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KEIO UNIVERSITY KEIO/KYOTO MARKET QUALITY RESEARCH PROJECT (Global Center of Excellence Project) KEIO/KYOTO GLOBAL COE DISCUSSION PAPER SERIES DP2008-034 ��������� ����������� E ����� ����* �� ������������������������������������������ ������������������������������������������� ������������������������������������������� ������������������������������������������� ������������������������������������������� ������������������������������������������� ��������������������������BtoC �������������� ������������������������������������������� ������������������������������������������� ���������(1)�SPA �����������E����������������� ��������������(2)�������E �������������(3)����� �����������������������E ������������(4)E ���� ��������������������������������4 ���������� �� *���� ���������������������� ����������������������������������COE��� KEIO/KYOTO MARKET QUALITY RESEARCH PROJECT (Global Center of Excellence Program) Graduate School of Economics and Graduate School of Business and Commerce, Keio University 2-15-45 Mita, Minato-ku, Tokyo 108-8345 Japan Kyoto Institute of Economics, Kyoto University Yoshida-honmachi, Sakyo-ku, Kyoto 606-8501 Japan

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KEIO UNIVERSITY KEIO/KYOTO MARKET QUALITY RESEARCH PROJECT

(Global Center of Excellence Project)

KEIO/KYOTO GLOBAL COE DISCUSSION PAPER SERIES

DP2008-034

情報化と企業間連携

―アパレル産業におけるE コマース―

新倉博明*

概要

本研究は近年発展の著しい情報化が企業間の連携に与えた影響を分析する。情報技術の革新に

よる、新たな基軸の一つがオンライン取引である。本研究は、ある期を境に開かれたこの新しい

取引方法に注目し、この取引を促進させたり停滞させたりする要因を明らかにすることを目的と

しているが、これを通じて取引関連の費用や新規市場への参入の難易等についての知見を加える

ことを意図している。大掴みに言えば、市場取引の情報化が社会にもたらす利益の多くは、これ

を実現することによりよく適合した企業間連携によって実現されるといってよいかと思われる。

観察対象とするのは、オンライン取引が最も盛んであり、BtoC 取引が顕著に高い米国のアパレ

ル産業である。オンライン取引の発展がどのような企業間連携を伴って発展してきたかを観察す

ることにより、企業間連携に関わる取引費用の内容を特定できる可能性がある。不連続時間サバ

イバル分析の結果、(1)非SPA 型のアパレルメーカーはEコマース市場に参入した際にチャンネ

ル・コンフリクトが発生する、(2)カタログ販売はE コマースとシナジーがある、(3)小売店を保

有するアパレルメーカーは物理的店舗数が多いほどE コマース市場に参入する、(4)E コマース

市場参入には構造変化に伴うスイッチング・コストが発生する、という4 つの可能性が示唆され

た。

*新倉博明 慶應義塾大学大学院経済学研究科後期博士課程、

慶應義塾大学経済学研究科商学研究科・京都大学経済研究所連携グローバルCOE研究員

KEIO/KYOTO MARKET QUALITY RESEARCH PROJECT (Global Center of Excellence Program)

Graduate School of Economics and Graduate School of Business and Commerce, Keio University

2-15-45 Mita, Minato-ku, Tokyo 108-8345 Japan Kyoto Institute of Economics,

Kyoto University Yoshida-honmachi, Sakyo-ku, Kyoto 606-8501 Japan

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情報化と企業間連携

―アパレル産業における E コマース―

新倉博明(慶應義塾大学大学院経済学研究科後期博士課程)*1

1. はじめに

電気通信技術の発展の恩恵を得ることで、企業内、企業間(business to business: BtoB)、そして企業と消費者間 (business to consumer: BtoC) の取引がオンラインで行われるよ

うになった。情報技術の革新は多くの経済活動に影響を与えたが、総務省「情報通信に関

する現状報告」(平成18年度版)に報告されているように、既存の世界にも新しい潮流・

融合・連携・戦略を生じさせ、新規の台頭をもたらしている。新たに台頭した新基軸の一

つが E コマース(electronic commerce)である。これは、それ以前の市場取引と代替的若し

くは補完的な様式として顕著な発展を見せている。本研究は、ある期を境に開かれたこの

新しい取引方法に注目し、米国におけるアパレル産業においてこの E コマースを促進させ

たり停滞させたりする要因を明らかにすることを直接の目的としているが、その理論的な

意図は、新規技術の導入に、企業の生産活動を輪郭付ける上で重視されている取引費用が、

いかに関係しているかを見ることである。この種の研究は、企業形態が情報化と共にどの

ような変容をみせるかを占うことにつながり、種々の産業政策と関わりがあり得ると考え

る。 BtoC 取引において E コマースを行う企業が、どのような要因で E コマースを開始した

のかを明らかにする。先行研究としては Gertner and Stillman (2001)があり、アパレル産

業の BtoC 取引における E コマースをめぐる取引関連費用を明示的に指摘し、オンライン

販売の売上額を被説明変数としつつ、これに影響する変数から仮説検定を試みている。当

研究は、基本的発想を彼らに依拠するが、被説明変数としてオンライン販売開始期日を加

え、分析手法としてもサバイバル分析(イベント・ヒストリー分析)他の新しい手法を試み

ている。彼らよりサンプルサイズも遥かに大きいだけでなく、観察期間がより新しいので、

彼らの発見した関係に変化があるかどうかを確認することができ、追跡調査としての意味

もあるかと思われる。オンライン販売の開始時期に着目した研究としては Lasry (2002)がある。しかし、これは、説明変数を企業サイズや企業年齢といった変数で分析することに

とどまり、企業の業態がどのような影響を与えたかということについては明らかにしてい

ない。分析目的が取引関連費用と関連がないので、研究系譜の上では趣旨の違うものであ

る。 E コマースとして本研究が観察対象とするのは、米国のアパレル産業における BtoC 取

引である。観察対象選択の理由は、1993年に WWW (World Wide Web)が NCSA mosaic(*2)によって開始され、インターネットを商用目的に使用することが可能になり、

多くの財で BtoC 取引のオンライン販売が始まった。少額オンライン販売額が高い財は、

アパレル、玩具・ビデオゲーム、本、ソフトウェア、音楽であり、 上位はアパレルであ

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る(表 1)(*3)。データの利用可能性がわが国より容易であること、企業形態としての SPA の

発展が顕著なことが、米国を観察対象に選んだ理由である。 情報化は、アパレル産業において、繊維素材部門とアパレルメーカー部門、アパレルメ

ーカー部門と小売部門といった各部門間の BtoB 取引に変化を与えている。典型的な例は、

オンラインで受発注を行うシステムの導入や消費者情報を得るための販売時点情報管理

(POS)、物流の円滑化などである。しかし、それ以前には誰にも試みることができず、こ

れ以降には誰でも参加できる取引における新機軸として、BtoC 取引における E コマース

が、1993年にスタートした。スタートラインに並ぶ企業の中で、誰が 初に飛び出す

者の特徴は何か、より大きな成功をおさめる者の特徴は何か、これが当研究の問いである。 1993年に開かれた新たな市場である E コマースへの参入の意志決定に期待利潤の正

