消化器 肝硬変 · 2018-11-29 · 392 第 3章 消化器 3———消化器 肝硬変...

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392 3———消化器 肝硬変 (hepatic cirrhosis) 1.肝硬変とは 肝臓には再生機能があるため,肝障害が生じると肝細胞の壊死が起こるが,障害 が短期間の場合は再生能により元の状態に戻る。しかし,障害が長期間にわたる場 合には線維化を生じる。 様々な原因により,肝細胞が死に至り肝小葉の脱落が生じた結果,びまん性に膠 原線維による線維性隔壁形成と肝細胞の再生結節が生じる。これらが慢性的に進行 し,肝小葉構造が改築されると肝硬変に至る。 2.原因疾患 ①肝炎ウイルス感染  ②アルコール性肝硬変 ③自己免疫性肝炎   ④原発性胆汁性肝硬変 ⑤アフトラキシンなどの毒素,薬物  ⑥バッド・キアリ(Budd-Chiari)症候群 ⑦ウィルソン(Wilson)病 ⑧そのほかに,うっ血性心不全,ヘモクロマトーシスなどの代謝性疾患 3.症状 1)成因による分類 (1)肝機能障害による症状 全身倦怠感,易疲労感,黄疸,肝性脳症(意識の低下,羽ばたき振戦,肝性口臭), 浮腫,出血傾向(皮下出血,鼻出血,歯肉出血など),女性化乳房,クモ状血管腫, 手掌紅斑など (2)血流障害(門脈圧亢進)による症状 食欲不振,腹部膨満感,悪心・嘔吐,脾腫,腹水,門脈側副血行路の発達(腹壁 静脈怒張,食道静脈瘤,胃静脈瘤,痔核) (3)その他 発熱,腹痛,圧痛,腹部膨満感,肝腫大,上腹部の鈍痛など 2)臨床上の分類 代償期と非代償期に分けられる。

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Page 1: 消化器 肝硬変 · 2018-11-29 · 392 第 3章 消化器 3———消化器 肝硬変 (hepatic cirrhosis) 1.肝硬変とは 肝臓には再生機能があるため,肝障害が生じると肝細胞の壊死が起こるが,障害

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第3章

消化器

3———消化器

肝硬変 (hepatic cirrhosis)

1.肝硬変とは 肝臓には再生機能があるため,肝障害が生じると肝細胞の壊死が起こるが,障害

が短期間の場合は再生能により元の状態に戻る。しかし,障害が長期間にわたる場

合には線維化を生じる。

 様々な原因により,肝細胞が死に至り肝小葉の脱落が生じた結果,びまん性に膠

原線維による線維性隔壁形成と肝細胞の再生結節が生じる。これらが慢性的に進行

し,肝小葉構造が改築されると肝硬変に至る。

2.原因疾患①肝炎ウイルス感染  ②アルコール性肝硬変

③自己免疫性肝炎   ④原発性胆汁性肝硬変

⑤アフトラキシンなどの毒素,薬物  ⑥バッド・キアリ(Budd-Chiari)症候群

⑦ウィルソン(Wilson)病

⑧そのほかに,うっ血性心不全,ヘモクロマトーシスなどの代謝性疾患

3.症状1)成因による分類(1)肝機能障害による症状 全身倦怠感,易疲労感,黄疸,肝性脳症(意識の低下,羽ばたき振戦,肝性口臭),

浮腫,出血傾向(皮下出血,鼻出血,歯肉出血など),女性化乳房,クモ状血管腫,

手掌紅斑など

(2)血流障害(門脈圧亢進)による症状 食欲不振,腹部膨満感,悪心・嘔吐,脾腫,腹水,門脈側副血行路の発達(腹壁

静脈怒張,食道静脈瘤,胃静脈瘤,痔核)

