恒星の構造と進化の概説 - tohoku university official...

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恒星の構造と進化の概説 1 恒星の構造と進化に関する基本的事項 恒星の構造 (恒星の中心から表面までの圧力 P 、温度 T 、密度 ρ、ガスの組成等の分布) が時間とともに ゆっくりと変化することを恒星の進化という。恒星の構造と進化は、内部での力学的釣り合い (静水圧 平衡) と、恒星内部での熱エネルギーの保存 (発生と流れ) によって支配されている。 1.1 静水圧平衡 恒星内部での力のつり合いは、内向きの自己重力と外向きの圧力勾配の力の間で成り立つ。球対称の仮 定のもとで単位質量当たりの運動量保存の式は ˙ v = 1 ρ ∂P ∂r GM r r 2 (1.1.1) の様に書ける。ここで、左辺は加速度 (v は速度で ˙ v v の時間微分を表す)M r は中心から半径 r 球の中に入っている質量で、 M r = r 0 4πr 2 ρdr (1.1.2) のように定義される。G は万有引力定数をあらわし、(1.1.1) 式の右辺第2項は中心から距離 r 離れた場 所での内向きの重力加速度をあらわし、右辺第1項は圧力勾配による外向きの加速度である。 仮に、圧力がなくなったとしたら星は free-fall time τ で崩壊する。星の半径を R と書くと崩壊の 加速度は、R/τ 2 と書けるので (1.1.1) 式から、 R τ 2 GM R 2 −→ τ 1/ G ρ (1.1.3) が得られる。M は恒星の全質量で、 ρ は恒星の平均密度 ρ = 4π 3 GM R 3 GM R 3 である。太陽の平均密度は約1 gram/cm 3 なので、太陽の free-fall time は約1時間、太陽の 200 倍の半 径を持つ赤色巨星の平均密度は約 10 -7 gram/cm 3 なので、free-fall time は数ヵ月となる。 圧力勾配と重力との不均衡が生じた場合 free-fall timescale で是正される。恒星の進化の timescale free-fall timescale よりも格段に長いので、恒星では非常によい近似で静水圧平衡が保たれている。 (だ、脈動星は例外で、静水圧平衡の構造が不安定で、平衡状態の付近を振動し続ける。その振動周期は free-fall time 程度である。) 静水圧平衡を表す微分方程式は (1.1.1) (1.1.2) より dP dM r = GM r 4πr 4 ( または dP dr = GM r r 2 ρ ) (1.1.4) および dr dM r = 1 4πr 2 ρ ( または dM r dr =4πr 2 ρ ) (1.1.5) となる。 1

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恒星の構造と進化の概説1 恒星の構造と進化に関する基本的事項

恒星の構造 (恒星の中心から表面までの圧力 P、温度 T、密度 ρ、ガスの組成等の分布)が時間とともにゆっくりと変化することを恒星の進化という。恒星の構造と進化は、内部での力学的釣り合い (静水圧平衡)と、恒星内部での熱エネルギーの保存 (発生と流れ)によって支配されている。

1.1 静水圧平衡

恒星内部での力のつり合いは、内向きの自己重力と外向きの圧力勾配の力の間で成り立つ。球対称の仮定のもとで単位質量当たりの運動量保存の式は

v = −1ρ

∂P

∂r− GMr

r2(1.1.1)

の様に書ける。ここで、左辺は加速度 (vは速度で vは vの時間微分を表す)、Mr は中心から半径 r の球の中に入っている質量で、

Mr =∫ r

04πr2ρdr (1.1.2)

のように定義される。Gは万有引力定数をあらわし、(1.1.1)式の右辺第2項は中心から距離 r離れた場所での内向きの重力加速度をあらわし、右辺第1項は圧力勾配による外向きの加速度である。仮に、圧力がなくなったとしたら星は free-fall time τff で崩壊する。星の半径をR と書くと崩壊の

加速度は、∼ R/τ2ff と書けるので (1.1.1)式から、

R

τ2ff

∼ GM

R2−→ τff ∼ 1/

√Gρ (1.1.3)

が得られる。M は恒星の全質量で、ρ は恒星の平均密度

ρ =4π3GM

R3∼ GM

R3

である。太陽の平均密度は約1 gram/cm3 なので、太陽の free-fall time は約1時間、太陽の 200倍の半径を持つ赤色巨星の平均密度は約 10−7gram/cm3 なので、free-fall time は数ヵ月となる。圧力勾配と重力との不均衡が生じた場合 free-fall timescale で是正される。恒星の進化の timescale

は free-fall timescale よりも格段に長いので、恒星では非常によい近似で静水圧平衡が保たれている。(ただ、脈動星は例外で、静水圧平衡の構造が不安定で、平衡状態の付近を振動し続ける。その振動周期はfree-fall time程度である。)

静水圧平衡を表す微分方程式は (1.1.1)と (1.1.2)より

dP

dMr= −GMr

4πr4

(または dP

dr= −GMr

r2ρ

)(1.1.4)

およびdr

dMr=

14πr2ρ

(または dMr

dr= 4πr2ρ

)(1.1.5)

となる。

1

静水平衡の式に、理想気体の関係 P ∝ ρT/µ (µ はガスの平均分子量) を使い、粗い近似を使うと、Ps − Pc

R∼ −GM

R2ρ −→ Tc ∝

µM

R(1.1.6)

という関係が得られる。ここで、添字の s は表面の量を表し、c は中心の量を表す。この関係は、恒星が収縮して半径が小さくなると重力が強くなり、それに対抗する圧力勾配が必要となるので温度勾配も大きくなり、内部温度が高くなることを表している。この温度勾配は、熱エネルギーを中心から表面へと運ぶ。表面まで運ばれたエネルギーは星の表面から星の光として放出される。つまり、恒星は内部で静水圧平衡を維持する必要性から光を放出し、エネルギーを失う。失われた熱エネルギーは中心部での核融合反応によるエネルギー生成、または、収縮による重力エネルギーの発生でまかなわれる。つまり、静水圧平衡(自己重力との拮抗)これが恒星の進化の原動力であると理解する事が出来る。

1.1.1 ガスの平均分子量 µと元素組成 X,Y, Z

恒星内部構造を記述する際しばしば出てくるガスの平均分子量 µは、ガス粒子ひとつ当りの (原子質量単位で測った)質量を表す。逆に言うと、1/µは1原子質量当りのガス粒子数、1/(µmu)はガス1グラム当りの粒子数を表す。ここで、mu ≈ mp = 1.673× 10−24gである。また、1/µはイオンの数 1/µIと電子の数 1/µeとに分割して

=1µI

+1µe

と表す事もある。µI, µe はそれぞれイオンの平均分子量と電子の平均分子量という。ガスの元素組成をあらわすのに、水素の質量含有比、X、ヘリウムの質量含有比、Y、およびヘリウ

ムより重い元素の含有比、Z (慣例として「重元素 (heavy elements)量」または「金属量」(metallicity)

といわれる事が多い) が使われる事が多い。X + Y + Z = 1で3つのうちの2つの量が独立である。完全電離したガスの平均分子量とX,Y, Z との関係は、

1µ≈ 2X +

34Y +

12Z;

1µI≈ X +

14Y ;

1µe

=12(1 +X)

のように書く事が出来る。1/µI の式では Z/〈A〉 が無視されている。ここに、〈A〉 はヘリウムより重い元素の平均質量数を表す。

1.1.2 恒星の重力エネルギー

星の重力エネルギーは、星を構成しているガスすべてを無限遠まで運ぶのに必要なエネルギーに負の符号をつけたものとして評価することができる。(∵エネルギーが必要なだけ低いエネルギー状態にあると考えることができるから負とする。)いま、質量M の星の外側から質量を無限遠まで運んでいって、質量がMr残った状況を考え、さらに微小質量 dMrを取り去ることを考える。質量Mrをもつ半径 rの球を取り囲む微小質量 dMr の球殻を無限遠まで運ぶのに必要なエネルギーを dW とすると、中心からの距離が r′ (> r)での重力 (GMr/r

′2)dMrに逆らって運ぶので、

dW = dMrGMr

∫ ∞

r

dr′

r′2=GMr

rdMr (1.1.7)

となる。これを dMrについて積分することにより、星全体のガスを無限遠に運ぶのに必要なエネルギーW が求められる。星の重力エネルギーEgは−W であるから、

Eg = −∫ M

0

GMr

rdMr = −qGM

2

R(1.1.8)

と表される。ここで、qは1のオーダーの量である。

2

1.1.3 ビリアル定理

静水平衡の式 (1.1.4)の両辺に 4πr3をかけて、星全体で積分すると∫ M

04πr3

dP

dMrdMr = −

∫ M

0

GMr

rdMr = Eg (1.1.9)

となる。左辺を部分積分して、表面で P = 0、中心で r = 0であることと、(1.1.5)式を使うと、

Eg = [4πr3P ]MMr=0 − 3∫ M

04πr2P

dr

dMrdMr = −3

∫ M

0

P

ρdMr (1.1.10)

が得られる。理想気体では、P/ρ = (Cp − Cv)T = (γ − 1)ei という関係がある。ここに、Cpおよび Cvはそれぞ

れ定圧比熱と定積比熱を表し、γ = Cp/Cvと定義される。また、ei は単位質量当りの内部エネルギーを表す。理想気体であるか否かにかかわらず、圧力は運動量フラックスで表されるので、

P ∼ 13nv(mv) ∝ ρei

と書ける。ここで、n はガス粒子密度、m はガス粒子一個の質量、v はガス粒子の熱運動速度を表す。上の式で表されるように、P/ρは eiに比例する量であるので一般に、

P/ρ = (γ − 1)ei (1.1.11)

と書くことができる。但し、この γは一般には比熱比ではない。この関係を使うと (1.1.10)式から、この式は、恒星の静水平衡状態におけるビリアル定理

Eg = −3(γ − 1)Ei, where Ei ≡∫ M

0(γ − 1)eidMr (1.1.12)

が得られる。恒星の全エネルギーEtotはEgとEiの和であるから、

Etot = Eg + Ei = −(3γ − 4)Ei =3γ − 4

3(γ − 1)Eg

(= − 3γ − 4

3(γ − 1)qGM2

R

)(1.1.13)

と表される。この式は γ > 4/3のときにのみ、Etot < 0となり、星のガスが束縛された状態にあることを示している。単原子分子からなる理想気体の場合 γ = 5/3でこの条件を満たしている。光子ガスの場合、Prad = 1

3aT4 = 1

3Urad と表される(aは輻射定数、Uradは輻射エネルギー密度)ので、γ = 4/3に相当する。これは、星全体で輻射圧がガス圧に比べて優勢になってくると、Etot = 0の状態、つまり、束縛されない状態に近づいていくことを表している。

1.1.4 重力収縮

核融合反応によるエネルギーの供給がない場合でも静水圧平衡により内部に温度勾配が存在しエネルギーが流れ、恒星は光を発する。恒星は光を発することによりエネルギーを失う。luminosity(恒星から単位時間当たり放出されるエネルギー) を Lと書くと、それは total energy の減少率に対応するので、ビリアル関係を使うと

L = −dEtot

dt= (3γ − 4)

dEi

dt= − 3γ − 4

3(γ − 1)dEg

dt(1.1.14)

3

という関係が成り立つことがわかる。上の式から、核融合反応によるエネルギーの供給がない場合、恒星が光を発することにより内部エネルギーEiが増大し、重力エネルギーEgが減少する (星が収縮する)

ことがわかる。理想気体では Ei ∝ T なので、エネルギーを失うことによって温度が上昇する。このことは、‘恒星は「負の比熱」を持っている’ というように表現することもできる。

(1.1.8)式を使うと、Egの時間微分は近似的に

dEg

dt' −qGM2 d

dt

(1R

)= q

GM2

R2

dR

dt(1.1.15)

と書けるので、(1.1.14)式に代入すると、

L = −q 3γ − 43(γ − 1)

GM2

R2

dR

dt(1.1.16)

となる。内部温度が低く (Tc . 107K) 核融合反応が起きないような状態では、恒星は収縮(dR/dt < 0;重力収縮)をしなくてはならないことを上の式は示している。重力収縮によって重力エネルギーが減少し、開放されたエネルギーの一部が内部エネルギーの増加に使われ、残りが星の表面まで運ばれて星の光として放出されるというエネルギー収支になっている。重力収縮の timescale τgは次のように見積ることができる

τg =∣∣∣∣ dt

d lnR

∣∣∣∣ ' qGM2

RL∼ |Eg|

L∼ |Ei|

L

' 2× 107 (M/M�)2

(L/L�)(R/R�)years (� τff)

(1.1.17)

ここで、太陽の luminosity は L� = 3.85 × 1033 erg s−1 である (1 erg = 10−7J)。この timescaleはKelvin-Helmholtz time-scale ともいわれる。上の式からわかるように重力収縮の timescale τg は力学的timescale にくらべて非常に長い。このことは、重力収縮では静水平衡が非常によい近似でなりたっていることを意味する。一方、水素からヘリウムへの核融合反応によるエネルギー発生が起こっている主系列星段階の寿命 τn

