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IFRS 9 号フェーズ 1 「金融商品の分類及び測定」の 実務適用における論点

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IFRS 第 9 号フェーズ 1 「金融商品の分類及び測定」の 実務適用における論点

2 IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点

背景 ............................................................................................................................ 3

金融資産 ..................................................................................................................... 4

負債性金融商品 ........................................................................................................... 5

「ビジネスモデル」テスト ........................................................................................... 5

「契約上のキャッシュ・フローの特徴」テスト ................................................................ 16

ノンリコース・ローン ............................................................................................... 26

分類 – 契約により互いにリンクしている金融商品 ......................................................... 28

再分類 ................................................................................................................ 35

資本性金融資産 ......................................................................................................... 37

発効日及び移行措置 ................................................................................................... 40

発効日及びIFRS初度適用企業に対する移行措置 ............................................................. 45

金融負債 ................................................................................................................... 46

内容

IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点 3

背景 2009年11月12日、国際会計基準審議会(以下、「IASB」又は「審議会」)は、IFRS 第 9 号「金融商品」の第 1 フェー

ズを公表した。IAS 第 39 号「金融商品:認識及び測定」は

最終的に IFRS 第 9 号に置き換わることとなる。IFRS 第 9号(以下、「基準」)の第 1 フェーズにおいて、IAS 第 39 号

が適用されるすべての金融資産の分類及び測定が取り

扱われた。2010 年 10 月 28 日、審議会は IFRS 第 9 号

を改訂し、金融負債に関する規定を定めた。また、同改訂

では IAS 第 39 号における認識中止の原則も IFRS 第 9号に組み込まれた。これらの改訂により IFRS 第 9 号の第

1 フェーズ「金融商品の分類及び測定」が完了したことに

なる。

IFRS 第 9 号は 2013 年 1 月 1 日より強制適用となるが、

各国の規制当局による承認を前提に、早期適用も可能で

ある。ただし、IASB により最近完了した、適用日を検討す

るプロジェクト中に関係者から受領したフィードバックに対

応する形で、IASB は 2011 年 8 月に、IFRS 第 9 号の強

制適用日を 2013 年から 2015 年 1 月 1 日に延期するこ

とを提案する公開草案を公表した(コメント期間は 10 月

21 日まで)。

アーンスト・アンド・ヤングは、IFRS outlook 2009 年 11月増刊号 等 1

1 http://www.shinnihon.or.jp/services/ifrs をご参照下さい

において、IFRS第9号の第 1フェーズが公

表されたことから生じる金融商品に係る規定の主な変更

点を説明し、またビジネスに与えうる影響について簡潔な

解説を行っている。

新基準は、より原則主義に基づいた会計基準であり、IAS第 39 号と比較すると、その規定と適用ガイダンスは多く

はない。そのため、新基準を適用する際には慎重な判断

が求められる。当ブローシャーは、IFRS 第 9 号の導入に

あたり、新基準のすべてが明瞭というわけではないという

ことを認識しつつも、寄せられている主な疑問に対する弊

社の考えを示すものである。

IFRS第9号は、公表されてからまだ日が浅く、世界を見渡

しても、すでに当基準を適用している国は限られている。

多くの重要な論点がいまだ議論されており、他の関係者

同様、弊社もアカウンティング・ファームとして、クライアン

トにサービスを提供する際、当基準の実務における適用

の難しさを認識することもあった。当ブローシャーにおいて

も、これらの疑問のいくつかについては、「明確な」回答は

なく、結論を導く際に検討すべき要素を挙げているだけの

ものもある。

IFRS 第 9 号を適用するなかで、さらに論点や疑問が出て

くる可能性もあるが、時の経過と共に、ある程度のコンセ

ンサスとベスト・プラクティスが醸成されることを弊社は期

待している。

4 IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点

金融資産 IFRS 第 9 号では、金融資産の分類及び測定は、デリバテ

ィブ、負債性金融商品、資本性金融商品のいずれである

かにより、決定プロセスが異なる。すなわち、すべてのデ

リバティブは、ヘッジ会計上、適格であり、かつ、ヘッジ指

定されない限り、純損益を通じて公正価値で測定(Fair Value Through Profit or Loss:FVTPL)される。負債性金

融商品は、一定のテストを充足した場合のみ償却原価で

測定され、それ以外は純損益を通じて公正価値で測定さ

れる。なお、償却原価で測定するためのテストを充足する

場合であっても、測定上のミスマッチを回避するために、

公正価値オプション(Fair Value Option:FVO)を使用し、

純損益を通じて公正価値で測定することも可能である。ト

レーディング目的で保有される資本性金融商品は、純損

益を通じて公正価値で測定される。その他の資本性商品

は、純損益を通じて公正価値で測定されるか、その他の

包括利益(Other Comprehensive Income:OCI)を通じて

公正価値で測定(Fair Value Through Other Comprehensive Income:FVTOCI)される。FVTOCIが選択された場合には、

後に当該投資が認識中止された場合であっても、公正価

値の変動累積額を OCI から純損益にリサイクルすること

はできない。

はい

いいえ

はい はい

はい

いいえ いいえ いいえ

はい

負債 デリバティブ 資本性投資

「ビジネスモデル・テスト」を満たすか?

「契約上のキャッシュ・フローの特徴テスト」を満た

すか?

公正価値オプション(FVO)を適用するか?

トレーディング目的保有か?

その他の包括利益(OCI)を通じて公正価値で測定するオプションを適用するか?

OCI を通じて公正価値で測定

純損益を通じて公正価値で測定 償却原価

いいえ

概要: 金融資産の分類及び測定フロー・チャート

IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点 5

負債性金融商品 デリバティブ以外の負債性金融商品であるすべての金融

資産に対して、当初認識後、償却原価での測定が可能か

を判定する 2 つのテストが適用される。

• 契約上のキャッシュ・フローを回収することを目的とす

るビジネスモデルに従って資産は保有されているか

(「ビジネスモデル」テスト)

• 金融資産の契約条件は、特定の日に、元本及び元本

残高に対する金利のみを表すキャッシュ・フローを生

み出すか(「契約上のキャッシュ・フローの特徴」テスト)

「ビジネスモデル」テスト IFRS 第 9号は、企業は金融資産の運用に関し、複数のビ

ジネスモデルを有することもある点を明確にしている。す

なわち、ビジネスモデルの評価は、必ずしも報告企業レベ

ルで行う必要はなく、また個別商品ごとのアプローチでも

ない。したがって、その評価は、それらの中間のレベルで

行われることになる。くわえて、特定の金融資産に関する

経営者の意図ではなく、経営幹部 2

さらに、IFRS 第 9 号は、ポートフォリオに含まれる一部の

投資が売却されたとしても、企業のビジネスモデルは継続

して契約上のキャッシュ・フローを回収することを目的とし

て金融資産を保有することであると主張しうると述べてい

る。すなわち、企業は、必ずしもそのすべての金融資産を

満期まで保有しつづける必要はない。IFRS 第 9 号は、金

融資産の売却が、契約上のキャッシュ・フローを回収する

ことを目的とした資産の保有と整合する、もしくは整合しな

い可能性のある幾つかの状況を例示しているが(図表 1の要約を参照)、以下の各 Q&A からも分かるとおり、その

評価には明らかに判断が求められる。

が定義したビジネスモ

デルの目的に基づいて評価を行う必要がある。

2 IAS 第24 号「関連当事者についての開示」は、経営幹部を「企業の取締役(執行役

又はその他の役職であることを問わない)を含む、企業活動を直接的又は間接的に

計画し、指示を行い、また支配する権限及び責任を有する者」と定義している。

図表 1:ビジネスモデル・テスト – 要約

企業のビジネスモデルは、金融資産を保有し、その契約上のキャッシュ・フローを回収するものでなければならない。

たとえば、以下の理由で売却が行われる場合には、ビジネスモデルは、引き続き償却原価測定に適格となる可能性がある。

• 資産がもはや投資方針と合致しない(たとえば、信用格付の低下)

• 負債の満期と整合させるために投資ポートフォリオを調整する

• 予期せぬ設備投資又は損失が発生し、必要資金を捻出するために資産が売却される

「頻繁でないとはいえない」頻度で売却が行われる場合には、償却原価での測定が適切とはならない可能性がある。 これには、事実及び状況に基づいた判断が必要であるが、その際には、以下を考慮する。

定量的な指標 売却頻度、取引量、売却価額

定性的な指標 金融資産が取得された目的、売却の理由、業績管理手法、従業員報酬の決定方法、など

及び

提案された収益認識モデルに対するコメント提出者の反応 6

ビジネスモデル・テストを適用するレベル

考察 場合による。金融資産が、市場レートの変動による公正価

値変動を実現するためだけに運用されているわけではな

く、契約上のキャッシュ・フローを回収するためだけに保有

されているわけでもないというビジネスモデルはありうる。

このように 2 つのビジネスモデルが混在しているケースは

IFRS 第 9 号でも検討されている。IFRS 第 9 号の公表以

前は、このようなビジネスモデルの中で保有されている金

融資産は、一般に売却可能(AFS)に分類されていた。この

ため、公正価値に基づき運用されているとは限らないが、

満期前に重要な数量の資産を売却するようなビジネスに

対して、IFRS第 9号の新たなアプローチをどのように適用

するかは難題となりうる。

たとえば、企業は、満期及びリスクは類似するが、より高

い利回りを持つ他の資産を購入するために資産を売却す

る可能性がある(「入替」(“switching”)として知られている

プロセス)。この時、企業は、「公正価値変動による利益の

実現」というよりも、より高い長期利回りを確定させるため

に、それにより損失が生じる可能性も承知した上で入替を

行っているかもしれない(IFRS 第 9 号 B4.1.5 項)。

IFRS 第 9 号の B4.1.3 項及び B4.1.4 項における適用指

針は、「ポートフォリオの中から頻繁でないとはいえない程

度の売却が行われる場合、企業は、そうした売却が契約

上のキャッシュ・フローを回収するという目的と整合してい

るかどうか,また,どのように整合しているかを評価しなけ

ればならない」、「一定の売却はこの目的と矛盾しない」と

述べている。ポートフォリオへの組入資産の部分的な変更

又は回転は、必ずしも償却原価測定と矛盾することには

ならないものの(以下の設例を参照)、「頻繁でないとはい

えない」頻度での、又は「いくらか以上の (more than some)」売却は、そのような評価に疑問を生じさせる。

企業のビジネスモデルの目的が、鞘取りを通じて利益を

得るために定期的に資産を売買することにある場合や、

内部経営管理目的の情報では、業績が公正価値ベース

で測定されており、とりわけ、それに基づき従業員に報酬

を与えている場合には、通常、償却原価測定が適切とは

ならない。これらの要因、及び、基準の設例で示されてい

る指標にくわえ、売却の理由と、投資対象が購入された時

点で売却が生じることが見込まれていたかどうかといった

点を考慮することも重要である。

Q1: 企業は契約上のキャッシュ・フローを回収する目的で金融資産を保有しているが、機会があれば

投資を売却する可能性がある。このような売却により、償却原価の適用は不適格となるか?

IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点 7

ビジネスモデル・テスト – 設例

A社は、満期が 3年から 5 年の債券から構成される負

債性投資を 100 億円保有している。IFRS 第 9 号の適

用前は、これらの債券投資は、IAS 第 39 号に基づき、

すべて AFS に分類されていた。通常、ポートフォリオの

うち 90 億円は満期近くまで保有されるが、残る 10 億

円は、少なくとも年に1回、売却及び再投資が行われ

る。このような場合、企業は、ビジネスモデル・テストを

適用するにあたり、以下のいずれに該当するかの判断

が求められる。

(a) 2 つのビジネスモデル:(i) 満期近くまで保有され

る負債性金融商品への投資 90 億円、及び (ii) 活発に売買される負債性金融商品 10 億円 (これらの資産を別々に識別できることを条件として)

(b) 単一のビジネスモデルを 100 億円の負債性金融

商品のポートフォリオ全体に適用する

シナリオ(a)が、より適切と考えられる場合には、大部

分の負債性金融商品を償却原価へ分類することがで

き、残りはおそらく FVTPL として処理しなければならな

い。これに対し、シナリオ(b)が、より適切と考えられる

場合、予想される売却及び再購入の水準が、ポートフ

ォリオ全体を FVTPL に分類しなければならないほど重

要かどうかを判断しなければならない。 少なくとも年に 1回発生する、ポートフォリオの 10%の

売却及び再投資は、潜在的には、「頻繁でないとはい

えない頻度」、及び/又は、「いくらか以上の」売却と捉

えられる可能性がある。しかし、IFRS 第9号は、頻繁で

ない、もしくは、いくらかの売却は、企業のビジネスモ

デルが契約上のキャッシュ・フローを回収するために

商品を保有するというものであるかどうかを判定する

際の(要件ではなく)指標であると述べている。考慮す

べき他の要因には、売却の理由や、ビジネスの業績が

経営者にどのように報告され、評価されているかといっ

た点が含まれる。ゆくゆくは、検討すべき要因につい

て、また、公正価値に基づきで運用されていないビジ

ネスモデルについて、どの程度の売却であれば、償却

原価測定の要件と矛盾しないといえるか、コンセンサ

スが形成されるかもしれない。

8 IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点

以下では、適用指針における「頻繁でないとはいえない頻

度」及び「いくらか以上の」売却の解釈に関する実務上の

論点について解説する。

追加前提 企業は、100 億円の負債性商品ポートフォリオを保有して

いる。そのポートフォリオの運用を担当している従業員は、

ポートフォリオの長期利回りを最適化するよう、権限を与

えられている。したがって、その従業員は、ポートフォリオ

中の資産を定期的に売却し、その売却収入を、類似の満

期及びリスク・プロファイルを有するが、より高い利回りの

新規資産に再投資している。

より高い利回りを確定するために資産の入替を実施する

際には、売買損益が生じるが、その金額は重要ではない。

このようなプロセスは、かなり定期的に行われ、6 ヶ月の

間に、ポートフォリオ資産の約 10%は入れ替えられる。た

だし、10%の資産が入れ替えられているものの、ポートフ

ォリオ全体の規模や構成内容は比較的安定している。当

該従業員は、ポートフォリオの全体的な利回りに基づき報

酬を得ている(すなわち、利回りの最大化が目的となる)。

よって、公正価値の上昇による利益、又は下落による損

失は、報酬を算定する際に考慮されない。経営者の文書

化された戦略及び主要経営指標(KPI)では、公正価値の

上昇による利益ではなく、長期利回りの最適化が強調さ

れている。したがって、当該企業の経営報告では、ポート

フォリオ中の負債性商品の公正価値ではなく、利回りに焦

点を当てた報告が行われている。当初認識時及びその後

の売却(及び再投資)時に、企業は入替対象資産を明確

に特定することはできない。

考察 特に検討しなければならない点は、企業が契約上のキャ

ッシュ・フローを回収することを目的として資産を保有して

いるのか否かということである。上述の要因に基づいた場

合、当該企業の目的は、公正価値変動による利益を実現

させることではないと主張できる場合もある。なぜなら、

• 入替時に、稼得した利益又は発生した損失が(稼得し

た利息との比較で)重要ではない

• 入替後も、ポートフォリオ全体の規模や構成内容は比

較的安定している

• ポートフォリオの全体的な利回りに基づいて従業員は

報酬を得ており、公正価値の上昇による利益又は下

落による損失は報酬を算定する際に考慮されない

• 経営者の文書化された戦略及び主要経営指標(KPI)では、公正価値の上昇による利益ではなく、長期利回

りの最適化が強調されている

• 経営報告では、ポートフォリオ中の負債性商品の公正

価値ではなく、利回りに焦点を当てた報告が行われて

いる

しかし、アーンスト・アンド・ヤングは、企業の目的が公正

価値変動による利益を実現させることではないという事実

のみでは、償却原価による測定が適切であると結論付け

るうえで不十分であると考えている。なぜなら、公正価値

変動による利益を実現させる目的ではないからといって、

必ずしも契約上のキャッシュ・フローを回収するために金

融資産ポートフォリオを保有しているとは限らないためで

ある。IFRS 第 9 号には、頻繁ではない回数の売却及び

「いくらかの」売却は、この目的と矛盾するものではないと

の記載があるものの、それ以上のガイダンスは示されて

いない。今後、IFRS 第9号が適用されるに従って、これら

の用語の一般的な解釈が形成されるものと考えられる。

それまでは、各企業は独自に判断を行う必要があるが、

個々の状況において、そのビジネスモデルが償却原価へ

の分類に整合したものであると結論付ける前には、その

他の入手可能な情報を検討する必要がある。

Q2: 資産の入替

IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点 9

追加前提 ある銀行が、流動性の確保を目的として、高格付であり、

かつプレーン・バニラの有価証券から構成されるポートフ

ォリオを保有している。銀行は、ストレス・シナリオの下で

生じる予期せぬキャッシュ・アウトフローに備えるために、

当該ポートフォリオを保有している。この銀行の戦略は、

常にバッファーを確保することにあり、よって、ポートフォリ

オの全体的な規模は安定しており、ポートフォリオを構成

する資産の通貨及び満期はあらかじめ定められている。

このポートフォリオの運用を担当する従業員は、あらかじ

め定められたクレジット、通貨及び満期の基準を充足した、

バッファーとなる資産から稼得された利回りに基づき評価

される。ポートフォリオの公正価値の変動は、従業員に対

する報酬を決定する際に考慮されることはない。ただし、

従業員は、ポートフォリオの公正価値を把握しており、資

産売却の必要性が生じた際に調達できる金額は知ってい

る。ただし、ポートフォリオは、その公正価値を最大化すべ

く運用されているわけではない。

しかし、従業員は以下の理由から、ポートフォリオ内の資

産を定期的に売却し、また新たな資産を購入することによ

り、ポートフォリオの入替を行なっている。

(i) 資産に流動性があることを確認するために、定期的

な売却を求める監督当局からの要請

(ii) 当銀行に流動性の問題が生じ、資産の売却を行った

場合に、それが強制売却であることが明らかになら

ないように、(平時においても一定の売買を行うこと

により)市場でのプレゼンスを維持したいと考えている。

毎月約 10%の資産の入替が行われる。ポートフォリオの

デュレーションは、おおよそ 1 年であり、ポートフォリオの

入替が実施された際に稼得する利益又は発生する損失

は重要であると予想される。

考察 銀行の戦略及び従業員の業績評価方法は、本質的には

トレーディングを志向したものではないが、ポートフォリオ

の一部が頻繁に売却されており、ポートフォリオ入替時に

は、公正価値変動により多額の利益又は損失が生じるこ

とが予想されている。

IFRS 第 9 号では明確にされていないものの、アーンスト・

アンド・ヤングは、金融資産ポートフォリオを償却原価で測

定することが適格とされるような場合には、その銀行が、

公正価値変動により多額の売却損益が計上されることを

想定しているということはないであろうと考えている。この

シナリオでは、公正価値変動による損益の発生が当初か

らすでに予想されているため、契約上のキャッシュ・フロー

を回収する目的で資産を保有しているものとしてビジネス

モデルを評価するのは適切でないと思われる。

くわえて、毎月約 10%の資産の入替が行われているとい

うことは、11 ヶ月経過した時点では、当初のポートフォリ

オの僅かな割合しか引き続き保有されていないということ

を意味している。これは、契約上のキャッシュ・フローを回

収する目的で資産を保有するというポートフォリオの目的

と整合していないように見える。よって、毎月ポートフォリ

オの 10%を売却した場合、「いくらか以上の」売却とみな

され、そのようなビジネスモデルの下では、償却原価で測

定することはできないかもしれない。

流動性確保のために保有するポートフォリオに関する議

論、及びそのようなポートフォリオが IFRS 第 9 号のビジネ

スモデル・テストを満たすか否かは、いまだコンセンサス

が得られていない分野の 1 つである。くわえて、銀行ごと

に事実及び状況が異なり、類似点を比較することは難し

いため、結果として基準の適用にバラツキが生じやすいと

いえる。

結局、償却原価が、特定のビジネスモデルについて、もっ

とも適切な会計処理であると決定するためには、企業固

有の事実及び状況を考慮したうえでの適切な判断が求め

られる。

Q3: 流動性確保の目的で保有する有価証券の売却

10 IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点

売却又はローン・パーティシペーションの対象となるローン

Q4: 組成したローンの一部が売却やローン・パーティシペーションの対象となる場合、どのよう

に会計処理すべきか?

考察 企業は、ポートフォリオの一部を満期まで保有し、近い将

来に他の部分を他の銀行へ売却する、あるいは、ロー

ン・パーティシペーションの対象とするためにローンを組

成することがある。この場合、IFRS 第 9 号の適用にあた

って、当該企業は単一のビジネスモデル、あるいは 2 つ

のビジネスモデルを持つと解されるのかが問題となる。

こうした場合、企業は、保有するためのローンと、売却又

はローン・パーティシペーションを行うためのローンを、異

なるスキル及びプロセスが求められる別個のビジネスモ

デルと捉えることができる。前者の金融資産は、通常、償

却原価測定に適格となると思われるが、後者は、おそらく

適格とはならず、FVTPL に分類しなければならないであろう。

ローンの一部が売却又はローン・パーティシペーションの

対象になると評価される場合、単一の金融資産は、2 つの

別々のビジネスモデルに分類されうるのかという論点も生

じるが、すでに IAS 第 39 号においても、ローンの一部をト

レーディング目的に分類し、他の部分を償却原価に分類

する実務が一般に行われていることからすれば、IFRS 第

9 号の下でも同様の処理は適用できるものと思われる。

Q5: Q4 で言及された売却又はローン・パーティシペーションが失敗した場合はどうなるか?

考察 一定の場合、従来、処分の意図があることを理由に、

FVTPL に分類していたものの、その後、意図していた売

却に失敗するという場合がある。

IFRS 第 9 号は、資産の当初認識時点におけるビジネスモ

デルに従って分類を決定することを求めている。この例に

おいて、企業が意図していた売却に失敗するという事実に

より、必ずしも基準に従って再分類が要求されることには

ならない。したがって、企業が処分に失敗したローン又は

ローンの一部分は、引き続き純損益を通じて公正価値で

測定されることになる。

IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点 11

頻繁でない事象による金融資産の売却

Q6: 頻繁でない事象により金融資産が売却される場合でも、依然、ビジネスモデルは償却原価

の要件を満たすか?

考察 この疑問は、事象の発生確率は、「頻繁でない」かもしれ

ないが、売却された資産の一部は、「いくらか」以上である

可能性があるために生じる。たとえば、企業は、重大な損

失が発生した場合や、予期しない設備投資や事業買収の

資金を手当てする必要がある場合に、金融資産を売却す

る必要があるかもしれない。このような場合には、これ以

外の事実や状況と共に、Q1 に対する考察で説明した要因

(特に、当該金融資産が取得された当初の目的)を考慮す

る必要がある。

• アーンスト・アンド・ヤングは、取得当初においては、ビ

ジネスモデルは償却原価測定に適格であると評価さ

れていたが、取得時点では予期されなかった理由によ

り、その後、稀に金融資産が売却される場合、ビジネ

スモデルは、引き続き、償却原価測定に適格となる可

能性があると考えている。

• しかし、発生することが予想される設備投資や買収の

資金を捻出するために金融資産が保有される場合

に、当該金融資産を償却原価で計上するためには、

当該金融資産の満期に予想される保有期間を反映

する必要があるだろう。たとえば、買収が 6 ヶ月後に

起こると予想される場合、買収資金を手当てするため

に用いられる金融資産は、それを償却原価で計上す

る上では、通常、その満期は、およそ 6 ヶ月後(数年

後ではなく)としなければならない。

当初認識後の変更

Q7: ポートフォリオ保有の目的は、「ビジネスモデル」テストを満たすものの、後に資産の運用方

法が変更された場合には、どのように (i) 既存の資産と (ii) 新たに取得した資産を測定す

べきか?

考察 ポートフォリオの保有目的が、当初はビジネスモデル・テス

ト満たすと判定されたが、その後に資産の運用方法が変

更され(たとえば、頻繁でないとはいえない頻度の売却を

行うことにより)、ビジネスモデルが、もはや償却原価測定

に適格ではなくなった場合、どのように既存の資産と新た

に取得した資産を測定すべきかが問題となる。

頻繁でないとはいえない頻度の売却が起きたとしても、企

業のビジネスモデルについて根本的な変更が生じていな

い限り、それにより再分類が求められる可能性は低い。

IFRS 第 9 号は、ビジネスモデルの目的が、突然で重大な

状況の変化により変更される場合に、資産を再分類する

ことを求めているが、変更が漸進的である場合には、再

分類を要求も許容もしていない。

資産が再分類されないと仮定すれば、企業は、その後、

2つのビジネスモデル(一方は既存資産について、もう一

方は新たに取得された資産について)を有しているかの

ようにポートフォリオを処理することが必要となる。この

場合には、以前から保有されている金融資産は、引き続

き償却原価で測定され、新たに取得された金融資産は

FVTPL で計上されることになる。

12 IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点

法的には売却したものの、会計上の認識中止の要件を満たさない金融資産

Q8: ビジネスモデルを評価する際には、法的な資産の「売却」と、会計上の認識を中止のどちら

に基づき検討しなければならないか?

