熱力学講義ノート...

117
埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第 8 版) 表紙&目次 1 1 熱力学講義ノート (第 8 版) 埼玉工業大学工学部機械工学科 小西克享

Upload: others

Post on 18-Feb-2020

6 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第 8版) 表紙&目次 1

1

熱力学講義ノート

(第 8 版)

埼玉工業大学工学部機械工学科

小西克享

Page 2: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第 8版) 表紙&目次 2

2

はじめに

熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

あり,機械工学のみならず物作りに関連するあらゆる分野において重要な科目の一つとなってい

る.一般に,熱力学は機械系と化学系によってその内容が若干異なり,科目の呼び名も工業熱力

学,応用熱力学,化学熱力学などと変化する.市販のテキストが多数存在し,内容も千差万別で

あるため,教員としては教科書選びに事欠かない.しかしながら教科書はその性質上,関係式の

結果のみが示され導出過程は省略される場合が多く,熱力学も例外ではない.しかも,熱力学は

厄介なことに概念の解説が多く視覚的に捉えにくいため,理解が難しく習得が困難である.実際,

熱力学を勉強し始めると,専門用語の意味だけでなく,式の導出が意味不明で,内容が理解でき

ないことが少なくない.

本書は,このように難解な部分を多く含む熱力学を工科系大学生に教育する目的から,講義ノ

ートとして記述したものである.市販のテキストの要点を整理し,用語や法則の意味を解説する

とともに,関係式をその導出過程とともに記述しており,講義では実際に本書の内容に従って解

説を行っている.なお,一部説明を省略した項目があり,それらについては,他の参考図書を参

照していただきたい.

なお,本書には各章ごとの基本事項の理解度を判定するための理解度チェックが用意されてい

るが,これ以外にも本書の各章の内容に対応した練習問題

http://www.sit.ac.jp/user/konishi/JPN/Lecture/Thermodynamics/ThermodyanmicsQuestions_4th.pdf

も用意しているので,理解をより確実なものとするため,これらの問題を解くことを推奨する.

本書の内容は今後とも加筆修正の予定である.内容に関して不明な点やお気付きの点があれば

著者までご連絡いただきたい.

第 8版 平成 27年 4月 1日

埼玉工業大学 工学部 機械工学科 小西克享

Page 3: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第 8版) 表紙&目次 3

3

目次

第 1 章 熱と温度

1.1 圧力と熱の本質

1.2 熱と温度 ・・・・・・・・・・・・・・ 6

1.2.1 熱の種類 ・・・・・・・・・・・・・・ 6

1.2.2 温度 ・・・・・・・・・・・・・・ 6

1.2.3 比熱 ・・・・・・・・・・・・・・ 8

1.2 単位

1.2.1 次元 ・・・・・・・・・・・・・・ 9

1.2.2 基本量と基本単位 ・・・・・・・・・・・・・・ 9

第 2章 熱力学第 1法則

2.1 エネルギー保存則 ・・・・・・・・・・・・・・ 11

2.2 非流動系のエネルギー変換 ・・・・・・・・・・・・・・ 12

2.3 流動系のエネルギー変換 ・・・・・・・・・・・・・・ 15

2.4 状態量 ・・・・・・・・・・・・・・ 17

第 3章 理想気体

3.1 理想気体 ・・・・・・・・・・・・・・ 18

3.2 理想気体の状態方程式とその意味 ・・・・・・・・・・・・・・ 18

3.3 比熱と比熱比 ・・・・・・・・・・・・・・ 19

3.4 内部エネルギー ・・・・・・・・・・・・・・ 19

3.5 エントロピー ・・・・・・・・・・・・・・ 19

3.6 理想気体の状態変化

要点 ・・・・・・・・・・・・・・ 20

3.6.1 等温変化 ・・・・・・・・・・・・・・ 21

3.6.2 等圧変化 ・・・・・・・・・・・・・・ 21

3.6.3 等容変化 ・・・・・・・・・・・・・・ 22

3.6.4 断熱変化 ・・・・・・・・・・・・・・ 23

3.6.5 ポリトロープ変化 ・・・・・・・・・・・・・・ 24

3.7 可逆変化と不可逆変化 ・・・・・・・・・・・・・・ 25

3.8 混合気体の性質(ドルトンの法則) ・・・・・・・・・・・・・・ 26

第 4章 熱力学第 2法則

4.1 サイクルと仕事 ・・・・・・・・・・・・・・ 27

4.2 熱効率と動作係数 ・・・・・・・・・・・・・・ 28

4.3 カルノーサイクル ・・・・・・・・・・・・・・ 28

4.4 熱力学の第 2法則 ・・・・・・・・・・・・・・ 29

4.5 クラジウスの積分とエントロピー ・・・・・・・・・・・・・・ 30

4.6 有効エネルギーと無効エネルギー ・・・・・・・・・・・・・・ 32

4.7 最大仕事 ・・・・・・・・・・・・・・ 33

第 5章 熱力学の一般関係式

5.1 基礎式 ・・・・・・・・・・・・・・ 36

5.2 マクスウェルの関係式 ・・・・・・・・・・・・・・ 36

5.3 応用

5.3.1 エントロピー計算への応用 ・・・・・・・・・・・・・・ 37

5.3.2 比熱計算への応用 ・・・・・・・・・・・・・・ 38

5.4 ジュール効果,ジュール・トムソン効果 ・・・・・・・・・・・・・・ 40

第 6章 蒸気

Page 4: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第 8版) 表紙&目次 4

4

6.1 蒸発の基礎 ・・・・・・・・・・・・・・ 43

6.2 pvT状態曲面 ・・・・・・・・・・・・・・ 44

6.3 蒸気の熱的状態量

6.3.1 圧縮液と飽和液 ・・・・・・・・・・・・・・ 45

6.3.2 湿り蒸気と乾き飽和蒸気 ・・・・・・・・・・・・・・ 46

6.3.3 過熱蒸気 ・・・・・・・・・・・・・・ 46

6.4 蒸気表と蒸気線図 ・・・・・・・・・・・・・・ 46

6.5 湿り空気 ・・・・・・・・・・・・・・ 47

第 7章 熱力学のサイクル

7.1 熱機関の概要 ・・・・・・・・・・・・・・ 48

7.2 ガスサイクル機関 9

7.2.1 熱力学的サイクルの実現 ・・・・・・・・・・・・・・ 49

7.2.2 熱力学的サイクルの種類 ・・・・・・・・・・・・・・ 50

7.2.3 熱力学的サイクルの 3基本形 ・・・・・・・・・・・・・・ 50

7.2.4 サイクルの熱量と仕事 ・・・・・・・・・・・・・・ 52

7.2.5 サイクルの理論熱効率 ・・・・・・・・・・・・・・ 53

7.2.6 サイクル理論熱効率の比較 ・・・・・・・・・・・・・・ 56

7.2.7 ガスタービンのサイクル ・・・・・・・・・・・・・・ 59

7.2.8 ジェットエンジンのサイクル ・・・・・・・・・・・・・・ 60

7.3 蒸気サイクルの機関 ・・・・・・・・・・・・・・ 60

第 8章 気体の流れ

8.1 流れの基礎式 ・・・・・・・・・・・・・・ 63

8.2 ノズル内の流れ

8.2.1 ノズル出口速度と熱落差 ・・・・・・・・・・・・・・ 65

8.2.2 臨界状態 ・・・・・・・・・・・・・・ 66

8.3 音速,およびマッハ数 ・・・・・・・・・・・・・・ 66

第 9章 燃焼

9.1 燃料の種類と燃焼によって発生する熱

9.1.1 燃料の種類 ・・・・・・・・・・・・・・ 67

9.1.2 発熱量 ・・・・・・・・・・・・・・ 68

9.1.3 反応熱・標準生成熱 ・・・・・・・・・・・・・・ 69

9.2 燃焼に必要な空気量と燃焼ガス量

9.2.1 理論酸素量と理論空気量 ・・・・・・・・・・・・・・ 72

9.2.2 燃焼ガス量とその組成 ・・・・・・・・・・・・・・ 74

9.3 燃焼温度 ・・・・・・・・・・・・・・ 74

9.4 燃焼により生成する大気汚染物質

9.4.1 排ガス成分とその有害性 ・・・・・・・・・・・・・・ 75

9.4.2 窒素酸化物 ・・・・・・・・・・・・・・ 76

9.4.3 一酸化炭素 ・・・・・・・・・・・・・・ 77

9.4.4 硫黄酸化物 ・・・・・・・・・・・・・・ 77

9.4.5 未燃炭化水素 ・・・・・・・・・・・・・・ 77

第 10章 伝熱

10.1 伝熱の形態

10.1.1 熱伝導 ・・・・・・・・・・・・・・ 78

10.1.2 熱伝達(対流熱伝達) ・・・・・・・・・・・・・・ 79

10.1.3 熱放射 ・・・・・・・・・・・・・・ 79

10.2 熱伝導と熱通過

10.2.1 平板 ・・・・・・・・・・・・・・ 79

Page 5: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第 8版) 表紙&目次 5

5

10.2.2 円管 ・・・・・・・・・・・・・・ 81

10.2.3 フィン ・・・・・・・・・・・・・・ 83

10.3熱伝達率の式

10.3.1 無次元数について ・・・・・・・・・・・・・・ 86

10.3.2 対流熱伝達の実験式 ・・・・・・・・・・・・・・ 89

10.4 熱放射

10.4.1 熱放射 ・・・・・・・・・・・・・・ 89

10.4.2 黒体および実在物体からの熱放射 ・・・・・・・・・・・・・・ 90

10.4.3 黒体 2面間の放射伝熱 ・・・・・・・・・・・・・・ 92

10.4.4 灰色体系の放射伝熱 ・・・・・・・・・・・・・・ 94

10.4.5 形態係数に関する法則 ・・・・・・・・・・・・・・ 95

10.5 非定常熱伝導 ・・・・・・・・・・・・・・ 95

理解度チェック ・・・・・・・・・・・・・・ 95

理解度チェック解答用紙 ・・・・・・・・・・・・・・ 102

理解度チェック解答例 ・・・・・・・・・・・・・・ 110

Page 6: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 1 章 温度と熱量 6

6

第 1章 熱と温度 1.1 圧力と熱の本質

圧力も熱も共に分子の運動に起因して発生する事象である.運動の形態によって圧力となった

り熱となったりする.

圧力(pressure)は,分子間および分子と容器壁間の衝突によって発生する.衝突のエネルギー

が大きいほど(衝突が激しいほど)圧力が大きくなる.

熱(heat)は,分子の振動および回転によって発生する.振動・回転のエネルギーが大きいほど

温度が高くなる.

1.2 熱と温度

1.2.1 熱の種類

熱には次のような種類がある

(1)顕熱(sensible heat)=温度変化を伴う熱

(2)潜熱(latent heat)=温度変化を伴わない熱.(次の 2 種類がある)

①融解熱(heat of fusion)=物質が溶けるのに必要な熱(溶ける間は温度が変化しない)

②気化熱(蒸発熱,heat of evaporation)=物質が蒸発するのに必要な熱(蒸発する間は温度

が変化しない)

1.2.2 温度

物体を加熱する(熱エネルギーを直接与える)と,物体の温度が上昇する.また,物体を摩擦

すると暖かくなる(物体の温度が上昇する)が,これは運動エネルギーが熱エネルギーに変換さ

れ,温度を上昇させたことを意味している.このように熱と温度は密接な関係にあるが,概念の

違いに注意が必要である.

熱:エネルギーの大きさを表す.

温度(temperature):寒暖の度合いを表す.

注意:100℃のお湯 1kg に 100℃のお湯 1kg を混ぜると,2 ㎏のお湯ができる.このとき,2 ㎏の

お湯の熱は 1kgのお湯の 2 倍となるが,温度は 200℃とはならず,100℃のままである.このよう

に 2 つの系が混ざるとき,エネルギーは加算されるが,温度は加算されないことに注意が必要で

ある.

(1) 経験的温度

摂氏(Celsius temperature)(℃) 華氏(Fahrenheit temperature)( F )

標準大気圧における

氷点=0

沸点=100*

と,その間を 100 等分する温度を摂氏(℃)

といい,t で表す.

標準大気圧における

氷点=32

沸点=212

とし,その間を 180 等分する温度を華氏( F )

という.

* 100℃は標準大気圧(0.101325MPa=1013.25hPa)における温度である.水の沸点は,雰囲気

圧力の発生 熱の発生

エネルギーが周囲に伝播

回転 振動 衝突

衝突 熱(エネルギー)が移動

高温

激しい

振動

低温

緩やか

な振動

熱伝導

振動が伝わる

Page 7: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 1 章 温度と熱量 7

7

の圧力によって異なる.詳細は第 6 章参照のこと.

(2) 熱力学的温度(thermodynamic temperature)

分子が運動(衝突および振動・回転)を停止する温度を 0 とし,標準大気圧における氷点=273.15

とする温度を絶対温度(absolute temperature) Tという.単位はケルビン,単位記号は K.

注:0K(絶対零度)では,圧力も 0 となる.

関係式

15.273K ℃tT

(3) 熱平衡と温度計

2 つの系の間で熱の移動がないとき,2 つの系は熱平衡

(thermodynamic equilibrium)状態にあるという.物体 A

と B が熱平衡で,かつ B と Cが熱平衡なら Aと Cも熱平

衡の状態にある.これを熱力学の第 0法則(the zeroth law

of thermodynamics)という.この法則より,B を温度計と

して用いることができる.

一次温度計

絶対温度を直接測定できる温度計

二次温度計

通常の温度計.目盛は目安.指示値がどの程度正しいか

不明

(4) 実用温度計

① 白金抵抗温度計

白金線の電気抵抗が温度によって変化する性質を利用する.

② 熱電対

2 種類の金属線の両端を接合すると,接合点間の温度差に応じて起電力が発生する.これをゼ

ーベック効果 (Seebeck effect)注という.起電力と温度差の関係を求めておくと,温度計として

利用することができる.注:逆はペルチェ効果(Peltier effect)という.

③ 液体膨張温度計

水銀,アルコールなどの液体が温度によって体積膨張する性質を利用した温度計.

温度が t1から t2に変化すると,温度計に充填された液体の体積は V1から V2に変化する.体積膨

張係数(体積膨張率)をβとすると,V2は

1212 1 ttVV

で表される.この時,液だめ自体も膨張により体積が Vb1から Vb2に変化する.

液だめの材質(ガラス)の線膨張係数をαとおけば,体積変化は

1213

1212 311 ttVttVV bbb

となる.温度変化により,液面が h1から h2に変化するから,毛細管の直径を

d とし,毛細管の膨張を無視すれば,V2と Vb2には次の関係が成立する.

212

2

24

bVhhd

V

起電力 Eが発生

金属線 A

金属線 B

温度 t1 温度 t2

起電力

温度差

熱電対の起電力と温度差の関係

B

A C

平衡 平衡

平衡

温度計

既知の温度場 未知の温度場

Page 8: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 1 章 温度と熱量 8

8

ここで,温度 t1において液だめと液体の体積が等しい,すなわち 11 VVb とおけば,

121212

12112

2

121

34

314

1

ttVd

hh

ttVhhd

ttV

となり,水柱の高さの変化は,温度変化に比例することが分かる.

④ 放射温度計

あらゆる物体は,波長に対してその温度によって決まる特定の分布をもった電磁波を放出して

いる.電磁波を半導体で受け止めると,光電子効果によって電流に変換することができる.電流

と温度の関係を校正しておくと温度の計測に利用できる.

1.2.3 比熱

熱容量(heat capacity) J/K

ある質量の物質・物体を 1℃上昇させるのに必要な熱量のこと

参考:熱量(heating value)=熱の量を数字で表したもの.厳密には 2 つ状態におけるエンタ

ルピーの差と定義される.(第 2 章参照のこと.)

比熱(specific heat) c[J/(kgK)]

物質・物体を単位質量あたり 1℃上昇させるのに必要な熱量のこと

単位質量あたりの熱容量でもある.

dT

dQc

比熱の値は温度によって変化する.a, b, c, d を定数として

32 dTcTbTaTc

のような多項式で表される.定数の値は文献に掲載されている.

モル比熱(molar specific heat) J/(kmolK)

一般に,比熱の単位は,J/(kgK)であるが,化学では kmol 当たりの熱容量としてモル比熱

J/(kmolK)がよく用いられる.

定圧比熱(specific heat at constant pressure)と定容比熱(specific heat at constant volume)

物質が気体の場合,圧力一定のまま加熱するときは,容積一定の状態で加熱するときより,

物質を 1℃上昇するのに必要な熱量が多くなる.前者の場合の比熱を定圧比熱 pc ,後者を定

容比熱 vc という.一般に,

vp cc

となり,全ての気体で成立する.詳細は下記資料を参照のこと.

『埼玉工業大学 機械工学学習支援セミナー(小西克享) 定圧比熱 cp>定容比熱 cvとなる

理由』

http://www.sit.ac.jp/user/konishi/JPN/L_Support/SupportPDF/SpecificHeat.pdf

2 つの比熱の比を比熱比(heat capacity ratio)といい,v

p

c

c で表す.ガスの種類により,次の

ようになる.

2

1v

p

c

c

単原子ガス(Ar, Ne など) 3 → 35

2 原子ガス(N2, O2など) 5 → 4.157

3 原子以上のガス(H2Oなど) 6 → 68

ただし,νは気体分子の自由度

Page 9: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 1 章 温度と熱量 9

9

1.2 単位

1.2.1 次元

比重や比率などの例外を除き,たいていの物理量(長さ,重さなど)には単位(unit)がある.物

理量の数は多数あるものの,基本となる単位(基本単位)は長さ[m],質量[kg],時間[s],温度[K],

物質量[mol],電流[A],光度[cd]の 7 つで,基本単位の組み合わせによって物理量の単位が決定さ

れる.特に力学系物理量に限れば,基本単位は長さ[m],質量[kg],時間[s],温度[K]の 4 つだけで

ある.たとえば,圧力の単位は N/m2=(kgm/s2)/m2=kg/(ms2)となり,長さ[m],質量[kg],時間[s]の 3

つであることが分かる.

物理量が単位を持つとき,物理量は次元(dimension)を持つともいう.(次元は空間の軸を示す

ことがある.例.3 次元空間)

物理量に単位がない場合,その物理量は無次元量(dimensionless quantity)であるという.例.

比重,比率など

1.2.2 基本量と基本単位

(1) 基本量

物理量の基本となる単位を基本単位(base unit)という.力学系物理量の場合,基本単位は4つ

ある.それらを記号 M,L,S,T で表す.基本単位のみで表される量は基本量(base quantity)という.

(2) 基本単位

すべての力学系物理量は,基本単位の組合せた組立単位(derived unit)で表すことができ,こ

のような物理量を,組立量(derived quantity)という.記号 M,L,S,T を用いて表した物理量の単

位を次元式(dimensional formula)という.次元は次元式に含まれる基本単位の指数を意味する.

例)仕事

単位 m・g・h→kg・m/s2・m→kg・m2/s2

ML2/S2:基本単位の組合せで表すことができる.

この数字が次元

仕事:ML2/S2

次元式

仕事の次元式は ML2/S2で表される.仕事は,質量が次元 1,長さが次元 2,時間が次元-2 の物理

量である.

(3) 物理系と工学系の次元式

すべての力学系物理量は M,L,S,T の 4 つで表すことができるが,これに副次元として,力[F]と

熱量[Q]を加えると,次元式が簡素化できる.たとえば,仕事は,ML2/S2 が FL となる.M,L,S,T

の 4 つのみで表す場合は,物理系(もしくは MLST 系)次元式といい,M,L,S,T,F,Q の 6 つで表す

場合は工学系(もしくは MLSTFQ系)次元式という.

主な物理量の次元式は次表の通り.

