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昭 和34年 9月 20日 519 疫痢における副腎皮質機能 に関する研究 指導 日本医大教授 元駒込病院長 内山圭梧博士 東京都立駒込病院(院 長 宮川彪博士) 第1編.疫 痢 に お け る血 中 ヘ モ コル チ コ イ ドの 濃 度 につ い て 第1章 検査方法 第2章 検査料材 第3章 検 査成 績 1.疫 痢年令健康児における成績 II.疫 痢 患児 に お け る成 績 a)疫 痢生存例について i)ホ ル モ ン剤 を使 用 しな い群 ii)ホ ルモ ン剤 を使 用 した群 b)疫 痢死亡例について c)疫 痢 の検 査成 績 に つ い て の検 討 55 III.疫 痢 年 令 小 児 赤 痢 に お け る成 績 第4章 考按並に総括 第 五編.疫 痢における好酸球試験について 第1章 検 査 方法 第2章 検 査材 料 第3章 検 査成 績 I.疫 痢 における末梢血液中好酸球数の消長に 就いて II.疫 痢における好酸球試験について III.赤 痢 に お け る好 酸球 試 験 に つ い て IV.疫 痢 年 令健 康 児 に お け る 好 酸 球 試 験 に つ い V.疫 痢,赤 痢健康児における成績の比較 第4章 総括並びに考按 第5章 いわゆる疫痢が大部分赤痢菌の感染により限ら れ た年 令 層 に好 発 す る事 は古 く よ り知 られ た 事 実 であるがその本態発生機転についてはまだ不明の 事 が 多 く諸 家 の 間 に意見 の 一 致 を見 る に至 っ てい な い.病 理 解 剖学 的 に は諏 訪1)の 詳 細 な研 究 が あ り血管攣縮 を基底 とす る一連 の生体反応 であ る事 は漸 く一般 の認む る所 となつた. 一方 ,近 年 感 染 時 の病 態生 理 に関 す る研 究 が盛 とな り,疫 痢 にお い て もそ の生 化 学 的 研 究 につ い て多 くの報 告 が な され て い る.私 は主 として生体 側 の下 垂 体 一副 腎 皮 質 系 の機 能 に関 連 して2,3 の検査 を行 つて知見 を得た ので報告す る。 第1編 疫 痢 に お け る血 中 ヘ モ コル チ コイ ドの 濃度について 第1章 検査方法 副腎皮質系機能検査 としてはスクリーニングテ ス トと して はエ ピネ フ リン又 はACTHを 用いる 好酸i球反応(Thorn)2)を 始 めRcb工nson-Kep Power2)の 水試験等があり,又 負荷試験 としては 24時間絶食後血糖値測定法 インシュ リン耐容試 験,Cutler-Power-Wilder試 験等があり 他生化学的方法 として血清,尿 中の17一 ハ イ ドロ コル チ コ イ ド測 定 或 は 尿 中17一 ケ トス テ ロ イ ドの 測 定 等 が 挙 げ られ る.そ の 中エ ピ ネ フ リン試 験 は そ の後 の研 究 に よ つ て否 定 的 な老 え を持 つ 人 が 多 く現在殆 ど行 われていない.次 に負荷試験である が私の場合対象が幼小児であるので行い難 く,又 生 化学的方法 中尿 を材料 とす るものは疫痢 特に重 症 の揚 合 は尿 の 完全 な採 取 が 不 可能 で あ るの で, 私 は静 脈 血 中 のヘ モ コ ル チ コ イ ドを測 定 し皮 質 系 ホル モ ンの代 謝 の 一端 を うかが い 且 つACTH筋 注 に依 る好 酸 球 試 験 に よ っ て皮 質 の 予備 能 を検 す る2つ の方 法 を採 用 した. ヘ モ コル チ コ イ ドの代 謝 状 態 を知 る には 動 脈 及 び静脈血 中の濃度 を測定 す る必要が あ る が 疫痢

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昭 和34年 9月 20日 519

疫痢における副腎皮質機能 に関する研究

指導日本医大教授

元駒込病院長内山圭梧博士

東京都立駒込病院(院 長 宮川彪博士)

高 田 同

目 次

緒 言

第1編.疫 痢 における血 中ヘモ コルチ コ イ ドの 濃度

につい て

第1章 検査方法

第2章 検査料材

第3章 検 査成績

1.疫 痢年令健康児 における成績

II.疫 痢 患児 における成績

a)疫 痢生存例 につ いて

i)ホ ルモ ン剤 を使用 しない群

ii)ホ ルモ ン剤 を使 用 した群

b)疫 痢死亡例 について

c)疫 痢 の検 査成績 についての検討 55

III.疫 痢年令小児赤痢 における成績

第4章 考按並 に総括

第 五編.疫 痢 における好酸球試 験について

第1章 検査 方法

第2章 検 査材料

第3章 検 査成績

I.疫 痢 に お け る末梢血液 中好酸球数 の消長 に

就 いて

II.疫 痢 における好酸球試 験について

III.赤痢 における好 酸球試 験について

IV.疫 痢 年令健 康児 に お け る好酸球試 験につい

V.疫 痢,赤 痢健康児におけ る成績の比較

第4章 総括 並びに考按

第5章 結 論

文 献

緒 言

い わ ゆ る疫痢 が 大 部 分 赤 痢 菌 の感 染 に よ り限 ら

れ た年 令 層 に好 発 す る事 は古 く よ り知 られ た 事 実

で あ るが そ の本 態 発 生機 転 に つ い て は まだ 不 明 の

事が多 く諸家の間に意見の一致を見 るに至ってい

ない.病 理解剖学的には諏訪1)の 詳細な研究があ

り血管攣縮 を基底 とす る一連の生体反応である事

は漸 く一般の認むる所 となつた.