負が影響すると考えられるが、期待利潤の大きいほど、参入時期も早まるのではないかと

考えられる。参入を遅らせることの機会費用がより大きいからである。サバイバル分析に

より、E コマースの導入の早さに、企業特性や業態特性がどのような影響があったかを明

らかにしたい。これを通じて、伏在する取引費用の影響をよみとれる可能性があると考え

る。E コマースでの成功にも、企業特性や業態特性が影響したと考える。 E コマースを促進させたり停滞させたりする要因には多くのものがあるであろうが、市

場取引の情報化が社会にもたらす利益は、これを実現することによりよく適合した市場取

引と企業組織の組み合わせの形態によって実現されると考える。アパレルメーカーと小売

企業との間の関係として、資本的に独立した企業が取引しあい、その中で協力しあうとい

う形の企業間連携も可能であり、企業の活動範囲を広げて、企画・製造・販売などの活動

を組織内部に統合するという選択も可能である。このような形態のうち、市場に選ばれる

ものがより成功するとみなせるが、ここに取引費用の影響がないかを調べたいのである。 取引費用の概念は Coase (1937)によって指摘され、Williamson (1975)によって精緻化

され、Dahlman (1979)によって明確な形となった。Dahlman (1979)は垂直的に関連する

企業間の取引費用を「探索と情報の費用」、「交渉と意思決定の費用」、「監視と強制の費用」

と定義している。本研究で対象とするアパレル産業における E コマースの展開にかかわる

取引費用は、クイック・レスポンスのための投資費用、チャンネル・コンフリクトから生じ

る費用、物理的店舗による返品・交換補償に関わる費用として現れると考える。E コマース

の発展がどのような業態を伴って発展してきたかを観察することにより、企業間連携に関

わる取引費用の内容を特定できる可能性がある。

2. アパレル産業の業態について

アパレル産業の製造から販売までの経路は長く、大きく分けると川上から順に、糸を生

産する繊維素材部門、糸から織物にする織物部門、色を付ける染色部門、染色された生地

を縫製する縫製部門、製品を企画・生産するアパレルメーカー部門、消費者に販売する小

売部門がある。本研究は BtoC 取引における E コマースに焦点をあてているので、アパレ

ルメーカー部門と小売部門を分析対象としている。 アパレルメーカーは自社で小売店を保有する企業と、自社では小売店を保有せず、販売

はデパートメント・ストアや小売店に委託する企業がある。自社で小売店を保有する企業の

中でも、アパレルメーカーが商品の企画・生産・小売・物流までを一貫して行い、そのリ

スクを全て持つ企業を Specialty store retailer of Private label Apparel(SPA)と呼ぶ。SPAのパイオニアはアメリカの Gap inc である。 SPA 型の企業は自社で生産工程を一括して持っているので、需要に即座に対応できると

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いう利点を持つ。アパレル産業の生産工程は長い時間を要する。しかし、SPA 型の企業は

自社の小売店が得た売上情報を用いて、生産・企画といった工程を柔軟に行い、その時間を

短縮することができるので、需要予測が外れた時の在庫リスクも減少する。 非 SPA 型の企業は、その時点の需要に大きく依存する商品の生産には、在庫リスクが大

きく発生する。

3. 分析の枠組み

アパレル販売を行う上で、E コマースに参入するかどうかという選択は、その時点で各

企業が E コマースに参入した時の期待利潤によって決定するであろう。本研究は、E コマ

ースに参入する際の費用に着目した。E コマースへの参入費用は、各企業の業態によって

異なると考える。なぜならば、E コマースでオンライン販売を行う企業は小売企業だけで

なく、アパレルメーカーが直接オンライン販売を行うことが可能であるため、業態によっ

て直面する E コマースへの参入の難易が異なると考えるからだ。 情報化と企業間取引において発生する費用について分析した先行研究には、Clemons. et al (1993)があり、企業間の取引費用を垂直的企業間の契約に必要な情報交換のための調整

費用と契約後の契約不履行のリスクに対する費用、潜在的供給者の増加によるバーゲニン

グパワーの欠如に対する費用に分けて分析し、情報化はこれらの費用を減少すると指摘し

ている。 情報化と企業間連携について分析した先行研究には Malone. et al (1987)があり、情報化

は中間財取引におけうアウトソースを行うための費用を減少するので、垂直分解が進むと

指摘する。しかし、Gurbaxani and Whang (1991)はエージェンシー費用についても言及

し、情報化は企業サイズを減少する訳ではなく、企業サイズは企業の費用構造に依存して

決定すると指摘している。 本研究はアパレル産業に特有な費用を三つに分けて分析し、更に、アパレル産業に特有

ではないと考える構造的要因についても分析する。

3-1. クイック・レスポンス

アパレル産業特有の費用として考えられるものの一つは、クイック・レスポンスのため

の投資費用である。アパレル市場は流行り廃りの早い市場(volatile environments)であり、

生産工程に長い時間を要すると多くの在庫を抱える可能性が高くなる。Hunter (1990)、Hammond (1990)、Blackburn (1991)によると、クイック・レスポンスの目的は、製造過程

を短縮すること、生産初期段階のコミットメントを減らすこと、在庫水準を下げること、

小売業者の初期段階の購入コミットメントを減らすことである。Richardson (1996)はクイ

ック・レスポンスが行われた時の効果について言及しており、クイック・レスポンスが行わ

れると、在庫を抱えることによって発生する費用が減少し、過剰生産分を値下げして販売

したとしても、その値下げ販売分が少なくなる。更に、その時期に も売れる商品の売上

が上昇するとする。Ko et al (2000)はそれらの効果以外に、マーケット・シェアの増加、消

費者のロイヤリティの増加、生産性の上昇の効果もあると指摘している。 クイック・レスポンスを実現するための技術を採用する企業と採用しない企業間の企業

特性について研究した理論分析は、Iyer and Bergen (2001)がある。Iyer and Bergen (2001)は製造企業と小売企業間のクイック・レスポンスが、企業のサービス水準と小売企業

への卸売価格と数に影響を与えるかについて研究し、米国のアパレル産業について、クイ

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ック・レスポンスはサービス水準の上昇を与えていると指摘している。実証研究には、Ko et al (2000)があり、アメリカのアパレル産業においてクイック・レスポンスの実現に熱心な