物理量 記号例 SI 単位 物理系

(MLST 系)

工学系

(MLSTFQ系)

質量 M kg M M

長さ L, l m L L

時間 t s S S

温度 θ, T K, ℃ T T

力 F N=kgm/s2 ML/S2=MLS-2 F

M: 1 乗

L: 2 乗

S: -2 乗

Page 10: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 1 章 温度と熱量 10

10

熱量 Q J=Nm=kgm2/s2 ML2/S2=ML2S-2 Q

仕事 W J=Nm=kgm2/s2 ML2/S2=ML2S-2 FL=Q

エネルギー E J=Nm=kgm2/s2 ML2/S2=ML2S-2 FL=Q

動力,仕事率 P W=J/s ML2/S3=ML2S-3 QS=QS-1

速度 u, v, w m/s L/S=LS-1 L/S=LS-1

加速度 α m/s2 L/S2=LS-2 L/S2=LS-2

重力加速度 g m/s2 L/S2=LS-2 L/S2=LS-2

質量流量 G kg/s M/S=MS-1 M/S=MS-1

体積流量 Q m3/s L3/S=L3S-1 L3/S=L3S-1

圧力 p Pa=N/m2=kg/(ms2) M/(LS2)=ML-1S-2 F/L2=FL-2

応力 σ Pa=N/m2=kg/(ms2) M/(LS2)=ML-1S-2 F/L2=FL-2

体積弾性率

=1/圧縮率 K N/m2 M/(LS2)=ML-1S-2 F/L2=FL-2

比重量 γ N/m3=kg/(m2s2) M/(L2S2)=ML-2S-2 F/L3=FL-3

密度 g kg/m3 M/L3=ML-3 FS2/L4=FS2L-4

粘性係数 μ Pa・s=Ns/m2 M/(LS)=ML-1S-1 FS/L2=FSL-2

動粘性係数 m2/s L2/S=L2S-1 L2/S=L2S-1

比エンタルピー h J/kg=Nm/kg=m2/s2 L2/S2=L2S-2 Q/M=QM-1

比内部エネルギー u J/kg=Nm/kg=m2/s2 L2/S2=L2S-2 Q/M=QM-1

比熱 c, cp J/(kgK) L2/(S2T)=L2S-2T-1 Q/(MT)=QM-1 T-1

熱伝導率 λ W/(mK) ML/(S3T)=MLS-3T-1 Q/(LST)=QL-1S-1T-1

熱拡散率

pca m2/s L2/S=L2S-1 L2/S=L2S-1

熱伝達率 h W/(m2K) M/(S3T) =MS-3T-1 Q/(L2ST)=QL-2S-1T-1

(4) 熱の仕事当量と仕事の熱当量

SI単位では,熱も仕事も単位は J であるが,工学単位では,熱量は cal,仕事は kgmで表す.

工学単位系では,熱と仕事の関係を求める場合には,単位変換が必要となる.

AWW

JQ

JQW

1

J を熱の仕事当量

Aを仕事の熱当量

という.

Page 11: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 第 2章 熱力学第 1法則 11

11

第 2章 熱力学第 1法則

熱力学第 1法則(the first law of thermodynamics)=「熱はエネルギーの一種であり,熱を仕

事に変換,もしくはその逆も可能である」

2.1 エネルギー保存則

エネルギーの種類

物体や系が保有するエネルギーには,表に示すようないく

つかの種類がある.運動エネルギー(Kinetic Energy, KE)や

位置エネルギー(Potential Energy, PE)は力学的エネルギーと

呼ばれる.熱もエネルギーである.(熱力学第1法則の意味)

熱エネルギーはエンタルピー(enthalpy) H [J]と呼ばれる.単

位質量当たりのエンタルピーは比エンタルピー(specific

enthalpy) h [J/kg]という.

注意:単位モル当りのエンタルピー[J/mol]を用いること

もある.

エンタルピーは系の温度のみの関数である.エンタルピー

は熱的エネルギーレベルを表すことになり,Potential Energy

の一種と言える.エンタルピー差=熱量となる.エンタルピーは次式で定義される.

dTCnHT

p0

[J] | dTChT

p0

[J/kg, J/mol]

本来,系の持つ全エネルギーは熱エネルギーや力学的エネルギーなどすべてのエネルギーの総

和である.系の持つ全エネルギーは常に一定に保たれる.これをエネルギー保存の法則(the law of

the conservation of energy)という.

エネルギーの保存則

系の持つ全エネルギー=熱エネルギー+力学的エネルギー+・・・=一定

問題を扱う場合には,物体や系に含まれるエネルギーのうち,必要なエネルギーだけを考慮す

ればよい.例えば,運動する物体は運動エネルギーと位置エネルギーを持っており,理想状態で

はこれら 2 つのエネルギーの和は一定(エネルギー保存則)となることを考慮する.実際には物

体や系には温度があるため,力学的エネルギーだけではなく熱エネルギーも持っているわけであ

るが,問題を解く際に温度が変化しないと仮定できれば,力学的エネルギーだけ考慮すれば良い

ことになる.一方,熱力学が扱う系(開いた系,閉じた系)の場合,運動するしないにかかわら

ず系の温度が変化するため,常に熱エネルギーを考慮しなければならない.開いた系では熱エネ

ルギーだけでなく作動流体が運動するため,力学的エネルギーを含めた全エネルギーを考えなけ

ればならない.一方,閉じた系では作動流体の運動は無視できるため,熱エネルギーのみを考慮

すればよい.

高さ[m]

z

0

v

v=0

m

自然落下

運動エネルギー,位置エネルギー

相対的な

基準位置

絶対零度 0

温度[K] エンタルピー

h=0J

T

力学的エネルギー 熱エネルギー

宇宙不変の基準 ↓

エネルギーの種類

① 力学的エネルギー

運動エネルギー

位置エネルギー

弾性エネルギー

② 熱エネルギー

③ 化学エネルギー

④ 電磁気学的エネルギー

Page 12: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 第 2章 熱力学第 1法則 12

12

参考: 熱エネルギーは運動系のエネルギー保存を考える上でも重要な場合がある。次に 2 つの

運動を考える。

① 物体を水平に動かす場合

力 Fを作用させて床に置かれた質量 m[kg]の物体を水平にゆっくり移動するとき,Fは摩擦抵抗

力 mg に等しい.すなわち,

mgF

この物体を l[m]移動するのに要するエネルギーEは,

mglFlE

移動が完了したとき,移動に要したエネルギーは,摩擦熱に変換されて周囲に散逸したことにな

る.この系では移動に要したエネルギーと摩擦熱の間でエネルギー保存が成立する.

② 物体を鉛直上方に動かす場合

力 Fを作用させて質量 m[kg]の物体を鉛直上方に等速度で移動するとき,Fは物体の重量mgに

等しい.すなわち,

mgF

この物体を l[m] 持ち上げるのに要するエネルギーEは,

mglFlE

移動が完了したとき,移動に要したエネルギーは,位置エネルギーに変換されて物体自体に蓄え

られることになる.この系では移動に要したエネルギーと位置エネルギーの間でエネルギー保存

が成立する.

2.2 非流動系のエネルギー変換

(1) 気体の仕事

① 膨張仕事,外部仕事

シリンダ・ピストンでは,シリンダ内圧 p によって内側からピストンを押す力 pAF (Aは

シリンダ断面積)が作用し,この力がピストンを動かす駆動力となる.シリンダ内の気体を加熱

して気体が膨張し続けると,この駆動力を利用してピストンに仕事をさせることができる.気体

の膨張に伴ってピストンが x1から x2まで移動するとき,ピストンは外部に対して,

2

1

x

xFdxW

の仕事をする.このようにシリンダとピストンを用いると,気体の膨張を利用して熱量を仕事(力

学的エネルギー,機械的エネルギーともいう)に変換することができる.W は気体の膨張によっ

て発生する仕事であることから膨張仕事と呼ばれる.また,この例のように系が外部に対して行

う仕事を外部仕事(external work)という.

参考:

大気圧による背圧 pbが作用するため,ピストンには押し戻す力 ApF ab も同時に作用する.

このため,実際に仕事として利用できるのは

0,02

1

2

1

bb

x

xb

x

xex WWWWdxFFdxW

となる.

注意:

①物体を水平に動かす場合 ②物体を鉛直上方に動かす場合

l[m]移動

F

m[kg]

摩擦抵抗力 摩擦係数

l[m]持ち上げる

m[kg]

F

Page 13: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 第 2章 熱力学第 1法則 13

13

一般に,シリンダ内の気体が膨張してピストンが外部に仕事を発生するとき,仕事の符号を正

とする(W > 0).ピストンを押してシリンダ内の気体を収縮させるとき,ピストンには逆に外部

から仕事を与えなければならない.このとき仕事の符号は負(W < 0)と符号を定義する.

② 排除仕事

ここで,外気の圧力が p のとき,空っぽの袋に体積 Vの気体を充填することを考える.この作

業(仕事)を行うには,圧力 p に逆らって体積 Vだけ外気を押しのけなければならないから,作

業を行うのに必要な仕事(エネルギー量)は pと Vの積に等しい.外気を押しのける(排除する)

意味から,pと Vの積を排除仕事という.

pV は圧力 p [Pa]での理想気体 V [m3]の排除仕事[J]であり, pvは圧力 p [Pa]での理想気体 1kgも

しくは 1molの排除仕事[J/kg or J/mol]となる.

(2) 内部エネルギー

エンタルピーから排除仕事分を差し引いた値を内部エネルギー(internal energy) U [J]と呼ぶ.

単位質量当たりの内部エネルギーは比内部エネルギー(specific internal energy) u [J/kg]という.

詳細は下記資料を参照のこと.

『埼玉工業大学 機械工学学習支援セミナー(小西克享) 内部エネルギーの意味』

http://www.sit.ac.jp/user/konishi/JPN/L_Support/SupportPDF/InternalEnergy.pdf 注意:単位モル当りの内部エネルギー[J/mol]を用いることもある.

容積 V

1

2

熱量 Q pb

Q

シリンダ内圧力

p

内側からピストン

を押す力

F

位置 x

力の大きさはシリンダ

内圧力の変化に応じて

変化する.

気体が膨張する際に圧力変化

が生じる.圧力変化の形は,

熱の与え方による.

p

1

2

Fb F

ピストンに作用する力

F

この面積分が有効に取

り出せる仕事

p p

p V

V [m3]の気体

を充填 V

p (V, p)

容積

袋は圧力 pの気体を体積 Vだけ排除.

排除に要したエネルギ(排除仕事)は

pV線図上の面積で表される

充填後の袋

排除仕

pV線図

0

圧力

p

n [kg]

Page 14: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 第 2章 熱力学第 1法則 14

14

エンタルピーHと内部エネルギーUの関係(比エンタルピーhと比内部エネルギーuの関係)は次

式で定義される.

pVUH [J] | pvuh [J/kg, J/mol]

内部エネルギーは系の温度のみの関数である.等温変化では,系の圧力・容積が変化しても温度

が等しいため内部エネルギーの値は同じである.

T

vdTCnU0

[J] | T

vdTCu0

[J/kg, J/mol]

閉じた系で体積が変化できない場合,外部から与えられた熱量 dQ はすべて内部エネルギーの

増加量となる.

dUdQ [J] | dudq [J/kg, J/mol]

(3) 熱力学の第 1基礎式

閉じた系で体積が変化できる場合,外部から熱量 dQ を与えると,一部が仕事 dW12に変わり,

残りは内部エネルギーの増加量 dU となる.与えた熱量がすべて仕事に変換される訳ではないこ

とに注意が必要である.

12dWdUdQ [J] | 12dwdudq [J/kg, J/mol]

ここで,仕事の変化分 dW12は

pdVdW 12 [J] | pdvdw 12 [J/kg, J/mol]

だから,代入すれば

pdVdUdQ [J] | pdvdudq [J/kg, J/mol]

この式を熱力学の第 1法則から導かれた熱力学第 1基礎式(エネルギー式)という.

(4) 熱力学の第 2基礎式

比エンタルピーhの式は

pvuh

両辺の全微分を取ると,

vdppdvdupdvvdpdupvddudh

ここで,熱力学の第 1基礎式 pdvdudq を適用すれば

vdpdqdh

よって

vdpdhdq

となる.これを熱力学の第 2基礎式という.

熱量が内部エネルギーと仕事に変換される比率は状態変化の仕方によって異なる.

まとめ

vdpdhdq

pdvdudq

基礎式熱力学の第

基礎式熱力学の第法則熱力学第

2

11

① 等温変化

等温変化ではジュールの法則*)より内部エネルギーの変化 du は 0 であるため,すべての熱量が

仕事に変換される.

dQdWdU ,0 [J] | dqdwdu ,0 [J/kg, J/mol]

*) ジュールの第 2法則.理想気体の内部エネルギーはその圧力や体積には依存せず、温度に

のみ依存するという法則.U=f(T).第 1法則は,電流と発生熱の関係を示す法則.Q=i2Rt

② 等圧変化

等圧変化では熱量は,次のように内部エネルギーと仕事に配分される.

体積が変化しない閉じた系 体積が変化する閉じた系

Page 15: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 第 2章 熱力学第 1法則 15

15

dQdWdQ

dU

1,

[J] | dqdw

dqdu

1,

[J/kg, J/mol]

ただし,比熱比v

p

c

c

③ 等容変化

等容変化は体積の変化しない閉じた系であり,熱量はすべて内部エネルギーに変換される.

0, dWdQdU [J] | 0, dwdqdu [J/kg, J/mol]

(5) 絶対仕事

シリンダとピストンからなる往復動エンジンでは,内部に閉じ込められた気体に熱量を与える

と気体が膨張してピストンを押すことによりピストンは外部に対して仕事を行う.このような閉

じた系では,気体が外部に対して行う仕事は絶対仕事(absolute work) W12と呼ばれる.

熱力学の第 1法則の式を積分すると

1212

2

1

2

1

2

1

WUUQ

dWdUdQ

[J] |

1212

2

1

2

1

2

1

wuuq

dwdudq

[J/kg, J/mol]

気体を膨張させるために外部から与えた熱量は仕事を発生させるとともに,内部エネルギーを

増加させることになる.

絶対仕事W12は pV線図(pv線図)の圧力を積分することで求まる.

2

112 pdVW [J] |

2

112 pdvw [J/kg, J/mol]

2.3 流動系のエネルギー変換

(1) 工業仕事

タービンでは作動流体が一方方向に流れ,タービンブレードに力を与えて軸を連続的に回転さ

せることで仕事を発生する.このように,開いた系で気体が外部に対して行う仕事は工業仕事

(technical work) Wtと呼ばれ,絶対仕事と区別される.工業仕事は pV線図(pv線図)の圧力を

積分することで求まる.

2

1VdpWt

[J] | 2

1vdpwt

[J/kg, J/mol]

容積 V

1

2

面積=絶対仕事

熱量 Q

Q

圧力

p

Page 16: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 第 2章 熱力学第 1法則 16

16

エネルギー保存の法則から,タービンが外部にする仕事(工業仕事)Wtは入口と出口の作動流

体のエンタルピー差に等しい.

21 HHWt [J] | 21 hhwt [J/kg, J/mol]

タービン入口 1において作動流体の持つエンタルピーは

1111 VpUH [J] | 1111 vpuh [J/kg, J/mol]

タービン出口 2において作動流体の持つエンタルピーは

2222 VpUH [J] | 2222 vpuh [J/kg, J/mol]

であるから

222111

222111

VpUUVpW

WVpUVpU

t

t

[J] |

222111

222111

vpuuvpw

wvpuvpu

t

t

[J/kg, J/mol]

となる.一方,熱力学の第 1法則において,断熱変化では

0dQ より 0dq より

0 dWdUdQ [J] 0 dwdudq [J/kg, J/mol]

1から 2までの間で積分すると

2112

1212

2

1

2

1

0

0

UUW

WUU

dWdU

[J]

2112

1212

2

1

2

1

0

0

uuw

wuu

dwdu

[J/kg, J/mol]

となるから,工業仕事は次のように表すことが出来る.

221211 VpWVpWt [J] | 221211 vpwvpwt [J/kg, J/mol]

11Vp (もしくは 11vp )はタービン入口 1に投入された作動流体の持つエネルギーの一部であり,

作動流体を入口から押し込むのに必要な仕事に等しい.これは正の仕事に変換できる(外部に対

して仕事を発生できる)エネルギーである. 1212 wW は作動流体が 1 から 2 まで断熱変化する際

にタービンブレードに与える絶対仕事であり,入口出口間の内部エネルギー差に等しい. 22Vp (も

しくは 22vp )はタービン出口から作動流体を排出するのに必要な負の仕事である.タービンが外

部にする仕事はこれらの仕事の総和である.この仕事は pV線図(もしくは pv 線図)では次式で

表される.

2

1VdpWt [J] |

2

1vdpwt [J/kg, J/mol]

(2) エネルギー保存則

容積 V

1

2

面積=工業仕事

1

2

圧力

p

V

1

2

排除仕事

V

1

2

絶対仕事

1

2

排除仕事

+ +

V

1

2

工業仕事

+ + =

p p

p

p

Page 17: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 第 2章 熱力学第 1法則 17

17

図に示す流動系のエネルギー保存を考える.

出口における作動流体のエネルギーは,入口におけるエネルギーに系の外から流入する熱量と系

の外に発生する仕事が加味されたものとなるから,次のエネルギー保存則が成立する.

2

2

2212121

2

112

1

2

1mgymwHWQmgymwH t

ただし,H1:単位時間当たりに流入するエンタルピー[J/s],H2:単位時間当たりに流出するエン

タルピー[J/s],Q12:単位時間当たりに供給される熱量[J/s],Wt12:単位時間当たりに発生する工業

仕事[J/s],w:流速[m/s],m:質量流量[kg/s].

式を変形すると,

12122

12

212122

1yymgWwwmHHQ t

2211 , mhHmhH なので

122

22

2121

21

1

12122

12

21212

22

2

1

t

t

Wgyw

hmQgyw

hm

yym gWwwmhhmQ

さらに, 22221111 , vpuhvpuh を代入すれば

122

22

222121

21

11122

tWgyw

vpumQgyw

vpum

2.4 状態量

状態量(quantity of state)=系もしくは物質の状態を表す量.

示量性(extensive property)

(系全体の量が部分系の量の和に等しい)

示強性(intensive property)

(示量性でないもの)

体積

質量

物質量(mol)

エントロピー

エンタルピー

内部エネルギー

圧力

密度

濃度

温度

化学ポテンシャル

注意:熱量 Q,仕事 Wなどは状態量ではない.理想気体では,圧力 p・温度 T・比容積 vのうち,

2つが決まると,残りの一つは決定される.

1

2

m

Page 18: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 3 章 理想気体 18

18

第 3章 理想気体

3.1 理想気体

理想気体(ideal gas)は気体分子の体積および分子間力を無視した仮想の気体である.理論計算

を行う上で便利であるが,実際には存在しない気体である.実在する気体は,総称として実在気

体(real gas)という.

理想気体と実在気体の比較 理想気体 実在気体(半理想気体)

比熱 温度に関係なく一定 温度の関数

状態変化 次項の理想気体の状態方程

式で記述される

・単原子分子および 2 原子分子 (N2, O2, ・・・): 狭い

温度範囲において,理想気体の状態方程式を適用可

・3 原子分子 (CO2, H2O, ・・・): 理想気体の状態方程

式が適用できない

3.2 理想気体の状態方程式とその意味

理想気体に成立する法則として代表的なものには次のものがあげられる.

ボイルの法則(Boyle's law):温度一定のもとで,圧力と体積は互いに反比例する。

シャルルの法則(Charles' law)(ゲイ・リュサックの法則ともいう):圧力一定のもとでは,

体積は熱力学温度に比例する.

ボイル・シャルルの法則(Boyle-Charles' law):体積は,圧力に反比例し,熱力学温度に比

例する.

これらの関係を整理したものは,理想気体の状態方程式(equation of state of ideal gas)と

呼ばれ,理想気体の温度・圧力・比容積(状態量)の関係を表す.

理想気体の状態方程式

系全体 単位質量当り

mRTpV

TnRpV u RTpv

ただし,mは系に含まれる気体の質量[kg],n はモル数[mol]である.Rはガス定数(gas constant)

[J/(kgK)]で,気体成分ごとに異なる.Ruはガス定数 Rに分子量 M [g/mol=kg/kmol]を乗じた値で,

一般ガス定数(universal gas constant) [J(/mol K)]という.

3.8314 MRRu J/(kmol K)

一般ガス定数は気体の種類に関係なく一定である.

注意:実在する気体(実在気体)は気体を構成する原子数が増えるほど,理想気体の状態方

程式に従わなくなる.

式から分かるように,状態方程式とは気体の圧力,容積,温度の関係を示すものであるが,こ

の方程式が持つ意味はそれだけではない.

① (等温変化では)圧力と体積は反比例する.

② 式の単位はエネルギーである.

系全体

単位質量当り

or

単位モル数当り

Page 19: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 3 章 理想気体 19

19

系全体 mRTpV の場合

左辺: JNmmN/mm,N/mPa 3232 pVVp

右辺: JKJ/kg/KkgK,J/kg/K ,kg mRTTRm すなわち系全体のエネルギー[J]

となる.

単位質量当り RTpv の場合

左辺: J/kgNm/kg/kgmN/m/kgm,N/mPa 3232 pvvp

右辺: J/kgKJ/kg/KK,J/kg/K pvTR

すなわち単位質量当りのエネルギー([J/kg])となる.

③ pVは圧力 p [Pa]での理想気体 V [m3]の排除仕事[J]に等しい.

pv は圧力 p[Pa]での理想気体 1kgの排除仕事[J/kg]に等しい.

3.3 比熱と比熱比

ジュールの法則(Joule’s law):実験により,内部エネルギーは温度のみの関数であることを発見.