(3)その他 発熱,腹痛,圧痛,腹部膨満感,肝腫大,上腹部の鈍痛など

2)臨床上の分類 代償期と非代償期に分けられる。

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肝硬変

第6節

(1)代償期 肝機能が比較的保たれており無症状のことが多いが,全身倦怠感,易疲労感,食

欲不振などを認める。

(2)非代償期 高度な腹水,黄疸,出血傾向,肝性脳症などの肝機能不全に基づく症状を認める。

〈補足〉腹水

肝臓では血漿膠質浸透圧の維持に必要なタンパク質の主成分であるアルブミン

の合成が行われている。肝障害の場合,アルブミン合成能が低下し,血漿膠質

浸透圧の低下から血管内の水分が腹腔内に移行する。

また,消化管から門脈への血流が肝障害によって抵抗を受け,門脈圧の亢進を

生じることから,肝リンパ生成が亢進し,腹水の貯留につながる。

更に,有効循環血液量の低下や腎臓の血流量低下により,水分やナトリウムの

排泄が減少することも腹水の原因となる。

黄疸

ヘモグロビンの代謝産物である間接ビリルビンが肝臓内でグルクロン酸抱合を

受け,直接ビリルビンとなって腸管へ排泄される。肝障害が生じると肝細胞で

の処理能力が低下し,間接ビリルビンが蓄積されて黄疸を引き起こす(肝細胞

性黄疸)。

また肝細胞の線維化により,毛細胆管障害が引き起こされて胆汁のうっ滞が生

じる。そのため,直接ビリルビンが腸管内にスムーズに排泄されずに黄疸を引

き起こす(胆汁うっ滞性黄疸)。

胆汁うっ滞性黄疸の中には,上記のような肝内性のもののほかに,腫瘍や胆石

などによる閉塞が原因の肝外胆汁うっ滞性黄疸(閉塞性黄疸)がある。

胆汁うっ滞性黄疸の出現時は搔痒感を伴うことが多い。特に,悪性腫瘍の閉塞

性黄疸の場合に搔痒感が強いが,胆汁酸の皮膚刺激によるものであるため,肝

内・肝外共に認められる。

肝性脳症

腸管で腸内細菌から生成されたアンモニアは,肝臓で尿素サイクルにより解毒

化されるが,肝機能の低下がある場合は十分に行うことができない。それによ

り,肝臓内で代謝できないアンモニアが大循環に入り,血中アンモニア濃度が

高くなる。また,分岐鎖アミノ酸の減少と芳香族アミノ酸の増加があり,脳内

への移行が起こることも肝性脳症を引き起こす原因とされている。

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第3章

消化器

4.検査・診断 肝硬変を診断する際には,肝炎ウイルスの有無,健診などによる肝障害の指摘の有

無,アルコールの摂取歴や家族歴で肝疾患の有無などを聴取することが重要である。

1)問診 「3.症状」「1)成因による分類」P.392について問診する。

2)身体所見・臨床症状 身体所見としては,肝細胞の機能障害によるもの,門脈圧亢進によるものを見て

いき,症状や所見を見逃さないように身体所見を得ることが重要である。

 臨床症状はP.392参照。

3)血液生化学検査(1)タンパク合成能を反映する検査・血清アルブミン:低下     ・コリンエステラーゼ:低下

・血漿フィブリノーゲン:低下  ・プロトロンビン時間:延長

・血清タンパク分画:A/G比の逆転

(2)脂質合成能を反映する検査・血清コレステロール:低下

(3)解毒能を反映する検査・血清ビリルビン:黄疸の時に上昇

・インドシアニングリーン試験(ICG):15分値の上昇

(4)肝細胞の変性や壊死を反映する検査・血清トランスアミラーゼ(AST,ALT):上昇(AST>ALT)