一方 ,近 年感染時の病態生理に関する研究が盛

となり,疫 痢 においてもその生化学的研究につい

て多 くの報告がなされている.私 は主 として生体

側の下垂体一副腎皮質系の機能に関連 して2,3

の検査 を行 つて知見 を得たので報告する。

第1編 疫痢における血中ヘモコルチコイ ドの

濃度について

第1章 検査方法

副腎皮質系機能検査 としてはスクリーニングテ

ス トとしてはエピネフリン又はACTHを 用いる

好酸i球反応(Thorn)2)を 始めRcb工nson-Kepler-

Power2)の 水試験等があり,又 負荷試験 としては

24時間絶食後血糖値測定法 インシュ リン耐容試

験,Cutler-Power-Wilder試 験等があり,そ の

他生化学的方法 として血清,尿 中の17一ハイドロ

コルチコイド測定或は尿中17一ケ トステロイドの

測定等が挙げられる.そ の中エピネフリン試験は

その後の研究によつて否定的な老えを持つ人が多

く現在殆 ど行われていない.次 に負荷試験である

が私の場合対象が幼小児であるので行い難 く,又

生化学的方法中尿 を材料 とす るものは疫痢特に重

症の揚合は尿の完全な採取が不可能であるので,

私は静脈血中のヘモコルチコイドを測定 し皮質系

ホルモンの代謝の一端 をうかがい且つACTH筋

注に依 る好酸球試験によって皮質の予備能 を検す

る2つ の方法を採用 した.

ヘモコルチコイドの代謝状態 を知るには動脈及

び静脈血中の濃度 を測定する必要が あ るが 疫痢

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520 日本伝染病学会雑 誌 第33巻 第6号

重症の動脈血 を採取す る事は至難であるので専 ら

静脈血により行つた.採 血は原則 として肘静脈よ

り行い一部頚静脈より行 つた.採 血量は正確度を

増すためなるべ く大量になるよう努め全血にして

10~15ccと し凝固阻止剤 として結晶蔭酸カリを用

いた.測 定方法は直接慈大中尾教接の指導 をうけ

慈大薬理法3)によった.

第2章 検査材料

検査材料は昭和28,29,30年 度に駒込病院に入

院 した臨床的に定型的な疫痢 と診断されたもの23

例で年令は2才 一10才,性 別は男10例,女13例 で

内死亡例は8例 である.対 照 として同年令層の赤

痢5例 及び健康児5例 を撰んだ.

第3章 検査成績

1.疫 痢年令健康児におけ る検査成績

上記測定方法に依る血中ヘモコルチコイ ド正常

値については慈大中尾3)等 は成人において0.14-

0.22mg/dlで あると述べているが,小 児の正常値

についてはまだ詳細な報告がない.私 が健康児5

例(内4例 は東京都片瀬保育所の小児,1例 は保

菌老 として送院されたもので終始無症歌であつた

もの)に ついて測定 した結果は第1表 の如 くであ

る.

第1表.疫 痢 年 令健 康 児 の 血 中

Chemocorticoid濃 度

す な わ ち 小 数 例 な が ら最 高0.58mg/dl(以 下mg/dl

略)最 低0.12,平 均 値0.26で か な り の 個 人 差 が 認

め ら れ た.

ち な み に 文 献 に 見 ら れ る血 清 中 の コ ル チ コ イ ド

の 値 に っ い て はE. Diczfalusy4)の 最 近 の 総 説

に よ れ ば,Bliss5)等 の0.6~2.5,平 均1.33,

Sweat等6)の0.78-1.28, 平 均1.1, Silber及 び

Porter7)の0.6~2.5平 均1.33, Bondy及 び

Altrock8)の0.3~1.3平 均0.73, Klein, 等9)10)

の0-2.7平 均1.3, Kassenaar等11)の0.68±

0.15,Gemzell等12)の0.66±0.095, Robinson

等13)の0.4-2.5平 均1.2, Bayliss及 びStei-

nbeck14)の0.3-1.6平 均0.95等 が 見 ら れ 測 定

方 法 も違 うが そ れ ぞ れ 個 人差 の 巾の 広 い 事 を物 語

つ てい る.

II疫 痢 にお け る検 査 成 績

a)生 存 例 につ い て

i)ホ ル モ ン剤 を使 用 しない 群

疫 痢 生 存 例 にお い て治 療 に 副 腎 皮 質 ホル モ ン剤

(以 下 ホ剤 と略)を 使 用 しなか つ た例 に つい て測 定

した も の は9例 で,そ の うち重 症 に して静 脈 切 開

点 滴 輸 液 を施 行 した もの5例 でい ず れ も入 院 迄 大

量 の輸 液,抗 生 物 質 投 与 等 の治 療 を うけ て い な い

もの で あ る.そ の成 績 は第2表 の如 くで あ る.な

お第1回 の採 血 は 全 例治 療 開始 直 前 に行 つ た.

入 院 時 の濃 度 は,入 院 まで の経 過 時 間 に従 つ て

12時 間 以 内,12~24,24時 間 以 上 に分 け て 見 る と

12時 間 以 内(E3,E6)で は0.24~0.60,平

均 0.42

12-24時 (E1, E5, E8)で は0.19~0.44,

平 均 0.33

24時 間以 上(E2, E4, E7,E9)で は

0.12-0.18, 平均0.14

で 平均 値 の上 よ り見 れ ば発 病 後12時 間以 内 に 検査

した例 で は 高 く時 間 を経 過 す るに従 つ て低 下 す る

の が 見 られ る.

ii)ホ 剤 を使 用 した群

治 療 に ホ剤 を使 用 した 群 は 第3表 の 如 く6例

で,ホ 剤 と してはACE,ア ドレ ック ス,コ ー チ

ゾ ン等 を用 い た.※ は 直接 静 脈 よ りの採 血 が 困 難

で カ テー テル挿 入 時 に カ テー テル を血液 で 洗 源 後

カ テー テル よ り採 血 した も ので あ る.治 療 中相 当

高 濃 度 を示 してい る.

iii)死 亡群

死 亡 例 に つ い て検 査 した も のは8例 で第4表 の

如 くホ剤 を使 用 した3例(E18,E19,E20)を

除 き入 院 時,治 療 中共 に生 存 例 に比 して濃 度低 下

の傾 向が 見 られ た.

c)疫 痢 検 査 成績 の検 討

i)入 院 時(治 療 開始 前)の 濃 度

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昭和34年9月20日 521

第2表.ホ 剤を使用 しない群(生 存例)

以上疫痢 に於ける結果 を見るに治療開始直前に

採血測定 出来たもの23例で発病 よりの経過時間は

最短8時 間,最 も長いもの48時間である.こ れを

経過時聞の順に整理すれば第5,6表 の如 くにな

る.今 発病 よ り12時 間 迄,12~24時 間,24時 間 以

上 の3群 に 分 け て観 察 して み る と

1)0-12時 間 群

この群 は4例 で最 高0.70,最 低0-24,平 均 値0.

