PS3 480,168 41 XBOX 200,070 17

出所:ファミ通ゲーム白書(2012)より作成

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表 1-4 「PS4 購入意欲を示しながら購入時期は半年以上先に延ばす理由」の調査結果

最大の理由

に選んだ人

の割合(%)

理 由 に 選

ん だ 人 の

割合(%) 価格が高いから 33 63 遊びたいゲームソフトがまだ発売・発表さ

れていないから 19 41

発売・発表されているゲームソフトライン

ナップにまだ魅力がないから 14 35

生活スタイルが変わってゲームを遊ぶ時間

がしばらくとれそうにないから 8 17

発売後間もないうちは、不具合などの問題

が起こりそうだから 4 20

購入できるタイミングがまだ先だから 3 13 すでに買った人の評判・評価をしっかりと

確認してから購入したいから 3 11

先に優先して解体ゲームソフト・ゲーム機

があるから(スマホを含む) 2 9

まだ、流行っている感じがしないから 1 9 実際に触ってから具体的に購入するかどう

かを決めたいから 1 7

まだ、友人・知人が購入していないから 0 3 出所:ファミ通ゲーム白書(2014)より作成

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第 2 章 間接ネットワーク効果の下における市場集中度

本章では、間接ネットワーク効果の影響下での市場集中度について、主に Dubé et al.

(2010) に従って分析する。

2.1 据え置きゲーム市場での間接ネットワーク効果

据え置きゲーム市場では、ゲームソフトをプレイするゲーム機(ハードウェア)と、

ゲームソフト(ソフトウェア)の 2 つの補完財が存在する。本論文では、3 つのハード

ウェアである Wii、PS3、Xbox が競争しているとする。それぞれ任天堂、ソニー、マイ

クロソフトの 3 つの独立した企業が供給している。データの制約上、消費者は single-

homing であると仮定する。ソフトウェア市場は独占的競争を行っていると仮定する。

各ハードウェアでソフトウェアは互換性がないとする。各ハードウェアの installed

base の数が増えるほど、ハードウェアのソフトウェアタイトル数は上昇すると仮定す

る。消費者のハードウェアに対する効用が、ハードウェアで有効なソフトウェアタイト

ル数で上昇するとする。

このとき、Stremerch et al. (2007) によれば、あるハードウェアの installed base が

上昇すれば、ハードウェアで有効なソフトウェアタイトル数が上昇し、そのハードウェ

アで消費者の支払い意志が上昇し、さらに installed base が上昇する。このように、ハ

ードウェアの需要とソフトウェアの供給が相互作用し、消費者とハードウェアの間で間

接ネットワーク効果が生まれる。

この据え置きゲーム市場では、installed base の数が増加するほど、ハードウェアそ

のものの価値が上昇するような、直接ネットワーク効果は発生していないものとする。

2.2 間接ネットワーク効果が市場集中度に与える影響

2 つの対称な企業が、互換性の無い耐久財のハードウェアで競争している市場を考え

る。市場は離散時間(𝑡𝑡 = 0,1,2, …)とする。各期に消費者はどちらの企業から購入するか、

あるいは購入しないかを決定する。ハードウェア 1,2 の installed base をそれぞれ𝑦𝑦1,𝑦𝑦2とする。消費者の総量を 1 とする。0 ≤ 𝑦𝑦1,𝑦𝑦2 ≤ 1となる。初期 installed base 量を𝑦𝑦0と

する。このときの installed base の成長を示したものが、図 2-1 である。図の横軸は企

業 1 の installed base の量であり、縦軸は企業 2 の installed base の量である。図内の

各点𝑦𝑦𝑡𝑡 = (𝑦𝑦1𝑡𝑡 ,𝑦𝑦2𝑡𝑡)は、t期におけるそれぞれの企業の installed baseの量を示している。

図の初期 installed base の量𝑦𝑦0では、ハードウェア 1 のみが installed base をわずかに

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図 2-1 間接ネットワーク効果と市場の成長

出所:Dubé et al. (2010) より作成

確保している。もし市場に間接ネットワーク効果が存在しないとすると、2 企業は対称

なので図の線 A のような 45 度線に沿って installed base が成長していくと考えらえ

る。一方、市場に間接ネットワーク効果が存在しているとすると、installed base が多

いハードウェアほど、そのハードウェアで有効なソフトウェアタイトル数が増えて、そ

のハードウェアの価値が上昇するため、ハードウェア 2 にくらべてハードウェア 1 の

消費者の採用確率が上昇する。結果として installed base の成長は、図の線 B のような

ハードウェア 1 に偏ったものとなると考えられる。よって、間接ネットワーク効果は各

ハードウェアの市場集中度に大きく影響を与えるということがいえる。

2.3 間接ネットワーク効果が市場集中度に与える影響の測定

Dubé et al. (2010) に従って、間接ネットワーク効果が市場集中度に与える影響を以

下のように測定する。t 期におけるハードウェア j の installed base のシェア𝜌𝜌𝑗𝑗𝑡𝑡を式

(2.1)で定める。

1

1

𝑦𝑦2

𝑦𝑦1

𝐴𝐴

𝐵𝐵 𝑦𝑦1𝐴𝐴

𝑦𝑦3𝐴𝐴

𝑦𝑦1𝐵𝐵 𝑦𝑦3𝐵𝐵

𝑦𝑦2𝐴𝐴 𝑦𝑦2𝐵𝐵

𝑦𝑦0

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𝜌𝜌𝑗𝑗𝑡𝑡 ≡

𝑦𝑦𝑗𝑗,𝑡𝑡+1

∑ 𝑦𝑦𝑗𝑗,𝑡𝑡+1𝑗𝑗 (2.1)

ここで、𝑦𝑦𝑗𝑗,𝑡𝑡+1はハードウェア j の t 期の終わりにおける installed base である。T 期に

おける一社集中度を式(2.2)で定める。

𝒞𝒞(𝑦𝑦𝑇𝑇) = max𝑗𝑗�𝜌𝜌𝑗𝑗𝑇𝑇�𝑗𝑗=1

𝐽𝐽 (2.2)

𝛩𝛩をモデルのパラメーターとする。これには、消費者の価格に関する選好のパラメータ

ー𝛼𝛼や、ソフトウェアのバラエティに関する選好のパラメーター𝛾𝛾などが含まれる 1。

ℰ(𝛩𝛩)を𝛩𝛩における均衡とする。𝛩𝛩、ℰ(𝛩𝛩)、需要のショック{𝜉𝜉𝑡𝑡}𝑡𝑡=1𝑇𝑇 が与えられたとき、

{𝑦𝑦𝑡𝑡}𝑡𝑡=1𝑇𝑇 の分布は well-defind となる。このとき、期待一社集中度を式(2.3)で定める。

𝐶𝐶1�𝛩𝛩, ℰ(𝛩𝛩)� ≡ 𝐸𝐸(𝒞𝒞(𝑦𝑦𝑇𝑇)|𝛩𝛩,ℰ(𝛩𝛩)) (2.3)

𝛩𝛩′を、𝛩𝛩について間接ネットワーク効果の強さのパラメーター𝛾𝛾の値を変化させたもの

とする。このとき、間接ネットワーク効果が市場集中度に与える変化分を式(2.4)で定め

る。

∆𝐶𝐶1 = 𝐶𝐶1�𝛩𝛩,ℰ(𝛩𝛩)� − 𝐶𝐶1�𝛩𝛩′,ℰ(𝛩𝛩′)� (2.4)

この∆𝐶𝐶1の値を見ることにより、間接ネットワーク効果が市場集中度に与える影響をみ

る。例えば、対称な 2 社による競争で間接ネットワーク効果がなかった(𝛾𝛾 = 0)とした

ときの∆𝐶𝐶1は、∆𝐶𝐶1 = 𝐶𝐶1�𝛩𝛩, ℰ(𝛩𝛩)� − 0.5となる。

本論文の実証分析では Wii、PS3、XBOX360 の 3 つのハードウェアにおいて分析を

行ったので、上位 1 位のハードウェアの期待一社集中度𝐶𝐶1�𝛩𝛩,ℰ(𝛩𝛩)�、上位 2 位のハー

ドウェアの期待一社集中度𝐶𝐶2�𝛩𝛩, ℰ(𝛩𝛩)�、上位 3 位のハードウェアの期待一社集中度

𝐶𝐶3�𝛩𝛩, ℰ(𝛩𝛩)�の 3 つを求めた。

1 このとき、γは間接ネットワーク効果の強さのパラメーターとなる。

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第 3 章 モデルと均衡

本章では、Nair (2009), Dubé et al. (2010) に従って、多期間耐久財プラットフォー

ム競争のモデルを構築する。また、そのモデルにおける均衡について分析する。

3.1 単純な 2 期間モデルの例

Nair (2009) に従って、単純な 2 期間モデルを構築し、動的なモデルにおける企業の

決定についてみる。独占企業が限界費用 0 で耐久財を供給しているとする。消費者の総

量を 1 とする。消費者の耐久財に対する価値は[0, �̅�𝑣]の一様分布とする。企業の割引因

子を𝛽𝛽𝑓𝑓とし、消費者の割引因子を𝛽𝛽とする。市場は 2 期間とする。企業の価格決定問題

と消費者のふるまいは共有知識であるとする。企業は 1 期目の耐久財の価格を𝑝𝑝1、2 期

目の耐久財の価格を𝑝𝑝2に設定する。1 期目に購入するときの効用と 2 期目を待って購入

するときの効用が同じ消費者である、marginal consumer の耐久財に対する価値𝑣𝑣1∗に

ついて式(3.1)が成立する。

𝑣𝑣1∗ − 𝑝𝑝1 = 𝛽𝛽(𝑣𝑣1∗ − 𝑝𝑝2𝑒𝑒) ≥ 0 (3.1)

ここで、等号の左辺が 1 期目に購入するときの効用で、右辺が 2 期目に購入するときの

1 期目における割引期待効用である。𝑝𝑝2𝑒𝑒は消費者が予測する 2 期目の価格である。消費

者の合理的期待を仮定すると、𝑝𝑝2𝑒𝑒 = 𝑝𝑝2となり、式(3.1)を𝑣𝑣1∗について解くと𝑣𝑣1∗ = 𝑝𝑝1−𝛽𝛽𝑝𝑝21−𝛿𝛿

となる。2 期目でまだ購入していない消費者の耐久財に対する価値の範囲は[0, v1∗)とな

る。𝑣𝑣1∗ − 𝑝𝑝2 ≥ 0となる消費者が 2 期目で購入するので、2 期目の需要は𝑣𝑣1∗−𝑝𝑝2𝑣𝑣�

となる。こ

こで、1 期目の価格𝑝𝑝1が減少すると、2 期目における潜在需要𝑣𝑣1∗が減少し、結果として

2 期目の需要も減少することがわかる。企業は 2 期目の価格𝑝𝑝2を 2 期目における利潤を

最大化させるように設定するので、最適な𝑝𝑝2は式(3.2)で表される𝑝𝑝1の関数となる。

𝑝𝑝2(𝑝𝑝1) = 𝑎𝑎𝑎𝑎𝑎𝑎𝑚𝑚𝑎𝑎𝑚𝑚𝑝𝑝2

�𝑝𝑝2𝑣𝑣1∗ − 𝑝𝑝2

�̅�𝑣 � =𝑝𝑝12

(3.2)

企業は 1 期目の価格𝑝𝑝1を 1 期目の利潤と 2 期目の割引現在価値の合計を最大化させる

ように設定するので、最適な𝑝𝑝1は式(3.3)となる。

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𝑝𝑝1 = 𝑎𝑎𝑎𝑎𝑎𝑎𝑚𝑚𝑎𝑎𝑚𝑚

𝑝𝑝1�𝑝𝑝1

�̅�𝑣 − 𝑣𝑣1∗

�̅�𝑣+ 𝛽𝛽𝑓𝑓𝑝𝑝2(𝑝𝑝1)

𝑣𝑣1∗ − 𝑝𝑝2�̅�𝑣 � =

2�̅�𝑣(1− 𝛽𝛽)4 − 3𝛽𝛽𝑓𝑓

(3.3)

ここで、𝑣𝑣�−𝑣𝑣1∗

𝑣𝑣�が 1 期目の耐久財の需要で、

𝑣𝑣1∗−𝑝𝑝2𝑣𝑣�

が 2 期目の耐久財の需要である。よって、

均衡では𝑝𝑝2 < 𝑝𝑝1となり、企業は 2 期目で価格を下落させることがわかる。均衡では、

利潤の期待割引現在価値は𝜋𝜋 = 𝑣𝑣�(1−𝛽𝛽)4−3𝛽𝛽𝑓𝑓

となり、これは𝛽𝛽の減少関数であり、消費者が近視

眼的であるほど(𝛽𝛽が 0 に近づくほど)、企業の期待利潤は増加することがわかる。次節

からは、Nair (2009) ,Dubé et al. (2010) に従って、ソフトウェア企業の決定を踏まえ

た多期間の動的モデルを構築する。

3.2 ソフトウェア企業の決定

Dubé et al. (2010) に従って、ソフトウェア企業の決定についてのモデルを構築する。

各消費者はソフトウェアに対して CES 型の選好を持つとする。ハードウェア j を購入

した消費者 i は、t 期におけるハードウェア j で有効な𝑛𝑛𝑗𝑗𝑡𝑡個のソフトウェアを𝑚𝑚𝑖𝑖𝑡𝑡 =

(𝑚𝑚𝑖𝑖1𝑡𝑡 , … , 𝑚𝑚𝑖𝑖𝑛𝑛𝑗𝑗𝑗𝑗𝑡𝑡)′購入するとする。𝑚𝑚𝑖𝑖𝑡𝑡は式(3.4)の制約条件付き最大化問題の解である。

max�𝑥𝑥1,…,𝑥𝑥𝑛𝑛𝑗𝑗𝑗𝑗�

𝑈𝑈𝑖𝑖𝑗𝑗𝑆𝑆𝑆𝑆 �𝑚𝑚𝑖𝑖1, … , 𝑚𝑚𝑖𝑖𝑛𝑛𝑗𝑗𝑗𝑗 , 𝑧𝑧𝑗𝑗�

s. t. �𝜌𝜌𝑘𝑘𝑚𝑚𝑖𝑖𝑘𝑘 + 𝑧𝑧𝑖𝑖 = 𝐼𝐼𝑖𝑖 − 𝑝𝑝𝑗𝑗𝑡𝑡𝑄𝑄𝑖𝑖𝑗𝑗𝑡𝑡

𝑛𝑛𝑗𝑗𝑗𝑗

𝑘𝑘=1

(3.4)

ここで、𝑝𝑝𝑗𝑗𝑡𝑡は t 期におけるハードウェア j の価格である。𝑄𝑄𝑖𝑖𝑗𝑗𝑡𝑡は指示関数であり、消費

者 i が t 期にハードウェア j を購入したとき 1 をとり、それ以外の時は 0 をとる。𝜌𝜌𝑘𝑘は

ソフトウェア k の価格である。𝑧𝑧𝑖𝑖は価値尺度財である。𝑈𝑈𝑖𝑖𝑗𝑗𝑆𝑆𝑆𝑆 �𝑚𝑚𝑖𝑖1, … , 𝑚𝑚𝑖𝑖𝑛𝑛𝑗𝑗𝑗𝑗 , 𝑧𝑧𝑗𝑗�はソフトウ

ェアからの効用であり、式(3.5)の形をとる。

𝑈𝑈𝑖𝑖𝑗𝑗𝑆𝑆𝑆𝑆 �𝑚𝑚𝑖𝑖1, … , 𝑚𝑚𝑖𝑖𝑛𝑛𝑗𝑗𝑗𝑗 , 𝑧𝑧𝑖𝑖� = ��𝑚𝑚𝑖𝑖𝑘𝑘1/𝑏𝑏

𝑛𝑛𝑗𝑗𝑗𝑗

𝑘𝑘=1

1/𝑎𝑎

+ 𝛼𝛼𝑧𝑧𝑖𝑖 𝑎𝑎 ≥ 1, 𝑏𝑏 > 1 (3.5)