企業は、クイック・レスポンスに貢献すると予想される新技術を採用する傾向があると示し

た。Sullivan and Kang (1999)は、アメリカのニューヨーク州のアパレルメーカーにおい

て、クイック・レスポンスを実現する技術を採用した企業と不採用の企業間の企業サイズが

有意に異なるかどうかをウィルコクソン検定で求め、採用企業の方が企業サイズが大きい

ことを示した。 アパレルメーカーがクイック・レスポンスを実現するためには、POS データの活用や織

物企業との再受注の電子化、生産・企画期間の短期化、在庫のオンライン処理等があるが、

クイック・レスポンスの利益を 大化するためには、小売企業のマーケティング、販売、

製造業者からの購入行動とアパレルメーカーのデザイン、企画、物流間の密接な調整を行

うことが必要である。そのために行われるものの一つが、SPA と呼ばれるアパレルメーカ

ーと小売企業間の垂直的な統合である。SPA 型の企業は、小売部門から売上情報を直接生

産・企画に生かすことがリアルタイムで可能になるので、SPA 型でない企業よりその時点

の市場動向に対応し易い。 SPA 型のアパレルメーカーが E コマースに参入する時と非 SPA 型のアパレルメーカー

が E コマースに参入する時の違いを考えてみる。 BtoC 取引の E コマースにおいて、消費者は Web サイトを通じて購入するだけではなく、

Web サイトで商品情報を得てから物理的な小売店で購入する場合がある。この時、図 1 に

あるように、E コマースから小売店へ外部性が働いていることになる。SPA 型のアパレル

メーカーは、自社の Web サイトから発生した外部性を、自社の小売部門の存在によって内

部化することが可能である。しかし、非 SPA 型のアパレルメーカーは小売部門を他の小売

企業やデパートメントストアに委託しているので、自社の Web サイトから発生した外部性

を内部化することができない。SPA 型のアパレルメーカーがその外部性を内部化すること

に費用は発生しないが、非 SPA 型のアパレルメーカーがその外部性を内部化するためには

高い契約費用が発生する可能性がある。 更に、アパレルメーカーが E コマースにおいて新しいブランドのキャンペーンを行う場

合を想定しても、SPA 型のアパレルメーカーは E コマースと小売部門とのコーディネーシ

ョンに費用があまり発生しないが、非 SPA 型のアパレルメーカーは E コマースと小売企

業とのコーディネーションに費用が多く発生する可能性がある。 SPA 型のアパレルメーカーが E コマースに参入した場合、物理的な小売店やカタログ販

売のような既存の他の販売チャンネルの売上が減少することが考えられるが、既存の販売

チャンネルの売上が E コマースの売上に移ったとすると、売上総量はあまり変わらない可

能性がある。しかし、非 SPA 型のアパレルメーカーが E コマースに参入した場合、既存

の他の販売チャンネルは委託した小売企業やデパートメントストアなので、それら小売企

業やデパートメントストアの売上が減少するとき、次節で述べるチャンネル・コンフリク

トが発生する。 つまり、本研究の枠組みにおいて、SPA 型のアパレルメーカーと非 SPA 型のアパレル

メーカーが E コマースに参入した場合、非 SPA 型のアパレルメーカーの方が外部性を内

部化しようとするための契約費用や不完備契約による費用、アパレルメーカーと小売企業

間で発生する調整費用、委託した小売企業やデパートメントストアとのチャンネル・コン

フリクトが発生するため、それらの費用を支払う必要が生じる。よって、この時、SPA 型

のアパレルメーカーの方が E コマースに参入した時の利潤が高いことになる。 このことから、仮説 H1 が導き出される。

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H1:SPA 型の企業は、E コマースに早く参入する。

3-2. チャンネル・コンフリクト

チャンネル・コンフリクトは、E コマースに参入することで販売チャンネルを増やすと、

既存のチャンネル間との競争が激化し、あるチャンネルが自社製品の値引きを始めたり、

消費者に対してサービスの質を落とすといったような他の販売チャンネルとは異なる振る

舞いをしたことが、全てのチャンネルに影響を及ぼす問題のことを示す。 Gertner and Stillman (2001)は多くの企業がチャンネル・コンフリクトを大きな問題と

して捉えていることを指摘している。例えば、1999年に Levi Strauss がオンライン販

売を中止し、その後 J.C.Penny と Macy’s といったデパートメント・ストアがオンライン販

売を開始したことや、Liz Claiborne が1999年までチャンネル・コンフリクトに直面し

ていたため、BtoC 取引の E コマースに参入しなかった点を挙げている。 チャンネル・コンフリクトを避けるためには、アパレルメーカーがその財をオンライン

で扱うための許可や価格や数量に対するガイドラインを作成したり、販売中に小売店を監

視する必要がある。ガイドラインを作成しなかったり、監視を行わなかった場合、チャン

ネル・コンフリクトが発生し損失が発生すると考えられる。一方で、E コマースに参入する

ことは消費者に対する販路が増加することになるので、消費者から見たその企業の魅力は

増加するはずである。しかしながら、先程のガイドラインを作成したり、監視を行うため

には、チャンネル・コンフリクトを避けるための費用をアパレルメーカーが支払わなければ

いけない。この費用はアパレルメーカーがその時点でカタログ販売をしているかどうかに

よって異なると考えられる。 カタログ販売を行っている企業は、製品を消費者の自宅まで運ぶ物流システムが既に整

っており、物流資産が既に部分的に償却されている可能性がある。よって、E コマースで

消費者に販売した際に発生する物流システムの形成に関わる費用が少ない。つまり、カタ

ログ販売は E コマースによるオンライン販売とシナジーがあり、カタログ販売を行ってい

るアパレルメーカーは既に BtoC 取引における E コマースを行う際に必要なノウハウやシ

ステムといった資産(organizational resource endowments)を有していることになる。こ

の場合、E コマースに参入する際に、チャンネル・コンフリクトを避けるために新たな費用

を支払っても、その費用は小さいと考える。 一方、カタログ販売を行っていないアパレルメーカーは、E コマースを行う際に必要な

物流システムを持っておらず、E コマースで消費者に販売する際に発生する物流システム

を形成するために投資費用が発生する。カタログ販売を行っていないアパレルメーカーは

E コマースを行う上で必要なノウハウやシステムといった資産を有していないことになる。

よって、E コマースに参入する際に、チャンネル・コンフリクトを避けるために支払う新た

な費用は大きいと考える。このことから、次の仮説 H2A が導き出される。 H2A:カタログ販売を行っているアパレルメーカーは、今までのノウハウやシステムを生

かすことができるので、E コマースに参入する。 しかしながら、カタログ販売と E コマースにシナジーがあまりない場合も考えられる。

E コマースは、得られる消費者情報がカタログ販売より多く、その管理やその情報を生か

した企画にはカタログ販売とは異なるシステムが必要であろう。例えば、E コマース独自

のブランドを開発し、E コマースで得られた売上情報や消費者からの意見を通じて柔軟に

生産・企画を変更する場合もある。これはカタログ販売とは異なる性質のものであり、その

場合カタログ販売と E コマースにシナジーはないであろう。このことから仮説 H2B が導

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き出される。 H2B:カタログ販売と E コマースにはシナジーがなく、カタログ販売を行っているかどう

