金融商品の公正価値への 信用リスク調整に関するサーベイ - …4...

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金融商品の公正価値への 信用リスク調整に関するサーベイ

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金融商品の公正価値への 信用リスク調整に関するサーベイ

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2 金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ 2

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金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ 3

はじめに ............................................................................................................................ 4

主な発見事項 ............................................................................................................................ 6

今後想定される変化は? ............................................................................................................. 7

エグゼクティブ・サマリー ....................................................................................................... 6 調査結果 ......................................................................................................................... 10

1. 金融機関はデリバティブ資産/負債、FVO 負債の公正価値を測定するために

信用リスク調整を行っているか? ......................................................................................... 10

2. CVA の計算に使用される一般的方法は何か? ...................................................................... 12

3. DVA 及び自己の信用リスク調整の計算の一般的方法は何か? ................................................ 13

4. CVA/DVA の計算にあたってエクスポージャーはどのように測定するか? ................................... 14

5. エクスポージャーをどのレベルで計算するか? ....................................................................... 15

6. 金融機関は CVA/DVA の計算で何らかのデリバティブポジションを除外しているか?

もしそうである場合、なぜか? ............................................................................................. 16

7. 金融機関は FVO 負債の信用リスク調整の計算で何らかのポジションを除外しているか?

もしそうである場合、なぜか? ............................................................................................. 16

8. 金融機関はエクスポージャーを計算する際に担保を考慮しているか? ........................................ 18

9. CVA/DVA を計算する際に、エクスポージャーに対して

どのようなデフォルト確率を適用しているか? ......................................................................... 19

10. CVA/DVA を計算する際に、エクスポージャーに対して

どのような信用スプレッドを適用しているか? ......................................................................... 20

11. 自己の信用リスク調整を計算する場合にどのような信用スプレッドを使っているか? ...................... 21

12. 信用リスク調整の計算はどの程度自動化されているか? ......................................................... 24

13. 金融機関は自社債務の買戻しなどにより実現した実際のスプレッドの分析を行っているか? ........... 25

14. 金融機関は CVA、DVA、自己の信用リスク調整を積極的に管理しているか? .............................. 25

15. CVA 管理機能の仕組みと役割を簡単に述べてください ............................................................ 26

16. 信用リスク調整をどのレベルで会計処理しているか? .............................................................. 27

17. CVA/DVA の計算手法について将来何らかの重要な変更を予定しているか? ............................. 28

18. 自己の信用リスク調整の計算について将来何らかの重要な変更を予定しているか?............... 29

コンタクト先 ...................................................................................................................... 30

目次

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4 金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ

ここ 2、3 年は金融業界にとってかつてなく混乱した時期であったといえ

よう。いわゆる信用危機により、金融商品の公正価値評価にあたって、

信用リスクをいかに適切に反映するかが注目されている。

市場に不確実性ばかりがみられる中、多くの金融機関は信用スプレッドの変動により、その損益は

大幅に変動した。また、これらの変動に加えて、金融機関は、自社の信用リスク調整モデルが必ずし

も適切に真のエクスポージャーを反映していないことを認識した。つまり、市場のボラティリティが低

い時には、合理的とされた方法や仮定が、信用危機の最中では真の姿を把握できていなかった。現

在多くの金融機関はこれらのモデルと仮定を再考し、改善しようとしている。

信用危機の発生以降、我々は多くのクライアントと IFRS における信用リスク調整についてディスカッ

ションしてきた。2010 年の秋に、我々はデリバティブ資産、デリバティブ負債及び公正価値オプショ

ン(FVO)適用負債にかかる公正価値の信用リスク調整に関する現在の実務をベンチマークとすべく、

IFRSを適用している金融機関16社を対象として調査した。当該調査の目的は最新のトレンドを特定

し、信用リスク調整に関する様々なアプローチを言及することである。

この調査報告書は、調査対象の金融機関において使用されている様々な信用リスク調整手法に関

する調査結果とその手法を用いる背景について述べている。読者にとって興味深く、また有益なもの

であれば幸いである。

Tara Kengla Head of Financial Accounting Advisory Services, Financial Services, EMEIA +44 (0)20 7951 3054 [email protected]

Patricia Jacson Head of Financial Regulatory Advice, Financial Services, EMEIA +44 (0)20 7951 7564 [email protected]

はじめに

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金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ 5

用語の定義

金融資産の公正価値 IAS 第 39 号「金融商品:認識および測定」において、「独立第三者間取引において、取引の知識がある自発的な当事者の間で、資産が交換され得る又は負債が決済され得る価額」として定義される。

信用リスク IFRS第7号「金融商品:開示」において、「金融商品の一方の当事者が債務を履行できなく(なり、もう一方の当事者が財務的損失を被ることと)なるリスク」として定義される。

不履行リスク SFAS 第 157 号「公正価値測定」(ASC820)において、「債務を履行できないリスク」として定義される。

信用リスク調整(CVA) デリバティブの正のエクスポージャー(すなわち、デリバティブ資産)に対する信用リスク調整に関連する。CVAは、金融機関が保有するOTCデリバティブのポートフォリオに対して、カウンターパーティの信用リスク相当分をヘッジするのに必要なコストを反映している。CVA の目的は、あるカウンターパーティがデフォルトした時点で保有する当該カウンターパーティとのデリバティブ契約を、再構築するために必要な潜在的損失額(デフォルトしたカウンターパーティからの回収額を除く)を測定することにある。

負債評価調整あるいは貸方信用リスク調整(DVA) デリバティブの負のエクスポージャーに対する信用リスク調整に関連する。DVA は OTC デリバティブ取引において、カウンターパーティが(負債またはデリバティブの)発行体の信用リスクをヘッジするのに必要なコストを反映している。

自己の信用リスク調整 FVO を適用しているデリバティブ以外の負債に係る信用リスク調整。

信用リスク調整 CVA、DVA、自己の信用リスク調整を合わせて言及する際に使用する。

誤方向リスク あるカウンターパーティに対するエクスポージャーが、そのカウンターパーティの信用度と関連性がある場合に発生する(すなわち、デリバティブの価値が上昇するような状況において、当該カウンターパーティへの信用リスクも上昇すること)。誤方向リスクは、追加的なリスクとして金融機関や規制当局が関心を寄せている。

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6 金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ

2010 年秋に我々は、IFRS 上の CVA、DVA、自己の信用リスク調整に

関する現在の実務について情報を得るため、金融機関 16 社との意見

交換を実施した。業務プロセスをよく理解し、信用リスク調整の計算に関

する実務上及び業務上の問題点を識別するため、意見交換の過程にお

いて、CVA の管理や組織構造に関連するいくつかの質問も行った。

主な発見事項 • 金融機関は信用リスク調整の計算にあたり、実務上様々な方法を使用している

IFRS は、金融商品の公正価値の算定にあたり信用リスクを考慮することを要求しているものの、CVA、DVAあるいは自己信用リスク調整を測定するのに用いるべき手法については言及していない。結果と

