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Instructions for use Title 血液の低温保存に関する研究 : 第1報 保存血液の酸素受容能について Author(s) 浅沼, 英一 Citation 低温科學. 生物篇, 17, 125-135 Issue Date 1959-10-24 Doc URL http://hdl.handle.net/2115/17628 Type bulletin (article) File Information 17_p125-135.pdf Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

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Title 血液の低温保存に関する研究 : 第1報 保存血液の酸素受容能について

Author(s) 浅沼, 英一

Citation 低温科學. 生物篇, 17, 125-135

Issue Date 1959-10-24

Doc URL http://hdl.handle.net/2115/17628

Type bulletin (article)

File Information 17_p125-135.pdf

Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

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Eiichi ASANUMA 1959 Studies on the Cold Preservation of Blood. 1. Oxygen-Carrying

Capa巴ityof the Preserved Blood. Low Temperatur・eScience, Ser. B, 1,. (With English

resume p. 135)

血液の低温保存に関する 1ifF究快

耳n報 保存血液の酸素受容能について

浅 沼英

({l-!;iffil.科学研究所医学部門)

(Ul1和 34年 7月!1;Jm)

1. 緒 τ-Eヨ

1916年 Rous及び Turnerりが血液保存に関する基礎的研究を発表して以来,保存期間中

に血液の受ける色々な変化について,また臨床的応用について多くの研究がなされた。しかし

て保存中の血液の変化を調べるに当つては,赤血球の変化が輸血の目的から云って最も重要で

あり, したがって今迄なされた研究の予約んどが,赤血球について行われている。それらはいず

れも形態的或いは機能的な立場から調べられているが,筆者は血液の低温保存中に赤血球の受

ける変化,特lこ過冷却保存による赤血球の変化を,酸素受容能を測ることによって機能的な面

から追及した。

保存血液の瓦斯含有量及び酸素受容能lこ関する研究は, Belkヘ木口め等いくつかの業績

がみられ, そのいずれもあまり変化がないと述べている。 之等の研究の大部分は OOC~90C

の温度lこ保存された血液を以って行われている。 それは血液保存の温度について,竹岡ペ

Thist1e'¥ ParpartへGibson7)等lこより検討された結果, 5

0C間近が血液保存の至適温度とし

て認められたからである したがって OOC以下の保存臓について酸素受容能を誠定した研究は

見あたらない。また酸素受容能の保存による変化の少ないことの機構についての検討も光分な

されていない。

耳且液を長期間保存するためには,出米るだけ亦血球の物質代謝を低下させ,赤血球のエネ

ノレギー消耗を少なくすればよいのであるが, あまり低温では,特殊な方法的,めによる以外は凍

結のために溶血をおこすので目的は果されない。しかしながら, -50C位迄は凍結の起るおそ

れはなく,血液を過冷却の状態で保存することが出来る。そこで血液の過冷却保存をねらいと

して,その場合に起る赤血球の変化について色々と検討されたが川著者はその実験の一部とし

て赤血球変化の機能的な面,特に赤血球及び血援 I~J に遊離した血色素の酸素受容能及び白然溶

I阪との関係について実験的研究を試みたのである。なお 50Cと 50Cのワナギ及びヒトの二種

の保存血液について,その変化の比較検討を行った。

持北海道大学低混科学研究所業綴第 518号

低温科学生物籍策17籾昭和 34年

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126 浅沼英一

11. 実験方法

1) 保存方法

保存血液の材料として,我々の実験室に於いて採血したワサギ血液と,北海道血液銀行に

おいて採血したヒト血液を用いた。

クサギ血液を採血する場合lこは, 予め, 20ccの注射筒に ACD淡を 5cc入れておき, ク

サギから心臓穿耕によって総量 20cc になるように採血した。

採血した血液を 2.5ccずつ約 7.0cc容量の小試験管に分注,ゴム栓で密絵し, 50Cと -50C

との'1'[(温槽にそれぞれ静ii'i:保存した。

ヒト血液も採血当日,一部実験に使用し,残りは試験管に 2.5ccずつ分注してヲサギ血液

と同様に 50Cと-5.0Cに保存ーした。 なお対照として 37

0

C の恒温*~5及び室温が約 200C に保た

れている主に保存した。

以上の操作はすべて無蔚的に行ったことは申すまでもない。保存した血液は大体, 1-2週

間毎に取り出して,験禁;受容能,自然溶血本及びへマトクリットイ直の測定を行った。

2) 血液酸素受容能の測定法

まず保存血を O2で飽和させるには, 恒j晶

粍'iより取り出した小試験管を静かに, 5, 6田振

って血液をよく混和し, 之れに 15分間空気の

吹付けを行った。 15分の吹付けで血液が充分

に O2 で抱和する ζ とは~n 関に示す通りであ

る。

次lこ O2で飽和した血液を直ちに白布式

微量血液ガス分析器に 0.03cc正確にとって測

定した11)