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524 日本伝染病学 会雜誌 第33巻 第6号

第5表.入 院 時 濃 度 (1)

* 静 脈 カ テ ー テ ル に よ り採 血

46で正常平均値 と比較 して濃度上昇 が認 められ

る.

2)12-24時 間群

これに属するものは13例 で最高0.55-最 低0.05

平均0.23で 第1群 に比 して著明に低下 し正常平均

に比較 しても低下 を示 している.こ の中生存例7

例の平均値は0.30,死 亡例6例 の平均値は0.16で

特 に死亡例の濃度低下が認められる.

3)24時 間以上群

この群は6例 で最高0.33-最 低0.11平 均値0.19

で前2群 及び正常平均値に比 して著 しい低下が見

られる.

これ を要す るに発病の初期には生体反応の一環

として下垂体副腎皮質系の機能が各個体の能力に

応 じて充進す るもの と思われ時間の経過及び病機

の推移 と共にヘモコルチコイドまの需給関係に失

調 をきた し濃度低下 を来す ものと老えられる.

第6表.入 院時濃度(2)

ii)治 療 中 の濃 度

ホ 剤 を使 用 しな か つ た もの に つ い て入 院 時 と治

療 中(治 療 開始 後3日 以 内 で全 例抗 生 剤 抗 与 中 の

もの で,そ の 中E2,E5,E17,E21,E23の

5例 は 点滴 実 施 中)に 検 査 した も のは11例 で,第

7表 及 び第8表 の如 くで,大 部 分 の も のが 体 温,

脈 搏,便 等 に なん らか の症 歌 を有 し,流 動 食 を と

つ て い る もの で あ る.こ れ を見 る と明 らか に 上 昇

した もの3例(E14, E3, E1)で 他 はい ず れ

も低下 す るか(E6, E20, E18, E12, E21)

或い は 殆 ど不 変(E17, E13, E19)で あ つた.

平 均 値 は 入 院 時0.26,治 療 中0.20で 減 少 傾 向が 見

られ た.こ れ を更 に発 病 よ り検 査 迄 の時 間 経 過 に

区分 して観 察 す る と第9表 の如 く入 院 時 濃 度 は0.

37,0.30,0.16と 低 下 傾 向 が見 られ治 療 中濃 度 も

0.20,-0.17と 低 下 して い るが,24-48時 間群 で

は治 療 中の もの の方 が濃 度 が 高 か つ た.

iii)退 院 時 の濃 度

病 状 が 治 癒 し略 と回 復 した も の に っい て 退 院 時

に測 定 した もの は ホ剤 を使 用 しなか つ た も の8

例,ホ 剤 を使 用 した もの6例 でそ の成 績 は第10表

の如 くで ホ剤 を使 用 しな か つ た群 で は0.11-0.53

平 均0.28,ホ 剤 を使 用 した 群 で は0.13-0、35,平

均0.27で そ れ ぞ れ個 人差 は認 め られ るが 平 均 値 と

して み れ ば両 群 間 に殆 ど差 が 見 られず,正 常平 均

値 に近 い値 を示 した.

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昭 和34年9月20日525

第7表.治 療 中 濃 度

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526 日本伝 染病学 会雑誌 第33巻 第6号

第8表.治 療 中濃度(2)

第9表.治 療 中濃 度 と入 院時濃 度

皿 疫痢年令小児赤痢における成績

疫痢年令小児赤痢における検査成績は5例 で10

表の如 くである.例 数少 く入院病 日が疫痢の場合

とずれが あるので疫痢の例 と直 ちに対比す る事は

困難であるが,7病 日入院の3を 除いて平均値 を

第10表.退 院 時 濃 度

ホ剤を使 用 しなかつた群

ホ 剤 使 用 群

見 る と入 院 時 は0.13-0.52,平 均0.31,退 院 時

0.15-0.30,平 均0.24で 大 体疫 痢 と同 様 の 消 長 を

とつ た.

第4章 考按 並 び に総 括

血 液 中 のCorticoidの 定 量 は まだ 完 成 の 域 に

は達 して居 ら ず,静 脈 血 中 の ヘ モ コル チ コ イ ドの

測 定値 のみ を以 て 副 腎皮 質 の機 能 の す べ て を論 ず

る事 は 困 難 で あ るが 私 が 慈 大 薬 理 法 を以 て健 康 児

及 び疫 痢 赤痢 の 患 児 につ き測 定 した 結 果 を総 括 す

れ ば,

健 康 児5例 に おい て は0.12-0.58平 均0.26で 相

当 な 巾 の個 人 差 を認 め た.

疫 痢 患児 入 院 時 に おい て は 発病 よ り12時 間 以 内

に検 査 した4例 で は ヘ モ コ ル チ コ イ ドの 濃 度 上 昇

(0.24-0.70,平 均0.46)を 認 め た.こ れ は 急 性 の

赤痢 菌 感 染 症 に お い て,侵 襲 に対 す る生 体 反応 の

一環 と して副 腎皮 質 ホル モ ンの分 泌 増 加 が起 る も

の と考 え られSelye15)の 警 告 反 応 に おけ る コ ル チ

コ イ ド或 い は17-K.S.の 尿 中排 泄 増 加,桑 畑16)

の 報 告 した急 激 体 質症 状 の初 期 に おけ る17-K.S.

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昭和34年9月20日 527

第11表.赤 痢

の排泄量の増加 とも一致するもの と思われ,初 期

におけ る好酸球の消失,或 いは九大中尾17)の認め

た疫痢急性屍の皮質肥大等の所見 と合致するもの

と思われる.