して、調査対象金融機関が使用している手法は以下に示されるように様々なものとなっている。

CVA DVA

FVO 負債に対する 自己の信用リスク調整

集合的引当モデル 10 4 0

MTM モデル 3 2 16

その他の手法 2 0 0

CVA 計上せず 1 10 0

合計 16 16 16

• 信用リスク調整が計上されている

調査対象のすべての金融機関が CVA や FVO 負債に対する信用リスク調整を(重要な場合に)計上

しているが、デリバティブの負のエクスポージャーに対するDVAを計上しているのは 6社に過ぎなか

った。IFRS において負債の公正価値算定に際して不履行リスクは無視できないが、これらの金融機

関のうち何社かはデリバティブ負債の決済価格が重要でないということを考慮している。

エグゼクティブ・サマリー

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金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ 7

• 信用リスク調整算定手法

信用リスク調整の計算手法は、高度化の程度が金融機関により異なる。調査対象の金融機関の多

くはデリバティブの負のエクスポージャーに対して DVA を計上する、市場データをより多く用いる、エ

クスポージャー測定の高度化といった点で、CVA、DVA の算定手法の改善を行いつつある。

• 市場で観察可能な信用リスク・データを用いるか、ヒストリカル/平均された信用リスク・データを

用いるか

多くの金融機関はエクスポージャーに対し、ヒストリカル・データを使用して CVA や DVA を計算して

いる。また、何社かは、平均データを使用している。ある金融機関は、貸借対照表日において利用可

能であり、かつ市場で観測可能なデータ(債券スプレッドや CDS 価格)や市場で観察可能なデータか

らのインプライドを使用することにより、公正価値の最良な近似値が得られると考える一方、他社は

ヒストリカル・データや平均データのほうが、デリバティブが交換又は決済される価格をよりよく反映し

ていると主張している。

• CVA デスク

調査対象金融機関の約 3 分の 1 が、OTC デリバティブから生じる CVA を能動的にモニターし、また

削減するための専門のデスクを設置している。現時点でこのように CVA を積極的に管理していない

金融機関 4 社は、デリバティブの信用リスクを管理する CVA デスクの立ち上げを検討中である。

今後想定される変化は? • 公正価値測定に関する IASB の ED が信用リスク調整にどのくらい影響を与えるのか?

米国企業会計審議会基準書第157号(現在は編纂書第820号)(以下、SFAS第157号あるいは、

ASC820)を基礎としてドラフトされている IFRS の公正価値測定に関する公開草案では、公正価値

は出口価格であることが強調され、入口価格ではないとされている。公開草案は公正価値を、「測定

日において市場参加者間で秩序ある取引が行われた場合に、資産の売却によって受け取るであろ

う価格又は負債の移転のために支払うであろう価格」と定義している。加えて、資産負債に関する主

要な市場あるいは、主要な市場がなければ、最も有利な市場において起こるものが秩序ある取引と

している。このため、そのような測定値は、その市場での価格設定において市場参加者が考慮する

であろう当該資産又は負債の特徴(不履行リスクを含む)を加味していると言える。また、最終基準に

おいては、デリバティブ等の金融商品のポートフォリオを保有する場合において、そのポートフォリオ

が特定のカウンターパーティに対するエクスポージャーである場合には、CVA をネットベースで計算

することを許容する(ただし、そのようにリスク管理が行われ、当該カウンターパーティとの債権を法

的に相殺できる権利を有していることを条件に)ことが明確にされる見込みである。

最終基準では、金融負債の公正価値測定に際して、不履行リスクの影響を含めることが明確にされ

る見込みであるが、その影響は担保のような信用補完措置にも左右される。加えて、現在の

ASC820 のガイダンスと同様に、最終基準は、負債に関する不履行リスクは債務の移転の前後で変

わらないという前提を置いている。そのような前提は、実質的に、測定日において負債が報告企業と

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8 金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ

同等の信用リスクを有する市場参加者へ移転されることを意味している。しかし、デリバティブ負債に

関する DVA についてのそういった前提は、当該デリバティブ負債についてその主要な市場での出口

価格を考慮すべきとする規定と矛盾が生じる可能性がある。(SFAS第157号(ASC820)の事例を引

用していると思われる IFRSの公開草案の設例でも示されているように)OTCデリバティブに関する市

場参加者がディーラーであると仮定した場合、報告企業の格付が投資適格未満であるような状況に

おいて、ディーラーの格付が投資適格未満であることは考えられないことから、不履行リスクに変動

がないとする前提は考えづらいものと思われる。これらの懸念があるものの、米国基準で当該ガイダ

ンスを適用した場合、ほぼ一貫して、デリバティブ負債の公正価値測定において、自己の信用リスク

の影響を考慮する必要があるという見解に帰着している。

• バーゼルⅢと CVA の概観

金融危機で浮上した論点の 1 つに、カウンターパーティ・エクスポージャーに関する、いわゆる「誤方

向リスク」と呼ばれるものがあった。つまり、市場環境が悪化し、市場のボラティリティが上昇するに

つれて、デリバティブのエクスポージャーが上昇するだけでなく、同時に様々なカウンターパーティの

信用リスクに対する懸念が大きくなった。スプレッドは急激に拡大し、(カウンターパーティの信用リス

クを反映したデリバティブ価格の部分に関する)会計上の CVA 調整も急激に増加し、財務諸表上の

数値のボラティリティの主要な原因となった。

今後の対応として、バーゼル委員会は規制資本目的で、CVA に対する新たな資本賦課とカウンター

パーティ・エクスポージャーの計算モデルに用いるインプットにストレスをかけることを提案している。

これは二重計上や過度の資本規制につながるのではないかと懸念されている。金融業界に対する

定量的影響度調査(QIS)を受けて、CVA に対する資本賦課の計算に際して一定の乗数を用いると

いう提案は、現在撤回されたものの、CVA に対する新たな資本賦課は、現在トレーディング勘定の

規制資本所要額増加(3 から 4 倍)の主要な原因となっている。

また、この CVA に対する新たな規制資本賦課で提案されたアプローチが、ヘッジのインセンティブを

削ぐことになっているのではないかと懸念されている。つまり、カウンターパーティ・リスクのヘッジを

したことにより、効果的にヘッジできていない銀行と比較して多くの資本が要求される可能性がある。

銀行にとって最善の結果は、すべてのヘッジを含んだエクスポージャーをあたかも債券であるかのよ

うに含めることで、自身の内部 VAR モデルを使用できるようにすることである。バーゼル委員会はこ

のアプローチを再考することに合意したが、どの程度、銀行にとって望ましい方向に変更されるかは

不透明である。

さらに、カウンターパーティ・リスクをカバーするため新しいリスク管理基準も導入された。規制当局

は、担保管理、担保の集中や再利用、バックテスティングやバリデーション、ストレステストや誤方向

リスクに関する管理情報の頑健性を含む一定の分野について多くの改善を要求している。非効率な

担保管理プロセスには直ちにペナルティが与えられ(例えば、担保がいくら要求されるかといった点

が不透明な状況が発生するような場合)、したがって新規制の下での新たなバリデーション基準に適

合しないことになるであろう。

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金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ 9

規制当局は、OTC デリバティブに関する規制を強めることにより、金融機関が、CVA リスクの一層の

ヘッジによりさらなるリスク管理の向上を動機付け、また適格な契約については清算機関をより多く

利用することを促している。しかし、BaselⅢによる変更で終わりではない。規制当局は 2011 年にト

レーディング勘定規制の「全面的なレビュー」を行い、CVA に対する資本賦課及び健全な規制フレー

ムワークと会計上の要求との関連について追加的な検討を行う予定である。

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10 金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ

1. 金融機関はデリバティブ資産/負債、FVO 負債の公正価値を測定するために信用リス

ク調整を行っているか?