熱力学の第 1 基礎式および第 2 基礎式より,

vdpdhpdvdudq

比熱の定義より

dT

dh

dT

vdpdh

dT

dqc

dT

du

dT

pdvdu

dT

dqc

pp

p

vv

v

,

よって

dTcdhdTcdu pv ,

これらを,熱力学の第 1 基礎式および第 2 基礎式に代入すれば,

vdpdTcdqpdvdTcdq pv ,

両辺を引くと

pvddTccpdvvdpdTcc vpvp 0

理想気体の状態方程式は, RTpv なので,この両辺の全微分は RTdpvd となる.

Rcc

RdTdTccRTddTccpvddTcc

vp

vpvpvp

0

3.4 内部エネルギー

温度 T[K]、モル数 n[mol]の理想気体の内部エネルギーは,分子運動論より,m を分子の質量,

2

2

1vm を平均分子運動エネルギー,NAをアボガドロ数とすると

単原子分子: nRTnNN

RTnNvmU A

A

A2

3

2

3

2

1 2 [J]

2 原子分子: nRTU2

5 [J]

3.5 エントロピー

ある温度 Tの下で,単位質量あたり熱量が dq 変化した場合,dq と Tの比 Tdq/ は,一つの状態

量となる.(注:dq 自体は状態量ではない.)

そこで,クラジウスは変化量が

T

dqds

Page 20: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 3 章 理想気体 20

20

で表される状態量 s をエントロピー(entropy)と名付けた.(この場合,正確には比エントロピー)

気体の状態変化を考察する際に,縦軸に圧力 p と,横軸に比容積 v としたグラフ(pv 線図)だけ

でなく,縦軸に温度 T,横軸に比エントロピーs としたグラフ(Ts 線図)を併用すると理解が容易

となる.

3.6 理想気体の状態変化

要点

温度,圧力,比容積などの状態量が変化することを状態変化(change of state)という.一般に,

変化前を 1,変化後を 2 で表し,必要に応じて数字を追加する.状態変化の様子を表すために,

pv 線図(pv diagram),Ts 線図(Ts diagram),hs 線図(hs diagram)が用いられる.このうち,理想

気体では pv 線図,Ts 線図の 2 種類,湿り空気では hs 線図を加えた 3 種類が用いられる.

記号は大文字と小文字で意味が異なる場合がある.

p, P:圧力

T:絶対温度,t:摂氏

v:比容積(比体積),V:容積(体積)

h:比エンタルピー,H:エンタルピー

s:比エントロピー,S:エントロピー

状態変化の仕方は無数にある.そのうち,特徴的なものは

① 等温変化(isothermal change)

② 等圧変化(isobaric change)

③ 等容変化(isochoric change)

④ 断熱変化(adiabatic change)

の 4 種類である.これらの状態変化は

⑤ ポリトロープ変化(politropic change)

の一種であり,ポリトロープ変化は全ての状態変化の総称である.状態変化を考える上で重要な

比容積 v

圧力

P

比エントロピーs

温度

T

比エントロピーs

比エンタルピー

h

T1

T2

T1<T2

比容積 v

圧力

P

T1

T2

T

T1

T2

重ね合わせると

熱量 dq 仕事 dw

比容積 v

圧力

P

1

2

変化の仕方は無数

に考えられる

Page 21: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 3 章 理想気体 21

21

ことは,

発生する仕事(もしくは外部から与えられる仕事)

供給する熱量(もしくは,奪い去る熱量)

を求めることである.仕事は,pv 線図で圧力 p を積分することで求まる.

2

112 pdvw

ここで,圧力 p は

① 等温変化 .. constpvconstT

② 等圧変化 .constp

③ 等容変化 ./. constTpconstv

④ 断熱変化 .constpv

⑤ ポリトロープ変化 .constpvn

の関係から,求めることができる.また,熱量は,熱力学の第 1 基礎式と第 2 基礎式から求める

ことができる.

3.6.1 等温変化

等温変化では,温度が変化しないから,内部エネルギーは, 0du

熱力学第一法則から

pdvpdvdudq

となり,気体に与えられた熱量 12q はすべて,仕事 12w に変換される.

1212 wq

m[kg]では

121212 mwmqQ

理想気体の状態方程式は

constRTpv →v

vppvppv 11

11

とおけば,外部仕事は

1

2111211

2

111

2

111

2

1

112

112 lnlnlnln

v

vvpvvvpvvp

v

dvvpdv

v

vppdvw

さらに,次のようにおくこともできる.

2

11

2

11112 lnln

p

pRT

p

pvpw

3.6.2 等圧変化

比容積 v

pv 線図

比エントロピーs

圧力

p

温度

T

Ts 線図

等温変化

等温変化

1 2 1

2

体積が変化する閉じた系

Page 22: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 3 章 理想気体 22

22

等圧変化では圧力が変化しないから,

0dp

よって,熱力学の第 2 基礎式(熱力学の第一法則)から

dhvdpdhdq

となる.加えられた熱量は,すべてエンタルピー変化に変わる.ここで

dTcdh p

であるから

12

2

1

2

112 TTcdTcdhq pp

外部仕事は

1212

2

112 TTRvvppdvw

よって,比をとると

1212

12

12 11qw

c

cc

c

R

q

w

p

vp

p

となる.内部エネルギーは

dTcdu v

であるから

12

2

1

2

112 TTcdTcduuu vv

比をとると

12

12

12

12 1 quu

c

c

q

uu

p

v

となる.等圧変化では,加えられた熱量は内部エネルギーと外部仕事に配分される.

3.6.3 等容変化

等容変化では容積が変化しないから, 0dv

よって,熱力学の第 1 基礎式(熱力学の第一法則)から

dupdvdudq

となる.加えられた熱量は,すべて内部エネルギー変化に変わる.ここで

dTcdu v

であるから

比容積 v

Pv 線図

比エントロピーs

圧力

p

温度

T

Ts 線図

等温変化

1

2

1 2

等圧変化

等圧変化

体積が変化する閉じた系

Page 23: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 3 章 理想気体 23

23

12

2

1

2

112 TTcdTcduq vv

外部仕事は,体積変化がないから

02

112 pdvw

3.6.4 断熱変化

断熱変化では,変化の過程で気体と周囲との間に熱交換が行われない(断熱されている).また,

摩擦による内部発熱も発生しない.熱交換がないから,

0dq

よって,熱力学の第 1 基礎式(熱力学の第一法則)から

0 pdvdTcpdvdudq v (3.1)

となる.ここで,理想気体の状態方程式

RTpv

の両辺を微分すると

RdTvdppdv (3.2)

(3.2)式より

vp cc

vdppdv

R

vdppdvdT

(3.1)式に代入すると

0

0010

p

dp

v

dv

vdppdvpdvvdppdvpdvvdppdvcc

c

vp

v

積分すれば

constpvconstpvconstpvconstpv lnlnlnlnln

比容積 v

Pv 線図

比エントロピーs

圧力

p

温度

T

Ts 線図

等温変化

1

2

1

2

等容変化

等圧変化

等容変化

比容積 v

Pv 線図

比エントロピーs

圧力

p

温度

T

Ts 線図

等温変化

2

1 1

2

等容変化

等圧変化

等容変化

体積が変化しない閉じた系

体積が変化しない閉じた系

Page 24: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 3 章 理想気体 24

24

となる.

注:断熱変化では圧力と比容積の関係が,比熱比κを用いて表すことができるため,κは断

熱指数ともいう.

v

vppvppv 1

111

とおけるから,外部仕事は

1

2

111

1

1

211

1

1

211

11

11

12

112

11

11

2

111

2

112

11

11

11

11

11

v

vvp

v

vvp

v

vv

vp

vvvp

vvpdvv

vppdvw

ここで

1

1

2

2

12211

p

p

v

vvpvp

1

1

2

11

1

2

1

1

2

1

2

11

22

p

p

p

p

p

p

p

p

vp

vp

などの関係を代入すると

212211

1

1

21112

11

11

1TT

Rvpvp

p

pvpw

となる.

3.6.5 ポリトロープ変化

変化の過程で,気体と周囲との間で熱交換が行われる場合,一般に,圧力と比容積の関係は

constpvn

の形で表すことができる.n をポリトロープ指数という.

代表的な状態変化では

等圧変化: 0n

等温変化: 1n

等容変化: n

断熱変化: n

の場合に等しい.外部仕事は,断熱指数をポリトロープ指数で置き換えたもの等しい.

212211

1

1

211

1

2

11112

11

11

11

1TT

n

Rvpvp

np

p

n

vp

v

v

n

vpw

n

nn

熱量は,熱力学の第 1 基礎式(熱力学の第一法則)から

pdvdTcpdvdudq v

積分すれば

1221121212

2

1

2

112

11TT

n

RcTT

n

RTTcwTTcpdvdTcq vvvv

ここで,ポリトロープ変化の比熱として

111

1

11

n

nc

n

cnc

n

ccnc

n

ccc

n

Rcc v

pvvpvvp

vv

を定義すれば

1212 TTcq

n を境にして,ポリトロープ変化の比熱の正負が逆転するため,1 の状態から 2 の状態に膨張

Page 25: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 3 章 理想気体 25

25

(温度が低下するから 12 TT )の場合

n なら 012 q :加熱しないと状態変化を実現できない

n なら 012 q :断熱しないと状態変化を実現できない

n なら 012 q :放熱しないと状態変化を実現できない

1 の状態から 2 の状態に圧縮(温度が上昇するから 12 TT )の場合

n なら 012 q :放熱しないと状態変化を実現できない

n なら 012 q :断熱しないと状態変化を実現できない

n なら 012 q :加熱しないと状態変化を実現できない

ことになる.

3.7 可逆変化と不可逆変化

状態変化を起こす系が完全に断熱されるとともに,内部で摩擦などによるエネルギーの散逸が

なければ,1→2 の状態変化をさせても,逆のプロセスで再び 2→1 のように元の状態に戻すこと

ができる.これを可逆変化(reversible change)という 3).実際の現象では,断熱やエネルギー散

逸を伴うので元の状態には戻らない.この場合,不可逆変化(irreversible change)という.

シリンダ内のピストンが移動するとき,可逆変化では,断熱変化により 1 と 2 の状態変化を繰

り返すことができる.不可逆変化では,1→2 にポリトロープ変化後,ピストンを押し込めば,ポ

リトロープ変化により 2→3 の状態変化を起こすことになる.1 と 3の状態は一致しない.

可逆変化は断熱変化において起きる理想的な変化であるため,特に可逆断熱変化(reversible

adiabatic change)ともいう.ただし,断熱変化でも内部摩擦等が発生する場合には,不可逆断熱

変化(irreversible adiabatic change)となる.

3) 詳細は下記資料を参照のこと.

『埼玉工業大学 機械工学学習支援セミナー(小西克享) 可逆変化と不可逆変化』

http://www.sit.ac.jp/user/konishi/JPN/L_Support/SupportPDF/ReversivleChange.pdf

比容積 v

pv 線図

比エントロピーs

圧力

p

温度

T

Ts 線図

(等温)

(断熱)

(等圧)

(等容)

(等温)

(断熱)

(等圧)

(等容)

V

1

2

p

V

3

2

1

p

可逆変化 不可逆変化

断熱変化 ポリトロープ変化

Page 26: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 3 章 理想気体 26

26

3.8 混合気体の性質(ドルトンの法則)

数種類の理想気体が反応せずに,拡散・混合する場合,出来上がった混合気はドルトンの法則に

よって,質量・温度・圧力・容積の状態量を求めることができる.

ドルトンの法則(Dalton's law):混合気の圧力は各成分の分圧の和に等しい.

混合前の各成分気体の質量,圧力,温度,容積をそれぞれ iiii VTpm ,,, ,混合後を VTpm ,,, とす

る.関係式は

mRTpVTRmVp iiiii ,

n

i

imm1

n

i

iVV1

iviiii TTcmuum

全体では

n

i

ivii

n

i

vii

n

i

ii

n

i

ivii

n

i

vii

n

i

n

i

iii

n

i

iviivii

n

i

iii

n

i

ivii

n

i

ii

TcmcmTumum

TcmTcmumum

TcmTcmumum

TTcmuum

111

111 1

11

11

容器が断熱されている場合,全体の内部エネルギーは混合前後で保存される.

n

i

iiummu1

よって

n

i ii

ii

n

i i

ii

n

i

vi

ii

ii

n

i i

iivi

n

i

vii

n

i

iviin

i

ivii

n

i

vii

T

Vp

Vp

cTR

Vp

R

Vpc

cm

Tcm

TTcmcmT

1

1

1

1

1

1

11

1

10

気体成分の分圧 'ip は,その成分のみが体積 V,温度 Tになった場合の圧力に等しいから

TR

Vp

TR

Vpm

i

i

ii

iii

'

より

i

iii

T

T

V

Vpp '

n

i

ii

n

i i

ii

n

i i

ii

n

i

i RmV

T

T

Vp

V

T

T

T

V

Vppp

1111

'

混合前

混合後

Page 27: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

8 埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 4 章 熱力学第 2 法則 27

27

第 4章 熱力学第 2法則

4.1 サイクルと仕事

熱エネルギーを仕事(動力)に変換する機械を熱機関(heat engine)という.もっとも単純な熱

機関はシリンダとピストンで構成される.高熱源からシリンダ内の気体に熱を供給すると気体は

膨張してピストンを動かすから,ピストンに仕事をさせることができる.しかし,ピストンの移

動量には限界があるため,気体を無限に膨張させることは出来ない.そこで,熱機関が連続的に

仕事を発生するには,ピストンを何らかの方法で一旦元の位置に戻し,再度膨張させる繰り返し

を行なわなければならない.これをサイクル(cycle)という.熱機関ではサイクルを実現すること

により,間欠的に連続した仕事を取り出す事ができるようになる.図で,サイクルが行う仕事は,

気体の膨張により発生する膨張仕事と,気体を圧縮することに費やされる圧縮仕事との差となる.

加熱と放熱の組み合わせたサイクル

加熱と押し戻しの組み合わせ

このとき,サイクルが有効な仕事を発生するためには

容積 V

1

2

膨張

圧縮

1 サイクルに外部に取り出せる仕事

熱機関のサイクル

圧力

p

容積 V

1

2

膨張仕事

供給 熱量

Q>0

V

1

2

圧縮(収縮)仕事

放熱 熱量 Q<0

熱量を奪う (等温圧縮)

V

1

2

外部になす仕事

Q

熱量を与える (等温膨張)

Q

圧力

p

p p

容積 V

1

2

膨張仕事

供給 熱量 Q>0

V

1

2

圧縮仕事

外力で押戻す (断熱圧縮)

V

1

2

外部になす仕事

3

Q

熱量を与える (等温膨張)

3

+ -

圧力

p

p p

Page 28: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

8 埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 4 章 熱力学第 2 法則 28

28

膨張仕事>圧縮仕事 でなければならない.サイクルは,pV 線図(pv 線図)で閉曲線の状態変化を描く事になる.閉曲

線内部の面積がサイクルから取り出せる仕事を表す.周積分記号を用いるとサイクルの仕事は以

下のように定義できる. ∫= pdVW

シリンダ内の気体を膨張させるには,気体に熱量を与えればよい.一方,膨張した気体から熱量

を奪えばピストンを押し戻すことが出来るが,熱損失を無視できるとすると膨張過程と圧縮(収

縮)過程の経路が同じとなり,膨張仕事(正の仕事)と圧縮仕事(負の仕事)が等価となる.こ

の場合,サイクルは外部に何も仕事をしないことになる.また,放熱を行わずに力を加えてピス

トンを押し戻すと,圧力が元の状態より大きくなるため 膨張仕事(正の仕事)<圧縮仕事(負の仕事)

となって,仕事を取り出すどころか逆に仕事を与えなければならなくなる.このため,単に熱量

を奪ったり,ピストンを力ずくで戻しても有効なサイクルを形成できない.有効なサイクルを形

成するには,ピストンを元の位置に戻すための圧縮仕事を気体の膨張で得られる膨張仕事より小

さくしなければならない. 4.2 熱効率と動作係数

熱機関では,高熱源から熱量を得て低熱源に放熱することでその熱量差を仕事に変換できる.

高熱原から供給する熱量のうち,何%を仕事に変換できるかが熱機関の性能を示す重要な指標と

なる.この指標を熱効率(thermal efficiency) ηといい,次式で表すことができる.

1

2

1

21

11

QQ

QQQ

QW

−=−

==η

熱機関のサイクルを逆向きに動作させると,低熱源から熱量を奪い(吸熱),高熱源に放熱す

ることができ,これを冷凍機もしくはヒートポンプという.冷凍機では低熱源側からの吸熱を冷

却に応用したもので,ヒートポンプでは高熱源側への放熱を暖房に応用したものである.冷凍機

もしくはヒートポンプの性能を表す指標は動作係数(coefficient of performance)といい,次式

で表される.冷凍機の動作係数は

21

22

QQQ

WQ

r −==ε

ヒートポンプの動作係数は

21

11

QQQ

WQ

h −==ε

4.3 カルノーサイクル

カルノーは,温度 T1の高熱源と温度 T2の低熱源を用いて,次の 4 つの行程を順に行うことで,

あらゆる熱機関の中で最大の熱効率を与える熱力学的理論サイクルを構成できることを見出した. ①等温膨張

容積 V

1

2

熱機関のサイクル

圧力

p

容積 V

1

2

冷凍機のサイクル(Q2を利用) ヒートポンプのサイクル(Q1を利用)

圧力

P

Page 29: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

8 埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 4 章 熱力学第 2 法則 29

29

②断熱膨張

③等温圧縮

④断熱圧縮

このサイクルは,カルノーサイクル(Carnot's cycle)と呼ばれている.

カルノーサイクルでは,①高熱源からの熱供給により気体を等温膨張させると,供給熱量全て

を仕事に変換できる.②熱供給を止めても,内部エネルギーを消費しながら気体は引き続き膨張

(断熱膨張)することができる.③その後,等温冷却すると気体は収縮する.④さらに断熱圧縮

をさせると元の状態に戻る.②の過程で,エネルギーを投入していないにもかかわらず,膨張仕

事が得られるが,④では逆に,圧縮仕事を与えなければならないから,④に必要なエネルギーを

②のエネルギーで埋め合わせれば,結局,高熱源から供給される Q1 と低熱源へ捨てる Q2 のみが

サイクルに関与する熱量となる. カルノーサイクルの熱効率は次のように計算される. 高熱源 T1からの加熱量は,1→2 間の等温変化の熱量に等しく,

0ln1

211 >=

VV

mRTQ

低熱源 T2からの放熱量は,3→4 間の等温変化の熱量に等しく,

0lnlnln1

22

4

32

3

422 >==−=

VV

mRTVV

mRTVV

mRTQ

カルノーサイクルの熱効率は,次のように単純な公式で表すことができる.

1

2

1

21

1

22

1

2 1ln

ln11

TT

VV

mRT

VV

mRT

QQ

−=−=−=η

注:カルノーは理論を考案したにすぎず,実際にエンジンを製作したわけではないが,現代の

熱機関に発達につながる重要な熱力学の理論を導き出したことで,その貢献はきわめて大きい. 4.4 熱力学の第 2法則

自然界では,熱は高温側から低温側に流れる.これを熱力学の第 2 法則(the second law of

thermodynamics)という.熱の移動現象は,水が高いところから低いところに流れることと類似

した現象である.エネルギーの流れに方向性があることは,われわれが経験的に知っている事実

であり,経験則と呼ばれる自然法則である. 注:経験則は否定する事実が見つかっていないだけであり,宇宙普遍であることまでは証明

されていない法則である. 熱を仕事に変換するには,熱機関が必要となる.熱力学の第 2 法則によれば,熱機関は高温側

から熱量 Q1をもらい低温側に熱量 Q2を捨てることにより,熱量差 21 QQ − を仕事 W に変換する

ことが可能であることを示している.