次に発病 より12-24時 間を経過 し病勢の悪化 し

た13例 では0,05-0.55,平 均0.23で 前群に比 して

ヘモコルチコイドの濃度が著明に低下 しているの

をみた.こ れは疫痢極期に見 られる血液電解質の

異常すなわち清水18)その他多数の人の認めたNa

濃度の低下或いはKの 変動,ま た丹治19)の報告 し

た17-K.S排 泄値の減少等の副腎皮質機能低下の

徴候 と一致するもの と思う.同 様に極期における

血中ヘモコルチコイドの濃度低下の所見 は 遠城

寺,小 田20)等も自家中毒症で認めている.

次に死亡例においては入院時及び治療中共に生

存例に比 して著明に低い値 を示 した.疫 痢屍の副

腎皮質については中尾17),古 賀,長 谷川21),星,

石村22)36)浜島等の報告があるが,い ずれも著明な

変化 を認め副腎皮質の機能不全の存在 を示咬 して

いる.

抗生剤或いは輸液による治療中ではホ剤使用群

を除 き入院時 より低下の傾向が見 られたが,同 一

経過時間に処置で入院 したものの治療開始時の濃

度 より高かつた.

次に病歌回復 し発病から3週 間内外 を経過 した

ものにおいてはホ剤使用群 とホ剤 を使用 しなかつ

た群 との間にほとんど差が認め られず,大 体正常

値 と思われる濃度であつた.

赤痢にっいては少数例ながら大体疫痢 と同様な

傾向が見 られた.

第II編 疫痢における好酸球試験について

第1章 検査方法

1.好 酸球の算定

好酸球数の算定については一般に直接法による

べきもの とされ種々の稀釈液,計 算盤等が報告 さ

れている.私 もHinkleman, Dunger等 の稀釈

液 を使用 して測定 してみたが夜問時の測定におい

ては紛 らわ しい事 もあり且つ検査結果 を保存する

事が不可能であるため,ま た好酸球以外の変動 を

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528 日本伝染病学会雑誌 第33巻 第6号

見 る場合の不都合 もあるので間接法によつて行つ

た.

メランジェールは同一個人については同一のも

のを用い,白 血球数の算定にはThomaの 計算

盤 を使用2回 数えて平均値 を出し白血球総数 を出

した。

次に塗抹標本であるが,好 酸球の如 き低率成分

の絶対数 を出すのには非常に誤差が大 きいとされ

ている.Bonner24)に よれば白血球800個 以上に

つき算 えねばならない といわれ,松 岡25)等は好酸

球 を86個迄算える方法 を推奨 している.私 は同一

人について2枚 の塗抹標本 を作 り,各1枚 につき

自血球総数 の1/10の白血球 を算 えその中の 好酸球

を合計 し(す なわち総白血球数の1/5一実数にてし

1000-5000個)そ れを5倍 して好酸球数の絶対数

とした.

2.検 査の時刻及び季節

好酸球数は健康人においてもかなりの日内変動

があり,Halberg他26),田 多井27)他等 によれば,

夜 闇時に好酸球のレベルが高 く,朝 又は書に最低

とな り午後 より増加 を始め夜間の最高 レベに達 る

といわれる.Thornの 原法2)では検査の時刻 を午

前8時 及び正午 としているが,検 査対象が心身共

に安静 を要求す る事のほとんど不可能な幼小児で

あるため,全 例にっき検査の時刻 を最 も心身の動

揺 の少いと思われる午前3時 及び午前7時 とし,

そ の間は出来るだけ安静 を保たせ るよう努めた.

従つて日内変動による誤差の介入は微かであると

考 える.

次に好酸球は季節によっても変動す るといわれ

本邦では渡辺28)等によれば1~2月 と8月 を谷 と

し,4~5月,10~11月 を山とす る2週 期型の変

動 を示す といわれる.好 酸球試験による好酸球減

少率そのもの も鳥居等29)によれば冬>秋>梅 雨>

夏の順に小さい といわれる.著 者が検査 を行つた

のは昭和31年9月 中旬より32年3月 上旬にかけて

であり,或 程度季節的誤差が介入 したかとも思わ

れ るが これは止む を得ぬ所であり,検 査症例が第

12表の如 く赤痢 と疫痢の間に極端な月別分散度の

偏 りがないため大 した問題にならないと考 える.

第12表.月 別 検 査 例 数

3.ACTH

ACTHはArmour製 の もの を使用 し0.5

mg/kgを 響筋内に注射 した,こ れも静脈内に点滴注

入する方がよい といわれるが幼少児では行い難い

ので全例筋注に一定 した。

第2章 検査材料

1)疫 痢

昭和31年9月 中旬より32年3月 上旬にかけて駒

込病院に入院せ る診断確実な疫痢患児12例 を選ん

だ.全 例赤痢菌陽性で男児7例 女児5例 年令範囲

1-7才 である.そ の中重症に して静脈内点滴 注

入療法 を施行 したもの5例 である.

2)赤 痢

上記期間中に入院 した走痢患児中特に下痢症状

強 く入院前後に1日 約20回 以上の下痢 を見,し か

も全 く疫痢症状 を呈 しなかつた典型的赤痢患児10

例 を選んだ.年 令範囲は3-8才 でその中8例 が

赤痢菌陽性であつた.

3)健 康児

上記期間中に2-6才 の健康児6例 につき上 と

全 く同一の条件下で検査 を行つた.こ こで健康児

とい うのは赤痢疫痢等の退院時の幼小児 をさすの

でなく,全 く健康でなん らの自他覚症状 を示 して

いないもので,た とえば同一家族内に赤痢が多発

したため,わ ざわざ頼 まれて入院 をさした少児,

或いは集団検便の結果赤痢菌陽性 として送院 され

たが,入 院後は終始無症状且つ菌 も陰性で,健 康

児 と診定 したもの等である.

第3章 検査成績

1.疫 痢末梢血液 中好酸球数の消長

疫痢6例(内 死亡例2例)に ついて毎 日血算 を

行い好酸球数の消長 を追求 し好酸球試験の指標 と

なる好酸球の病 日的変動がいかなる型 をとるかを

検 してテストを行 う時機について検討 を加 えた.