回答した 16 社のうち 15 社が、デリバティブ資産の CVA(信用評価調整)を行っており、また 16 社

すべてが FVO 負債の自己信用リスク調整を行っているが、デリバティブ負債の DVA(負債評価調整)

を行っている金融機関は 16 社のうち 6 社に過ぎなかった。

CVA の計上をすることが実務上、一般的といえる。1 社は重要性が低いため CVA を計上していない。

これは、デリバティブのエクスポージャーは主に投資適格なカウンターパーティに対するものであるこ

とと担保の影響による。

デリバティブのエクスポージャーを投資適格なカウンターパーティに対するものに限るのは一般的に

使われているデリバティブの信用リスクの管理方法である。しかし、この方法自体は、デリバティブ契

約の評価に信用リスクの影響を加味していないという点で、通常不十分である。OTC デリバティブの

ディーラーは、デリバティブのプライシングに際して信用リスクは考慮されるので、高格付の他のディ

ーラーに対するポジションについても通常、CVA を認識している。

取引締結後にカウンターパーティの格付が下がれば、CVA を考慮する必要があるのは明確である。

しかし、今般の信用危機は、カウンターパーティが高格付を有していたとしても、不履行リスクが実際

にあること、つまり、当該カウンターパーティの債務履行能力に対する期待値は変化しうるということ

を再認識させた。また、ここ 2 年程度の間に、格付が下げられていないとしても、投資適格の格付を

有するカウンターパーティに対するプロテクションの買いが増加し、価格も高騰した。それゆえ公正価

値算出のための信用リスク調整のインパクトも増加した。現状は、ある投資適格の同じ格付を有する

カウンターパーティに対する信用コストは必ずしも同じではない。これは、市場は同格付を有する全

てのカウンターパーティが同じリスクを有するわけではないと判断していることになる。最後に、投資

適格な格付を有するカウンターパーティとの取引においても担保の利用が大幅に増えていることもま

た、市場参加者が高格付カウンターパーティに対するエクスポージャーにも懸念を有していることを

示している。

15

6

16

デリバティブに対する CVA

デリバティブに対する DVA

FVO負債に対する 自己の信用リスク調整

金融商品に適用される信用リスク調整

調査結果

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金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ 11

デリバティブ負債に対するDVAを計上しているのが、現在6社に過ぎず、DVAが現状受け入れられ

ているマーケット・プラクティスとは言えないかもしれない。DVA を計上していない金融機関の何社か

は、IAS 第 39 号はデリバティブ負債に関する DVA の計上を明確に要求していないとコメントしてい

る。しかしながら、2009 年から DVA を導入したとコメントした金融機関が 1 社あったこと、また、

2010 年からデリバティブ負債の評価にあたって DVA の導入を予定しているとした金融機関が 1 社

あったことからも、金融業界のトレンドとしては DVA を導入する方向であるように思える。

ここ 1 年半ほどの間に、欧州の金融機関では、IFRS がデリバティブ負債の公正価値評価において

DVA を要求しているかについての議論があった。市場参加者は金融商品のプライシング時にカウン

ターパーティの信用リスクを考慮していることを考えると、IFRS においては、カウンターパーティの信

用リスクおよび自己の信用リスクの双方とも考慮し、公正価値評価にあたって不履行リスクを反映す

る必要がある。しかし、調査対象の金融機関のうち何社かは、一部の CVA および DVA のモデルに

おいて要求されるほど、実際のデリバティブのプライシングにおいて信用スプレッドは反映されてい

ない、とコメントした。銀行と事業会社との間で締結された金利スワップを例に考えてみる。現在、当

該金利スワップは銀行にとって勝ちポジションだとする。銀行が当該デリバティブ資産に対する CVAを計算するのに使用する信用スプレッドは、スワップカウンターパーティである事業会社がデリバティ

ブ負債で自己の信用リスクを反映するのに適用する信用スプレッドと同じではない可能性がある。と

いうのも両社は、ビッド・オファー・スプレッドの反対側にいるからである。銀行は、出口価格に反映さ

れているため、当該ビッド・オファー・スプレッドの全額を CVA として引き当てるべきであるが、事業会

社としては、DVA として全額を回収できるとは限らない。デリバティブを決済する際に銀行が全額を

負担する可能性は低いからである。

デリバティブ負債に対する信用リスク調整については、2008 年 10 月に公表された専門家諮問パネ

ル(EAP)による「活発でない市場における金融商品公正価値の測定と開示」という報告書において

扱われている。EAP は、公正価値に関するガイダンスを公表してほしいという市場参加者からの要

請によって、IASB により招集されたものである。EAP の報告書では、デリバティブ負債の DVA 認識

に関するマーケット・プラクティスの一貫性の無さが以下のとおり記載されている。

「デリバティブ負債の公正価値評価にあたって自己の信用リスク調整を行うかど

うかについて、多様な実務がみられる。公正価値には自己の信用リスクの影響

が含まれる。デリバティブの公正価値評価にあたって、自己の信用リスクを考慮

しない企業は、おそらく、信用補完措置(例えば、担保の差し入れ)もしくは影響

が重要でないといった理由で、そのような対応をしているのであろう。」

欧州金融機関の実務が分かれているのに対し、SFAS第 157号(ASC820)「公正価値測定」の公表

によって、米国の金融業においては、一貫して、負債の公正価値における自己の信用リスクの影響

を加味すべきとする見解に収束した。これは米国基準はこの論点についてより明確に以下のように

言及しているからであろう。ASC820 によれば、「負債の公正価値は当該負債の不履行リスクを反映

すべき」および「企業は負債が公正価値測定されるすべての期間において負債の公正価値に自己

の信用リスクの影響を考慮すべき」である。加えて ASC820 は「公正価値測定は当該負債の不履行

リスクが移転の前後で同じであると仮定している」と述べている。この論点は規制当局にとって注意

すべき点でもある。

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12 金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ

IAS 第 39 号は SFAS 第 157 号(ASC820)「公正価値測定」とは異なり、負債の公正価値を「独立第

三者間取引において、取引の知識がある自発的な当事者の間で、資産が交換され得る又は負債が

決済され得る価額」として定義している一方、SFAS 第 157 号第 15 項は負債を決済する、というより

はむしろ負債を移転するという概念で議論している。一部の企業は、DVA はデリバティブ負債を決済

する価格に反映されていないと考えている。この点、公正価値評価に関する新基準(訳注:IFRS 第

13 号)においては、移転という用語が導入されている。

ここ 2 年ほどの間に、デリバティブ負債について DVA を計上すべきでないとする一部金融機関の主

張としては上記の他に、その信用リスクが増大したときに会計上の利益を認識するのは直感に反す

るし、(彼らの見解では)実現しない可能性の高い利益を会計上認識することは適切ではない、という

ものである。新基準である IFRS 第 9号「金融負債の分類及び測定」においては、FVO 負債に係る当

該論点については対応しており、負債の信用リスクに関連する公正価値の変動を OCI に表示するこ

とにより、会計上のミスマッチを生み、あるいは増幅するものでなければ、自己の信用リスクの変動

による公正価値の変動を OCI で認識し、純損益に計上しないことを提案している。しかし、デリバティ

ブ負債は(FVO ではなく)純損益を通じて公正価値で測定されるため、デリバティブ負債に係る当該

論点について IFRS 第 9 号は対処していないことになる。

2. CVA の計算に使用される一般的方法は何か?

質問 1 の調査結果は、CVA の認識は金融機関において業界標準となっているということを明確に示

している。しかし、会計上は計算方法が規定されていないため、実務上はデリバティブ契約の公正価

値評価に信用リスクの影響を見積もるため、様々なアプローチがデリバティブのディーラーおよびエ

ンドユーザーによって使用されている。

デリバティブの大手ディーラーの一部は、カレント・エクスポージャーおよび期待エクスポージャーを

モンテカルロ・シミュレーションのようなシミュレーション技法やデリバティブのエクスポージャーが正

負の両方になり得るような、ボラティリティについての一定の前提条件を用いて計算した上で、カウン

ターパーティごとの DVA や CVA を計算している。

その他の金融機関は DVA および CVA の計算にあたって、デリバティブのカレント・エクスポージャー

のみを考慮した複雑ではないアプローチを使っている。

使用される手法の高度化の程度は、以下に限定されるものではないが、たとえば下記のような定量

的・定性的ファクターが影響してくる。

• デリバティブの帳簿価額の重要性

• デリバティブがどの程度ディープ・イン・ザ・マネーもしくはディープ・アウト・オブ・ザ・マネーの状

態になっているか

• 信用補完措置の存在(たとえば、担保の状況とその条項)

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金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ 13

10 3

2

1 CVA計算手法

集合的引当モデル

MTMモデル

その他の手法

CVA計上せず

時の経過とともに、より洗練された手法が開発されてきている。

調査対象のうち 10 社は BaselⅡの集合的引当の手法に類似した方法で CVA を計算している。この

手法では、CVA は一般的にエクスポージャーおよび PD 並びに LGD の積として計算される。

CVA=Exposure×PD×LGD

各インプットを決定する方法は以下のように多様である。

• エクスポージャーはモデルによるシミュレーションを使用している金融機関から、単に現在価値

を用いている金融機関まで存在する。より詳細には質問 4 を参照されたい。

• デフォルト確率(PD)は、自己資本規制の計算目的で使用する内部格付を利用するか、市場で

観測可能なデータから逆算(imply)されている。また両社の組合せに基づいている場合もある。

この分野の調査結果については質問 9 を参照されたい。

• デフォルト時損失率(LGD)は、ある特定の金融商品のデフォルト時における期待される回収水

準を見積もるため、広範で多様な情報源から導出されうる。各金融機関は、可能な限り取引レ

ベル及びカウンターパーティレベルで、当該商品の優先劣後関係と利用可能な担保水準を考

慮して、LGD を計算している。

3 社はマーク・トゥ・マーケット(MTM)アプローチと呼ばれるものを使っている。このアプローチでは、

期待エクスポージャーを計算し、これらのエクスポージャーに対して直接市場で観測される CDS スプ

レッドを乗じて CVA を計算している。

さらに 2 社については、厳密には上記のいずれにも当てはまらないものの、トレーディング上の計算

により近い独自の方法でエクスポージャーを計算する方法を採用している。

3. DVA 及び自己の信用リスク調整の計算の一般的方法は何か?

DVA を計上していると回答した金融機関 6 社すべてが CVA と同様の計算アプローチを使っている。

すなわち、正のエクスポージャーに関する調整と同じモデルを負のエクスポージャーにも適用してい

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14 金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ

7

6

1 1

エクスポージャーの測定

モンテカルロ法等を使用した

EPE/PFEのシミュレーション

EAD=期末のMTMにアドオンを加え

たもの

MTMと信用コンバージョンファクター

のいずれか大きい方に想定元本か

ら担保を控除した額を乗じる方法

調整なし

る。4 社は集合的引当モデルを使用し、2 社は MTM アプローチを使用している。

FVO 負債に関する自己の信用リスク調整を計算している金融機関 16 社はすべて MTM アプローチ

を使用している。すなわち、貸借対照表日現在のエクスポージャーに対して観察可能な自己の信用

スプレッドカーブを乗じている。

DVA を計上しているすべての調査対象金融機関は、DVA と FVO 負債に対する自己の信用リスク調

整に異なる方法を用いている。相違点としては、エクスポージャーの測定方法そのものと適用する自

己の信用スプレッドカーブが挙げられる。例えば、ある調査対象金融機関は DVA の計算にあたり流

通市場のデータを使用しているが、FVO 負債の自己の信用リスク調整の計算にあたっては、発行市

場のデータを使用している。DVA と自己の信用リスク調整の計算で使用されるカーブに関する詳細

は質問 10 と 11 を参照されたい。

4. CVA/DVA の計算にあたってエクスポージャーはどのように測定するか?

当該調査の中でも、この質問に対する回答は、最も多様であった。

集合的引当手法を用いる 10 社の金融機関のうち 5 社、あるいは、MTM アプローチを適用している

3 社の金融機関のうち 2 社は、エクスポージャーをモデルによりシミュレーションする方法 – 最も一

般的なものはモンテカルロ・シミュレーション - によっている。

集合的引当手法を適用する金融機関のうち残り(10社のうち5社)及びMTMアプローチを適用する

金融機関のうち残り(3 社のうち 1 社)は、デフォルト時エクスポージャー(EAD)を用いている。EADは期末の MTM にモデル計算に基づくアドオンを上乗せすることで計算している。

EAD は、1 年もしくは金融商品の満期までのいずれか短い方までの期間について、信用リスクモデ

ルにより計算された(ある通貨の)ポテンシャルエクスポージャーの測定値であり、アドオンは EAD 計

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金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ 15

算期間を超えたエクスポージャーに対応するものである。

DVAを計上している金融機関6社のうち4社はモデルにより負の期待エクスポージャーをシミュレー

ションして DVAを計算している。他の 2 社は期末時の MTMを使って EAD を計算している。この場合、

もし負のエクスポージャーであれば、モデルに基づいた「アドオン」により調整している。

MTM CVA 集合的引当手法による CVA

その他 CVA 合計 DVA

モデルによるシミュレーション 2 5 0 7 4

期末時 MTM+アドオン 1 5 0 6 2

その他 0 0 2 2 0

合計 3 10 2 15 6

5. エクスポージャーをどのレベルで計算するか?

CVA を計上している金融機関 15 社及び DVA を認識している 6 社のすべてが、取引レベルではなく、

あるカウンターパーティの全契約のポートフォリオに基づき、カウンターパーティレベルで計算してい

る。すなわち、ISDAのマスターネッティング契約に基づき、カウンターパーティごとにデリバティブポジ

ションを相殺した上で、エクスポージャーを計算している。

調査対象金融機関の多くは、CVA を計算する目的でカウンターパーティごとにエンティティ・ベースで

エクスポージャーをネットしている。一部の金融機関は、マスターネッティング契約をグループ全体で

締結していると思われるが、ビジネスライン・ベース、もしくはブック・ベースで、カウンターパーティご

とにエクスポージャーをネットしている。その場合、ネッティング効果は減少し、評価される CVA はよ

り高くなる。

マスターネッティング契約は、同じ 2 者間の複数の契約(OTC デリバティブ契約のような)のエクスポ

ージャーをネットする、その 2 者間での法的拘束力をもつ契約である。マスターネッティング契約が有

効であれば、あるカウンターパーティがデフォルトした場合に、受け取れるはずの当該カウンターパ

ーティに対する勝ちポジションと、負けポジションをネットすることが可能となる。したがって、CVA 計

算目的での計算単位として、カウンターパーティごととすることは適切であると考えられる。逆に、マ

スターネッティング契約があるにも関わらず、個別エクスポージャーの合計で CVA を計算すると、エ

クスポージャーは過大になり、CVA の結果もまた過大になる。

IASB は、公正価値測定に関する新基準の開発にあたり、(エクゼクティブ・サマリーにおける「今後

想定される変化は?」を参照)において、信用リスクをカウンターパーティごとに計算することを明確

に容認している。

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16 金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ

6. 金融機関は CVA/DVA の計算で何らかのデリバティブポジションを除外しているか? もしそうである場合、なぜか?