比容積 v pv 線図

比エントロピーs

圧力

p

温度

T

Ts 線図

①等温膨張

断熱 圧縮④

③等温圧縮

②断熱

膨張

1 2

3 4

①等温膨張

等温圧縮③ ②断熱膨張

断熱 圧縮④

1

2

3

4

カルノーサイクル

Page 30: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

8 埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 4 章 熱力学第 2 法則 30

30

4.5 クラジウスの積分とエントロピー

(1) クラジウスの積分

カルノーサイクルの熱効率は

1

2

1

2 11TT

QQ

−=−=η

であるから,熱量比は温度比に等しいことが分かる.すなわち

1

2

1

2

TT

QQ

=

変形すれば

02

2

1

1 =−TQ

TQ

ここで,加熱を正,放熱を負に取り,記号を変更すれば 2211 , QQQQ −== とおけば,

02

2

1

1 =+TQ

TQ

任意のサイクルを分割して,n 個の複合カルノーサイクルを考えれば,各カルノーサイクルにつ

いて

0

:

0

0

2

2

12

12

4

4

3

3

2

2

1

1

=+

=+

=+

n

n

n

n

TQ

TQ

TQ

TQ

TQ

TQ

が成立する.辺々の合計を求めれば,

02

1

=∑=

n

i i

i

TQ

積分記号を用いると,分割数を無限大にした場合,

01lim2

1

== ∫∑=

∞→Qd

TTQn

i i

in

となる.これを可逆サイクルのクラジウス積分という.可逆サイクルのクラジウス積分を分割す

れば,

0111 1

2

2

1=+= ∫∫∫ ba

QdT

QdT

QdT

よって

∫∫∫ =−=2

1

1

2

2

1

111bba

QdT

QdT

QdT

となり,クラジウス積分は変化前後の状態が同じであれば,経路に関係なく値は等しいことが分

かる.したがって, ∫ QdT1

は状態量であることがわかる.そこで

∫=−2

1121 QdT

SS

となる量をクラジウスはエントロピー(entropy)と名付けた.エントロピーは微分形で表すと

QdT

dS 1= :エントロピー

比容積 v

圧力

p

1

2

a

b

Page 31: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

8 埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 4 章 熱力学第 2 法則 31

31

qdT

ds 1= :比エントロピー

となる.不可逆サイクルでは,クラジウス積分は

01<∫ Qd

T

となり,エントロピーは 0>dS となる.自然界では状態変化はすべて不可逆変化であるため,状態変化がおこれば,必ずエント

ロピーが増加する.これをエントロピー増大の法則(law of entropy increase)という*.(熱力

学第 2 法則の別の意味) * 詳細は下記資料を参照のこと. 『埼玉工業大学 機械工学学習支援セミナー(小西克享) エントロピー増大の法則』

http://www.sit.ac.jp/user/konishi/JPN/L_Support/SupportPDF/Principle_of_entropy.pdf (2) 理想気体の可逆エントロピー変化

熱力学の第 1 基礎式および第 2 基礎式は vdpdhdqpdvdudq −=+= ,

これらの左辺は,比エントロピー Tdqds = より Tdsdq = と表わせる.一方, dTcdhdTcdu pv == ,

であるから,代入すると第 1 基礎式および第 2 基礎式は次のように表わすことができる. vdpdTcTdspdvdTcTds pv −=+= ,

両辺を T で割れば

dpTvdT

Tc

dsdvTpdT

Tc

ds pv −=+= ,

理想気体の状態方程式 RTpv = から

vR

Tp= もしくは

pR

Tv=

なので,これらを代入すると

dppRdT

Tc

dsdvvRdT

Tc

ds pv −=+= ,

となる.積分すれば

1

2

1

22

1

2

112 lnlnvv

RTT

cdvvRdT

Tc

dsss vv +=

+==− ∫∫ (4.1)

1

2

1

22

1

2

112 lnlnpp

RTT

cdppRdT

Tc

dsss pp −=

−==− ∫∫ (4.2)

① 等温変化

等温変化では 11

2 =TT

であるから, (4.1)式および(4.2)式より

1

2

1

2

1

212 lnlnln

vvR

vvR

TTcss v =+=−

1

2

1

2

1

212 lnlnln

ppR

ppR

TTcss p −=−=−

Page 32: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

8 埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 4 章 熱力学第 2 法則 32

32

② 等容変化

等容変化では 11

2 =vv

であるから, (4.1)式より

1

2

1

2

1

212 lnlnln

TT

cvv

RTT

css vv =+=−

また,1

2

1

2

pp

TT

= だから,

1

212 ln

pp

css v=−

③ 等圧変化

等圧変化では 11

2 =pp

であるから,(4.2)式より

1

2

1

2

1

212 lnlnln

TT

cpp

RTT

css pp =−=−

また,1

2

1

2

vv

TT

= だから,

1

212 ln

vv

css p=−

④ 断熱変化

断熱変化では,

constvpvppv === κκκ2211 →

pRTv =

より

1

1

21

2

1

1

2

21

12

22

11

2

1

1

2 ,−−

=

=∴

=

=

=

κκ

κκ

κκκ

TT

TT

pp

TpTp

pRTpRT

vv

pp

式(2)より

( ) ( ) 0lnln1/

/

ln1

lnlnlnln

1

2

1

2

1

21

1

2

1

2

1

2

1

212

=−=

−−−=

−−=

−=−=−

TT

ccTT

cccc

ccc

TT

RcTT

RTT

cpp

RTT

css

ppvp

vpvpp

ppp κκκ

κ

⑤ ポリトロープ変化

ポリトロープ変化では,

constvpvppv nnn === 2211 →p

RTv =

より,断熱変化の場合と同様に

1

1

2

1

2 −

=

nn

TT

pp

式(2)より

( ) ( )

1

2

1

2

1

2

1

2

1

2

1

212

ln1

ln1

ln1

1ln

1lnln

TT

nnc

TT

nncc

TT

nnccnc

TT

nnRc

pp

RTT

css

vvp

vpppp

−−

=−

+−=

−−−=

−−=−=−

κ

4.6 有効エネルギーと無効エネルギー

Page 33: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

8 埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 4 章 熱力学第 2 法則 33

33

高熱源から Q1 の熱量を受け,低熱源に Q2 の熱量を捨てることにより, 21 QQQa −= を仕事に

変換することができる.仕事に変換できた熱量を有効エネルギー(available energy)という.T-s線図では,1→2→3→4 が描く面積 aQ に等しい.低熱源に捨てた熱量 Q2 を無効エネルギー

(unavailable energy)という.Ts 線図では,網掛け部分に等しい.

上図に示す高熱源から供給熱量 Q1の等しい 2 つのカルノー線図を比較すると,右図の方が,無

効エネルギーが大きいことから,有効エネルギーは aa QQ ′> となる.これは,高熱源の温度が高い方が,エネルギーの変換効率が大きいことを意味している.

4.7 最大仕事

(1) 最大仕事とエクセルギー

圧縮された気体が膨張することにより外部仕事を発生できるが,膨張するためには周囲の気体

を押しのける(排除する)だけのエネルギー(排除仕事)が必要であるから,この分は外部仕事

として取り出すことができない. pv 線図において,単位質量あたりの膨張仕事 w は

∫=2

1pdvw

で表され,排除仕事は周囲の圧力を p0とすると, ( )120 vvp − となるから,1 から 2 への状態変化の間にピストンが外界に対して発生しうる単位質量あたりの

仕事は

( )120

2

1vvppdvwm −−= ∫

となる.微分形式で表わすと,次式のとおりとなる. dvpdwdwm 0−= 気体が雰囲気圧力に一致するまで膨張したとき,ピストンの運動は停止するため,それ以上仕

事を取り出すことができなくなる.その間に取り出した仕事が膨張によって取り出しうる最大の

仕事となり,これを非流動系における最大仕事(maximum work)という. 最大仕事は,シリンダの内外の圧力が平衡するまでの膨張仕事から排除仕事を差し引いた分とな

る.よって,平衡状態を添え字 0 で表すと

( )100

0

1

0

1vvppdvdww mm −−== ∫∫

となる. 圧縮された気体が周囲と平衡するまで膨張する際に得られる最大エネルギーをエクセルギー

(exergy)という.最大仕事と同義である.

比エントロピーs

温度

T T-s 線図

4

(無効エネルギー)

比エントロピーs

温度

T

T-s 線図

1 2

3 4

(無効エネルギー)

4

2’

3’

1’

(有効エネルギー) (有効エネルギー)

供給熱量 Q1が等しく, の場合の Ts 線図の比較

Page 34: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

8 埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 4 章 熱力学第 2 法則 34

34

(2) 最大仕事の式

① 一定温度の高熱源を用いる場合

図に示すカルノーサイクルが温度 T1 の高熱源から熱量 Q12 を得て,温度 T0 の低熱源に熱量 Q0

を捨てる場合,有効エネルギーが最大仕事となる.

1

0

12

0

TT

QQ

=

より,サイクルの最大仕事は

−=−=−=

1

012

1

01212012 1

TT

QTT

QQQQWm

となる.

② 断熱膨張の場合

圧力,温度,容積,内部エネルギー,エントロピーが初期状態 11111 ,,,, SUVTp から可逆的に断

熱膨張し(供給熱量=0),系の圧力,温度が 00 , Tp の平衡状態になるものとする. 高熱源からの熱量の出入りはなく,温度 T0の雰囲気に捨てられるのみである. 熱力学第 1 法則から熱量は dWdUdQ += で表され,熱力学第 2 法則から

dSTdQTdQdS 0

0, =∴=

と表される.また,系のなす膨張仕事 dW はエクセルギーdWmと排除仕事 dVp0 の合計であるから, dVpdWdW m 0+= これらを代入すると dVpdSTdUdWdVpdWdUdST mm 0000 , −+−=++= よって,エクセルギーは

比容積 v

1

2

膨張仕事

熱量 Q

圧力

p

排除仕事

膨張停止 0

比エントロピーs

温度

T

比エントロピーs

温度

T

比エントロピーs

温度

T

Page 35: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

8 埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 4 章 熱力学第 2 法則 35

35

( ) ( ) ( )100100100

1VVpSSTUUdWW mm −−−+−−== ∫

となる.

容積 V V0

1

0

圧力

p

Wm

V1

Page 36: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 第 5章 熱力学の一般関係式 36

36

第 5章 熱力学の一般関係式

偏微分の知識を利用すれば,熱力学に関するさまざまな関係式を導出することができる.これ

らの式は,理想気体だけでなくあらゆる物質に適応できるため,熱力学の一般関係式と言われる.

5.1 基礎式

独立変数 X, Yで表される関数 Zを

YXZZ , (5.1)

と表すと,Zの全微分 dZは

dYY

ZdX

X

ZdZ

XY

(5.2)

これを,

XY Y

ZN

X

ZMNdYMdXdZ

,, (5.3)

と表す.dZが Zの全微分であるためには,偏微分の順番を入れ替え

YX X

N

YX

Z

XY

Z

Y

M

Y

Z

XYX

Z

XY

Z

X

Z

Y

22

22

(5.4)

が成立しなければならない.(5.2)式において, 0dZ とおけば

dYY

ZdX

X

Z

0

dXで両辺を割れば

dX

dY

Y

Z

X

Z

0

ここで,X

Y

dX

dY

として一般化すれば

1

10

0

Z

X

Y

Z

X

Y

Z

X

X

Y

Y

Z

X

Y

Y

Z

X

Z

5.2 マクスウェルの関係式

熱力学の第 1法則は

熱力学の第 1基礎式: pdvdudq

熱力学の第 2基礎式: vdpdhdq

これに,エントロピーの式

Tdsdq

を適用すれば,

熱力学の第 1基礎式: pdvTdsdupdvduTds , (5.5)

熱力学の第 2基礎式: vdpTdsdhvdpdhTds , (5.6)

ここで,新たな状態量として

ヘルムホルツの自由エネルギー(Helmholtz free energy):

sTuf

ギブスの自由エネルギー(Gibbs free energy),もしくは自由エンタルピー(free enthalpy):

sThg

Page 37: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 第 5章 熱力学の一般関係式 37

37

を導入し,それぞれの全微分を行えば

TdssdTdudf

TdssdTdhdg

ここで,(5.5)式,(5.6)式を代入すれば

sdTpdvTdssdTpdvTdsdf (5.7)

sdTvdpTdssdTvdpTdsTdssdTdhdg (5.8)

(5.5),(5.6),(5.7),(5.8)式を,(5.3)式と比較すれば

(5.3)式: NdYMdXdZ →XY Y

ZN

X

ZM

,

(5.5)式: pdvTdsdu →sv v

up

s

uT

,

(5.6)式: vdpTdsdh →sP p

hv

s

hT

,

(5.7)式: sdTpdvdf →vT T

fs

v

fp

,

(5.8)式: sdTvdpdg →pT T

gs

P

gv

,

整理すると

pv s

h

s

uT

Ts v

f

v

up

Tsp

g

p

hv

pv T

g

T

fs

となる.次に,(5.5),(5.6),(5.7),(5.8)式を,(5.4)式と比較すれば

(5.4)式: NdYMdXdZ →YX X

N

Y

M

(5.5)式: pdvTdsdu →vs s

p

v

T

(5.6)式: vdpTdsdh →ps

s

v

p

T

(5.7)式: sdTpdvdf →Tv v

s

T

p

Tv v

s

T

p

(5.9)

(5.8)式: sdTvdpdg →Tp p

s

T

v

(5.10)

下線の 4式をマクスウェルの関係式(Maxwell relations)という.

5.3 応用

5.3.1 エントロピー計算への応用

p, T, v:計測容易

T

dQs から求まる→しかし,Qが計測困難→マクスウェルの関係式(5.9),(5.10)を使うと p, T,

Page 38: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 第 5章 熱力学の一般関係式 38

38

vの実測値から sを求めることができる.

5.3.2 比熱計算への応用

① 比熱の測定

定圧比熱および定容比熱を直接測定することは出来ないが,次のようにマクスウェルの関係式

を用いることで,p, T, vの実測値から pv cc , を求めることができる.

熱力学の第 1基礎式, pdvdudq において

等容変化では, 0dv より, dudq となる.さらに

Tds

du

T

du

T

dqds

常微分を偏微分に拡張すると,

Ts

u

v

よって,定義より定容比熱は

vvvvv

vT

sT

T

s

s

u

T

u

T

qc

(5.11)

熱力学の第 2基礎式, vdpdhdq において

等圧変化では, 0dp より, dhdq となる.さらに

Tds

dh

T

dh

T

dqds

常微分を偏微分に拡張すると,

Ts

h

p

よって,定義より定圧比熱は

ppppp

pT

sT

T

s

s

h

T

h

T

qc

(5.12)

pv cc , の式を偏微分すれば

vvvvv

v

T

pT

T

p

TT

v

s

TT

Tv

sT

T

sT

vv

c

2

22

ppppp

p

T

vT

T

v

TT

p

s

TT

Tp

sT

T

sT

pp

c

2

22

となる.これらの式を数値積分すれば, pv cc , が求まる.

② 定圧比熱と定容比熱の関係

エントロピーを

vTss ,

とおけば,sの全微分は

dvv

sdT

T

sds

Tv

(5.13)

両辺を dvで割れば

Tv v

s

dv

dT

T

s

dv

ds

(5.14)

等圧変化では,左辺のdv

dsは

Page 39: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 第 5章 熱力学の一般関係式 39

39

ppp v

T

T

s

v

s

dv

ds

となる.一方,右辺のdv

dTは

pv

T

dv

dT

となるから,(5.14)式に代入すると

pTvp

Tpvp

Tpvpp

T

v

v

s

T

s

T

s

v

s

v

T

T

s

T

s

v

s

v

T

T

s

v

T

T

s

cpと cvの差を取り,上式を代入すれば

pTvpvp

vpT

v

v

sT

T

s

T

sT

T

sT

T

sTcc

(5.15)

ここで

TTT v

p

p

s

v

s

であり,マクスウェルの関係式,pT

T

v

p

s

を代入すれば

Tp

pTp

pTT

vp

v

p

T

vT

T

v

v

p

T

vT

T

v

v

p

p

sTcc

2

(5.16)

(5.16)式の右辺のTv

p

は,等温変化時の容積に対す

る圧力の変化率である.等温変化(pv=const)では,

pv線図に示すように勾配の値は

0

Tv

p

となるから,この関係を代入すると,(5.15)式の右辺>0となる.すなわち

0 vp cc

同様に,エントロピーを

pTss ,

とおけば,sの全微分は

dpp

sdT

T

sds

Tp

(5.17)

となり,次式が得られる.

Tv

vpp

v

T

pTcc

2

比容積 v pv線図

圧力

p

勾配

圧力 p

vp線図

比容積

v

勾配

Page 40: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 第 5章 熱力学の一般関係式 40

40

等温変化(pv=const)では,勾配の値は

0

Tp

v

となるから,

0 vp cc

となる.気体では常に cpと cvの差は正となることがわかる.

5.4 ジュール効果,ジュール・トムソン効果

熱力学の第 1 法則およびマクスウェルの関係式から,内部エネルギーとエンタルピーの変化を

求めることができる

(5.13)式より dvv

sdT

T

sds

Tv

右辺第 1項は,(5.11)式よりT

c

T

s v

v

右辺第 2項は,(5.9)式よりvT T

p

v

s

これらの関係を,(5.5)式 pdvTdsdu に代入すると,内部エネルギーの全微分は

dvpT

pTdTcpdvdv

T

pTdTcdu

v

v

v

v

(5.18)

となる.

一方,(5.17)式より dpp

sdT

T

sds

Tp

右辺第 1項は,(5.12)式よりT

c

T

s p

p

右辺第 2項は,(5.10)式よりpT

T

v

p

s

これらの関係を,(5.6)式 vdpTdsdh に代入すると,エンタルピーの全微分は

dpT

vTvdTcvdpdp

T

vTdTcdh

p

p

p

p

(5.19)

となる.等温変化における偏微分として,(5.18)式および(5.19)式で 0dT とおくと,

vvT T

p

TTp

T

pT

v

u

2

ppT

T

v

TT

T

vTv

p

h

2

が導かれる参考).温度 T の下で圧力と比容積の変化を計測すれば,内部エネルギーの比容積に対

する変化の割合とエンタルピーの圧力に対する変化の割合を計算できることになり,数値積分す

れば,内部エネルギーとエンタルピーを計算することが可能となる.

理想気体の場合は

T

p

v

nR

v

nRT

TT

p

vv

0

p

T

pT

v

u

vT

T

v

p

nR

p

nRT

TT

v

pp

0

pTT

vTv

p

h

となり,内部エネルギーとエンタルピーは体積や圧力には関係なく,温度のみの関数となること

Page 41: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 第 5章 熱力学の一般関係式 41

41

が分かる.これをジュールの法則(Joule's law)という.また,温度変化に関して次の関係式が導

かれる.

①自由膨張における温度変化(ジュール効果)

(真空中での膨張を自由膨張という.排除すべき気体がないので排除仕事をしないため外部仕

事をしない膨張である)

ジュール(James Prescott Joule)は,空気を自由膨張させた場合,空気の温度は変化しないことを

実験で確かめた.(厳密には,温度が変化しないのは理想気体の場合であり,実在気体では温度

が低下する.このことは,ジュール効果として知られている.)

(5.18)式で 0du とおくと,

vvvvu T

p

Tc

Tp

T

pT

cv

T

21

この式は,自由膨張時の体積に対する温度変化の割合を示し,ジュール効果(Joule effect)とい

う.ただし,理想気体の場合は

T

p

v

nR

v

nRT

TT

p

vv

01

p

T

pT

cv

T

vu

となって,自由膨張によって体積が変化しても,温度は変化しないことが分かる.(ジュール効

果は存在しない)

②絞りにおける温度変化(ジュール・トムソン効果)

ジュールとトムソンは,絞りを通して気体を膨張(ジュール・トムソン膨張)させた場合,気

体の温度が変化すること見つけた.

真空 p1

ジュールの実験

A B

ジュールの実験

Aの容器に入った空気を真空の容器 Bに放出し,空気の温度変化を調べた.容器内の温度

は一時的に変化したものの,やがて元の温度に戻った(平衡状態となる)ことから.自由膨

張では気体の温度が変化せず,内部エネルギーは一定に保たれることが分かった.

B

p1, T1

F1 F2

多孔質壁

p2,

A

p1>p

2

ジュール・トムソンの実験

ジュール・トムソンの実験

ジュール・トムソンの実験では,圧力が pAに一定に保たれた断熱容器 A から,圧力が p

B

に一定に保たれた断熱容器 B に多孔質壁の細孔を通って気体をゆっくりと圧力差を保った

状態で絞り膨張させた.その結果,膨張後の B の気体の温度が A の温度よりわずかに低く

なることを確かめた.

Page 42: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 第 5章 熱力学の一般関係式 42

42

Aの容器が体積 VAだけ減少し,Bの容器が体積 VBだけ増加したとする.容器の周囲の圧力が

p0とすれば,Aから Bには細孔を通して AA Vpp 0 のエネルギーが流入し,Bはピストンが空

気を排除することで, BB Vpp 0 のエネルギーを失うことになる.この系は外部に仕事をしな

いため,エネルギーの変化はすべて内部エネルギーに変換される.よって Bの内部エネルギーが

Ub1から Ub2に変化したとすれば,

BBAAbbb VppVppUUU 0012

この系全体の排除仕事分の変化は,+p1V1-p2V2である.この装置は外部に対して仕事をしたわ

けではないので,排除仕事分の変化は系全体の内部エネルギーの変化分ΔUに変換される.した

がって,

2211 VpVpU

となる.ここで,ΔUは Aと Bの内部エネルギーU1と U2の差に等しいので,

12 UUU

となる.よって

221112 VpVpUU

このとき,系全体のエンタルピーは一定に保たれる.(5.19)式で 0dh とおくと,

pppphT

v

Tc

Tv

T

vT

cp

T 21

μをジュール・トムソン係数という.理想気体の場合は

T

v

p

nR

p

nRT

TT

v

pp

01

v

T

vT

cp

T

ph

となって,絞り膨張によって圧力が変化しても,温度は変化しないことが分かる.実在気体では,

ある圧力を境に勾配が逆転する.これをジュール・トムソン効果(Joule-Thomson effect)という.