考察 企業が買戻条件付売却取引(レポ)を行う例を考える。企

業が契約に従って法的に資産を売却し、その後、再購入

するまでの間、金利は物理的に取引相手により回収され

るものの、レポの対象資産は貸借対照表に認識され続ける。

さらに、ファクタリング・プログラムの一環として売却する意

図で組成された売掛金の例を考える。キャッシュ・フローを

得る契約上の権利は移転する一方、売却人は(たとえば

保証を行うことにより)信用リスクを保持するため、当該資

産の認識中止は認められない。

ここでの疑問は、償却原価で測定するために、企業は契

約上のキャッシュ・フローを物理的に回収しなければなら

ないのか、それとも会計上、資産の認識を中止していな

いだけで十分なのか、というものである。

IFRS第9号は、この論点について具体的なガイダンスを

提供していないが、アーンスト・アンド・ヤングは、ビジネ

スモデル・テストにおいて、企業が契約上のキャッシュ・

フローを回収するために資産を保有することを中止した

かどうかを判定する上では、会計上の認識中止が決定

的に重要であると考えている。このアプローチを適用す

ると、上述の両方の例(レポ取引とファクタリング契約。

両者ともその実質は金融取引である)について、償却原

価測定が適格であるという直感的に正しい回答が導か

れよう。

IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点 13

満期構成に基づくビジネスモデル

Q9: 銀行が、負債側のデュレーションと整合するように保有しているポートフォリオは、償却原価

で測定することができるか?

追加前提 ある銀行は、その定期預金勘定の予想デュレーションと整

合するような満期を有する商品に投資を配分している。被

投資資産は、類似の満期を有し、その金額は対応する預

金の金額に達している。それぞれの満期ごとの資産・預金

比率には、あらかじめ最低及び最大レベルが定められて

おり、たとえば、予期せぬ預金の引き出しが生じたため、

当該比率が最大レベルを超えた場合、資産を売却するこ

とによってこの比率を下げている。売却時には、利益が最

大となる、もしくは損失が最少となるように売却する資産を

選択している。

一方、(資産・預金比率が、あらかじめ定められた最小レ

ベルを下回った場合には)必要に応じ、新たに資産を取得

している。預金の返済予想時期は、顧客の行動の変化に

基づき、定期的に見直されている。IAS第39号の下では、

これらの資産は売却可能(AFS)に分類され、積極的にトレ

ーディングを行ったという実績はない。

考察 預金の返済予想時期の見直しに伴い、資産の売却によ

り資産・預金比率を調整することが、契約上のキャッシ

ュ・フローを回収する目的で資産を保有するというビジネ

スモデル・テストに抵触してしまうかが問題となるが、こ

のような場合には、IFRS第9号のB4.1.3(b)項を類推適

用することができる。そこでは、保険者は、負債の予想デ

ュレーション(支払の予想時期)の変化を反映するため

に、金融資産を売却することにより、投資ポートフォリオ

を調整することがあるとされている。ただし、ガイダンス

は、そのポートフォリオから頻繁でないとはいえない売却

が行われた場合には、そのような売却が契約上のキャッ

シュ・フローを回収する目的での資産の保有とどのように

整合しているのかを評価する必要がある点を明確にして

いる。

仮に、この銀行が、その預金の返済時期を予想するため

の適切な過去の実績データを有していたのであれば、資

産の売却はそもそも頻繁に行われないはずであると考え

られる。数多くの売却が毎年行われているのであれば、

そのような実務と契約上のキャッシュ・フローを回収する

目的での資産の保有とを合理的に結びつけることは困

難であろう。売却の重要性についても十分な検討を行う

必要があり、また適切な結論を導く上では、「いくらか以

上の」売却が行われた場合には、その売却理由に関して

更に分析することが求められる。

14 IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点

大規模な多国籍企業に関するビジネスモデル評価

Q10: 大規模な多国籍企業について、ビジネスモデルはどのレベルで決定すべきか?たとえば、

以下のシナリオにおいて、連結財務諸表作成目的上、銀行グループは、いくつのビジネスモ

デルを有していることになるか?

追加前提 グローバルに活動している、ある銀行グループは、2 つの

事業(リテール・バンキング及びインベストメント・バンキン

グ)を有している。これらの事業は、いずれも同じ 5 箇所の

所在地で運営されているが、運営を行っているのは別個

の子会社である。各子会社には独自の取締役会があり、

グループの取締役会が決定した戦略目的を実行する責任

を有している。

インベストメント・バンキング事業により保有されている金

融資産は、グループの戦略がこれらの金融資産を活発に

売買することにあるため、FVTPL で測定されている。リテ

ール・バンキング業務を行っている 5 つの子会社のうち、4つの子会社が保有する金融資産は、その契約上のキャッ

シュ・フローを回収するために保有するものとみなされてい

る。しかし、残りの 1 つの子会社には、その満期前の売却

が予想される資産が多額に存在する。これらの資産は、ト

レーディング目的で保有されているわけではなく、その利

回りを最大化するために保有されている。結果として、この

子会社では頻繁でないとはいえない頻度の売却、及び、

いくらか以上の売却が予想され、この子会社単独で評価し

た場合、償却原価で測定するための要件を充足する可能

性は低い。この子会社はグループのリテール・バンキング

の 10%を占めている。

考察 場合による。この銀行が、そのビジネスモデルをどのレ

ベルで評価するかを決定するためには判断が必要とさ

れる。したがって、事実及び状況に応じ、複数の結論が

導かれうる。

これは、銀行が会計方針として選択するということを意味

するものではなく、むしろ、企業の組織形態や管理方法

から観察される事実の問題である。多くの企業では、経

営幹部が全体的な戦略を決定し、その戦略を実行する

権限を他に委譲している可能性がある。全体的な戦略

及び委譲された権限の効果は、ともにビジネスモデルを

判断する際の検討要因に含まれる。結果として、どのレ

ベルでビジネスモデルの評価を行ったかにより、ビジネ

スモデルの数は 2 つ(リテール・バンキング及びインベス

トメント・バンキング)又は 3 つ(インベストメント・バンキン

グ、4 つの子会社に関するリテール・バンキング事業及

び 5番目の子会社に関するリテール・バンキング事業)、

もしくはそれ以上にもなりうる。

IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点 15

ディスカウントで購入したローンに関するビジネスモデル

Q11: ディスカウントで取得したローンのポートフォリオは、償却原価で測定できるビジネスモデル

の範疇で保有しているものとみなすことができるか?

追加前提 ある企業は、不良債権から構成される多額のポートフォリ

オを、その額面から大幅にディスカウントされた価格で購

入した。ポートフォリオを構成するローンは、契約上は、元

本及び元本残高に対する金利のみを支払うとされている。

ローンは不良化してはいるものの、購入企業は、契約上の

キャッシュ・フローを可能な限り回収する意図を持ってこれ

を保有している。

考察 購入企業のビジネスモデルは、取得したローンを契約上

のキャッシュ・フローを回収する目的で保有するというも

のであり、市場でのトレーディングを目的としていない。

よって、このような状況において、購入企業は、購入した

ポートフォリオを償却原価で事後測定することができる。

ポートフォリオを大幅な割引価格で購入したという事実

は、当該契約上のキャッシュ・フローが、「契約上のキャ

ッシュ・フローの特徴」テスト(次のセクション参照)を満た

す以上、この評価には関係がない。

この考えは、IFRS 第 9 号 B4.1.4 項の例 2 からも支持さ

れる。この設例では、「発生済みの信用損失を伴う金融

資産が含まれている場合もあれば,含まれていない場合

もある」ローンのような金融資産のポートフォリオを購入

する企業のビジネスモデルについて検討しており、そこ

では、契約上のキャッシュ・フローのすべてを回収するこ

とを企業が予想していなくとも、企業のビジネスモデル

は、契約上のキャッシュ・フローを回収することであると

結論付けられている。

16 IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点

「契約上のキャッシュ・フローの特徴」テスト

資産を保有するビジネスモデルの目的が、契約上のキャッ

シュ・フローを回収することであると判定されると、次に、金

融資産の契約条件は、特定日に元本及び元本残高に対

する金利のみを表すキャッシュ・フローを生み出すかどう

かを評価しなければならない。ここで、金利とは、一定期

間の元本残高に対する貨幣の時間的価値及び信用リス

クへの対価と定義される。以下の図表 2 は、償却原価測

定に適格となる場合とならない場合の特徴の例を挙げて

いる。

図表 2:契約上のキャッシュ・フローの特徴テスト

金融資産の契約条件が、特定日に元本及び元本残高に

対する金利のみを表すキャッシュ・フローを生み出す。

通常、償却原価測定と矛盾しない特徴:

• 早期償還オプション、期限延長オプション

• 固定/変動金利

• キャップ、フロアー、カラー

• レバレッジされていないインフレ・リンク債

矛盾する特徴:

• レバレッジ(たとえば、オプション、先物及びスワップ)

• 転換オプション(たとえば、転換社債)

• クーポンが固定金利マイナス LIBOR(たとえば、イン

バース・フローター債)

• 定期的に更改されるものの、金融資産の残存期間と

異なる一定の満期を反映して決定される変動金利ク

ーポン

• 元本又は金利、もしくはそれら両方を大きく減額する

トリガー(たとえば、カタストロフィ債)

インフレ連動債

Q12: 元本及び金利の両方の支払いがインフレ指数に連動し、元本が保護されていないインフレ

連動債は、償却原価測定が適格とされるか?

考察 IFRS 第 9 号 B4.13 項は、元本が保護されているインフレ

連動債を取り扱っており、そこでは、インフレ連動特性がレ

バレッジされていない場合には、償却原価に適格であると

結論付けられている。ここでの疑問は、元本が保護されて

いるという点が、この結論にとって決定的な要素か否かと

いうことである。

アーンスト・アンド・ヤングは、インフレ連動がレバレッジ

されていない限り、元本が保護されていないとしても、償

却原価測定は可能であると考えている。なぜなら、元本

と金利の両方の支払いがインフレに合わせて調整された

としても、元本保護型のインフレ連動債と同様に、当該

支払いは元本残高に対する貨幣の時間的価値の対価

である「実質」金利を表すからである。

IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点 17

Q13: 上記 Q12 と関連し、A 社が、B 社の発行した固定満期のユーロ建債券に投資したとする。こ

こで、当該債券からの金利は、B 社の主要な営業圏である、ユーロ域内 C 国のインフレ指数

に連動する。すなわち、当該債券のユーロ建金利は、欧州全体のインフレ指数に連動しない

が、この場合であっても償却原価測定が適格とされるか?

考察 適格である。この債券はユーロ建てであり、C 国は欧州域

内諸国の一つである。アーンスト・アンド・ヤングは、このよ

うなインフレ連動性は償却原価測定に適格であると考えて

いる。インフレ指数は、債券の発行通貨のインフレ率を参

照するが、それは、当該インフレ率が B 社をとりまく経済環

境を反映するものだからである。ここで、ユーロは、B 社

が属する経済環境の通貨である。すなわち、ユーロ域内

C 国のインフレ率を反映したインフレ指数は、B 社が事業

活動を行う経済環境における「実質」金利を反映するも

のといえる。したがって、この場合には、A 社は、当該債

券からの金利は、元本残高に対する貨幣の時間的価値

と信用リスクの対価とみなすことができる。

コンスタント・マチュリティ債

Q14: クーポンが 6 ヵ月毎に 10 年物金利を参照して更改される 15 年物の変動利付国債への投

資は償却原価測定に適格となるか?

考察 適格ではない。IFRS 第 9 号 B4.13 項の設例 B は、各期

に支払われる金利が当該商品の残存期間と無関係に決

定される場合、その契約上のキャッシュ・フローは、貨幣の

時間的価値及び信用リスクへの対価のみを反映するもの

ではない点を明確にしている。(多くの国において、)クー

ポン金利が、定期的に金融商品自体に関連する期間と

無関係な参照レートへと更改されるタイプの金融商品は

数多く存在するが、IFRS 第 9 号の設例を見る限り、このよ

うな商品は償却原価が不適格とされる可能性がある。

デュアル・カレンシー債

Q15: 金利が発行通貨と異なる通貨建てで支払われる金融資産は、元本及び金利の支払いのみ

を表す契約上のキャッシュ・フローを生み出すと考えられるか?

考察 状況による。IFRS 第 9 号 B4.8 項は、「契約上のキャッシ

ュ・フローは、金融資産の発行通貨建ての元本及び元本

残高に対する金利の支払いのみを表すものか」を評価す

るよう求めており、これは、満期時の元本への支払いと異

なる金額に基づき金利が計算される商品は、償却原価

測定が適格ではないことを示唆するものである。たとえ

ば、元本はポンド建てで返済されるにもかかわらず、支

払われる変動金利が他の通貨建て(たとえば、米ドル)

による一定の元本残高に基づいて計算される場合、金

融資産は元本及び金利のみの支払いを有するとはみな

されない。

18 IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点

Q16: 以下の特徴を有するデュアル・カレンシー債は、元本及び金利の支払いのみを表す契約上

のキャッシュ・フローを有するか?