この O2測定の原J111は, 血液lこすポニシと

ブエロ νアシカリを加えて O2とCO2を遊離

させ,CO2をtJ性ソ{ダで吸収してガスlIP,を

O2

Vol

% 20

10

O

mlo. 10 20

第 1図 血液に空気吹付けを行う際のl次付け

時間と結合 O2泣との関係

@ウサギ O ヒ ト

はかり,次に O2をハイドロナノレファイト溶液で吸収して,残りのガス圧 P2をはかるもので,

(P,-P2)x 温度係数=02Vol %が求められる。

3) 自然溶血の測定法

血援に遊離したヘモグロピ γ量(以下Hbと略記す)を求めるには, 保存蹴をよく混和し,

遠沈 3回行い上清から血疑 1.0ccをとり,島津の光電分光光度計によって測定した。

その方法は Khalifaand Salah聞の方法に準拠し, Hbを境酸へマチンにして, 波長 372.5

mμ にて測定し, 全血中の Hb量を以て血張中lこ遊離した Hb量を割った商を以て溶血率とし

ナこ。

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血液の低温保存に関する研究 127

4) 沈降血球層及び血疑の酸素受容能及びへマトク Pット (Ht)値の測定

取り出した保存血液をよく混和し, 規定の通り 15分間空気吹付を行い, 直後流動パラフ

イジを重畳しガス放出を防ぎ, 2000廻転 15分行い,血球と血設を分離させ, その各々のサシ

プノレ 0.03ccをガス分析器に吸入して O2のVol%を測定した。

同時に,被検血液を毛細管ピペットで Wintrobeのへマトクロット管に目盛 100のところ

まで取り,述沈し, Ht値を測定した。

5) ヘモグロビン溶液の保存法

実験方法 1)によって採血したヲサギ及びヒト血液を -230

Cの低温で凍結させ,次に 400

C

の温浴糟で融解せしめ,完全に融j~ した[血液を 3000 廻転 10 分間遠沈して Ghost を落し,その

じ青を 50C但温槽lこ前?置保存した。 これを前記の場合と同様に保存期聞をおきながら O2受容

能を測定した。

III. 実験成績

工) 保存血の O2受容能について

a) ヲサギ血液 8例のヲサギ血液の O2受容能の 5週乃至 10週lこ至る間の保存による

変化は,保存するにつれて減少を示すもの,あまり変化のないものと,区々であり個体による

違いはあるが, 各保存日数における数例の血液の O2受容能の平均値をとって見るに第 2図に

示す通り,全般的には 50C保存のものも -50C保存のものも共に幾分の減少を示す傾向にあり

その程震は 50C保存のものが, -50C 保存のものよりもやや著しい。

O2

10

コdays 7 28 49

第 2図 ウサギ血液保主子中における O2受容能の変化 ¥8例の平均悩)

b) ヒト血液 71Ytlのとト血液の O2受容能の変化をワサギ血液の場合と同様に平均値を

とって第 3図に示した。これによるとヲナギ血液の場合と略々間じ傾向を示している。即ち,

保存日数に従って幾分減少するが,その程度は僅かで 7週間保存で 10%内外の減少である。

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128 浅汗f 英

50Cと-50C保存では, 初期には殆んど差が認められないが 8週以後になると -50

C保存の

ものの方が 50

C保存のものよりも稲 O2受容能がよい結巣を示した。

c) 200C保存のヒト血液は 3週後に約10%O2受容能が低下した。 37CC保存血では O2受

容能は怠速に低下し,2週間で略々 35%の減少を示した(第 4問L

b

d

/

O

cvo/ 20

10

., 50C

0-5の

C

O

days 7 28 56

第 3図 ヒト血液保在中における O2受容能の変化 (7伊!の平均値)