(5)毛細胆管圧上昇を反映する検査 ・アルカリホスファターゼ:上昇  ・γ-GTP:上昇

(6)間葉系反応が活発な場合を反映する検査・血清タンパク分画:γ-グロブリン増加  ・ZTT,TTT:陽性

(7)腫瘍マーカー・肝硬変でも上昇する。

・AFP-L3分画,PIVKA-Ⅱは肝がん合併の有無に重要である。

4)画像診断 腹部超音波検査や腹部CTでは,肝腫大あるいは萎縮,肝辺縁の鈍化,表面の凸

凹不整,内部エコーの不均一化,脈管構築の不整,脾腫,腹水を認める。

 門脈―体循環シャント,肝がんや胆石(色素結石が多い)などの合併を検索する。

肝硬変と診断された場合,肝がん合併の検索目的で3ヵ月ごとの診断が推奨される。

5)腹腔鏡検査 肝表面に多数の結節を認める。

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肝硬変

第6節

6)肝生検 組織診で小葉改築像を認める。

7)その他の検査所見 肝機能と肝予備能の検査目的で,ICGを用いた色素負荷試験を行うことがある。

尿検では,尿中ウロビリノーゲンの増加,ビリルビン尿が認められることがあり,

尿中ナトリウム濃度の低下も認められる。肝性昏睡の際に脳波を施行すると,徐波

や三相波が認められる。

5.重症度分類 肝硬変の重症度分類には,child-pugh/turcotte(表1)が有用である。

6.治療 各種検査によって肝硬変と診断された場合,治療方針を立てる上で残存肝機能を

把握することが重要である。更に,合併症の有無を検索し,早期に治療することが

患者の予後を左右する。

 病態の変化を見逃さないためにも,代償期では1ヵ月に1度,非代償期では,1~

2週間に1度の診療を行う。肝がんや食道静脈瘤などの発見目的で,3ヵ月ごとの腹

部超音波検査やCT,門脈圧亢進も状況により定期的な消化管内視鏡検査を施行する。

1)安静の保持 肝硬変患者の肝血流は健常者に比べて低下しているため,食後は横になることで

肝血流を増やすことができる。

 代償期では,あまり疲労を感じない程度の仕事や運動は許可する。

 非代償期では,全身状態や合併症の有無,検査データを観察し,肝機能に悪影響

を及ぼさない範囲の安静度とする。

表1 child-pugh/turcotte

J. Pugh RNH et. al. : Brit. J. Surg., 60, 646, 1973.一部改変

危険増大に関する点数31 2

血清ビリルビン(mg/dL)血清アルブミン(g/dL)

腹水脳症*

プロトロンビン時間(秒延長)

(%)原発性胆汁性肝硬変の場合は血清ビリルビン(mg/dL)

1~2>3.5なしなし

1~4

>80

1~4

2~32.8 ~ 3.5軽度1~2

4~6

50~ 80

4~ 10

>3<2.8中等度3~4

>6

<50

>10

臨床所見・生化学検査

*Trey and Saunders(1966)の分類による。点数の総計で病期を判定する。grade A:5~6点,B:7~9点,C:10 ~ 15点

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第3章

消化器

2)食事療法 高タンパク(1.2~1.5g/kg),高ビタミン,適正なエネルギー(40kcal/kg)が

基本である。

 肝性脳症(高アンモニア血症)を伴う場合には,アンモニアの生成を抑える目的で

タンパク制限(1g/kg以下)が必要である。また,肝性脳症の予防と低アルブミン血

症(3.5g/dL以下)の改善を目的に,経口アミノ酸製剤を用いる。更に,禁酒とする。

3)その他 肝硬変自体に対する薬物療法としては,特別なものはない。しかし,ウイルス性

肝硬変でトランスアミラーゼが上昇している症例では,グリチルリチン,システイ

ン,アミノ酢酸配合薬(強力ネオミノファーゲンシー)の静注やウルソデオキシ

コール酸の内服を行い,トランスアミラーゼの鎮静化を試みる。

7.合併症とその治療1)消化管出血 門脈圧の亢進により側副血行路ができて,食道静脈瘤が形成される。また,凝固

因子の産生低下,脾機能の亢進による血小板減少などにより出血傾向である。

①食道静脈瘤破裂  ②胃粘膜病変  ③消化管潰瘍〈治療〉 門脈圧亢進に伴う食道・胃静脈瘤に対する治療は,以下の3つがある。

①内視鏡的硬化療法(EIS)  ②内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)

③バルーン下逆行性経静脈的塞栓術(BRTO)

2)肝性脳症 消化管出血,便秘・下痢,脱水,電解質異常,睡眠導入剤の乱用などをきっかけ

に発症することが多く,意識障害や判断力の低下,性格の変化,異常行動,昼夜逆

転,羽ばたき振戦,昏睡などを認める。表2に肝性脳症の昏睡度分類を示す。〈治療〉①分岐アミノ酸製剤の点滴により血中アミノ酸組成を改善させる。

②�非吸収性(腸管から吸収されにくい)抗生物質(カナマイシン,硫酸ポリミキシ

ンBなど)の経口与薬により,腸内細菌を増殖抑制する。

③ラクツロースの経口与薬により,腸内のpHを低下させて腸管輸送能を改善する。

④ラクツロース浣腸(微温湯で2倍に希釈)により,腸内の窒素物を除去する。

3)腹水 タンパク合成能の低下による血漿膠質浸透圧の低下により生じる。そのほかに,肝

臓でのリンパ液生成の亢進と腎血流量の減少による水分やナトリウムの排泄減少に

より,増強する。

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肝硬変

第6節

〈治療〉①安静を強化する。

②塩分制限(5g/日以下)と水分制限を行う。

③�改善がない場合は,第1選択として抗アルドステロン薬を使用する。単独で十分

な効果が見られない際は,ループ利尿薬を併用する。

④�血清アルブミン値が3.0g/dL以下で,安静,減塩,利尿剤の効果がない場合は,

アルブミン製剤を併用する。

⑤�難治性腹水には,腹水濃縮再注入法や経頸静脈肝内門脈静脈短絡術(TIPS),腹

腔静脈シャント(レビーシャント)を行う。

表2 肝性脳症の昏睡度分類

犬山シンポジウム記録刊行会編:第12回犬山シンポジウム A型肝炎・劇症肝炎,P.124,中外医学社,1982.