追加前提 • 債券は、元本は、カナダドル建てであり、インドルピー

建て固定金利が支払われる。

• インドルピー建て固定金利は、当初の市場金利と、そ

の時点の為替スポット・レートとフォワード・レートに基

づき決定される。

• 元本は満期にカナダドルで償還される。

考察 基準上は明確でないが、アーンスト・アンド・ヤングは、金

融資産が 2 つの構成要素に分解でき、それぞれが契約上

のキャッシュ・フローの特徴テストを満たす場合には、金融

資産全体としてもこれを満たすと考えている。言い換えれ

ば、この債券を、カナダドル建てのゼロ・クーポン債とイン

ドルピー建て固定支払いキャッシュ・フローの組み合わせ

とみなすことができ、両者が元本及び金利のキャッシュ・フ

ローのみを表すとみなせるのであれば、デュアル・カレンシ

ー債全体としても同様に解することができる。

同じ考えは、IFRS 第 9 号 B4.1.13 項の設例における商

品 C、すなわちキャップ付変動利付債にもみることができ

る。この適用指針は、こうした商品は、固定利付商品と変

動利付商品を組み合わせたものとみることができ、これ

ら両方が契約上のキャッシュ・フローの特徴テストを満た

すと結論付けられる場合には、キャップ付変動利付債全

体もこれを満たすと説明している。

なお、この結論は、分解された個々の構成要素が、とも

にテストを満たすことを前提としているため、転換社債の

ように、分解された構成要素のいずれかがこれを満たさ

ない場合には、この考えを一部分のみに適用することは

できない。

本問の商品と Q15 との違いは、当初に金利が固定さ

れ、キャッシュ・フロー変動に対するエクスポージャーが

ないという点である。

段階式金利(ステップ・アップ)金利の金融資産

Q17: 段階式金利(ステップ・アップ)金利を生み出す金融資産は、元本及び金利の支払いのみを

表すキャッシュ・フローを生み出すとみなせるか?

考察 契約により、当該資産の全期間にわたる段階式金利が当

初から設定されており、当初時点の正味現在価値が、当

該金融商品を市場レートでの固定金利で発行した場合の

正味現在価値と同額であれば、元本及び金利のみを表

すとみなすことができる。これに対し、段階式金利が、債

権者に対して貨幣の時間的価値と信用リスクの対価を

上回る補償を提供するものである場合には、償却原価

測定は適切とはならないかもしれない。

IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点 19

Q18: 上記 Q17 に類するケースとして、証券化ビークルが発行した、変動金利が当初期間(以下、

P1)後に段階的に引き上げられる債券への投資を考える。なお、金利引き上げは、発行体

が債券の償還権を可能となるのと同時(以下 P2)に行われる。このような債券への投資は、

元本及び金利の支払いのみを表すキャッシュ・フローを生み出すとみなせるか?

考察 状況による。この金融資産は、条件付でない発行体のコー

ル・オプション(行使価格は額面、すなわち、元本及び未払

金利)と、オプションの行使期間の開始時点における金利

の段階的引き上げの組み合わせとみなせるが、期間全体

(P1+P2)にわたる支払金利が当初時点で契約により決定

されており、それが、その条件の下での市場レートである

場合には、償却原価測定への分類には影響しない。

この事実関係の下では、以下の 2 つのシナリオが考えら

れる。

シナリオ 1 • P1 中の金利マージンに含まれる信用スプレッドは、

P1 末が満期の、早期償還オプションのない比較可能

な金融資産に対する市場における信用スプレッドと等

しい。

かつ、

• 金利の引き上げは、当初時点で決定される、P2 末を

満期とする商品の市場における信用リスク水準への

見直しを表している。

この場合、当該金利は、類似の商品の市場金利を反映し

たものであるため、契約上のキャッシュ・フローは、おそら

く、元本及び金利の支払いのみを表すものと考えられる。

シナリオ 2 次に、シナリオ 1と同様であるが、P2時点での金利の引

き上げがシナリオ1より大きいケースを考える。このよう

な引き上げは、発行体が P2 時点でコール・オプションを

行使し、早期償還を行うことを経済的に強制するために

行われる。この場合でも、オプションが行使されないとい

うことは、発行体の信用格付けの引下げなど、市場条件

が当該債券の発行当初からの変化したことを示すもので

あり、金利の引き上げも、保有者に対して、その時点に

おける貨幣の時間的価値と、その状況に見合った信用リ

スクの対価を補償するものであるため、IFRS 第 9 号

B4.1.11 項に合致すると解釈することも可能ではある。

しかし、上記のように、理論的には段階式金利が貨幣の

時間的価値及び信用リスクの対価であることも考えられ

るものの、実際には、投資の当初認識時にこの判定を行

うことはできない。IFRS 第 9 号(BC4.117 項を参照)は、

金融資産の分類は、当該資産の残存期間全体にわたる

契約条件に基づき、当初認識時点に行わなければなら

ない点を明確にしている。したがって、このシナリオにお

いては、投資が償却測定上、適格とされることはないも

のと思われる。

20 IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点

Q19: 特定日までに、借手の利払前・税引前・償却前利益(EBITDA)あるいは、負債・資本比率

(D/E レシオ)が一定水準悪化した場合に、ベンチマーク金利に対するスプレッドが上乗せさ

れる財務制限条項(コベナンツ)が付されたローン契約は、元本及び元本残高に対する金利

の支払いのみを表すキャッシュ・フローであるとみなせるか?

考察 具体的な条件による。IFRS 第 9 号では、金利は、貨幣の

時間的価値及び信用リスクの対価と定義される。よって、

この財務制限条項が、貸手に対し、より高い信用リスクを

とることへの対価を提供するものである場合には、当該ロ

ーンは償却原価測定が適格とされる。これに対し、財務

制限条項が、単なる信用プロテクションあるいは、信用リ

スクの増加分を上回るリターンをもたらすような場合(例:

貸手が、借手の業績に対する持分を得るようなケース)

には、償却原価測定は適格とされない。

ベンチマーク金利の倍数として決定される金利

Q20: 金利がベンチマーク金利の倍数(例:3 ヵ月間の金利が 3 ヵ月物 EURIBOR の 2 倍に決定さ

れる)負債性商品は、元本及び金利の支払いのみを表す契約上のキャッシュ・フローを有す

るとみなされるか?

考察 みなされない。このような特徴はレバレッジであり、IFRS 第

9 号 B4.1.9 項は、レバレッジは契約上のキャッシュ・フロ

ーの変動を増幅させるものであり、金利の経済的特徴を

有さない点を明確にしている。したがって、このような金

融資産は FVTPL に分類する必要がある。

IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点 21

入札金利債(オークション・レート・セキュリティーズ)

Q21: 金利が入札によって決まる金融資産の契約上のキャッシュ・フローは、償却原価測定に適格

となるか?

追加前提 入札金利債とは、満期は長期であるが、金利は、より頻繁

に入札によって更改される債券のことをいう。この入札手

続を通じて、金利は短期となり、投資も短期投資であるか

のように扱われる。

入札が不成立となった場合(例:買手がおらず、新たな金

利が設定されない)、金利は、一定のペナルティ金利(上

限金利)に更改される。このペナルティ金利は、発行当初

に設定されるため、入札が不成立になった時点の市場金

利を反映するとは限らない。実質的には、ペナルティ金利

は、保有者に対し、入札が不成立に終わったために当該

金利について参照すべき金利がなくなり、流動性が欠乏す

ることに対する補償を提供することを意図するものである。

考察 状況による。金融資産は、当該資産の残存期間全体に

わたる契約条件に基づき、当初認識時点に 分類される

(IFRS 9.BC4.117)。入札が失敗に終わることは、前提と

しては見込まれていないとしても、当初認識時における

契約上のキャッシュ・フローの特徴テスト上は、これを考

慮しなければならない。すなわち、ペナルティ金利が、流

動性の低下による入札失敗を反映した当該商品の長期

信用リスクに対する保有者への補償であるとみなせるの

であれば、当該ペナルティ金利は IFRS 第 9 号における

金利の定義を満たしうる。なお、こうした商品は、通常、

複数種類が発行されるため、契約上のキャッシュ・フロー

の特徴テストを満たすか否かを判定する際には、個々の

商品ごとのペナルティ金利について慎重に検討する必要

がある。

オープン・エンド型の MMF 又は債券ファンドへの投資

Q22: 企業が保有するオープン・エンド型の MMF 又は債券ファンドの投資口は償却原価に分類す

ることができるか?

考察 おそらくできない。

オープン・エンド型ファンドとは、投資家がファンドの当初設

定後、通常はファンド純資産の公正価値で、いつでも投資

口を新期に取得又は既存投資口を解約することができる

ものをいう。投資家が公正価値で取得又は解約することが

できるということは、投資からのリターンは元本及び金利

の支払いを表さないことを意味する。

さらに、これらの投資は、ファンドの発行体側で資本の定

義を満たさないため、FVTOCI に分類することができず、

結果として FVTPL に分類されることになる。なお、

FVTOCI に分類される資本性金融商品については、Q40を参照されたい。

22 IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点

満期延長条項付預金

Q23: 保有者の観点から、満期延長条項付預金(以下の事実関係を参照)への投資は、元本及び

金利のみの契約上のキャッシュ・フローを有するか?

追加前提 リテール銀行は、銀行側の裁量で満期を延長できる条項

の付いた定期性預金を提供することがある。たとえば、満

期 5 年で固定金利が年 5%の定期預金だが、5 年経過時

点で、銀行は、同じ金利で、5 年間満期を延長するかどう

か選択できるオプションを有しているとする。この場合、5年後の市場金利が 6%に上昇すれば、当初の 5%の金利

はこの市場金利より低く銀行にとって有利であるため、銀

行は満期を 5 年間延長する可能性が高い。

考察 期限延長オプションは、それが、不確実な将来事象を条

件とするものでない限りは、通常は契約上のキャッシュ・

フローの特徴テストに抵触しない。オプションが将来事象

を条件とするものである場合には、IFRS第9号B4.1.11項は、その条項が、発行者の信用悪化や発行者に対す

る支配の変動、あるいは、関連する税制又は法律の変

更から,保有者又は発行者を保護することを目的として

おり、かつ、延長オプションの条件により,延長した期間

中の契約上のキャッシュ・フローが元本及び元本残高に

対する利息の支払のみである場合には、抵触しないと説

明している。

なお、将来事象を条件とする、上記以外のオプションは

FVTPL に分類される。

IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点 23

公正価値で早期償還される債券

Q24: 公正価値で早期償還されるプレーン・バニラ債券(発行体が公正価値を行使価格とするコー

ル・オプションを保有している債券)は、元本及び金利のみを表すキャッシュ・フローを有する

か?

追加前提 発行体は、コール・オプションにより、満期前に債券を買い

戻すことが認められる。オプションの行使価格は公正価値

であり、これは、行使時点における当該債券の未払元本と

金利の市場価格を反映して決定される。たとえば、満期 5年の債券について、2 年後にオプションが行使されるとす

る。この場合、公正価値は、残存期間3年にわたる元本及

び金利の支払いを、類似の特徴を有する 3 年物債券の市

場金利で割り引くことによって計算される。なお、コール・

オプションは、将来事象を条件にしていないものとする。

考察 行使価格が、当初の市場金利ではなく、行使時点におけ

る適切な市場金利で割り引かれ決定される公正価値の

場合であったとしても、行使時点における元本及び元本

残高に対する利息の支払いを表すとみなせるであろうか?

この点、債券の発行当初から市場金利が低下するケー

スにおいては、市場価格による行使は、保有者に対し早

期償還に対する合理的な追加補償を提供するものと捉

えることができる(IFRS 第 9 号 B4.1.10 項)。

これに対し、金利が上昇するケースにおいては、保有者

は、額面を下回る未払元本と金利の公正価値分の金額

しか回収できない。すなわち、この場合、保有者は、早期

償還に対する追加的な補償ではなく、負の補償を受ける

ことになるため、債券は FVTPL に分類する必要があると

解されることになる。

以上から、アーンスト・アンド・ヤングは、早期償還金額

のフロアーが額面である場合、すなわち、保有者が少な

くとも債券の額面金額を回収できることが契約上明記さ

れている場合には、当該早期償還金額は、元本及び金

利の未払残高とみなすことが可能であると考えている。

24 IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点

IFRS 第 9 号移行前における複合商品の契約条件の見直し

Q25: IFRS第9号への移行前に、主契約の償却原価での測定を可能とするために、複合商品を2つの別個の商品として取り決め直すことは可能か?