は、水素からヘリウムへの核融合反応によって約 0.7% の質量がエネルギーに変わり、星全体の約 10%の水素がヘリウムに変えられるまで主系列段階が続くということから、

τn ∼0.1× 0.007Mc2

L∼ 1010 M/M�

L/L�years

のように評価できる。したがって恒星の重力収縮の timescaleは主系列段階の進化の timescaleのおよそ百分の一であることがわかる。

1.1.5 重力収縮による恒星内部温度変化

次に、重力収縮による恒星内部の温度変化をHomologous contractionの近似を使って考察しよう。静水平衡の式 (1.1.4)に (∂/∂t)Mr を作用させる (ここでの時間変化は静水圧平衡を保ちながらKelvin-Helmholz

timescale でゆっくり起こる時間変化を考える)と

∂P

∂Mr= 4

GMr

4πr4r

r≡ −4

r

r

∂P

∂Mr(1.1.18)

4

が得られる。ここで、ドットは時間微分(例えば P ≡ (∂P/∂t)Mr)を表す。次に、r/rが恒星内部の場所によらず一定である (中心からの距離が、同じ比率で変化する)という homologous contractionの仮定

r

r=R

R(1.1.19)

を導入する。そうすると、(1.1.18)式は積分できて、

P = −4R

RP + constant

が得られる。星の表面で、P = 0, P = 0であるから、constant=0で、上の式は

P

P= −4

R

R(1.1.20)

となる。この式は P /P も場所に依存しない量であることを示している。次に、(1.1.5)式を tで微分して、

∂r

∂Mr=

14πr2ρ

(−2

r

r− ρ

ρ

)(1.1.21)

を得る。これに homologous contraction の仮定 (1.1.19)式を使うと

R

R

∂r

∂Mr=

∂r

∂Mr

(−2

R

R− ρ

ρ

)(1.1.22)

となる。従って、ρ

ρ= −3

R

R(1.1.23)

となり、ρ/ρも場所によらない量であることがわかる。温度 T は P と ρの関数で表せるので、

T

T=(∂ lnT∂ lnP

P

P+(∂ lnT∂ ln ρ

)P

ρ

ρ=

[4(∂ lnT∂ lnP

+ 3(∂ lnT∂ ln ρ

)P

](−RR

)(1.1.24)

と書くことができる。さらに、 (∂ lnT∂ ln ρ

)P

= −(∂ lnT∂ lnP

(∂ lnP∂ ln ρ

)T

(1.1.25)

であることを使って、(1.1.24)式は

T

T=[4− 3

(∂ lnP∂ ln ρ

)T

](∂ lnT∂ lnP

(−RR

)(1.1.26)

と表すことができる。この式は、恒星が重力収縮 (または膨張)で半径が変化したときに起こる内部温度の変化を表している。理想気体の場合 P ∝ ρT であるから、(∂ lnP/∂ ln ρ)T = 1, (∂ lnT/∂ lnP )ρ = 1となり、

T

T=

(−RR

)=

13ρ

ρ(1.1.27)

5

となるので、収縮によって星の内部温度が上昇する。密度がある程度大きくなると電子が縮退をはじめる。電子の縮退したガスでは、電子の圧力 Peがイ

オンの圧力 PIに比べて大きいので、

P = Pe + PI ' Pe ∝ ρ53 =⇒

(∂ lnP∂ ln ρ

)T

' 53

(1.1.28)

となる。ここでは、ガスは非相対論的に縮退 (ρ < 106g/cm3)しているとした。また、温度依存性は理想気体で近似できるイオン圧から来るので、(

∂ lnP∂ lnT

=1P

∂(Pe + PI)∂ lnT

' PI

P

(∂ lnPI

∂ lnT

=PI

P(1.1.29)

と表せる。従って、T

T' − P

PI

(−RR

)(1.1.30)

となる。重力収縮によって密度が十分に大きくなり、電子の縮退が強くなると、重力収縮によって温度T が逆に減少しはじめることを示している。このことは、恒星が重力収縮することによって到達することのできる最高温度 Tmax が存在することを意味している。密度が大きくないときは、ガスはほぼ理想気体としてふるまい、恒星の内部温度は

T ∝ M

R∝ ρ

13M

23 (1.1.31)

と表されるので、ある密度にたいする温度は質量が大きいほど高い。従って、Tmaxは質量が大きいほど高い値を持つ。質量が十分小さく (M . 0.08M�)、Tmax でも中心で水素からヘリウムへの核融合反応によるエネルギーの発生が十分でない場合、主系列星となることができない。このような星は褐色矮星(brown dwarfs)といわれる。また、M . 8M� のほしは、ヘリウム燃焼が終わった後、電子の縮退がおき炭素燃焼はおこらないで、白色矮星となる。さらに、M & 10M� のほしは、電子の縮退は起こらず炭素燃焼、ネオン燃焼、....... と進んで最終的には超新星となる。

縮退が強くなると温度が下がるのは、内部エネルギーの増加が Fermi energy の増加にいってしまうためであると理解することができる。完全に縮退した状態では圧力は密度だけの関数となるので、星の質量と半径が一対ーの関係になる。

6

1.2 物質の状態式と電子の縮退 (electron degeneracy)

上で見たように、自己重力は圧力勾配で支えられるので、恒星内部を構成しているガスの性質が恒星の内部構造と進化に大きな影響を与える。圧力 P は一般にガス圧 Pgasと輻射圧 Prad = 1

3aT4 に分けられ、

P = Pgas + Prad; β ≡ Pgas

P;

Prad

P= 1− β

のように表される。さらに、ガス圧はイオンの分圧PIと電子の分圧Pe の和となっている (Pgas = PI+Pe)。ガス粒子密度 N が十分小さいときガスの熱運動はMaxwell-Boltzmann分布で表され、理想気体と

してふるまう。このとき、運動量 p をもつ粒子の単位位相空間体積当たりの粒子数 f(p)は

f(p) = fM(p) ≡ N

(2πmkBT )3/2e−

p2

2mkT (1.2.1)

で与えられ、ガス圧 Pgas は

Pgas =∫fM(p)(v · p) cos θd3p =

4π3

∫ ∞

0fM(p)

p4

mdp = NkT (1.2.2)

となる。電子のようなスピン 1/2をもつ Fermi粒子からなるガスを考える。量子力学により、位置と運動量

からなる位相空間 (実空間×運動量空間の 6次元空間)の単位体積あたりの、スピン 1/2の粒子の状態数はスピンの自由度が 2であることから 2/h3であることが知られている。一方 Fermi-粒子に対するPauli

の排他原理より、同じ状態をもつ 2つ以上の粒子が存在することが禁止されている。この原理は分布関数 f(p)に対し、

2h3

> f(p) (1.2.3)

という条件が課せられることを意味する。したがってMaxwell-Boltzmann分布が、運動量の全領域 (0 ≤p <∞)でPauliの排他原理と矛盾しない、つまり、ガスが理想気体としてふるまうための条件は、fM(p)

が p = 0 のとき最大である事から、

2h3≥ fM(p = 0) =

N

(2πmkBT )3/2(1.2.4)

であるということとなる。この条件は実空間での粒子密度N が大きくて温度が低いときに満たされなくなる可能性がある。満たされなくなると、Fermi粒子からなるガスは理想気体の性質からずれ、縮退の影響が現われる。この様な状態では、運動量 pが小さいところで粒子密度が (1.2.3)の条件によって抑えられ、そのぶん運動量の大きい粒子の密度がマクスウェル分布に比べて大きくなっている。そのため、縮退の効果によりガス圧は理想気体の式を適用した場合よりも大きくなる。不等式 (1.2.4)は粒子の質量が小さい場合程満たさなくなりやすい。そのため、恒星の構造の進化では電子の縮退が重要な働きをする。電子に対して (1.2.4)式が満たされなくなる場合、つまり電子の縮退が始まる条件は、Ne = ρ/(µemp)

の関係 (µeは電子の平均分子量を表す)をつかって、

ρ

µeT 3/2>

2mp(2πmekB)3/2

h3≈ 8.05× 10−9 (c.g.s.) (1.2.5)

のように表される。例えば、電離したヘリウム核と電子だけから成るガス (µe = 2) で温度が 108Kの場合、ρ > 1.6× 104g/cm3で電子の縮退が起こる。

7

マクスウエル分布 (M-分布)がパウリの排他原理に抵触しない場合 (左図)

はガスは理想気体として振る舞う。密度が大きく (または温度が非常に低い)場合、右の図のように、運動量の小さい部分でマクスウエル分布 (破線)が排他原理に抵触するのでその部分の粒子のエネルギーはマクスウエル分布の場合よりも大きくなるので、マクスウエル分布よりもエネルギーの高い粒子が多くなるような分布となる (実線)。

1.2.1 完全に縮退した状態の電子ガス

完全に縮退した電子ガスの運動量分布はすべて排他原理によって決められているので、分布関数は

fe(p) ={

2h3 for p ≤ pF

0 for p > pF(1.2.6)

のように表される。(上の状態が、粒子の運動量分布が温度に全く依存しないことから縮退 (degenerate)

した状態といわれる。) Fermi momentum pF は粒子密度Neとの関係

Ne =ρ

µemp=

8πh3

∫ pF

0p2dp =

8πp3F

3h3−→ p3

F =3h3

8πmp

ρ

µe(1.2.7)

から決まる。これは、ρ

µe= 9.739× 105

(pF

mec

)3

g cm−3 (1.2.8)

のようにも表す事が出来、ρ & 106g cm−3 のとき pF & mec となり相対論的な縮退となる事がわかる。縮退した電子の圧力は

Pe =2h3

4π3

∫ pF

0vp3dp =

8π3h3

15me

p5F ∝

µe

)5/3

if pF � mec

8π3h3

c

4p4F ∝

µe

)4/3

if pF � mec

(1.2.9)

となり、非相対論的縮退の時 (v = p/me)は密度の 5/3乗に比例し、extreme relativistic な時 (v = c)は密度の 4/3乗に比例する事が分かる。完全に縮退した電子ガスの圧力は温度に全く依存しない。さらに、電子の縮退した状態では Pe � PI

で、星の構造を決める全圧力は P ≈ Peとなっているので、そのような状態で核融合反応が起こると、温度が上昇しても膨張が起こらないで温度がさらに上昇し、フラッシュといわれる核融合反応の暴走がおこる。

8

M. Schwarzshild “Structure and Evolution of the Stars” (1958)

上の図は、log ρ− log T 図上の各領域での、物質の状態の性質の概要を表したものである。密度が小さくて温度が非常に高い領域では輻射圧が優勢で、逆に密度が大きくて温度が比較的低い領域では電子の縮退の影響が大きくなる事が見て取れる。太陽の中心から表面迄の状態はガス圧優勢な領域にあり、十分内部の高温部では理想気体に近い性質を持つが、表面近くの低温部では水素ヘリウムの不完全電離領域および中性領域が存在する。

1.3 Polytropeガス球1.3.1 Lane-Emden式

中心からの距離 rを独立変数としたときの静水平衡と質量分布の式

dP

dr= −GMr

r2ρ,

dMr

dr= 4πr2ρ (1.3.1)

に入っている変数は、P, ρ,Mr であるのに対し、式が2本なのでこのままでは閉じていない。 一般に、圧力 P は密度 ρだけでなく温度にも依存するので、星の構造を得るためには、熱エネルギーの保存を考え、温度勾配を与える微分方程式を加える必要がある。しかしここでは熱エネルギー保存を考えるのを後回しにし、Polytropeの関係式

P = Kρ1+ 1n (1.3.2)

を仮定して力学平衡の式を閉じさせる。この関係と静水平衡の式を解いて得られる polytrope ガス球は恒星の構造に対する粗い近似として有用であることが多い。ここで、n は polytropic index で適当な値(1 ∼ 4)を仮定する。(n = 1.5は単原子分子理想気体の等エントロピー構造、つまり場所場所の圧力、密度、温度が断熱関係で与えられる場合に対応する。) また、K は比例定数で、恒星の質量と半径と関係づけられる。一方、縮退したガスに対しては K は物理定数によって与えられる。

(1.3.1)式からMrを消去すると、

d

dr

(r2

ρ

dP

dr

)= −4πGr2ρ (1.3.1′)

9

となる。この式に polytrope 関係式 (1.3.2)を使って密度分布に関する2階の微分式

Kd

dr

(r2

ρ

dρ1+ 1n

dr

)= −4πGr2ρ (1.3.3)

が得られる。さらに、変数 θを

ρ = ρcθn

(P = Pcθ

n+1)

(1.3.4)

で定義し (ρcは中心の密度)、(1.3.3)式に使うと

Kρ1ncd

dr

[r2

θn

dθ1+n

dr

]= −4πGr2θnρc (1.3.4)

となる。dθn+1/dr = (n+ 1)θndθ/drであることと、rの代わりに、無次元化された中心からの距離 ξ

r =

√(n+ 1)K

4πGρ

1n−1

c ξ (1.3.5)

を (1.3.3)に使うと、Lane-Emden式

1ξ2

d

(ξ2dθ

)= −θn (1.3.6)

を得る。中心 (ξ = 0、ρ = ρc)では、

θ = 1, anddθ

dξ= 0 (1.3.7)