HAINFOO

CH円。〆岱

s'C

10

。ddyS 10 20 30

第長図デ0,2000,3TO保寄ヒト血液の

O2受容能の変化

2) 自主主 i容血

a) ワナギ血液 ワサギ血液の保存中におこる溶血本は, ?Æ~ 5認lに示す通り, 50C 保有:

のものは,保存 1週間までは 1%以下であるが 1週間より漸次増加し 2週自に絡々 3%に

達し, その後保存するに従って急速に溶血し, 5~6 週間で約四%の溶血率を示した。 一50C

保存のものは,之れに反して溶血薬にはあまり変化は見られず 1週間より概く僅かに溶llrl本

が増すが,その程度は緩めて小さく, 6 週間に至るも,溶血~対立 1% 以下に jとどまった。

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血液の低温保幸子に関する研究 129

Hb

%

10 5'C

5

市 5・c

。days 21 J5

第5図 ACD力fIウガギ血液の保存中にお

ける自然浴血率の変動

Hb

% r J

2.5

o days 21 J5

第6図 ACD加ヒト血液の保存中におけ

る自然浴I包本の変動

b) ヒト血液 ヒト血液の保存J!1におこ

る j容血率の変化は1;}~6依lに示す通り, 50C保存

のものは 3~4 越で溶血号、'>1%に速する!こ過ぎ

ないが 4週間より溶血率は怠、激lこ増加し 5

週間で約3%に達 l:Ylこ。 _50C保存のものでは

50C保存のものより比較的早期に溶血が始まり,

1.i01臼で既に約 1%の溶血率を示した。それ以後も常に -50C保存のものが, 50

C保存のもの

よりも僅かに高い溶I弘之容を示した。

3) 沈降血球熔及び血痕の O2受容能

並びlこHt値

?í~ 7図に示した如く, ヲサギ血液

50C保存では,沈降血球層の O2受容能

は,保存の経過に従って著明lζ減少の傾

向を示した。 即ち採血当 rl41.16 Vol %

のものが 1週間 40.06Vol %, 3 .I周回

35.63 Vol %, 7 j周回 30.26Vol %と減少

した。 Ht値は 5週位迄は増加し, それ

以後は減少を示した。

vyqtn球を除いた血猿「十lのO2容量は

溶泊lがあまり著しくない 4週位迄は変化

なし実験誤差の範圏内であるが,その

後j容的lの進むに従って増加する傾向が認

められた。

-50C 保存では沈降血球j自の O2受

Ht

M

O2

Vol

。〆〆O

50ト20

包5

A

doys

一一咽トー-5・c-ーベ〉一一 5勾C

C

28

49

~7 図 ウサギ血液保存中における涜降血球腐及び血竣

のO2受容能並にヘマトケリツト値の変動。

A.iX降赤血球厨 B. Ht{,直 C.血媛

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130 浅沼英一

容能は, 保存の経過につれて増加する傾向を示した。即ち採血当口 41.16Vol %が, 39 El闘

には 44.29Vol %とE首加した。 Ht値は減少の一途を辿 1), 39口日には約 10%減少した。 血

援中の O2容量は約 63l0lまでの観祭では変化が認められなかった。

4) 保存Hb溶液の O2受容能について 前述のようにして作って保存したクサギ及びヒ

トの HbのO2受容能は第 8聞に示した通り,ク 0,

サギ及びヒトのへモグロビシ溶液は,共に保存 %

5週間lこ至るも,治んど変化がなく, j認めて僅

か低下する傾向が見られるに過ぎない。長[Jち,

Hb は ACD加血液では, 血疑r[:Jに遊離しでも

強い O2結合力を有しており, 低誌ではかなり

安定した状態にあり,長期保存lこ耐えるものと

'0

'0

O

5て

.、J

P

恕[設される。 しかるに 370C保存Hbでは, 02 days 20 30

受容能は怠速に低下し 8口問で約50%の減

少を示した。

第 8図 50C並びに 3rc保存の Hb溶液の

O2受容能の変動。

@ウサギ O ヒ ト

IV. 総括及び考察

ぉ。

JIIL液の O2受議能を測るためには,血液を充分 O2で飽和させたときの伎を測らなければな

らない。 Morawitz")は, Barcroft-Haldaneの装置を用い, ヲナギ血液を 15分間主空気で振控室

することにより最高度に酸京で地利せしめた。 また大村 14) は vanSlykeの装置を用い, ヒト

血液lこ15分間 O2吹付けを行って O2を飽和せしめたと述べている。 筆者もその点について検

討した結果, 血液 iこ空気を吹付けて時間的 lこ血液 I~ユの O2 容量を測定した結果は第 1 図に示す

通り ,15分間で最高に達し,それ以上吹付けても O2容量に変化なかったので,15分の虫気吹

付けによって血液が完全に O2で飽和されることがわかった。 従って木実験lこはすべてこの方

法を用いたのである。

血液保存中の O2受容能の変化lこ関しては,Belk2), Scarborough'へGullbring16¥ 生屯等17)