考察 原則としては可能である。

企業が利益参加の特徴を含むローンを供与する例を考え

る。企業は、当該商品を満期まで保有すると見込んでい

る。当該商品は元本及び金利のリターンのみならず、借手

の利益に対する持分割合に基づく追加的なリターンをもた

らす。

IFRS第 9号では、IAS 第39号により求められる金融資産

の組込デリバティブの区分処理が禁止されている。IFRS第 9 号の下では、多くの場合、このような商品は、全体とし

て純損益を通じて公正価値で測定に分類することが求め

られる。しかし、場合によっては、IFRS 第 9 号への移行前

に取引を 2 つの商品、すなわち、一方を、償却原価に分類

できる主契約のローン、他方を純損益を通じて公正価値で

測定される利益分配に関するデリバティブ、として取り決

め直す(そして、それに応じてあらためて文書化を行う)こ

とができるかもしれない。

アーンスト・アンド・ヤングは、このような処理は、再構築後

の 2 つの商品が、実質的に別個の金融商品である場合に

のみ行うことができると考えている。これに該当するかどう

かを判断する上での指標には以下が含まれる。

i) 各商品を別々に清算又は譲渡できる。なお、これに

は法的に可能性であるだけでなく、商業的な実行可

能性の検討も要する。

ii) 典型的なマスター・ネッティング契約を除き、一方の

商品に係るキャッシュ・フローが、他方のキャッシュ・フ

ローに影響を及ぼす効果をもたらすような条項がない。

なお、2 つの新たな契約が、市場価格で締結される場合

には、当該商品を 2 つの別個の商品として認識する上で

のより強い根拠が得られる。

上記の場合には、IAS 第 39 号に基づき、元々の複合商

品の認識を中止するとともに、2 つの新たな商品を公正

価値で認識し、差額を純損益に認識する。

IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点 25

FVTPL に分類される金融資産に対するキャッシュ・フロー・ヘッジ会計の適用

Q26: IFRS 第 9号により FVTPL に分類することが求められる金融資産の金利リスクについてキャ

ッシュ・フロー・ヘッジ会計を適用することができるか?

追加前提 IAS 第 39 号の下で貸付金及び債権に分類されていた変

動金利商品が、IFRS 第 9 号の契約上のキャッシュ・フロー

の特徴テストを満たさず、移行後はFVTPLに分類されたと

する。たとえば、金融資産からのリターンが、ベンチマーク

金利に、借手の利益に基づき計算されるパフォーマンス・

フィーを加え決定されるとする。これは、IFRS第 9 号の下

では、元本及び金利の支払いのみを表す契約上のキャッ

シュ・フローとはみなされない。IAS 第 39 号の下では、こ

のパフォーマンス・フィーは、組込デリバティブとして区分

処理され FVTPL として計上される一方、主契約は、貸付

金及び債権に分類されていた。金融資産は公正価値に基

づき運用されておらず、契約上のキャッシュ・フローを回収

するというビジネスモデルに従って保有されているものと

する。

考察 原則として適用できる。ただし、この結論は、金融資産が

公正価値に基づき運用されておらず、又は、トレーディン

グ目的ではなく、かつ、ヘッジ対象となる予定取引からの

将来キャッシュ・フローの発生可能性が非常に高い場合

にのみ適切となる。

IAS第39号の下では、一般に、FVTPLの金融商品は適

格なヘッジ対象にならないと考えられている。しばしば参

照される IAS 第 39 号の適用ガイダンス F2.1 は、デリバ

ティブは,有効なヘッジ手段として指定されている場合を

除き、常にトレーディング保有の定義に該当し、純損益を

通じて公正価値で測定されると述べている。このガイダ

ンスにより、純損益を通じて公正価値で測定される非金

融商品についてもヘッジ会計は適用できないと類推され

る。しかし、IFRS第 9 号では、償却原価測定が適格とさ

れるビジネスモデルに従って保有される金融商品であっ

ても、契約上のキャッシュ・フローの特徴テストを満たさな

ければ、純損益を通じて公正価値で測定される。したが

って、アーンスト・アンド・ヤングは、金融資産が公正価値

に基づき運用されておらず、トレーディング目的でもない

場合には、キャッシュ・フロー・ヘッジ会計の適用が認め

られるべきであると考えている。

なお、IASB は、現在、IAS 第 39 号のヘッジ会計規定を

変更するプロジェクトを進めており、2011 年第 4 四半期

に最終基準を公表する予定である。2010 年 12 月に公

表された公開草案「ヘッジ会計」では、この論点は具体

的に取り扱われていないが、我々は、最終基準において

は、この点を明確にすることを提案している。

26 IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点

ノンリコース・ローン

IFRS 第 9 号におけるガイダンスは、一部の金融資産は元

本及び金利と表現されるキャッシュ・フローを有するもの

の、実質的にはそのような支払いを表さないことがあると

指摘している。その例として、債権者の請求権が、特定の

資産又はキャッシュ・フローに限定されていて、当該債権

から生ずる契約上のキャッシュ・フローが、たとえば貨幣の

時間的価値及び信用リスク以外の要素についての支払い

を含むなど、もっぱら元本及び金利の支払いを表すわけで

はないノンリコース・ローンが挙げられている。

しかし、債権がノンリコースであるという事実は、必ずしも

償却原価への分類が不可能であることを意味しない。特

定の資産又はキャッシュ・フローからの返済のみに対し

て権利を与えられているノンリコース商品の保有者は、

裏付資産又はキャッシュ・フローをルック・スルーして、契

約から生ずる支払いが、「契約上のキャッシュ・フローの

特徴」テストを満たすか判定しなければならない。当該ロ

ーンの条件が、元本及び金利の支払いと整合しない方

法で他のキャッシュ・フローを生じさせるか、キャッシュ・

フローを制限する場合、この要件は満たされない。この

後に続く疑問点に対する回答にみられる通り、基準のこ

の分野は、より明確化されることが求められる。

プロジェクト・ファイナンス・ローン

Q27: プロジェクト・ファイナンス・ローンは、償却原価測定に適格となるか?

考察 場合による。貸付人は、IFRS 第 9 号のノン・リコースに関

する規定を適用し、原資産又はキャッシュ・フローを「ルッ

ク・スルー」しなければならない。プロジェクト・ファイナンス

に係るローンは、そのプロジェクトの業績に関連付けられ

ていることがある。たとえば、有料道路の建設と保守管理

のためにローンが供与され、貸付人に対するキャッシュ・フ

ローの支払いが、一定数以下の車輛しか当該道路を通

行しなかった場合に減額又はキャンセルされるケースを

考える。そのようなローンは、貸付人にとって、償却原価

測定に適格とはならない可能性が高い。同様に、キャッ

シュ・フローが、融資先の事業の業績に明確に連動する

ローンの場合も償却原価測定に適格とはならない。一

方、そのような業績連動がなく、プロジェクトにおいて損

失を吸収する十分な資本が存在するケースでは、償却

原価測定は適切となりうる。

特定目的会社(SPE)に対するローン

Q28: 特定の資産取得のために組成された SPE に対するローンは、償却原価測定に適格となる

か?

考察 場合による。もし SPE がローンを、それ自体は償却原価測

定に適格とはならない資産(たとえば、資本性証券、また

は非金融資産)への投資に充て、当該ローンが唯一の

資金調達源であることから原資産の損失をすべて吸収

する場合、ローンはおそらく償却原価測定に適格とはな

らない。

IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点 27

住宅ローン

Q29: 貸付人は住宅ローンを償却原価で測定することはできるか?

考察 一部の住宅ローンは、貸付人が、デフォルト時において借

入人に対する法的な遡求権を持たず、不動産担保にのみ

持つようにストラクチャリングされている一方、借入人が、

他に限られた資産しか持たず、(法的にはノン・リコースで

はないが)実質的にノン・リコースといえる住宅ローンが存

在するなど、さまざまな種類の住宅ローンがある。一般的

に、アーンスト・アンド・ヤングは、住宅ローンのような通

常の担保付ローンは、IFRS 第 9 号のノン・リコース規定

の対象となることは意図されていなかったと考えている。

したがって、ローンが法的にノン・リコースであるか否か

に関わらず、償却原価測定に適格となる。しかし、当初

時点のローンの期待返済額が、主に担保価値の将来に

おける変動に左右され、ローンが実質的に不動産市場

への投資と捉えられる場合、償却原価への分類が適切

であるかについて疑念が生じる。

28 IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点

分類 – 契約により互いにリンクしている金融商品 ストラクチャード・インベストメント・ビークル(たとえば証券

化ビークル)は、複数のトランシェで構成される受益権を発

行し、それを原資に資産を取得する。これにより、各トラン

シェの保有者に対する支払いの優先度が異なる、優先劣

後構造(ウォーターフォール構造)が作り出される。優先劣

後構造の結果、あるトランシェは、その他のトランシェより

優先されたり、劣後したりする。これらは契約により互いに

リンクした金融商品とされる。

IFRS 第 9 号では、契約により互いにリンクしている金融商

品の保有者は、キャッシュ・フローを創出している(パス・ス

ルーではなく)原資産プールが識別されるまで、「ルック・ス

ルー」することが求められている。償却原価での測定の要

件を満たすためには、以下の 3 つのテストが実施される

(以下の図表 3 を参照)。

1. トランシェの契約条件が、元本及びそれに対する金

利の支払いのみのキャッシュ・フローの特徴を持つ。

2. 原資産プールが、元本及びそれに対する金利の支払

いのみのキャッシュ・フローの性質を持つ(ローン・タ

イプ商品)1つ又はそれ以上の金融商品を含んでいな

ければならない。

原資産プールにおけるその他の商品(たとえば、金利スワ

ップ)は以下のいずれかの特徴を持つ。

a) ローン・タイプ商品と合わせて考えた場合に、ローン・

タイプ商品のキャッシュ・フローの変動性を軽減させ、

その結果、元本及びそれに対する金利の支払いのみ

のキャッシュ・フローを創出させる。もしくは

b) トランシェとローン・タイプ商品から成る原資産プール

のキャッシュ・フローを、以下の点についてのみ整合

させる。

i) 金利が固定か変動か

ii) キャッシュ・フローがどの通貨建てか(各通貨に

おけるインフレも含む)

iii) キャッシュ・フローのタイミング

3. 金融商品の原資産プールにおけるトランシェ固有の

信用リスクに対するエクスポージャーが、原資産プー

ル全体の信用リスクに対するエクスポージャーと比較

して、それと同等もしくはそれ未満である。

原資産プールをルック・スルーすることが実務上不可能

な場合、トランシェは公正価値で測定されなければなら

ない。金融商品の原資産プールが、当初認識の後に、

上記 2.の条件に合致しなくなるように変更しうる場合、ト

ランシェは公正価値で測定されなければならない。

IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点 29

原資産プールをルック・スルーすることは実務上可能か?

当初認識後、原資産プール内の金融商品が下記 2.の要件に抵触す

る形で変更されうるか?

1. トランシェは元本及び金利の支払いのみによるキャッシュ・フローを有しているか?

2. 原資産プールに含まれる金融商品は、すべて元本及び金利の支払いのみによるキャッシュ・フローを有しているか、また、それ以外のものはすべてキャッシュ・フローの変動性を減少させる、又はトランシェのキャッシュ・フローと整合させるものであるか?

3. トランシェの信用リスク≦原資産プールの信用リスク、であるか否か?

償却原価 純損益を通じて公正価値で測定

いいえ

いいえ

いいえ

いいえ

いいえ

はい

はい

はい

はい

はい

図表 3:契約により互いにリンクしている金融商品のルック・スルー・テスト

30 IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点

契約により互いにリンクしている金融商品へのルック・スルー・テストの適用

Q30: 契約により互いにリンクしている金融商品の、2 つ目及び 3 つ目のテストは、金融資産の原

資産プールではなく金融商品の原資産プールに言及している。なぜこのような区別がなされ

ているのか?

考察 IFRS 第 9 号のフェーズ 1 は金融資産の分類及び測定を

扱っているが、ルック・スルー評価の目的のために、企業

はすべての金融商品の原資産プールを考慮することを求

められている。したがって、原資産プールの中にあるデリ

バティブ(金利スワップ等。負債の場合もある)の存在は、

そのデリバティブが金融商品の原資産プールのキャッシ

ュ・フローの変動性を軽減させるか、もしくは、発行された

金融資産のキャッシュ・フローと金融商品の原資産プー

ルのキャッシュ・フローを整合させる場合、トランシェを償

却原価で測定することを妨げない。反対に、原資産プー

ルが政府債券、及び、政府の信用リスクと(よりリスクの

高い)企業の信用リスクを交換するような金融商品を含

む場合、原資産プールは元本及び利息の支払いのみを

表すキャッシュ・フローを創出するものとしてはみなされ

ない。したがって、そのようなトランシェについて償却原

価測定は認められない(IFRS 第 9 号 BC4.35(d)項)。

Q32 及び Q33 も参照のこと。

トランシェの信用リスクの決定

Q31: 企業は、金融商品の原資産プールの「信用リスクに対するエクスポージャー」よりも、トランシ

ェの当該エクスポージャーが少ないかどうか、どのように判定するべきか?