かは、E コマースに参入する要因にはならない。

3-3. 物理的店舗(brick and mortar)へのアクセスの容易性

Dinlersoz and Pereira (2005,2007)によると、アパレル財は形、色、デザイン、サイズ

が異なる異質財であり、実際に着た時の着心地によって返品できるかどうか、異なるサイ

ズに交換できるかどうかが重要な財である。McIntyre and Perlman (2000)は BtoC 取引

における E コマースを行う上で重要なことは、自宅から近くの物理的店舗で返品が補償さ

れていることや交換が補償されていることであり、自宅から近くの物理的店舗の存在はア

パレルブランドへの信頼性を生み、物理的店舗での販売促進活動(promotion)はオンライン

販売の販売促進活動の代わりとなることを指摘する。つまり、消費者から見ると自宅から

近くに物理的店舗があるということは、そのアパレルメーカーの財を E コマースで購入す

ることを促進することになる。 アパレルメーカーが、BtoC 取引における E コマースに参入する際に物理的店舗が少な

いと、自社の Web サイトから財を購入する消費者の多くに対する返品・交換の補償をする

際に物理的店舗を介することができなくなる。それを補償するためにはその都度郵送する

ことになり、物理的店舗を介する時に比べ費用が発生するであろう。更に、アパレルメー

カーの物理的店舗が少ない地域の潜在的な E コマース消費者に対する信頼性の上昇や販売

促進活動を行うためには、物理的店舗がある地域に比べ多くの費用が発生する。 E コマースで注文した消費者が、その商品を物理的店舗で受け取る場合もある。これは

クリスマスのシーズンなど、物理的店舗が混雑する時期に多く発生し、消費者が店頭での

サーチ・コストを減らすために起こる。E コマースによる少額取引においては、郵送費が

商品価格よりも高くなる場合もあるので、郵送費を消費者が支払うよりも E コマースで注

文し物理的店舗で受け取る場合も多い。よって、仮説 H3 が導き出される。 H3:物理的店舗を多く持つアパレルメーカーは、E コマースに早く参入する。

3-4. 構造的要因

BtoC 取引の E コマースに参入するかどうかの選択は、各企業の構造変化に対する姿勢

によっても異なると考える。Hannan and Freeman (1977,1984)は、そのような姿勢に対

して、企業の設立からの時間的な要因と企業サイズに着目している。 時間的に古い企業はライフサイクルの 終段階であり、それまでに培ってきた信頼性や

構造を持っている。産業構造の変化は、その変化に対応するための新たなスキルを要する。

これにはスイッチング・コストが発生するので、既存の構造を継続する傾向がある。これを

構造的惰性(structural inertia)と呼ぶ。しかし、時間的に新しい企業はライフサイクルの

初期段階であり、それまでに培ってきた信頼性や構造を持っていない。よって、スイッチ

ング・コストを支払ってでも構造変化を受け入れるはずだ。更に Stinchcombe (1965)、Hannan and Freeman (1984)は、企業の設立年からの経過と共に倒産確率が減少していく

ことを示し、Lasry (2002)は構造変化によってその“liability of newness”がリセットされ、

構造変化は倒産確率を高めることになると指摘している。 アパレル産業の場合、企業の設立年から長く経過している企業は、BtoC 取引において E

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コマースに参入する時にスイッチング・コストが発生する。これは設立年から短い企業も同

様であるが、若い企業の場合その時点までに培ってきた信頼性や構造を持っていないので、

古い企業よりも E コマースに参入し易いはずである。従って、仮説 H4 が導き出される。 H4:企業の設立年から短い企業ほど、E コマースに早く参入する。 一方、企業サイズについて Hannan and Freeman (1977,1984)は、構造的惰性は企業サ

イズの増加と共に上昇するとするが、企業サイズの上昇は構造変化により倒産する確率を

減少すると考えられるので一概には言えないとしている。Lasry (2002)が指摘するように、

Amburgey and Kelly (1991)や Haveman (1993)が実証分析においてこの関係を支持でき

ておらず、両者の関連が一概にあるとはいえない。更に、E コマースに参入する際の投資

額が大きい場合、企業サイズの大きい企業はその投資額を支払ってでも利潤を得ることが

できるかもしれないが、企業サイズが小さい企業はその投資額をまかなうことができない

かもしれない。 よって、アパレル産業において BtoC 取引の E コマースに参入するかどうかという選択

に、その企業のサイズが構造的要因として考慮に入るかどうかはわからないが、それがど

のような効果を持つのかを分析するために説明変数に加える。

4. 分析内容

4-1. データ説明

分析対象はアメリカのアパレル産業である。対象企業は2007年度の米国アパレル産

業における総売上上位60社である(表 2)。デパートメントストアやディスカウント小売専

門店、本社がアメリカでない企業は分析対象でないので除いた。企業マイクロデータは独

自に作成し、404件のサンプルが含まれている。観察期間はインターネットにおける

WWW が開始され、BtoC 取引の E コマースを行うことが可能になった1993年から2

007年とした。

4-2. 分析手法

本研究で用いる分析手法は、サバイバル分析(survival analysis)である。サバイバル分

析はイベント・ヒストリー分析(event history analysis)とも呼ばれている。サバイバル分

析は医学や社会学で主に用いられてきた分析手法であり、時間の経過の中で発生するある

事象について、その事象が発生するまでの時間を被説明変数とする多変量解析である。例

えば、医学であれば患者の死亡や薬品の治療効果、工学であれば機械の故障、人口学であ

れば結婚や離婚といった事象が用いられる。産業組織論においては企業倒産に適用した研

究があり (Lane, Looney and Wansley (1986)、Shumway (2001)、Runs and Abdullah (2005))、経済政策においては存続している政権が終了する生存分析(King et al (1990)、Warwick (1992,1994))などがある。本研究では、情報化の進展によって開かれた、インタ

ーネットを用いて発生した BtoC 取引における E コマースへ、当該企業がいつ参入したか

という事象を対象としている。 サバイバル分析では事象が発生するまでの時間を生存時間(survival time)若しくは持続

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時間(duration)と呼び、本研究では1993年から参入という事象が発生するまでの時間

を示す。事象が発生する可能性のある期間はリスク期間と呼ばれる。本研究で対象として

いるのは BtoC 取引における E コマースであり、1993年以前は BtoC 取引における Eコマースが開放されていなかった。よって、1993年以前は E コマースへ参入するとい

う事象発生の可能性がないので、リスク期間は1993年以降とした。無論、観察対象と

した企業において、1993年以降においても E コマースに参入しなかった企業も存在す

る。観察期間は1993年から2007年であるので、観察終了時においても事象が発生

していないケースである。このように事象が観察できなかったケースをセンサリング

(censoring)と呼び、上記のケースを特に右センサリングと呼ぶ。右センサリングのケース

は他にも存在し、観察期間中に事象が発生したが観察期間中に何らかの理由で観察対象か

ら外れたケースも該当する。しかし、本研究においてそのようなケースは該当していない。

センサリングには観察対象が観察期間より前に既に事象が発生していたケースもある。そ

のようなケースを左センサリングと呼ぶが、本研究ではリスク期間開始時点から観察対象

となっているので、観察対象に左センサリングは発生していない。サバイバル分析を用い

る優位性は、このセンサリングケースを分析に入れることができることである。特に右セ

ンサリングに関してはサバイバル分析で対応できる。左センサリングに関しては対処法が

確立していないが(津谷(2007))、当研究ではその問題は発生しない。 本研究では、 初に仮説 H1、H2A を検証するために、生存時間分布に特定の仮定を置

かないノンパラメトリック法を用いて、BtoC 取引の E コマースに参入するという事象の

生存時間分布を SPA 型と非 SPA 型、1993年以前にカタログ販売をしていたかどうか

に分けて求めた。そして、その差が有意なものであるか群間検定を行った。この時の郡間

検定の仮説は「全ての時点について生存関数が等しい」である。手法はカプラン=マイヤ

ー法 (Kaplan- Meier method)と Peto- Prentice 型ウィルコクソン検定、Kolmogorov- Smirnov 検定を用いた。

カプラン=マイヤー法は、t 時点で事象が発生していない確率と t+1 時点で事象が発生

してない確率、更に t+2 時点で事象が発生していない確率というように、時点毎で事象が

発生しない確率を次々に掛け合わせていく方法である。具体的には、時点区分が

( )kttt <<< ...21 あり、ある時点区分 tj まで事象が発生してない観察対象数を nj とする。

この tj において事象が発生する観察対象数を dj とすると、第 j 期になる瞬間の事象発生確

率は dj / nj になる。事象が発生しない確率は(nj-dj) / nj である。よって、事象が発生し

ていない確率はそれらを掛け合わせた、

∏≤

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡−=

ttj j

j

jnd

tS:

1)(

であり、これがカプラン=マイヤー推定量である。カプラン=マイヤー法は生存時間と時

間の関係を把握することができる。しかし、外生的な要因については考慮されていない(*4)。 一般化ウィルコクソン検定はカプラン=マイヤー推定量に対する郡間検定として多く用い

られているが、Prentice and Marek(1979)により観察期間初期にセンサリングが多い場合、

初期段階における重みを相対的に重く付けているためロバストではないことが示された

(*5)。この欠点を補うものが Peto- Prentice 型ウィルコクソン検定である。これは一般化

ウィルコクソン検定のように二群の持続時間の長さを比較するものだが、Mantel- Haenzel 型ログランク検定(*6)が観察期間を区切って各期間の生存率を比べるのに対し、

観察期間を区切らずに二群間の差を検定する。更に、重み w は、

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9

[ ] Dijnjnwi

ji ,...,1,1)(/)(

1

=+=∏=

で表される。 サバイバル分析には主に二つのモデルがある。連続時間モデル(continuous- time model)

と不連続時間モデル(discrete- time model) (*7)である。連続時間モデルは、観察対象に事

象が発生してない状態が存続する期間と事象が発生する確率を推計する。不連続時間モデ

ルは、観察対象に事象が発生した時間がある期間からある期間までの間に発生したという

情報しか得られない場合に用いられ、その時間間隔の間に事象が発生する確率を推計する。 本研究は、ある年から次の年までに企業が E コマースに参入したか否かという事象を測

定している。よって、本研究で用いるモデルは不連続時間サバイバル分析モデル(離散時間

イベント・ヒストリー分析モデル)である。これは、企業の属性や業態の属性が、一年間に

E コマースに参入したか否かの確率に与えた影響を、ロジットモデルを用いて推計するも

のである。 本研究で用いたデータは企業別に構築されており、各企業毎右センサリングが起こるま

での年度が収録されている。そのため、同一企業から得られる変数は互いに依存すること

となり、これは推計値の標準誤差に影響を与える。この相互依存性をコントロールするた

めに、本研究ではヒューバー(Huber)の数式(White’s method)を用いて robust standard error を求めた(*8)。

4-3. 各変数について

各変数の記述統計は表 3 である。このデータは Corporate Annual Report、Direct Marketing Association 、 Directory of Corporate Affiliations 、 Funding Universe Company History、Hoover's Company Records、Internet Retailer Top 500、Mergent Online、Nelson's Public、SEC Filing、Reuters.com、Standard & Poor's Corporate Descriptions、Thomson Financial Extel Cards Database、U.S. Institutional Database、Weiss Stock Research Reports、Yahoo Finance を用いて企業毎に調査した。データが記

載されていないサンプルについては、企業に電子メールで直接問い合わせて独自に作成し

た。 E-Commerce これは被説明変数であり、当該年に BtoC 取引の E コマースに参入した場合1、E コマ

ースに参入しなかった場合0を取るダミー変数である。 SPA

当該企業が SPA 型のアパレルメーカーであれば1、非 SPA 型のアパレルメーカーであ

れば0を取るダミー変数である。アパレルメーカーが SPA 型企業であるかどうかという識

別は非常に難しく、そのデータは得られなかったので、本研究はアパレルメーカーが自社

で小売店を保有している場合を広義の SPA 型とした。観察期間中に非 SPA 型から SPA 型

になった企業は、その年から1を取ることになる。SPA 型の企業が BtoC 取引の E コマー

スに早く参入するのであれば、予想される符号は正である。 Synergy 当該企業が1993年以前にカタログ販売を行っていた場合1、行っていなかった場合

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0を取るダミー変数である。BtoC 取引の E コマースに参入するというリスク期間開始年

は1993年であるので、それ以前にカタログ販売を行っていたかどうかを示している。

1993年以前にカタログ販売を行っていたアパレルメーカーが BtoC 取引の E コマース

に早く参入するのであれば、予想される符号は正である。 Brick and Mortar 当該企業が保有するアメリカ国内の物理的店舗数である。この値は分析では対数を取っ

た。この値は各年度の物理的店舗数を変数にするべきであるが、各年度の物理的店舗数の

データは得られなかったので、2007年度における店舗数とした。物理的店舗を多く持

つアパレルメーカーが BtoC 取引の E コマースに早く参入するのであれば、予想される符

号は正である。 Age 当該企業が設立してから当該年度まで何年経っているかを示す。企業の設立年から短い

企業ほど BtoC 取引の E コマースに早く参入するのであれば、予想される符号は負である。 Sales

当該企業の当該年度における実質売上であり、企業のサイズを表す代理変数である。こ

れは当該企業の E コマースにおける売上額ではない。この値は分析では対数を取った。こ

の変数は欠損値が多く含まれているため、分析に用いる際のデータ数が減ってしまう。そ

のため、Sales 変数が欠損している場合に 1 を代入した(*9)。更に、Sales 変数が欠損して

いる時に1、観測されている時にゼロをとるダミー変数として Sales missing data 変数を

構築して分析に用いている(*10)。企業サイズが大きいほど BtoC 取引の E コマースに早く

参入するのであれば、予想される符号は正になり、企業サイズが小さいほど BtoC 取引の

E コマースに早く参入するのであれば、予想される符号は負である。

5. 分析結果 推定をする前に、データから観察される E コマース参入の効果について概観する。E コ

マースを行う企業と行わない企業の売上で測った成長率を概観してみると、本研究で使用

したデータに収録されているアパレルメーカーの平均成長率は、E コマース参入企業は

1.23、E コマース不参入企業は 1.14 であり、E コマースに参入した企業の方が、成長率が

高い。 リスク期間の経過年数を横軸、生存確率(E コマースに参入しない確率)を縦軸にとった

グラフをカプラン=マイヤー法でグループ毎に求めたものが図 2 と図 3 である。図 2 は

SPA 型の企業を1、非 SPA 型の企業を 0 でグループ分けしており、図 3 は、1993年

以前にカタログ販売を行っていた企業を1、1993年以前にカタログ販売を行っていな

かった企業を 0 でグループ分けしている。 図 2 で示されるように、SPA 型の企業について推定した生存確率の方が、非 SPA 型の

企業について推定した生存確率に比べ下方に位置している。更に、Peto- Prentice 型ウィ

ルコクソン検定による、SPA 型と非 SPA 型の生存確率の郡間の差は有意(1%)である。こ

れは、SPA 型の企業グループの方が、各時点において E コマースに参入する確率が高く、

相対的に早く E コマースに参入していることを示唆する。 一方、図 3 で示されるように、1993年以前にカタログ販売を行っていた企業につい

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て推定した生存確率と、1993年以前にカタログ販売を行っていなかった企業について