となっている。二番目の関係は中心付近で

dθ/dξ ∝ dP/dr ∝Mr/r2 ∝ r

であることから理解できる。(中心ではどの方向にも力が加わらない。)

(1.3.6)式を中心付近で、展開すると

θ = 1− 16ξ2 +

n

120ξ4 + . . . (0 < ξ � 1) (1.3.8)

が得られる。θは中心から外側に向けて単調減少し行き、ある ξの値でゼロとなる。そこがポリトロープ球の表面

で、そこでの ξの値を ξ1 と書く。(ξ > ξ1で θは正負の間を振動するが、その領域の解は使わない。)ξ1の値はポリトロープ指数の値によって異なる。

Lane-Emden式の解は n = 0, 1, 5の場合にだけは次のような解析的な解が求められる:

1) n = 0の場合は密度一定の非圧縮性流体に対応し、P ∝ θ となっており、θ(ξ)は

θ(ξ) = 1− ξ2/6, ξ1 =√

6 (1.3.9)

のように表される。この場合 P ∝ θである。

10

2) n = 1の場合 ρ ∝ θ、P ∝ θ2となっており、θ(ξ)は

θ(ξ) =sin ξξ, ξ1 = π (1.3.10)

とあらわされる。

3) n = 5の場合 θ(ξ)はθ = (1 + ξ2/3)−1/2, ξ1 →∞ (1.3.11)

と表される。この場合半径は無限大であるが質量は有限である。

他の場合には数値的に解が求められる。下の表は種々の polytropic index に対する polytrope 球の表面の値 ξ1、 ξ21(dθ/dξ)1 および中心密度と平均密度の比 ρc/ρを与える。

Lane-Emden解の定数n ξ1 −ξ21

(dθndξ

)1

ρc/ρ

0.0 2.4494 4.8988 1.00.5 2.7528 3.7871 1.83611.0 3.1416 3.1416 3.28991.5 3.6538 2.7141 5.99072.0 4.3529 2.4111 11.4032.5 5.3553 2.1872 23.4063.0 6.8969 2.0182 54.1833.5 9.5358 1.8906 152.884.0 14.972 1.7972 622.414.5 31.836 1.7378 6189.55.0 ∞ 1.7321 ∞

Lane-Emden 解 θ(ξ)

1.3.2 Polytrope球の性質

Polytrope球の表面での量 ξ1、 ξ21(dθ/dξ)1は恒星の種々の物理量と結びつけることができる。

1.3.3 平均密度

平均密度 ρはその定義から

ρ =3

4πR3

∫ R

04πρr2dr =

3ρc

ξ31

∫ ξ1

0θnξ2dξ = −3ρc

ξ31

∫ ξ1

0

d

(ξ2dθ

)dξ = −3ρc

ξ1

(dθ

)1

(1.3.12)

と表される。上の表から、ポリトロープ指数 nが大きいほど ξ1が大きく |(dθ/dξ)1|が小さいので、nが大きいほど、ρ/ρcが小さい、つまり質量の中心集中度が大きい事がわかる。

1.3.4 半径と質量

  polytropeガス球の半径は ξの定義式 (1.3.5)から

R =

√(n+ 1)K

4πGρ

1n−1

c ξ1 (1.3.13)

で与えられ、質量 (M = 4π∫ R0 ρr2dr)は

M = 4π[(n+ 1)K

4πGρ

1n−1

c

]3/2

ρc

∫ ξ1

0θnξ2dξ = −4π

[(n+ 1)K

4πG

]3/2

ρ3−n2n

c ξ21

(dθ

)1

(1.3.14)

11

のように表される。n = 5のポリトロープに対しては ξ1 =∞ で半径が無限大であるが、ξ21 (dθ/dξ)1は有限値を持つので質量は有限である。言い替えると、n = 5のポリトロープは中心質量集中度が無限大の、有限な質量を持つガス球である。nが5よりも大きい場合には質量も発散する。主系列星などの理想気体に近いガスからなる星の近似的な構造としてポリトロープ球を考える場合、

Kは構造によって決まる量であるので、ある質量にたいして色々な半径を持つことができる(これは温度分布の不定性に対応する)。逆にいうと、ある質量と半径を与えるとK が決まる。それに対し、白色矮星のように電子の縮退圧で支えられている場合 (P ' Pe)、圧力は密度だけに依

存し、Kは物理定数で決まる量となっている。この場合、(星の構造に温度分布は無関係なので)星の質量に対し半径が一意的に決まる。例えば、非相対論的に縮退している場合、§3.7.3 より、

P ' Af(xF) ' A85x5

F =85AB−5/3

µe

)5/3

= 1.004× 1013

µe

)5/3

dyn cm−2 (1dyn = 10−5N)(1.3.15)

で与えられ、n = 1.5のポリトロープの関係となっている。この場合 µe = 2とすると K は cgs 単位で3.16× 1012となっている。このことを使うと白色矮星の質量と半径の関係を得ることができる。(1.3.13)

と (1.3.14)式から ρc を消去すると

Mn−1 = Rn−3

[(n+ 1)K

4πG

]n

ξ3−n1

[−4πξ21

(dθ

)1

]n−1

(1.3.16)

が得られる。この式に n = 1.5 とこのポリトロープ球に対する ξ1、ξ21(dθ/dξ)1と上のKの値を入れると

R ' 8.9× 108

(M

M�

)− 13

cm ' 1.3× 10−2

(M

M�

)− 13

R� (1.3.17)

が得られる。この式は、白色矮星の半径がM−1/3に比例し (質量が大きいほど半径が小さい)、白色矮星の典型的な質量 0.6M� に対してその半径が太陽半径の百分の1程度であることを表している。また、相対論的極限の縮退の場合 §3.7.3 より、

Pe ' 2Ax4F = 2AB−4/3

µe

)4/3

= 1.243× 1015

µe

)4/3

dyne cm−2

(1.3.18)

で、n = 3 のポリトロープとなっており、µe = 2に対してKは cgs 単位で 6.13× 1014という値をもつ。(1.3.14)式を n = 3に適用すると、質量は中心密度に依存せずある一定値

M = 4π(K

πG

)3/2

× 2.018 ' 1.46M� (1.3.19)

となることがわかる。この質量が白色矮星の質量に対する Chandrasekhar limit である。(1.3.14)式に、n = 3− ε (1� ε > 0)を入れてみると、

M ∝ ρε/6c ⇒ ρc ∝M6/ε

という関係が導かれ、白色矮星の質量が Chandrasekhar limitに近付くにつれて中心密度が限りなく大きくなってゆくことがわかる。

12

(理想気体が適用される主系列星に対しても n = 3 のポリトロープが使われることがある。しかし、このときは、K の値は、物理定数でないことに注意する必要がある。ある質量に対して (1.3.14)式 K の値が決まり、(1.3.13)式によって、中心密度と半径の関係が決まる。つまり、この場合には限界質量は存在しない。)

1.3.5 重力ポテンシャルと重力エネルギー

 ポリトロープガス球内での重力ポテンシャルは静水平衡の式にポリトロープの関係を使うと

dr= −1

ρ

dP

dr= −(n+ 1)

d

dr

(P

ρ

)となるので、積分して

ψ = −(n+ 1)P

ρ− GM

R(1.3.20)

が得られる。ここで、積分定数−GM/Rは表面 (P = 0)での値から得られた [ψ(r > R) = −GM/r]。また、静水平衡の式 dP/dMr = −GMr/(4πr4)の両辺に 4πr3 をかけて星全体で積分することにより、

Eg = −∫ M

0

GMr

rdMr = 4πr3P |M0 − 3

∫ M

0P (4πr2)

dr

dMrdMr = −3

∫ M

0

P

ρdMr (1.3.21)

という関係が得られる。この式に (1.3.20)式を使うと、

Eg =3

n+ 1

∫ M

0ψdMr +

3n+ 1

GM2

R(1.3.22)

となる。さらに、重力エネルギーEgは

Eg =12

∫ M

0ψdMr (1.3.6)

とも書ける [(1.3.6)式参照]ことを使うと (1.3.22)式より

Eg = − 35− n

GM2

R(1.3.23)

が得られる。つまり、ポリトロープ球では (1.3.3)式において q = 3/(5 − n)であることを表している。また、ビリアル定理を使うと、内部エネルギーEiおよび全エネルギーEtotは

Ei = − Eg

3(γ − 1)=

1(5− n)(γ − 1)

GM2

REtot =

4− 3γ(5− n)(γ − 1)

GM2

R(1.3.24)

と表される。

上の (1.3.6)式は、ポテンシャルの定義式 dψ/dr = −GMr/r と、星の表面と外で ψ(r) = −GM/r

(r ≥ R)となることを使って、以下のように部分積分によって導出することが出来る:

Eg = −∫ M

0

GMr

rdMr = −

[12GM2

r

r

]M

0

− 12

∫ M

0

GM2r

r2dr

dMrdMr

= −12GM2

R− 1

2

∫ R

0

drMrdr = −1

2GM2

R− 1

2[ψ(r)Mr]

R0 +

12

∫ R

0ψdMr

drdr =

12

∫ M

0ψdMr

13

1.3.6 等温度球に対する Lane-Emden 式

理想気体で等温球の構造は (1.1.2)式のポリトロープ関係で n→∞に対応する。この場合、異なる変数を使う方が都合が良い。等温の理想気体の圧力は

P = (γ − 1)CvTρ ≡ K ′ρ (1.3.1)

のように表せるので、これを静水平衡の式に使うと

dP

dr= −dψ

drρ −→ d ln ρ

dr= − 1

K ′dψ

dr(1.3.2)

となる。これを積分してln ρ = − ψ

K ′ + C

が得られる (C は積分定数)。中心の密度を ρcと書くと、

C =ψc

K ′ + ln ρc

となるので、変数Θ

Θ ≡ (ψ − ψc)/K ′ (1.3.3)

を定義すると (ψc は中心の ψの値)

ρ = ρce−Θ (1.3.4)

が得られる。Θの定義から明らかなように、中心でΘ = 0である。(1.3.1)式と (1.3.4)式を (1.1.1′)式に使うと、

K ′ d

dr

(r2dΘdr

)= 4πGr2ρce

−Θ (1.3.5)

が得られる。無次元化した中心からの距離 Ξ

Ξ ≡√

4πGρc/K ′ r (1.3.6)

を定義して (1.3.5)式に使うと、等温球に対する Lane-Emden式

1Ξ2

d

(Ξ2dΘdΞ

)= e−Θ (1.3.7)

が得られる。境界条件は中心(Ξ = 0)で Θ = 0、および dΘ/dΞ = 0(中心で力がはたらかない条件)で与えられ

る。(1.3.7)式の中心付近での解は、中心付近で展開することにより

Θ =16Ξ2 − 1

120Ξ4 +

11890

Ξ6 + . . . (1.3.8)

ρ ∝ e−Θ = 1− 16Ξ2 +

145

Ξ4 + . . . (1.3.9)

のように得られる。一方、中心から離れたところ Ξ � 1での (1.3.7)式の解を考える。Ξ −→ ∞で ρ −→ 0なので、C、

α を正の定数としてe−Θ = CΞ−α or Θ = − lnC + α ln Ξ (1.3.10)

14

と書き (1.3.7)式に代入するとCΞ−α =

1Ξ2

d

dΞ(αΞ) = αΞ−2

となるので、C = 2、α = 2であれば、(1.3.10)式が Ξ� 1での (1.3.7)式の解となっていることがわかる。これは、中心から十分はなれたところで

ρ ∝ r−2

となることを表している。したがって、等温球に境界は存在せず全体の質量 (∫∞0 4πr2ρdr)も無限大で

ある。

ポリトロープについては、Chandrasekhar, S. “An Introduction to the Study of Stellar Structure” (1939, Dover) に詳説されている。

1.4 恒星内部でのエネルギー輸送

恒星内部の静水平衡の式を閉じさせて内部構造を得るためには、温度分布を記述する式が必要である。この式を得るためには、エネルギーの発生と輸送について考える必要がある。この章ではエネルギー輸送について考察する。温度勾配が存在すると、熱エネルギーは温度の高い場所から低い場所へと運ばれる。星の中で重要な働きをするエネルギー輸送には、輻射、電子伝導、対流がある。

1.4.1 輻射によるエネルギーの流れ

恒星の中での温度勾配は|dT/dr| ∼ Tc/R ∼ 107K/1011cm = 10−4K/cm

であり、それに対して 光子の平均自由行程 `は`κρ ∼ 1; ` ∼ 0.1cm

なので、上向きに走る光子と下向きに走る光子の温度さは

`|dT/dr| ∼ 10−5K� 1

非常に小さく、恒星内部のほとんどの領域で、radiative transfer は diffusion 近似がよい近似となっている。

Diffusion approximation のもとでは振動数 ν の光による energy flux Fν は、

Fν = − 4π3(κν + σν)ρ

dBν

dr= − 4π

3(κν + σν)ρdT

dr

dBν

dT(1.4.1)

で与えられる。ここで、κν は単位質量当たりの吸収係数、σν は単位質量当たりの散乱断面積を表す。恒星の内部構造に重要なのは全振動数領域の輻射によるエネルギーフラックス