考察 IFRS 第 9 号では、トランシェの持つ信用リスクに対するエ

クスポージャーと、金融商品の原資産プールの持つ当該

エクスポージャーを比較する方法を明記していない。

場合によっては、すべてについて格付けが付与されている

のであれば、トランシェに割り当てられる信用格付けと、金

融商品の原資産プールに対する当該格付け(あるいはそ

れらの平均)とを比較できるかもしれない。また、最優先ト

ランシェや最劣後トランシェは、比較的少ない分析により、

そのトランシェのリスクが原資産のそれよりも低いかどう

かが明らかとなるかもしれない。しかしながら、複雑な証

券化構造を伴う一部の状況においては、たとえば、米国

会計基準のASC第 810 号 1023(以前のFIN第 46 号

(R)34

)に規定されているものに類似した方法を用いて、

より詳細に評価することが必要となる。これについて、以

下の図表 4 に設例を提示している。分析には、金融商品

の原資産プールに関するさまざまな信用損失シナリオの

作成、各シナリオの発生可能性による加重平均期待値

の計算、保有トランシェに係る発生可能性の加重平均影

響額の決定、そして保有トランシェの相対的な変動性と

原資産のそれとの比較が含まれる。

3 FASB 会計基準 810、連結 4 FASB 注解 第 46(R)、変動持分事業体の連結

IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点 31

図表 4:設例:ルック・スルー・テストの適用 A 銀行は、証券化ビークル(SPE)のスポンサーであり、SPE の発行する劣後債を保有する。SPE の資産は、A 銀行が組成して SPE に譲渡した

住宅ローンのポートフォリオで構成されている。SPE はデリバティブを一切保有していない。他の多数の銀行が、SPE が発行する債券のメザニ

ン、シニア 2、シニア 1、そしてスーパーシニア・トランシェを保有している。どの銀行も SPE に対してそれ以上の関与を持たず、すべての銀行は

それぞれの財務諸表において SPE の連結は必要ないと判断している。住宅ローンと発行債券の名目元本合計は CU1,000 である。

以下の図表は、開始時の住宅ローンのポートフォリオの期待信用損失の範囲と、各シナリオの見積発生確率を示している。

損失

(CU) 見積損失 発生確率(%)

見積加重平

均損失(CU)

シナリオ I 40 10% 4 シナリオ II 70 25% 18 シナリオ III 110 30% 33 シナリオ IV 180 25% 45 シナリオ V 230 10% 23 加重平均損失予想 123 したがって、原資産の発生確率により加重平均した期待損失は 12.3%である。

以下の図表は、企業がトランシェの信用リスクと、金融商品の原資産プールのそれとを比較する方法を示している。

トランシェ 名目元本(CU)(A)

スーパーシニア

630 シニア1

150 シニア 2

100 メザニン

40 劣後

80 計

1000

発生確率 発生確率により加重平均したトランシェの期待損失*

シナリオ I 10% - - - - 4 4 シナリオ II 25% - - - - 18 18 シナリオ III 30% - - - 9 24 33 シナリオ IV 25% - - 15 10 20 45 シナリオ V 10% - 1 10 4 8 23 トランシェの期待損失 (B) - 1 25 23 74 123 トランシェの期待損失率 (B)/(A) 0% 0.6% 25% 57% 94% 12.3% トランシェの信用リスクは、原資産の信

用リスクを下回っているか? はい はい いいえ いいえ いいえ

トランシェ保有者がとりうる分類 償却原価 償却原価 公正価値 公正価値 公正価値

* 各シナリオにおいて、期待損失は、まず劣後トランシェに割り振られ、すべての信用損失が吸収されるまで段階的に上位のトランシェに割り振られていく。たと

えば、シナリオⅣでは、CU180 の損失が劣後(CU80)、メザニン(CU40)、そしてシニア 2(CU60)に吸収されていくことになる。その上で、シナリオⅣの発生確

率である 25%が、各トランシェに割り振られた期待損失に当てはめられる。

A 銀行により保有されている劣後債は、割合という意味では、原資産ポートフォリオの全体の期待損失よりも大きな期待損失を有する。そのた

め、当該債券は FVTPL で会計処理することが求められる。同様に、メザニン債及びシニア 2 債も原資産プールよりも大きな期待損失を有する

ため、保有者にとり償却原価に適格とはならない。

シニア 1 債とスーパーシニア債の期待損失は、金融商品の原資産プール全体の期待損失より小さいため、他のすべての IFRS 第 9 号の要件

を満たしており、トレーディング目的で保有されていないことを前提に、償却原価処理が適格となるかもしれない。

この設例において、劣後及びスーパーシニアについては数値計算なしでも同じ結論に辿り着く可能性があったかもしれないが、中間階層の債

券の取り扱いを決定する上ではこの技法は有用である。実際には、固有の事実や状況についての定性的な評価を通じての判断も求められる

であろう。

32 IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点

信用補完の影響による、契約により互いにリンクしている金融商品のルック・スルー・テストへの影響

Q32: SPE が、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を購入することにより、信用力強化の便益を

得ている場合、契約により互いにリンクしている金融商品のルック・スルー・テストにはどのよ

うな影響を及ぼすか?

考察 購入したクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は、元本と金

利の損失を補うためだけに支払われるものであれば、一

般的に金融商品の原資産プールのリスクを軽減するもの

とみなされる。しかし、実際には、多くの SPE ストラクチャ

ーは、買建ての CDS ではなく売建ての CDS を含んでお

り、それは原資産プールの信用リスクを軽減するものと

はみなされない。Q30 の回答も参照のこと。

Q33: 債務担保証券(CDO)への投資は、IFRS 第 9 号の下でどのように会計処理されるか?

考察 キャッシュ型 CDO(SPE が原資産を保有するもの)と合成

CDO(デリバティブにより関連エクスポージャーを得ている

もの)とを区別する必要がある。キャッシュ型 CDO に対す

る投資は、原資産が償却原価測定に適格であり、他の

IFRS 第 9 号の要件を満たす限り、償却原価測定に適格と

なる。しかし、合成 CDO に対する投資は、関連するポート

フォリオに係るデリバティブが、原資産のキャッシュ・フロー

の変動性を削減したり、IFRS 第 9 号で許容されるような方

法でキャッシュ・フローを整合させないため、償却原価測定

に適格とはならない(Q30 の回答も参照のこと)。

実務上注目すべき点は、CDOの保有者は、当該CDOが

参照するすべての原資産が、投資時点で購入されてい

ない場合には、ルック・スルー・テストを実施するのは困

難であるという点である。その結果、CDO 保有者は、

CDO が参照するすべての原資産が、償却原価測定に適

格であるかどうかを評価することができなくなる。そのよ

うな場合には、当該投資が償却原価測定に適格である

か否かを決定するために、CDO 保有者は、その他の検

討要素にくわえて、特にCDOの意図された目的や、CDOマネージャーの投資権限を考慮する必要がある。

IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点 33

CDO の担保差押え、及びそれによるトランシェの分類への影響

Q34: 担保の差押え(下記に記載されている状況)は、それを除けば償却原価測定に適格である

CDO トランシェへの投資の分類にどのような影響を与えるか?

追加情報 CDO の原資産プールは、償却原価測定に適格な資産の

みを含むかもしれないが、裏付資産が、原債務者の債務

不履行に伴う担保の差押えにより、土地や資本性証券を

含むものに変わることがある。担保差押えにより、CDO の

発行者は、当初の裏付資産の認識を中止するとともに、新

たな資産として土地や資本性証券を認識する。当該土地

や資本性証券は、CDO の投資マネージャーの裁量により

売却されるかもしれない。なお、IFRS 第 9 号 B4.1.26 項

は、もし当初認識後に金融商品の原資産プールが、契約

により互いにリンクした金融商品のテストを満たさないよう

に変更される可能性がある場合には、トランシェは FVTPLで測定されるであろうと明確に規定している点に留意する

必要がある。

考察 場合による。アーンスト・アンド・ヤングは、IFRS 第 9 号

B4.1.26 項は、原債務者の債務不履行(デフォルト)によ

る資産の取得までを意図しておらず、それが、金融商品

の契約条項に則った履行請求(担保差押え)に過ぎない

のであれば、金融商品の原資産プールの変更ではない

と考えている。個別の事実、状況を評価する必要がある

が、その際には、特に下記事項を考慮する必要がある。

• CDO 投資の当初認識時点で、個別資産への担保の

差押えの可能性が低かったか否か

• CDO の契約条件は、投資マネージャーに土地や資

本性証券を合理的に短い期間内に売却することを

求めているか否か

上記要件が満たされれば、CDO への投資は償却原価で

測定することが可能であると考えられる。しかしながら、

これらの条件は網羅的ではなく、事実関係が異なれば、

結論を得るために、追加の要件を考慮する必要がある

かもしれない。

単一のトランシェから成る CDO

Q35: 単一のトランシェから成る CDO への投資は、償却原価に適格となるか?

考察 IFRS第9号では、契約により互いにリンクした金融商品の

テストに関して、「信用リスクの集中をもたらす契約により

互いにリンクする複数の金融商品(トランシェ)」に言及して

いる。また、結論の根拠においても、単一のトランシェでは

なく、複数のトランシェを伴う標準的な優先劣後構造につ

いて言及している。したがって、単一のトランシェから成る

証券化商品への投資は、このテストによる評価対象では

ない。このような投資については、おそらく、IFRS 第 9 号

のノン・リコースに関する規定が適用され、それにより、ト

ランシェのキャッシュ・フローが、元本と貨幣の時間的価

値と信用リスクのみを表す金利の支払いのみに関連す

るものであるかを決定するために、原資産のルック・スル

ーが求められることになる。

34 IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点

2 つのトランシェからなる CDO

Q36: 2 つのトランシェ構造(たとえば、単一の資本のトランシェと単一の負債のトランシェ)への投資

は、複数の「契約により互いにリンクした金融商品」規定の範囲に該当するか?

考察 「複数の」という用語は「2 つ以上」を意味すると解釈される

であろうが、2 つのトランシェを持つストラクチャーは、通

常、「複数の契約により互いにリンクした金融商品」の規定

に該当しないものと考えられる。当該規定は、信用補完を

受けたり与えたりするトランシェを想定しており、その場合

少なくとも 3 つのトランシェが必要である。2 つのトランシェ

構造は資本と負債部分のみを有しており、負債部分が償

却原価で計上されるか否かは資本部分の大きさなどの

要因に左右されるため、優先トランシェのリターンが、実

質的に貨幣の時間的価値と信用リスクの対価であるか、

もしくは原資産のパフォーマンスへの参加によるもので

あるかに左右される。したがって、2 つのトランシェ構造

に対しては、ノン・リコース資産に係るガイダンスを適用

することが有用であるが、それにより、往々にして、「契

約により互いにリンクした金融資産」の規定を適用した場

合と結論が異なることになる。

IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点 35

再分類

企業が金融資産を運用する上でのビジネスモデルを変更

する場合のみ、その変更により影響を受けるすべての金

融資産を再分類し、変更後のビジネスモデルを反映させる

必要がある。このような変更は稀にしか起こらないと予想

される。再分類はその他のすべての状況において禁止さ

れている。

IFRS 第 9 号の適用指針では、再分類が必要となるか、

もしくは認められない状況が例示されている。

図表 5:再分類が認められるビジネスモデルの変更例

• 企業は、短期間で売却することを目的として商業ローンのポートフォリオを保有している。当該企業は商業ローンを管理し、契約上のキャッシュ・フローを回収するために当該ローンを保有することをビジネスモデルとする企業を買収した。その結果、商業ローンのポートフォリオは、もはや売却目的で保有されているのではなく、取得した商業ローンと共に管理され、そのすべては契約上のキャッシュ・フローを回収するために保有される。

• ある金融サービス企業は、住宅ローン事業からの撤退を決定し、もはや新規の取引を実行していない。当該企業は保有する住宅ローン・ポートフォリオの売却を活発に行っている。

ビジネスモデルに変更がなく、再分類が認められない例

• 特定の金融資産についての保有意図の変更(たとえ市場環境に著しい変化が起きている状況であっても) • 金融資産が取引される特定の市場の一時的な消失 • 企業内の既存のビジネスモデルの間での金融資産の振替

再分類日

Q37: 企業が年度中にビジネスモデルを変更したため、その影響を受けるすべての金融資産を再

分類する必要があるとする。この場合、再分類の会計処理はいつ行われるか?

考察 企業のビジネスモデルの変更は、再分類日から将来に向

かって会計処理されなければならず、再分類日は、IFRS第9号において「ビジネスモデルの変更があった後の最初

の報告期間の初日」と定義されている。

たとえば、12 月 31 日を報告期末とする企業が、そのビジ

ネスモデルを 8 月に変更することを決定したとする。ここ

で、当該企業が、IFRS の下で四半期報告を作成・公表し

ているとすると、9 月 30 日までは従前の分類を適用し、

10 月 1 日時点で、影響を受けるすべての金融資産を再

分類して、その日から将来に向かって新たな分類を適用

しなければならない。しかしながら、もしその企業が、年

度の報告書しか作成していない場合には、翌年度の 1月 1 日から影響を受けるすべての金融資産を再分類し

なければならない。

36 IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点

金融資産の特徴の変更

Q38: たとえば、転換社債の転換オプションの行使期限切れなど、金融資産の特徴が変化した場

合、再分類が許容もしくは要求されるか?また、その回答は、転換社債が発行者の株式に

転換されたかどうかにより異なるか?