その成績は第12,13,14,15, 16, 17,18表 の如

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昭和34年9月20日 529

第13表.症 例1. 3才 ♀(2a)疫 痢切開例 くである.

第13表 症例1に おいては

病歴:31年5月4日 朝発熱,以 後2-3回 の下

痢(便 性不明),午 後1時 半頃痙攣 以後意識7團独午

後2時 入院.

入院時所見:体 温39.2℃,脈 搏145,呼 吸数43,

意識全 くなく昏睡状態,腹 壁陥没軟,肝1横 指,

チアノーゼ(-),四 肢蕨冷(-),入 院後膿粘血便

(5-6)×.

治療:入 院後直ちに静脈内点滴輸液 を行い(約

1000cc)軽 快,第20病 日に退院.赤 痢症状の再発

及び合併症な し。

初期には好酸球は全 く消失 していたが,第3病

日に至 りわずかながら流血中に現われその後急速

に増加 し第7病 日に最高値 をとり第 皿病週後半に

至れば略 と正常値な り変動範囲も少 く第 皿病週に

至 り全 く正常値に回復 している.

第14表 症例2:

病歴:31年2月25日 夜発熱,26日 朝 より下痢頻

回 とな り午後8時 体温40℃,午 後 より昏迷状 とな

り同日午後10時 入院.

入院時所見:顔 色蒼白,無 欲状,意識昏迷状,脈

搏ほ とんどふれず,体 温40.2℃,呼 吸不整,心 音

第14表.症 例2. 9才 ♀(-)

疫痢切開例

低,腹 壁頭陥没,腸 索(±),グ ー レン(+),チ

アノーゼ(+),四 肢籔冷(+).

治療:入 院後直ちに静脈内点滴輸液療法 を行い

(2000cc)そ の後経 口的にCMを 投与,21病 日で

退院,赤 痢症状の再発及び合併症なし.

この例でも第6病 日に流血中に現われ始めた好

酸球は第8病 日附近において最大値 となり第 五病

週の終 りに至 り正常値に回復 している.

第15表 症例3

病歴:31年3月6日 書寝より覚めて午後3時 嘔

吐2-3回,夜 発熱39.3℃,下 痢2-3回,7日

朝嘔吐1回,下 痢2-3回,午 前10時痙攣,午 前

11時入院.

入院時所見:強 直性痙攣,蒼 白,チ アノーゼ

(+),脈 搏ふれず,体温39.4℃,四 肢けつ冷(+),

下肢腱反射消失.

治療:直 ちに静脈内点滴輸液施行(1500cc),こ

の例では第10病 日以後血算 を行つていないが,第

2病 日まで消失 していた好酸球は第3病 日に至 り

は じめて流血中に出現 し前例 と同様第7,8病 日

附近で最大値 を示 した。なおこの例では好酸球数

が1500個 以上の高値 を示 したが検便の結果姻虫卵

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530 日本伝染病学 会雑誌 第33巷 第6号

第15表.症 例3. 2才 ♀

(2b)疫 痢切開例

を認めた.

第16表 症例4

病歴:31年5月10日 夕方 より腹痛,下 痢数回次

第に粘血便 となり体温40℃,軽 度 の痙攣あり同日

午後9時30分 入院

入院時所見:顔 貌苦悶状,脈 搏120,緊 張良,

体温39.6℃,四 肢けつ冷なし.

第16表.症 例4. 5才 ♂(2b)疫 痢

治療i:直 ちに20%葡 萄糖液40cc静 注,経 口的に

CMを 与えた所,入 院後2時 間にして痙攣発作 あ

り意識溜濁,脈 搏微弱 となつたためCM静 注及び

皮下輸液,ウ インタ ミン筋注等 を行 い軽快 した

が,第7病 日に至 り赤痢症状再発ありTMを 経口

投与,21病 日退院.

この例では第7病 日附近で発熱,排 便回数6

回,排 菌(+)の 赤痢症状の再発 をみ好酸球数が

正常値に回復す るのが逞れて第 皿病辺の終 りとな

り且っ第 五病週で2峰 性の山を示 した.

第17表 症例5

昭和31年5月15日 午前5時 高熱に気がつ く.便

通1回 あり軟便で着衣を汚 した.午 前8時CM2

錠投与.そ の後腹痛 を訴え10時 に嘔吐,11時 に痙

攣,以 後昏睡状 となり午後2時10分 入院.

第17表.症 例5.

,3才 疫 痢(菌 不 明)

入院時は体温39.7℃,脈 搏ふれず,不 整呼吸あ

り,昏 睡状,股 動脈音(+),瞳 孔散大す.直 ちに

静脈内点滴 を行つたが入院後4時 間に して呼吸停

止にて死亡.

なお この例はちようど1年 前の昭和30年5月17

日に軽症疫痢で入院 した例である.今 回は発病後

14時間以内に死亡 した急激 な例であるが最も重篤

な入院後数時間にわたって少数ながら好酸球の存

在 した事は興味ある事である.

第18表 症例6

昭和31年6月9日 午前9時 不活発 となり熱のあ

るのに気付 く.午 後9時 体温、39℃,潅腸後下痢便

3回,翌10日 午前4時 痙攣,5時 体温40℃,意 識

昏迷状 となり午前10時30分 入院.

入院時体温39.1℃,脈 搏殆 どふれず,昏迷状態,

四肢けつ冷あり直ちに静脈内点滴輸液 を施行 した

が次第に昏睡に陥 り,痙 攣及び不整呼吸出現,体

温 も下降せず6月12日 午後2時 半死亡.こ の例に

でも症例5の 様 にわずかながら好酸球が認められ

た.

以上疫痢 の場合には初期 に好酸球は ほ とん ど

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昭和34年9月20日 53一

第18表.症 例6.3才 疫 痢(菌 陰性)

消失 し第3~4病 日に至つて初めて流血中に出現

し合併症及び赤痢症状再発のない限 り第1病 週終

りか第 ∬病週初めに最大値 をとり第 五病週終 りに

至ればほとん ど正常値 となつている の が見 られ

た.死 亡例2例 で重篤な症状時にわずかながら好

酸球が認められた事は第1編 に述べた死亡例のヘ

モコルチコイド濃度の低い事 と考え合せると興味

深い.