精神症状 参考事項

睡眠-覚醒リズムの逆転多幸気分,ときに抑うつ状態だらしなく,気にとめない態度

指南力(時,場所)障害,物をとり違える(confusion)異常行動(例:お金をまく,化粧品をゴミ箱に捨てるなど)時に傾眠状態(普通の呼びかけで開眼し,会話ができる)無礼な行動があったりするが,医師の指示に従う態度を見せる

しばしば興奮状態又はせんもう状態を伴い,反抗的態度をみせる嗜眠状態(ほとんど眠っている)外的刺激で開眼しうるが,医師の指示に従わない,又は従えない(簡単な命令には応じえる)

昏睡(完全な意識の消失)痛み刺激に反応する

深昏睡痛み刺激にも全く反応しない

retrospectiveにしか判定できない場合が多い

興奮状態がない尿,便失禁がない羽ばたき振戦あり

羽ばたき振戦あり(患者の協力が得られる場合)指南力は高度に障害

刺激に対して,払いのける動作,顔をしかめるなどがみられる

昏睡度

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第3章

消化器

肝硬変の成り行き

肝機能障害

浮腫・腹水あり

食道静脈瘤あり

肝性脳症あり

ショック

肝不全による死

硬化療法

腹水穿刺

腹水

状態安定

SBチューブ挿入

補液・輸血

洗腸

状態安定

状態安定

状態安定

退院

安静・食事療法(高タンパク,高ビタミン)

非効果的治療計画・管理

利尿剤・アルブミン与薬

塩分制限

食道静脈瘤

硬化療法

手術療法

破裂

肝不全食・

内服管理

絶食・持続点滴

身体損傷のリスク状態

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肝硬変

第6節

肝硬変の関連図

B型・C型肝炎

ウイルス

アルコール

低栄養

先天性代謝障害

薬物,毒物

寄生虫

血中タンパク減少

コレステロール低下

ビリルビン代謝障害

脂肪の消化障害

タンパク合成の低下

脂質代謝の低下

糖質代謝の低下

ホルモン代謝の低下

胆汁の生成と排泄障害

アンモニア処理能力の低下

血漿膠質

浸透圧の

低下

腹部膨満

体重増加

尿量減少

呼吸困難

毛細血管圧上昇

側副血行路形成

脾腫,脾機能亢進

汎血球減少

門脈うっ血

腹壁静脈怒張(メドゥーサの頭)

痔静脈怒張

食道静脈瘤の形成

出血傾向

感染

浮腫

黄疸

脂溶性ビタミン吸収障害(ビタミンKなど)

#3 肝性脳症

肝性昏睡

#2 食道静脈

   瘤破裂

高アンモニア血症

門脈圧亢進

#1 肝機能障害

#1 低アルブミン

   血症

肝細胞の

変性,壊死

萎縮,硬化

浮腫,

腹水

搔痒感

精神症状

神経症状

(羽ばたき振戦)

血液凝固物質産生の

低下

プロトロンビン時間延長,

出血時間延長

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第3章

消化器

肝硬変の看護

代償期の看護 この時期は,患者が病識を持ち継続して自己管理できるように指導する。

看護問題#1 肝機能低下看護目標

1.肝機能が低下しない。

看護計画(1)観察項目①低栄養状態

・身長,体重,るい瘦,浮腫,皮膚状態  ・食事・飲水内容と摂取状況

・血液データ(TP,Alb,A/G比,Hb,Ht,AST,ALT)

肝硬変ではタンパク合成能が低下するため,進行度の判断基準として栄養状態の観察は重要である。低栄養状態は合併症の出現につながる。自覚症状が乏しいため,定期的な受診をした際に検査データを伝えることで意識を高める。それにより,栄養管理への認識が高まる。この時期は,症状が乏しく自覚症状がないため,体重増加や浮腫有無に注意をする。