推定した生存確率はリスク期間開始から 5 年目(リスク期間は1993年から始まってい

るので、1998年)で交差している。生存確率のグラフが交差しているため、生存確率の

2群間の差ではなく、Kolmogorov- Smirnov 検定による2群の分布の差を求めたが、有意

性はなかった。 表 4 はサバイバル分析による不連続型ロジットモデル(離散時間イベント・ヒストリー分

析モデル)の推定結果である。説明変数 X における係数βの他に、expβも記載した。expβは、ダミー変数においてはレファレンスとなるカテゴリーに対するオッズ比であり、連

続変数においては 1 単位増加することに対するオッズ比である。オッズ比が1より大きい

程、E コマースへの参入確率が増加し、オッズ比が 1 より小さい程、E コマースへの参入

確率が低下すると解釈できる。 当該企業が SPA 型であるかということの代理変数として、本研究は小売店を自社で保有

しているということを広義の SPA として分析に用いている。そのため、SPA 型である企

業は物理的店舗を1社以上保有していることになるので、分析では同時に推計していない。

モデル[2]とモデル[4]は、それぞれモデル[1]とモデル[3]に企業サイズの代理変数となる企

業売上を加えて推計している。 SPA 変数はモデル[1]でのみ正に有意であった。これは、ノンパラメトリック法による差

の検定において、SPA 型の企業と非 SPA 型の企業の E コマース参入への生存関数の群間

検定が有意であったように、同様に SPA 型の企業の方が E コマースへ参入する確率が高

いことを示唆している。SPA 型の企業が E コマースに参入した際、SPA 型の企業は既に

自社で保有する小売店へ E コマースから外部性が発生することが考えられ、その外部性が

強いと企業がその時点で考えているならば、この変数は正で有意のはずである。なぜなら

ば、SPA 型の企業は自社の小売店の存在によって、その外部性を内部化することができる

からである。しかしながら、モデル[2]においては、その効果に有意性が見られなかった。

これらのことより、仮説 H1 は棄却できないものの、SPA 型である企業が E コマースに参

入する際にその期待利潤は高くないことも考えられる。 Synergy 変数に関する効果は、モデル[1]からモデル[4]まで全てのモデルにおいて正に

有意である。これは、E コマースに参入することが可能となった1993年以前にカタロ

グ販売を行っていた企業は、E コマースに参入する確率が高いことを示している。ノンパ

ラメトリック法による差の検定では、カタログ販売の有無が E コマース参入の分布に差が

あるということに有意性はなかったが、不連続型ロジットモデルでは過去におけるカタロ

グ販売の有無が E コマースに参入する確率を高めていることになる。これは Lasry (2001)や Gertner and Stillman (2001)と同様の結果である。オッズ比の推定結果から、カタログ

販売を行っていた企業は各時点の E コマースへの参入確率のオッズ比が 7.03 から 13.34倍高くなることを示している。これはカタログ販売を行っていた企業は、E コマースに参

入する際に必要となる物流システムやノウハウといった資産を保有しており、E コマース

に新たに参入しても参入費用がそうでない企業に比べて低いことを示しているのかもしれ

ない。その場合はカタログ販売と E コマース販売の間にシナジーがあることになるので、

仮説 H2A は棄却できず、仮説 H2B は棄却される。 Brick and Mortar 変数は正で有意な影響を持っている。SPA 変数はモデル[1]において

のみ有意性が見られたが、Brick and Mortar 変数はモデル[3]、[4]共に正に有意である。

但し、SPA 変数と Brick and Mortar 変数の expβによると、その効果は SPA 変数の方が

大きい。つまり、SPA 型の企業は、E コマースに参入する確率が高いが、SPA 型の企業は

物理的な小売店舗を保有しているので、SPA 型の中でも物理的な小売店舗を多く保有する

アパレルメーカーほど、E コマースへの参入確率は高いということを示唆する。このこと

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は、消費者がアパレルを購入する際、E コマースで購入したとしても物理的店舗へ訪問し

て受け取るということや、自宅から近くに物理的店舗があるということが E コマースの利

用可能性を高めているのかもしれない。よって、仮説 H3 は棄却できない。 Age 変数はモデル[3]、[4]でのみ負に有意であり、企業の設立からの時間が短い(若い)企業ほど、E コマースへの参入確率が高いことを示している。これは設立からの時間が長い

(古い)企業ほど、構造的惰性が存在しているのかもしれない。しかし、オッズ比の値は 0.96から 0.99 と小さく、E コマースへ参入する確率を低める効果は低い。よって、仮説 H4 は

棄却できないが、その効果は微小である。 Sales 変数はモデル[2]でのみ負で 10%有意水準で有意であるが、モデル[4]では有意性が

見られなかった。この結果は、Amburgey and Kelly (1991)や Haveman (1993)と同様で

あり、本研究においても構造的惰性が企業サイズの増加と共に上昇するという Hannan and Freeman (1977,1984)の仮説は支持できていない。

6. おわりに 情報化が進展している現在において、今後多くの BtoB、BtoC 取引の局面に様々な取引

が行われると考えられる。それら新たな取引の中でも、ある時期を境に開かれた新しい市

場が、BtoC 取引の E コマースである。BtoC 取引の E コマースの中でも、本研究は E コ

マースが も多く行われているアメリカにおいて、 も販売額の多いアパレル産業に焦点

を当てた。 先行研究では、BtoC 取引における E コマースに参入した企業のみを分析対象としてそ

の企業特性を説明変数とし、E コマースの売上や E コマースの有用性を分析している。本

研究では、アメリカのアパレル産業における企業形態に着目し、そこに存在する特有の取

引費用が E コマースへの参入の難易に与えた影響を分析した。 アメリカのアパレル産業に対するサバイバル分析の結果、自社で小売店を保有するアパ

レルメーカーは E コマースへの参入タイミングが早いことが示された。一方、自社で小売

店を保有していないアパレルメーカーは、E コマースに参入した際に発生する外部性を既

存の委託している販路であるデパートメント・ストアや小売店で内部化することができず、

E コマースに参入した際にアパレルメーカーと既存の委託している販路とのチャンネル・

コンフリクトが発生する可能性があることが示唆された。この結果は、SPA 型のアパレル

メーカーは非 SPA 型のアパレルメーカーに比べ、参入が容易であることを示唆する。 カタログ販売は E コマース販売とシナジーがある可能性が示され、カタログ販売を行っ

ていたアパレルメーカーは既存の流通資産の存在が E コマースへの参入を容易にしている

ことが示された。この結果は、カタログ販売を行っていないアパレルメーカーは、E コマ

ースに参入する際に生じる流通資産やノウハウ、他のシステムを確立するための投資費用

が高い可能性を示唆している。 自社で小売店を保有する SPA 型のアパレルメーカーの中でも、特に物理的店舗が多いア

パレルメーカーは、E コマースへの参入が早いことが示された。これは、物理的店舗の少

ないアパレルメーカーは、消費者からの販売後の返品や交換といったシステムを構築する

ための投資費用が高いことを示唆している。更に、アパレルメーカーは、消費者が自宅か

ら近くに存在する物理的店舗が、そのアパレルメーカーに対する信頼性を向上する可能性

があることを認識している可能性があることを示唆する。この結果は、アパレル財は着心

地やサイズ、色などが実際に見ないとわからないという財の性質によるものかもしれない。 アパレルメーカーが設立から古い企業であるほど、E コマースへの参入が遅いことが示