式(3.1)を解くと、t 期における消費者の最適なソフトウェア k の需要関数𝑚𝑚𝑖𝑖𝑡𝑡は式(3.6)と

なる。

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𝑚𝑚𝑘𝑘𝑡𝑡∗ = (𝑎𝑎𝑏𝑏𝛼𝛼)𝑎𝑎𝑏𝑏/(1−𝑎𝑎𝑏𝑏)𝜌𝜌𝑘𝑘

𝑏𝑏/(1−𝑏𝑏) ��𝜌𝜌𝑙𝑙1/(1−𝑏𝑏)

𝑛𝑛𝑗𝑗𝑗𝑗

𝑙𝑙=1

(𝑎𝑎𝑏𝑏−𝑏𝑏)/(1−𝑎𝑎𝑏𝑏)

(3.6)

消費者はソフトウェアから 1 期のみ効用を得られると仮定する。𝑦𝑦𝑗𝑗𝑡𝑡+1を t 期の終わ

りにおいてハードウェア j を採用した installed base の数とする。𝑦𝑦𝑗𝑗𝑡𝑡+1は t におけるハ

ードウェア j におけるソフトウェアの潜在需要となる。それぞれのソフトウェアは別々

の企業が供給しているものとして扱う。t 期においてハードウェア j にソフトウェアを

提供しているソフトウェア企業 k の利潤関数πktは式(3.7)で表せる。

𝜋𝜋𝑘𝑘𝑡𝑡 = (𝜌𝜌𝑘𝑘 − 𝑐𝑐)𝑦𝑦𝑗𝑗𝑡𝑡+1𝑚𝑚𝑘𝑘𝑡𝑡∗ − 𝐹𝐹 (3.7)

ここで、F は固定費用である。c はロイヤリティや製造費用などの限界費用である。ソ

フトウェア企業は対称であると仮定すると、均衡価格は式(3.8)となり、対称となる。

ρ = αc (3.8)

また対称性より、式(3.6)の需要関数は式(3.9)のように書き直せる。

𝑚𝑚𝑘𝑘𝑡𝑡∗ = (𝑎𝑎𝑏𝑏𝛼𝛼𝜌𝜌)𝑎𝑎𝑏𝑏/(1−𝑎𝑎𝑏𝑏)𝑛𝑛𝑗𝑗𝑡𝑡(𝑎𝑎𝑏𝑏−𝑏𝑏)/(1−𝑎𝑎𝑏𝑏) (3.9)

自由参入を仮定すると、式(3.7)の利潤関数は𝜋𝜋𝑘𝑘𝑡𝑡 = 0となるので、t 期におけるハードウ

ェア j のソフトウェア数𝑛𝑛𝑗𝑗𝑡𝑡について解くと式(3.10)で表される。

log�𝑛𝑛𝑗𝑗𝑡𝑡� = 𝜅𝜅 + 𝜆𝜆log (𝑦𝑦𝑗𝑗𝑡𝑡 + 1) (3.10)

ここで、𝜅𝜅, 𝜆𝜆は式(3.11),(3.12)で表される。

𝜅𝜅 =𝑎𝑎𝑏𝑏 − 1𝑎𝑎𝑏𝑏 − 𝑏𝑏

log(𝜌𝜌 − 𝑐𝑐)𝐹𝐹(𝑎𝑎𝑏𝑏𝛼𝛼𝜌𝜌)𝑎𝑎𝑏𝑏/(𝑎𝑎𝑏𝑏−1)

=𝑎𝑎𝑏𝑏 − 1𝑎𝑎𝑏𝑏 − 𝑏𝑏

log(𝑐𝑐(𝛼𝛼 − 1))𝐹𝐹(𝑎𝑎𝑏𝑏𝛼𝛼2𝑐𝑐)𝑎𝑎𝑏𝑏/(𝑎𝑎𝑏𝑏−1)

(3.11)

𝜆𝜆 =

𝑎𝑎𝑏𝑏 − 1𝑎𝑎𝑏𝑏 − 𝑏𝑏

(3.12)

式(3.9)の、消費者の t 期におけるソフトウェア k の需要関数𝑚𝑚𝑘𝑘𝑡𝑡∗ を、式(3.10)を用いて書

き直すと、式(3.13)で表せる。

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𝑚𝑚𝑘𝑘𝑡𝑡∗ = (𝑎𝑎𝑏𝑏𝛼𝛼𝜌𝜌)𝑎𝑎𝑏𝑏/(1−𝑎𝑎𝑏𝑏)𝑛𝑛𝑗𝑗𝑡𝑡

(𝑎𝑎𝑏𝑏−𝑏𝑏)/(1−𝑎𝑎𝑏𝑏)

= (𝑎𝑎𝑏𝑏𝛼𝛼2𝑐𝑐)𝑎𝑎𝑏𝑏/(1−𝑎𝑎𝑏𝑏)�exp(𝜅𝜅)𝑦𝑦𝑗𝑗𝑡𝑡+1𝜆𝜆 �−1/𝜆𝜆

= (𝑎𝑎𝑏𝑏𝛼𝛼2𝑐𝑐)𝑎𝑎𝑏𝑏/(1−𝑎𝑎𝑏𝑏) �exp �−𝜅𝜅𝜆𝜆�� 𝑦𝑦𝑗𝑗𝑡𝑡+1−1

(3.13)

式(3.13)は 1 消費者の需要関数であり、これをソフトウェア k の市場における消費者全

体で集計したものを𝑋𝑋𝑘𝑘𝑡𝑡∗ とすると、t 期におけるソフトウェア k の集計需要関数𝑋𝑋𝑘𝑘𝑡𝑡∗ は式

(3.14)で表される。 𝑋𝑋𝑘𝑘𝑡𝑡∗ = 𝑚𝑚𝑘𝑘𝑡𝑡∗ yjt+1

= (𝑎𝑎𝑏𝑏𝛼𝛼2𝑐𝑐)𝑎𝑎𝑏𝑏/(1−𝑎𝑎𝑏𝑏) exp �−𝜅𝜅𝜌𝜌�

(3.14)

t 期におけるハードウェア j で有効な𝑛𝑛𝑗𝑗𝑡𝑡個のソフトウェア全体の売り上げは、これを用

いて式(3.15)で表せられる。

𝑄𝑄𝑗𝑗𝑡𝑡 = �𝑋𝑋𝑘𝑘𝑡𝑡∗𝑛𝑛𝑗𝑗𝑗𝑗

𝑘𝑘=1

= 𝑛𝑛𝑗𝑗𝑡𝑡 �(𝑎𝑎𝑏𝑏𝛼𝛼2𝑐𝑐)𝑎𝑎𝑏𝑏/(1−𝑎𝑎𝑏𝑏) exp �−𝜅𝜅𝜌𝜌��

= �exp(𝜅𝜅) 𝑦𝑦𝑗𝑗𝑡𝑡+1𝜆𝜆 � �(𝑎𝑎𝑏𝑏𝛼𝛼2𝑐𝑐)𝑎𝑎𝑏𝑏/(1−𝑎𝑎𝑏𝑏) exp �−𝜅𝜅𝜌𝜌��

= exp�𝜅𝜅(1 − 𝜆𝜆)

𝜆𝜆 � (𝑎𝑎𝑏𝑏𝛼𝛼2𝑐𝑐)𝑎𝑎𝑏𝑏/(1−𝑎𝑎𝑏𝑏)𝑦𝑦jt+1𝜆𝜆

(3.15)

式(3.15)で両辺の対数をとると、式(3.16)で表せられる。

log�𝑄𝑄𝑗𝑗𝑡𝑡� = 𝜙𝜙 + 𝜆𝜆 log�𝑦𝑦𝑗𝑗𝑡𝑡+1� (3.16)

ここで、𝜙𝜙は式(3.17)となる。

𝜙𝜙 =𝜅𝜅(1 − 𝜆𝜆)

𝜆𝜆+

ab1 − ab

log (abα2c) (3.17)

よって、t 期のハードウェア j の総ソフトウェアタイトル数を、式(3.16)の形で推定する

ことができる。

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14

3.3 消費者の決定

Nair (2009), Dubé et al. (2010) に従って、消費者の決定についてモデルを構築する。

t 期のハードウェア j の需要のショック𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡は i.i.d.とする。𝜙𝜙𝑗𝑗(⋅)を𝜉𝜉𝑗𝑗の p.d.f.とする。𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡はハードウェア j の企業の私的情報である。ゲームは以下のように進行する。

1 ハードウェア企業 j は𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡を知り、ハードウェアの価格𝑝𝑝𝑗𝑗𝑡𝑡を設定する。

2 消費者はハードウェアのうち一つを購入、あるいは購入を遅らせる選択をする。 3 各ハードウェア j で、ソフトウェア企業は𝑛𝑛𝑗𝑗𝑡𝑡のソフトウェアを供給。

4 ハードウェア企業は利潤を受け取る。 消費者の installed base の予測は𝑦𝑦𝑡𝑡+1 = 𝑓𝑓𝑒𝑒(𝑦𝑦𝑡𝑡, 𝜉𝜉𝑡𝑡)、価格の予測は𝑝𝑝𝑗𝑗𝑡𝑡 = 𝜎𝜎𝑗𝑗𝑒𝑒(𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡)とす

る。消費者は選択をする前に、需要のショック𝜉𝜉𝑡𝑡、現在の価格𝑝𝑝𝑡𝑡を観察する。ハードウ

ェア j を選んだ消費者は、式(3.18)で表されたソフトウェアからの効用を各期に得る。

𝑢𝑢𝑗𝑗�𝑦𝑦𝑗𝑗,𝑡𝑡+1� = 𝛾𝛾𝑛𝑛𝑗𝑗𝑡𝑡 = 𝛾𝛾ℎ𝑗𝑗�𝑦𝑦𝑗𝑗,𝑡𝑡+1� (3.18)

ソフトウェアの割引現在価値は式(3.19)で表される。

𝜔𝜔𝑗𝑗(𝑦𝑦𝑡𝑡+1) = 𝐸𝐸 ��𝛽𝛽𝑘𝑘𝑢𝑢𝑗𝑗�𝑦𝑦𝑗𝑗,𝑡𝑡+1+𝑘𝑘�|𝑦𝑦𝑡𝑡+1

𝑘𝑘=0

= 𝑢𝑢𝑗𝑗�𝑦𝑦𝑗𝑗,𝑡𝑡+1�+ 𝛽𝛽�𝜔𝜔𝑗𝑗�𝑓𝑓𝑒𝑒(𝑦𝑦𝑡𝑡+1, 𝜉𝜉)�𝜙𝜙(𝜉𝜉)𝑑𝑑𝜉𝜉 (3.19)

ここで、𝑢𝑢𝑗𝑗�𝑦𝑦𝑗𝑗,𝑡𝑡+1�は現在のソフトウェアからの効用で、∫𝜔𝜔𝑗𝑗�𝑓𝑓𝑒𝑒(𝑦𝑦𝑡𝑡+1, 𝜉𝜉)�𝜙𝜙(𝜉𝜉)𝑑𝑑𝜉𝜉は次の

期の𝜔𝜔𝑗𝑗(𝑦𝑦𝑡𝑡+1)で𝜉𝜉について期待値をとったものである。消費者のハードウェア j の価値関

数は式(3.20)で表される。

𝑣𝑣𝑗𝑗(𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝜉𝜉𝑡𝑡 ,𝑝𝑝𝑡𝑡) = 𝛿𝛿𝑗𝑗 + 𝜔𝜔𝑗𝑗�𝑓𝑓𝑒𝑒(𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝜉𝜉𝑡𝑡)� − 𝛼𝛼𝑝𝑝𝑗𝑗𝑡𝑡 + 𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡 (3.20)

ここで、𝛿𝛿𝑗𝑗はハードウェア固有の価値、αは所得の限界効用である。t 期の消費者がハー

ドウェア j を選択した際の総効用は𝑣𝑣𝑗𝑗(𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝜉𝜉𝑡𝑡 ,𝑝𝑝𝑡𝑡) + 𝜖𝜖𝑗𝑗𝑡𝑡で表される。𝜖𝜖𝑗𝑗𝑡𝑡は i.i.d.で、第一種

極値分布に従うとする。消費者の待つことに対する価値関数は式(3.21)で表される。

𝑣𝑣0(𝑦𝑦𝑡𝑡, 𝜉𝜉𝑡𝑡) = 𝛽𝛽�𝑚𝑚𝑎𝑎𝑚𝑚 �𝑣𝑣0(𝑦𝑦𝑡𝑡+1, 𝜉𝜉) + 𝜖𝜖0,𝑚𝑚𝑎𝑎𝑚𝑚𝑗𝑗�𝑣𝑣𝑗𝑗�𝑦𝑦𝑡𝑡+1, 𝜉𝜉,𝜎𝜎𝑒𝑒(𝑦𝑦𝑡𝑡+1, 𝜉𝜉)� + 𝜖𝜖𝑗𝑗�� 𝜙𝜙𝜖𝜖(𝜖𝜖)𝜙𝜙(𝜉𝜉)𝑑𝑑(𝜖𝜖, 𝜉𝜉) (3.21)

ここで、𝜙𝜙𝜖𝜖(⋅)は𝜖𝜖の分布関数である。𝑣𝑣0(𝑦𝑦𝑡𝑡+1, 𝜉𝜉) + 𝜖𝜖0は次の期の消費者が待つことによ

る総効用で、𝑣𝑣𝑗𝑗�𝑦𝑦𝑡𝑡+1, 𝜉𝜉,𝜎𝜎𝑒𝑒(𝑦𝑦𝑡𝑡+1, 𝜉𝜉)� + 𝜖𝜖𝑗𝑗がハードウェア j を選択したときの総効用であ

る。t 期の消費者が待つことを選択した際の総効用は𝑣𝑣0(𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝜉𝜉𝑡𝑡 ,𝑝𝑝𝑡𝑡) + 𝜖𝜖0𝑡𝑡で表される。消

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費者は式(3.22)を満たす選択肢 j を選択する。

𝑣𝑣𝑗𝑗(𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝜉𝜉𝑡𝑡 ,𝑝𝑝𝑡𝑡) + 𝜖𝜖𝑗𝑗𝑡𝑡 ≥ 𝑣𝑣𝑘𝑘(𝑦𝑦𝑡𝑡, 𝜉𝜉𝑡𝑡 ,𝑝𝑝𝑡𝑡) + 𝜖𝜖𝑘𝑘𝑡𝑡 for ∀𝑘𝑘 = 0, 1,⋯ , 𝐽𝐽 (3.22)

𝜖𝜖𝑗𝑗𝑡𝑡が第一種極値分布に従っているので、Berry (1994) によれば、選択肢 j の市場シェ

アは式(3.23)で表される。

𝑠𝑠𝑗𝑗(𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝜉𝜉𝑡𝑡 ,𝑝𝑝𝑡𝑡) =𝑒𝑒𝑚𝑚𝑝𝑝 �𝑣𝑣𝑗𝑗(𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝜉𝜉𝑡𝑡 ,𝑝𝑝𝑡𝑡)�

∑ 𝑒𝑒𝑚𝑚𝑝𝑝�𝑣𝑣𝑘𝑘(𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝜉𝜉𝑡𝑡 ,𝑝𝑝𝑡𝑡)�𝐽𝐽𝑘𝑘=0

(3.23)

これを用いて、installed base の成長は式(3.24)で表される。

𝑦𝑦𝑗𝑗,𝑡𝑡+1 = 𝑦𝑦𝑗𝑗𝑡𝑡 + �1−�𝑦𝑦𝑘𝑘𝑡𝑡

𝐽𝐽

𝑘𝑘=1

�𝑠𝑠𝑗𝑗(𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝜉𝜉𝑡𝑡 ,𝑝𝑝𝑡𝑡) = 𝑓𝑓𝑗𝑗(𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝜉𝜉𝑡𝑡 ,𝑝𝑝𝑡𝑡) (3.24)