考察 金融資産の特徴が、その当初の契約条件に基づいて、残

存期間にわたって変化する場合、再分類は許容も要求も

されない。ビジネスモデルの変更と異なり、金融資産の契

約条件は、当初認識時点で判明しているため、企業は、当

初認識時点で、金融商品の残存期間にわたる契約条件に

基づいて分類を行う(IFRS 第 9 号の BC4.117 項)。

それゆえ、たとえば、転換社債の転換オプションの行使

期限が過ぎたような場合であっても、再分類は許容も要

求もされない。一方、転換社債が株式に転換される場

合、その株式は、企業により認識される新たな金融資産

を表している。そのため、その時点で、新たな資本性金

融資産について分類を決定する必要がある。

IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点 37

資本性金融資産

IFRS 第 9 号が適用される資本性金融資産は、すべて、そ

の他の包括利益(OCI)又は純損益を通じて公正価値で測

定する必要がある。これは、資本性金融資産がトレーディ

ング目的で保有されていない場合に、金融商品ごとに可

能な取消し不能の選択である。なお、トレーディング目的

で保有されている場合には FVTPL で測定しなければ

ならない。資本性金融商品が、その他の包括利益を通じ

て公正価値で測定(FVTOCI)される場合は、明らかに投

資コストの一部の回収である場合を除き、その配当は純

損益に認識される。(公正価値の変動や資産の売却によ

る実現損益などの)OCI に表示される金額は、純損益に

リサイクルされない。

資本性金融商品の定義

Q39: 企業は、どのように IFRS 第 9 号の下で、金融資産が資本性金融商品として適格であるかを

判定するか?

考察 IFRS第9号の付録Aは、IFRS第9号を適用する目的上、

「資本性金融商品」の定義は、IAS 第 32 号「金融商品:表

示」に含まれているものであると述べている。IAS 第 32 号

では、資本性金融商品とは、企業のすべての負債を控

除した後の企業の資産に対する残余持分を証する契約

であると定義されている。したがって、現金による決済が

求められる金融商品についてはこの定義は満たさない。

プット可能な金融商品の分類

Q40: IAS 第 32 号の例外規定に基づき、発行者が資本性金融商品として分類しているプット可能

な金融商品は、保有者による FVTOCI への分類に適格となるか?

考察 適格とはならない。発行者は、IAS 第 32 号に従い、特定

の場合においてプット可能な金融商品を資本性金融商品

として分類することができる。しかし、これは IAS 第 32 号

における資本性金融商品の定義を満たさない。したがっ

て、これらは、保有者では FVTOCI に分類することはでき

ない。

IFRS 第 9 号の付録 A は、IAS 第 32 号で定義されてい

る「資本性金融商品」の定義について言及している。当

該定義は、「プット可能な金融商品」は、金融負債の定義

に合致するため、そこから除外している。プット可能な金

融商品に関する IAS 第 32 号の改訂は、通常の規定の

例外として、一定のプット可能な金融商品の発行体に、

これを資本として分類されることを認めてはいるものの、

資本の定義自体を変更してはいない。

38 IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点

コール可能な永久債の分類

Q41: コール可能で、永久債である「Tier 1」に分類される負債性金融商品の保有者は、当該投資

を FVTOCI に分類することができるか?

考察 発行者の観点から「資本性金融商品」の定義に合致する

場合には可能である。

企業がコール可能で永久債である「Tier 1」に分類される

負債性金融商品に投資しており、その本質は永久劣後負

債であり、かつ、発行者(企業 B)のオプションにより償還

可能である例を考える。この金融商品には、もし企業 Bが、その普通株主に配当を支払わなかった場合、支払い

が繰り延べられる固定金利クーポンが付されている。

なお、クーポンが支払われないとしても追加の金利は発

生しない。この金融商品には満期日がないが、発行後

20 年経過すると、クーポンが、より高い水準に上昇す

る。企業Bは、その時点で額面に未払利息を加えた金額

で償還する権利を有する。IFRS 第 9 号の下、このような

金融商品は、保有者の観点からは償却原価測定に適格

ではない。しかしながら、もし企業 B が、現金を支払う契

約上の義務を有していないのであれば、IAS 第 32 号に

基づき発行者の観点から資本の定義を満たすため、保

有者も当該金融商品をFVTOCIに分類にすることは可能

である。

エクイティ・デリバティブ

Q42: 発行者の観点から資本の定義に合致するエクイティ・デリバティブ(新株予約権やオプション

等)は、保有者による FVTOCI への分類に適格となるか?

考察 適格とはならない。トレーディング目的で保有される資本

性金融商品は、IFRS 第 9 号の下で FVTOCI に分類できな

い。「トレーディング目的保有」の定義は、IFRS第9号の付

録 A で示されているが、それは IAS 第 39 号における定

義と同じである。ここで、すべてのデリバティブは、トレー

ディング目的保有と扱われることから、エクイティ・デリバ

ティブはトレーディング目的保有資産としてみなさねばな

らず、それゆえ、IFRS 第 9 号の下では FVTOCI への分

類に適格とはならない。

IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点 39

FVTOCI に指定した投資に係る IFRS 第 7 号に基づく開示

Q43: IFRS 第 9 号の発効に伴う IFRS 第 7 号の改訂により、FVTOCI に指定された資本性金融商

品に対する個々の投資について、報告日における公正価値の開示が要求されているが、本

当に個々の金融商品についてこれを開示しなければならないのか?

考察 開示しなければならない。IFRS 第 9 号では、これらの投資

それぞれについて開示が必要である点を明確にしている。

IFRS 第 7 号「金融商品:開示」の 11A(a)-(c)項は以下のと

おり述べている。

企業が、資本性金融商品に対する投資を、IFRS 第 9 号の

5.7.5 項で認めるところにより、その他の包括利益を通じ

て公正価値で測定するものとして指定した場合には、次の

事項を開示しなければならない。

(a) OCI を通じて公正価値で測定するものとして指定した

資本性金融商品への投資

(b) この表示の選択肢を使用する理由

(c) 報告期間末日におけるこのような投資それぞれの公

正価値(強調追加)

FVTOCI オプションを非常に幅広く使用する場合、開示

要件が重荷になり、その使用に対する阻害要因となりう

るため、企業は、この選択を行う際には注意が必要であ

る。さらに、個々の金融商品の金額に重要性がない場合

でも詳細な開示が必要になるのかという疑問も生じる

が、アーンスト・アンド・ヤングは、重要性の概念を適用

し、個別に重要性のある投資については要求される開示

情報が提供され、重要性のない項目については総計に

よる開示でも十分かもしれないと考えている。

40 IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点

発効日及び移行措置

IFRS 第 9 号は、2013 年 1 月 1 日以降に開始する会計

年度から適用されなければならない。しかし、IASB の最近

完了した発効日プロジェクトに対して寄せられた関係者か

らのフィードバックへの対応として、IFRS 第 9 号の強制適

用日は 2015 年 1 月 1 日に延期される可能性が高い

(IASB は 2011 年 8 月に、IFRS 第 9 号の強制適用日を

2013年から 2015年 1月 1日に延期することを提案する

公開草案を公表した(コメント期間は 10 月 21 日まで))。

早期適用は認められている。また、IFRS 第 9 号を 2012年 1 月 1 日より前に開始する報告期間に適用する場合

には、比較情報を修正再表示する必要はない。

当初適用日

Q44: 当初適用日はいつか?また、比較情報を修正再表示しなければならないか?

考察 IFRS第9号は当初適用日において保有している金融商品

について、遡及適用が強制されている。そのため、当初適

用日前に認識を中止した金融商品については IAS 第 39号に従って処理する(IFRS 第 9 号 7.2.1 参照)。

しかしながら、金融商品が償却原価又は公正価値のどち

らで測定されるかの評価は、当初適用日時点のビジネス

モデルに基づいてなされる必要があり、それは当該日時

点に存在する事実及び状況に左右されることになる。

2011 年もしくは 2012 年に IFRS 第 9 号を適用する場

合、当初適用日は、適用される報告期間の最初の日と

なる。IAS 第 34 号「期中財務報告」に従い、四半期財務

諸表を報告する企業にとって、報告期間は年度の会計

期間である必要はなく、四半期会計期間で足りると考え

られる。よって、そのような企業は、いずれの四半期首に

ついても当初適用日として指定することができる。

ただし、IFRS第9号を早期適用しない企業は、当初適用

日は 2013年 1月 1日以降に開始する年度報告期間の

期首となる。

IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点 41

早期適用による影響及び年次財務諸表における比較年度情報の修正の免除

Q45: 2011 年 12 月 31 日に終了する会計年度の企業が、2011 年中に、2011 年 10 月 1 日を

当初適用日として IFRS 第 9 号を適用することを決定するとする。当該企業が比較情報を修

正再表示しないことを選択する場合、2011 年度の財務諸表にどのような影響を及ぼすか?

考察 金融商品を償却原価又は公正価値のいずれで測定する

かの評価は、企業の貸借対照表に計上されている金融資

産について、当初適用日(2011年10月1日)における事

実及び状況に基づいて、当該日時点のビジネスモデルに

基づき行う必要がある。当初適用日における評価が行わ

れた後、企業は IFRS 第 9 号の下での分類を遡及的に適

用する必要がある。これらの資産の従前の帳簿価額と、

修正後の帳簿価額との差額は、会計年度の期首(この設

例においては、企業が年次財務諸表を作成していると仮

定して、2011 年 1 月 1 日)における資本に認識される

(IFRS 第 9 号 7.2.14 参照)。

企業が比較情報を修正再表示しない場合は、2010 年

度についての比較情報は従前に報告された通りのまま

となる。その結果、IAS 第 39 号による従前の分類(満期

保有、売却可能等)が、2011 年度の貸借対照表におけ

る前年度の数値について表示される必要がある。

2011 年度第 3 四半期中までに認識中止された金融資

産については、2011 年度の業績の調整がなされない点

にも注意されたい。これは混乱をもたらす可能性がある

ため、説明が必要になるかもしれない。アーンスト・アン

ド・ヤングは、IFRS第 9号を期中報告期間からではなく、

年度報告期間の期首から適用することを推奨している。

42 IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点

IFRS 第 9 号と 2008 年 10 月の IAS 第 39 号の再分類に関する改訂との関連

Q46: IFRS 第 9 号は 2008 年 10 月の再分類に関する改訂とどのように影響し合うか?

考察 2008 年 10 月における IAS 第 39 号の改訂により、一定

の金融資産について、FVTPL での測定から売却可能

(AFS)又は償却原価へ再分類することが認められた。仮

に企業がこの改訂に従って償却原価へ再分類していた場

合、再分類日時点の金融資産の公正価値が、再分類日に

おける新たな償却原価とされた。

IFRS 第 9 号の移行規定は、いくつかの例外を除き、IFRS第 9号の遡及適用を強制している。企業が IFRS 第 9号を

適用し、以前に再分類した金融資産を償却原価で測定す

ることを選択した場合(IFRS第9号のすべての関連する条

件を満たすと仮定して)、どのようにして遡及適用を実施す

べきであろうか?実効金利法と減損に関する規定は、(i)当初認識時点の金融資産の取得原価、もしくは、(ii)IAS

第 39 号に従った再分類日時点での新たな原価のどちら

に基づくべきか?

これについて、アーンスト・アンド・ヤングは、IFRS第 9号

の当初適用日時点で、当初認識時点での当該金融資産

の取得原価に基づいて、IAS 第 39 号における実効金利

法と減損規定を遡及的に適用することが企業に求めら

れていると考えている。IAS第39号に従った実効金利法

もしくは減損規定の遡及適用が実務上不可能(IAS 第 8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」に定義

されているように)な場合に限り、企業は各比較期間の期

末日時点の金融資産の公正価値をその償却原価として

扱うことができる。この場合、IFRS 第 9 号の当初適用日

時点の金融資産の公正価値を、新たな償却原価としな

ければならない。

予見可能な将来まで貸出金を保有するビジネスモデル

Q47: IFRS 第 9 号への移行時点において、銀行が可及的速やかに売却の意図を有しているが、

その非流動性のために売却ができていない貸出金ポートフォリオは、契約上のキャッシュ・フ

ローを回収するために資産を保有する目的のビジネスモデルに基づいて保有しているとみな

せるか?なお、IAS第 39号においては、銀行は 2008年 10月の再分類に関する改訂の規

定を利用して、「予見可能な将来」まで保有し続ける意思と能力を有するため、当該ポートフ

ォリオを貸付金及び債権に再分類していた。

考察 おそらくみなせない。可及的速やかに資産を売却する意図

を経営者が有する場合、当該ポートフォリオは、FVTPL に

分類されるビジネスモデルに基づいて保有されていると推

定される。市場の非流動性のために、銀行は、予見可能

な将来まで当該ポートフォリオを有するかもしれないという

事実は、IFRS 第 9 号のビジネスモデル・テストを満たす

上では十分ではない。IFRS 第 9 号は、企業が償却原価

モデルを採用しようとする場合、当該企業が金融資産を

保有する目的は、契約上のキャッシュ・フローを回収する

ためでなければならない点を明確にしている。

IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点 43

処分目的で保有される金融資産に対するビジネスモデル

Q48: IFRS第9号への移行時点において、銀行が処分を決定した事業の一部である貸出金ポート

フォリオに対するビジネスモデルはどのように評価すべきか?