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されたが、その結果は微小であった。この結果は、E コマース参入の際にスイッチング・

コストが発生する可能性があることを示している。本研究は企業サイズが構造的惰性を増

加するかという点について若干の考察を加えたが、他の先行実証研究と同様にその効果は

支持できなかった。 本研究は未完成で不足な点も多い。今後改善して行きたいが、課題として以下のことを

考えている。 一つ目は、アパレルメーカーの業態の分け方についてである。アパレルメーカーを SPA型と非 SPA 型で分けて分析したが、SPA 型であるかどうかは各アパレルメーカー毎にそ

の程度があり、アパレルメーカーによって異なっている。本研究はそのデータが得られな

かったので、広義の SPA 型を定義して分析したが、実際の業態に更に即したデータを構築

する必要があるであろう。 二つ目は、E コマースにおける企業サイズを分析対象にしなかったことである。アパレ

ルメーカーのサイズを測る上で企業売上のデータを用いたが、E コマースに参入したアパ

レルメーカーのオンライン販売額はその企業の E コマースにおける取引の大きさを表すも

のであり、その時点までに参入していない他のアパレルメーカーに対して何らかの影響を

持つ変数となりえるであろう。本研究はそのデータの欠落が多く、分析に用いることがで

きなかった。 三つ目は、アパレル産業の生産工程は複雑であり、アパレルメーカーと小売店間の関係

のみから BtoC 取引の E コマースを捉えるのは難しい。更に、アパレルメーカーと小売店

の業態も複雑であり、企業毎に業態の詳細は異なる様相を持っている。業態の詳細を精査

することが、分析の精緻化に繋がると考える。 注 (*1) 慶應義塾大学大学院経済学研究科後期博士課程、慶應義塾大学経済学研究科・商学研

究科、京都大学経済研究所連携グローバル COE 研究員 E-mail: [email protected]

本稿の作成にあたり、中澤敏明教授(慶應義塾大学経済学部)の指導を得た。また、津

谷典子教授(慶應義塾大学経済学部)、赤林英夫教授(慶應義塾大学経済学部)から貴重な

コメントを頂いた。記して謝意を表したい。但し、論文中の誤りや不足の責は、すべて筆

者が負うものである。 (*2) 1993年、イリノイ大学米国立スーパーコンピューター応用研究所 (National Center for Supercomputing Applications: NCSA)が開発した Web ブラウザー。 (*3) Big ticket items のオンライン販売額は Airline tickets、Computer hardware、Hotel reservations の順に高い。

(*4) ノンパラメトリック法は、他にも生命表法(life table method)、Chiang 法、Littel 法などがある。生命表法はセンサリングケースの半分に事象発生の可能性があるとして、カ

プラン=マイヤー推定量と同様の推定を行うものである。しかし、事象発生時点のデータ

を集計する点と、センサリングケースにおける区切り方によって推定結果が異なるので、

本研究ではカプラン=マイヤー法を用いた。生命表法は大標法を分析する際に使用される

ことが多く、生命保険数理法(actuarial method)とも呼ばれ、Cutler and Ederer(1958)が

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臨床試験に用いているので、カトラー=エドラー法とも呼ばれる。生命表法の詳細は富永

(1991)、Chiang 法は Chiang(1961)、Littel 法は Littel (1952)を参照されたい。 (*5) カプラン=マイヤー推定量に対する群間検定として代表的なものは、Mantel- Haenzel 型ログランク検定(log rank test)、Cox- Mantel 型ログランク検定、Peto- Peto型ログランク検定、一般化ウィルコクソン検定(generalized Wilcoxon test)、Peto- Prentice型ウィルコクソン検定、Talone 検定、標準誤差に基づいた検定、Kolmogorov- Smirnov検定がある。Cox- Mantel 型ログランク検定については Gehan(1975)、Cox(1972)、Peto- Peto 型ログランク検定については Peto and Peto(1972)、一般化ウィルコクソン検定につ

いては Gehan(1965,1975)、O’Brien and Fleming(1987)、Talone 検定については Talone and Ware(1977)、Kolmogorov- Smirnov 検定については Siegel (1956)を参照されたい。 (*6) Mantel- Haenzel 型ログランク検定は、事象発生前と後の各期間に対して、実測事象

数と期待事象数から Mantel- Haenzel 法によるカイ2乗値を計算する。A 群と B 群の差の

検定を行うとき、A 群の事象発生後のカイ2乗値を Ai、A 群と B 群の事象発生後の合計サ

ンプル数をγi、A 郡と B 郡の事象発生前の合計サンプル数をδi、A 群の各期間 初の事

象が発生していないサンプル数から期間中のセンサリング及び期間中に事象が発生しなか

ったサンプル数を引いた数をεi、B 群の各期間 初の事象が発生していないサンプル数か

ら期間中のセンサリング及び期間中に事象が発生しなかったサンプル数を引いた数をζi、総合計をνi とする。Mantel- Haenzel 法による A 群の事象発生後のカイ2乗値は、

∑ ∑

=

= =

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛−

=− k

ii

k

i

k

iii

AV

AEAHaenzelMantel

1

2

1 12

)(

)(χ

)1()(,)( 2 −==

ii

iiiii

i

iii AVAE

ννζεδγ

νεγ

から表される。これを群、期間毎に4つ求める。この時、E は期待事象発生数である。こ

のように、Mantel- Haenzel 型ログランク検定によるカイ2乗値は、観察期間を分けて、

期間毎に実際に発生した事象数と期待事象発生数から求められる。Mantel- Haenzel 型ロ

グランク検定は、全ての時点において重みを等しく合計するため、生存時間の後ろの時点

で差が広がるケースにおいて優れている。 (*7) 不連続時間モデルは離散時間モデルとも呼ばれている。 (*8) ヒューバーの数式については Huber (1967)、White (1980)を参照されたい。 (*9) 使用したデータは 2007 年度におけるアパレルメーカーの売上上位 20 社であり、 低

売上額約 6 百万ドルである。よって、売上額の欠損値に 1 ドルという値を代入しても、売

上額がほぼ 0 と考えることができる。Sales 変数は分析の際に対数をとっているので、Sales変数の欠損値の対数値がゼロになるように、Sales 変数の欠損値に1を代入した。本研究

では、Sales 変数をカテゴリー変数に変換し、欠損値ダミー変数を構築した推計も行った

が、Sale 変数は 0 から 200 百万ドルのデータが全体 357 件中 312 件であり、200 百万ド

ルから 400 百万ドルのデータが 24 件、400 百万ドルから 600 百万ドルのデータが 8 件、

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600 百万ドルから 800 百万ドルのデータが 5 件、800 百万ドルから 1000 百万ドルのデー