ここで、潜在需要は 1 に基準化されている。

3.4 企業の選択

Dubé et al. (2010) に従って、企業の選択についてモデルを構築する。企業は価格を

𝑝𝑝𝑗𝑗 = 𝜎𝜎𝑗𝑗(𝑦𝑦, 𝜉𝜉𝑗𝑗)で設定しているとする。企業は、消費者が価値関数𝑣𝑣0,𝑣𝑣1,⋯に従って選択を

すると予測する。企業は、市場シェアが式(3.23)によって定まり、installed base が式

(3.24)に従って成長すると予測する。ハードウェアの限界製造費用は𝑐𝑐𝑗𝑗で時間を通じて

一定とする。企業はソフトウェア一本あたり𝑎𝑎𝑗𝑗のロイヤリティを得るとする。𝑞𝑞𝑗𝑗(𝑦𝑦𝑡𝑡+1)

を t 期における総ソフトウェアタイトル数とする。このとき、各期の期待利潤は式(3.25)

で表される。

𝜋𝜋𝑗𝑗�𝑦𝑦, 𝜉𝜉𝑗𝑗 , 𝑝𝑝𝑗𝑗� = �𝑝𝑝𝑗𝑗 − 𝑐𝑐𝑗𝑗� ⋅ �1 −�𝑦𝑦𝑘𝑘𝑡𝑡

𝑗𝑗

𝑘𝑘=1

� ⋅ � 𝑠𝑠𝑗𝑗 �𝑦𝑦, 𝜉𝜉𝑗𝑗 , 𝜉𝜉−𝑗𝑗 , 𝑝𝑝𝑗𝑗 ,𝜎𝜎−𝑗𝑗�𝑦𝑦, 𝜉𝜉−𝑗𝑗�� 𝜙𝜙𝑗𝑗�𝜉𝜉−𝑗𝑗�𝑑𝑑𝜉𝜉−𝑗𝑗

+ 𝑎𝑎𝑗𝑗 �𝑞𝑞𝑗𝑗 �𝑓𝑓𝑗𝑗 �𝑦𝑦, 𝜉𝜉𝑗𝑗 , 𝜉𝜉−𝑗𝑗 , 𝑝𝑝𝑗𝑗 ,𝜎𝜎−𝑗𝑗�𝑦𝑦, 𝜉𝜉−𝑗𝑗���𝜙𝜙𝑗𝑗�𝜉𝜉−𝑗𝑗�𝑑𝑑𝜉𝜉−𝑗𝑗

(3.25)

ここで、�1 − ∑ 𝑦𝑦𝑘𝑘𝑡𝑡𝑗𝑗𝑘𝑘=1 � ⋅ ∫ 𝑠𝑠𝑗𝑗 �𝑦𝑦, 𝜉𝜉𝑗𝑗, 𝜉𝜉−𝑗𝑗,𝑝𝑝𝑗𝑗 ,𝜎𝜎−𝑗𝑗�𝑦𝑦, 𝜉𝜉−𝑗𝑗��𝜙𝜙𝑗𝑗�𝜉𝜉−𝑗𝑗�𝑑𝑑𝜉𝜉−𝑗𝑗は t 期におけるハー

ドウェア j の期待購入者数を表している。

∫𝑞𝑞𝑗𝑗 �𝑓𝑓𝑗𝑗 �𝑦𝑦, 𝜉𝜉𝑗𝑗, 𝜉𝜉−𝑗𝑗,𝑝𝑝𝑗𝑗 ,𝜎𝜎−𝑗𝑗�𝑦𝑦, 𝜉𝜉−𝑗𝑗���𝜙𝜙𝑗𝑗�𝜉𝜉−𝑗𝑗�𝑑𝑑𝜉𝜉−𝑗𝑗はハードウェア j の期待総ソフトウェア

タイトル数を表している。

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各企業は期待割引現在価値を最大化する。価格決定問題は式(3.26)のベルマン方程式

で表される。

𝑉𝑉𝑗𝑗�𝑦𝑦, 𝜉𝜉𝑗𝑗� = 𝑠𝑠𝑢𝑢𝑝𝑝𝑝𝑝𝑗𝑗≥0

�𝜋𝜋𝑗𝑗�𝑦𝑦, 𝜉𝜉𝑗𝑗 ,𝑝𝑝𝑗𝑗� + 𝛽𝛽𝑓𝑓 �𝑉𝑉𝑗𝑗 �𝑓𝑓(𝑦𝑦, 𝜉𝜉𝑗𝑗 , 𝜉𝜉−𝑗𝑗, 𝑝𝑝𝑗𝑗,𝜎𝜎−𝑗𝑗�𝑦𝑦, 𝜉𝜉−𝑗𝑗�� , 𝜉𝜉𝑗𝑗′)𝜙𝜙�𝜉𝜉−𝑗𝑗�𝜙𝜙�𝜉𝜉𝑗𝑗′�𝑑𝑑(𝜉𝜉−𝑗𝑗 , 𝜉𝜉𝑗𝑗′)� (3.26)

ここで、𝛽𝛽𝑓𝑓は企業の割引因子である。

∫𝑉𝑉𝑗𝑗 �𝑓𝑓(𝑦𝑦, 𝜉𝜉𝑗𝑗, 𝜉𝜉−𝑗𝑗,𝑝𝑝𝑗𝑗 ,𝜎𝜎−𝑗𝑗�𝑦𝑦, 𝜉𝜉−𝑗𝑗�� , 𝜉𝜉𝑗𝑗′)𝜙𝜙�𝜉𝜉−𝑗𝑗�𝜙𝜙�𝜉𝜉𝑗𝑗′�𝑑𝑑(𝜉𝜉−𝑗𝑗, 𝜉𝜉𝑗𝑗′) は、次の期の期待される

𝑉𝑉𝑗𝑗�𝑦𝑦, 𝜉𝜉𝑗𝑗�を表している。

3.5 均衡

企業と消費者が現在の情報のみに依存して決定をする、マルコフ完全ベイジアン均衡

を考える。消費者は次の期の installed base や、ハードウェアの価格を予測し、それに

従って、ハードウェアの購入の選択を決定する。企業は消費者の選択の決定や、installed

base の成長、他の企業の価格関数を予測し、価格を決定する。

均衡では、消費者の installed base の成長の予測𝑓𝑓𝑒𝑒、消費者のハードウェアの価格の

予測𝜎𝜎𝑒𝑒、消費者の価値関数𝑣𝑣𝑘𝑘、ハードウェアの価格関数𝜎𝜎𝑗𝑗、企業の価値関数𝑉𝑉𝑗𝑗が存在し

て以下の 1~4 を満たす。 1 消費者のハードウェアを購入することを選択したときの価値関数𝑣𝑣1, … , 𝑣𝑣𝐽𝐽が式

(3.20)を満たす。消費者のハードウェアを購入することを待つことによる価値関数

𝑣𝑣0が式(3.21)を満たす。 2 各企業の価値関数𝑉𝑉1, … ,𝑉𝑉𝐽𝐽が式(3.26)を満たす。

3 各𝑗𝑗 = 1, … , 𝐽𝐽について、ハードウェア j の価格𝑝𝑝𝑗𝑗 = 𝜎𝜎𝑗𝑗(𝑦𝑦, 𝜉𝜉𝑗𝑗)が式(3.21)の右側を最大化

させる。 4 消費者は合理的期待を持つ。各𝑗𝑗 = 1, … , 𝐽𝐽について、𝜎𝜎𝑗𝑗𝑒𝑒 = 𝜎𝜎𝑗𝑗となる。式(3.24)の𝑓𝑓(⋅)

について、𝑓𝑓𝑒𝑒(𝑦𝑦, 𝜉𝜉) = 𝑓𝑓(𝑦𝑦, 𝜉𝜉,𝜎𝜎(𝑦𝑦, 𝜉𝜉))となる。

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第 4 章 実証分析

本章では、第 3 章で構築したモデルと均衡に基づき、主に Dubé et al. (2010)の推定

方法を参考に、間接ネットワーク効果と市場集中度に焦点を当てた実証分析を行う。

4.1 先行研究

本節では、アメリカの据え置きゲーム市場についての実証分析を行った先行研究であ

る Clements and Ohashi (2005) , Dubé et al. (2010) や、Binken and Stremersch

(2009) を紹介する。

4.1.1 Clements and Ohashi (2005) Clements and Ohashi (2005) では、ファミコン、メガドライブ、スーパーファミコ

ン、セガサターン、PlayStation、ニンテンドー64、ドリームキャスト、PlayStation2

のアメリカの据え置きゲーム市場を分析対象として実証分析が行われた。用いられたデ

ータは、1994 年 1 月から 2002 年 3 月の月別の時系列データである。表 4-1 は、用い

られた主なデータの記述統計料である

表 4-1 用いられたデータの記述統計量

変数 mean sd min max

ハードウェア売上台数(千) 148.16 285.35 0.00 2795.16

installed base(百万) 12.88 9.26 0.03 35.78

ハードウェア平均価格(円) 16560 9562 1513.3 42500

為替レート(ドル/円) 111.45 11.83 84 145

ゲームタイトル数 320 272 2 1244

出所:Clements and Ohashi (2005) より作成

表 4-2 は、それぞれのハードウェアの性能をまとめたものである。後に発売するゲーム

ハードほど、性能が良くなっていることがわかる。

4.1.1.1 ハードウェアの選択の分析

テレビを所有している世帯数を潜在需要者数と設定し、それぞれの世帯でひとつの据

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表 4-2 ハードウェアの主な性能

ハードウェア 発売日 発売元 CPU(bit) MHZ RAM(MB)

ファミコン 1986.1 任天堂 8 1.8 0.002

メガドライブ 1989.9 セガ 16 7.60 0.072

スーパーファミコン 1991.9 任天堂 16 3.6 0.128

セガサターン 1995.5 セガ 32 28 4

PlayStation 1995.9 ソニー 32 33.87 2

ニンテンドー64 1996.9 任天堂 64 93.75 4

ドリームキャスト 1999.9 セガ 128 200 16

PlayStation2 2000.10 ソニー 128 294.91 32

出所:Clements and Ohashi (2005) より作成

え置きゲーム機のみ需要するとした。ハードウェアの選択は、ハードウェアで有効なソ

フトウェアタイトル数、ハードウェアの価格、ハードウェアの特性のみに依存している

と仮定した。各世帯は式(4.1)の効用関数を最大化すると仮定する。

𝑢𝑢𝑗𝑗𝑡𝑡 = 𝛽𝛽0 + 𝑚𝑚𝑗𝑗𝛽𝛽𝑥𝑥 + 𝛽𝛽𝑝𝑝𝑝𝑝𝑗𝑗𝑡𝑡 +𝜔𝜔𝑁𝑁𝑔𝑔𝑡𝑡 + 𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡 + 𝜀𝜀𝑗𝑗𝑡𝑡 (4.1)

𝑢𝑢𝑗𝑗𝑡𝑡は t 期において、ハードウェアを購入しないという選択肢を含む、𝐽𝐽𝑡𝑡 + 1の選択肢の

中からハードウェア j を購入した時の効用である。𝑁𝑁𝑔𝑔𝑡𝑡は t 期におけるハードウェア gにおいて有効なソフトウェアタイトル数である。𝜔𝜔𝑁𝑁𝑔𝑔𝑡𝑡がこの効用関数における間接ネ

ットワーク効果となる。ここで、ハードウェアの PS2 では、PS2 のソフトウェアに加

え、PS のソフトウェアも使用することができたので、インデックスは j はなく g が用

いられた。𝑝𝑝𝑗𝑗𝑡𝑡は t 期におけるハードウェア j の価格である。𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡は誤差項で、𝐸𝐸�𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡� = 0

となる。ハードウェアを購入しないときの効用は𝑢𝑢0𝑡𝑡 = 0に基準化する。t 期におけるま

だハードウェアを購入していない各世帯は、まずいずれかのハードウェアを購入するか

どうかを決め、それからどのハードウェアを購入するかを決める入れ子ロジットモデル

を考える。Berry (1994) によれば、𝜀𝜀𝑗𝑗𝑡𝑡の分布に仮定をおけば、式(4.2)でこのモデルの

推定ができる。

ln�𝑠𝑠𝑗𝑗𝑡𝑡� − ln(𝑠𝑠0𝑡𝑡) = 𝛽𝛽0 + 𝑚𝑚𝑗𝑗𝛽𝛽𝑥𝑥 + 𝛽𝛽𝑝𝑝𝑝𝑝𝑗𝑗𝑡𝑡 + 𝜔𝜔𝑁𝑁𝑔𝑔𝑡𝑡 + 𝜎𝜎 ln�𝑠𝑠𝑗𝑗𝑡𝑡|𝐵𝐵(𝑡𝑡)=1� + 𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡 (4.2)

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ここで、𝑠𝑠𝑗𝑗𝑡𝑡は、t 期においてハードウェア j を購入した潜在需要者数のシェアである。

𝑠𝑠0𝑡𝑡は、t 期において購入しないことを選択した潜在需要者数のシェアである。𝑠𝑠𝑗𝑗𝑡𝑡|𝐵𝐵(𝑡𝑡)=1

は、t 期において購入することを選択した潜在需要者数のうち、ハードウェア j を購入

したもののシェアであり、𝑠𝑠𝑗𝑗𝑡𝑡|𝐵𝐵(𝑡𝑡)=1 = 𝑠𝑠𝑗𝑗𝑡𝑡/(1− 𝑠𝑠0𝑡𝑡)である。

4.1.1.2 ソフトウェアタイトル数の分析

消費者数が増えれば増えるほど、ソフトウェア企業はそのハードウェアに対しソフト

ウェアを供給するインセンティブがより大きくなる。どのハードウェアにも供給するこ

とができるソフトウェア企業の数は十分多いと仮定する。PS2 は PS のソフトウェアも

使用できたが、それ以外のハードウェアでは他のハードウェアと互換性は存在しなかっ

た。消費者は所有しているハードウェアで有効なソフトウェアのみ購入する。各ハード

ウェアの installed base である消費者は、ソフトウェアに対し CES 型の需要をもつと

する。このとき、ベルトラン均衡におけるソフトウェア数は式(4.3)で表される。

𝑁𝑁𝑗𝑗𝑡𝑡 = 𝐴𝐴𝑗𝑗�𝐼𝐼𝐵𝐵𝑔𝑔𝑡𝑡�𝛾𝛾 (4.3)

ここで、𝐴𝐴𝑗𝑗はハードウェア j 特有の定数である。𝐼𝐼𝐵𝐵𝑔𝑔𝑡𝑡はハードウェア g の installed base

であり、𝐼𝐼𝐵𝐵𝑔𝑔𝑡𝑡 ≡ ∑ 𝑀𝑀𝑞𝑞𝑠𝑠𝑔𝑔𝑞𝑞𝑞𝑞=1,…,𝑡𝑡−1 で定義される。ここで、𝑀𝑀𝑞𝑞は q 期における据え置きゲ

ーム市場の潜在需要者数である。ハードウェア j が PS のときは、𝐼𝐼𝐵𝐵𝑔𝑔 = 𝐼𝐼𝐵𝐵𝑃𝑃𝑆𝑆 + 𝐼𝐼𝐵𝐵𝑃𝑃𝑆𝑆2と

なり、ハードウェア j がそれ以外のときは、𝐼𝐼𝐵𝐵𝑔𝑔 = 𝐼𝐼𝐵𝐵𝑗𝑗となる。推定するモデルは式(4.4)

で表される。

ln�𝑁𝑁𝑗𝑗𝑡𝑡� = 𝛼𝛼𝑗𝑗 + 𝛾𝛾1 ln�𝐼𝐼𝐵𝐵𝑔𝑔𝑡𝑡�+ 𝛾𝛾2�ℎ_𝑎𝑎𝑎𝑎𝑒𝑒𝑗𝑗𝑡𝑡�+ γ3�ln�𝐼𝐼𝐵𝐵𝑔𝑔𝑡𝑡� ⋅ ℎ_𝑎𝑎𝑎𝑎𝑒𝑒𝑗𝑗𝑡𝑡�+ ηjt (4.4)