Lr,rad

4πr2= Frad =

∫ ∞

0Fνdν = −4π

3ρdT

dr

∫ ∞

0

1(κν + σν)

dBν

dTdν (1.4.2)

である。 ここに、Lr,radは星の中心を中心とする半径 rの球面を単位時間当り外向きに通過する輻射エネルギーを表す。吸収係数 κν はガスの密度と温度と光の振動数の関数であり、振動数に関して非常に複雑な振舞いを示す。その部分を切り離すために、以下のように定義されたRosseland mean opacity κ

=[∫ ∞

0

dBν

dTdν

]−1 ∫ ∞

0

1κν + σν

dBν

dTdν (1.4.3)

15

を導入する。そうすると total flux は

Lr,rad

4πr2= − 4ac

3ρκT 3dT

dr(1.4.4)

のように表される。

(Rosseland-mean)Opacity

Rosseland-mean opacity は単に opacityまたは吸収係数と言われる事も多いが、恒星内部の放射によるエネルギーの流れを決定する非常に重要な量である。 opacityを得るためにはあらゆる可能な吸収プロセスを種々のイオンに対して考慮して (1.4.3)式の積分を実行する必要があり、非常に大掛かりな仕事である。恒星内部構造のモデルの計算には、温度、密度および元素組成の関数として公開されているopacity tablesを使用する。現在、OPAL (http://opalopacity.llnl.gov/opal.html)とOP(http://opacity-

cs.obspm.fr:8080/opacity/)の二つのグループによる opacity tables が使用できる。下の図は、例として太陽組成に対する opacty が温度と ρ/T 3

6 の関数として描かれている (OPAL)。ここで、T6 = T/(106K)

で、密度の代わりに ρ/T 36 が使われているのは、星の内部でその値が大きくは変わらないからである。

Rosseland mean opacityに寄与するプロセスには、bound-bound吸収(線吸収)、bound-free吸収、free-free吸収、及び電子散乱 (electron scattering)等がある。electron scattering は高温で密度が小さい状態に現われる (他のプロセスが働かなるので、電子散乱が opacity の底値となる)。Electron-scattering

opacity κelは Thomson scattering 断面積 σT = 6.65× 10−25cm2に、1 gram 当りの電子の数を乗じたものとなる。1 gram 当りの電子の数 は 1/(µemp) (= NA/µe)であらわされ、電子の平均分子量 µe は完全電離したガスでは µe = 2/(1 +X) (X は水素の質量含有量) と書ける。したがって、完全電離したガスでは κel は温度と密度に対する依存性をもたず

κel =σT

µemp= σT

NA

2(1 +X) ' 0.20(1 +X) cm2/g (1.4.5)

16

のように表される。(ただし、非常に高温(T � 108K)ではコンプトン効果に因って電子散乱の不透明度は上の式の値よりも小さくなる。)

Bound-free吸収、free-free吸収の寄与は近似的にKramers型の opacity

κK = κ0ρT−3.5 (1.4.6)

で表される。Opacity は比較的高温の状態では、温度が高くなる程減少する。この傾向は、上の図の高温側で温度が増加するにつれて opacityが大雑把に行って減少している事に対応する。ただし、H、He、Fe、などが電離する温度付近では opacity が大きくなり、’コブ’を形成する。このこぶは、恒星の振動を励起するのに重要な働きをする。とくに、∼ 2× 105K 付近にある、Feの内殻電子の電離による吸収のコブは 1990年代にOPAL opacity table により始めて明らかになり、これ迄原因の不明であった β Cep

型などの高温脈動星の脈動がこの Fe-bumpによって励起する事が明らかになった。低温側で、温度が. 104で opacityが温度とともに急激に増加するのは、負の水素イオンの吸収の効

果である。

恒星のMass-Luminosity(-Radius) relation

輻射の energy flux の式 (1.4.4)をおおざっぱな近似を使って書くと、

L

R2∝ T 4

ρκR

の関係が得られる。さらに、ρ ∝M/R3と書ける事と、静水圧平衡の式から得られる T ∝ µM/R (1.6)

の関係を使うとL ∝ µ4M3

κ(1.4.7)

が得られる。大質量星のように密度が小さく opacity が electron scattering opacity で近似的に表される場合、κ が定数になるので、

L ∝ µ4M3 (Electron scattering opacity) (1.4.8)

の Mass-luminosity relation が得られる。ただし、質量が非常に大きい場合は、輻射圧が優勢になり、luminosity は下記の Eddington luminosity (∝M) に近づいてゆく。このような場合、Mass-luminosity

関係は L ∝M に近づいてゆく。また、中小質量星の内部のように opacity が Kramers 型で近似的にあらわされる場合、

κ ∝ ρT−3.5 ∝ M

R3

(µM

R

)−3.5

= µ−3.5M−2.5R−7.5

と書くことが出来るので、(1.4.7)式は

L ∝ µ7.5M5.5R−0.5 (Kramers opacity) (1.4.9)

のように書ける。このように、星の luminosity Lは、核融合によるエネルギー発生率ではなく、静水圧平衡とエネル

ギーの流れによってほぼ決まっている。

17

Eddington Luminosity

恒星内部では、radiation pressure Prad = 13aT

4 のように書けることをつかうと、輻射エネルギー flux

に対する (1.4.4)式は温度の勾配のかわりに radiation pressure の勾配を使って、

Lr,rad

4πr2= − c

ρκ

dPrad

dr(1.4.10)

のようにも表される。この式と、静水圧平衡の式を組み合わせる事により、luminosity の上限であるEddington luminosity を導く事が出来る。静水平衡の式に現れる圧力をガス圧 Pgasと輻射圧 Pradに分け、後者に対して (1.4.10)式を使うと、

静水平衡の式は以下のように変形される:

−ρGMr

r2=dP

dr=dPgas

dr+dPrad

dr=dPgas

dr−κρLr,rad

4πcr2

従って、dPgas

dr= −GMr

r2ρ

(1−

κLr,rad

4πcGMr

)(1.4.11)

という関係が得られる。星の表面 (Lr,rad = L,Mr = M)でガスの密度は外側に向かって減少しているので、ガス圧も外側に

向かって減少していて (dPgas/dr) < 0であるべきなので、上の関係から

1− κL

4πcGM> 0 (1.4.12)

という条件が得られる。次の節で記されているように、表面近くで密度が非常に薄い場所での Rosseland

mean opacity は電子散乱による opacity κel が支配的になり、水素ヘリウムが完全電離している状況では、κel = 0.20(1 +X)とかけるので、(1.43)式は、恒星の luminosity L に対する上限値を与える式

L <4πcGMκel

≡ Ledd = 6.5× 104M/M�1 +X

L� (1.4.13)

となる。つまり、星の luminosity は限界 luminosity Ledd よりも小さくないといけない。Ledd は Ed-

dington luminosity とよばれる。

1.4.2 電子による熱伝導

温度勾配があると、ある面を通過するガス粒子のエネルギーは、温度の高い側から来るもののほうが大きいので、ガス粒子の熱運動によってエネルギーが流れる。これが粒子による熱伝導である。電離したガスの中では、イオンに比べて電子の方が速く飛び交っているので、熱伝導はもっぱら電子によって起こる。しかし、一般には輻射によるエネルギー輸送の方が、電子熱伝導に比べて格段に効率がよい。これは、通常光子の平均自由行程が電子の平均自由行程に比べて非常に長いためである。しかし、太陽コロナのように高温で稀薄なガスでは電子の熱伝導が重要で、コロナ内は電子の熱伝導のはたらきでほぼ等温に保たれる。また、逆にガスの密度が非常に大きく電子が縮退している状態では、空いている電子のエネルギー状態が少ないので、電子の衝突の確率が減少して平均自由行程が長くなる。そのため、電子の縮退した高密度状態では輻射によるエネルギー輸送よりも、電子熱伝導によるエネルギー輸送の方が卓越している。このため、白色矮星の内部は、効率のよい電子熱伝導によりほぼ等温に保たれる。

18

熱伝導係数を kcと書くと、熱伝導によるエネルギーフラックス Fcondは

Fcond = −kcdT

dr(1.4.14)

と表される。Fconは輻射によるエネルギーフラックスと同様に温度勾配に比例するので、熱伝導に対する不透明度 (conductive opacity) κconを

κcon =4acT 3

3ρkc(1.4.15)

と定義すると、輻射と熱伝導両方によるエネルギーフラックスは

Frad + Fcon = −(

+1κcon

)4ac3ρ

T 3dT

dr(1.4.16)

と表すことが出来る。conductive opacity κconは密度が大きいほど小さい値を持ち、熱伝導が重要になってくる。そのため、熱伝導の効果は主系列星の内部では非常に小さいが、進化の進んだ星の中心部に実現される非常に密度の高い状態では輻射よりも効率がよくなる。下の図は、密度-温度図上の各領域で、どの吸収が Rosseland mean opacity に重要であるかを表し

たものである。高温で低密度では電子散乱 (electron scattering) が重要で、低温高密度では電子による熱伝導が重要となる。この図で α と記されている量は、電子の縮退の程度を表す量で、α = 0の線よりも高密度側で電子の縮退が重要となる。

19

1.4.3 対流によるエネルギーの輸送

対流の発生ガスの流れが発生しない限り、星の内部でエネルギーは輻射と熱伝導によって運ばれる。ガスの不

透明度が大きい場合、あるエネルギーフラックスを輻射と熱伝導で運ぶには大きな温度勾配が必要となる。しかし、温度勾配の大きさがある臨界値を越えると対流が発生し、エネルギーフラックスの大部分を対流が運ぶようになる。

最初に対流の発生を考える。いま、ガスの塊が揺らぎによって微小距離drだけ上昇する場合を考える。ガス塊内部の物理量には添え字 i を付けてあらわし、ガス塊の内外を問わず元の位置から dr上昇した場所での物理量には ∗を付けて表す。

上昇を始める位置、つまりガス塊が生まれた位置ではガス塊の内部と外の温度、密度、圧力は同じであったとする。また、ガス塊は常に周囲と圧力平衡を保ちながら上昇する、つまり常に Pi = P がなりたっていると仮定する。微小距離 drだけ上昇したとき、ガス塊の内部と外の密度差は

ρ∗i − ρ∗ =(∂ρ

∂T

)P

(T ∗i − T ∗) =

(∂ρ

∂T

)P

(dTi

dP− dT

dP

)dP

drdr (1.4.17)

と表される。ガス塊内の密度の方が大きい (ρ∗i > ρ∗)とき、ガス塊に負の浮力が働き元の位置に戻る。この時、このガスの構造は安定である。逆に上昇したガス塊内の密度の方が小さい (ρ∗i < ρ∗)場合、ガス塊に浮力が働きさらに上昇し、ガスの運動が発生する。これは対流が発生することを意味している。(∂ρ/∂T )P < 0、dP/dr < 0なので、(1.4.17)式は

dTi

dP<dT

dP

のとき対流が発生することを示している。一般に熱の交換に要する時間は力学的時間スケールに比べて非常に長いので、ガス塊の運動は断熱

的に起こると近似できる。つまり、dTi/dP ' (dT/dP )ad と書ける。ここで、添え字の adは断熱変化を表す。したがって、

dT

dP>

(dT

dP

)ad

(1.4.18)

のとき、つまり温度勾配が断熱的温度勾配より急なときに対流が発生する。輻射(と熱伝導)だけでエネルギーが運ばれると仮定したときに予想される温度勾配に添え字 radを

付けて表すと、(1.4.4)式より(dT

dP

)rad

=(dT

dr

)rad

(dP

dr

)−1

=Lrad

4πr23κρ

4acT 3

r2

GMrρ=

3κLr

16πGMracT 3(1.4.19)

と表される (κには conductionの効果が入っているものとする)。恒星内部構造の記述にはしばしば、圧力に対する対数的温度勾配:

∇rad ≡(d lnTd lnP

)rad

=P

T

3κLr

16πGMracT 3=

κLr

16πGMrc(1− β),

∇ad ≡(d lnTd lnP

)ad

(1.4.20)

20

が使われる。ここに、β はガス圧の全圧に対する比 Pgas/P で定義され、

1− β =Prad

P=aT 4

3P(1.4.21)

である。これらの記号を用いると、対流の発生条件 (1.4.18)は

∇rad > ∇ad (1.4.22)

と書ける。 対流は∇rad(∝ κLr/Mr)が大きくなるときに起こるので、温度が比較的低い層または不完全電離層で opacity κ が大きいときに対流が起こる。また、大質量主系列星のように、中心近くで、表面から出るほとんどのエネルギーを出す場合、Lr/Mr が大きいので、中心部で対流が起こる (後述)。対流が起こった場合、対流によるエネルギーフラックスを Fconvと書くと、対流層内でのエネルギー

の流れはLr

4πr2≡ Fconv + Frad + Fcond (1.4.23)

と表される。対流はエネルギーを運ぶと共に、ガスの混合を行い対流が起こっている領域の元素組成を均一にする効果も持つ。

理想気体では、断熱変化に対して、P ∝ ργ ∝ (P/T )γ =⇒ T ∝ P (γ−1)/γ であり、単原子分子のとき、γ = 5/3であるから、∇ad = (γ − 1)/γ = 2/5 = 0.4 となる。