ジュール・トムソン効果

参考:微分公式 2g

gfgf

g

f

を適用すると,

vv

T

p

TTp

T

pT

T

pTT

p

T

p

T

2

2

pp

T

v

TT

T

vTv

T

vTT

v

T

v

T

2

2

より,式の変形が正しいことが分かる.

Bの圧力 p

温度

T

逆転温度

h一定

逆転温度曲線

等エンタルピー線

>0 <0

圧力が低下する方向が膨張

Page 43: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 6 章 蒸気 43

43

第 6章 蒸気 6.1 蒸発の基礎

(1) 飽和温度

水が沸騰する温度は,飽和温度(saturation temperature)と呼ばれる.飽和温度は雰囲気の圧

力によって異なり,下左図のように圧力が大きいほど飽和温度も高くなる.飽和温度と飽和圧力

の関係は,機械工学便覧に記載されており,次表に抜粋を示す.また,グラフで表すと下右図の

通りである.

水の飽和表(1999 日本機械学会蒸気表より抜粋) 温度 密度

Temperature DensitykPa MPa ℃ kg・m

-3

T v'×108 v" ρ h' h" h"-h' s' s" s"-s'

70 0.07 89.932 103589 2.36490 0.422851 376.68 2659.42 2282.74 1.19186 7.47895 6.2870980 0.08 93.485 103849 2.08719 0.479113 391.64 2665.18 2273.54 1.23283 7.43389 6.2010690 0.09 96.687 104090 1.86946 0.534914 405.13 2670.31 2265.18 1.26944 7.39423 6.12479

100 0.10 99.606 104315 1.69402 0.590311 417.44 2674.95 2257.51 1.30256 7.35881 6.05625101.325 0.101325 99.974 104344 1.67330 0.597623 418.99 2675.53 2256.54 1.30672 7.35439 6.04767

150 0.15 111.35 105272 1.15936 0.862547 467.08 2693.11 2226.03 1.43355 7.22294 5.78939200 0.20 120.21 106052 0.885735 1.129010 504.68 2706.24 2201.56 1.53010 7.12686 5.59676300 0.30 133.53 107318 0.605785 1.650750 561.46 2724.89 2163.43 1.67176 6.99157 5.31981400 0.40 143.61 108356 0.462392 2.162670 604.72 2738.06 2133.34 1.77660 6.89542 5.11882500 0.50 151.84 109256 0.374804 2.668060 640.19 2748.11 2107.92 1.86060 6.82058 4.95998

圧力 比体積 比エンタルピー 比エントロピーPressure Specific Volume Specific Enthalpy Specific Entropy

m3・kg

-1kJ・kg

-1kJ・kg

-1・K

-1

p

なお,理科年表には,p [mmHg]の水の沸点として,以下の計算式が紹介されている. 沸点 ( ) ( )268 760000023.07600367.000.100 −−−+= ppt [℃] t68:1968 年国際温度目盛 (2) 加熱時の水の状態変化

水(圧縮水 compressed water)を一定圧力の下で加熱(等圧加熱)すると,やがて飽和温度に達

して飽和水(saturated water)となる.飽和水をさらに加熱すると水蒸気が発生し,飽和状態の水

と水蒸気が混在した湿り蒸気(wet vapor)となる.湿り蒸気の状態ではいくら加熱しても温度は一

定である.湿り蒸気をさらに加熱すると,やがてすべてが水蒸気となって乾き飽和蒸気(dry

saturated vapor)となる.乾き飽和蒸気をさらに加熱すると,再び温度が上昇し,過熱蒸気

(superheated vapor)となる.ある圧力を超えると,ある温度まで過熱されると,蒸発現象を伴わ

0.05

0.1

0.15

0.2

0.25

0.3

0.35

0.4

0.45

0.5

90 100 110 120 130 140 150

蒸気圧曲線

圧力

[MPa]

温度 [℃]

水温

時間

0.1013MPa のとき

0.4760MPa のとき

沸騰

飽和温度 ∥ 沸点

150℃

100℃

Page 44: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 6 章 蒸気 44

44

ずに一気に液体から蒸気に変化する.このときの圧力と温度の状態を臨界状態という.臨界状態

における温度を臨界温度,圧力を臨界圧力という.pv 線図および Ts 線図上で,臨界状態はひとつ

の点 C で示される.この点を臨界点(critical point)という. 等圧加熱時の水の状態変化を ps 線図および Ts 線図に示すと図のようになる. ① 圧縮水(=水の圧縮液):線図上を a→b に変化する ② 飽和水(=水の飽和液):b 点の状態となる ③ 湿り蒸気:線図上を b→c→d に変化する ④ 乾き飽和蒸気:d 点の状態となる ⑤ 過熱蒸気:線図上を d→e に変化する

線 AC 上では水が沸騰状態にあり,飽和液線(saturation liquid line)という. 線 CB 上では水が乾き飽和状態にあり,飽和蒸気線(saturation vapor line)という. 6.2 pvT 状態曲面

(1) pvT 状態曲面

pv 線図を温度 T に関して拡張すれば,pvT を 3 つの軸とする pvT 状態曲面ができる.このうち,

pv 面は pv 線図に等しい.pT 面は pT 線図となり,固相,液相,気相の状態を表すことになる. (2) 相変化

相変化は次のように呼ばれる. 融解(fusion): 固相→液相 蒸発(evaporation): 液相→気相 昇華(sublimation): 固相→気相

特定の圧力・温度において,固相・液相・気相の三相が共存することができる.この条件を三

重点(triple point) Tpという.三重点は物質によって異なる.

p

v

圧縮水

湿り蒸気

過熱蒸気 C 臨界点

等圧変化

飽和蒸気線

T

s

液体

湿り蒸気

過熱蒸気

C 臨界点

等圧変化 a b c d e

a

b c d

e

A B A B

p

v

圧縮水

湿り蒸気

過熱蒸気 C 臨界点

等温変化

飽和蒸気線

T

s

液体

湿り蒸気

過熱蒸気

C 臨界点 等温変化

a

b c d e

a b c d e

A B A B

Page 45: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 6 章 蒸気 45

45

6.3 蒸気の熱的状態量

6.3.1 圧縮液と飽和液

内部エネルギー,エンタルピー,エントロピーは相対量→基準が必要 (1) 水の場合

基準:0℃→三重点(温度 16.273=pT K,圧力 659.6110 =p Pa,比容積 30 1000021.1 −×=v [m3/kg])

に変更された. 三重点において,

比エンタルピー 00 =h 比エントロピー 00 =s 比内部エネルギーは,エンタルピーの定義 pvuh += より

]J/kg[612.0]/kgm[1000016.1]Pa[659.6110 330000 −=××−=−= −vphu

値が小さいため, 00 ≡u とおいてもよい. (2) 冷媒の場合

基準:0.01℃において 比エンタルピー=418.68kJ/kg=100kcal/kg 比エントロピー=4.1868kJ/(kgK)=1.0kcal/(kgK)

(3) 任意の温度 Tsにおける飽和水

基準状態(0.01℃と定義)から次のように状態変化した

と考える. 状態 0:基準状態(0.01℃, 659.6110 =p Pa)の飽和水 ↓ 等温加圧: 00 01 ==→= uudu 状態 1:温度 0.01℃,任意圧力 21 pp = の圧縮水: 020200 vpvpuh ≈+= ↓ 等圧加熱: dtcdhvdpdhdq p==−= 状態 2:温度 st [℃],任意圧力 2p の飽和水

∫∫ ==ss T

pt

pl dTcdtcq16.27301.0

:液体熱

022

0hhhdtql −== ∫ より ∫+=

sTp dTchh

16.27302

湿り蒸気 A B

T

p p

T

C 臨界点

Tp 三重点

pT 線図

A B

v

C 臨界点

C

p

p

T

液相(水)

C 臨界点

蒸気圧曲線

S

Tp 三重点

F

気相(蒸気) 昇華曲線

固相(

氷)

融解曲線

pT 線図

pv 線図

1

液体なの

でほとん

ど圧縮さ

れない

圧力

p

2

0

Page 46: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 6 章 蒸気 46

46

同様に

∫+=sT

p TdTcss

16.27302

6.3.2 湿り蒸気と乾き飽和蒸気

水と蒸気が共存する状態を湿り蒸気といい,飽和温度で全量が蒸気となった状態を乾き飽和蒸

気という. 乾き度(dryness fraction):湿り蒸気 1kg 中に含まれる蒸気分(乾き蒸気)の質量が x[kg]のとき,x を乾き度という. 湿り度(wetness fraction):乾き度が x のとき, x−1 を湿り度という.

湿り蒸気の状態量は,飽和液の状態を’,飽和乾き蒸気の状態を”で表すと. '" hhr −= :蒸発潜熱 ( ) '1" vxxvv x −+= ( ) '1" hxxhhx −+= ( ) '1" sxxssx −+=

6.3.3 過熱蒸気

乾き蒸気をさらに加熱すると,過熱蒸気と呼ばれ

る状態となる.過熱蒸気の h, s は以下のとおり.

∫=T

T pss

dTcq :過熱分の熱

∫+=T

T ps

dTchh "

∫+=T

T ps T

dTcss "

6.4 蒸気表と蒸気線図

(1) ファンデアワールスの式

蒸気には理想気体の状態方程式は適用できない.蒸気の状態変化を表す式として,次のファン

デアワールスの式が有名.

( ) RTbvvap =−

+ 2 (a,b は定数)

(2) 蒸気表

蒸気の温度,圧力,比容積,比エンタルピー,比エントロピーを一覧表にしたもの.国際標準

値に基づく日本機械学会蒸気表 1999 年版が最新. (3) 蒸気線図(蒸気 h-s線図)

蒸気のエンタルピーh とエントロピーs の関係を線図にしたもの.水蒸気に対するものはモリエ

線図という.

p

v

C 臨界点

等温変化

T

s

C 臨界

等温変化 a

b c d e

a b c d e

A B A B x x 1-x 1-x

v’ v” vx s’ s” sx

T

s

C 等圧変化

a

b c d e

s’ s” sx

r 0℃

過熱蒸気

Page 47: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 6 章 蒸気 47

47

6.5 湿り空気

(1) 乾き空気

水蒸気をまったく含まない空気.体積組成は N2:O2:Ar:CO2=78.08:20.95:0.93:0.03 (2) 湿り空気

水蒸気を含む空気 ① 全圧と分圧

水蒸気と乾き空気の混合気の圧力を全圧(total pressure)という.全圧 p は,水蒸気の圧力(水

蒸気分圧 partial water vapor pressure) wp と乾き空気の分圧 ap の合計となる.すなわち aw ppp += ② 飽和蒸気圧と飽和湿り空気

空気中に蒸気として含有できる量は,空気の温度によって異なる.分圧として表した場合,到

達しうる最大の水蒸気分圧を飽和蒸気圧(saturated vapor pressure) wsp という.水蒸気分圧が

飽和蒸気圧に等しい湿り空気を飽和湿り空気(saturated moist air)という. ③ 絶対湿度と相対湿度

空気中に含まれる水蒸気の濃度を表す方法には 2 種類ある. 絶対湿度:乾き空気 1kg に対して含まれる水蒸気の量を絶対湿度(absolute humidity)という.

x[kg/kg]で表す. 相対湿度:飽和蒸気分圧 wsp に対する蒸気分圧 wp の比を%で表したものを相対湿度(relative

humidity)という.

100×=ws

w

pp

ϕ [%]

θ [℃]における空気中の飽和水蒸気圧を求める式は多数提案されているが,気象の分野では次の

Magnus Teten (1967)の近似式が一般的である.1)

7858.03.237

5.7log10 ++

θwsp

もしくは,対数の定義より

3.2375.7

101066.6 +×= θθ

wsp [hPa] 1) 出典:http://cires.colorado.edu/~voemel/vp.html (3) 関係式

絶対湿度 x [kg/kg]と相対湿度ϕ [%]には次の関係がある.

h

s

臨界点

液体

蒸気

等圧線 x=1

x=0

x=0.5

等温線 100℃

1atm

乾き度

Page 48: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 6 章 蒸気 48

48

ws

ws

pp

px

100

100622.0ϕ

ϕ

−=

(4) 湿り空気線図

湿り空気の乾球温度,湿球温度,露点温度,絶対湿度,相対湿度,比容積,比エンタルピーな

どの状態量のうち,2 つがわかると,残りの全ての状態量を決定することができる. 参考:米国暖房冷凍空調学会(ASHRAE)の ASHRAE Fundamental Handbook(1997)には,飽

和湿り空気表(大気圧)が掲載されている.

露点温度 乾球温度

飽和湿り空気

絶対

湿度

水蒸

気圧

相対湿度

比エンタルピー

比容積

湿球温度

Page 49: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 7 章 熱力学のサイクル 49

49

第 7章 熱力学のサイクル

7.1 熱機関の概要

(1) 熱機関(Heat engine)

熱力学の第 2 法則により,高熱源から熱を供給し,低熱源に放出することにより熱を仕事に変

換することができる.熱から仕事へのエネルギー変換を行う装置を熱機関(heat engine)という.

(2) 熱機関の種類と特徴

種類 ガスサイクル機関 蒸気サイクル機関

燃焼形式 内燃機関: Internal combustion engine

燃焼ガスのエネルギーを直接動力

に変換する.

外燃機関:External combustion engine

燃焼もしくは核反応のエネルギーを水

に与え,発生する蒸気で動力に変換する.

実用例 往 復 動 機 関 ( レ シ プ ロ機 関 ,

Reciprocating engine)

蒸気機関: Steam engine

ガスタービン: Gas turbine 蒸気タービン: Steam turbine

(3) 熱効率(Thermal efficiency)

エンジンの熱効率は,投入したエネルギーの何%が有効に利用できるかを示すため,エンジン

にとって重要な指標である.熱効率には次の種類がある.

理論熱効率

Q

Wth

,

,

供給熱量

事サイクルが発生する仕

正味熱効率

Q

W

,

','

供給熱量

事から損失を除いた分サイクルが発生する仕

正味熱効率は常に理論熱効率より小さい.2 つの効率比は熱力学的熱効率ηという.

1'

th

カルノーサイクルの熱効率はあらゆる熱機関の中で最大となり,カルノーサイクルの熱効率を越

える熱機関は存在しない.高熱源から与えられる熱量のうち,

1

21 1

T

TQ

は,仕事に変換できる最大値を示すため,これを最大仕事もしくはエクセルギー(exergy)という.

(第 4 章のエクセルギーも参照のこと).また,

1

21

T

TQ

は仕事に変換できない熱量であり,アネルギー(anergy)という.

7.2 ガスサイクル機関

7.2.1 熱力学的サイクルの実現

サイクルが外部に仕事を発生するには,ピストンを元の位置に戻すための圧縮仕事を気体の膨

張で得られる膨張仕事より小さくなるよう,閉曲線を描かなければならない.すでに述べたよう

に,加熱と冷却を組み合わせただけのサイクルでは,同じ状態変化を繰り返すだけで閉曲線を実

現できない.カルノーは熱効率が最大となるカルノーサイクルを考案したが,これも実際には実

現は困難である.

Page 50: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 7 章 熱力学のサイクル 50

50

実用的な熱機関を実現するには,膨張完了時に一気に放熱して気体の圧力を低下させれば良い.

実用エンジンでは,気体の膨脹時に発生する仕事をフライホイールの回転エネルギーに変換して

蓄え,ピストンを押し戻す際の圧縮仕事に利用している.また,膨張後に排気を行うことにより

短時間のうちに気体から熱量を奪うように工夫している.

一方,サイクルが成立するためにはピストンが元の位置に戻った際に圧力がサイクルの初期状

態に戻らなければならない.そのためには,ピストンが 4 まで押し戻されたら熱量を供給して圧

力を 1 の状態まで回復させれば良い.このように,ピストンの上死点で熱供給を行い,下死点で

放熱し,膨張および圧縮の期間は断熱変化させることでサイクルは外部に対して仕事をすること

が可能となる.このようなサイクルを熱力学的サイクル(thermodynamic cycle)と呼ぶ.熱力学的

サイクルは上死点での圧力変化(状態変化)のさせ方によって,オットーサイクル(Otto cycle),

ディーゼルサイクル(Diesel cycle),サバテサイクル(Dual Combustion Cycle, Sabathe cycle)

の 3 つの基本形に分類することが出来る.

これらの基本サイクルを考えるとき,実際のエンジンにおけるサイクルでは,熱損失,物性値

の温度変化,種々の物理的な遅れなどのために複雑な状態変化を示し,理論的考察は困難である.

そこで,実際には存在しない理想的なサイクルを考えた方が考察しやすい.もっとも現象を単純

化したものは,作動流体を理想気体としての空気に置き換えた「理論空気サイクル」と呼ばれる.

また,「理論空気サイクル」の作動流体に燃料や残留ガスの物性を加味し,「実際のサイクル」

に近づけた「燃料空気サイクル」もある.

7.2.2 熱力学的サイクルの種類

各サイクルの主要な相違点は次表の通りである.

項目 理論空気サイクル 燃料空気サイクル 実際のサイクル

作動流体 理想気体(比熱一定)

大気の温度・圧力における

比熱・密度

新気(燃料空気混合気)と

残留ガス

新気(燃料空気混合気)

と残留ガス

燃焼 時間遅れを無視 時間遅れを無視 時間遅れを考慮

壁面熱損失 0 0 考慮する

ガス交換 下死点において行われる 下死点において行われる 時間遅れを考慮

7.2.3 熱力学的サイクルの 3基本形

熱力学的サイクルの 3 つの基本形であるオットーサイクル,ディーゼルサイクル,サバテサイ

クルの P-V 線図および T-S 線図を下に示す.サイクルの特徴や相違点を十分理解することが必要

である.

注意: 熱力学的サイクルの PV 線図には 4 つの状態変化の過程(サバテサイクルでは5)が存

在するが,1つの過程が必ず行程(ストローク)に対応すると勘違いしてはいけない.圧縮過程

が圧縮行程と一致するように,1つの過程がピストンの1行程(ストローク)に対応する場合も

あれば,そうでない場合もある.シリンダ内の気体の状態変化が圧縮開始(番号 1)から始まっ

て,再び元の圧縮開始(番号 1)に戻る一連の変化をサイクルと呼ぶのである.状態変化の4過

V

1

2

外部にする仕事

4

3

放熱

加熱 p

V

1

2

外部にする仕事

p

加熱と冷却によるサイクル 実用サイクル

Page 51: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 7 章 熱力学のサイクル 51

51

程を4サイクルと勘違いし,これらを 4 サイクルエンジンと呼ぶのは間違いである.4 つのスト

ロークで 1 サイクルを構成するから,4 ストロークサイクルエンジンと呼ぶのが正しい.

注意:圧縮始めの番号を 1 とする.

サイクルの PV線図

サイクルの TS 線図

T-S 図について

エントロピーの定義より

TdSdQ [J] | Tdsdq [J/mol]

状態 a から b までの経路の積分

b

aTdSQ [J] |

b

aTdsq [J/mol]

は系に出入りする熱量を表す.下図に示すオットーサイクルでは,供給熱量は

3

223 TdSQ [J] |

3

223 Tdsq [J/mol]

排出熱量は

容積 V

オットーサイクル

1

2

3o

4o

容積 V

ディーゼルサイクル

1

2 3d

4d

容積 V

サバテサイクル

1

2

3s

5

4s

断熱膨張

断熱膨張

断熱膨張

断熱圧縮

断熱圧縮

断熱圧縮

等容加熱

等圧加熱 等圧加熱

等容加熱

等容放熱 等容放熱 等容放熱

圧力

P

圧力

P

圧力

P

エントロピー S

1

2

3o

4o

オットーサイクル

エントロピー S

1

2

3d

4d

ディーゼルサイクル

エントロピー S

1

2

3s

5

サバテサイクル

4s 等容

等容 等容

等圧

等容

等容

等圧

断熱

断熱

断熱

断熱

断熱

温度

T

温度

T

温度

T

エントロピー S

1

2

3

4

T-S 線図

エントロピー S

等容

1

2

3

4 等容

排出熱量 供給熱量

温度

T

温度

T

Page 52: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 7 章 熱力学のサイクル 52

52

4

1

1

441 TdSTdSQ [J] |

4

1

1

441 TdsTdsq [J/mol]

となる.

7.2.4 サイクルの熱量と仕事

サイクルの各行程における熱の出入り(正=加熱,負=冷却)と仕事(正=膨張仕事,負=圧

縮仕事)は下表の通りである.