ここで、𝜂𝜂𝑗𝑗𝑡𝑡は誤差項で𝐸𝐸�𝜂𝜂𝑗𝑗𝑡𝑡� = 0である。𝛼𝛼𝑗𝑗は、𝛼𝛼𝑗𝑗 ≡ ln (𝐴𝐴𝑗𝑗)であり、ハードウェアの固

定効果である。𝐼𝐼𝐵𝐵𝑔𝑔𝑡𝑡はその定義から、時間とともに減少することはない。一方、一般に

古いハードウェアほど性能が古いものとなるので、ソフトウェアの供給が少なくなる傾

向がある。よって、𝑁𝑁𝑗𝑗𝑡𝑡における𝐼𝐼𝐵𝐵𝑔𝑔𝑡𝑡の感受性のパラメーターである式(4.3)の𝛾𝛾は、ハー

ドウェアの発売経過時間とともに変化すると考えられる。そのため、t 期におけるハー

ドウェア j の発売経過時間であるℎ_𝑎𝑎𝑎𝑎𝑒𝑒jtが追加された。また、ln�𝐼𝐼𝐵𝐵𝑔𝑔𝑡𝑡�との交差項であ

るln�𝐼𝐼𝐵𝐵𝑔𝑔𝑡𝑡� ⋅ ℎ_𝑎𝑎𝑎𝑎𝑒𝑒𝑗𝑗𝑡𝑡も追加された。

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20

4.1.1.3 モデルの推定

式(4.2), (4,4)で表されるモデルの推定が行われた。式(4.2)のハードウェアの選択のモ

デルでは、ln�𝑠𝑠𝑗𝑗𝑡𝑡|𝐵𝐵(𝑡𝑡)=1�は𝑠𝑠𝑗𝑗𝑡𝑡を部分的に含むため、𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡と相関を持つ内生変数と考えられ

る。また𝑝𝑝𝑗𝑗𝑡𝑡も、𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡が上昇してハードウェアのブランドイメージが良くなると価格も高

く設定されるため、𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡と相関を持つ内生変数と考えられる。また𝑁𝑁𝑗𝑗𝑡𝑡も、𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡が上昇して

ハードウェアの installed base が上昇すると、式(4.4)よりそのハードウェアで有効なソ

フトウェアタイトル数が上昇するため、𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡と相関を持つ内生変数と考えられる。この内

生性に対し、為替レートと日本におけるハードウェア価格の 2 つを操作変数として用い

られた。ほとんどのハードウェアの製造過程が日本で行われていたため為替レートが用

いられた。費用の変動を含むためハードウェア価格が用いられた。 式(4.4)のソフトウェアタイトル数のモデルについては、𝜂𝜂𝑗𝑗𝑡𝑡−1が上昇すると𝑁𝑁𝑗𝑗𝑡𝑡−1が上

昇し、式(4.2)より𝑠𝑠𝑗𝑗𝑡𝑡−1が上昇し𝐼𝐼𝐵𝐵𝑔𝑔𝑡𝑡が上昇する。そのため、𝜂𝜂𝑗𝑗𝑡𝑡−1と𝜂𝜂𝑗𝑗𝑡𝑡が相関を持つとす

ると、𝐼𝐼𝐵𝐵𝑔𝑔𝑡𝑡は𝜂𝜂𝑗𝑗𝑡𝑡と相関を持つ内生変数であると考えられる。そのため、操作変数として

ソフトウェアの平均発売経過時間を用いた。あるハードウェアで発売経過時間が長いソ

フトウェアが多ければ、ソフトウェア企業がそのハードウェアに対してソフトウェアを

発売すれば利潤が増大するとすれば、ηjtとソフトウェアの平均発売経過時間は負の相関

を持つと考えられるためこれを用いた。

表 4-1 がモデルの推定結果である。表 4-1 の(1)では、式(4.2)のハードウェアの選択

のモデルを 2 段階最小二乗法を用いて推定した。表 4-1 の(2)では、式(4.2)のハードウ

ェアの選択のモデルを通常の最小二乗法を用いて推定した。内生性を考慮せずに回帰す

ると、ハードウェア価格、ソフトウェアタイトル数、ln�𝑠𝑠𝑗𝑗𝑡𝑡|𝐵𝐵(𝑡𝑡)=1�の係数は正の方向に

バイアスがかかることが分かる。(1)と(2)で、ハードウェア価格の係数は(−0.71)と

(−0.50)で違いが存在したが、ソフトウェアタイトル数の係数は(0.41)と(0.43)でほぼ違

いが存在しなかった。ソフトウェアタイトル数はあまり内生性バイアスは存在しなかっ

たといえる。

表 4-1 の(3)では、式(4.4)のソフトウェアタイトル数のモデルを 2 段階最小二乗法を

用いて推定した。表 4-1 の(4)では式(4.4)のソフトウェアタイトル数のモデルを通常の

最小二乗法を用いて推定した。(4)ではln(IB)*ハードウェア発売経過時間とハードウェ

ア発売経過時間の係数は有意ではなかったが、これらの係数を 0 とするとあまり当ては

まりはよくなかった。(3)の推定結果からハードウェア発売経過時間は説明変数に追加

するべきであるといえる。(4)ではln(IB)の係数は 1.47 であったが、(3)では 2.94 であっ

たことから、操作変数はうまく installed base のバイアスをコントロールできていると

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21

表 4-1 モデルの推定結果

変数 (1) (2) (3) (4) (5)

ハードウェア価格 −0.71∗∗∗

(0.25)

−0.50∗∗∗

(0.15) −0.71∗∗∗

(0.22)

ソフトウェアタイ

トル数

0.41∗∗

(0.17)

0.43∗∗∗

(0.09) 0.41∗∗∗

(0.13)

ln�𝑠𝑠𝑗𝑗𝑡𝑡|𝐵𝐵(𝑡𝑡)=1� 0.35∗∗∗

(0.09)

0.60∗∗∗

(0.03) 0.35∗∗∗

(0.06)

ln(IB) 2.94∗∗∗ (0.20)

1.47∗∗∗ (0.01)

2.94∗∗∗ (0.21)

ln(IB)*ハードウェ

ア発売経過時間 0.44∗∗∗

(0.12)

−0.01 (0.01)

0.44∗∗∗ (0.12)

ハードウェア発売

経過時間 −7.58∗∗∗

(2.05)

−0.24

(0.23)

−7.58∗∗∗

(2.08)

サンプルサイズ 493 493 562 562 1055

(注)***は 1%水準有意、**は 5%水準有意

括弧は標準誤差

出所:Clements and Ohashi (2005) より作成

いえる。

表 4-1 の(5)では、式(4.2),(4.4)について 2 段階最小二乗誤差を用いて GMM で回帰し

た。推定値について(1),(3)とほとんど変化しなかった。標準誤差については、(1)と比べ

て(5)では減少していたが、(3)と(5)ではほとんど変化していなかった。 表 4-2 では、表 4-1 の(1)の推定値をもとに、需要の価格弾力性𝐸𝐸𝑝𝑝、需要のソフトウェ

アタイトル数弾力性𝐸𝐸𝑠𝑠を式(4.5),(4.6)をもとに計算して年ごとに平均を出したものをま

とめた。

Epjt = �𝛽𝛽𝑝𝑝(1− 𝜎𝜎)�𝑝𝑝𝑗𝑗𝑡𝑡[1 − 𝜎𝜎𝑠𝑠𝑗𝑗𝑡𝑡|𝐵𝐵(𝑡𝑡)=1 − (1 − 𝜎𝜎)𝑠𝑠𝑗𝑗𝑡𝑡] (4.5)

Esjt = [ω/(1 − 𝜎𝜎)]𝑝𝑝𝑗𝑗𝑡𝑡[1 − 𝜎𝜎𝑠𝑠𝑗𝑗𝑡𝑡|𝐵𝐵(𝑡𝑡)=1 − (1 − 𝜎𝜎)𝑠𝑠𝑗𝑗𝑡𝑡] (4.6)

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表 4-2 需要の弾力性

ハードウェア 需要の弾力性 1994 年 1996 年 1998 年 2000 年

ファミコン 価格(Ep) −0.59 −0.50 −0.20

ソフトウェア(Es) 1.86 0.50 0.08 −ES/𝐸𝐸𝑝𝑝 3.16 1.00 0.39

メガドライブ 価格(Ep) −1.01 −0.88 −0.45 −0.18

ソフトウェア(Es) 2.43 3.40 2.20 1.03 −ES/𝐸𝐸𝑝𝑝 2.39 3.87 4.83 5.56

スーパーファミコン 価格(Ep) −1.08 −1.14 −0.73 −0.49

ソフトウェア(Es) 2.03 2.84 1.79 0.87 −ES/𝐸𝐸𝑝𝑝 1.88 2.49 2.43 1.77

セガサターン 価格(Ep) −2.32 −0.76 −0.30

ソフトウェア(Es) 0.60 1.39 0.55 −ES/𝐸𝐸𝑝𝑝 0.26 1.82 1.85

PlayStation 価格(Ep) −2.15 −1.06 −0.79

ソフトウェア(Es) 0.67 2.25 4.50

−ES/𝐸𝐸𝑝𝑝 0.31 2.12 5.67

ニンテンドー64 価格(Ep) −1.74 −1.21 −0.85

ソフトウェア(Es) 0.02 0.42 1.37

−ES/𝐸𝐸𝑝𝑝 0.01 0.34 1.61

ドリームキャスト 価格(Ep) −1.61

ソフトウェア(Es) 0.64 −ES/𝐸𝐸𝑝𝑝 0.40

PlayStation2 価格(Ep) −2.47

ソフトウェア(Es) 5.55 −ES/𝐸𝐸𝑝𝑝 2.24

出所:Clements and Ohashi (2005) より作成

𝐸𝐸𝑝𝑝の推定値は平均で−1.07となった。𝐸𝐸𝑝𝑝の推定値はハードウェアにより違いが見られた。

ハードウェアの発売から時間がたつほど𝐸𝐸𝑝𝑝の絶対値が小さくなることが分かった。ハー

ドウェアが発売した最初の年の𝐸𝐸𝑝𝑝の推定値の平均は−1.92だったが、7 年経過後の推定

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値の平均は−0.52となった。𝐸𝐸𝑠𝑠に関しては、平均で1.89となった。ハードウェア間で大

きく違いが見られ、PS2 は5.51なのに対し、セガサターンでは0.75となることもあった。

−𝐸𝐸𝑆𝑆/𝐸𝐸𝑝𝑝は、ソフトウェアタイトル数が 1%上昇したときと同等の、ハードウェア価格の

需要に対する効果を測るものである。全ハードウェアで平均して、ソフトウェアタイト

ル数が 1%上昇するのと、2.3%の価格減少と同じ効果を持つことが分かった。ハードウ

ェア発売開始時は−𝐸𝐸𝑆𝑆/𝐸𝐸𝑝𝑝は低く、時間とともに上昇していき、ハードウェアが市場か

ら撤退していくにつれ時間とともに減少していくことが分かった。

ハードウェアの導入期においては需要は価格に対しとても弾力的であり、ソフトウェ

アタイトル数に対しほとんど弾力的でなかった。ハードウェアの導入が進むほど、需要

の価格弾力性は減少していき、需要のソフトウェアタイトル数弾力性は上昇していった。

これらのことから、ハードウェア企業はハードウェア発売開始時期には penetration

pricing により低い価格をつけることで消費者の選択を誘うべきである。それにより

installed base を確保できれば、ソフトウェアの参入も誘引でき、さらなる installed

base の増大も見込める、と Clements and Ohashi (2005) では結論付けられた。

4.1.2 Dubé et al. (2010) Dubé et al. (2010) では、アメリカの Nintendo64 対 PlayStation の据え置きゲーム

市場を分析対象として実証分析が行われた。用いられたデータは、1995 年 9 月から

2002 年 9 月までのアメリカの小売店から得た月別の時系列データである。表 4-3 が用

いられた主なデータの記述統計量である。

表 4-3 用いられたデータの記述統計量

変数 コンソール mean sd min max

ハードウェア累計売

上台数 PS 275,409 288,675 26,938 1,608,967

N64 192,488 201,669 1,795 1,005,166

平均価格 PS 119.9 30.3 55.7 200.6

N64 117.6 33.9 50.3 199.9

ゲームタイトル数 PS 594.2 381.1 3 1,095

N64 151.2 109.9 1 281

出所:Dubé et al. (2010) より作成

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ハードウェア累計売上台数、ゲームタイトル数は全時期を通じて、全体的に

PlayStation に比べ、Nintendo64 のほうが小さかった。平均価格については、全時期

を通じてどちらもほとんど同じ値をとり、販売開始時から徐々に減少していった。

実証分析では、ハードウェアの価格関数、需要関数、ソフトウェアの供給関数を表す

モデルを推定する第 1 段階、そのモデルを用いて GMM により消費者の価値関数を推

定し、それにより間接ネットワーク効果が市場集中度に与える影響を観察する第 2 段階

の 2 段階で行われた。

第 1 段階での推定に使われたモデルについて、ソフトウェアの供給関数を式(3.16)を

用いて、式(4.7)で表された。 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑎𝑎�𝑛𝑛𝑗𝑗𝑡𝑡� = ℋ𝑗𝑗�𝑦𝑦𝑗𝑗,𝑡𝑡+1;𝜃𝜃𝑛𝑛� + 𝜂𝜂𝑗𝑗𝑡𝑡

= 𝜙𝜙 + 𝜈𝜈 log�𝑦𝑦𝑗𝑗𝑡𝑡+1� + 𝜂𝜂𝑗𝑗𝑡𝑡 (4.7)

ここで、𝜂𝜂𝑗𝑗𝑡𝑡~𝑁𝑁�0,𝜎𝜎𝜂𝜂2�である。

ハードウェアの価格関数は(4.8)で表された。

𝑙𝑙𝑙𝑙𝑎𝑎�𝑝𝑝𝑗𝑗𝑡𝑡� = 𝒫𝒫𝑗𝑗�𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝑧𝑧𝑡𝑡𝑝𝑝;𝜃𝜃𝑝𝑝�+ 𝜆𝜆𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡 (4.8)

ここで、𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡~𝑁𝑁(0,1)である。𝜆𝜆は誤差項の標準誤差となる。𝑧𝑧𝑡𝑡𝑝𝑝は価格にかかわる外生変数

であり、月ダミーやタイムトレンド項をはじめ、コンピューターや記憶装置、オーディ

オ装置などの生産者物価指数、日本からゲーム機を輸入する際の為替レートが用いられ

た。ここで𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡は、式(4.9)の形の関数として表現することができる。

𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡 = 𝒳𝒳𝑗𝑗(𝑦𝑦𝑗𝑗𝑡𝑡 ,𝑝𝑝𝑗𝑗𝑡𝑡 , 𝑧𝑧𝑡𝑡𝑝𝑝) (4.9)

ハードウェアの需要関数を式(4.10)で示す。 𝜇𝜇𝑗𝑗𝑡𝑡 ≡ 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑎𝑎�𝑠𝑠𝑗𝑗𝑡𝑡� − 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑎𝑎(𝑠𝑠0𝑡𝑡) = 𝑣𝑣𝑗𝑗�𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝜉𝜉𝑡𝑡 ,𝑝𝑝𝑡𝑡 , 𝑧𝑧𝑡𝑡𝑑𝑑� − 𝑣𝑣0�𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝜉𝜉𝑡𝑡 , 𝑧𝑧𝑡𝑡𝑑𝑑� + 𝜁𝜁𝑗𝑗𝑡𝑡

= ℒ𝑗𝑗�𝑦𝑦𝑡𝑡 ,𝒳𝒳𝑗𝑗�𝑦𝑦𝑗𝑗𝑡𝑡 ,𝑝𝑝𝑗𝑗𝑡𝑡 , 𝑧𝑧𝑡𝑡𝑝𝑝�, 𝑧𝑧𝑡𝑡𝑑𝑑;𝜃𝜃𝜇𝜇� + 𝜁𝜁𝑗𝑗𝑡𝑡

(4.10)