は,ヒト血液に就いて実験した結果を報告している。之等は拘縁酸哲達液または ACDi-容液

で, 0~60C の ja度 lζ10 f1乃至 3011間保有ーした結果, いずれもあまり変化が見られないが,

保存日数を経るとともに,幾分減少すると述べているυ 木口めはワサギ血液を 6弘拘ほ酸1!i連

液 1/10 量加えて 3~40C ,こ保存した結果,酸素容量は時間的経過と共に,多少増加を認むるも

その価はいずれも実験動揺価の範囲で, 採血直後15.85容量;%のものは 96時間経過に於いて

16.59 容量%となったと述べている。また,大和国山はクサギ血液を 0~50C ,こ 10日間保存し

た結果 2.7% 減少したと述べている。問問問、は ACD 加ヒト血液をパラフイシで密検し 4~60C

に 45~60 LI保存した結果,保存血の酸素容量:は全く変化しなかったと報告している。

以上の実験はいずれも vanSlykeの方法または Bar・croftの方法を用いて測定したもので

あるが,筆者は由布式血中微量ガス測定法を用いて,先人と同様な条件のもとに, ヒト及びワ

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血液の低温保存に関する研究 131

サギの保存血の O2受容能を測定した結果|略々同様の成績を得たので, この測定法が実験lこ使

用し得ることを認めた。

血液は保存中に色々な変化を起すが, ワサギ i血液を 50C及び -50Cに保有ーした場合の O2

受容能の変化を他の変化殊に溶血度の変化と比べて見るに -50C 保存の場合の O2 受'?~能が

50

C保存より優れており,溶血度も -50C保存の方がj低めて低いことを知った。 ヲサギ血液保

存中におこる赤血球数 Ht1u白,低長食塩水lこ対する抵抗等の変化も,森川の実験により, い

ずれも -50C保存のものが 50C保存より優れており, -50Cの方が保存に適していることが認

められている。 O2受容能を測定することによって保存による赤血球の機能的変化を見た筆者

の実験においても,ワサギ血液の場合はその他の変化と一致して -5'~C の方が 50C よりもよく

機能が保たれることを知った。

なお,クナギ血液の溶鳳度は前述のように 50C保存と -50C保有ーでは者しい廷があり, 5

OC保存では, 保存の初期に溶血が起り, 日を経るにつれて溶血度が箸明に増加するに反し,

-5C

C 保存では 6~7 .ì1益 lこ子iJるも極く僅かの溶血しか認められなかった。 しかして, O2受容能

は溶血と大体平行しているが,その変化は 50Cと -50Cでは溶血に見られる程著しい;差が見ら

れなかった。このlJ,については,保存血液を血球と血援に分けて測定してみると,保存経過と

ともに血球の O2受容能が減少するのに反比例して血築中の O2受容能が増すために,溶血が強

くなっても, 血液全体としての O2受容能はそれ程著しい低下が認められないのである。 この

点に先人が保存血液の O2受容能はあまり変化がないと述べてゐる理由の一端があるように.忠

われる。

また溶血度の非常に小さい…50C保有ーのヲサギ血液に於ても, 50C保存程ではないが,や

はり f1を経るにつれて O2受容能の低下が見られる。 これには,前述の母子の他に,赤血球!慌

のj諒造の変化2ぺ並びに透過性の変化,つまり血球内と血柴内の無機イオシの移動町,22)なども

影響しているかも知れないが,その理由は解明されていない。

次にヒト血液を 50C及び -50C~こ保存した場合には, その O2受容能の変化は,保存l1数

を経るに従って,両方とも岩干の低下が見られるが,両者の聞では保存7週位迄は殆んど定が

認められなかった。自然溶血度の変化は,保存3週間佼迄は,両者とも 1%内外であるが,そ

れを過ぎると鞘急、速に溶血度は増加する。この傾向は 50C,_50C両者に見られるが 5'Cの

方がやや溶血本が高い。ヒト血液の O2受容能の変化も略溶泊lの変化と平行して低下するが,

それは溶血本に比べて少い。これはワサギ血液の場合と向じ理由によるものと思われる。なお,

ヒト l血液保存中におこるその他の変化については,森10)は50C,-50C, Thistel町は O~90C で

実験を行った結果,血球数,自存在溶血度,低張食塩水lこ対する抵抗性等いづれも 50C保存の

ものが優れていると述べている。つまりヒト血液の保存lこ関しては,保存温度として 50

C附近

が最もよいということは,従来の定説であるが, O2受容能の点から見た場合は,50Cと 50C

のヒト保存血の問では優劣の差を認めることが出来なかった。 それはヒト血液の 50Cと -50C

保存では, 自然溶血及びその他の変化の差がヲサギ程著しくないので, O2受容能の差として

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132 浅沼英一

は現われ難いためと考えられる。 しかして 8週以後の長期保存では, -50Cの方が 50C保存の