赤痢 については典型的に経過 した1例 を観察 し

た結果 を述べる(第19表),す なわち赤痢でも第 一

病週終 りに最大値 をとり第II病週終 り或は第 皿病

週には翫に正常値に復 している.

以上疫痢赤痢のいずれにおいても第III-IV病 週

に至れば好酸球数はその個体本来の正常値に回復

しているもの と考 えられる.清 水18)その他の報告

したように血清Naの 濃渡が第皿病週頃には正常

値 となつている事,第1編 に述べたようにヘモコ

ルチコイドの濃度 も略 ヒ正常値になつている事等

よ り副 腎 皮 質 機 能 も略 ヒ各 個 人 の正 常 状態 に 回復

して い る もの と考 え られ る.

丑 疫 痢 に お け る好 酸 球 試 験 に つ い て

疫 痢 のI,II,III~IV病 週 に おい て試 験 を行 つ

た結 果 は第19表 の如 くで あ る.す な わ ち好 酸 球 が

急 速 に最 大 値 に増 加 しつyあ る時 期 の第1病 週 終

り頃 にお け る成 績 は

+16.7%~-66.7%で 平 均 値-34.8%

-15%≧m≧-54 .6%(α=0.05)

好 酸 球 数 が 最 大 値 よ り正 常 値 へ と移 行 す る第 豆

病 週 で は

+34.8%~-33.6%平 均 値+5.0%

+19.7%≧m≧-54.6%(α=0.05)

で第1病 週 と比較 して 一層 不 全 の 度 を 増 し て い

る.

次 に好 酸 球 数 が 正 常値 に 回復 して い る と思 わ れ

る第III~IV病 週 で は

+52.6~-45.6%平 均値-1.0%

+41.4%≧rn≧-43.3%(α=0.05)

で第1病 週 よ り一 層 不 全 型 を示 し平 均 と して は第

丑病 週 のそ れ とほ とん ど同 値 で あ る.な お2-3

例 の 外 を除 き0%の 附 近 に集 積 す る よ うな傾 向 を

示 した.

以 上 重症 例5例,軽 症 例7例 に っ い て の結 果 よ

り見 て第II病 週 及 び 第III~IV病 週 の成 績 か平 均 値

に於 て ほ とん ど同値 で あ り,共 に第1病 週 のそ れ

よ り一層 不 全 の側 に傾 い て い る事.次 に軽 症 例 が

必 ず しも重症 例 よ り一層 正 常 型 の 反応 を示 す とは

限 らない 事(例 えばE28,E29,E31,E33,E

35)等 よ り第III~IV病 週 の検 査 結 果 が 初 期 侵 襲 の

結 果 で あ る とは 考 え難 い.初 期 侵 襲 の 結 果 が 一層

到然 と残 つ て い る と考 え られ る第1病 週 後 半 の検

第19表.3才 赤 痢(6)

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532 日本伝染病学会雑誌 第33巻 第6号

第20表.疫 痢 に お け る

第21表.赤 痢 に 於 け る

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昭和34年9月20日533

Thornテ ス ト

Thornテ ス ト

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534 日本伝染病学会雑誌 第33巻 第6号

査結果が却 つて第II,III~IV病 週のそれより正常

型に近い反応 を示 しているのはこの時期が好酸球

の激増 しつつある時期であり定常歌態 を保つてい

る好酸球 と比較 してACTHに 対す る感受性の強

いものが多 く含 まれている為めか とも考えられる

が,適 切な意味づけをな し得ない.

自家中毒症の1例 について第IV病 週 においで測

定 した結果は-24.3%で かなりの不全型反応 を示

した.

III赤 痢におけ る好酸球試験にっいて.

赤痢10例 におけ る検査成績は第21表 の如 く疫痢

の揚合 と全 く同様に第1病 週後半のみが第 五病週

及び第III~IV病週に比較 してより一層正常型の反

応 を示 し,第 丑病週及び第III~IV病週においては

平均値 として大体同程度の反応性を示 した.各 痛

週 ご とに これ を見 る と,

第1病 週-52.0%~-100%平 均 値-74.8%

-55 .8%≧m≧-93.8%(α=0.05)

で 全 例 正 常 型 の反 応 を示 した.

第 丑病 週-4.1%~-73.6%平 均 値-42.3%

-22 .0%≧m≧-62.6%(α=0.05)

第 皿 一W病 週 十25.7%~-89.2%

平 均 値 一42.3%

-18 .4%≧m≧-65.8%(α=0.05)

2,3の 例 外 を除 き第III-IV病 週 で は-50%の

附近 に集 積 す る傾 向 が見 られ た.

IV疫 痢 年 令 健 康 児 の好 酸 球 試 験 にっ い て

疫 痢 年 令 の健 康 児5例 に つ い て上 記 と全 く同 一

の条 件 の下 で検 査 を行 つ た結 果 は第22表 の如 くで

あ る.

第22表.健 康 児

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昭 和34年6月20目 535

すなわち,+20.4%~-63.4%平 均値-4.9%

で外見上全 く健康 と思われる小児についても検査

の結果副腎皮質予備能力にはかなりの巾の個人差

が存する事 を示 している.

V疫 痢,赤 痢,健 康児におけ る成績の比較

以上の疫痢赤痢の結果を病 日ごとに整理 し図示

すれば第23表 の如 くなる.右 端は健康児の結果 を

示 し下のグラフは末梢血液中の好酸球数の消長 を

示 したシェーマである.こ れより全経過 を通 じて

赤痢,疫 痢共にかな りの分散 を示 し健康児 も相当

な巾の個人差 を示 している.し かし全体的に疫痢

は赤痢に比 して一層不全型の反応 を示すものの多

い事カミ到る.

第23表.疫 痢,赤 痢,健 康 児 に お け る成 績 の比 較

次 にこれを各病週別に整理 し図示すれば第24,

25,26表 の如 くなる.ま ず第1病 週では赤痢6例

においては先に述べた如 く全例50%以 上の妊酸球

第24表,1病 週 第25表.豆 病 週 第26表.III~IV

病週RE健

減少 を示 して正常型であり平均値は-74.8%で あ

る.一 方疫痢11例 では赤痢に比 して不全型 を示す

もの多 く平均値一34.8%で 両者の間には平均値 と

して約40%の 差が見 られた.な お両者の問には推

計学的にもα=0.01に おいて有意の差が 見 られ

た.