ここで、𝜁𝜁𝑗𝑗𝑡𝑡~𝑁𝑁(0,𝜎𝜎𝜁𝜁2)である。𝑧𝑧𝑡𝑡𝑑𝑑は消費者の外生変数であり、月ダミーやタイムトレン

ド項が用いられた。𝒳𝒳𝑗𝑗�𝑦𝑦𝑗𝑗𝑡𝑡 ,𝑝𝑝𝑗𝑗𝑡𝑡 , 𝑧𝑧𝑡𝑡𝑝𝑝�は式(4.9)で表されたもので、操作変数として需要関数

の内生性バイアスをコントロールする。 ハードウェアの価格関数𝒫𝒫𝑗𝑗、需要関数𝜇𝜇𝑗𝑗𝑡𝑡にもっとも当てはまりの良いモデルが BIC

を基準に選ばれた。その結果を表 4-4 に示した。結果として、モデル 7 の、販売台数の

二乗項を追加して、外生変数として生産者物価指数と為替レートを追加したモデルが選

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択された。 式(4.7),(4.8),(4.10)で表されたハードウェアの価格関数𝒫𝒫𝑗𝑗,需要関数𝜇𝜇𝑗𝑗𝑡𝑡 ,ソフトウェア

の供給関数ℋ𝑗𝑗の推定結果を表 4-5、4-6、4-7 で表した。推定は最尤法で行われた。表 4-

5 の価格関数𝒫𝒫𝑗𝑗の推定結果では、PlayStation も Nintendo64 も、全体的に説明変数は

有意ではなかった。また、Sony は自分の install base に関して符号はマイナスで、相

手の install base の符号はプラスであるのに対し、Nintendo は自分の installed base

の符号はプラスで、相手の installed base の符号はマイナスであった。用いられたデー

タはパネルデータではなく時系列データだったので、あまり時間による変動を制御しき

れなかったと考えられる。表 4-6 の需要関数𝜇𝜇𝑗𝑗𝑡𝑡の推定結果では、PlayStation に関し

て、あまり installed base の有意水準がよくなかった。表 4-7 の供給関数ℋ𝑗𝑗の推定結

果では、PlayStation も Nintendo64 も有意水準が高く、installed base の係数の推定

値の

表 4-4 モデルの当てはまり 対数尤度 BIC モデル 1 線形 −187.88 679.4 モデル 2 線形、タイムトレンド項 −150.11 620.97 モデル 3 二乗項、タイムトレンド項 −79.38 514.01

モデル 4 二乗項、タイムトレンド項、多変量正規分布 −79.38 522.28 モデル 5 二乗項、タイムトレンド項、生産者物価指数 −63.54 507.69 モデル 6 二乗項、タイムトレンド項、為替レート −25.43 422.94

モデル 7 二乗項、タイムトレンド項、生産者物価指数、為

替レート −7.53 412.79

出所:Dubé et al. (2010) より作成

符号もプラスであり、うまく推定ができていたといえる。

第 2 段階の推定では、第 1 段階で推定したモデルを用いて、式(4.11)~(4.16)により

帰納的に{𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝜉𝜉𝑡𝑡 ,𝑝𝑝𝑡𝑡 ,𝑛𝑛𝑡𝑡 , 𝑠𝑠𝑡𝑡}𝑡𝑡=0𝑇𝑇 をシミュレートする。まず、誤差項𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡を標準正規分布から生

成する。

𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡~𝑁𝑁(0,1) (4.11)

式(4.11),(4.15)により与えられた𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝜉𝜉𝑡𝑡のもと、式(4.8)の価格関数𝒫𝒫𝑗𝑗�𝑦𝑦𝑡𝑡;𝜃𝜃�𝑝𝑝�を用いて、式

(4.12)により計算する。

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表 4-5 価格関数𝒫𝒫𝑗𝑗の推定結果

PlayStation Nintendo64

推定値 se 推定値 Se

切片 2.653 1.523 −1.529 4.051

𝑦𝑦𝑃𝑃𝑆𝑆 −3.266 1.785 −0.861 2.490

𝑦𝑦𝑁𝑁64 1.889 1.499 0.666 0.813

𝑦𝑦𝑃𝑃𝑆𝑆2 −0.320 0.218 −0.142 0.282

𝑦𝑦𝑁𝑁642 0.186 0.130 0.077 0.070

タイムトレンド項 0.005 0.003 0.000 0.002

1 月 0.102 0.040 −0.054 0.016

2 月 0.132 0.119 0.005 0.104

3 月 0.118 0.053 −0.082 0.214

4 月 0.136 0.057 −0.046 0.046

5 月 0.045 0.032 −0.055 0.037

6 月 −0.012 0.003 −0.011 0.028

7 月 0.000 0.026 −0.052 0.037

8 月 −0.001 0.012 −0.032 0.021

9 月 −0.049 0.074 −0.088 0.021

10 月 0.011 0.048 −0.015 0.039

11 月 −0.026 0.019 −0.002 0.025

生産者物価指数1 −0.432 0.070 −0.285 0.154

生産者物価指数2 −0.546 0.351 −0.608 0.816

生産者物価指数3 −0.471 0.769 0.227 0.807

為替レート(3 か月ラグ) 0.434 0.509 0.397 0.159

為替レート(7 か月ラグ) −4.493 1.118 1.390 8.059

log(λ) −4.511 0.123 −4.511 0.123

出所:Dubé et al. (2010) より作成

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表 4-6 需要関数𝜇𝜇𝑗𝑗𝑡𝑡の推定結果

PlayStation Nintendo64

推定値 se 推定値 Se

切片 −13.826 2.539 −1.141 0.744

𝑦𝑦𝑃𝑃𝑆𝑆 1.456 4.669 0.065 0.012

𝑦𝑦𝑁𝑁64 −7.670 5.884 −1.740 0.196

𝑦𝑦𝑃𝑃𝑆𝑆2 −0.334 0.432 −1.304 0.305

𝑦𝑦𝑁𝑁642 −0.684 0.571 −1.820 0.335

タイムトレンド項 −0.003 0.008 −2.176 0.469

1 月 −1.367 0.154 −1.950 0.528

2 月 −1.345 0.159 −1.625 0.495

3 月 −1.813 0.475 −1.682 0.525

4 月 −2.442 0.351 −1.674 0.397

5 月 −2.596 0.463 −1.268 0.402

6 月 −1.947 0.395 −1.713 0.215

7 月 −1.805 0.470 −0.789 0.335

8 月 −1.871 0.392 −0.288 0.070

9 月 −1.496 0.426 0.085 0.135

10 月 −1.644 0.199 −0.406 0.150

11 月 −0.781 0.120 0.084 0.173

𝜉𝜉𝑃𝑃𝑆𝑆 −27.655 5.216 0.103 0.061

𝜉𝜉𝑁𝑁64 0.844 4.936 −0.220 0.083

𝜉𝜉𝑃𝑃𝑆𝑆2 −13.383 7.554 0.547 0.107

𝜉𝜉𝑁𝑁642 −0.660 0.416 −0.545 0.119

出所:Dubé et al. (2010) より作成

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表 4-7 供給関数ℋ𝑗𝑗の推定結果

PlayStation Nintendo64

推定値 se 推定値 Se

切片 −16.220 2.042 −24.349 1.992

𝑦𝑦 1.389 0.126 1.810 0.126

出所:Dubé et al. (2010) より作成

𝑝𝑝𝑗𝑗𝑡𝑡|𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝜉𝜉𝑡𝑡 = 𝑒𝑒𝑚𝑚𝑝𝑝�𝒫𝒫𝑗𝑗�𝑦𝑦𝑡𝑡;𝜃𝜃�𝑝𝑝�+ �̂�𝜆𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡� (4.12)

式 (4.11),(4.15)で与えられた𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝜉𝜉𝑡𝑡のもと、式 (4.10)で定義した𝜇𝜇𝑗𝑗𝑡𝑡を、需要関数

ℒ𝑗𝑗(𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝜉𝜉𝑡𝑡;𝜃𝜃�𝑝𝑝)を用いて計算する。

𝜇𝜇𝑗𝑗𝑡𝑡|𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝜉𝜉𝑡𝑡 = ℒ𝑗𝑗(𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝜉𝜉𝑡𝑡;𝜃𝜃�𝑝𝑝) (4.13)

𝜇𝜇𝑗𝑗𝑡𝑡 ≡ 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑎𝑎�𝑠𝑠𝑗𝑗𝑡𝑡� − 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑎𝑎(𝑠𝑠0𝑡𝑡)であるので、式(4.13)で与えられた𝜇𝜇𝑡𝑡のもと、シェア𝑠𝑠𝑗𝑗𝑡𝑡を式

(4.14)により計算する。

𝑠𝑠𝑗𝑗𝑡𝑡|𝜇𝜇𝑡𝑡 =𝑒𝑒𝑚𝑚𝑝𝑝�𝜇𝜇𝑗𝑗𝑡𝑡�

1 + ∑ 𝑒𝑒𝑚𝑚𝑝𝑝(𝜇𝜇𝑘𝑘𝑡𝑡)𝐽𝐽𝑘𝑘=1

(4.14)

式(4.14),(4.15)により与えられた𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝑠𝑠𝑡𝑡のもと、次の期の installed base𝑦𝑦𝑗𝑗,𝑡𝑡+1を、式(4.15)

により計算する。

𝑦𝑦𝑗𝑗,𝑡𝑡+1|𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝑠𝑠𝑡𝑡 = 𝑓𝑓𝑗𝑗(𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝜉𝜉𝑡𝑡) = 𝑦𝑦𝑗𝑗𝑡𝑡 + �1 −�𝑦𝑦𝑘𝑘𝑡𝑡

𝐽𝐽

𝑘𝑘=1

� 𝑠𝑠𝑗𝑗𝑡𝑡 (4.15)

式(4.15)により与えられた𝑦𝑦𝑗𝑗,𝑡𝑡+1のもと、式(4.5)のソフトウェア供給関数ℋ𝑗𝑗�𝑦𝑦𝑗𝑗,𝑡𝑡+1;𝜃𝜃�𝑛𝑛�を

用いて、式(4.16)により計算する。

𝑛𝑛𝑗𝑗𝑡𝑡|𝑦𝑦𝑗𝑗,𝑡𝑡+1 = exp �ℋ𝑗𝑗�𝑦𝑦𝑗𝑗,𝑡𝑡+1;𝜃𝜃�𝑛𝑛�� (4.16)

これを用いて、ハードウェア j を選んだときの価値関数𝒱𝒱jを計算する。まず、現在の

ソフトウェアのからの効用は式(4.17)で得られる。

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𝑢𝑢𝑗𝑗�𝑦𝑦𝑗𝑗,𝑡𝑡+1� = 𝛾𝛾 exp �ℋ𝑗𝑗�𝑦𝑦𝑗𝑗,𝑡𝑡+1;𝜃𝜃��� = 𝛾𝛾𝑛𝑛𝑗𝑗𝑡𝑡 (4.17)

次に、初期 installed base をy0として、式(4.11)~(4.16)により�yt(r), 𝜉𝜉𝑡𝑡

(𝑟𝑟),𝑛𝑛𝑡𝑡(𝑟𝑟)�

𝑡𝑡=0

𝑇𝑇を R 回

シミュレートする。これを用いて、ソフトウェアの期待割引現在価値を式(4.18)で計算

する。

𝒲𝒲𝑗𝑗�𝑦𝑦;𝛬𝛬,𝛩𝛩�� =1𝑅𝑅��𝛽𝛽𝑡𝑡𝛾𝛾𝑛𝑛𝑗𝑗𝑡𝑡

(𝑟𝑟)𝑇𝑇

𝑡𝑡=0

𝑅𝑅

𝑟𝑟=1

(4.18)

消費者のハードウェア j の価値関数𝒱𝒱jは式(4.19)で計算できる。

𝒱𝒱𝑗𝑗�𝑦𝑦, 𝜉𝜉,𝑝𝑝;𝛬𝛬,𝛩𝛩�� = 𝛿𝛿𝑗𝑗 + 𝒲𝒲𝑗𝑗�𝑓𝑓(𝑦𝑦, 𝜉𝜉);𝛬𝛬,𝛩𝛩�� − 𝛼𝛼𝑝𝑝𝑗𝑗 + 𝜓𝜓𝜉𝜉𝑗𝑗 (4.19)

さらに、消費者の待つことを選んだ時の価値関数𝒱𝒱0を計算する。最初に、t 期にハー

ドウェアを購入しないことを選択した消費者の期待効用は、式(4.20)で計算できる。

𝒰𝒰(𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝜉𝜉𝑡𝑡) = 𝑠𝑠0𝑡𝑡𝐸𝐸[𝜖𝜖0𝑡𝑡] + �𝑠𝑠𝑗𝑗𝑡𝑡�𝛿𝛿𝑗𝑗 + 𝛾𝛾𝑛𝑛𝑗𝑗𝑡𝑡 − 𝛼𝛼𝑝𝑝𝑗𝑗𝑡𝑡 + 𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡 + 𝐸𝐸�𝜖𝜖𝑗𝑗𝑡𝑡�𝑗𝑗��𝐽𝐽

𝑗𝑗=1

(4.20)

ここで、第一種極値分布を仮定しているので、𝐸𝐸[𝜖𝜖0𝑡𝑡] = − log(𝑠𝑠0𝑡𝑡)である。次に𝑚𝑚0𝑡𝑡を、

消費者の中で t 期にハードウェアを購入していない人の割合として、式(4.21)で定義す

る。

𝑚𝑚0𝑡𝑡 = 𝑠𝑠0,𝑡𝑡−1𝑚𝑚0,𝑡𝑡−1 (4.21)

ここで、𝑚𝑚01 = 1とする。同様に、𝑚𝑚𝑗𝑗𝑡𝑡を式(4.22)で定義する。

𝑚𝑚𝑗𝑗𝑡𝑡 = 𝑚𝑚𝑗𝑗,𝑡𝑡−1 + 𝑠𝑠𝑗𝑗,𝑡𝑡−1𝑚𝑚0,𝑡𝑡−1 (4.22)

式(4.11)~(4.16), (4.29), (4.21)により�𝑦𝑦𝑡𝑡(𝑟𝑟), 𝜉𝜉𝑡𝑡

(𝑟𝑟),𝑚𝑚0𝑡𝑡(𝑟𝑟),𝑚𝑚𝑗𝑗𝑡𝑡

(𝑟𝑟)�𝑡𝑡=0

𝑇𝑇を R 回シミュレートする。

これを用いて、ハードウェアの購入を待つことによる価値関数𝒱𝒱0は、式(4.23)で計算で

きる。

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𝒱𝒱0�𝑦𝑦, 𝜉𝜉;𝛬𝛬,𝛩𝛩�� =

1𝑅𝑅���𝛽𝛽𝑡𝑡(𝑚𝑚0𝑡𝑡

(𝑟𝑟)𝒰𝒰�𝑦𝑦𝑡𝑡(𝑟𝑟), 𝜉𝜉𝑡𝑡

(𝑟𝑟)� +�𝑚𝑚𝑗𝑗𝑡𝑡(𝑟𝑟)𝛾𝛾𝑛𝑛𝑗𝑗𝑡𝑡

(𝑟𝑟))𝐽𝐽

𝑗𝑗=1

𝑇𝑇

𝑡𝑡=1

�𝑅𝑅

𝑟𝑟=1

(4.23)

式(4.19),(4.23)の𝒱𝒱𝑗𝑗,𝒱𝒱0を用いて、𝑄𝑄𝑗𝑗𝑡𝑡を式(4.24)で定義する。

𝑄𝑄𝑗𝑗𝑡𝑡�Λ,Θ�� ≡ 𝜇𝜇𝑗𝑗𝑡𝑡 − �𝑉𝑉𝑗𝑗�𝑦𝑦, 𝜉𝜉,𝑝𝑝;Λ,Θ�� − 𝑉𝑉0�𝑦𝑦, 𝜉𝜉;Λ,Θ��� (4.24)

𝑄𝑄𝑗𝑗𝑡𝑡 = 0となるような𝛬𝛬 = (𝛿𝛿,𝛼𝛼, 𝛾𝛾,𝜓𝜓)を、GMM を用いて式(4.25)で求める。

𝛬𝛬𝑀𝑀𝑀𝑀 = 𝑚𝑚𝑚𝑚𝑛𝑛𝛬𝛬

{𝑄𝑄�𝛬𝛬,𝛩𝛩��′𝑊𝑊𝑄𝑄�𝛬𝛬,𝛩𝛩��} (4.25)