急激な体重増加や浮腫出現は,低栄養状態が予測される。

②安静状況と日常生活の把握

肝硬変患者では肝血流量の減少のため,安静が必要である。肝血流量の増加を図ることが,肝細胞の再生を促進させて肝機能の維持につながる。

自覚症状がないため,安静の必要性を理解しにくい。

(2)ケア項目①食後は安静が保てるような環境を提供する。

栄養分の高い門脈血流量を最大限にするため。

臥位では立位の20~30%の肝血流量が増加するため,食後はわずかな時間でも横になることが望ましい。

②高タンパク,高ビタミン,適正なエネルギーの食事とする。

肝庇護と再生を促すため。

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肝硬変

第6節

代償期はタンパク質1.2~1.5g/kg,エネルギー30~35kcal/kgを基本とするが,肥満の人は脂肪肝を考えて摂取量を決定する。

(3)教育項目①安静の必要性を指導する。

過度な運動や疲労による肝血流量の低下を防ぐ。

特に女性の場合は,家事労働が肉体的な負担となることがあるため,家族の協力が大切である。

②食事制限について指導する。

タンパク合成能が低下するため,高タンパク,高ビタミン,適正なエネルギー食が必要である。また合併症を最小限にするため,塩分を制限する。

食事療法を継続させるためには,家族の協力が大切である。

看護問題#2 ノンコンプライアンス看護目標

1.病識を持ち,制限を守ることができる。

看護計画(1)観察項目①服薬状況

進行性の疾患であり,肝機能を維持するためには服薬管理が重要である。

この時期は自覚症状が乏しいため,自己判断で内服を中止または中断してしまうことがある。そのため,確実に内服しているか確認する。

②安静状況

・日常生活の把握

肝硬変患者では肝血流量の減少のため,安静が必要である。肝血流量の増加を図ることが,肝細胞の再生を促進して肝機能の維持につながる。

自覚症状がないため,安静の必要性を理解しにくい。

(2)ケア項目①塩分制限による薄味については,レモン汁を代用するなどの工夫をする。

制限に対する意識を高めるが,食に対する楽しみを失わない。

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第3章

消化器

調味料の塩分に対する認識が足りない。

②食後は安静が保てるような環境を提供する。

栄養分の高い門脈血流量を最大限にするため。

臥位では立位の20~30%の肝血流量が増加するため,食後はわずかな時間でも横になることが望ましい。

(3)教育項目①疾患についての正しい知識を説明し,理解を得る。

自覚症状に乏しく,また完治しないが,自己コントロールによって進行を防ぐことができる。

肝臓は「沈黙の臓器」といわれるほど,自覚症状が出現しにくい。

②食事療法の必要性と,必要に応じて栄養相談を受けるように指導する。

タンパク合成能が低下するため,高タンパク,高ビタミン,適正なエネルギー食が必要である。また合併症を最小限にするため,塩分を制限する。

食事療法を継続させるためには,家族の協力が大切である。

③内服の必要性を指導する。

確実に内服し続けることにより,進行を最小限にする。

自覚症状が乏しいため,自己中断や中止をする人が多い。

④禁酒の必要性を指導する。

アルコール摂取により脂肪の蓄積が起こり,線維化が進行する。

嗜好品のため,禁酒を継続させるためには,家族の協力が必要である。

⑤定期受診の必要性を指導する。

自覚症状が乏しいが,進行性の疾患であるため。

自己中断や中止をする人が多いため,家族の協力を得ることが必要である。

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肝硬変

第6節

非代償期の看護 合併症に対する看護が主体となるが,腹水貯留に伴う苦痛の緩和,静脈瘤治療の

援助や破裂の予防,肝性脳症の悪化予防に努める。

看護問題#1 門脈圧亢進,低アルブミン血症による浮腫の出現(腹水の貯留)看護目標

1.腹水に伴う症状が緩和する。

看護計画(1)観察項目①腹部緊満感や膨満感,腹囲

低アルブミン血症により,血漿膠質浸透圧が低下して腹水が貯溜するため。

・張り感や緊満感が強くなることで皮膚が伸展し,皮膚を損傷しやすい。・テープなどの機械的刺激により,容易に表皮剝離を起こすことがある。また損傷した部位から,滲出液が大量にもれてくることもある。

②体重,IN・OUTバランス(水分摂取量,1日の尿量)

体液バランスの程度を判断し,利尿剤の効果を客観的に判断するため。

利尿剤の効果による強い口渇感をうがいや氷で軽減するようにし,水分摂取を控える。

③腹水に伴う日常生活の支障の有無

腹部膨隆による体動制限が生じるため。

・腹水の増加により,自力で起き上がることが困難になる。また体のバランスが取りにくいため,自分で下半身の清潔が保てない。・転倒の危険があるため物が拾えず,ベッド周囲の清潔が保たれにくくなる。

④排便状況と性状

排ガスや排便がないことにより,腹満感を増強させる。

腹圧を掛けにくいため,緩下剤を使用して軟便程度に整える。

⑤食事摂取の状況

腹満感が強く,食欲は低下するが,制限が守られているか確認する。

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第3章

消化器

塩分の多い食べ物(せんべいなど)に対する嗜好が強くなり,間食をして,治療食が摂取できないことが多い。

⑥呼吸困難の有無

腹水の貯留で横隔膜が挙上され,呼吸運動が抑制する。

セミファーラー位やファーラー位にすることで,横隔膜の圧迫が緩和して呼吸が楽になる。一方で,セミファーラー位やファーラー位では,褥瘡が発生しやすくなる。

(2)ケア項目①腹満感に伴う苦痛が軽減するように援助する。

・清潔ケア

腹水の貯留により,自力での体動困難が生じてADLが低下するため。

下半身(特に陰部や足元)の清潔行為が自分で行えず,スキントラブルを起こしていることが多いので,定期的に観察する必要がある。

・排泄への援助(尿器,ポータブルトイレ,車いすでトイレに行くなどの検討)