① オットーサイクル 表の各欄,上段は系全体,下段は単位質量もしくはモル数当りの式

過程 熱量(>0 供給,<0 冷却) 仕事(>0 膨張仕事,<0 圧縮仕事)

1→2:断熱圧縮 012 Q

012 q

01

2

2

12112 pdVVpdUUW

01

2

2

12112 pdvpdvuuw

2→3o:等容加熱 023o23 UUQ

02o323 uuq

0o3

223 VpdW

0o3

223 pdvw

3o→4o:

断熱膨張

034 Q

034 q

0o4

o3o4o334 pdVUUW

0o4

o3o4o334 pdvuuw

4o→1:等容放熱 0o4141 UUQ

0o4141 uuq

01

o441 pdVW

01

o441 pdvw

② ディーゼルサイクル

過程 熱量(>0 供給,<0 冷却) 仕事(>0 膨張仕事,<0 圧縮仕事)

1→2:断熱圧縮 012 Q

012 q

01

2

2

12112 pdVpdVUUW

01

2

2

12112 pdvpdvuuw

2→3d:等圧加熱 232d323 WUUQ

232d323 wuuq

2d32

d3

223 VVppdVW

2d32

d3

223 vvppdvw

3d→4d:

断熱膨張

034 Q

034 q

0d4

d3d4d334 pdVUUW

0d4

d3d4d334 pdvuuw

4d→1:等容放熱 0d4141 UUQ

0d4141 uuq

01

d441 pdVW

01

d441 pdvw

③ サバテサイクル

過程 熱量(>0 供給,<0 冷却) 仕事(>0 膨張仕事,<0 圧縮仕事)

Page 53: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 7 章 熱力学のサイクル 53

53

1→2:断熱圧縮 012 Q

012 q

01

2

2

12112 pdVpdVUUW

01

2

2

12112 pdvpdvuuw

2→3s:等容加熱 2s323 UUQ

2s323 uuq

0s3

223 pdVW

0s3

223 pdvw

3s→4s:

等圧加熱

34s3s434 WUUQ

34s3s434 wuuq

s3s4s3

s4

s334 VVppdVW

s3s4s3

s4

s334 vvppdvw

4s→5:

断熱膨張

045 Q

045 q

05

s45s445 pdVUUW

05

s45s445 pdvuuw

5→1:等容放熱 05151 UUQ

05151 uuq

01

551 pdVW

01

551 pdvw

7.2.5 サイクルの理論熱効率

理論熱効率は理論サイクルにおける出力(理論仕事)と入力(供給熱量)との比である.また,

出力は供給熱量 11 qQ と排出熱量 22 qQ の差となるから,理論熱効率は次式のように定義できる.

1

21

1 Q

QQ

Q

Wth

1

21

1 q

qq

q

wth

理論仕事は P-V 線図(P-v 線図)上のサイクル内部の面積に等しい.基本サイクルの理論熱効率

は次の通りである.

① オットーサイクル

膨張仕事は 3o→4o の過程,圧縮仕事は 1→2 の過程となる.

理論熱効率は

2o3

1o4

2o3

1o4

2o3

1o4

2o3

21o4o3

23

1234

23

111TT

TT

TTnc

TTnc

UU

UU

UU

UUUU

Q

WW

Q

W

v

vth

もしくは

2o3

1o4

2o3

1o4

2o3

1o4

2o3

21o4o3

23

1234

23

111TT

TT

TTc

TTc

uu

uu

uu

uuuu

q

ww

q

w

v

vth

断熱変化では

constTV 1 | constTv 1

また,

1o42o3 VVandVV | 1o42o3 vvandvv

だから 1

1o41

2o31

221

11

VTVTandVTVT | 1

1o41

2o31

221

11

vTvTandvTvT

変形すると,圧縮比(compression ratio)を

2

1

v

v

として

Page 54: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 7 章 熱力学のサイクル 54

54

1

1

1

2

2o3

o4

122o3

111o4

1

V

V

TT

TT

VTTVTT

1

1

1

2

2o3

o4

122o3

111o4

1

v

v

TT

TT

vTTvTT

よって

1

11

th

オットーサイクルでは理論熱効率は圧縮比と比熱比の関数となることがわかる.

,fth

② ディーゼルサイクル

膨張仕事は 2→3d→4d の過程,圧縮仕事は 1→2 の過程となる.

理論熱効率は

232d3

1d4

232d3

21d4d323

232d3

123423

23

1WUU

UU

WUU

UUUUW

WUU

WWW

Q

Wth

もしくは

232d3

1d4

232d3

21d4d323

232d3

123423

23

1wuu

uu

wuu

uuuuw

wuu

www

q

wth

d3d32d3d3222d32 ,, nRTVpVpnRTVPpp | d3d32d3d3222d32 ,, RTvpvpRTvppp

より

2d32d3223 TTnRVVPW | 2d32d3223 TTRvvPw

よって

2d3

1d4

2d32d3

1d4

1

1

TTRc

TTc

TTnRTTnc

TTnc

v

v

v

vth

2d3

14

2d32d3

1d4

1

1

TTRc

TTc

TTRTTc

TTc

v

v

v

vth

Rcc vp より

2d3

1d4

2d3

1d4 11TT

TT

TTc

TTc

p

vth

1→2 の過程は断熱変化であるから 1

221

11

VTVT | 1

221

11

vTvT

よって,

1

1

1

2

2

1 1

V

V

T

T |

1

1

1

2

2

1 1

v

v

T

T

2→3d の過程は等圧変化であるから

d3

d3

2

2

V

T

V

T |

d3

d3

2

2

v

T

v

T

ここで,等圧膨張比(締切比 cut-off ratio)を

2

d3

2

d3

T

T

V

V |

2

d3

2

d3

T

T

v

v

と定義する.

3d→4d の過程は断熱変化であるから 1

1d41

d4d41

d3d3

VTVTVT | 1

1d41

d4d41

d3d3

vTvTvT

より

1

1

1

1

2

1

2

d3

1

1

3d

d3

d4 1

V

V

V

V

V

V

T

T |

1

1

1

1

2

1

2

d3

1

1

d3

d3

d4 1

v

v

v

v

v

v

T

T

Page 55: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 7 章 熱力学のサイクル 55

55

よって,

1

1

1

2

d3

d3

d4

2

d4 11

T

T

T

T

T

T

したがって,理論熱効率をさらに変形すると

111

11

11

1

1

11

11

2

d3

2

1

2

d4

T

T

T

T

T

T

th

ディーゼルサイクルでは理論熱効率は圧縮比,比熱比,等圧膨張比の関数となることがわかる.

,,fth

③ サバテサイクル

膨張仕事は 3s→4s→5 の過程,圧縮仕事は 1→2 の過程となる.

理論熱効率は

342s4

15

342s4

215s434

343s42s3

124534

3423

1WUU

UU

WUU

UUUUW

WUUUU

WWW

QQ

Wth

もしくは

342s4

15

342s4

215s434

34s3s42s3

124534

3423

1wuu

uu

wuu

uuuuw

wuuuu

www

qq

wth

s4s4s3s4s4s3s3s3s4s3 ,, nRTVpVpnRTVppp | s4s4s3s4s4s3s3s3s4s3 ,, RTvpvpRTvppp

より

s3s4s3s4s334 TTnRVVpw | s3s4s3s4334 TTRvvpw v

s3s42s4

15

s3s42s4

15

11

1

TTTT

TT

TTnRTTnc

TTnc

v

vth

s3s42s4

15

s3s42s4

15

11

1

TTTT

TT

TTRTTc

TTc

v

vth

よって

11

1

1

11

s3

s4s3

2

s32

1

51

s3s42s3

15

s3s4s3s42s4

15

T

TT

T

TT

T

TT

TTTT

TT

TTTTTT

TTth

1→2 の過程は断熱変化であるから 1

221

11

VTVT | 1

221

11

vTvT

よって,

11

1

2

112

TV

VTT | 1

1

1

2

112

Tv

vTT

2→3s の過程は等容変化であるからs3

s3

2

2

p

T

p

T .ここで,圧力比を

2

s3

2

s3

T

T

p

p と定義する.

3s→4s の過程は等圧変化であるから

s4

s4

s3

s3

V

T

V

T |

s4

s4

s3

s3

v

T

v

T

ここで,等圧膨張比(締切比)を

Page 56: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 7 章 熱力学のサイクル 56

56

s3

s4

s3

s4

T

T

V

V |

s3

s4

s3

s4

T

T

v

v

と定義する.

4s→5 の過程は断熱変化であるから 1

151

551

4s4

VTVTVT | 115

155

14s4

vTvTvT

より

1

1

1

1

2

1

s3

s4

1

1

s3

1

s3

s4

1

1

s4

s4

5 1

V

V

V

V

V

V

V

V

V

V

T

T

もしくは

1

1

1

1

2

1

s3

s4

1

1

s3

1

s3

s4

1

1

s4

s4

5 1

v

v

v

v

v

v

v

v

v

v

T

T

よって

1

1

1

1

2

2

s3

s3

s4

s4

5

1

5 1

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

11

1

1

2

2

s3s3 TT

T

T

T

TT

よって

11

111

11

11

11

111

1

TT

Tth

サバテサイクルでは理論熱効率は圧縮比,比熱比,等圧膨張比(締切比),圧力比の関数となる

ことがわかる.

,,,fth

7.2.6 サイクル理論熱効率の比較

3 つの基本サイクルの理論熱効率を比較すると,次の表のようになる.表からわかるように,

オットーサイクルはサバテサイクルの等圧膨張比(締切比) 1 の場合に一致し,ディーゼルサ

イクルは圧力比 1 の場合に一致する.

オットーサイクル ディーゼルサイクル サバテサイクル

1

11

th

111

11

th 11

111

1

th

解答. オットーサイクル:4.0

11

th

ディーゼルサイクル:4.0

171.11

th

サバテサイクル:4.0

126.11

th

例題 1 κ=1.4,ρ=2,λ=2 のとき,オットーサイクル,ディーゼルサイクル,サバテサイク

ルの理論熱効率の式を求めよ.

例題 2 オットーサイクル,ディーゼルサイク

ル,サバテサイクルの理論熱効率と圧縮比の関

係をグラフで示せ.ただし,κ=1.4,ρ=2,λ

=2 とする.圧縮比は 1 から 20 の範囲とする.

0

20

40

60

80

100

0 5 10 15 20

オットーサイクル

サバテサイクル

ディーゼルサイクル

理論熱効率

圧縮比

Page 57: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 7 章 熱力学のサイクル 57

57

解答.図のとおり.

① 圧縮比および供給熱量が同じ場合

圧縮比が同じ場合,各サイクルの断熱圧縮過程(1→2)における状態変化は同一となる.圧縮

後,同じ供給熱量を与えると,膨張(燃焼)過程(オットー:2→3o→4o,ディーゼル:2→3d→

4d,サバテ:2→3s→4s→5)はおおよそ図のような変化となる.等容冷却過程(オットー:4o→1,

ディーゼル:4o→1,サバテ:5→1)では排出熱量 22 qQ は

オットー:

1

1

1o41o41o42 T

p

ppncTTncUUQ vv

| 1

1

1o41o41o42 T

p

ppcTTcuuq vv

ディーゼル:

1

1

1d41d41d42 T

p

ppncTTncUUQ vv

| 1

1

1d41d41d42 T

p

ppcTTcuuq vv

サバテ

1

1

1515152 T

p

ppncTTncUUQ vv

| 1

1

1515152 T

p

ppcTTcuuq vv

となる.排出熱量は pV線図(pv 線図)の冷却過程における圧力差(オットー: 1o4 pp ,ディー

ゼル: 1d4 pp ,サバテ: 15 pp )に比例するから,

ディーゼル>サバテ>オットー

となる.排出熱量の比較は TS 線図(Ts 線図)の面積(オットー:1-4-b-a,ディーゼル:1-4d- b- a,

サバテ:1 5 b” a)からも確かめられる.

したがって,理論熱効率の式1

21

q

qqth

において,供給熱量 11 qQ は一定であるから,理論熱効

率の値は

オットー>サバテ>ディーゼル

となる.一般に,ディーゼルエンジンの方がガソリンエンジン(オットーエンジン)より燃費が

良いとされる常識に矛盾するように思えるが,これは圧縮比が異なるためである.(実際のエン

ジンではディーゼルが 16 から 21 に対してガソリンでは約 10)

② 最高圧力および出力が同じ場合

出力が同じ場合,PV 線図(Pv 線図)および TS 線図(Ts 線図)においてサイクルが描く面積が

等しくなる.さらに最高圧力が等しい場合,次図のようになる.排出熱量は pV 線図(pv 線図)

の等容冷却過程(オットー:4o→1,ディーゼル:4d→1)における圧力差(オットー: 14 pp o ,

ディーゼル: 14 pp d )に比例し,TS 線図(Ts 線図)の面積(オットー:1-4o-6o-0,ディーゼル:

1-4d-6d-0)からも確かめられるように

オットー>ディーゼル

となる.理論熱効率の値は

容積 V

オットー

1

2

3o

5

3s 3d

4s

4d

4o

ディーゼル

サバテ

エントロピー S

1

2

3o

4o

温度

T

圧力

p

等容

等容

等圧

3s

4s 3d

4d 5

0 6o 6s 6d

オットー

サバテ

ディーゼル

Page 58: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 7 章 熱力学のサイクル 58

58

ディーゼル>オットー

となる.サバテサイクルはその中間となる.

前項でも説明したように,実際のエンジンでは圧縮比がディーゼルエンジンの方がガソリンエ

ンジンより大きい.すなわち,ディーゼルエンジンの方がガソリンエンジンより行程が長くなる

ために熱効率が高くなることが上記の説明からも理解できる.

③ 4ストロークと 2ストロークの動作と状態変化の関係

容積 V

オットー

1

2o

3o

3d

4d

4o

ディーゼル

エントロピー S

1

2o

3o

4o

温度

T

圧力

p

等容

等容

等圧

3d

4d

0 6d 6o

オットー

ディーゼル 2d

2d

吸気弁

排気弁

吸入行程

膨張行程

圧縮行程

排気行程

燃焼

放熱

ピストン 2 往復=4 行程

掃気(放熱)

膨張行程

圧縮行程

燃焼

ピストン 1 往復=2 行程

2 ストローク 4 ストローク

Page 59: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 7 章 熱力学のサイクル 59

59

7.2.7 ガスタービンのサイクル

① ガスタービンにおける気体の状態変化 1

↓断熱圧縮(空気圧縮機 C)

2:加圧空気

↓:等圧燃焼(燃焼器 B)

3:高温燃焼ガス

↓断熱膨張(ガスタービン T)

4

高温ガスは膨張しながらガスタービンを回

転させ,熱エネルギーを動力に変換する.発

生した動力を用いて,C を駆動すると共に,発電機 G を駆動する.

② サイクルの 2基本形

ブレイトンサイクル(Brayton cycle)(定圧燃焼サイクル)とエリクソンサイクル(Ericsson cycle)

が基本.

容積 V

4 ストロークエンジンの圧力と容積の関係

⑥ 0 1

2

3

4

エントロピー S ①

③ ④

1

2

3

4

容積 V

2 ストロークエンジンの圧力と容積の関係

0 1

2

3

4

エントロピー S

③ ④

① 1

2

3

4

4 ストロークエンジンの温度とエントロピーの関係 2 ストロークエンジンの温度とエントロピーの関係

2 ストローク 4 ストローク

W W

圧力

P

圧力

P

温度

T

温度

T

B

C T G

1

2 3

4

Page 60: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 7 章 熱力学のサイクル 60

60

サイクルの PV線図

サイクルの TS 線図

7.2.8 ジェットエンジンのサイクル

基本はブレイトンサイクル.

7.3 蒸気サイクルの機関

(1) ランキンサイクル(Rankine cycle)

水を等圧加熱して過熱水蒸気を作り,蒸気タービンのブレードに当てることによりタービンを

回転させる方式

① 構成 給水ポンプ P,ボイラ B,過熱器 S,蒸気タービン T,復水器 C

② ランキンサイクルにおける水蒸気の状態変化 1

↓断熱圧縮(給水ポンプ P)

2:圧縮水

↓:等圧加熱(ボイラ B)

2’:飽和水

↓等圧加熱(ボイラ B)

3’:乾き飽和蒸気

↓等圧加熱(過熱器 S)

3:過熱蒸気

↓断熱膨張(蒸気タービン T)

4:湿り蒸気

↓復水器 C

1

過熱蒸気は膨張しながら蒸気ガスタービンを回転させ,熱エネルギーを動力に変換する.発生

した動力を用いて,発電機 G を駆動する.

容積 V

ブレイトンサイクル

1

2 3

4

容積 V

エリクソンサイクル

1

2 3

4

断熱膨張

等温膨張

断熱圧縮 等温圧縮

等圧加熱 等圧加熱

等圧放熱

等圧放熱

圧力

p

圧力

p

エントロピー S

1

2

3

4

ブレイトンサイクル

エントロピー S

1 2

3 4

エリクソンサイクル

等圧

等圧 等温

等温

断熱

断熱 温度

T

温度

T

等圧

等圧

S

T G

1

2 4

B

P

3

C

Page 61: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 7 章 熱力学のサイクル 61

61

③ 熱効率

ポンプ仕事

12121 ' hhppvWp

ランキンサイクルの理論熱効率

p

p

RWhh

Whh

hhhh

hhhh

hh

hhhh

13

43

1213

1243

23

1243

(2) 再熱サイクル(reheating cycle)

1 段目の蒸気タービンからでた水蒸気を再加熱し,2 段目の蒸気タービンで利用する方式

① 構成 給水ポンプ P,ボイラ B,過熱器 S,蒸気タービン T1,T2,再熱器 R,復水器 C

② 再熱サイクルにおける気体の状態変化 1

↓断熱圧縮(給水ポンプ P)

2:圧縮水

↓:等圧加熱(ボイラ B)

2’:飽和水

↓等圧加熱(ボイラ B)

3:乾き飽和蒸気

↓等圧加熱(過熱器 S)

3a:過熱蒸気

↓断熱膨張(蒸気タービン T1)

3b:過熱蒸気

↓等圧加熱(再熱器 R)

3c:過熱蒸気

↓断熱膨張(蒸気タービン T2)

4:湿り蒸気

↓復水器 C

1

過熱蒸気は膨張しながら蒸気ガスタービンを回転させ,熱エネルギーを動力に変換する.発生

した動力を用いて,発電機 G を駆動する.

p 飽和蒸気

T

s

2 3

4 1

飽和液線

少 し 圧

縮 さ れ

るが,大

差 は な

2

3

4 1

3’ 2’

v

h

s

2

3

4

1

2’

2-2’-3’-3:等圧変化

2’ 3’

T

s

2

3

4 1

3a

2’

h

s

2

3

4

1

2’ 3b

3c 3a

3b

b

3c S

T2 G

1

2 4

R

P

3

C

T1

3a

2’ 3b

3c

B

Page 62: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 7 章 熱力学のサイクル 62

62

(3) 再生サイクル(regenerative cycle)

蒸気タービンで膨張途中の過熱蒸気を抽気し,再熱器で加熱してボイラに戻す方式.

① 構成 給水ポンプ P,再熱器 R1,R2,ボイラ B,過熱器 S,蒸気タービン T,復水器 C

② 再生サイクルにおける気体の状態変化

1

↓断熱圧縮(給水ポンプ P)

2:圧縮水

↓等圧加熱(再熱器 R1)

8’:圧縮水

↓等圧加熱(再熱器 R2)

8:飽和水

↓等圧加熱(ボイラ B)

2’:飽和水 等圧加熱(再熱器 R2) 5’: 抽気過熱蒸気

↓等圧加熱(ボイラ B)

3:乾き飽和蒸気 5:抽気過熱蒸気

↓等圧加熱(過熱器 S)

4:過熱蒸気

↓断熱膨張(蒸気タービン T)

6:湿り蒸気

↓(復水器 C)

1

(4) 再熱再生サイクル(reheating and regenerative cycle)

再熱サイクルと再生サイクルを組み合わせたもの.

① 構成 給水ポンプ P,再熱器 R1,R2,ボイラ B,過熱器 S,蒸気タービン T1,T2,復水器 C

② 再熱再生サイクルにおける気体の状態変化

図参照

S

T G

1

6

R2

P

3

C

4

2’

B

R1

5

5’

2 8’ 8

T

s

2

4

6 1

5’

2’

2-2’-3’-3:等圧変化

3

8 5

8’

T2 G

8

2 4

R1

3

C

T1

3a

2’

3b

3c

B

R2 P 1

2

5

S T

s

2

3

4 1

3a

2’

3

b

3c

5

8

Page 63: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 第 8章 気体の流れ 63

63

第 8章 気体の流れ

往復動機関:燃焼(熱エネルギー発生)→高圧を発生→動力に変換

ガスタービン:燃焼(熱エネルギー発生)→運動エネルギーに変換→動力に変換

8.1 流れの基礎式

熱と運動のエネルギーの関係式には次のものがあり,すべての式を満足する値が,速度 w,圧力

pの解となる.