𝛽𝛽 = 0.9,𝑇𝑇 = 500,𝑅𝑅 = 60として、推定された𝛬𝛬を表 4-8 に示した。

表 4-8 Λの推定値

推定値 se

δPS −1.119 0.971

δN64 −1.119 1.093

Α −1.923∗∗∗ 0.460

タイムトレンド項 −0.049∗ 0.028

Γ 0.090∗∗∗ 0.040

Ψ 0.028 1.950

出所:Dubé et al. (2010) より作成

ハードウェアに対する選好𝛿𝛿𝑃𝑃𝑆𝑆 , 𝛿𝛿𝑁𝑁64には有意に違いは見られなかった。一方、ソフト

ウェアのバラエティに関する選好𝛾𝛾は有意で符号はプラスであった。間接ネットワーク

効果はこの市場で有意に働いているといえる。また、消費者の価格の感受性のパラメー

ター𝛼𝛼は有意で符号はマイナスであり、整合的であるといえる。

間接ネットワーク効果による市場集中度への影響を、間接ネットワーク効果の強さ𝛾𝛾

を変化させたカウンターファクチュアルにおける市場集中度と、実際の市場集中度との

差(式(4.26))により測る。

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31

𝛥𝛥𝐶𝐶1 = 𝐶𝐶1�𝛩𝛩,ℰ(𝛩𝛩)� − 𝐶𝐶1�𝛩𝛩′,ℰ(𝛩𝛩′)� (4.26)

𝛽𝛽 = 0.90として、𝛾𝛾を 0.25 倍 0.50 倍 0.75 倍し𝑇𝑇 = 48の𝐶𝐶1を推定した。パラメーターを

PlayStation に統一したケースと、パラメーターをそのまま用いたケースの 2 つで推定

を行った。均衡は以下のようにして計算される。

𝑣𝑣0(𝑘𝑘), … , 𝑣𝑣𝐽𝐽

(𝑘𝑘)を各選択肢 j の価値関数の初期値とする。𝑓𝑓(𝑘𝑘)(𝑦𝑦, 𝜉𝜉)を𝑡𝑡 = 1, … ,𝑇𝑇における

installed base の成長の予測の初期値とする。𝜎𝜎𝑗𝑗(𝑘𝑘)(𝑦𝑦, 𝜉𝜉)をハードウェア j の𝑡𝑡 = 1, … ,𝑇𝑇に

おける価格の予測の初期値とする。以下の手順 1~5 によって均衡を計算する。

1 与えられた𝑓𝑓(𝑘𝑘)(𝑦𝑦, 𝜉𝜉)のもと、式(3.19)に従って、各ハードウェア j におけるソフト

ウェアの割引現在価値ωj(𝑘𝑘)(𝑦𝑦)を計算する。

2 ハードウェアを購入する選択肢の価値関数𝑣𝑣1(𝑘𝑘+1), … , 𝑣𝑣𝐽𝐽

(𝑘𝑘+1)を式(3.20)により計算す

る。ハードウェアの購入を待つことの選択肢の価値関数𝑣𝑣0(𝑘𝑘+1)

を式(3.21)により計算

する。

3 𝑣𝑣0(𝑘𝑘+1), … , 𝑣𝑣𝐽𝐽

(𝑘𝑘+1)を用いて式(3.23)によりシェアを計算し、それを用いて企業のベル

マン方程式(3.26)の右辺の最大化問題を解いたときの価格𝜎𝜎𝑗𝑗(𝑘𝑘+1)(𝑦𝑦, 𝜉𝜉)を計算して、

ハードウェア j の価格𝜎𝜎𝑗𝑗(𝑘𝑘)(𝑦𝑦, 𝜉𝜉)を更新する。

4 式(3.24)において𝑝𝑝 = 𝜎𝜎𝑗𝑗(𝑘𝑘+1)(𝑦𝑦, 𝜉𝜉)としたときの installed base の成長𝑓𝑓(𝑘𝑘+1)(𝑦𝑦, 𝜉𝜉)を

計算して、𝑓𝑓(𝑘𝑘)(𝑦𝑦, 𝜉𝜉)を更新する。 5 𝜎𝜎𝑗𝑗, 𝑣𝑣𝑗𝑗が収束しているかどうかを式(4.27),(4.28)で判定する。

��𝑣𝑣𝑗𝑗(𝑘𝑘+1) − 𝑣𝑣𝑗𝑗

(𝑘𝑘)�� < 𝜀𝜀𝑣𝑣 (4.27)

��𝜎𝜎𝑗𝑗

(𝑘𝑘+1) − 𝜎𝜎𝑗𝑗(𝑘𝑘)�� < 𝜀𝜀𝜎𝜎 (4.28)

ここで、𝜀𝜀𝑣𝑣 , 𝜀𝜀𝜎𝜎は十分小さい正の数である。もし、式(4.27),(4.28)の両方が成立してい

るのであれば、𝑣𝑣𝑗𝑗(𝑘𝑘+1),𝜎𝜎𝑗𝑗

(𝑘𝑘+1),𝑓𝑓(𝑘𝑘+1)が均衡における、選択肢の価値関数、価格、install

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32

base の成長となる。もしそうでないならば、手順 1 にもどって、手順 1~5 を収束

するまで繰り返す。

推定結果を表 4-9、4-10 にまとめた。

表 4-9 対称のケースの市場集中度

γの倍率 0.25 0.50 0.75 1.00

C1 0.501 0.503 0.508 0.845

出所:Dubé et al. (2010) より作成

表 4-10 推定したパラメーターを用いたケースの市場集中度

γの倍率 0.25 0.50 0.75 1.00

C1 0.600 0.593 0.562 0.843

出所:Dubé et al. (2010) より作成

表 4-9 では、𝛾𝛾が 0.25~0.75 倍のときの市場集中度はほぼ 0.5 と、間接ネットワーク効果が

市場集中度に影響を与えていないのに対し、𝛾𝛾が 1 倍のときは、市場集中度は 0.845 とかな

り高くなっている。このことから、この市場では、間接ネットワーク効果の強さは市場集中

度に影響を与えているといえる。表 4-10 では、𝛾𝛾が 0.25~0.75 倍のときの市場集中度は約

0.6 であるが、𝛾𝛾が 1 倍のときは、対称のケースとほぼ同じ 0.843 となることから、非対称

なパラメーターのときも、間接ネットワーク効果が市場集中度に影響を与えるときは、あま

り関係なくなることがわかる。

アメリカの据え置きゲーム市場の需要のパラメーターを用いた分析で、ソフトウェアか

らの効用を増加させたとき、表 4-10 では市場集中度が 25%近く上昇したので、消費者

の予測は市場集中度に大きな影響を与えている、と Dubé et al. (2010) では結論付けら

れた。

4.1.3 Binken and Stremersch (2009) Binken and Stremersch (2009) では、アメリカの据え置きゲーム市場で、スパース

ターなソフトウェアがハードウェアの売上に影響を与えているかどうかの実証分析が

行われた。用いられたデータセットは、1993 年 1 月から、2004 年 12 月までのデータ

セットで、分析の対象となったハードウェアは、3DO, Atari Jaguar, Xbox, Nintendo64,

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GameCube, スーパーファミコン, ドリームキャスト, セガサターン, PlayStation,

PlayStation2 の 11 種類である。雑誌での評価が高かったものを、スーパースターなソ

フトウェアとして扱った。スーパースターなソフトウェアタイトル数がハードウェアの

売上台数に影響を与えるのかどうかを、回帰分析によって分析された。その結果を表 4-

11 にまとめた。

表 4-11 回帰結果(被説明変数:ハードウェア売上台数)

変数 推定値 Se

ハードウェアの価格 −1.073∗∗∗ 0.195

ハードウェアの売上台数 −0.008∗∗∗ 0.002

ソフトウェアの価格 0.345 0.261

ソフトウェアタイトル数 −0.19 0.064

新ソフトウェアタイトル数 0.274∗∗∗ 0.025

ソフトウェアの品質 0.013∗∗ 0.006

スーパースターなソフトウェアタイトル数 0.058∗∗ 0.016

スーパースターなソフトウェアタイトル数(ラグ 1) 0.081∗∗∗ 0.017

スーパースターなソフトウェアタイトル数(ラグ 2) 0.077∗∗∗ 0.017

スーパースターなソフトウェアタイトル数(ラグ 3) 0.064∗∗∗ 0.017

スーパースターなソフトウェアタイトル数(ラグ 4) 0.040∗∗ 0.017

スーパースターなソフトウェアタイトル数(ラグ 5) 0.015 0.016

12 月ダミー 0.550∗∗∗ 0.023

(注)***は 1%水準有意、**は 5%水準有意

出所:Binken and Stremersch (2009) より作成

結果として、ソフトウェアタイトル数と、そのラグ 1、ラグ 2、ラグ 3 の係数が正の有

意であった。よって、ハードウェアの売り上げ台数には、スーパースターなソフトウェ

アタイトル数が正の影響を及ぼしていると結論付けられた。

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4.2 データセット

使用したデータは、ファミ通ゲーム白書 2007(-2013)の、2005 年 12 月から 2012 年 12

月までの、月別の時系列データである。Wii、PS3、XBOX360 の 3 つのハードウェアの、

売り上げ台数、価格のデータを用いた。価格のデータに関しては、ハードウェアの総売上額

から売り上げ台数を割ったときの、平均価格を用いた。また、各ホームページから、各月の

ゲームタイトル数のデータを用いた。データの記述統計量を表 4-12 にまとめた。また、そ

れぞれの変数について、グラフを図 4-1, 4-2, 4-3 にまとめた。

表 4-12 主なデータの記述統計量

変数 コンソール mean Sd min Max

ハードウェア累計

売上台数 Wii 173435 178737 13464 989118

PS3 118176 77524 22343 496598

XB360 18682 16967 2317 99798

平均価格 Wii 20248 2265 18093 23470

PS3 34290 9885 23870 54041

XB360 27591 5168 18576 36162

ゲームタイトル数 Wii 293.9 143.8 21 455

PS3 254.2 184.3 7 627

XB360 310.2 195.8 10 635

累計売上台数については、時間とともに上昇していったが、全時点で Wii が 3 つのハード

ウェアで最も大きかった。XBOX360 は他のハードウェアに比べて極めて小さく、全時点で

上昇度が非常に小さかった。PS3 は全時点で Wii と XBOX360 の中間に位置していた。平

均価格については、どのハードウェアも時間とともに減少していくといえることが分かっ

た。ほとんどの時点で、PS3 が最も高く、次に XBOX360 が高く、Wii が最も低いこと

が分かった。ソフトウェアタイトル数については、XBOX360 が最も大きかったが、ど

のハードウェアもあまり変わらないことが分かった。上昇度は途中までどのハードウェ

アもほとんど同じであったが、Wii の価格が大きく下がったあたりから、Wii のソフト

ウェアタイトル数の伸び率は低くなった。 4.3 静的なモデルにおける実証分析

本節では、Clements and Ohashi (2005) で議論された静的なモデルを用いて国内据

え置きゲーム市場における実証分析を行った。消費者の選択についての推定で用いるモ

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図 4-1 累計売上台数のグラフ

図 4-2 平均価格のグラフ

050

0000

010

0000

0015

0000

00

2005m7 2007m1 2008m7 2010m1 2011m7 2013m1t

2000

030

000

4000

050

000

6000

0

2005m7 2007m1 2008m7 2010m1 2011m7 2013m1t

PS3

Wii

XBOX360

Wii

PS3

XBOX360

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図 4-3 ソフトウェアタイトル数のグラフ

デルは、式(4.2)を用いて、式(4.29)で計算する。

ln�𝑠𝑠𝑗𝑗𝑡𝑡� − ln(𝑠𝑠0𝑡𝑡) = 𝛽𝛽0 + 𝛽𝛽𝑝𝑝𝑝𝑝𝑗𝑗𝑡𝑡 + 𝜔𝜔𝑁𝑁𝑗𝑗𝑡𝑡 + 𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡 (4.29)

分析は通常のロジットモデルを用いた。ハードウェアダミー、12 月ダミーを加えた。

𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡は誤差項である。𝑝𝑝𝑗𝑗𝑡𝑡はハードウェア j の t 期の価格である。𝑁𝑁𝑗𝑗𝑡𝑡はハードウェア j の t期で有効なソフトウェア数である。内生変数の𝑝𝑝𝑗𝑗𝑡𝑡,𝑁𝑁𝑗𝑗𝑡𝑡に対する操作変数として、費用に

関係する変数である、ハードウェアの製造時に用いられると考えられる、光ディスク装

置の生産者物価指数、メモリの生産者物価指数 2を用いた。また、ハードウェアの平均

ソフトウェア発売経過時間は、需要のショック𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡とはほとんど相関がなく、それが若い

ほどハードウェアのブランドイメージが高いため、価格やソフトウェアタイトル数が大

きくなると考え、𝑝𝑝𝑗𝑗𝑡𝑡,𝑁𝑁𝑗𝑗𝑡𝑡の操作変数として用いた。またハードウェア発売経過年数も、

同様に需要のショック𝜉𝜉𝑗𝑗𝑡𝑡とはほとんど相関がなく、若いほど価格が高く設定され、ソフ

トウェア供給量も大きくなる傾向があるため、これも𝑝𝑝𝑗𝑗𝑡𝑡,𝑁𝑁𝑗𝑗𝑡𝑡の操作変数として用いた。

また、これらの 2 乗項や交差項も、𝑝𝑝𝑗𝑗𝑡𝑡,𝑁𝑁𝑗𝑗𝑡𝑡の操作変数として追加した。 ソフトウェア数の推定は、式(3.16)を用いて、式(4.30)で推定した。

2 どちらの生産者物価指数も、日本銀行ホームページの統計

(http://www.boj.or.jp/statistics/index.htm/)からデータを用いた。

020

040

060

0

2005m7 2007m1 2008m7 2010m1 2011m7 2013m1t

XBOX360

PS3

Wii

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log�𝑁𝑁𝑗𝑗𝑡𝑡� = 𝜙𝜙 + 𝜆𝜆 log�𝐼𝐼𝐵𝐵𝑗𝑗𝑡𝑡+1� + 𝜂𝜂𝑗𝑗𝑡𝑡 (4.30)

ζjtは誤差項である。𝐼𝐼𝐵𝐵𝑗𝑗𝑡𝑡+1は次の期の installed base である。データの期間ではハード

ウェアの世代交代は行われなかったため、推定式にハードウェア発売経過時間ℎ_𝑎𝑎𝑎𝑎𝑒𝑒𝑗𝑗𝑡𝑡や、ℎ_𝑎𝑎𝑎𝑎𝑒𝑒𝑗𝑗𝑡𝑡と𝐼𝐼𝐵𝐵𝑗𝑗𝑡𝑡+1の交差項は追加をしなかった。また、𝜂𝜂𝑗𝑗𝑡𝑡が上昇すると、𝑁𝑁𝑗𝑗𝑡𝑡が上昇し、

式(4.29)で𝑠𝑠𝑗𝑗𝑡𝑡が上昇し、それにより𝐼𝐼𝐵𝐵𝑗𝑗𝑡𝑡+1も上昇しするので、𝐼𝐼𝐵𝐵𝑗𝑗𝑡𝑡+1は𝜂𝜂𝑗𝑗𝑡𝑡と相関を持つ内

生変数であると考えられる。それに対する操作変数として、t 期のハードウェア j の価

格と、t 期で購入を決定した消費者のなかのハードウェア j を選んだ人のシェアを用い

た。推定結果を表 4-13 に示した。

表 4-13 モデルの推定結果

変数 (1) (2) (3) (4)

ハードウェア価格 −0.000046∗∗∗

(0.0000062)

−0.000041∗∗∗

(0.0000043)

ソフトウェアタイ

トル数

0.0038∗∗∗

(0.00020)

0.0038∗∗∗

(0.00016)

ln(IB)

0.78∗∗∗ (0.080)

0.47∗∗∗

(0.044)