ものよりも O2受容能が鞘上廻った。この点は特に興味を惹くところである。

先人及び本実験が示したように, 低混では O2受容能の低下が少いのは, クサギでは竹

原2へ大和田18) ヒトでは中山叫, Balashowsky25¥ Pappius26

) の実験が示している如く,血液

の Metabolismが低温ではl緩めて低いことと関係があるように思われる。 つまり, 低混では

Hb蛋白質の変性が起り難く,従って activeHbが inactiveになる率が低いためであると考え

られる。 対照の 370C保存臥では, O2受容能が急速に低下するのは,in vitroでは温度が丙く

なると Hbの変性が急速に起るためと考えられる。

なお,筆者の測定したヒト血液の白然溶鼠度は DeGowin2へ森川の溶lUl度よりも幾分低

い依を示している。之れは保存血液の量が,筆者の場合は少量 (2.5cc)であった結果と思われ

る。 即ち少量の血液を保存するi易合には, 大量のJ易合に比して, 血液全体が一様に冷却され

る速度が早いために, 溶血!こ対してよい影斡を与える為と考えられる。 乙のことは既に De

Gowin22)の指適した通りであった。

次lこワサギ血液の沈降血球),設の O2受容能の変化に関しての実験であるが, 血液全体とし

て測定したときの O2受容能は長期保存しでもあまり変化がなく ,50C 保存9週間で約 10%低

下するに過ぎなかったが, 血球熔だけわけで別に測定すると 3週日 lこ既lこ約 15%の減少が見

られた。しかし同時に Ht11症を測定してみると保存 3~5 週位迄は増加する傾向があり,また赤

血球数は溶IUlIこより漸次減少する。また形態的に見ても坂牛2川土赤血球は 50C保有ーでは円盤状

JI肋 3ら球型!の状態を経て然る後溶血するに至ると述べている。従って沈降血球層の O2受容能

が50C保有:で急激に減少するのは,以上述べたように主として赤血球の容積が増すために測定

の際吸入する一定量のサンプノレの中の赤血球数が減少するためであって,本質的に個々の赤血

球の O2受容能が減っているわけではない。しかし保存が長期になると, 赤血球数がかなり減

少するために Ht値も減少し, O2受容能も減少する。 しかし溶血してlUl築中に遊離した Hbも

O2結合力を有するため,政液全体としての O2受容能はそれ程低下しないのである。

之れに反し -50C保存のヲサギの沈降赤血球)認では, 保存11-1Ht伎が減少することと,

血球数,自然溶血度等にもあまり変化がない為に, その O2受容能は約6)国後においても増加

したままであった。

大村川はヒト血液を溶血せずに赤血球内κHbを割定保存することに若眼し,血援を取り

除き,エチーノレ・アノレコーノレ, ブドク糖製カラメノレ等を保存液中lこ加えた血液について, 沈降

血球胞の O2受容能を測定した結果,新鮮血球の O2は保存口数が経過する毎lこ抱容能が著明に

低下する。 しかも赤廊球の形態的変化はやや縮小ぎみであると述べているが, 赤血球直窪及

び Ht値を測定していないので正確なことは不明であり,恐らくこの成総は筆者が先lこ述べた

ことが考監されていないのではないかと思われる。

従来輸血を目的とした保存血の条件を判定する基準として,自然溶血度,赤血球数,低張

食塩水lζ於ける抵抗性及び invivoの Viability等が主として調べられたが, 赤血球の性質の

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血液の低温保夜に関する研究 133

重要なー函である呼吸状態を invitro に検査する方法として, その O2受容能を測定すること

もまた必要であることは言を侯たない。 しかして O2受容能を血液保存の判定基準として考え

るには,今迄述べた理由により,上述のその他の閃子を参考として判断する方が妥当と思われ

る。

v.結 号自

血液の保存中lこ起る機能的変化を追求する目的で,ワサギ及びヒトの鼠液を用いて溶血の

程度と比較しながら O2受容能を測定した。 特に保存温度 50Cと 50C による比較吟l床を行う

とともに,吏に O2受容能を示す因子について検討を行った。

その結果を要約すれば次の通りである。

1) ヲナギ血液の O2受容能は保存につれて若干低下するが, その低下率は -50Cよりも

50C保存の方が大きい。 ヒト血液も保存につれて若干低下するが,その低下本は 5

0C保存と

-50C 保存では殆んど差が認められなかった。

2) 保存による自然溶血は,ヲサギでは 50C保存の方が,ヒトでは -50C保存の方がそれ

ぞれ溶血度が大きい。ただしヒ rでは 50Cとー50C保存でワサギほどの大きな差は見られな

。、'しV

3) 保存血液の血球層と血援とを分けて, それぞれの O2受容能を測定した結果 50C保

存のクナギ血液では,血球層の方は保存日数の経過するにつれて,血球容積が増加するととも