質量保存:連続の式

エネルギー保存:エネルギーの式

運動量保存:運動方程式

(1) 連続の式(equation of continuity)

定常状態(時間的に変化しない状態)では,1 と 2 の断面

(検査面)を通過する質量流量は等しい.このとき,

222111 AwAwm [kg/s] (8.1)

ただし,

21, :流体の密度,kg/m3

21, ww :流体の平均速度,m/s

21, AA :検査面の断面積,m2

(2) エネルギーの式(energy equation)

検査面 1に流入する流体は,E1の運動エネルギーと H1のエンタルピーを持っている.流体は検

査面 2に到達する間に Q12の熱量を与えられ( 012 Q とおく),L12の仕事を外部に発生する( 012 L

とおく).エネルギー保存から,検査面 2 のエネルギーは検査面 1 のエネルギーにそれらを加え

たものとなる.

12121122 LQEHHE (8.2)

ただし,

Q12:与えられた熱量( 012 Q )

L12:外部になした仕事( 012 L )

H1:検査面 1の流入エンタルピー( 01 H )

H2:検査面 2の流出エンタルピー( 02 H )

E1:検査面 1を通過する流体の持つ運動エネルギー( 01 E )

E2:検査面 2を通過する流体の持つ運動エネルギー( 02 E )

注意:流体内部の摩擦がある場合でも管路より外に摩擦熱が逃げない場合には,摩擦熱は流体自

身を加熱させることになる.この時,系の外とはエネルギーの出入りが無いので,(8.2)式はそのま

ま適用される.

参考:管壁を通して摩擦熱の一部が逃げる場合は,次式のように熱損失分( 0F )を考慮しな

ければならない.

FLQEHHE 12121122 (8.3)

(8.2)式を変形すると,

12121212 EEHHLQ (8.4)

ここで

12121212 , lmLqmQ

2

,2

,2

22

21

12222211111

wmE

wmEvpumhmHvpumhmH ,

であるから,

1

2

s

Page 64: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 第 8章 気体の流れ 64

64

2

222

12

2121212

21

22

121212

wwhhlq

wm

wmhmhmlmqm

これを微分形式で書けば,

wdwdhdldq (8.5)

注意:(8.5)式は,内部摩擦があり,摩擦熱すべてが流体の加熱に使われる場合にも適用できる.

内部摩擦が無い場合,熱力学の第 2基礎式

vdpdhdq (8.6)

を(8.5)式に代入すると,

0, dlvdpwdwwdwdhdlvdpdh (8.7)

となる.

一方,内部摩擦があり,摩擦熱 df すべてが流体の加熱に使われる場合,流体に加えられる熱は

dfdq となるので,熱力学の第 2基礎式は

vdpdhdfdq (8.8)

と表わされる.(8.8)式の dqを(8.5)式に代入すると,

0, dfdlvdpwdwwdwdhdldfvdpdh (8.8)

となる.

① 非圧縮性流れの場合

0,0,00,0,0 121212 dfdldqflq

の場合を考えると

0 vdpwdw

非圧縮性なので, constvvv

121 として積分すると,

02

22

1

21

12

21

22

12

21

22

2

1

2

1

22

01

22

0

0

ppw

pw

ppww

ppvww

vdpwdw

vdpwdw

ここで,2

,2

22

21 ww

は動圧, 21, pp は静圧, 0p は全圧という.

② 圧縮性流れの場合

2

21

22

12121212

wwhhflq

において

0,0,0 121212 flq

の場合を考えると

2

02

12

212

wwhh

より,エネルギーの式は

02

22

1

21

22hh

wh

w

ここで, 0h :全エンタルピー

Page 65: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 第 8章 気体の流れ 65

65

(3) 運動方程式(equation of motion)

理想気体の定常流れでは,運動方程式は次式となる.

ds

dyg

ds

dp

ds

dww

1

ただし,sは流路に沿う座標.式を変形して積分すると

Cgypw

dygdpwdw

12

1

2

ただし,Cは積分定数.流れがない場合, 0w だから constgyp

となる.この式は,非圧縮性流体にも適応でき,例えば水圧計算に応用できる.

大気圧 paにおいて,水面 0y を基準に考えると,深さ hの水圧 phは次式で計算できる.

0 gphgp ah

よって, ghpp ah

8.2 ノズル内の流れ

8.2.1 ノズル出口速度と熱落差

ノズルを用いることにより,熱エネルギーを運動エネルギーに変換することができる.圧縮性

流れのエネルギー保存の式

2

22

1

21

22h

wh

w

より

21212 2 whhw

ここで

21 hhh

を熱落差という.入り口速度 1w が出口速度 2w に比べて無視でき

るときは,

hhhw 22 212

a. 摩擦がない場合

可逆断熱流れ(等エントロピー流れ)となり,熱落差は断熱熱落差 adh となる.このとき,

adadadhhhw 22 212

もしくは

1

1

211221121212 1

1

2

1

2

1

22

p

pvpvpvpTT

RTTcw pad

b. 摩擦がある場合

2 1

先細ノズル(convergent nozzle)

w1 w2

2 1

先細末広ノズル(convergent-divergent nozzle)

w1 w2

スロート

s

2’ 2

1

p1

p2

h

Page 66: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 第 8章 気体の流れ 66

66

hhhw 2'2 212

ここで,速度比:adw

w

2

2 ,ノズル効率: 95.0

adh

h

8.2.2 臨界状態(critical state)

(1) 先細ノズル

等エントロピー流れの場合,先細ノズルでは,質量流量が最大となるノズル出口と入口の圧力

比が存在する.このときのノズル出口圧力は臨界圧力と呼ばれ,次式で与えられる.

1

11

2

ppc

可逆断熱膨張と考えると,ノズル出口の温度は

1

1

1

p

pTT c

c

ノズル出口での速度は

111

2vpwc

もしくは 1

1

2RTwc

(2) 先細末広ノズル

スロート部分で臨界状態となる.このときの圧力,温度,速度は先細ノズルの出口における上

記の式で計算できる.末広とすることにより,背圧が臨界圧力より小さい場合にさらに膨張して

速度を増し,音速を超えて超音速流れを実現できる.スロート部の面積とノズル出口面積の比を

末広比といい,次式で与えられる.

1

2

1

2

2

11

1

2

1

1

1

2

p

p

p

p

A

A

c

ノズル出口面積を与えれば,この式を用いて,スロート部の面積を決定することができる.

8.3 音速(speed of sound),およびマッハ数(Mach number)

音速:理想気体中を音波が進む速度

RTpva

空気の場合,ガス定数は 287.11J/(kgK),比熱比を 1.4とすると

TTRTa 05.2011.2874.1 [m/s]

マッハ数:気体の流速(もしくは飛行物体と気流の相対速度)と音速の比のこと

a

wM

Page 67: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 9 章 燃焼 67

67

第 9章 燃焼(combustion)

9.1 燃料の種類と燃焼によって発生する熱

9.1.1 燃料の種類

一般に内燃機関に用いられる燃料は原油を精製して作られる石油系燃料である.燃焼機器には

内燃機関を含め種々の形式があり,石油系燃料は各機器の燃焼方式に都合の良いように大別され

て製品化されている.ガソリンエンジンには文字通りガソリンというように,エンジンはそのタ

イプによって使用する燃料が決められている.仮にガソリンエンジンにディーゼルエンジンの燃

料である軽油や重油を使用しても,燃料の気化性の違いから正常に燃焼させることは出来ない.

① 炭化水素燃料の分類

油田やガス田から採掘される化石燃料(石油,天然ガスなど)は色々な構造を持つ炭素と水素

の化合物(炭化水素という)から成っている.炭化水素は化学構造の違いによって図 1 のように

分類される.代表例の化学構造式を図 2 に示す.

② 代表的な炭化水素の特徴

炭化水素は 4 種類に分類され,表 1 のような特徴を持つ.

表 1. 炭化水素の特徴

直鎖パラフィン系ガソリン・・低オクタン価側鎖パラフィン系ガソリン・・高オクタン価(良質)直鎖パラフィン系軽油・・・・高セタン価(良質)

② オレフィン系(化学式Cn H2n ) 二重結合1つを持つ炭化水素,天然石油には少量含有

シクロペンタンC5H10ほか.

二重結合,三重結合を含まない安定な構造ナフテン系ガソリンは直鎖パラフィン系より良質

④ 芳香族系(化学式Cn H2n -6) 二重結合3つの環状不飽和炭化水素.ベンゼンやトルエンなど.高オクタン価で燃料として良質.

① パラフィン系       (化学式Cn H2n +2)

③ ナフテン系(化学式Cn H2n )

③ 石油に含まれる元素の成分

石油の主成分は炭化水素であるが,ほかに硫黄,酸素,窒素,微量の金属を含んでいる.組成

は産地によって異なる.炭化水素はパラフィン CnH2n+2,ナフテン(シクロパラフィン)CnH2n,

芳香族 CnH2n-6 からなり,炭素数は C4 から C50 まで広く分布する.オレフィンは原油中には存在せ

ず,精製中に生成する.

C

H

H H

H

C

H

H H

H

C C C

H

H

H

H

H

H

C

H

H

H

H

C C

H

H

H

H

H

H

C

C

H

H

C

H

H

C

C

C C

C

H H

H

H

H H

H H

H

H

C

C

C C

C

H

H

H H

H

H

C

炭化水素

鎖状炭化水素

C が H で飽和 パラフィン系

直鎖型

側鎖型

不飽和

オレフィン系

アセチレン系

アスファルト系

環状炭化水素

C が H で飽和

不飽和

ナフテン系

ベンゼン系

ナフタレン系

CnH2n+2

CnH2n+2

CnH2n

CnH2n-2

CnH2n-4

CnH2n

CnH2n-6

CnH2n-12

n-パラフィン

iso-パラフィン

図 1. 炭化水素の分

メタン n-ブタン イソブタン エチレン シクロペンタン ベンゼン

(パラフィン) (パラフィン) (iso-パラフィン) (オレフィン) (ナフテン) (芳香族)

図 2. 炭化水素の化学構造式

異性体

Page 68: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 9 章 燃焼 68

68

表 2 に炭化水素の化学式,常温での状態を示す.表 3 に石油製品の成分比率を示す.表 4 に石

油の元素含有量を示す.

表 2. 燃料の化学式と常温における状態

名称 化学式 状態 名称 化学式 状態メタン CH4 エチレン C2H4

エタン C2H6 プロピレン C3H6

プロパン C3H8 ブテン1 C4H8

ブタン C4H10 1ペンテン C5H10

ペンタン C5H12 1ヘキセン C6H12

ヘキサン C6H14 1ヘプテン C7H14

ヘプタン C7H16 1オクテン C8H16

オクタン C8H18 1ノネン C9H18

ノナン C9H20

デカン C10H22

ウンデカン C11H24

ドデカン C12H26 名称 化学式 状態

テトラデカン C14H30 ベンゼン C6H6

ペンタデカン C15H32 トルエン C7H8

ヘキサデカン C16H34 エチルベンゼン C8H10

オクタデカン C18H38 プロピルベンゼン

C9H12

アイコサン C20H42 ブチルベンゼン C10H14

気体

液体

液体

オレフィン系

液化石油ガス(LPG)

気体

天然ガス

液体

灯油

ガソリン

n-パラフィン系 芳香族系

固体状

表 3. 石油製品の炭化水素成分比率 表 4. 石油の元素含有量

文献 2. 小川勝,燃料油及び燃焼,海文堂

文献 3. 小西誠一,燃料工学概論,裳華房

9.1.2 発熱量

燃料が燃焼する際に発生する熱量を発熱量(calorific value)という.水素の燃焼では燃焼生成

物として H2O(水蒸気)が得られる.水蒸気(気体)は水(液体)より蒸発潜熱(気化熱)に相

当する分だけエンタルピーが大きい.そこで,水の蒸発潜熱分を含まない発熱量を低位発熱量,

含む発熱量を高位発熱量という.燃焼によって発生する熱(燃焼熱 = 発熱量)を動力に変換する

際,排気ガスの温度は 100℃以上であるから,H2O は水蒸気のまま排出され,蒸発潜熱分は利用

されずに捨てられることになる(図 3).動力に変換できるのは,低位発熱量の方である.

注意: 高位と低位の区別は水素および水素を含む燃料の場合に問題となるのであり.水素

を含まない場合には関係ない.

元素 文献2 文献3

C 79~88% 82~87%

H 9.5~14% 11.7~14.7%

S 0~4% 0.1~3.0%

O 0~3.3% 0~1.0%

N 0~1.1% 0~1.0%

金属 0~0.1%

ガソリン 灯油 軽油 重油 潤滑油nパラフィン 25%   ←  ←  ←  10%

iso パラフィン 25%   ←  ←  ←  10%ナフテン 50%   ←  ←  ←  30%芳香族 無(微少)  少  ←  ←  50%

Page 69: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 9 章 燃焼 69

69

純粋燃料の発熱量の値は多くの文献に記載されている.ここでは,混合燃料の発熱量の計算方

法を解説する.燃料成分 Aiの体積分率 m3/m3 を [Ai] ,高位発熱量を Hu,Ai,低位発熱量を Hl,Ai,

とすると,混合燃料の発熱量は次式で計算できる.

高位発熱量 Aiu

n

i

iu HH ,

1

]A[

低位発熱量 Ail

n

i

il HH ,

1

]A[

・計算例,天然ガス(メタン 0.900,エタン 0.090,プロパン 0.010 m3/m3)の高位発熱量および低

位発熱量は次の通り.

高位発熱量 0.43010.000.99090.064.69900.072.39 uH MJ/ m3

低位発熱量 9.38010.015.91090.076.63900.079.35 lH MJ/ m3

9.1.3 反応熱(heat of reaction)・標準生成熱(standard heat of formation)

(1) 総括反応式(化学量論式)

燃料が酸素と反応した結果,生成される物質は総括反応式(化学量論式 stoichiometric

equation)で表す.この式は反応の始めと終わりの状態を等号で結んだだけで,反応途中の現象

は無視しているが,実際には何十種類もの反応(素反応 elementary reaction)が同時にあるい

は連鎖的に発生している.図 4 に総括反応と素反応の比較を示す.

総括反応の例

反応 1 2H2+O2=2H2O 水素の燃焼(酸水素反応)

反応 2 C+O2=CO2 炭素の燃焼

反応 3 aCmHn+bO2=cCO2+dH2O 炭化水素の燃焼

(2) 素反応

反応前の

エンタルピー

反応後(H2+½O2=H2O のエンタルピーを含む)

混合気のエンタルピー

高位発熱量

時間

低位発熱量

蒸発潜熱

燃焼

排気ガスのエンタルピー

動力に変換

廃熱分(排気)

図 3. 混合気のエンタルピー変化

反応前物質

(化学種 A, B) 完全燃焼

反応後物質

(化学種 C, D)

総括反応式(化学量論式)

反応前物質

(化学種 A, B)

素反応 1

素反応 2

素反応 3

:

反応後物質

(化学種 A, B,C, D, E,・・・)

図 4. 総括反応と素反応

Page 70: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 9 章 燃焼 70

70

素反応には単分子反応,2 分子反応,3 分子反応などがある.等号の変わりに矢印を用いて表す.

たとえば,酸水素反応 2H2 + O2 = 2H2O における代表的な素反応は次の 5 種類である.矢印の向き

は順反応,矢印の逆の向きは逆反応で,高温状態では順反応と逆反応は同時に存在する.

素反応 1 OH + H2 → H2O + H 反応熱ΔH=-63.2J/mol 発熱

素反応 2 H + O2 → OH + O 反応熱ΔH=70.7J/mol 吸熱

素反応 3 O + H2 → OH + H 反応熱ΔH=8.4J/mol 吸熱

素反応 4 H + O2 + M → HO2 + M 反応熱ΔH=-197J/mol 発熱

素反応 5 H, O, OH → 安定分子(H2,O2)へ

(3) 反応速度

化学反応は瞬間的に生じるのではなく,時間とともに反応物質が生成物質へと変化していく.

反応の速さは反応物質の組合せや反応場の温度によって異なる.生成物のモル濃度の変化率を反

応速度(reaction velocity)という.反応速度は以下のように定義される.

単分子反応 A → B (例 H2O2→2OH)

2 分子反応 A + B → C +・・・ (例 OH + H2 → H2O + H)

3 分子反応 A + B + C → D +・・・

これら 3 種類の素反応において,反応速度[mol/(m3s)]は,k を反応速度定数(単位は素反応の種類

によって異なる),[A]は化学種 A のモル濃度[mol/m3]とすると,次式となる.

単分子反応 ]A[]B[

1kdt

d 1k [1/s]

2 分子反応 ]B][A[]C[

2kdt

d 2k [m3/(mol s)]

3 分子反応 ]C][B][A[]D[

3kdt

d 3k [m6/(mol2 s)]

(4) アレニウスの反応速度式

反応速度は温度のみに依存し,次式で表される.これをアレニウスの反応速度式という.

RT

EfTk

nexp

f:頻度因子,E:活性化エネルギー,R:一般ガス定数=8.314J/(molK),T:絶対温度[K]

n:定数(-2 から 2 の範囲)

活性化エネルギー(activation energy)とは,反応が完結するのに必要なエネルギーであり,図

5 の反応プロセスに示すように反応前のポテンシャルエネルギーとの差となる.(エンタルピー

とは異なる)

反応前のエネルギー=反応後のエネルギー―生成熱

図 5. 反応プロセスにおけるポテンシャルエネルギーの変化

(図 3 のエンタルピー変化とは異なる)

一般に反応熱を H として,酸水素反応の反応式であれば

H )O(H (g)(1/2)O (g)H 222

反応前

反応後 ポテンシャルエネルギー

時間

反応前

ΔH<0 発熱

活性化エネルギー 活性化エネルギー

時間

ポテンシャルエネルギー

ΔH>0 吸熱

反応後

Page 71: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 9 章 燃焼 71

71

と表す決まりがある.このように,反応熱を記入した化学反応式は熱化学方程式(thermochemical

equation)という.また, CBA の反応において,熱化学方程式は H CBA と表わされ

る.

この場合,反応熱は

286.03H kJ/mol

となる.発熱反応(燃焼)では,反応熱 0H ,吸熱反応では,反応熱 0H となる.図 5 で

発熱しているにもかかわらず反応前より反応後の方が,エネルギレベルが下がることは一見不思

議に思えるが,これは熱化学反応式を考えれば容易に理解できる.たとえば,酸水素反応の反応

式を書くと

286.03)O(H286.03)O(H (g)(1/2)O (g)H 2222 ll

は,25℃,1atmで 1molのH2(g)が 1/2molのO2(g)と燃焼して,1molのH2O(l)を生成したとき,286.03kJ

の熱量が発生することを示すが,25℃における H2 と O2 のポテンシャルエネルギーは,25℃にお

ける H2O(l)のポテンシャルエネルギーより 286.03kJ 多い(発熱するだけのエネルギーを持ってい

る)という意味でもある.反応プロセス図は反応前と反応後の物質の同温度・同圧力でのポテン

シャルエネルギーのレベルを表すため,発熱反応の場合,反応後は反応前よりレベルが低くなる.

(5) 石油の基本反応

① 主要元素の熱化学方程式

石油中には各種の炭化水素や硫黄,窒素などが含まれるが,燃焼によって生じる高温雰囲気下

で種々の物質に分解され,さらに酸素との反応が起こる.燃焼反応の基本となる元素は C,H,S

であり,それらの素反応は石油の燃焼における基本反応となる.反応生成熱(反応熱)は発熱量

(燃焼熱)とも呼ばれる.

C + O2 = CO2 + 407 kJ/mol 発熱反応

C + ½O2 = CO + 123 kJ/mol 発熱反応

CO + ½O2 = CO2 + 284 kJ/mol 発熱反応

H2 + ½O2 = H2O + 286 kJ/mol 発熱反応

S + O2 = SO2 + 297 kJ/mol 発熱反応

② 炭化水素燃料の燃焼反応

酸素との反応: OH2

COO4

HC 222

nm

nmnm

発熱反応

空気との反応: 222 N421

79OH

2CO

421

100HC

nm

nmAir

nmnm 発熱反応

ただし,22 O

100

21N

100

79Air とする

例,プロパンと酸素との反応

OH2

8CO3O

4

83HC 22283

すなわち

OH4CO3O5HC 22283

③ 熱解離反応

1400℃以上の雰囲気下では燃焼反応と熱解離(thermal dissociation)反応が同時に起きる.燃

焼反応と熱解離反応の比率は雰囲気の温度で異なり,高温になるほど熱解離反応の割合が増加す

る.熱解離反応は吸熱反応であるため,場の温度を下げる働きがある.