タが 12 件であった。よって、本研究では売上額の欠損値に 1 を代入する方法で推計を行

った。 (*10) データに欠損値が含まれている場合の推計方法は、大きく二つに分かれる。一つ目は

データに含まれる欠損値を全て取り除き、完全なデータとして分析する方法、二つ目は欠

損値に対して何らかの方法で代入(impute)する方法である。前者は、欠損値が多い場合、

推計に用いるデータが減ってしまうという欠点と観測データと欠損データ間に同じ傾向が

ない場合、推計結果に偏りが生じる欠点がある。後者は、単一の値を代入する方法と複数

の値を代入する方法がある。複数の値を代入する方法には 尤推定法、マルコフチェーン・

モンテカルロ法、ノンパラメトリック法等があるが、この方法も前者と同様に観測データ

と欠損データ間に同じ傾向がない場合、推計結果に偏りが生じる欠点がある。更に、複数

の値を代入する方法は、同じデータセットを用いて分析しても推計結果が用いた代入方法

によって異なることになる。欠損値が含まれている際の推計方法については King. et al(2001)、複数の値を代入する方法は Allison(1987)を参照されたい。

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図表:

(出典:National Retail Federation (NRF), Forrester Research, Inc より作成)

表 1: アメリカにおけるオンライン販売額

期間:May 2000 - April 2001 単位:1000$

Small-ticket items:

Apparel 3,047,690

Toys/videogames 2,456,447

Books 2,383,602

Software 1,795,787

Music 1,702,105

Health and beauty 1,617,246

Office supplies 1,470,927

Videos 1,153,339

Jewelry 1,039,167

Linens/home decor 922,424

Sporting goods 902,848

Small appliances 723,598

Footwear 719,161

Flowers 717,570

Tools and hardware 603,188Garden supplies 353,123

Total small-ticket items: 21,608,222

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アパレルメーカー

E-Commerce

アパレルメーカー

小売店

SPA 型 非 SPA 型

小売店

内部化された 外部性

外部性

E-Commerce

図 1: BtoC 取引における E コマース参入の概念図

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表 2: 分析対象企業

Abercrombie & Fitch Co Finish Line Inc Movado Group Inc Aeropostale Inc Foot Locker Inc Frederick's of Hollywood Group, IncAmerican Eagle Outfitters Inc Fossil Inc New York & Company Inc AnnTaylor Stores Corp Gap Inc Oxford Industries Inc Big 5 Sporting Goods Corp Genesco Inc Pacific Sunwear of California Inc Birks & Mayors Inc Gildan Activewear Inc Perry Ellis International Inc Blue Nile Inc Guess? Inc Phillips-Van Heusen Corp Buckle Inc Gymboree Corp Polo Ralph Lauren Corp Cache Inc Hartmarx Corp Quiksilver Inc Cato Corp Hot Topic, Inc Ross Stores Inc Charlotte Russe Holding Inc J Crew Group Inc Shoe Carnival Inc Charming Shoppes Inc Jaclyn Inc Superior Uniform Group, Inc Chico's FAS Inc Jones Apparel Group Inc Talbots Inc Christopher & Banks Corp Jos A Bank Clothiers Inc Talon International Inc Citi Trends Inc Kellwood Co Tiffany & Co Coldwater Creek Inc Lazare Kaplan International Inc Under Armour Inc Collective Brands Inc Limited Brands Inc Urban Outfitters Inc Delta Apparel Inc Liz Claiborne Inc VF Corp DGSE Companies Inc Maidenform Brands Inc Volcom Inc Dress Barn Inc Men's Wearhouse Inc Warnaco Group Inc

※ 企業名は 2007 年度のものであり、売上ランキングは Reuters のデータを用いた。

表 3: 各変数の記述統計

変数名 サンプル数 平均 標準偏差 最小 最大

E-Commerce 404 0.07 0.25 0 1

SPA 404 0.67 0.47 0 1

Synergy 375 0.27 0.45 0 1

Brick and Mortar 404 520.31 581.48 0 2900

Age 404 42.78 36.86 1 133

Sales 404 898 1580 1 9960

※Sales 変数の単位は 100 万$である。

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図 2: SPA 型の企業を 1、非 SPA 型の企業を 0 でグループ分けしたカプラン=マイヤー法

による生存確率

0.00

0.25

0.50

0.75

1.00

0 5 10 15analysis time

SPA = 0 SPA = 1

Kaplan-Meier survival estimates, by SPA

Chi^2 Prob>chi^2

Peto- Prentice Wilcoxon Test 9.04 0.0026

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図 3: 1993年以前にカタログ販売をしていた企業を 1、1993年以前にカタログ販売

をしていなかった企業を 0 でグループ分けしたカプラン=マイヤー法による生存確率

0.00

0.25

0.50

0.75

1.00

0 5 10 15analysis time

Catalog = 0 Catalog = 1

Kaplan-Meier survival estimates, by Catalog

Kolmogorov- Smirnov 検定は、2群のサンプル数が 4021 <= nn の時は2群の相対累積

度数表を求めその 大値 D と Siegel (1956)の限界数 DK よりも大きいかどうかにより、2

群の相対累積度数の差の有意性を検定する。しかし、本研究のサンプル数は 40 以下であ

ったが、2群のサンプル数が異なっていたため、以下の方法で 2 群間の差の有意性を検定

した。 Kolmogorov- Smirnov 検定によるカイ2乗値は、

21

2122 4nn

nnD+

⋅⋅=χ

で与えられ、

25,14 21 == nn

3371.0=D

であったので、2χ ≒4.079 である。自由度 2 で有意水準 0.05 に対応するカイ2乗値は 5.99

であり、得られた値はこれよりも小さいため、E コマースへの参入に対して、1993年

以前にカタログ販売をしていた企業と、1993年以前にカタログ販売をしていなかった

企業間の差に有意性はない。

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表 4: 不連続ロジットモデル(離散時間イベント・ヒストリー分析モデル)による推計結果

[1] [2]

β(coef)

robust

standard

error

expβ β(coef)

robust

standard

error

expβ

SPA 2.227 * 1.049 9.275 1.681 1.068 5.371

Synergy 1.950 ** 0.622 7.030 1.802 ** 0.666 6.066

ln Brick and Mortar

Age -0.009 0.010 0.991 -0.015 0.012 0.985

ln Sales 0.411 # 0.230 1.509

Sales missing data 8.270 # 4.732 3902.591

Constant -6.800 ** 1.916 -16.096 ** 6.181

Observations 375 375

Wald chi^2 32.63 43.84

Prob > chi^2 0.000 0.000

Pseudo R^2 0.290 0.308

Log Pseudo likelihood -67.046 -65.407

[3] [4]

β(coef)

robust

standard

error

expβ β(coef)

robust

standard

error

expβ

SPA

Synergy 2.590 ** 0.735 13.343 2.517 ** 0.760 12.389

ln Brick and Mortar 0.906 ** 0.283 2.474 0.737 * 0.293 2.089

Age -0.032 * 0.013 0.968 -0.035 * 0.014 0.965

ln Sales 0.260 0.322 1.297

Sales missing data 3.908 6.436 49.793

Constant -11.740 ** 3.121 -15.535 * 7.158

Observations 274 274

Wald chi^2 22.24 34.62

Prob > chi^2 0.014 0.001

Pseudo R^2 0.395 0.406

Log Pseudo likelihood -47.796 -46.900

※**、*、#はそれぞれ推定された係数が 1%、5%、10%水準で有意であることを示す。Synergy変数と ln Brick and Mortar 変数は、同一企業に対して全ての時点で同一の値を取っている。