調査対象金融機関の多くは、すべてのデリバティブを CVA/DVA 計算に含めているとしている。一部

の金融機関は、ヘッジ関係にあるデリバティブや(DVA が要求される)リテール顧客向けデリバティブ

のような、一定のポジションを計算対象から除いているとした。これは、リテールの顧客は価格算定

に際して信用スプレッドを考慮しておらず、また担保付であるためである。

調査対象金融機関のうち 1 社は、AA 格以上のカウンターパーティに対する全デリバティブポジショ

ンを除いているとしている。LIBOR カーブは、この類のカウンターパーティ・リスクを正確にとらえてい

ると考えているためである。

7. 金融機関は FVO 負債の信用リスク調整の計算で何らかのポジションを除外している

か?もしそうである場合、なぜか?

FVO 負債に対して信用リスク調整を適用している調査対象金融機関 16 社のうち、14 社がこの調整

に関して以下の通り、回答している。

8社は全ての FVO 負債に対して自己信用リスク調整を適用している一方で、6社は一定の負債を除

外している。例えば、

• リテールポジション:何社かは、顧客の行動を考慮すべきと主張し、またリテールのクライアント

は信用度を斟酌することはなく、単に商品の価格設定に関心があることから、リテールのクライ

アント向けに発行した、FVO 指定の債券は除外しうるとしている。

• 短期負債:重要性により除外している。

• 一定の上場債券:その価格には既に自己の信用リスクの要素が織り込まれているため。

調査対象金融機関の間で同一の FVO負債ポートフォリオを有しているわけではないため、自己の信

用リスク調整を適用している商品の範囲も異なっている。

このことは以下の図表に反映されており、FVO 負債ポートフォリオに含まれる各種商品に対し、信用

リスク調整を適用している金融機関の数を示している。この図表中、「リテールポジション」はリテー

ルカウンターパーティに対して発行された債券を、「ホールセールポジション」はその他の金融機関に

対して発行された債券を、「バニラポジション」は仕組債でない発行債券を、それぞれ意味している。

また当該図表は、各銀行が様々な方法でそのポジション及びカウンターパーティを特徴づけているこ

とを示している。

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金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ 17

s

IFRS では、公正価値で評価されるすべての金融商品に対し、自己の信用リスク調整の計上が要求

されている(質問 1 参照)。

一部の金融機関は、リテール投資家は価格設定には関心がないことを理由に、計算からリテールポ

ジションを除いているとコメントしている。しかし、金融機関の信用力は大幅に悪化することもあり、そ

の場合、このポジションも変動しうる。

信用危機以前にこのような見解をとっていたある企業は、信用力の変化がリテール投資家向けの商

品の価格設定に影響を与えていたことを認識しており、このポジションを除外するという主張はしにく

くなった(また、新しい公正価値測定に関する会計基準(訳注:IFRS第13号)に組み込まれた負債の

「移転」という概念よりも、IAS第39号は負債の「決済」に言及していることをこのアプローチは反映し

ている点に留意すべきであろう)。

SPEが発行した債券を、現状、自己の信用リスク調整の適用範囲に含めている金融機関が3社あっ

た。これらの金融機関では、SPE が発行した債券について自己の信用リスク調整が現状、行われて

いるものの、IFRS 第 9 号は、IFRS 第 7 号で定義される信用リスクは資産固有の履行リスクとは異な

ることを明確にしている。信用リスクは、企業が特定の債務を返済できないリスクであり、資産固有

の履行リスクは、単一資産または複数の資産のパフォーマンスが低く、当該資産と関連する負債と

の間の契約関係により、当該負債の履行に直接影響が及ぶリスクである。IFRS第 9号では一例とし

て、SPE が発行する債券を挙げている。この例では、SPE に対する投資家に支払われる金額は、

SPEの原資産が創出するキャッシュ・フローに制限されている。SPEの資産は、投資家のために法的

に隔離され、また区分(ring fenced)されている。この例において、負債の公正価値のすべての変動

は資産のパフォーマンスを反映しているものとみなされ、したがって信用リスクは存在しない。しかし

ながら、IFRS第9号に含まれるこの区分は、公正価値評価そのものには影響せず、むしろ公正価値

変動の要素がどこに認識されるかに影響を与える。

2

3

3

4

10

14

その他

SPE発行債権

リテールポジション

ホールセールポジション

バニラポジション

仕組債

自己の信用リスク調整を適用しているFVO負債

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18 金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ

8. 金融機関はエクスポージャーを計算する際に担保を考慮しているか?

CVAを計算する際に、調査対象金融機関のうち1社を除いて、すべての金融機関が担保の影響を考慮し

ていた。

エクスポージャーの計算に担保を含めるアプローチが最も多かった。

調査対象金融機関のうち、2 社はシステムあるいはデータの制約から担保価値を算定していないが、

その代わりに ISDA の下で CSA を交わしているすべてのカウンターパーティを除外していると回答し

ている。彼らは CSA のもとで提供される担保と、そのようなカウンターパーティは一般に高い信用格

付であることを併せ鑑みれば、これらのポジションに係る CVA は重要ではないと主張していた。

1 社は担保を考慮していなかった。当該金融機関は AA 格よりも高い格付を有するすべてのカウンタ

ーパーティを CVA の計算から除外していた(質問 6 参照)。

担保はデフォルト時の信用リスクを低減するかもしれないが、カウンターパーティの信用リスクをゼロ

にすることはない。多くの CSA のもとでは、一定のエクスポージャー閾値に達するまで担保が提供さ

れることはないためである。加えて、担保価値が減少又はデリバティブの価値が上昇しても、追加の

担保が得られない場合、企業は「ギャップ」リスクにさらされることになる。質の高い担保と定期的な

モニタリングにより、これらの懸念は重要ではないかもしれないが、そのような判断は定期的に再評

価すべきである。

OTC デリバティブ市場に関する規制の継続的な改訂により、担保付取引が増加している。その結果、

CVA 及び DVA 調整の重要性は将来、低下する可能性がある。

12

2

1

担保の取り扱い

エクスポージャーの計算

に担保を含めている

CSAカウンターパーティ

を計算から除いている

担保を計算上考慮して

いない

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金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ 19

9. CVA/DVA を計算する際に、エクスポージャーに対してどのようなデフォルト確率を適用

しているか?