対流によるエネルギーの輸送; Fconv

(1.4.23)式を解くためには、対流によるエネルギー flux Fconv と温度勾配との関係を知る必要がある。恒星内で起こる対流はスケールが大きいため、高いレイノルズ数の乱流状態となっている。星の中での乱流に対する我々の知識はまだ不十分で、星の中における対流の物理状態を正確に記述する理論は存在しない。そのため、現在でも多くの場合、1950年代に導入された混合距離モデル (mixing length theory)

という単純なモデル (またはそれから派生したモデル)もとづいて対流による熱の輸送を計算する。混合距離モデルでは、周りより僅かに温度の高いガス塊 (eddy or blob)が混合距離 ` 上昇した後周りのガスと混ざりあってその塊が持っていたエネルギーの超過を周囲に解放し、逆に周りより僅かに温度の低いガス塊は混合距離 ` 下降した後周囲のガスと混ざり合う。したがって、上昇、下降どちらの場合もエネルギーは内側から外側の方向に運ばれる。星の中心からの距離が rの球面を考えよう。その面を通過する対流によって運ばれるエネルギーフ

ラックス (単位面積当たり、単位時間当たりに通過するエネルギー)は

Fconv = Cpρ v∆T (1.4.24)

と表される。ここに、Cpは等圧比熱、vはガス塊の速度、∆T はガス塊と周囲との温度差を表す。またv∆T は v∆T の平均値を表す。ガス塊は周囲と圧力平衡を保ちながら (つまり亜音速 (subsonic speed)で)

移動すると仮定するので、等圧比熱と温度超過の積で単位質量当たりの熱エネルギー超過が得られる。ガス塊の中の温度と周囲との温度差 ∆T は、ガス塊の中での温度勾配 (dT/dr)i と周囲の温度勾配

dT/drとの差から生じる。ガス塊が移動する間に周囲との熱の交換は、表面近くで起こる対流では無視できないため、実際のモデル計算ではその効果が考慮されるが、ここでは、議論を簡単にするため熱の交換はないとし、ガス塊の中の温度は断熱的に変化するとし、(dT/dr)i ' (dT/dr)ad とする。(実際の進化モデル計算には熱の交換も考慮した式が使われている。)

21

この断熱近似のもとでは、ガス塊の移動にともなうその内部の温度超過∆T の変化は

d∆Tdr'[(

dT

dr

)ad

−(dT

dr

)]= (∇T −∇ad)

T

Hp(1.4.25)

と表される。ここに、対流層中での圧力に対する対数的温度勾配∇Tと、圧力変化に対する距離スケール (pressure scale height) Hpとは

∇T ≡d lnTd lnP

Hp ≡ −dr

d lnP=P

ρg(1.4.26)

のように定義される。gはその位置での重力加速度 g = GM/r2を表す。ガス塊は周囲圧力平衡にあるので、温度差∆T に相当する密度差は∆ρ = (∂ρ/∂T )p∆T と表される。

(∂ρ/∂T )p < 0なので、周囲よりも温度が高い時密度が低く、浮力 −g∆ρがはたらいて上方に加速される。ガス塊に対する運動方程式は

ρdv

dt= −g∆ρ = −g

(∂ρ

∂T

)p

(∇T −∇ad)T∆rHp

(1.4.27)

と書くことが出来る。ここに、∆rはガス塊が発生してから移動した距離を表す。上の式の両辺に v =

d∆r/dtを乗じ、(1.4.27)式の右辺の係数がガス塊の移動距離程度では大きく変化しない事を仮定すると積分できる形になり

v2 ' 12gδ(∇T −∇ad)

(∆r)2

Hp(1.4.28)

を得る。ここに δは定圧膨張率 δ ≡ −(∂ ln ρ/∂ lnT )p を表す。(1.57)式右辺の 12 はガス塊が移動する際

に約半分のエネルギーが周囲のガスを押し退けるのに使われる事を考慮して付けられた。ある面を通過するガス塊が生まれてから移動した平均距離∆rが混合距離 `の半分、つまり∆r = `/2

とするとv2 ' δ

8(∇T −∇ad)

g`2

Hp, ∆T ' `

2HpT (∇T −∇ad) (1.4.29)

となる。従って対流によるエネルギーフラックス Fconvは、(1.4.24)式で、

v∆T '√v2 ∆T (1.4.30)

の近似を行なうと

Fconv 'ρCpT

4√

2

√δP

ρ(∇T −∇ad)3/2

(`

Hp

)2

(1.4.31)

と表すことが出来る。この式から明らかなように、対流によるエネルギーフラックスは、混合距離と圧力変化のスケールの長さとの比 `/Hp がパラメータとなっている。`/Hp に適当な値を与え、上の式を(1.4.23)式に使って、対流層内での温度勾配が決定される。(上の式は、対流ガス隗が断熱的に振る舞うと仮定して得られた式であるが、実際のモデル計算ではガス隗と周辺との熱の交換が考慮され、その場合には Fconv は上の式のように表すことができない。)

上の式を太陽の対流層に当てはめてみよう。簡単のため、完全電離した水素からなる理想気体 (δ = 1)

を想定し、` ∼ Hpとしてみる。このとき、

Lr,conv = 4πr2Fconv ∼ 1.2× 1012r2ρT 3/2(∇T −∇ad)3/2

22

となる。太陽対流層の比較的内側の部分のでの状態、ρ ∼ 1gcm−3、T ∼ 106K、r ∼ 1010cmを使うと、

Lr,conv ∼ 1041(∇T −∇ad)3/2erg/s

となる。従って、太陽表面から出るエネルギー ∼ 4 × 1033erg/s を対流で運ぶのに必要な温度勾配は∇T −∇ad ∼ 10−6となる。つまり、対流層深部では、温度勾配は良い近似で断熱的温度勾配となっている。このことは、内部では対流による熱輸送の効率が非常に良いこと示している。

Kippenhahn & Weigert (1991)

表面に非常に近いとこでは、ガスの密度が小さいために対流の熱輸送効率が充分でなく、比較的大きな∇T −∇ad (super-adiabatic temperature gradient)が生じる。∇T −∇adが大きな層でのその値の大きさは、仮定された混合距離の大きさに依存し、それは星の半径に影響を及ぼす。そのため、表面温度が低くて対流外層を持つような星に対する構造モデルの半径は 仮定されたmixing length の値に依存し、一意的には決まらない。観測との比較に使われるモデルを計算する際には、1M�の質量を持つモデルが、46億年進化したときに太陽の半径と luminosityを持つように、mixing length と pressure scale

height との比 `/Hpの値を決定し、その値を他の質量を持つモデルについても適用されることが多い。しかし、`/Hpの値が対流層の中で一定であるという保障はないし、太陽と異なる構造をもつ星に対

して、太陽で calibrate した値が適当であるという保障もない。対流の取扱いは恒星内部構造理論のうちでもっとも不確定な点の一つである。

1.5 エネルギー保存

恒星内部でのエネルギーの交換が準静的に起こるとすると、ある単位体積にたいするエネルギー保存は、熱力学の法則 d′Q = ρTdS の関係から導くことが出来る。ここで、d′Qは単位体積あたりガスが吸収する熱エネルギー、Sは単位質量当たりの entropy を表す。恒星内部ガスに上の関係を適用すると、

−∇ · F + ρ(εn − εν) = ρTdS

dt(1.5.1)

23

と表される。ここに∇ ·F はエネルギーフラックス F による単位体積あたりのエネルギーの損失率を表し、εnは核反応による単位質量当たりのエネルギー発生率、εν は ニュートリノの発生による単位質量当たりのエネルギー損失率を表す。[ニュートリノは通常恒星内のガスと相互作用せず発生すると光速に近い速度で星の外に出てしまうのでエネルギーの損失となる。(例外:超新星爆発)] 球対称の場合、

∇ · F =1r2

d

drr2Fr =

14πr2

d

dr(4πr2Fr) =

14πr2

dLr

dr

とかけるので、 (1.5.1)式は− 1

4πr2dLr

dr+ ρ(εn − εν) = ρT

dS

dt

とかける。ここに、Lr は中心から rの距離にある球面を単位時間当たりに通過するエネルギーを表す。上の式に、4πr2ρ = dMr の関係を使うと、(Mr, t)を独立変数としたときの Lrに対する微分方程式

dLr

dMr= εn − εν − T

dS

dt(1.5.2)

を得る。

重力エネルギー源ビリアル定理により、恒星内のガスはエネルギーを得る (TdS/dt > 0)と膨脹して温度 (内部エネルギー)

が減少し、逆にエネルギーを失うと重力収縮して温度が上昇する (収縮による重力エネルギーの減少にともない解放された重力エネルギーの一部が内部エネルギーとなる)。重力収縮によるエネルギー発生率εgを

εg ≡ −TdS

dt(1.5.3)

と定義すると、(1.5.2)式はdLr

dMr= εn − εν + εg (1.5.4)

のように書くことが出来る。

恒星内でおこる熱核反応恒星内部で起こる核融合反応は熱核反応と呼ばれる。それは、ガスを構成する粒子(原子核)が熱運動で飛び回っている間に衝突して核反応を起こすためである。粒子 a と粒子 b が反応を起こして粒子 c と光子 γ になったとする:a + b −→ c + γ この核反応が起こったとき、反応前後での静止質量の差に対応するエネルギーをもつガンマ線が放出される。光はMeVのオーダーのエネルギーを持ち、発生するとすぐに周りのガスに吸収されて粒子の熱運動のエネルギーと低いエネルギーの光に変えられる。原子核の静止質量は、その質量数(核内の陽子、中性子の数)とその結合エネルギー EB によって

決まる。原子核の陽子数、中性子数をそれぞれ Z,N とかくと、原子核の静止質量Miは

Mi = Zmp +Nmn − EB/c2

と表される。ここに、mp、mnはそれぞれ、陽子と中性子の質量を表す。核融合反応では、質量数は保存されるので、

(Ma +Mb −Mc)c2 = EB,c − EB,a − EB,b (1.5.5)

結合エネルギーの差がエネルギーとして出てくる。次ぺ-ジの図は1核子当りの結合エネルギー EB/A

を質量数に対して描いたものである。1核子当りの結合エネルギーは質量数と共に急激に増加し、A(=

24

N +Z) & 12では∼ 8MeV程度となっている。その値は質量数∼ 60の鉄グループの原子核で最高となって、それより重い原子核に対してはなだらかに減少している。そのため、水素からヘリウム、炭素、等と鉄までの重い原子核がつくられていく核融合反応が起こるとエネルギーが発生し、恒星の中でのエネルギー源となる。

Kippenhahn & Weigert (1991)

二つの原子核 a, bが、単位体積当たり、単位時間当たりに起こす核反応 rab(単位体積当たりの核反応率)は、

rab =NaNb

1 + δab

∫ ∞

0σab(E)v(E)f(E)dE =

NaNb

1 + δab〈σv〉ab (1.5.6)

のように表される。ここで、Na, Nbは原子核 a, b の数密度、σab(E)は運動エネルギー E でおこる a, b

間の反応の反応断面積、vはその相対速度、f(E)は運動エネルギー E に対する規格化されたMaxwell-

Boltzmann分布関数f(E) ∝ e−

EkT E1/2

を表し、〈σv〉abは σab(E)v(E)の平均を表す。δab は原子核 a, b が同じ種類の原子核のときに 1 、違う種類の場合には 0 をもつ。原子核は正電荷を持っているので、クーロン反発力が働く。質量数Aをもつ原子核の半径は近似的に

Rn ≈ 1.2× 10−13A1/3 cm (1.5.7)

のように表される。 原子核の a, b の質量数をAa, Ab と書き、電荷をそれぞれ Za, Zb と書くと、それ等か反応を起こすために越えなければならない静電エネルギーの壁 (Coulomb barrier)は

EC ≈ZaZbe

2

1.2× 10−13(A1/3a +A

1/3b )

erg ≈ 1.2ZaZb

A1/3a +A

1/3b

MeV (1.5.8)

となる。これに対して、主系列星およびヘリウム燃焼段階の星の中心温度は 107 ∼ 108K で、これに対応する熱運動エネルギー (∼ kBT ) は 1 ∼ 10 keV となっている。したがって、星の中で核反応がおきるためには原子核はトンネル効果によって、Coulomb barrier を通過する必要がある。EC � E のときのトンネル効果による透過率 P`(E) はWKB 近似によって求められ、

P`(E) ∝ e−ζ/√E , with ζ = π

√2mab

ZaZbe2

~(1.5.9)

のように表される。

25

Kippenhahn & Weigert (1991)

反応断面積 σabはこの Coulomb barrier透過率 P`(E)に比例するとともに、二つの原子核 a, b の相対速度に対するドブロイ波長 (DeBroglie wavelength)の 2乗に比例する (面積に対応する)。ドブロイ波長は相対速度に対する運動量を pと書くと、

λ =h

p=

h√2mabE

なので、λ2は 1/E に比例することがわかる。反応断面積 σabのこれらのエネルギー依存性を具体的に表して、

σab =S(E)E

e−ζ/√E (1.5.10)