に, O2受容能はみかけ上漸次低下した。血援では殆んど変化がないが,溶血が進むに従って僅

かに増加の傾向を示した。

-50C保存のワサギ血球層では, Ht値の減少とともに O2受容能はみかけ上増加の傾向を

示した。

4) 凍結融解によって得た Hb溶液の 50C保存による O2受容能は, 40日迄lζは殆んど変

化がなかった。

以上の結果から, 血球のもつ HbのO2受容能はかなり安定なものであるから, 低温保存

血液の O2受容能は相当長期間殆んど変化のない ζ とを知った。

最後に終始御懇篤な御指導を賜わりました根井教授並びに林助教授に心から移IJtしの言葉を

申し上げます。又穂々の向i援助をいただいた教室の諸先生方lこ篤く御礼申し上げますο

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血液の低温保容に関する研究 135

Resume

In order to investig旦tethe functional change of preserved blood, the studies on the

U2-carrying capacity of human and rabbit blood in ACD-preservative were carried out

at various storage temperatures. The volume of oxygen absorbed in the blood was

measured by the use of Yuhu's microgasmanometer and the grade of spontaneous

hemolysis in the sample was estimated with Shimazu' spectrophotometer.

The storage temperature was chos巴nat -50C, 5"C, 20oC, and 370C. (The blood

stored at -50C was usually not frozen but in supercooled state.)

The U2-carrying-capacity of Hb isolated from red cells by freeze-thawing method

and stored in the state of ACD-solution was also investigated.

The results obtained were as follows: The U2-carrying capacity of rabbit whole

blood stored at -50C was less a百ect巴dthan that stored at 50C. The grade of spon-

taneous hemolysis of rabbit blood stored at 50C increased more remarkably than that

stored at -50C as the period of storage was extended. In the case of human blood,

however, the grade of spontaneous hemolysis of specimens stored at 50C was less than

that of the specimens stored at -50C and there was no significant di任erencein the

U2-carrying capacity between the blood specimens stored at these two temperatures during

the whole periode of storage (7 we巴ks). The U2-carrying capacity of human whole blood

stored at 200C or 370C was affected more remarkably than that of whole blood stored

at 50C. The U2-carrying capacity of Hb solution stored at 50C was not impaired during

40 days of storage.

The result that the U2-carrying capacity of the cold pr巴servedblood is scarcely

affected for long period of storage is to be considered as a natural consequence of the

fact that the U2-combining power of hemoglobin is considerably stable in the cold state.。