追加前提 国際的にビジネスを展開する銀行は、さまざまな事業を有

しており、それらは個々に経営管理される。それらの事業

のいくつかは、契約上のキャッシュ・フローの回収を目的と

する金融資産のポートフォリオの保有を伴う。IFRS 第 9 号

の初度適用日より前に、銀行は、契約上のキャッシュ・フロ

ーの回収を目的として貸出金を保有している事業である、

自動車金融事業の処分を戦略的に決定する。

追加的な事実は以下を含む:

• 銀行は、単に貸出金のポートフォリオだけでなく、人員

や IT システムや建物などの自動車金融事業のすべて

を処分する。

• 資産の当初認識時において、自動車金融事業に係る

貸出金は、IFRS 第 9 号のキャッシュ・フローの特徴テ

ストを満たしてしている。

考察 これらの事実及び状況に関して正解は存在しない。償却

原価とFVTPLのどちらによる測定も正当性があることを明

らかにすることは可能である。

償却原価を支持する者の主張によれば、初度適用日時点

において、銀行が将来において事業を売却する意図を有

するとしても、貸出金は、契約上のキャッシュ・フローを回

収するために資産を保有する事を目的とするビジネスモデ

ルに基づいて引き続き保有されている。当該目的は、銀行

が事業を売却する意図を有しているか、又は売却が可能

かにかかわらず維持される。くわえて、当該事業の売却前

に完全にキャッシュ・フローを回収する貸出金も存在する

かもしれない。それゆえ、初度適用日時点における事実及

び状況に基づいた際にも、当該貸出金は、契約上のキャ

ッシュ・フローを回収するために資産を保有することを目

的とするビジネスモデルに基づいて保有していると考え

られる。

他方、FVTPL を支持する者の主張によれば、初度適用

日時点において、銀行は、契約上のキャッシュ・フローを

回収するために貸出金を保有するというよりは、むしろ、

処分するであろうと見込んでいる。それゆえ、銀行の観

点からは、貸出金は、もはや契約上のキャッシュ・フロー

を回収するために資産を保有する事を目的とするビジネ

スモデルに基づいて保有されていない。

上記のように、この論点については、異なる見解があ

る。また、競争の欠如に係る懸念のために、銀行は、規

制当局や政府の主導により、ノンコア事業活動や特定の

事業の処分を要求されることがあるため、この論点は、

市場においても一般的であるという事実もある。このた

め、この論点は IASB や IFRS 解釈委員会から、より詳細

なガイダンスが提供されることが期待される分野である。

アーンスト・アンド・ヤングは、この問題について、IFRS第

9 号への移行時点に限れば、2 つの考え方のどちらも可

能であると考えている。また、IFRS 第 9 号において再分

類が要求されるレベルは相当に高いため、仮に IFRS 第

9 号の適用後に事業の処分の決定がなされた場合で

も、償却原価から FVTPL への再分類が必要となる可能

性は低いであろう。たとえば、IFRS 第 9 号 B4.4.1(b)項でも、個人向けの不動産担保ローン事業を閉鎖すると決

定する金融サービス会社は、資産を償却原価から

FVTPL へと再分類するには、ポートフォリオを積極的に

市場で売却すべく活動しなければならないとされている。

44 IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点

当初適用日より前に認識が中止された金融資産の比較情報への影響

Q49: 2013 年 1 月 1 日に IFRS 第 9 号を適用する企業が、2012 年度中に売却される売却可能金

融資産を 2012 年 1 月 1 日時点で保有していた場合、2013 年度の財務諸表において当該資

産に関する比較情報はどのように開示すべきか?

考察 IFRS 第 9号の導入において、企業の当初適用日は 2013年 1 月 1 日である。しかしながら、IFRS 第 9 号は当初適

用日に保有していた投資にのみ遡及的に適用され、当初

適用日より前に認識の中止が行われた投資は、IAS 第 39号に従って会計処理される(IFRS 第 9 号 7.2.1 項)。企業

が IFRS 第 9 号を 2012 年 1 月 1 日より後に適用した場

合には、比較情報の修正再表示が要求される。

売却可能金融資産が 2012 年中に売却され、IFRS 第 9号が当初適用日時(2013 年 1 月 1 日)に保有していた投

資にのみ遡及的に適用されることを示すために、比較情

報は以下のようになる。

2012 年 12 月 31 日に終了する年度 当該資産は 2012 年度中に売却されているため、2012年 12 月 31 日時点の貸借対照表には何も開示されな

い。当該売却による損益は、IAS第39号に従って測定さ

れ、純損益に認識される。

2011 年 12 月 31 日に終了する年度 当該資産は 2011 年 12 月 31 日時点の貸借対照表に

売却可能金融資産として開示される。当該資産は当初

適用日前の 2012 年度において売却されたので、企業

は IFRS 第 9 号を用いて比較情報を修正再表示すること

は禁止される。

当該資産の 2011 年度における公正価値の変動は、

IAS 第 39 号で売却可能金融資産に関して求められてい

るように、純損益ではなく OCI として認識される。

契約により互いにリンクしている金融商品の評価

Q50: 契約により互いにリンクしている金融商品テストの適用において、保有するトランシェに関連

するリスクと原資産はいつ時点で測定されるべきか?

IFRS 第9号の 3.1.1項では、企業は、投資の契約条項の

当事者になった時点で資産の分類を行うことが要求されて

いる。ルック・スルー評価は、企業(たとえば投資家)が契

約上リンクしている金融商品を当初認識した時点において

行わなければならない。SPE が設立された時点又は IFRS第 9 号の当初適用日において存在する状況に基づいて、

リスク評価を行うことは適切ではない。IFRS 第 9 号

7.2.4項によると、企業は、IFRS第9号の当初適用日時

点において存在している事実及び状況に基づいてビジネ

スモデルを評価しなければならず、その結果行われる分

類は遡及適用しなければならない。しかしながら、当該

移行規定は、金融資産の特徴の評価に対しては適用で

きない。

IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点 45

発効日及び IFRS 初度適用企業に対する移行措置

Q51: IFRS 第 9 号は、初度適用者にどのような影響を与えるか?

考察 IFRS を 2010 年又は 2011 年に適用し、IFRS 第 9 号を

同時に適用する企業には、既存の IFRS 適用企業とおお

むね同様の免除規定と移行措置が与えられる。したがっ

て、2012 年 1 月 1 日より前に IFRS を適用する企業は、

IFRS 第 9 号に準拠するために金融資産の比較情報を調

整する必要はない(その代わりに従前 GAAP を用いて情

報を表示することができる)。くわえて、2012 年 1 月 1 日

より前に初めて IFRS(IFRS 第 9号も含めて)を適用する企

業の場合、IFRS 第 9号の当初適用日は、通常、IFRS 第 1号により求められる比較期間の期首ではなく、IFRS に基

づく最初の報告期間の期首になる。

2012 年 1 月 1 日以降に IFRS を適用する企業は、IFRS第 9 号に準拠する比較情報の表示が要求され、移行

日、つまり比較期間の期首における状況に基づき金融

商品の分類を決定しなければならない。

留意すべき点として、既存の IFRS 適用企業が資産の特

徴(契約上のキャッシュ・フローの特徴」テストを当該資

産の当初認識日に行う必要があるのに対し、初度適用

企業は IFRS 移行日(2012 年 1 月 1 日以降に IFRS を

適用する場合)もしくは最初の IFRS 報告期間の初日

(2011 年中に IFRS を適用する場合)において当該テス

トを実施する必要がある。

Q52: Q50 に対する回答は、初度適用企業の場合には異なるか?

考察 異なる。初度適用企業は、資産の特徴の評価を IFRS移行

日(IFRS 第 1 号「国際財務報告基準の初度適用」B8 項)

において存在する事実及び状況に基づき行う。

結果として、初度適用企業の証券化商品は、契約上互

いにリンクしている金融商品に対する判定を満たさない

可能性が高い(そのような金融商品が金融危機を引き起

こした)。なぜなら、中位に位置するトランシェのリスク

は、投資の当初認識時よりも IFRS 移行日の方が高く評

価される可能性が高いからである。

46 IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点

金融負債 金融負債に関する IFRS 第 9 号の改訂は、公正価値オプションを指定した金融負債の測定に関する内容に限られており、

その他については IAS第39号における金融負債の分類及び測定に関する規定が維持されている。新たな金融負債の分

類アプローチは、以下のフロー・チャートの通りである。

公正価値オプションを適用するか?

公正価値の変動の一部は信用リスクによるものか?

信用リスクによる公正価値の変動をOCI に表示することにより会計上のミスマッチが生じるか?

信用リスクによる公正価値の変動は OCI に計上する。

変更なし。IAS 第 39 号の規定が IFRS 第 9 号でも引き継がれる。

公正価値の変動全体を純損益に計上する。

それ以外の公正価値の変動は純損益に計上する。

はい

はい

いいえ

いいえ

いいえ

はい

IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点 47

IASBが、IAS第39号の規定を大幅に踏襲することを決定

したということは、金融負債については、組込デリバティブ

に関する複雑な規定が引き継がれ、IFRS 第 9 号による金

融資産の組込デリバティブの規定とは異なるアプローチ

が適用されることを意味する。

金融負債の公正価値オプションに関する変更 金融負債の公正価値の変動額のうち、信用リスクに対応

する額は、その他の包括利益(OCI)に表示しなければなら

ない。信用リスクを除いた残りの公正価値の変動部分に

ついては、自己の信用リスクの変動を OCI に表示すること

で会計上のミスマッチが生じる、又は増幅することがない

限り、純損益に計上する。企業は、当該処理により会計上

のミスマッチが生じる、又は増幅するかどうかを決定する

ために、負債の信用リスクの変動による影響が、他の金

融商品の公正価値変動と純損益において相殺されるかど

うか(たとえば、ある資産の公正価値が負債の公正価値

に関係している場合など)について評価しなくてはならな

い。もし会計上のミスマッチが生じる場合には、当該負債

の公正価値の変動額のすべてを純損益で表示することが

求められる。しかし、アーンスト・アンド・ヤングは、実際に

はそのようなケースは稀であると考えている。会計上のミ

スマッチが生じるかどうかの決定は、個々の負債の当初

認識時に行う必要があり、事後の再評価は認められない。

負債の信用リスクの測定 当改訂は、信用リスクの変化に伴う負債の公正価値変動

の測定に関する従来のガイダンス(IFRS 第 7 号)を引き継

いでいるが、明確にされた点もある。すなわち、IFRS 第 9号では、ベンチマーク金利などの、市場リスク要因の変動

によるもの以外のすべての公正価値変動は、負債の信用

リスクに起因する、という原則的な考え方をとっている。こ

れにより、負債に関連する流動性プレミアムも信用リスク

に含まれることが明確にされた。なお、自己の信用リスク

の変化に起因する負債の価値変動をより忠実に表わすも

のであれば、その他の考え方も認められる。

資産固有の履行リスク (Asset-specific performance risk) さらに当改訂では、IFRS 第 7 号で定義されている信用リ

スクは、資産固有の履行リスクとは異なるという点も明確

にされた。信用リスクとは、企業が、ある特定の債務につ

いて履行不可能となるリスクである。資産固有の履行リス

クは、ある資産の運用が失敗したときに、その資産と契約

上の関係にある債務の履行にも直接影響が及ぶリスクを

いう。たとえば、ある SPE において、SPE 投資家へ支払わ

れるべき金額は、SPEの原資産から生み出されるキャッシ

ュ・フローによって制限されることがある。SPE の資産は投

資家の便益のため法的に隔離、区分されている。このよう

な場合、負債の公正価値変動のすべては、資産の履行能

力を反映するものであって、信用リスクは存在しない。した

がって、負債の公正価値変動のすべては純損益で認識す

ることになる。

信用リスクは、資産固有の履行リスクとは同一ではないと

いう点が明確にされたことにより、金融機関によっては、

公正価値オプションを指定した負債の公正価値における

自己の信用リスクの変化に起因する影響額に関する

IFRS 第 7 号に基づく開示内容の変更が必要となるかもし

れない。たとえば、金融機関が SPE を連結しており、SPEの発行する証券を保証していないような場合には、このケ

ースに該当するであろう。

リサイクリング 当改訂は、OCI に計上される金額を負債の認識中止時に

純損益に振り替えることを禁止している。ただし、FVTOCIに指定した資本性金融商品の公正価値変動に関する処

理と同様に、資本項目内部での振替は認められているた

め、認識中止時に利益剰余金へ振り替えることはできる。

48 IFRS 第 9 号フェーズ 1「金融商品の分類及び測定」の実務適用における論点

Ernst & Young ShinNihon LLC

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