と表し、Astrophysical S-factor S(E)を定義する。σabがエネルギーとともに急激に変化するのに対し、S(E) はエネルギー E に対してゆっくり変化する量となる。一般に、恒星内部で起こる核反応での相対運動のエネルギー E が、反応断面積を計測する実験でもちいられるエネルギーにくらべて非常に低いので、外挿によって恒星内部での熱核反応に対応する反応断面積を得る必要がある。それには、エネルギー依存性の小さいAstrophysical S-factor S(E)を使うほうが都合がよい。[共鳴的反応が起こる場合はS(E)にも強いエネルギー依存性があるため特別の扱いが必要であるが、以下では簡単のため非共鳴的反応だけを考える。]

Cross section を Astrophysical S facotor を使って表すと、

〈σv〉 =√

8πmab

(kT )−3/2

∫ ∞

0S(E) exp

(− EkT− ζ√E

)dE (1.5.11)

を得る。積分の中の exp[−E/(kT )]はマクスウエル分布からきたもので、この値はエネルギーが大きくなるに連れて急速に減少する。一方 exp(−ζ/

√E)はクーロン壁に対する透過確率からきたものでエネル

ギーが増加するに連れて大きくなる。それらの積は下図に表されているように二つの関数の裾の交わる当りのエネルギーに鋭いピークを持つ。このピークはガモフ-ピーク (Gamow-peak)と呼ばれる。

Clayton “Principles of Stellar Evolution and Nucleosynthesis”(1968)

26

ピークの位置 (E0)は、−E/(kT )− ζ/√E が最大になるところなので、

d

dE

(− EkT− ζ√E

)= − 1

kT+

12ζE−3/2

0 = 0 −→ E0 =(ζkT

2

)2/3

のように得られる。exp(− E

kT −ζ√E

)のピークの値は E = E0として

exp(− E0kT− ζ√E0

)= exp

(− E0kT− 2E3/2

0

kTE−1/2

0

)= exp

(−3E0kT

)≡ e−τ (1.5.12)

のように得られる。ここに、τ は

τ ≡ 3E0kT

= 3(ζ2

4kT

)1/3

∝m

1/3ab (ZaZb)2/3

T 1/3(1.5.13)

で与えられる。exp

(− E

kT −ζ√E

)を E0(ピーク) のまわりで (2次まで)展開し、(1.5.11)式の積分を解析的に実行す

ることができて、〈σv〉 ≈ 8~

35/2mabπe2S0

ZaZbτ2 exp(−τ) (1.5.14)

が得られる。温度依存性は τ2e−τ (τ ∝ T−1/3) に入っているが、τ2よりも e−τ のほうが温度変化に対して急激に変わるので、核反応率は温度が高いほど大きい。また、二つの原子核の電荷の積が大きいほど(高いクーロン壁のために)高い温度でしか核反応が起こらない。一回の核反応で放出されるエネルギーをQと書くと、単位時間当り単位質量当りに放出されるエネ

ルギー εnはεn =

Qrab

ρ=

Q

ρ

NaNb

1 + δab〈σv〉 (1.5.15)

と表される。εnの温度依存性は(∂ ln εn∂ lnT

= −23−(

∂τ

∂ lnT

= −23

3(1.5.16)

のように表される。星の中の状態では多くの場合 τ � 1 なので、核反応によるエネルギー発生率は温度に非常に敏感である。

1.5.1 電子遮蔽効果

自由電子は正の電荷を持つ原子核に引き寄せられる傾向を持つので、原子核どうしのクーロン反発力を弱める効果を持ち、電子遮蔽 (electron screening)といわれる。電場のポテンシャル φのもとでの単位体積あたりの原子核の数Niと電子の数Ne はボルツマン分布に従うとすると、

Ni = N0ie−Zieφ/(kBT ) ≈ N0i[1− Zieφ/(kBT )]

Ne = N0eeeφ/(kBT ) ≈ N0e[1 + eφ/(kBT )]

(1.5.17)

のように表される。ここで、Ziは原子核内の陽子数を表し、Zieφ/(kBT )� 1であることを仮定した。また、N0i、N0eは平均の数密度をあらわし、中性ガスの条件から、N0i = ZiN0e の関係が成り立っている。静電ポテンシャル φはポアソンの式

∇2φ = −4π(NiZi −Ne)e ≈ 4π(N0iZ2i +N0e)

e2φ

kBT=

φ

r2D(1.5.18)

27

で与えられる。ここで rDはデバイ長といわれる長さで、この距離離れていると電子の遮蔽効果により原子核の電荷が約 1/3になる。この式を、ポテンシャルが原子核の近くで球対称となっているという仮定のもとに解くと、

φ =Zie

re−r/rD (1.5.19)

が得られる。exp(−r/rD)によって原子核の電荷の効果が弱められる。デバイ長は、

rD ≈ 0.9× 10−8

√T6µI

Zi(Zi + 1)ρcm (1.5.20)

のように表され、太陽の中心部ではデバイ長は原子核の大きさ (∼ 10−13cm) にくらべて非常に長い。このような状態では電子遮蔽の効果は弱く、電荷 ZaZbの原子核が近づくときのクーロンエネルギーは

ZaZbe2

re−r/rD ≈ ZaZbe

2

r− ZaZbe

2

rD(1.5.21)

のように、近似的に一定値 U0 ≡ ZaZbe2/rDだけ下がることがわかる。この効果により、トンネル効果

の透過率があがり反応斷面積が大きくなる。この効果は粒子が U0だけ大きなエネルギーで衝突すると考えてもよい。電子遮蔽の効果を考慮した量に添字 sをつけ、考慮してない量に添字 nsを付けて表し、U0 � E であることを使って反応率 〈σv〉s を表すと

〈σv〉s =∫ ∞

0σns(E + U0)v(E)f(E)dE

=∫ ∞

U0

σns(E ′)v(E ′ − U0)f(E ′ − U0)dE

≈ 〈σv〉nseU0

kBT

(1.5.22)

のように書くことができ、弱い電子遮蔽の効果は eU0

kBT (電子遮蔽因子)をかけることで表されることがわかる。

1.6 水素燃焼

4個の水素原子核(陽子)からヘリウム原子核が合成されてエネルギーが発生する現象は水素燃焼といわれる。水素燃焼は、温度が∼ 107Kの主系列星の中心部で起こり、それらのエネルギー源となっている。水素燃焼には、主に太陽質量程度かそれ以下の主系列星で起こる ppチェイン反応と、大中質量主系列星でおこる CNOサイクルがある。

28

1.6.1 ppチェイン反応

ppチェイン反応は2つの水素原子核(陽子)が重水素になり (pp-反応)、できた重水素がさらに水素原子核と融合して 3Heとなる反応を起点とする。後続の反応の種類により pp1、pp2、pp3反応にわけられる。pp1では、pp-反応が2回起こって2個の 3He の融合によってヘリウムが合成されるのに対し、pp2、pp3では一回の pp-反応でできた 3Heが既存の通常のヘリウム原子核 4Heと融合して 7Beが合成される。pp2では 7Beが電子を捕獲するのに対し、pp3では陽子と反応する。太陽では pp1と pp2

によってほとんどの ppチェイン反応がおこる。pp3はエネルギーの発生に関しては無視できる程の寄与しかしないが、この反応ではエネルギーの高いニュートリノが発生するため、太陽ニュートリノの観測にとって重要な連鎖反応である。

ppチェイン反応で起こる反応のうち、最初に起こる pp-反応がもっとも起こりにくい (反応率が小さい)。そのため、ppチェイン反応によるヘリウム合成率も pp-反応によって決まる。pp-反応で関与する電荷が小さいので、反応率の温度依存性が小さく、ppチェイン反応によるエネルギー発生率は温度の4乗程度に比例する。

1.6.2 CNOサイクル

CNOサイクルは、水素原子核が炭素、窒素、酸素の原子核に次々に捕獲され4個の水素原子核がされたときにひとつのヘリウム原子核が生成されて、炭素、窒素、酸素原子核は元に戻るという反応で、CNO

原子核は触媒のようなはたらきをする。(ただし、CNO原子核全体の量は変化しないが、個々の元素の組成比は変化する。)CNOサイクルは、炭素・酸素が関与するCNサイクルと、酸素が関与するONサイクルのからなる。高温になるほど、種々のONサイクルが寄与するようになる。

29

CNサイクル中 14N + 1H → 15O + γ の反応がもっとも遅いので、CNO サイクルによる水素燃焼率はこの反応によって決まり、この反応率に、サイクルが一回まわるたびに発生するエネルギーをかけると CNOサイクルによるエネルギー発生率が得られる。

14N+ 1H反応では、pp反応に比べて大きな電荷が関与するためその反応率の温度依存性は pp反応よりも大きい。CNOサイクルによるエネルギー発生率は∼ 2× 107K程度で温度のおよそ 15乗に比例する。エネルギー発生率の温度依存性が、CNO サイクルのほうが ppチェイン反応よりも大きいことから、CNOサイクルによる水素燃焼は、比較的中心温度の高い大中質量星で卓越し、逆に小質量星では ppチェイン反応が卓越する。その境目は約  1.1M�

 で、太陽中心での水素燃焼の内約 2%だけがCNOサイクルで起こっている。

10 20 30 400

2

4

6

8

pp chainとCNO cycleによる水素燃焼のエネルギー発生率の温度変化。ここで、

T6は T/106をあらわし、密度は100g/cm−3、水素の質量組成は 0.7、

CNOの質量組成は 0.01とした。

CNサイクル中 14N+ 1Hの反応がもっとも遅いので、CNOサイクルが平衡状態に達すると、元あった炭素、窒素、酸素のほとんどは窒素 (14N)になる。また、炭素の同位体比 12C/13Cは通常∼ 102程度であるが、CNOサイクルが平衡状態に達するとこの比は∼ 4 程度にまで小さくなる。これは、CNOサイクル中 12C+1H の反応と 13C+1H の反応の比がこの程度であることに対応する。一般に、赤色巨星の表面では、14N/12C、14N/16O および 12C/13C などの値は、主系列星の場合と著しく異なる。これは、赤色巨星内部では深い対流外層が存在するので、以前に CNOサイクルが起こっていた場所の物質を対流層に取り込んだことを示している。

30

1.7 ヘリウム燃焼およびそれ以後の核燃焼

温度が∼ 108Kになると3個のへりうむ原子核 (α粒子)が融合して炭素原子核になる反応、トリブル・アルファ反応が起こる。これは二段階の反応

4He + 4He 8Be, 8Be + 4He→ 12C + γ

で起こる。8Beは非常に不安定な原子核で、∼ 10−16 秒の寿命でもとの二つの He原子核に崩壊する。そのため、4He と  8Be との間の反応は平衡状態になり、T = 108K, ρ = 105g cm−3 では数の比が 8Be/4He ∼ 10−9 になっている。このわずかな量の  8Be にさらに  4He が融合して 12Cが生成される。トリプル・アルファ反応で1グラムのヘリウムが炭素に変わる際に発生するエネルギーは約6× 1017erg で水素燃焼の場合の約 1/10である。トリブル・アルファ反応で生成された炭素の一部はさらにヘリウムと反応して

12C + 4He→ 16O + γ

酸素が生成される。したがって、ヘリウム燃焼による生成元素は主に、炭素と酸素である。12C(α, γ)16O反応は温度が高いほど triple-α反応より速く起こるので、酸素は He-burningの後期で急激に増える。(右図参照)

ヘリウム燃焼後温度が6~7億度になると炭素燃焼が起こり,炭素原子核は主に,酸素、ネオンマグネシウムと少量のシリコンに変えられる。したがって,中心部でのヘリウム燃焼によって生成された炭素・酸素中心核は炭素燃焼によって酸素・ネオン・マグネシウム中心核となる。 1グラムの炭素が炭素燃焼によって放出するエネルギーは約 4× 1017erg である。温度が15億度以上になると、エネルギーの高い光子がネオン原子核を壊して酸素原子核と α粒子

に分解し、生成された α粒子がネオン原子核に捕獲されてマグネシウムができる

20Ne + γ → 16O + α; 20Ne + α→ 24Mg + γ

というネオン燃焼が起こる。1グラムのネオンから 1.1× 1017erg のエネルギーが発生する。

31

温度が約 20億度になると酸素燃焼が起こる、高温なので種々の核反応が起こり,最終的には多量のシリコンと、S, Ca などが残る。1グラムの酸素から放出されるエネルギーは約 5× 1017 erg である。温度が 30億度以上になると、エネルギーの高い光子がシリコン原子核を壊すことをきっかけてして

種々の反応が起こり、もっともエネルギーの低い鉄の原子核が生成されるシリコン燃焼が起こる。1グラムのシリコンから放出されるエネルギーは約 2× 1017 erg である。炭素燃焼以後の核燃焼では,温度が非常に高いので,ニュートリノが数多く発生する。ニュートリノ

は周りの物質とほとんど相互作用をしないで星の外に出てしまうので,核燃焼で生成されたエネルギーの大きな割合がニュートリノによって失われてしまう。

ニュートリノ放射ニュートリノの散乱断面積 σν はおよそ 10−44cm2 (電子の散乱断面積はおよそ 7× 10−25cm2)と小さいので、その平均自由行程は非常に長い。平均自由行程は、粒子密度を nと書くと、

