ジオエコノミクス・レビュー vol.21 20160318

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1 ジオエコノミクス・レビュー™ 21 号 実践編 今号の趣旨 この 1 か月間、北朝鮮情勢が目まぐるしく動いています。今回はこれらの意味合い について考えてみたいと思います。 北朝鮮は核戦争の準備をしている? 3 月 9 日付で米外交誌「フォーリン・ポリシー」に衝撃的な記事が掲載されました。 それは「北朝鮮は核戦争の準備をしている」というものです。そして先日のミサイル発 射は、在日米軍基地を核攻撃する準備だというのです。これは単なる憶測ではな く、実際、北朝鮮の国営通信社である朝鮮中央通信は、「有事の際に在日米軍 基地への攻撃を担う朝鮮人民軍戦略軍火星砲兵部隊の訓練だった」とし、「米国 と韓国が(北朝鮮に対し)ただ一点の火花でも散らすなら、核弾頭を装塡(そう てん)した火星砲で侵略と挑発の本拠地を焦土化する決死の覚悟を固くした」と報 じたようです。つまりこれは平たく言えば、在日米軍基地を核で攻撃する覚悟を固く したということです。 ではなぜ北朝鮮は核攻撃の準備をしているのでしょうか。 新たに制定された「5015」では、北朝鮮に対する先制攻撃、および、 金正恩氏本人の直接的排除が含まれている” フォーサイト伊藤俊幸作戦計画 5015 の決定的意味 昨年から今年にかけて、米韓で大規模な軍事演習が行われています。これは 2015 年 6 月に米韓で合意された「作戦計画 5015」と呼ばれるものの一環だそう です。重要なのは、この「作戦計画 5015」の意味合いです。フォーサイト誌に記事 を投稿されている伊藤氏によれば、それ以前の「作戦計画 5027」はあくまで北朝 ご挨拶 本ニューズレターも第 21 号発行とな りました。 本ニューズレターでは最近注目を集 めている「ジオエコノミクス」的観点か ら日本企業を取り巻く政治経済情 勢を分析し、皆様のビジネス上の意 思決定の一助となれればと思ってお ります。 今回も北朝鮮情勢について考えて みたいと思います。 株式会社藤村総合研究所 代表取締役 藤村慎也

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ジオエコノミクス・レビュー™ 21 号 実践編

今号の趣旨

この 1 か月間、北朝鮮情勢が目まぐるしく動いています。今回はこれらの意味合い

について考えてみたいと思います。

北朝鮮は核戦争の準備をしている?

3 月 9 日付で米外交誌「フォーリン・ポリシー」に衝撃的な記事が掲載されました。

それは「北朝鮮は核戦争の準備をしている」というものです。そして先日のミサイル発

射は、在日米軍基地を核攻撃する準備だというのです。これは単なる憶測ではな

く、実際、北朝鮮の国営通信社である朝鮮中央通信は、「有事の際に在日米軍

基地への攻撃を担う朝鮮人民軍戦略軍火星砲兵部隊の訓練だった」とし、「米国

と韓国が(北朝鮮に対し)ただ一点の火花でも散らすなら、核弾頭を装塡(そう

てん)した火星砲で侵略と挑発の本拠地を焦土化する決死の覚悟を固くした」と報

じたようです。つまりこれは平たく言えば、在日米軍基地を核で攻撃する覚悟を固く

したということです。

ではなぜ北朝鮮は核攻撃の準備をしているのでしょうか。

“新たに制定された「5015」では、北朝鮮に対する先制攻撃、および、

金正恩氏本人の直接的排除が含まれている” フォーサイト伊藤俊幸氏

作戦計画5015 の決定的意味

昨年から今年にかけて、米韓で大規模な軍事演習が行われています。これは

2015 年 6 月に米韓で合意された「作戦計画 5015」と呼ばれるものの一環だそう

です。重要なのは、この「作戦計画 5015」の意味合いです。フォーサイト誌に記事

を投稿されている伊藤氏によれば、それ以前の「作戦計画 5027」はあくまで北朝

ご挨拶

本ニューズレターも第 21 号発行とな

りました。

本ニューズレターでは最近注目を集

めている「ジオエコノミクス」的観点か

ら日本企業を取り巻く政治経済情

勢を分析し、皆様のビジネス上の意

思決定の一助となれればと思ってお

ります。

今回も北朝鮮情勢について考えて

みたいと思います。

株式会社藤村総合研究所 代表取締役

藤村慎也

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鮮による南進・侵略への対処が目的でしたが、新たに制定された「5015」では、北

朝鮮に対する先制攻撃、および、金正恩氏本人の直接的排除が含まれているとの

ことです。これは北朝鮮、金正恩氏からすれば、大きな転換です。

5015 への対抗、先制手段としての在日米軍基地への核攻撃

北朝鮮側はこの作戦を知り、米国に平和協定交渉を持ちかけていたようですが、こ

れは功を奏せず、それどころか米韓軍事演習が強化されました。そこで金正恩氏とし

ては、自分が窮地に陥る前に敵の基地を核で破壊せざるを得ないという話になりま

す。岩国基地もその標的として含まれているようです。岩国基地からは F35 が作戦

計画 5015、つまり北朝鮮への先制攻撃の演習に参加しているそうです。先のスカッ

ドミサイル 4 発も、ちょうど岩国基地までの距離と同じ距離のところに着弾したと見ら

れています。

対話の道は閉ざされるのかー次のポイントは、米国による北朝鮮の「テ

ロ支援国家」再指定

そんな中、ティラーソン国務長官が北朝鮮との対話を拒否すると同時に、初めて先

制攻撃の可能性に言及しました。伊藤氏によれば、テロ支援国家「再指定があってはじめて、先制戦争が可能になる」とのこと。この

説に従えば、米国が本気で先制攻撃に進むかどうかの一つのメルクマールが、「テロ支援国家再指定」ということになります。日本、韓

国、中国訪問を終えたティラーソン国務長官が帰国した後の動向が注目されます。

参考文献

Jeffrey Lewis, “North Korea Is Practicing for Nuclear War”, Foreign Policy, Mar 9, 2017

「[FT]緊張高まる北朝鮮、打つ手乏しいトランプ政権」 日本経済新聞 2017 年 3 月 10 日

伊藤俊幸「北朝鮮ミサイル「同時着弾」の意味(上)米「先制攻撃への恐怖」が背景」 フォーサイト 2017 年 3 月 14 日

伊藤俊幸「北朝鮮ミサイル「同時着弾」の意味(下)緊張緩和へ「あらゆる選択肢」を」 フォーサイト 2017 年 3 月 15 日

David E. Sanger, “Rex Tillerson Rejects Talks With North Korea on Nuclear Program”, The New York

Times, Mar 17, 2017

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