腹水の貯留により,体のバランスが保てない。

腹水をコントロールするために,利尿剤を与薬され,排尿回数が増える患者が多い。体動困難によりベッドサイドで排尿することが多いため,尿器の設置を患者と相談する必要がある。排尿後は速やかに環境整備を行う。

・衣類や寝具の工夫

皮膚が傷つきやすいため。

腹満感があるため,寝衣を選択する時は腹囲に合わせて選ぶ。パジャマのズボンのゴムによる刺激が強い場合は,ガウンなどを着用する。

②安静時は楽な姿勢が取れるように援助する。

・体圧分散マット,クッションの利用

体動困難と栄養状態の低下による褥瘡のリスクがある上に,褥瘡を形成した場合は治癒しにくい。ファーラー位にすることが多いが,長時間の同一体位による仙骨部の褥瘡のリスクが高まるため,クッションを活用して仙骨部の圧迫を除去する。

③体重と腹囲を測定する。

腹水と水分貯留の変動を客観的に判断するため。

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肝硬変

第6節

腹囲は,測定者により値が変動しないように,測定場所をマーキングする。体重や腹囲の値は,利尿剤の量を検討する際に指針となるため,正確に測定する。

④メンタ湿布や温湿布,マッサージなどで腸の蠕動運動を助ける。

腸の蠕動運動の低下によりガスが貯留し,腹満感が増強する。

精神的リラックス効果や爽快感を得られる場合がある。

⑤精神面に配慮する。

不安やボディイメージの変容があるため,人とのかかわりを避けて抑うつ的になりやすい。また,死が目前に迫っているととらえる患者が多い。大部屋の場合は,状況に応じてカーテンを閉めるなどの環境整備を徹底する。また,夜間に不眠症状を訴えることが多いため,睡眠状況を観察してそれに合わせた眠剤を検討する。

(3)教育項目①食後1時間は安静にするように指導する。

安静により肝血流量が増加する。

食後に運動することで消化吸収能力が高まると誤認識して,すぐに動き出す人が多い。

②�水分制限を守ること,口渇時は氷を代用すること,また水分摂取量をチェックす

るように指導する。

水分の過剰摂取により,腹水の増加を来す。

持参したコップの容量を知ることで,水分摂取量を自分で把握する。

③�治療食以外は摂取しないように指導し,制限内で好みのものを摂取できるように

適宜,相談に乗り援助する。

治療食以外の摂取は,特に塩分の過剰摂取により腹水の増加を来す。

患者の好みを把握し,制限内で可能なメニューを考慮し,実施する。

④歩行や体動困難時は,ナースコールで知らせるように指導する。

腹水貯留により,体のバランスが保てず,転倒のリスクがあるため。

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第3章

消化器

・拘束感が少ない離床センサーやセンサー付きマットを使用することで,ナースコールがなくても歩行する患者の転倒を予防できるようにする。・足の浮腫で通常の靴が入りづらいため,履物も転倒転落予防の視点で選択する。

(4)ヒヤリハット①�腹満感や下肢の浮腫により,歩行が不安定となるために転倒・転落が起こりやすい。

②�内服指示から点滴与薬へ変更になる時,患者に内服指導をしないと過剰与薬となる。

③�腹水穿刺中の事故で,ルートの屈曲や体動による自然抜去,位置ずれや多量の腹

水の排出につながることがある。

④�患者は水分摂取に対する欲求が強いため,氷枕や吸引用の蒸留水,花瓶の水など,

周囲にある水分を摂取してしまうことがある。

看護問題#2 門脈圧亢進に伴う静脈瘤破裂看護目標

1.出血の予防または早期発見・対処ができる。

看護計画(1)観察項目①バイタルサインのチェック

バイタルサインの変動により,出血徴候を早期発見する。

出血に伴い,急激な血圧の下降,頻脈が起こる。顔面蒼白,冷汗,嘔気などのショック状態に陥りやすく,迅速に医師に報告する。

②吐・下血の有無

出血傾向が強いため早期に発見し,処置が必要である。

・静脈瘤からの出血は勢いよく噴出することがあり,食物残渣が混じっていることは少ない。また,体内で出血している時は独特の口臭(血液臭)がする。・静脈瘤破裂のリスクがある患者の場合は,すぐに対処ができるように吸引瓶などを準備しておく。