`ν =1

(nσν)∼ 1

(6× 1023σν)ρ∼ 2× 1020cm/ρ(cgs)

と表され、密度 ρに太陽の中心付近の値∼ 102gram/cm3を入れても平均自由行程は太陽の半径の数千万倍にもなる。従って、ニュートリノは発生すると周りの物質とまったく相互作用することなく光の速度に近いスピードで星の外に出て行く。そのため、ニュートリノの発生は恒星の物質にとってエネルギー損失となる。(超新星爆発時の状態は例外で、この際 ρ ∼ 1014g/cm3 にもなるので、`ν ∼ 20km となり、ニュートリノ transfer の正確な取扱が必要である。) ニュートリノは水素からヘリウムが出来る核融合反応などの中で起こるベータ崩壊の際にも放出されるが、その効果は通常 εn の中に入れられる。

εν の中には核融合反応に付随しないニュートリノの発生が考慮される。それらには対消滅ニュートリノ、光ニュートリノ、制動放射ニュートリノ、プラズマニュートリノなどの過程がある。対消滅 (pair annihilation)ニュートリノ:高温 T > 109Kの状態では光子同士の衝突による電子・陽電子対の生成とその逆反応が起こるが、後者の反応の起こる代わりに僅かの (1 : 10−19)確率でニュートリノ・反ニュートリノ対が生成される反応が起きる。

γ + γ ←→ e− + e+ −→ νe + νe

光 (photo)ニュートリノ: 光子が電子に衝突して散乱される過程 (Compton scattering)で、光が散乱される代わりにニュートリノ・反ニュートリノ対が生成される。

e− + γ −→ e− + νe + νe

制動放射 (bremsstrahlung)ニュートリノ:電子がイオンのつくる電場中で加速度運動をして出す制動放射 (free-free emission)で光子の代わりにニュートリノ・反ニュートリノ対が生成されることが可能である。

プラズマ・ニュートリノ: プラズマ中を伝播する光(角振動数 ω、波数 k)に対する分散関係式は、

ω2 = k2c2 + ω2p

32

と表される(ωp =プラズマ振動数 (ω2p = 4πe2Ne/me);ω > ωpのとき光は伝播する)。この式と、相対

論的エネルギー関係式、E2 = p2c2 +m2c4を比較するとそのような光は ~ωp/c2を静止質量とする粒子、

プラズモンとみなすことができる。このプラズモンが崩壊してニュートリノ・反ニュートリノ対が生成される。

これらの過程が温度と密度のどの領域で重要となるかが下図に表されている。ここで、µeは電子の平均分子量 (mean molecular weight)で、1 gram 中の電子の数は (アボガドロ数)/µeで与えられる。(水素より思い原子核から成る完全電離気体では、µe ' 2である; 1/µe = 0.5 ∗ (1 +X)) いずれの過程も、主系列星の中の状態よりもはるかに高温高密度状態でのみ星の構造に影響を及ぼす。

対消滅ニュートリノは非常に高温の状態で重要となり、プラズマニュートリノと制動放射ニュートリノとは、高密度で重要である。白色矮星内部では、多くの場合、T ∼ 108 − 107K、ρ ∼ 106 − 105g/cm3

なので、プラズマニュートリノによる冷却効果が重要となっている。

ウルカ過程: このほかに、進化の進んだ段階で、ウルカ過程によるニュートリノ放出が重要となる場合がある。これは、原子核の電子捕獲に続いて β崩壊をしてもとの原子核に戻るサイクル過程で、電子捕獲の際に電子ニュートリノが放出され、β崩壊の際に反電子ニュートリノと電子とが放出される。

e− + (Z,A)→ (Z − 1, A) + ν; (Z − 1, A)→ (Z,A) + e− + ν

この過程で原子核に変化はないが、ニュートリノと反ニュートリノが放出され、物質はエネルギーを損失する。

33

1.8 Summary of Basic Equations

これまで導いてきた星の力学的平衡とエネルギー保存を記述する式をまとめて書くと次のようになる:dP

dMr= −GMr

4πr4(1.8.1)

dr

dMr=

14πr2ρ

(1.8.2)

dT

dMr=

− Lr

(4πr2)23κ

4acT 3if ∇rad < ∇ad; radiative transport

−GMrT

4πr4P∇conv if ∇rad > ∇ad; convection

(1.8.3)

dLr

dMr= εn − εν − T

(∂S

∂t

)Mr

(1.8.4)

元素組成の空間分布Xi(Mr)が与えられると、上の微分方程式と状態式

P = f(ρ, T,Xi) (1.8.5)

によって閉じた系をつくる。

境界条件中心での境界条件は

Mr = 0 で r = 0 および Lr = 0 (1.8.6)

と書ける。星の表面にはハッキリとした境界がないので近似の程度によって種々の境界条件が考えられる。一例としては、

Mr = M で P = 0 および T 4 =12T 4

eff =L

8πσR2ph

(1.8.7)

と表される。ここで、Rph photosphere の半径をあらわす。

元素組成の変化恒星内部での元素組成分布の時間変化は恒星の構造の変化をもたらす一つの要因である。元素組成の初期値は空間的に均一な分布が仮定される。核融合反応がおき始めると元素組成分布が時間と共に変化してゆく。さらに、対流の起こる領域または、それ以外の場所でも自転などによって乱流が発生する場合には混合によっても元素組成分布が変えられてゆく。そのような元素組成分布の変化は(

∂Xi

∂t

)Mr

=(∂Xi

∂t

)nuc

+∂

∂Mr

(D∂Xi

∂Mr

)(1.8.8)

の様に表される。 ここで、右辺の最初の項は核反応による元素組成の変化を表し、第2項は対流および弱い乱流による混合を拡散係数がDの場合の拡散過程と見なして表したものである。

MESA: Stellar Evolution Package

MESAとよばれる星の進化モデルを計算するプログラムが公開されていて誰でも下記

http://mesa.sourceforge.net/index.html

から download する事が出来る。このプログラムを使うと、好みの質量、元素組成、質量放出率などのパラメータに対して恒星進化モデルを計算する事が出来る。

34

2 前主系列進化-誕生してから主系列星までの進化

 Pre-main-sequence starsのHR図上の分布には左上から右下に走る境界があり、それよりも明るくて表面温度の低い星は存在しないことが知られている。その境界線は星の誕生線 (Birthline)とよばれている。原始星への accretionがいつ止るかはわかっていないが、birthline は以下のようなモデルで再現されている。質量降着率が一定で、質量降着が長く続くほど質量の大きい原始星に成長してゆくと仮定する。質量降着の止った段階が pre-main

sequence star の誕生で、その質量はそれまでに降り積もったた質量であるとする。ある質量降着率を仮定して、質量を増大しつつある原始星のモデルを計算すれば、原始星の質量に対して、その半径が得られる。その質量と半径の関係は pre-main sequence starの誕生の時のHR上の位置、つまり誕生線を与える。上の図の理論的モデルは accretion rateを 10−5M�/yr として得られたものである。(Palla & Stahler

1993, ApJ 418, 414-425 ” The Pre-Main-Sequence Evolution of Inermediate- Mass Stars”) 1970年代以前は、全ての pre-main sequence starsは、内部全体が対流平衡となっている表面温度の低い状態(Hayashi phase)から始まると考えられていたが、質量の大きい星は表面温度の高い状態で誕生することが明らかになってきている。さらに、上の理論が正しいとすると、質量が 8 ∼ 10M�よりも大きな星は、その中心で水素がヘリウムに変わる核融合反応が起こるまで、accretionが止らない。このような星は、pre-main sequenceの段階が存在せず、主系列星として誕生する。

Pre-main sequence starsは静水平衡を保ちながら、Kelvin-Helmholtz timescale τg でゆっくりと(τg �free-fall time)収縮(重力収縮)してゆく。収縮によって開放された重力エネルギーの一部が星の内部の温度を上昇させるのに使われ、残りのエネルギーが星の光となる。pre-main sequence starsの比較的質量が小さいものはT Tauri型星として観測される。また、質量が比較的大きく (2M� ∼ 8− 10M�)

表面温度が高い天体はHerbig Ae、Be星とよばれる。(Herbig Ae/Be 星についての review : Waters &

Waelkens 1998, Ann Rev. A.Ap. 36, 233)これらの pre-main sequence stars は clumpy な星周物質のaccretion または、掩蔽などによると思われる、さまざまな timescale での変光が観測されている。

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3 主系列星の内部構造

近傍星のHR図

主系列 (Main sequence)星は左上 (高温で明るい領域)から右下(低温で暗い領域)にのびる帯状の領域に存在している。その主系列は半径一定の線から少しだけ傾いており、質量の大きい明るい主系列星ほど大きな半径を持つ事を表している。

主系列星は、中心での水素核燃焼によるエネルギー発生率と表面からのエネルギー放出率 (Luminosity)

とが釣り合っている

L =∫ M

0εndMr (3.0.1)

状態の星である。水素核燃焼によるエネルギー発生率 εnを近似的に

εn = ε0ρTν (3.0.2)

のように表す (CNO-cycleでは ν ≈ 16− 18)と、(3.0.1)式から粗い近似を使って

L ∝ ρT νM ∝Mν+2R−(ν+3) ≈M18R−19 (3.0.3)

の関係が得られる。ここで、ρ ∝MR−3と静水圧平衡の式と理想気体の関係から得られる T ∝M/Rを使った。さらに、最後の関係には典型的な値として ν = 16を使った。さらに、放射によるエネルギーの流れの式 (§1.4)から得られる関係

L ∝M3 for κ = κel; L ∝M5.5R−0.5 for κ = κ0ρT−3.5 (Kramers opacity) (3.0.4)

を (3.0.3)式 と組み合わせると、主系列星に対するMass-Radius 関係

R ∝M15/19 ≈M0.8 for κ = κel; R ∝M12.5/18.5 ≈M0.7 for κ = κ0ρT−3.5 (3.0.5)

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が得られる。この関係から、主系列星の平均密度は ρ ∝MR−3 ∝M−1.4∼−1.1となり、質量の大きい星ほど平均密度が小さい事が分かる。また、静水圧平衡と理想気体から得られる関係 Tc ∝M/R からは、

Tc ∝M0.2∼0.3 (3.0.6)

が得られ、中心温度は質量の関数としてゆっくり高くなる。核融合反応率は温度に敏感なので、わずかの温度の上昇でもエネルギー発生率の大きな増加となる。さらに、mass-radius関係 (3.0.5)式を (3.0.4)式に使うと、Kramars 型の opacity をもつ中小質量主

系列星に対してもMass-luminosity 関係が決まり主系列星に対して

L ∝M3 for κ = κel; L ∝M5.1 for κ = κ0ρT−3.5 (Kramers opacity) (3.0.4′)

という関係が得られる。これらの関係は、下図に表された観測的及び理論的関係を説明する。

Hansen et al. (2004)

下の図は 1M�と 10M�の星のゼロ年令主系列段階の内部構造を比較したものである。この図でm

はMrと同じ意味を持ち、lは Lr を表す。a)は密度分布、b)はMrと中心からの距離 rの関係、c)は温度分布、d)は核融合反応による単位質量あたりのエネルギー発生率、e)は Lr/Lの分布を表す。

b)図から、主系列星では、中心からの距離が全体の半径の半分程度の球に大半の質量が入っていることが見て取れる。a)図 c)図は、質量の大きい主系列星ほど平均密度は小さく、(3.0.6)式が示している程度に温度が高いことを示している。

37

Kippenhahn & Weigert (1991)

水素燃焼は 10M�の星ではエネルギー発生率の温度依存性が大きい CNO-cycle(εn ∝ T∼16)によって起こり、太陽質量の星では温度依存性のさほど大きくない pp-chain(εn ∝ T∼4)で起こっているので、エネルギ-発生率の中心集中度は大質量星のほうが大きい。そのため、10M� の主系列星では中心部の約 10%の質量で表面から毎秒放出される energy (luminosity L)のほとんどが作られているのに対し、太陽質量の星では中心部の約 30%の質量によって作られている (e図参照)。次の図は、星の質量 (横軸)に対して、内部の対流層の分布がどのように異なっているかを表したも

のである。対流は∇rad > ∇ad となったときに発生し、∇radは κLr/Mr に比例する。CNO-cycleによるエネルギー発生率は温度依存性が非常に大きいので、大中質量星では中心に非常に近いところでほとんどのエネルギーがつくられる。(上の図の 0.9L の場所を示す dashed line 参照) そのため、エネルギーフラックスが大きく、それを輻射でだけで流すには、温度勾配が急になりすぎるので (Lr/Mr が大きく∇radがおおきくなるため)、対流が発生し、エネルギーがおもに対流によって運ばれている。対流の起こっている中心部 (対流中心核) に含まれる質量は星の質量が大きくなるにつれて大きくなり、50M� ではその 70%が対流中心核となっている。それに対して、小質量星の中心部ではエネルギーは輻射で運ばれるが、外層で対流が起きている。こ