サンプルサイズ 232 232 229 229

(注)***は 1%水準有意

括弧は標準誤差

表 4-13 の(1)では、式(4.29)の消費者の選択のモデルにおいて、2 段階最小二乗法を用

いた推定結果を示した。(2)では、式(4.29)のモデルにおいて、通常の最小二乗法を用い

て推定した。どちらの推定結果でも、ハードウェア価格の係数は、符号が負で有意にな

り、ソフトウェアタイトル数の係数は、符号が正で有意になり、予想される結果と整合

的であるといえる。また、内生性を考慮せずに回帰すると、ハードウェアの価格の係数

が(−0.000046)から(−0.000041)となり、プラスの方向に内生性バイアスが発生してい

るということがいえる。また、ソフトウェアタイトル数の係数は、ほとんど変化が見ら

れなかった。表 4-13 の(3)では、式(4.30)のソフトウェアタイトル数のモデルにおいて、

2段階最小二乗法を用いて推定した。(4)では、式(4.30)のモデルにおいて、通常の最小

二乗法を用いて推定した。どちらの推定結果も、ln(IB)の係数は、符号が正で有意にな

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り、予想される結果と整合的であるといえる。また、内生性を考慮せずに回帰すると、

ln(IB)の係数が(0.78)から(0.47)となり、マイナスの方向に内生性バイアスが発生してい

るということがいえる。全体として、先行研究の Clements and Ohashi (2005) と似た

ような結果になっているといえる。 次に、表 4-13 の(1),(3)の推定値を用いて計算した、需要の価格弾力性Ep、需要のソ

フトウェアタイトル数弾力性Esや、−𝐸𝐸𝑆𝑆/𝐸𝐸𝑝𝑝の値、ソフトウェタイトル数𝑁𝑁𝑗𝑗𝑡𝑡の installed base 𝐼𝐼𝐵𝐵𝑗𝑗𝑡𝑡についての弾力性を表 4-14 に示した。年毎の平均値を表にまとめた。スペー

スの関係上、2006 年、2008 年、2010 年、2012 年の値のみ示した。

表 4-14 需要の弾力性

ハードウェア 需要の弾力性 2006 年 2008 年 2010 年 2012 年

Wii 価格(Ep) −1.02 −0.91 −0.66 −0.63

ソフトウェア(Es) 0.08 0.59 1.14 1.30 −ES/𝐸𝐸𝑝𝑝 0.08 0.65 1.72 2.04

𝑁𝑁𝑗𝑗𝑡𝑡の𝐼𝐼𝐵𝐵𝑗𝑗𝑡𝑡弾力性 0.55 0.75 0.77 0.78

PlayStation3 価格(Ep) −2.41 −1.65 −1.17 −0.94

ソフトウェア(Es) 0.05 0.38 0.94 1.78 −ES/𝐸𝐸𝑝𝑝 0.02 0.23 0.80 1.90

𝑁𝑁𝑗𝑗𝑡𝑡の𝐼𝐼𝐵𝐵𝑗𝑗𝑡𝑡弾力性 0.44 0.75 0.76 0.77

XBOX360 価格(Ep) −1.61 −1.35 −1.04 −1.13

ソフトウェア(Es) 0.14 0.88 1.50 2.20

−ES/𝐸𝐸𝑝𝑝 0.09 0.65 1.45 1.95

𝑁𝑁𝑗𝑗𝑡𝑡の𝐼𝐼𝐵𝐵𝑗𝑗𝑡𝑡弾力性 0.72 0.75 0.77 0.78 全ハードウェアの全期間での𝐸𝐸𝑝𝑝の平均は−1.17となった。𝐸𝐸𝑝𝑝の推定値はハードウェア間

で違いがみられた。Wii が最も𝐸𝐸𝑝𝑝の絶対値が小さく、PS3 が最も𝐸𝐸𝑝𝑝の絶対値が大きく、

XBOX360 はその間となった。また、どのハードウェアも、時間がたつほど𝐸𝐸𝑝𝑝の絶対値

が小さくなることが分かった。𝐸𝐸𝑠𝑠に関しては、全ハードウェアの全期間での平均は0.97となった。𝐸𝐸𝑠𝑠の推定値についてもハードウェア間で違いがみられた。2010 年までは、

Wii の𝐸𝐸𝑠𝑠の値は二番目に大きく PS3 の値は最も小さかった。2011 年からは、Wii の𝐸𝐸𝑠𝑠の値は最も小さく PS3 の値は二番目に大きかった。XBOX360 の𝐸𝐸𝑠𝑠の値は全期間通し

て最も大きかった。また、どのハードウェアも、時間がたつほど𝐸𝐸𝑠𝑠の値は大きくなって

いくことが分かった。−𝐸𝐸𝑆𝑆/𝐸𝐸𝑝𝑝は、ソフトウェアタイトル数が 1%上昇したときの効果

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と、何%のハードウェアの価格の減少が同じ効果を持つかを示したものである。全ハー

ドウェアの全期間での−𝐸𝐸𝑆𝑆/𝐸𝐸𝑝𝑝の平均は1.02となった。どのハードウェアも、時間ととも

に−𝐸𝐸𝑆𝑆/𝐸𝐸𝑝𝑝の値が増加していくことが分かった。−𝐸𝐸𝑆𝑆/𝐸𝐸𝑝𝑝の値は、どのハードウェアも発

売開始時は0.1未満であったが、2012 年末にはどのハードウェアも約2.1となった。ハー

ドウェア間の違いとしては、2011 年までは、Wii と XBOX360 の−𝐸𝐸𝑆𝑆/𝐸𝐸𝑝𝑝の値はおおむ

ね同じで、PS3 の値はそれらよりも小さいものとなった。2012 年では、どのハードウ

ェアもほぼ同じ値となった。 結論として、ハードウェアの導入期においては需要は価格に対しとても弾力的であり、

ソフトウェアタイトル数に対しほとんど弾力的でなかった。ハードウェアの導入が進む

ほど、需要の価格弾力性は減少していき、需要のソフトウェアタイトル数弾力性は上昇

していった。そのため、Clements and Ohashi (2005) と同様に、ハードウェア企業は

ハードウェア発売開始時期には低い価格をつけることで、消費者の選択を誘うべきであ

るといえる。図 4-1, 4-2, 4-3 の実際のデータでは、Wii の価格は他の 2 つのハードウェ

アと比べて大幅に低い価格となっていた。そのため、Wii は勝利したといえる。一方、

初期において XBOX360 の価格は PS3 よりも大幅に低いものとなっており、またソフ

トウェタイトル数も全期間で PS3 より多かったため、XBOX360 が敗北した理由につ

いては明らかではなかった。次節では、Dubé et al. (2010) で議論された動的なモデル

を用いて、明らかでなかった PS3 に対し XBOX360 が敗北した理由なども明らかにす

るよう試みた。 4.4 動的なモデルにおける実証分析 本節では、Dubé et al. (2010) で議論された動的なモデルを用いて国内据え置きゲー

ム市場における実証分析を行った。推定する価格関数のモデル𝒫𝒫𝑗𝑗、消費者の決定のモデ

ルℒ𝑗𝑗を、BIC を基準に決定した。 表 4-15 は各モデルの対数尤度、BIC をまとめたものである。モデル 1 では、各ハー

ドウェアの installed base と 1 月から 11 月までの月ダミーを用いて推定した。モデル

2 では、モデル 1 にタイムトレンド項を追加して推定した。モデル 3 では、モデル 2 に

各ハードウェアの installed base の 2 乗項を追加して推定した。モデル 4 では、モデル

3 に光ディスク装置やメモリの生産者物価指数を追加して推定した。モデル 5 では、

Binken and Stremersch (2009) の結果を踏まえ、superstar なソフトウェアが消費者

の選択に影響を及ぼす可能性を考え、『ファミ通ゲーム白書 2007(-2013) 』のゲームレビ

ュー総合評価の偏差値が 55 以上のソフトウェアは特に評価の高い superstar なソフトウェ

アとして、そのソフトウェアタイトル数をモデル 4 に追加して推定した。結果として、BICの値から、モデル 4 の installed base とその 2 乗項、月ダミー、タイムトレンド項、生産者

物価指数を用いて推定したモデルが採用された。

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40

表 4-15 のモデル 4 を用いて推定した価格関数𝒫𝒫𝑗𝑗の推定結果を表 4-16 に示した。推定

は最尤法による。 表 4-15 モデルの当てはまり

モデル Wii PS3 XBOX360

LL BIC LL BIC LL BIC

1 𝒫𝒫𝑗𝑗 115.6 −166.8 92.3 −120.2 70.2 −76.1

ℒ𝑗𝑗 87.7 −98.2 115.5 −153.7 180.7 −284.2

2 𝒫𝒫𝑗𝑗 134.4 −200.3 92.8 −117.0 72.6 −76.5

ℒ𝑗𝑗 94.2 −106.9 119.2 −156.9 169.6 −257.6

3 𝒫𝒫𝑗𝑗 163.3 −245.9 110.5 −152.2 98.5 −125.9

ℒ𝑗𝑗 146.0 −210.6 183.1 −284.7 261.8 −442.2

4 𝒫𝒫𝑗𝑗 171.0 −264.7 111.1 −144.7 103.0 −126.0

ℒ𝑗𝑗 147.6 −213.7 183.4 −285.3 259.4 −437.3

5 𝒫𝒫𝑗𝑗 174.7 −259.3 113.9 −137.5 108.0 −122.7

ℒ𝑗𝑗 150.3 −206.1 185.0 −275.7 262.0 −429.5

推定結果では、PS3 と XBOX360 では自分の installed base が増えるほど価格が下が

るという結果になり、3.1 節でみた単純な 2 期間モデルの、自社の installed base が増

えるほど価格が減少していくという結果と整合的であった。一方 Wii に関しては、自分

の installed base の係数は、符号は正で有意でなく、あまり整合的であるとは言えなか

った。また、生産者物価指数の係数の符号はマイナスが予想されるが、PS3 の推定にお

けるメモリの生産者物価指数の係数が正で有意であったため、あまり整合的でないとい

える。推定に用いたデータは、パネルデータではなく時系列データであったため、時間

による効果をうまく取り切れなく、頑健な結果を得られなかったと考えられる。先行研

究 Dubé et al. (2010) でも、時系列データを用いており推定結果があまり頑健でなく、

同じような結果となったといえる。 表 4-15のモデル 4を用いて推定した消費者の決定のモデルℒ𝑗𝑗の推定結果を表 4-17に

示した。推定は最尤法による。推定結果では、どのハードウェアも自分の installed baseが増えるほど、消費者がそのハードウェアを採用する確率が増えるといえ、理論と整合

的であるといえる。他の変数の係数についてもおおむね有意であり、ある程度うまくモ

デルがあてはまっているといえる。

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表 4-16 価格関数𝒫𝒫𝑗𝑗の推定結果

Wii PS3 XBOX360

推定値 se 推定値 se 推定値 se

切片 10,6080∗∗∗ 0.1180 11.5013∗∗∗ 0.2864 11.8579∗∗∗ 0.6008

yWii 0.0067 0.0042 0.0125 0.0095 0.0060 0.0113

yWii2 0.0000 0.0000 −0.0000 0.0000 −0.0001∗ 0.0001

yPS3 −0.0438 0.0060 −0.0808∗∗∗ 0.0146 0.0546∗∗∗ 0.0199

yPS32 0.0002∗∗∗ 0.0000 0.0005∗∗∗ 0.0001 −0.0004∗∗∗ 0.0001

yXB360 0.0534 0.0479 −0.0958 0.1065 −0.2215 0.1534

yXB3602 −0.0015 0.0031 0.0051 0.0069 0.0075 0.0081

タイムトレンド項 0.0019 0.0053 0.0318∗∗∗ 0.0121 −0.0162 0.0163

1 月 0.0037 0.0136 0.0291 0.0318 −0.0403 0.0418

2 月 0.0021 0.0135 0.0267 0.0316 −0.0373 0.0415

3 月 0.0072 0.0142 0.0756∗∗∗ 0.0332 −0.0314 0.0432

4 月 0.0117 0.0136 0.0672∗∗∗ 0.0319 −0.0032 0.0422

5 月 0.0008 0.0135 0.0286 0.0318 −0.0227 0.0427

6 月 0.0031 0.0134 0.0423 0.0316 −0.0028 0.0424

7 月 0.0016 0.0135 0.0002 0.0317 −0.0119 0.0431

8 月 0.0196 0.0135 0.0008 0.0318 −0.0319 0.0432

9 月 0.0124 0.0136 −0.0289 0.0321 −0.0038 0.0426

10 月 −0.0285∗∗ 0.0143 −0.0875∗∗∗ 0.0341 −0.0475 0.0443

11 月 −0.0136 0.0150 −0.0329 0.0354 −0.0050 0.0449

PPI1 −0.0036∗∗∗ 0.0014 −0.0039 0.0035 −0.0067 0.0047

PPI2 −0.0006∗ 0.000347 0.0016∗ 0.0008 −0.0008 0.0011

λ2 0.0005∗∗∗ 0.0001 0.0030∗∗∗ 0.0005 0.0053∗∗∗ 0.0008

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表 4-17 消費者の決定のモデルℒ𝑗𝑗の推定結果

Wii PS3 XBOX360

推定値 se 推定値 se 推定値 se

切片 −3.9180∗∗ 0.0764 −4.9494∗∗∗ 0.0449 −5.7414∗∗∗ 0.0184

yWii 0.0616∗∗∗ 0.0039 0.0351∗∗∗ 0.0022 0.0110∗∗∗ 0.000720

yWii2 −0.0004∗∗∗ 0.0000 −0.0003∗∗∗ 0.0000 −0.0001∗∗∗ 0.0000

yPS3 0.0061 0.0070 0.0471∗∗∗ 0.0045 0.0042∗∗∗ 0.0016

yPS32 0.0001∗∗ 0.0000 −0.0001∗∗∗ 0.0000 0.0000∗∗ 0.0000

yXB360 −0.1792∗∗∗ 0.0394 −0.0692 0.0216 0.2062 0.0111

yXB3602 0.0100∗∗∗ 0.0027 0.0045∗∗∗ 0.0014 0.0045∗∗∗ 0.0006

タイムトレンド項 0.0154∗∗ 0.0067 0.0044 0.0038 −0.0051∗∗∗ 0.0011

1 月 0.0462∗∗ 0.0180 0.0261∗∗ 0.0109 0.0044 0.0033

2 月 0.0484∗∗∗ 0.0181 0.0246∗∗ 0.00108 0.0035 0.0033

3 月 0.0447∗∗ 0.0177 0.0261∗∗ 0.0106 0.0024 0.0033

4 月 0.0495∗∗∗ 0.0181 0.0302∗∗∗ 0.0109 0.0046 0.0034

5 月 0.0380∗∗ 0.0174 0.0179∗ 0.0105 0.0028 0.0032

6 月 0.0255 0.0177 0.0074 0.0106 0.0020 0.0033

7 月 0.0236 0.0178 0.0070 0.0107 0.0030 0.0033

8 月 0.0357∗ 0.0196 0.0123 0.0118 0.0046 0.0036

9 月 0.0292 0.0189 0.0117 0.0114 0.0061∗ 0.0035

10 月 0.0285 0.0210 0.0127 0.0128 0.0093∗∗ 0.0038

11 月 0.0007 0.0191 0.0025 0.0115 0.0062∗ 0.0034

ξWii −0.0083∗∗ 0.0039 −0.0017 0.0024 −0.0011 0.0007

ξWii2 −0.0045∗ 0.0024 −0.0015 0.0015 −0.0004 0.0005

ξPS3 0.0096∗∗∗ 0.0047 0.0033 0.0028 −0.0001 0.0006

ξPS32 −0.0043 0.0034 −0.0041∗∗∗ 0.0020 −0.0012 0.000720

ξXB360 −0.0018 0.0040 −0.0025 0.0024 −0.0004 0.0005

ξXB3602 −0.0033 0.0025 −0.0021 0.0015 −0.0005∗∗∗ 0.0000

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表 4-18 では、ソフトウェアタイトル数のモデルℋ𝑗𝑗の推定を行った。推定は最尤法を