この質問は、質問2で議論した、集合的引当モデルを用いてCVA/DVAを計算していると回答した金

融機関のみが該当するものである。PDを利用してCVAを計算している調査対象金融機関の半数以

上で、市場で観察可能な情報に基づいた PD を適用していた。ヒストリカル情報が利用されている場

合、最も一般的な PD の情報源(ソース)はその金融機関のバーゼルⅡ報告用テーブルであった。

4 社は、貸借対照表日、もしくは貸借対照表日に近い日の市場で観察可能な PD を使うのではなく、

規制上の計算で使用する内部テーブルから PD を導出している。ヒストリカル・データに基づくアプロ

ーチとマーケット・インプライド・データに基づくアプローチの選択は、部分的には管理目的により行わ

れるようである。短期金融市場商品によりCVAをヘッジする金融機関はMTMアプローチを利用する

傾向にある。もっとも適切なPDの情報源を判断する際、企業は、現在の市場での市場参加者による

仮定を反映したインプットの客観性を検討すべきであろう。ヒストリカル PD は市場で観察可能な PDより低くなる傾向にあり、企業の信用力が低下しても、それが迅速に反映されることがない。

CDS スプレッドや他の関連指標から導出される、市場で観察可能な PD は、デフォルト発生の最良の

指標になるであろうと、調査対象金融機関のほとんどが考えている。しかし、CDS スプレッドは多くの

小規模公開企業や非公開企業にとって、利用可能ではないだろう。そのような場合、企業は、公開

市場で取引されている債券やローンのような、他の利用可能な信用力の指標に依拠する必要があ

ろう。

信用力に関する直接的な指標が何もない場合、企業は業界のベンチマークもしくは同業他社との比

較に基づいて信用スプレッドを見積計算する必要があろう。いずれの場合でも、適切な同業グルー

プもしくはベンチマークを特定することが重要である。例えば、そのような分析には、同業グループと

比較した報告企業の財政状態及び信用スプレッドの評価を目的とした財務比率の生成が含まれよう。

5

4

1

PDのソース

市場で観察されるスプ

レッドに基づくPD

ヒストリカル・スプレッドに

基づくPD

市場とヒストリカルの組

合せに基づくPD

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20 金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ

4

1

1

DVAスプレッド

ブローカー/市場から入手

するインプライド信用スプ

レッド

市場(ビッド)で観察される

CDSスプレッド

過去3カ月の最も低いシニ

アCDSスプレッド(ビッド)

このような比率は流動性、レバレッジ及び全般的な財務健全性を考慮して算定される。

ヒストリカル・デフォルト率の使用は、出口価格の概念とは整合していないように思われる。特に、現

在の経済環境下における信用スプレッドの水準をヒストリカル平均と比較した場合に、その不整合性

は顕著となる。しかし、ヒストリカル・データを使用しているこれらの企業は、デリバティブが市場で実

際に取引されている価格にヒストリカル・データは近似していると主張している。1 つの問題は、その

公正価値がほぼゼロである取引当初を除き、実務上、取引され、値付けされているデリバティブがほ

とんどなく、従って、さまざまなメソドロジーが市場参加者の価格付け行動を反映しているかどうかを

判断するために、それらのメソドロジーを「バックテスト」する際の利用可能な市場データがほとんど

ないことである。

10. CVA/DVA を計算する際に、エクスポージャーに対してどのような信用スプレッドを適

用しているか?

エクスポージャーに直接、信用スプレッドを適用することで CVA を計算している調査対象金融機関で

は、その信用スプレッドは市場で観察可能な情報に基づいていた。個別のカウンターパーティのCDSスプレッドは最もよく使用される、市場で観察可能なインプットである。これらの金融機関は、CDS ス

プレッドがカウンターパーティごとに入手できない場合、カウンターパーティが属する業種/国/セク

ターのカーブをその代替として適用している。

DVA に対する回答は、以下の図表の通り、さまざまであった。

1 社は全体のポートフォリオに対して未調整の CDS スプレッドを適用している。4 社は市場で観察された

CDS スプレッドをスタートとして、各社独自の市場に対する見込みに基づき調整を行うことがある。

何社かは、デリバティブ負債の手仕舞い時に DVA の全額が実現することはないであろうと考えてお

り、それは各社によるスプレッドの選択に反映されている(例えば、ビッドレートの使用や過去 3 カ月

の最も低いスプレッドの使用など)。1 社は上の考え方を反映するために、DVA の計算上、自己の信

用スプレッドに対してヘアカットを適用している。

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金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ 21

8

2 流通市場データ

基準日時点

平均値

11. 自己の信用リスク調整を計算する場合にどのような信用スプレッドを使っているか?

調査対象金融機関は、以下のチャートに示すように、流通市場データと発行市場データの双方を使

用している。

回答のあった 14 社のうちの 10 社は流通市場で観察される信用スプレッド(主に貸借対照表日時点

での CDS スプレッド)を使用している。2 社は自己の信用リスク調整に対する CDS スプレッドの変動

の影響を(例えば数カ月にわたる CDS 価格の平均値を取ることにより)抑えていた。他の金融機関 1社は、主に CDS スプレッドを使用しているが、それぞれのカーブに著しい相違がないことを確認する

ための一種の統制として、発行市場データとの比較を実施し、また一定の場合には発行市場データ

を使用することもある。また貸借対照表日の信用スプレッドのブローカー・クオートを使用して(拘束

力のないブローカー・クオートは完全に観察可能なデータというわけではないが)、ビッド・オファー・

スプレッドを適用するところもある。また短期変動利付債券に関してのみ、発行市場データを利用し

ている金融機関もある。

4

10

発行市場 流通市場

自己の信用スプレッドの評価に使用した市場

データ

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22 金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ

調査対象金融機関14社のうち4社は発行市場データ、通常、決算日前に発行した直近の債券に適

用された信用スプレッド(その内1社は数カ月の平均ベース)を使用している。調査対象金融機関の

うちの1社は、財務省のガイドラインに従い関連する部門がその国内で設定したファンディング(調達)

カーブを使用している。その後、調達カーブの設定時点と決算日の間で発生した取引を当該カーブ

からの偏差を用いることで分析し、調達カーブよりも当該取引がより適切な価格を表しているか否か

を判断している。

流通市場データを使用している 10 社のうち 5 社は、仲値に対するビッド・オファー・スプレッドを適用

している。そして、1 社はオファー・ファンディング・スプレッドを直接使用している。発行市場の信用ス

プレッドを直接利用している 4 社は、ビッド・アスク・スプレッドに対し調整を行っていない。発行市場

の信用スプレッドは、流通市場で観察される信用スプレッドと比較し、一般に低くなる傾向にある。

多くの調査対象金融機関は FVO 商品に対して、その満期、発行された負債証券の優先劣後関係、

(該当する場合には)担保に基づき、さまざまな信用スプレッドを適用している。2 社はその発行地域

により、FVO 負債に対して異なる信用スプレッドを適用している。一方、他の金融機関はその重要性

を理由として世界中で単一の信用スプレッドを使用している。金融機関が、特定の国や地域でその

スプレッドであるならば証券が発行可能な当該スプレッドに基づいた異なるインプットを使用する場

合、それらの金融機関はまた、その計算をサポートするために流通市場のスプレッドを分析すること

も可能である。

1 社は、活発な市場で価格が公表されていない仕組商品のスプレッドを計測するために、活発に取

引されている商品について観察される信用スプレッドを調整している。他の 1 社は、手仕舞い時にス

プレッドの全てが実現できるわけではないという事実を考慮するため、FVO 負債の自己の信用リスク

調整の計算で使用する信用スプレッドを調整している。2 社については、自己の信用リスク調整を修

正するかどうかの重要性の閾値を設けている。

信用リスク調整において使用される信用スプレッドは、市場参加者が商品の信用リスクを引き受ける

際の価格付けに反映されると市場参加者が期待する信用スプレッドであるべきである。さまざまなタ

2

1

1

発行市場データ

直近データ-平準化していない

直近データ-平準化している

その他

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金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ 23