③貧血症状の有無

・動悸,めまい,眼瞼結膜の色調,冷汗,ふらつきの有無など

出血の徴候や程度を客観的,主観的に見るため。

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肝硬変

第6節

必ずしも自覚症状と検査データが比例しないため,自覚症状だけで判断せず,総合的に観察する。

④血液検査値の変動(Hb,RBC,Ht,Plt,PT)

出血状況を判断し,輸血の判断基準にするため。

基準値のデータも大事だが,患者個々の平常時のデータを把握し,変動を見る。

⑤内視鏡所見

内視鏡下で静脈瘤の状態を見て,破裂のリスク及び治療の緊急性を判断する。

食道・胃静脈瘤の破裂は致死的になることが多い。

(2)ケア項目①止血剤,粘膜保護剤の服用を管理する。

再出血予防のため。

粘膜保護剤などは,飲みづらいために自己調節や中断する人が多い。また一定の間隔で内服する必要があるため,状況に応じて看護師の管理とする。

②食事の管理をする。

刺激物を摂取することで出血を助長させる。

詰まり感や違和感がある患者もいるため,食事の形態を工夫する。

③転倒予防を図る。

Hbの低下によりふらつきが著明になるため。

立ち上がり時に転倒することが多いため,ゆっくり立ち上がるように指導すると共に,環境を整備することで転倒を予防する。

(3)教育項目①定期的に受診し,再出血の予防に努める。

出血の可能性を説明し,定期的な検査が必要である。

自覚症状が乏しいために定期的に受診せず,出血して病院へ運ばれる場合が多い。

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第3章

消化器

②食道の刺激を最小限にするために,食事形態を配慮する。

刺激されると出血のリスクが高まる。

食事形態の工夫だけでなく,十分に咀嚼することで刺激を和らげる。

(4)ヒヤリハット①�転倒・転落は,出血による貧血によってふらつきが強くなり,起こりやすい。ま

た急激な出血により,意識消失を起こす場合もある。

②治療後の食事制限が守れない。

③トイレに行って出血し,意識消失をしている場合もある。

食道静脈瘤は自覚症状がないため,内視鏡でしか確認ができない。

看護問題#3 アンモニア貯留による脳症の出現看護目標

1.肝性脳症が出現しない。

看護計画(1)観察項目①意識レベルの変化

肝性脳症の進行と共に昏睡へと移行する。

表2(P.397)の昏睡度Ⅰの早期段階で対処しなければ,すぐに昏睡度が上がるため,迅速な処置や治療を行う必要がある。

②思考過程の変化

肝臓で神経毒性の強い物質が解毒されず,脳内に移行して精神症状や神経症状を呈することがある。

睡眠と覚醒のリズムが逆転している場合が多く,傾眠ととらえやすい。普段から睡眠パターンを確立できるようにかかわることで,異常の早期発見ができる。

③行動の変化

血中アンモニア濃度の上昇により,行動が変化することがある。

・普段の行動を知ることで,異常の早期発見へとつながるため,日々のコミュニケーションが大切である。また,転倒や点滴の自己抜去なども起

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肝硬変

第6節

こるため,予防策を取ることは大切である。・脱衣行動をする人が多い。

④羽ばたき振戦

血中アンモニア濃度が上昇すると,神経症状を伴うことがある。

振戦があるかないかをしっかり判断するためには,患者の手のひらと自分の手のひらを合わせると,振戦の有無がはっきりと分かる。

⑤アンモニア臭の有無

肝性脳症になると,症状として特有の甘いにおいが出現する。

独特なにおいがするため,早期発見が可能である。

⑥尿量の変化

血漿量が減少するとアンモニアが上昇するため。

腹水穿刺や利尿剤の与薬後は,体重の変化だけでなく肝性脳症となりやすいため,行動面や症状についての注意が必要である。

⑦排便の有無と性状

便秘により腸内細菌の作用を受けやすいことから,消化管でのアンモニアの生成が増加しやすいため。・患者の申告だけでなく,状況に応じて排便量を観察する必要がある。常に軟便になるように緩下剤を与薬する。・毎日排便があっても血中アンモニア濃度が上昇する場合がある。

⑧血液検査値(NH3,電解質)

肝性脳症のリスクを判断するため。

NH3が慢性的に高い人もいるため,その患者の推移を知る必要がある。

⑨食事の摂取状況

高タンパク食はアンモニアの生成を促すため。

・肝臓の状況によりタンパク質の摂取制限が異なるため,患者の食事に対する認識を知り,治療にずれが生じないようにかかわる。・高タンパク食が良いと理解している患者も多いため,患者の理解度を確認しておく。また,間食をすると肝性脳症を起こしやすい。