第E病 週では赤痢8例 では第1病 週 よりも不全

側 に傾 き且っかな りの分散 を示 したが,全 例減少

の反応 を示 し平均値は-42.3%で ある。疫痢8例

についても第 一病週 より一層不全側 に傾 き,か な

りの分散 を示 し平均値は0.5%で,こ ~でも第1

病辺 と同様に両者の間には平均値 として約40%の

差が見 られ推計学的にもα=0.01に おいて有意の

差が見 られた.

最後に第 皿~y病 週 では赤痢は9例 中増加 をし

め したのは1例 のみで他はいずれも減少を示 し大

体一50%附 近に集積するような傾向が見 られた.

平均値は第 皿病週 のそれ とほとんど同じく一42.1

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536 日本伝染病学 会雑誌 第33巻 第6号

第 27 表

第 28 表

%で あつた.一 方疫痢11例 においては,や はり

2,3の 例外 を除き0%附 近に集積す る傾向がみ

られ平均値は-1.0%で 第II病 週のそれとほとん

ど同値である.両 者の問にはこゝでも又約40%の

平均値差 を認め,推 計学的にも前 と同様にα=

0.01に おいて有意の差 を認めた.

次に疫痢年令健康児5例 にっいては十20.4%~

-63 .4%で 巾広 く分散 し平均値-14.9%で 赤痢疫

痢の間に広 くまたがつているように思われる.

第4章 総括並びに考按

本編においてはまず疫痢,赤 痢 における末梢血

液中の好酸球数の消長 を追求 して,疫 痢死亡例 を

除きほ とんど例外なく発病初期には好酸球数の消

失を見た。死亡例ではわずかなが ら好酸球の存在

を認めた.こ れ らの事は第1編 で述べた初期にお

けるコルチコイド濃度の上昇又は死亡例における

濃度低下等の点より考 うれば甚だ合理的と思われ

を所見である.

初期に消失或は激減 した好酸球は第3,4病 日

頃に至 り初めて流血中に出現 し始め,そ の後急速

に増加 し第7,8病 日頃に至つて最大値 をとり絶

対数に して正常のレベルを遙かに上廻 るようにな

る.な おこの時期には淋巴球の増加 も略 こ好酸球

と平行 して著明であつた.

次いで合併症 とか,赤 痢症状再発 を伴わない場

合には第II病 週半ばより好酸球は減少 を始め第II

病週の終 り又は第III病週の始めに至れば略 こ正常

のレベルに回復 しているものを見た.第III病 週終

末或は第IV病 週 では好酸球数は全 く正常の レベル

に回復 しているものと思われ,生 化学的所見或い

はその他の一般状態等 より老 えても罹患前の体位

にほ とんど完全に復帰 しているものと考 え られ

る.

次に疫痢12例,赤 痢10例,健 康児5例 につき好

酸琳試験を各病週 においては実施 し比較検討 を行

つた.そ の結果,第I,II,III~IV病 週 を通 じて

疫痢 と赤痢 との間には平均値 として略 こ40%に 差

が見 られ推計学的にも有意の差が認められた.又,

赤痢疫痢共に第I病 週のみが他病辺より不全の度

が少 く,第II,III-IV病 週では平均値 としては殆

ど同値 を示 した'ま た第III-IV病 週では疫痢は略

之±0%附 近,赤 痢は-50%附 近に集積す る傾向

を認めた.次 に健康児についての結果は赤痢疫痢

の検査結果の間にまたがつて分散する傾向を示 し

疫痢型(不 全)か ら赤痢型への連続的推移を示唆

す るように思われた.

赤痢疫痢の好酸球試験にっいては遠城寺,石 井30)等,勝又,時 田31)等,或 いは石村32)等の報告があ

り,遠 城寺はアドレナリンを使用 し赤痢及び疫痢

様急激症状 を伴つた患児群についてテス トを行い

腸症状が同程度のものでは急激症状 を伴つた群の

方に不全型が多い と報 じているが,彼 等はその不

全性 を初期症状の結果 と見ている.勝 又,時 田等

も同様にア ドレナリンを用いて疫痢赤痢について

テス トを行い略 こ同様の結果 を報 じやは りその不

全性を第2次 的な結果であると報 じている.石 村

等はホルモン剤に依 る治療 と関係があると述べて

いる.し か しさきに述べたように疫痢様症状 を呈

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昭和34年9月20日 537

した患児の中でその症状の軽重度 とACTHに 対

する反応性 との間に一定 した 関係 を見出し難い

事,ま た第II,III~IV病 週において赤痢疫痢共に

却つて第1病 週 より一層不全型の反応 を示す事,

或いは健康児の中にも同程度の不全度 を示す もの

が散見 され る事等 より考 うれば,こ れ を疫痢 の2

次的な結果であるとする考 えには疑問があるとこ

ろで,む しろ年令的或いは家系的にその個体に存

在 している体質的傾向と考 えられるのが妥当であ

ろう'

以上のように疫痢の好酸球試験の結果が不全型

の反応 を示すものが多い事は,疫 痢屍の剖検に し

ばしば見 られる胸腺の肥大 と関連 して興味深い.

Fanconi32)に 依れば 出生後 リンパ系(特 に胸腺

胸腺)は 急速 に発育 し10-12才 で最高に達 し以後

18才頃迄に急速 に退縮するのに対 し副腎は誕生 と

同時に急激な退縮 を来 し3才 頃に漸 く出生時の大

いさに達 しその後は徐々に発育 して15-16才 で成

人の大いさに達する(第27表).又Rotter33)に 依

れば副腎皮質の発育についても第28表 の如 く出生

後には強い退縮が 起 り3才 頃に初 めてZ.glom

が出現 し大体成人 と同様な皮質構成 となり次第に

発育 して思春期に至 り完成すると述べている.発

育の様相か ら考えても胸腺の大いさと副腎皮質の

発育(或 いは機能)と の間には拮抗的な関係が想

像 され,胸 腺肥大 を副腎の機能低下 と見なす人 も

多い34).Selye35)は 副腎皮質発育不全のあるもの

では胸腺や淋巴組織が大 きい傾向があり,且 っ血

管系の発育不全を伴い侵襲によつて急死する傾向

があると述べている.我 国においても久保等47)は

胸腺肥大児に好酸球試験 を行つて34例 中17例 に異

常を認めている.