イプのカーブが、さまざまな企業や商品にとって適切となりうるが、それは利用可能なデータの質や

評価対象である商品による。商品の公正価値測定時に、企業の信用リスクを反映するために市場参

加者が用いるであろう、最も関連があり、かつ適切な情報を、信用データのいずれの情報源(ソース)

が提供しているかを評価する際に、負債の返済順位を評価することを含め、様々なファクターを企業

は考慮すべきである。したがって、公正価値を導出するために、適切な信用スプレッドを選択する際

には判断を要する。

別の論点は、FVO 負債に関する自己の信用リスク調整を計算する際に、流動性プレミアムを考慮す

べきか、また、(考慮する場合、)どのように考慮すべきかということである。その信用リスクの変動に

よる負債の公正価値の変動の測定方法に関する現在のガイダンスは、IFRS 第 7 号に含まれている。

ガイダンスにおけるデフォルトの方法では、ベンチマーク金利のような市場リスク要因の変動以外に

よる公正価値の変動は、すべて負債の信用リスクに起因するということが提示されている。これには

負債に関連したいかなる流動性プレミアムも含まれる。ある金融機関は観察される信用スプレッドに

対する修正を検討している。そのような信用スプレッドは特に流動性のない市場において、デフォル

ト・リスクを純粋に表すものではないためである。IFRS 第 7 号は、その信用リスクの変動に起因する

負債の公正価値の変動をより忠実に表現することになるのであれば、他の方法も容認されるとして

いる。加えて、流動性のない市場では、負債の流動性リスクを除外する異なる方法で自己の信用リ

スクが公正価値に与える影響を計算する、別の方法も適用可能であるとしている。

2009年中、FVO負債の信用リスク調整の計算において、信用スプレッドの平均を適用する企業のト

レンドが観察された。しかし、信用スプレッドを平均する方法は様々であり、多くの金融機関は、貸借

対照表日に市場で観察される信用スプレッドではなく、例えば貸借対照表日前 3 カ月間に市場で観

測された信用スプレッドを平均して、これを自己の信用リスクの計算に使用している。公正価値評価

時に信用スプレッドを平均することをサポートする定量的な根拠はないものの、多くの金融機関では、

自己の信用スプレッドの変動やその時の市場状況を鑑みれば、貸借対照表日の信用スプレッドが必

ずしも自己の履行リスクを反映するものではないということを主張していた。それゆえ、これらの企業

は公正価値に対して適用すべき信用リスク調整の水準を決定する際に、信用スプレッドの平均値を

適用していた。

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24 金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ

12. 信用リスク調整の計算はどの程度自動化されているか?

調査対象金融機関の多くは、CVA 及び DVA(計算されている場合)の計算は広い範囲で自動化して

いるが、自己の信用リスク調整(計算されている場合)の計算は手作業で行っていると回答している。

一部の金融機関はフロント・オフィス・システム、リスク管理システム、又は会計システムなどからデ

ータを抽出して、スプレッドシート上で FVO 負債に係る自己の信用リスク調整を計算している。その

理由は、CVA や DVA はエンティティ・レベルではなく、それよりも低いレベルで、かつ莫大な数のエク

スポージャーについて計算されているが、自己の信用リスクの計算は財務報告目的上、エンティティ

(全社)レベルで通常行われるためである。

2 2

9

自動化なし、 または限定的

部分的 広範囲

CVA計算の自動化の程度

1

0

5

自動化なし、 または限定的

部分的 広範囲

DVA計算の自動化の程度

9

3 2

自動化なし、 または限定的

部分的 広範囲

自己の信用リスク調整計算

の自動化の程度

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金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ 25

13. 金融機関は自社債務の買戻しなどにより実現した実際のスプレッドの分析を行ってい

るか?

自社債務を買い戻した調査対象金融機関の多くは(11 社のうち 8 社)、実際に買い戻した際のスプ

レッドと自己の信用リスク計算で適用したスプレットとを比較・分析していた。

このバックテストは、自己の信用リスク調整に関する主要な統制として、またリーディングプラクティス

としても認識されている。もっとも、決済価格の使用は、公正価値測定に関する新基準が最終化する

と、統制としてはあまり有益でなくなるかもしれない。IFRS 公開草案の詳細については、エグゼクティ

ブ・サマリーの「今後想定される変化は?」を参照されたい。

14. 金融機関は CVA、DVA、自己の信用リスク調整を積極的に管理しているか?

ここ数年で、これらはより積極的に管理されるようになってきており、CVA をより高い頻度(毎日、時

には 1 日に複数回)で計算したり、CVA を積極的にモニターし、関連するリスクを管理する専門部署

を開設したりしている。調査対象金融機関 16 社のうち 5 社は、デリバティブ負債に関連する信用リ

スクを CVAを削減させるために積極的に(アクティブに)管理しており(質問 15 を参照)、1社は DVAを積極的に管理している。FVO 負債の自己の信用リスク調整をヘッジしているという調査対象金融

機関はなかった。

CVA を積極的に管理している 5 社のうち 4 社では、CVA の管理を担当する部署は、自己ポジション

をとることが許容されている。つまり、外部の信用リスクをとることができるということである。詳細は

質問 15 を参照されたい。

16

1

1

5

4

1

5

10

積極管理-自己ポジション可

積極管理-自己ポジション不可

積極管理

積極管理やヘッジなし

信用リスク調整の管理

CVA DVA FVO負債に対する自己の信用リスク調整

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26 金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ

15. CVA 管理機能の仕組みと役割を簡単に述べてください

CVA及びDVA管理の報告ラインは調査した金融機関により様々である。一部の金融機関では、トレ

ーディング・デスクによる市場取引で発生したカウンターパーティの信用リスク、また、ある場合には

自己の信用リスクの定量化、価格付け及び管理を集中化するために CVA デスクを設置している。そ

れらの金融機関ではトレーディング・デスクから CVA デスクへ信用リスクを移転し、信用リスクをトレ

ーディング・デスクへチャージするための内部的な手法を開発している。CVA デスクは通常、その金

融機関に対する追加的信用リスクを考慮して、信用リスクの取引価格への反映に関与している。そ

の後、関連するトレーディング・デスクは、顧客へ価格を提示するために取引を価格付けする時には、

その取引に対してクレジット・チャージを付加する。信用リスクを CVA デスクへ一旦移転させると、

CVA デスクは、付与されたリスク・リミットの範囲内で信用リスクを管理している。

CVA デスクは通常、その金融機関が晒されているカウンターパーティ・リスクをヘッジするリスク管理

部署である。ある場合には、企業におけるある特定部署の重要性により、そのヘッジ活動は当該部

署の CVA エクスポージャーに限定されている。ある金融機関では、トレーディング・ポジションと同様

に CVA を考慮しており、利益を稼得する機会(例えばミスプライスされたクレジットの利用)が識別さ

れた場合に、定められた市場リスク・リミットの範囲内で、CVA デスクに自己ポジションをとる権限を

与えている。これは CVA エクスポージャーを積極的にモニタリングし、CVA の削減が必要な場合に

取引を実行している 5社の内 4社が該当し、また DVA エクスポージャーをモニタリングしている調査

対象金融機関にも該当する。

信用エクスポージャーをヘッジする際に一般的に利用される商品:

• シングルネーム CDS

• インデックス CDS(例、iTraxx IG、CDX NA IG):主に流動性の低い参照企業、シングルネーム

CDS の満期までの流動性が低い場合、セクター/地域的なヘッジで使用される

• コンティンジェント CDS(すなわち、クレジット・イベント及び他の特定のイベントの両方をトリガー

として支払が行われる CDS)

• (スワップ、先物及びオプションといった)金利や外国為替に関する標準的な(vanilla)商品:期

待エクスポージャーの関連する要素をヘッジするため

• ボラティリティ・ヘッジ

• 相関ヘッジ

CDS 契約が存在しない場合、CVA ヘッジ戦略は、カウンターパーティが発行した有価証券のショート

売り(すなわち、借りて売る)で構成されることもある。また、少数の大規模投資銀行は、クレジット・ス

ワップション、ポートフォリオ・トランシェ、流動性が低い企業を参照先としたシンセティック CDO、ある

いはデフォルト時の期待エクスポージャーに直接リンクしたダイナミック・エクスポージャーが仕組ま

れた CDO を利用している。

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金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ 27

16. 信用リスク調整をどのレベルで会計処理しているか?

CVA(また、計算されている場合には DVA)を計上している 15 社のうち、ほとんどは、部門及び/又は会社レベルで計上している。そのうちの 2社は、集中的に計算される CVAの内部配賦方針に従っ

て、デスクレベルで CVA を計上している。ブックレベルで CVA を計算し、計上している金融機関も 1 社あった。

調査対象金融機関は概して、中央レベルで、もしくはグループまたは会社レベルで FVO 負債に関す

る自己の信用リスク調整を計算し、会計処理している。また、下位のレポーティング・ラインに対する

配賦は行っていない。したがって、企業の信用力の変化や自己の信用リスク調整の影響は、フロン

ト・オフィスのボーナスを決定する際には考慮されない。

9

7

2 1

部門 会社 デスク ブック

CVA/DVAが計上されるレベル

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28 金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ

17. CVA/DVA の計算手法について将来何らかの重要な変更を予定しているか?

調査対象金融機関の多くは、その CVA/DVA フレームワークの改善や開発を向こう 1 年から 2 年の

間で計画しているとのことである。ほぼ 3 分の 1 の金融機関で、1 年内にメソドロジーの大幅な改善

や向上が予定されている。

検討中の開発事項には以下が含まれる:

• MTM アプローチへの指向、及びヒストリカル・データへの依拠からの脱却

• DVA の計算(現時点で、そのような調整が行われていない場合)

• 計算に含まれるポジションの範囲の拡大

• エクスポージャー測定の高度化、例えば現行のモデルにおける PIT(時点)でのエクスポージャ

ー・シミュレーション数の増加

• リスク中立シナリオでのインプライド PD を考慮すべく、格付遷移モデルへの変更(従前、考慮さ

れていなかった場合)

• 現在部門レベルで計上されている CVA の、デスクに対する配賦(デスクレベルでの正しい行動

を達成するため)

• 自動化を促進し、1 回限りのもしくは個別計算を行わないためのシステム改良

調査対象金融機関の 3 分の 1 は、IASB における公正価値測定プロジェクトの完了(訳注;IFRS 第

13 号として 2011 年 5 月に公表済)、及びバーゼルⅢでの CVA 所要資本額の動向に注目している

と述べている。

また、CVA を計上しているものの、積極的には管理していない調査対象金融機関 10 社のうち 4 社

は、デリバティブに係る信用リスク・エクスポージャーを管理するために CVA デスクの設置を検討し

ている。

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金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ 29

18. 自己の信用リスク調整の計算について将来何らかの重要な変更を予定しているか?

FVO 負債に関する自己の信用リスク調整の対象範囲を、リテール向け仕組商品ポジションにまで拡

大することを計画している 1 社を除き、自己の信用リスク調整に関する方針を近い将来、大きく変更

することを見込んでいる調査対象金融機関はなかった。2 社はメソドロジーに対する若干の改善を予

定している。多くの金融機関は計算を行うのに相当な時間がかかることを強調していたが、プロセス

のさらなる自動化に関するプロジェクトを現在、有している調査対象金融機関は 2 社のみであった。

9

2 2 1

変更予定なし メソドロジーの 精緻化

自動化 適用範囲の拡大

将来、自己の信用リスク調整の計算プロセスを

変更する予定はあるか

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30 金融商品の公正価値への信用リスク調整に関するサーベイ

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深田 豊大 (Toyohiro Fukata) パートナー Tel: 03-3503-3093 [email protected]

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Ernst & Young ShinNihon LLC アーンスト・アンド・ヤングについて アーンスト・アンド・ヤングは、アシュアランス、

税務、トランザクションおよびアドバイザリーサ

ービスの分野における世界的なリーダーです。

全世界の15万2千人の構成員は、共通のバリ

ュー(価値観)に基づいて、品質において徹底し

た責任を果します。私どもは、クライアント、構

成員、そして社会の可能性の実現に向けて、プ

ラスの変化をもたらすよう支援します。詳しく

は、www.ey.com にて紹介しています。 「アーンスト・アンド・ヤング」とは、アーンスト・アンド・ヤ

ング・グローバル・リミテッドのメンバーファームで構成

されるグローバル・ネットワークを指し、各メンバーファ

ームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・

ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責

任会社であり、顧客サービスは提供していません。

新日本有限責任監査法人について 新日本有限責任監査法人は、アーンスト・アン

ド・ヤングのメンバーファームです。全国に拠点

を持ち、日本最大規模の人員を擁する監査法

人業界のリーダーです。品質を最優先に、監査

および保証業務をはじめ、各種財務関連アドバ

イザリーサービスなどを提供しています。アーン

スト・アンド・ヤングのグローバル・ネットワーク

を通じて、日本を取り巻く世界経済、社会にお

ける資本市場への信任を確保し、その機能を

向上するため、可能性の実現を追求します。詳

しくは、www.shinnihon.or.jp にて紹介してい

ます。 アーンスト・アンド・ヤングのIFRS (国際財務

報告基準)グループについて 国際財務報告基準(IFRS)への移行は、財務

報告における唯一最も重要な取り組みであり、

その影響は会計をはるかに超え、財務報告の

方法だけでなく、企業が下すすべての重要な判

断にも及びます。私たちは、クライアントにより

よいサービスを提供するため、世界的なリソー

スであるアーンスト・アンド・ヤングの構成員とナ

レッジの精錬に尽力しています。さらに、さまざ

まな業種別セクターでの経験、関連する主題に

精通したナレッジ、そして世界中で培った最先

端の知見から得られる利点を提供するよう努め

ています。アーンスト・アンド・ヤングはこのよう

にしてプラスの変化をもたらすよう支援します。

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