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第3章

消化器

(2)ケア項目①排便コントロールを図る。

ラクツロースの使用により,大腸のpHを酸性にしてアンモニア生成を抑制させる。・緩下剤は飲みづらいために,自己判断で中断や中止をする人が多いので,看護師の管理や指導により,継続して服用できるようにかかわる。・効果的な排便コントロールが得られない場合は,医師の指示によりラクツロース洗腸を行う。

②安全な環境を提供する。

肝性脳症の出現により危険行動を伴うため。

・ベッドの上で立ち上がる,ベッド柵を乗り越えるなどの転落の可能性が高くなるため,あらかじめ予防策を立てておく。・不隠時の記憶が残っている場合,その後に起こした行動(特に失禁など)に対して落ち込む場合があるため,精神的なフォローも必要である。

(3)教育項目①�患者や家族に肝性脳症の誘因や症状について指導し,治療の必要性や異常の早期

発見につながるようにする。

肝性昏睡を予防するため。

家族が初期症状を知ることで,早期に来院して適切な治療が受けられる。

②継続して内服管理ができるように指導する。

排便コントロールを図ることで,アンモニアの生成を予防できるため。

本人だけでなく,家族を含めて指導をすることで継続が図れる。

③点滴の自己抜去,転倒・転落の危険性について指導する。

安全を守るため,予防策を理解してもらう。

異常行動の出現時に備え,事前に予防策を家族と話し合うことで症状出現時はスムーズな対策が取れる。

(4)ヒヤリハット①転倒・転落は,意識障害により起こりやすい。

②�ルートトラブルは,意識障害より認識力が低下するために必要性が分からず,自

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肝硬変

第6節

己抜去に至る。

(5)退院指導〈日常生活について〉①食後30~60分は安静にする。   ②禁酒を守る。

③過剰な肉体労働やスポーツは避ける。   ④熱い湯での入浴は避ける。

⑤毎日体重測定を行い,増減をチェックする。

⑥排便コントロールをつける。   ⑦定期処方薬を内服する。

⑧下記の症状が出現した場合は,速やかに受診をするように促す。

・浮腫,体重の増加,尿量の減少,腹満感,食欲低下,倦怠感,吐・下血

・�肝性脳症の症状が出現した場合は,異常言動,異常行動,不眠,羽ばたき振戦,

意識レベルの変化,アンモニア臭などがある。

〈食事について〉 代償期と非代償期の食事の基本を表3に示す。

引用・参考文献1)J. Pugh RNH et. al. : Brit. J. Surg.,60, 646, 1973.2)犬山シンポジウム記録刊行会編:第12回犬山シンポジウム A型肝炎・劇症肝炎,P.124,中

外医学社,1982.3)光本篤,神津忠彦:食道静脈瘤はどうして起こるのか,臨牀看護,Vol.16,No.8,P.1129,1990.4)石井裕正,井廻道夫,沖田極,熊田博光,藤原研司,二川俊二:肝疾患診療マニュアル,P.225,

日本医師会,1999.5)山口瑞穂子,関口恵子:The疾患別病態関連マップ,P.82,学習研究社,2002.6)戸田剛太郎監修:臨修医のための肝疾患の診断と治療,P.9,18,19,大塚製薬.7)北島政樹,木村チヅ子:えくせるナース(消化器編),メディカルレビュー社,2001.8)黒瀬巌:消化器と病気の仕組み,日本実業出版社,2002.9)飯野四郎,陣田康子:Nursing Selection 消化器疾患,学習研究社,2002.10)日野原重明,井村裕夫:看護のための最新医学講座5,肝・胆・膵疾患,中山書店,2001.11)松田正樹:JJNブックス,消化器疾患ナーシング第2版,医学書院,2003.12)高木永子監修:看護過程に沿った対症看護,学習研究社,1999.13)浜田史郎:上部消化管の画像診断と治療,総合消化器ケア,Vol.6,No.4,P.48,2001.14)桜井恵,大原桜:肝硬変,市川幾恵監修:「意味づけ」「経験知」でわかる病態生理看護過程

上巻,P.438 ~460,日総研出版,2006.

肝性脳症時は,タンパク質1g/kg以下とする。

表3 代償期と非代償期の食事の基本

エネルギー(kcal/kg)

タンパク質(g/kg)

脂肪(g)/日

食塩(g)/日

代償期 非代償期

30 ~ 50

1.5 ~ 2.0

50

25~ 30

1.2 ~ 1.5

35

3~5