れは、小質量星の表面温度が低いことに起因する。opacity は完全電離領域では温度が低い程大きい値をもち (κ ∝ ρT−3.5)、また温度が1万度程度で水素、数万度でヘリウムの電離のために大きい値を持つ。輻射で運ばれるエネルギーフラックスは温度勾配に比例し、opacity に逆比例するので、小質量星では外層で温度勾配が急になり、対流が発生するのである。対流外層の質量比は質量が小さくなるほど大きくなり、質量がM . 0.3M� の星では星全体が対流平衡となっている。

38

Kippenhahn & Weigert (1991)

3.1 主系列段階進化

主系列星では中心付近でおこる水素からヘリウムができる核融合反応によるエネルギー発生率が星の表面からのエネルギー放出率 (Luminosity)と釣り合っていて、ゆっくりとした進化がおこる。大中質量星では対流中心核の中の水素がしだいにヘリウムに変えられてゆく。また、主に pp-chain 反応による水素燃焼が起こっている小質量星では、混合が起こらないので中心に近いほど速くヘリウムが生成される。いずれの場合も、水素からヘリウムが生成されるにつれ単位質量当りの粒子数が減少 (平均分子量が増加)するので、静水圧平衡を維持するために、中心部はゆっくりと収縮し密度、温度がゆっくりと増加する。それにつれて、星の明るさが少しずつ上昇し、半径が大きくなる。

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主系列星段階の寿命 (lifetime) τMS はおおよそ、

τ ∼ 0.1× 0.007c2XM/L ≈ 1010(M/M�)/(L/L�) yr

のようにあらわされる。0.1は主系列段階では全体の質量のおおよそ 10%がヘリウムに変えられることをあらわし、0.007はその際 0.7%の質量がエネルギーになる事を意味している。Xは生まれた時の水素含有量で cは光速をあらわす。主系列段階では通常の質量に対して L ∝M5∼3 なので、τMS は星の質量が大きいほど短い。しかし、非常に質量が大きいと、だんだん Eddington luminosity ∝M に近づいてくるので、τMS はあまり変化しなくなり、∼ 3× 106yr となる。

3.2 主系列から赤色巨星への進化

中心部で水素が枯渇すると、中心部のエネルギーの発生が止まり、重力収縮が始まる。それによって、少し外側のまだ水素の残っている層での温度が十分高くなるとそこで水素燃焼 (shell-burning)が始まる。その後も、中心部での重力収縮は続き、外層が膨張し赤色巨星へと進化する。

主系列進化の末期 (B点付近)に対流中心核全体で水素が枯渇し、エネルギー源がなくなるので星は重力収縮する。(B→C) その後、ヘリウム中心核の周りで水素燃焼 (水素燃焼殼、hydrogen burning shell)

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が起こる。中心核が重力収縮すると同時に外層が膨脹し赤色巨星になった後中心でヘリウム燃焼が始まる。主系列星段階からヘリウム燃焼の始まりまでの内部の各層の半径が次ページ左図に表されている。主系列段階が終ると速い timescaleで、中心核が収縮し外層が膨脹することがよくわかる。外層が膨脹して表面温度が下がると、対流外層が発達する。対流外層が内部深くまで侵入すると、かって CNO cycleによる水素燃焼が多少起こっていた層の一

部が対流層の中に入り、混合されるので、表面の CNO (主に CN)の組成が変化する。

上の左図は、1.25M� の星が主系列進化を終えた段階の内部での各元素の質量組成分布を表したものである (縦軸は質量含有量の対数値)。中心部では水素がすべてヘリウムにかえられており、炭素・酸素がヘリウム中心核およびその付近で減少し、一方窒素組成が増加している。これは、CNO cycleが起こした変化である。酸素の変化が炭素の変化よりも内側で起こっている。これは、CNO cycleのうちNO-cycleが比較的高温の状態で起こることに対応している。また、13C は初期組成 (表面組成) では 12C

の百分の一しか存在しないが、CNO cycle の影響を受けたそうでは 1:4程度になっている。星が進化して赤色巨星になり、luminosity が上昇するにつれ、対流外層のの底が内部深く入ってく

るにつれて CNO cycle によって影響を受けたガスが対流層内に入ってきて表面の CNO 組成が変化する。上右の図は、その例として、C/N 比が赤色巨星進化で luminosity の上昇でどう変化するかを、理論的な予想と、古い散開星団のM67の観測値とを比較したものである。(横軸は絶対等級で右方向が明るい方向) C/N比が減少するのと同時に、炭素同位体組成比 12C/13C も減少する。

41

3.3 ヘリウム燃焼段階とその後右の図は、種々の質量を持つ星の進化経路をしめすHR図で、斜線の領域は、水素燃焼 (主系列)段階と、ヘリウム燃焼段階を表している。

M & 40M� の大質量星は低温側へと進化した後、赤色超巨星にはならず、再び高温側へと進化し主系列かそれよりも高温の星となる。このような進化は、大質量星で起こる強い恒星風による質量放出で、水素を多く含む外層のほとんどを失うことによって起こる。水素に比べてヘリウムはopacity が小さいので、外層の水素含有量が減少すると、外層は収縮し表面温度が上昇する。外層を失ってヘリウム層が表面に出てきた星はWolf-

Rayet (WR)星といわれ、そのスペクトルには強い恒星風に起因する輝線が卓越している。

12 & M/M� & 5のヘリウム燃焼段階で進化経路は、ほぼ水平なループを描く。その間セファイド不安定帯をよこぎりセファイド変光星となるので、セファイドループといわれる。それより質量の小さい星ヘリウム燃焼段階のループは小さく、赤色巨星枝からほとんど離れない。そのようなヘリウム燃焼段階の星はRed Clump (RC) 星といわれる。

3.3.1 M . 2M�の星のヘリウム燃焼M . 2M� の星では、主系列段階進化後、ヘリウムからなる中心部が収縮して密度が十分大きくなり電子が縮退する。H-burning shell のはたらきによってヘリウム中心部の質量が大きくなるにつれて収縮し、その周りのH-burning

shell の温度がすこしずつ上昇してエネルギーの発生率が上昇し、luminosityが赤色巨星枝に沿って上昇していく。ヘリウム中心部の質量が≈ 0.48 M� になりlogL/L� ≈ 3.3となった時点 (red-giant

tip)で中心温度が約1億度になり、triple

α reaction 34He −→12C が始まる。

エネルギーの発生によって温度が上昇するが、電子が縮退していて静水圧平衡をになう圧力 (電子の分圧)が温度に依存しないので、初期には構造の変化がなく温度が上昇し続ける。温度が上昇すると核融

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合反応が急激に活発となり暴走し、それがさらに温度を上昇させる。温度が電子の縮退を解消するほど高くなると、膨張が起こり、温度の低下が起こり、核融合の暴走が止まる。これがヘリウムフラッシュとよばれる現象である。ヘリウムフラッシュによって、ヘリウム中心部が膨張し安定なヘリウム燃焼段階に移行するが、膨張のためH-burning shell の温度が下がって不活発になるので、星の luminosity は20分の1程度に下がり、安定なヘリウム燃焼は L ∼ 102L�の光度で起こる。太陽と同程度の初期元素組成 (Z ≈ 0.02)を持つ場合は、この段階のHR図上の位置は赤色巨星枝から余り離れていないので、このようなヘリウム燃焼段階にある星は Red Clump (RC)星とよばれることもある。

3.3.2 漸近巨星枝 (Asymptotic Giant Branch: AGB)星

M . 8M�の星では、中心部でのヘリウム燃焼段階が終わると、電子の縮退した炭素・酸素中心部、その周りのHe-buning shell, その上にHe-層、その周りにH-burining shell、さらにその上に水素を多く含む外層からなる構造が出来る。このような構造をもつ星は漸近巨星枝星または AGB星とよばれる。名前の由来は、HR図上これらの星がしだいに赤色巨星枝に近づいていくように光度を上昇させながら進化する事からきている。H-burning shell より内側にある質量は (光度が上昇するにつれて大きくなるが)

∼ 0.5 ∼ 1 M� 程度であるが、中心からの距離は、白色矮星の半径と同程度の∼ 0.01 R�である。それに対して表面の半径は太陽半径の 100倍以上であるので、AGB星は幾何学的には、非常に大きな球状の外層が大部分の体積を占めていることになる。外層の平均密度は∼ 10−5gram/cm3 で、地上の空気の密度 (∼ 10−3gram/cm3)より格段に薄いが、高温 (∼ 106K ∼ 3000K)であるためほとんどの領域で水素が電離していて不透明で、対流が起きている。

AGB段階初期ではHe-shell burning 安定で、定常的にHe から炭素・酸素をつくり、炭素・酸素中心部の質量を増加させるが、ある程度進化が進み、その上のHe層の質量が小さくなると、平行平板的な構造になり、He-shell 燃焼 が不安定になる。そうなると、He燃焼 が暴走して短期間にヘリウムを炭素酸素に変えたのち不活発になるというHe shell flash が起こる。He燃焼が不活発になってる間、H-shell

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燃焼のはたらきで、He 層の質量が増加してゆく。He層の質量が十分大きくなった時点で再びHe shell

flash が起きる。このように周期的におこる He shell flash をThermal puls (熱パルス)ということが多い。

AGB星は Thermal pulses を繰り返しながらしだいに光度を上げてゆき、ある程度明るくなった時点で、外層が不安定になって、周期 ∼ 1年程度の大きな振幅の脈動が起こり始め、ミラ型変光星となる。その大きな振幅の脈動により、周期的に衝撃波が発生し星の外側に伝播してゆく。その際、圧縮され密度が大きくなった層でダストがつくられる。ダストは、星からの放射を吸収散乱することにより光の運動量を得、外に押し出されていく。その際、ダストとガスとは頻繁に衝突を繰り返しているので、ガスも星から放出される。

そのため、ミラ型変光星になると、急速な質量放出がおこり約1万年程度で外層の質量を失うと考えられている。外層の質量が太陽質量の百分の1程度になると、外層は収縮し表面温度が上昇していく。表面温度が数万度以上になると、水素を電離するのに十分なエネルギーをもつ紫外線を多量に放出し始め、AGB星 (ミラ型変光星)だったときに放出され、まだ周りにただよっているガスを電離する。電離で放出された電子は再びイオンと結び着き (再結合)、その際可視光を発するので、そのガスは 惑星状星雲として観測される。惑星状星雲の中心には必ずその星雲を光らせている中心星が存在し、それは外層のほとんどを失ってしまった、かってのAGB星である。惑星状星雲中心星の段階程度までは、H-shell 燃焼のはたらきで、光度はAGB星時代と同程度であ

るが、周りのガスが散逸し惑星状星雲が消えてしまう段階になると、H-shell 燃焼によって、水素がヘリウムに変えられて、水素を含む外層の質量が減少してしまい、水素燃焼が不活発になる。そうなると、内部に核融合反応による熱源をもたない白色矮星となり、HR図上進化経路は水平な経路から折れ曲がって、右下へとつづく白色矮星の冷却経路にそって暗くなっていく。この段階で、白色矮星はこれまでの進化で高温になっている内部の熱を放出する事で光っているので、内部の温度と luminosity には1対1の関係がある。また、ある luminosity では、質量の大きな白色矮星のほうが半径が小さいので、表面温度が高い。冷却は暗くなるほど (内部温度が低くなるほど)時間がかかるので、我々の銀河で最初に出来た白色矮星も太陽の約1万分の1の明るさで冷却を続けている。逆に、そのような最も暗い白色矮星の明るさの分布から、我々の銀河円盤の星形成の歴史についての情報を得る事ができる

3.3.3 大質量星 (& 10 M�)のヘリウム燃焼段階後の進化

大質量星の場合、ヘリウム燃焼によって形成された炭素・酸素中心部は (密度が比較的小さいので)電子は縮退していない。そのため中心部は重力収縮によってさらに温度が上昇し、炭素燃焼、ネオン燃焼、酸素燃焼、シリコン燃焼と核融合反応が進む。シリコン燃焼によって、最もエネルギーの低い (核子当

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りの結合エネルギーが最も大きい)鉄の原子核が中心部で形成される。このとき、星の中心に近い層ほど重い原子核が存在するいくつもの層が積み重なり、その境界では shell-burning が起きているような、タマネギ構造と表現される構造となっている。炭素燃焼、ネオン燃焼、. . .シリコン燃焼と進むにつれてその経過時間は短くなり、炭素燃焼段階は数百年続くが、シリコン燃焼はたった1日で終わってしまう。約 1.4M�の鉄の中心部が形成されると、高温であるために存在するエネルギーの高い光子によって鉄の原子核がヘリウム原子核と中性子に壊される。

この分裂は、吸熱反応であるため、中心部は圧力を失い崩壊し、中性子星が形成される。鉄の中心部の外側に合った層も支えを失い中心に向かって落ちてゆくが、中性子星の表面に衝突し非常な高温となるため、衝撃波が発生し核反応を起こしながら、外側に進み、表面に出た時に超新星爆発として観測される。超新星爆発によって、鉄の中心部より外側にあった物質は、衝撃は通過による核反応の影響を受けた後で、宇宙空間に投げ出される。

3.4 恒星進化の Summary

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