以上 を要約すれば疫痢様症状 を発現 した小児で

全病週 を通 じて見 られた好酸球試験の不全型反応

は初期の疫痢症状の2次 的結果であると断じ難

く,む しろ疫痢症歌 を発現 した幼小児の個体特有

の反応様式を表わすもの と老 えられる。

第6章 結 論

疫痢,赤 痢,健 康児について血中ヘモコルチコ

イド測定及び好酸球試験を行つた.

1)疫 痢に於ては血中ヘモコルチコイドは発病

初期には著 しい濃度の上昇があ り,病 機の推移 と

共に急激に下降 し回復期に徐々に正常値に達す る

ことを見た.

2)疫 痢死亡例においては生存例に比 して入院

時治療中共に一層低濃度のものが多かつた。

3)赤 痢においても大体疫痢のような経過 を取

るように思われた。

4)健 康児に於ては0.12-0.58平 均0.26で 相当

巾の広い個人差 を認めた.

5)疫 痢,赤 痢共に流血中好酸球数は第III-IV

病週には略 こ正常値に回復 している事 を認めた.

6)疫 痢,赤 痢の間には全経過 を通 じて好酸球

試験の結果著明な差(平 均値にして約40%,推 計

学的に有意)を 見,疫 痢において一層不全型の反

応 を示 した.特 に第III-IV病 週 で差が見 られた事

はその個体の体質的傾向の差 と思われる.

7)健 康児にっいては赤痢,疫 痢両者の闇に広

く分散 し両者間の連続的推定移 を思われた.

8)以 上疫痢に罹患 した幼小児には内圧的,体

質的傾向として副腎皮質系の潜在的機能不全(好

酸球増多或は色素沈着等 を伴わぬ程度の)が ある

ものと考 えられる.

文 献

1) 諏訪: 日伝誌, 27, 395 (昭32).-2) 渋 沢 訳,

G. W. Thorn: 副 腎不 全 の診 断 と治療, 53頁 (昭

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日伝誌, 30, 15 ,649 (昭31).-19) 丹 治: 日伝

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部 省科 学 研 究 費 に 依 る 疫 痢 の 本 態 及 び 治 療 に 関 す

る 研 究, 第3回 協 議 会 報 告 書,P22 (昭31, 於 九

大).-21) 古賀, 長 谷 川: 日本 小 伝科 学 会雑 誌,

Page 20: 疫痢における副腎皮質機能に関する研究journal.kansensho.or.jp/kansensho/backnumber/fulltext/33/... · 2012-09-11 · 昭和34年 9月 20日. 519. 疫痢における副腎皮質機能に関する研究

538 日本伝染病学会雑誌 第33巻 第9号

5, 7, 483 (1953).-22) 石 村, 星 他: 日伝 誌,

29, 6, 266 (昭30).-23) 浜 島: 日 本 臨 床, 11, 1,

67 (昭28).-24) Bonnef: J. A. M. A. 148, 634

(1952).-25) 松 岡 他: 日 新 医 学, 41, 665 (1954).

-26) Ilalberg F.: Aliurnal rythmic changesin blood eosinophil level in health and incertain diseases. 27) Tatai, K.:•Jap. J ofphysiol. 1, 316, 1951.-28) 渡 辺 他: 日新 医 学,

42, 459, 1955.-29) 鳥 居 他: 内 分 泌 の つ ど い,

3, 599, 1953.-30) 遠 城 寺, 石 井 他: 綜 合 研 究

班 研 究 報 告 書 (医 学 及 び 薬 学) 学 術 月報 別刷 資 料,

22号, 220 (昭29).-31) 勝 又, 時 田: 小 児 科 臨

床, 7, 10, 50 (昭29).-32) Fanconi/wallgren:

Lehrbuch der Padiatrie: 262 (1958).-33) Bo-tter Bergman: Handbuch der Inneren Med.7/1 152 (1955).-34) Fanconi/Wallgren: Le-

brbuch d. Pad, 300 (1958).-35) Selye: Tex-tbook of Endocrinology (1947).-36)星:日 伝

誌, 33, 3, 205 (昭34).-37) 久 保: 臨 床 内 科 小

児 科, 10, 67 (1950). 日 本 臨 床, 14, 271 (1956).

Studies on the Adreno-Cortical Functions in"Ekiri"

Atsumu TAKATA

The Komagmoe Hospital

Determination of blood chemocorticoid and eosinophil-test were carried out with"ekiri" -, dysentery- and healthy infants.

1. In"ekiri"-patients, blood chemocorticoid value rose markedly in the first

stage, fell rapidly in the course of illness, to reach gradually the normal value in the

convalescent stage.

2. Mortal cases of"ekiri"demonstrated at the admission as well as in the

course of illness a lower blood chemocorticoid level in general, as compared with

non-mortal cases of the same disease.

3. The dysentery cases showed a similar shift of blood chemocorticoid level.

4. The blood level of chemocorticoid was in healthy infants 0.12-0.58 mg/dl with a

rather great individual difference, 0.26 mg/dl on an average.

5. The number of eosinophils in the peripheral blood has recovered to an

approximately normal count in the III or IV week of illness.

6. Eosinophil-test revealed a marked difference between"ekiri"and dysentery

through the whole course of illness (40% difference on an average, a stochastically

significant value)."Ekiri"demonstrated more marked reaction of insufficiency.

Particularly the difference in the III-IV week suggested constitutional moments in"ekiri" -patients.

7. The counts of healthy infants were widely distributed between those of"ekiri"

and dysentery, suggesting a continual shift between the two diseases.

8. These results led the author to the conclusion, that a latent insufficiency of

adreno-cortex as an immanent and constitutional tendency existed in "ekiri "-patients.