用いた。

表 4-18 ソフトウェアタイトル数のモデルℋ𝑗𝑗の推定結果

Wii PlayStation3 Xbox360

推定値 se 推定値 se 推定値 Se

切片 8.26∗∗∗ 0.0267 8.90∗∗∗ 0.0474 10.82∗∗∗ 0.1025

ln (𝑦𝑦𝑗𝑗𝑡𝑡+1) 1.49∗∗∗ 0.0136 1.41∗∗∗ 0.0170 1.29∗∗∗ 0.0238

推定結果では、どのパラメーターも有意であり、installed base の係数の符号は正で、

理論と整合的であった。このことから、モデルのあてはまりはとてもいいといえる。

表 4-19 では、式(4.11)~(4.16)により{𝑦𝑦𝑡𝑡 , 𝜉𝜉𝑡𝑡 ,𝑝𝑝𝑡𝑡 ,𝑛𝑛𝑡𝑡 , 𝑠𝑠𝑡𝑡}𝑡𝑡=0𝑇𝑇 を𝑇𝑇 = 600までシミュレーシ

ョンを 50 回して、それをもとに、𝛽𝛽 = 0.9として式(4.17)~式(4.23)より、消費者の選択

肢に対する価値関数𝒱𝒱0, … ,𝒱𝒱Jを計算し、その値を用いて GMM により推定した消費者の

価値関数のパラメーターを示した。

表 4-19 消費者の価値関数のパラメーターの推定結果

パラメーター 推定値 se

𝛿𝛿𝑆𝑆𝑖𝑖𝑖𝑖 0.0012 0.3343

𝛿𝛿𝑃𝑃𝑆𝑆3 0.0009 0.7967

𝛿𝛿𝑋𝑋𝐵𝐵𝑋𝑋𝑋𝑋360 −0.0012 0.2558

𝛼𝛼 0.00002∗∗∗ 0.00001

𝛾𝛾 0.00183∗∗∗ 0.00035

𝛹𝛹 −0.0003 0.00456

推定結果では、ハードウェアそのものの価値であるδWii,δPS3,δXBOX360は有意ではなか

った。消費者の価格に対するパラメーターである𝛼𝛼について、−𝛼𝛼は符号が負で有意とな

ったことから、理論と整合的であるといえる。消費者のソフトウェアのバラエティに対

するパラメーターである𝛾𝛾について、符号は正で有意となったことから、理論と整合的

であるといえる。消費者の需要のショックに対するパラメーター𝛹𝛹は有意ではなかった。

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全体的に先行研究 Dubé et al. (2010) で推定されたパラメーターと似たような結果に

なったといえる。

この表 4-19 の推定されたパラメーターを用いて、Dubé et al. (2010) で議論された

4.1.2 の手順 1~5 に従って、𝛽𝛽 = 0.9, 𝛽𝛽𝑓𝑓 = 0.99としたときの𝑇𝑇 = 48の市場集中度を計算

した。企業のパラメーターは PlayStation3 に統一したときの𝑇𝑇 = 48における市場集中

度を表 4-20 に示した。PlayStation3 の製造の限界費用は GamesIndustry.biz の記事 3

より、𝑐𝑐𝑃𝑃𝑆𝑆3 = 40000として計算した。また、PS3 のソフトに対するロイヤリティについ

てのデータは得られなかったため、𝑎𝑎𝑃𝑃𝑆𝑆3 = 0とした。

表 4-20 対称のケースの市場集中度

𝛾𝛾の倍率 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00

𝐶𝐶1 0.335 0.334 0.336 0.354 0.405

𝐶𝐶2 0.334 0.333 0.333 0.326 0.304

𝐶𝐶3 0.331 0.333 0.331 0.320 0.291

市場集中度の推定結果では、𝛾𝛾の倍率が 0.00~0.50 のときはほとんど市場集中度に偏りは

見られなかったが、𝛾𝛾の倍率が 1.00 になると上位一社の市場集中度は 40.5%となり、間接

ネットワーク効果は市場集中度に影響を与えているといえる。一方、実際のデータの値で

は、𝑇𝑇 = 48で Wii、PS3、XBOX360 のそれぞれのハードウェアの一社集中度は𝐶𝐶𝑆𝑆𝑖𝑖𝑖𝑖 =

0.604,𝐶𝐶𝑃𝑃𝑆𝑆3 = 0.320,𝐶𝐶𝑋𝑋𝐵𝐵𝑋𝑋𝑋𝑋360 = 0.076となったが、間接ネットワーク効果のみではそこ

まで市場集中度が生まれるような結果にはならなかった。

表 4-21 では、それぞれのハードウェアの推定したパラメーターを用いて、𝛽𝛽 =

0.9, 𝛽𝛽𝑓𝑓 = 0.99としたときの𝑇𝑇 = 48の市場集中度を計算した。Wii、XBOX360 の製造の

限界費用についてデータが得られなかった。PS3 の限界費用を発売開始時の価格の約 8

割に設定したので、Wii の限界費用も発売開始時の価格の約 8 割の𝑐𝑐𝑆𝑆𝑖𝑖𝑖𝑖 = 18000とした。

また、XBOX360 は 1.3 節でみたように PS3 とほぼ同じ性能であったので 4、限界費用

は𝑐𝑐𝑋𝑋𝐵𝐵𝑋𝑋𝑋𝑋360 = 52500とした。ソフトウェアに対するロイヤリティについても情報を得る

ことができなかったので、𝑎𝑎𝑆𝑆𝑖𝑖𝑖𝑖 = 𝑎𝑎𝑃𝑃𝑆𝑆3 = 𝑎𝑎𝑋𝑋𝐵𝐵𝑋𝑋𝑋𝑋360 = 0として計算した。Wii、PS3、

3 http://www.gamesindustry.biz/articles/ps3-production-costs-halved-says-analyst 4 http://www.gamesindustry.biz/articles/2013-11-26-xbox-one-costs-USD471-to-make-report

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XBOX360 のそれぞれのハードウェアについて、一社集中度𝐶𝐶𝑆𝑆𝑖𝑖𝑖𝑖,𝐶𝐶𝑃𝑃𝑆𝑆3,𝐶𝐶𝑋𝑋𝐵𝐵𝑋𝑋𝑋𝑋360を計算し

た。

表 4-21 それぞれのパラメーターを用いたケースの市場集中度

𝛾𝛾の倍率 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00

𝐶𝐶𝑆𝑆𝑖𝑖𝑖𝑖 0.441 0.000 0.000 0.000 0.000

𝐶𝐶𝑃𝑃𝑆𝑆3 0.279 0.000 0.000 0.000 0.000

𝐶𝐶𝑋𝑋𝐵𝐵𝑋𝑋𝑋𝑋360 0.280 1.000 1.000 1.000 1.000

実際のデータの値では、𝑇𝑇 = 48で Wii、PS3、XBOX360 のそれぞれのハードウェアの

一社集中度は𝐶𝐶𝑆𝑆𝑖𝑖𝑖𝑖 = 0.604,𝐶𝐶𝑃𝑃𝑆𝑆3 = 0.320,𝐶𝐶𝑋𝑋𝐵𝐵𝑋𝑋𝑋𝑋360 = 0.076となったが、表 4-21 の計算結

果は実際の値とは大きく異なるものとなった。データの集計期間で最終的なハードウェ

アのシェアは𝑠𝑠𝑆𝑆𝑖𝑖𝑖𝑖 = 0.24, sPS3 = 0.16, sXBOX360 = 0.03と、XBOX360 が他のハードウェ

アとくらべて非常に小さかったが、ソフトウェアタイトル数はハードウェアの中で最も

多く、推定した XBOX360 のハードウェアタイトル数のモデルℋXBOX360の下では、他の

ハードウェアと比べて非常に多いソフトウェアタイトル数となってしまった。例えば、

installed base のシェアが 0.1 のもとでは、ソフトウェアタイトル数はそれぞれ、𝑛𝑛𝑆𝑆𝑖𝑖𝑖𝑖 =

125, 𝑛𝑛𝑃𝑃𝑆𝑆3 = 285, 𝑛𝑛𝑋𝑋𝐵𝐵𝑋𝑋𝑋𝑋360 = 2565 となり、installed base のシェアが 0.2 のもとでは、

それぞれ、𝑛𝑛𝑆𝑆𝑖𝑖𝑖𝑖 = 351, 𝑛𝑛𝑃𝑃𝑆𝑆3 = 758, 𝑛𝑛𝑋𝑋𝐵𝐵𝑋𝑋𝑋𝑋360 = 6272となり、XBOX360 と他 2 つのハ

ードウェア間で大きく差が生じた。実際に XBOX360 がシェアを獲得したとしても、こ

れほどソフトウェア数が増えるとは考えづらい。これにより、均衡の計算において、消

費者の XBOX360 におけるソフトウェアの割引現在価値𝜔𝜔𝑋𝑋𝐵𝐵𝑋𝑋𝑋𝑋360の計算値が他のハー

ドウェアと比べて非常に大きくなってしまい、結果としてほとんどの消費者が

XBOX360 を採用することになってしまい、表 4-21 のように、𝛾𝛾 > 0のときに XBOX360

のみが採用されることになるという結果となったといえる。日経 BP 社ゲーム産業取材

班著 (2016) によると、Nintendo64 や PlayStation のときとくらべ、ハードウェアの

高機能化によりソフトウェアの開発費が高騰している。そのため、実際にはソフトウェ

ア市場に参入障壁が存在していると考えられる。ソフトウェアタイトル数のモデルにお

いて、ソフトウェア市場は自由参入であるという仮定をおいたため、ソフトウェアタイ

トル数のモデルはあまり現実と整合的でない可能性があることが、表 4-21 が極端な結

果となった一つの原因であるといえる。また、消費者の各ハードウェアの価値関数を構

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築する際に、消費者のハードウェアにおいて有効なソフトウェアタイトル数から受ける

価値は、全ハードウェアで同じ強さであるとした。しかし、前田 (2014) によれば、Wii

のソフトウェアは、多くが家族で遊べる大衆向けなもので、個性的なものであった。一

方、XBOX360 のソフトウェアは、多くが海外で開発されたものであり、マニアックな

消費者向けのものであった。ここで、各ハードウェアの消費者は各世帯であり、Wii の

各ソフトウェアは、他のハードウェアのソフトウェアと比べて価値が高い傾向にあり、

XBOX360 の各ソフトウェアは、他のハードウェアのソフトウェアと比べて価値が低い

傾向にあったと考えられる。そのため、𝛾𝛾𝑆𝑆𝑖𝑖𝑖𝑖 = 𝛾𝛾𝑃𝑃𝑆𝑆3 = 𝛾𝛾𝑋𝑋𝐵𝐵𝑋𝑋𝑋𝑋360としたことが、表 4-21 の

結果が現実の結果と大きく異なるものとなったもう一つの原因であると考えられる。例

えば、𝛾𝛾𝑆𝑆𝑖𝑖𝑖𝑖 = 2𝛾𝛾, 𝛾𝛾𝑃𝑃𝑆𝑆3 = 𝛾𝛾, 𝛾𝛾𝑋𝑋𝐵𝐵𝑋𝑋𝑋𝑋360 = 0.1𝛾𝛾としたときの、𝑇𝑇 = 48における Wii、PS3、

XBOX360 のそれぞれのハードウェアの一社集中度は𝐶𝐶𝑆𝑆𝑖𝑖𝑖𝑖 = 0.754 , 𝐶𝐶𝑃𝑃𝑆𝑆3 = 0.201 ,

𝐶𝐶𝑋𝑋𝐵𝐵𝑋𝑋𝑋𝑋360 = 0.037となり、現実の結果と非常に近い結果となった。そのため、実際には

𝛾𝛾𝑆𝑆𝑖𝑖𝑖𝑖 > 𝛾𝛾𝑃𝑃𝑆𝑆3 > 𝛾𝛾𝑋𝑋𝐵𝐵𝑋𝑋𝑋𝑋360であった可能性が高いといえる。

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第 5 章 結論

本論文では、世界全体では Wii、PS3、XBOX360 の競争では、各ハードウェアはほ

とんど同じシェアであったのに対し、日本国内の据え置きゲーム市場における Wii、PS3、XBOX360 の競争では、Wii が非常に大きい市場集中度を持ち、XBOX360 が非常に小

さい市場集中度を持つことになった原因について、据え置きゲーム市場は二面性市場で

あり間接ネットワーク効果が働いていることに着目し、分析を行うことを目的とした。 第 4 章で行った実証分析では、Clements and Ohashi (2005) で議論された静的なモ

デルや、Dubé et al. (2010) で議論された動的なモデルを用いた。Clements and Ohashi (2005) で議論された静的なモデルを用いた実証分析では、推定した弾力性の値から、

Wii はハードウェアの導入期において他のハードウェアと比べて大幅に低価格であっ

たため、勝利したと結論付けられる。一方で、XBOX360 が PS3 に敗北した原因につい

ては明確な結論を得ることはできなかった。 Dubé et al. (2010) で議論された動的なモデルを用いた実証分析では、主に以下の 2

つの原因により良い結果を得ることができなかった。1 つ目の原因は、1994 年から 1998年ごろの Nintendo64 と PlayStation の競争の頃と比べ、2005 年ごろから 2012 年ご

ろの Wii、PlayStation3、XBOX360 の性能向上によるソフトウェアの開発費上昇によ

って、ソフトウェア市場に参入障壁が生じ、ソフトウェア市場の状況が変化したことで

ある。2 つめの原因は、モデルにおいて各ハードウェアのソフトウェアのバラエティに

は差異がないと仮定しており、各ハードウェアにおける消費者のソフトウェアのバラエ

ティに関する選好の強さは同一であるとしたが、実際には各ハードウェアで供給される

ソフトウェアはハードウェアごとに偏りがあり、実際には、消費者のソフトウェアのバ

ラエティに関する選好の強さは各ハードウェアで異なると考えられることである。消費

者のソフトウェアのバラエティに関する選好の強さを𝛾𝛾𝑆𝑆𝑖𝑖𝑖𝑖 > 𝛾𝛾𝑃𝑃𝑆𝑆3 > 𝛾𝛾𝑋𝑋𝐵𝐵𝑋𝑋𝑋𝑋360としたと

き、現実の値と近い結果となったため、XBOX360 はソフトウェアがマニアック向けで

日本人受けが良くなく、他のハードウェアと比べて間接ネットワーク効果があまり発生

しなかったため敗北したと結論付けられる。 据え置きゲーム市場において、最新のデータを用いて分析する際には、ソフトウェア

市場の変化を踏まえ、ソフトウェア企業についての詳細なデータを得て分析をする必要

があると考えられる。また、各ハードウェアでソフトウェアの差異を考慮し、頑健な結

果を得るために、ハードウェアの価格や販売台数などについてよりリッチなパネルデー

タを得る必要があると考えられる。それらについては、今後の研究に期待をしたい。

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参考文献

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ータエンターテインメント協会

経済産業省ホームページ http://www.meti.go.jp/

セガホームページ https://sega.jp/

総務省統計局ホームページ http://www.stat.go.jp/

日本銀行ホームページ http://www.boj.or.jp/

任天堂ホームページ http://www.nintendo.co.jp/

GamesIndustry.biz ホームページ http://www.gamesindustry.biz/

PlayStation ホームページ http://www.jp.playstation.com/

XBOX ホームページ https://www.xbox.com/ja-JP/

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あとがき

データが手に入りやすかったという理由もあって据え置きゲーム市場を分析の対象

として選んだが、データの収集にはそこまで時間がかからなかった一方、均衡の計算

で思った以上に非常に時間がかかってしまい、動的なモデルを用いた分析の難しさが

よく分かった。実証分析では、そこまで良い結果を得ることができなかったが、時間

の制約上、および紙面の制約上、これ以上分析を進めるのを断念せざるを得なかった

のが残念であったので、今後の研究に期待をしたい。

最後に、途中で同期が何人か泡のように消えてしまったが、今までお世話になっ

た、石橋先生、17 期の先輩方、18 期の同期、19 期の後輩達の皆様に 2 年間の感謝の

意を表したい。