熱解離反応: 22 O2

1COCO 282940kJ (67580kcal) 吸熱反応

熱解離反応: 222 O2

1HOH 241990kJ (57750kcal) 吸熱反応

Page 72: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 9 章 燃焼 72

72

(6) 標準生成熱

熱力学第 1 法則から

dLdUdQ

反応前後の状態を 1,2 として積分すれば

LUUQ 12

この場合,Q は反応によって生じる反応熱であり,L は反応に伴う体積変化(膨張または収縮)

によって発生する仕事(正もしくは負)となる.

等圧燃焼(等圧変化)の場合,仕事は

120 VVpL

また,熱力学の第 1 基礎式から, PVUH だから,

0

2981210120212012 HHHVpUVpUVVpUUQ

0

298H を p0=0.1013MPa,298.15K における標準反応熱(standard heat of reaction)という.化

合物を標準物質(C,S,H2,O2,N2)から生成したときの標準反応熱は標準生成熱(standard heat

of formation)といい, 2980

fH で表す.注意:N2,O2,H2などの標準物質の標準生成熱は 0.

(7) ヘスの法則

化学反応によって生成される熱は,反応経路に関係なく,反応前後における物質の標準生成熱

の差によって決定される.これをヘスの法則(Hess's law)という.反応後を p,反応前を r で表す

生成熱反応後反応前

rfpfpfrf HHHHHH 2980

29800

298

0

2982980

2980

種々の物質の標準生成熱が,化学系の便覧に記載されているので,反応に関与する物質が自明の

場合は,標準反応熱の計算が可能となる.

例1.標準物質 22 HH

反応前 0H22980

rfH ,反応後 0H2298

0

pfH より,生成熱の式は

0

29822980

22980

HH HHHpfrf

よって,標準反応熱は

000HH 22980

229800

298 rfpf HHH

例2.酸水素反応 O(g)HO2

1H 222

反応前 0O,0H 22980

22980

rfrf HH ,反応後 99.241OH2298

0

pfH kJ/mol より,

生成熱の式は

0

29822980

22980

22980

OHO2

1H HHHH

pfrfrf kJ/mol

よって,標準反応熱は

99.241O2

1HOH 2298

0

22980

229800

298

rfrfpf HHHH kJ/mol

00

298 H なので,発熱反応となる.

9.2 燃焼に必要な空気量と燃焼ガス量

9.2.1 理論酸素量と理論空気量

(1) 理論酸素量(化学量論酸素量)Ost 理論酸素量(theoretical amount of oxygen)とは 1kg の燃料が完全燃

焼するのに必要な酸素量のことである.通常の燃料に含まれる元素は C

(炭素:原子量 12.01),H(水素:1.01),S(硫黄:32.06),O(酸

22 COOC

OH21O41H 22

22 SOOS

0O21O 2

0N21N 2

図 6 元素の反応

Page 73: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 9 章 燃焼 73

73

素:16.00),N(窒素:14.01),灰分であり,各元素の反応式は図 6 となる.燃料 1kg 中の質量

分率[kg/kg]をそれぞれ c,h,s,o,n,a とすると,たとえば C の係数は質量に対して

664.201.12/200.16 ,体積に対して, 866.11041.2232/10664.233

であるから,理論酸素

量は次の通りとなる.

質量に対して, oshcO mst 9981.0921.7664.2, [kg/kg]

体積に対して,

oshc

oshcO vst

7003.06990.0547.5866.1

21606.32401.101.1241.22,

[m3/kg,標準状態]

・質量分率の計算例

① 水素ガス H2: 0,1 anosch

② 炭化水素 CmHn: 0,1,01.101.12/01.12 anoschnmmc

・理論酸素量の計算例

ベンゼン C6H6 0,0776.0,9224.0 anoshc

072.30776.0921.79224.0664.2, mstO kg/kg

(2) 理論空気量(化学量論空気量)Ast 理論空気量(theoretical amount of air)とは 1kg の燃料が完全燃焼するのに必要な空気量のこ

とである.標準乾き空気中の酸素の割合を質量分率 0.2320kg/kg,体積分率を 0.2099m3/m3 とする

と,

質量に対して, oshcOA mstmst 310.4302.414.3448.112320.0/,, [kg/kg]

体積に対して, oshcOA vstvst 336.3330.343.26890.82099.0/,, [m3/kg,標準状態]

・理論空気量の計算例

ベンゼン C6H6 24.130776.014.349224.048.11, mstA kg/kg

(3) 混合比

気体燃料と空気の混合比率を表すパラメータには下記のものがある.

① 空燃比,燃空比

空気と燃料の質量比を空燃比(air fuel ratio)と呼び,その逆を燃空比(fuel air ratio)と呼

ぶ.

② 理論空気量,理論混合比

燃料が過不足なく完全燃焼するだけの酸素を含む空気量を理論空気量(theoretical amount of

air)という.また,その場合,燃料と空気の混合気を理論混合気 stoichiometric mixture(化学

量論混合気 stoichiometric mixture)という.さらに,理論混合気の混合比を理論混合比

theoretical mixture ratio(化学量論混合比 stoichiometric mixture ratio,化学量論比

stoichiometric ratio)という.ただし,理論混合比だけでは何と何の比率か,定義が不明確に

なるため,理論燃空比もしくは理論空燃比の用語を使用することが望ましい.

例 水素ガス H2 の場合,質量分率は 0,1 anosch ,理論空気量は

14.340310.40302.4114.34048.11, mstA kg/kg

理論空燃比 14.34/ , mstst AFA

理論燃空比 02923.014.34/1//1/ stst FAAF

③ 当量比,空気過剰率

当量比(equivalent ratio) φは燃料の濃さを表す数値として用いられ,次式で定義される.当

量比の逆数は空気過剰率 (excess air ratio) λと呼ばれる. 11 は希薄燃焼,

11 は化学量論燃焼, 11 は過濃燃焼である.

重量完全燃焼できる燃料の

料の重量実際の混合気が含む燃

実際の混合気の空燃比

理論空燃比

理論燃空比

実際の混合気の燃空比

Page 74: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 9 章 燃焼 74

74

1

/

/

stFA

FA

理論空燃比

実際の混合気の空燃比

例,ベンゼン 2.00kg を 28.0kg の空気で燃焼させるとき,

理論空燃比 24.13/ , mstst AFA

空気過剰率は

057.124.13

00.2/00.28

/

/

stFA

FA

当量比は 9461.0/1 ( 11 なので希薄燃焼である.)

9.2.2 燃焼ガス量とその組成

燃焼によって生成される水蒸気は,温度が冷えることにより液化するため,燃焼ガス中の水蒸

気を含めるかどうかによって,呼び方が異なる.

湿り燃焼ガス:燃焼ガス中に水蒸気を含むもの

乾き燃焼ガス:燃焼ガス中に水蒸気を含まないもの

炭化水素燃料と空気との反応において,空気過剰率を導入すると

2222

22222

222

O4

1N421

79OH

2CO

O100

21N

100

79

421

1001N

421

79OH

2CO

421

1001N

421

79OH

2CO

421

1001

421

100HC

421

100HC

nm

nm

nm

nm

nm

nm

Airn

mn

mn

m

Airn

mAirn

m

Airn

m

nm

nm

よって

2222 O4

1N421

79OH

2CO

421

100HC

nm

nm

nmAir

nmnm

となる.燃焼ガスの組成(モル分率)は

CO2:

41

21

100

241

421

79

2

nm

nm

m

nm

nm

nm

m

H2O:

41

21

100

2

2

nm

nm

n

N2:

41

21

100

2

421

79

nm

nm

nm

O2:

41

21

100

2

41

nm

nm

nm

9.3 燃焼温度

実際には燃焼場からの放熱があるため,正確な燃焼温度を計算で求めることは困難だが,周囲

が断熱されている場合の燃焼温度 combustion temperature(これを断熱火炎温度 adiabatic flame

temperature,理論燃焼温度 theoretical combustion temperature,理論火炎温度 theoretical

Page 75: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 9 章 燃焼 75

75

flame temperatureなどともいう)は次のような方法で求めることが可能である.

断熱火炎温度は,生成物質のエンタルピーが反応物質のエンタルピーと一致する温度と定義さ

れ,値を計算するには次のヒートバランス法を用いる.生成物質のエンタルピーは,モル濃度をpin

とすれば

)()( 00

0

THndTCnTH ifpi

T

Tppibp

b

となる.右辺第 1 項は, )( 0THH

として JANAF 7)の表に記載されている.右辺第 2 項は,標

準温度 0T =25℃における標準生成熱である.反応物質のエンタルピは,モル濃度を rin とすれば

)()( 000

THnTH ifrir

となる. )()( 000

THTH rbp を満たす bT が断熱火炎温度となる.

ガソリンや軽油のように厳密な燃料成分比率が不明な場合でも,燃料の低位発熱量 lH が判明し

ており,炭素分と水素分の比率が質量分析結果や規格などから分かっていれば,平均炭素数を m,

平均水素数を n と仮定して,燃料を CmHn とすることにより断熱火炎温度の推定値を求めることが

可能である.すなわち,燃焼ガスの比熱を iC ,燃焼ガスのモル数を in とすれば,

l

T

Tii HdTCn

b

0

を満たす bT が断熱火炎温度となる.炭化水素 CmHn の化学反応式は

222 N421

79OH

2CO

421

100HC

nm

nmAir

nmnm

であるから,初期温度を iT [K],反応後の温度を bT [K]とすると,燃焼生成物のエンタルピ変化は

次のようになる.

CO2: dtcmb

i

T

T 2CO , H2O: dtcn b

i

T

T OH22, N2: dtc

nm

b

i

T

T

2N421

79

よって,

l

T

T

T

T

T

THdtc

nmdtc

ndtcm

bbb

02

02

02 NOHCO

421

79

2

を満たす解が断熱火炎温度となる.ただし,比熱は,燃焼期間中に圧力は変化せず燃焼ガスの体

積が変化する等圧燃焼の場合には定圧比熱を用い,容積が変化せず圧力の方が変化する定容燃焼

の場合には定容比熱を用いなければならない.比熱は温度によって変化する関数であり,温度の

関係式で与えるか物性値表を参照する必要がある.また,温度を仮定して式の等号が成立するか

判定し,成立しないときは温度を修正して再度計算するという手順で収束計算を行わないと解に

到達しない.このため,解法のためにはコンピュータプログラミングを行うことが一般的である.

また,次項に記述するように,高温状態ではガス成分は化学平衡状態にあるため,CO2や H2O 以

外にも CO や OH などの化学種が存在する.したがって,化学平衡濃度を同時に計算しないと,

断熱火炎温度は正確とは言えない.

9.4 燃焼により生成される大気汚染物質(air pollutant)

9.4.1 排ガス成分とその有害性

エンジンから排出されるガスには表 5 のような種類がある.このうち,ガソリンエンジンで特

に問題となるのは,CO,HC,NOxの 3 種類である.ディーゼルエンジンで特に問題となるのは,

NOx,SOx,PM の 3 種類である.

表 5. 排ガス成分とその有害性(◎:影響の大きな成分)

Page 76: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 9 章 燃焼 76

76

二酸化炭素 CO2 ◎ ◎ 炭化水素の燃焼 地球温暖化の原因物質

水蒸気 H2O ○ ○ 炭化水素の燃焼

水素 H2 燃料の熱分解

窒素 N2 ○ ○ 新気中のN2

一酸化炭素 CO ◎混合気の酸素不足(燃料過濃)

血液中のヘモグロビン(血色素)と結合して酸素の運搬を阻害する.臓器に酸素が供給されなくなり,死に至らしめる.

酸素 O2 ○混合気の酸素過多(燃料希薄)

炭化水素 HC ◎ ○不完全燃焼,ミスファイア,壁面での消炎

光化学スモッグの原因物質.

窒素酸化物 NOx ◎ ◎ 新気中のN2が高温状態で反応光化学スモッグ,酸性雨(硝酸)の原因物質.呼吸器系への障害.目の粘膜を刺激.

硫黄酸化物 SOx ◎ 重油中のSが燃焼シリンダライナの腐食,以上磨耗

粒子状物質 PM ◎ 燃料の不完全燃焼 発がん性.呼吸器系への障害.

未燃分 SOF ○ 燃料,潤滑油の未燃分

有害性発生原因成分名称 化学記号ガソリン

ディーゼル

PM:粒子状物質 Particulate Matter,(PM が凝集して「すす」となる.組成は C:H≒5:2)

SPM:浮遊粒子状物質 Suspended Particulate Matter

SOF:燃料,潤滑油の未燃分 Soluble Organic Fraction

9.4.2 窒素酸化物(nitrogen oxide)

(1) サーマル NO

1500℃以上の雰囲気下では,雰囲気中の窒素が酸

化して一酸化窒素(nitric monoxide,NO)が生成され

る.NO の生成量が温度に依存するため,サーマル

NO(thermal NO)と呼ばれる.NO の反応は他の成分

に比べて緩やかで,最終的な化学平衡濃度に到達す

るには時間がかかる.NO の生成量は拡大 Zeldovich

機構と呼ばれる次の反応式から計算することが出来る.

化学種 A のモル濃度[mol/m3/s]を[A]で表すと,NO と N の反応速度[mol/m3/s]は,

HNOONONNOOHNONONNO

3r2r1r3f22f21 kkkkkkdt

df

HNOONONNOOHNONON]N[

3r2r1r3f22f21 kkkkkkdt

df

k は反応速度定数.添え字 f は正反応,r は逆反応を表す.N は微量なため, 0]N[ dtd とおけば,

NOOHO

HNOONOONN

1r3f22f

3r2r21

kkk

kkk f

となるので,NO 以外に化学平衡濃度を用い,数値積分すれば NO の濃度変化を求めることが出来

る.

(2) プロンプト NO

希薄火炎では,空気中の窒素から拡大 Zeldovich 機構によって NO が生成される.このとき,

NO の生成量は温度に大きく依存する(サーマル NO).一方,過濃火炎では,燃料の熱分解によっ

て生じた CH,CH2 が空気中の窒素と反応して HCN や HN を生成し,さらに酸素と反応して NO

となる.このとき,NO の生成量は温度にあまり依存せず,大きな変化を示さない.後者の場合

拡大 Zeldovich 機構

N+NOONf1

r1

2

k

k

O+NOONf2

r2

2

k

k

H+NOOHNf3

r3

k

k

Page 77: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 9 章 燃焼 77

77

をプロンプト NO(prompt NO)という.

(3) フューエル NO

燃料中に N 分が含まれるとき,火炎内部の高温で燃料が分解されて発生した N ラジカルが空気

中の O ラジカルと反応することによって NO が生成される.これをフューエル NO(fuel NO)とい

う.フューエル NO は火炎帯とその近傍で生成されるとされる.

(4) NO2

エンジン内部で生成される窒素酸化物は主に NO である.NO はエンジンから排出されると空気

中の酸素と容易に反応して二酸化窒素(nitrogen dioxide, NO2)となる.NO2 は光化学スモッグの

原因物質であり,きわめて有害である.

9.4.3 一酸化炭素(carbon monoxide)

燃料の不完全燃焼によって発生.空気過剰率を 1 より大きくすると,発生を抑制できる.

9.4.4 硫黄酸化物(sulfur oxide)

硫黄は酸素と反応して SO2となるが,余剰の酸素がある場合には,次の反応によって SO3 の生

成が起きる.

322 SOO2

1SO

SO3 はさらに次のように水蒸気と反応して,燃焼室を構成する金属を腐食する原因となる硫酸

を生成する.

SO3+H2O=H2SO4

9.4.5 未燃炭化水素(unburned hydrocarbon)

エンジン内部で,燃焼しきれなかった燃料が排出されたもの.

Page 78: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 10 章 伝熱 78

78

第 10章 伝熱

10.1 伝熱の形態

伝熱(熱移動)という現象は基本的に,伝導と放射の 2 つからなる.また,その形態によって,

熱伝導,対流熱伝達,熱放射に分けることができる.これを伝熱の 3形式という.

(1) 伝導

分子の振動もしくは回転のエネルギーが周囲に伝播する現象.物質の状態によって,さら

に,次の 2 種類に分類される.

熱を伝えるのに,媒質を必要とする.

a. 熱伝導 (heat conduction):

固体(静止液体・静止気体)中を熱が高温部から低温部に移動.

熱力学の第 2 法則

ex)金属棒の一方を加熱すると,他方は徐々に暖かくなる.

b. 対流熱伝達 (heat convection, convection heat transfer):

流れ場における熱の移動.流体から固体壁(もしくはその逆)への熱の移動.

ex)やかんで湯を沸かす.

(2) 熱放射 (thermal radiation):

物体表面から放射される電磁波が他の物体表面に吸収され,物体内部で熱に変わる.

熱を伝えるのに,媒質を必要としない.真空中でも伝わる.

ex)日に当たると暖かい.

10.1.1 熱伝導

物体(固体,静止液体,静止気体)の一部が暖められると,物体を構成する分子が強く振動し,

その振動が周囲の他の分子に次々と伝播して行く.伝熱量は次のフーリエの法則(Fourier's law)

から求められる.フーリエの式ともいう.

dAdx

ddQ

(10.1)

dQ をプラスにするため,右辺に-を付ける

熱は高温側から低温側へ流れる

このとき, 0dx

d

dQ:単位時間に微小面積 dA を通過する熱量

λ:熱伝導率(物質により値が異なる)

dx

d:温度勾配 (10.2)

単位時間[s]に単位面積[m2]を通過する熱量[J]を熱流束(heat flux)

という.

注意: 流束と流速を混同しやすい.

水=冷却=低温

A1 A3

A2

Q3 Q2 Q1

熱の移動

火=加熱=高温

x

dQ

熱の流れる方向

Page 79: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 10 章 伝熱 79

79

熱流束 dA

dQq [W/m2] (10.3)

単位の計算222 m

W

m

J/s

sm

J

フーリエの法則を熱流束で表すと

dx

ddA

dx

d

dAdA

dQq

1 (10.4)

すなわち,熱流束は温度勾配に比例する.

10.1.2 熱伝達(対流熱伝達)

流れが存在する場を熱が伝わる場合,流体内部の温度分布は流速に依存して変化する.温度分

布が変化するのは流動によって分子間の接触が活発となり,エネルギーの伝播が促進されること

による.たとえば,平板に沿う流れがある場合,壁面から遠くはなれた位置では温度は一様であ

る.一方,平板に近づくにつれて温度は急激に変化するが,このとき分布は直線ではなく,曲線

となる.一般に流速が増加すると,壁面近傍の温度分布は Aから B に変化する.

注意:熱伝達と言えども,伝熱の本質は流体内部の温度勾配によって発生する熱伝導である.

熱伝達の式=流れを伴う伝熱において,単位時間当たりの通過熱量を与える経験式.

wfAhQ [W] (10.5)

w :固体壁温

f :流体の温度

A:伝熱面積

h:熱伝達率,W/(m2・K)

熱伝達率は流れの速度に依存し,図では, BA hh となる.

熱流束は

wfhA

Qq (10.6)

熱伝達率は経験値である.伝熱工学のテキストや資料には,いろいろな状況を想定した推定値

が提案されているが,熱伝導率と異なり値には幅がある.熱伝達率の値が 10 なのか 100 なのかと

いったオーダーは簡単に推定できるが,厳密な値を求めることは困難である.特定の状況に対し

ては,のちに解説する無次元数(ヌッセルト数,Nu 数と標記)を用いた実験式が提案されている

ので,適用できる場合には利用すべきである.

10.1.3 熱放射

すべての物体からは電磁波が放出されている.その強さは絶対温度の 4 乗に比例している.こ

れを熱放射(heat radiation)という.放出する電磁波のエネルギーより吸収するエネルギーの方

が大きい場合,物体は加熱されることになる.

10.2 熱伝導と熱通過

10.2.1 平板

(1) 平板の熱伝導

平板内の温度分布はフーリエの法則からもとめるこ

とができる.熱流束は(10.4)式より

dx

dq

変形すると

dxq

d

両辺を積分すると

q

L

dx x

B

θf

温度分布 hB

B

固体壁

A

hA

u θw

q1

q2

q1< q2

温度勾配 緩やか

温度勾配 が急

Page 80: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 10 章 伝熱 80

80

dx

x

qd

に無関係

積分定数不定積分 :CCx

dxq

Cxq

Cxq

...(1)

積分定数を決定する.

境界条件(B.C. Boundary Condition の略)

)3(

)2(0

2

1

Lx

x

(2)を(1)に代入すると

11 0 CC

よって

1

xq

この式は温度分布が直線であることを示す.

(3)を(1)に代入すると

12

Lq

21

L

q [W/m2] (10.7)

平行平板の熱流束は①熱伝導率と温度差に比例し,②板厚に反比例する.

面積 A [m2]を t 秒間に流れる全熱量は

AtL

qAtQ 21

[J] (10.8)

[W/m2][m2][s]=[W・s]=[J]

(2) 平板の熱通過

固体壁をはさんで,流体から別の流体に熱が移動する伝熱形式は,熱通過(overall heat

transfer)と呼ばれる.このとき,流体から固体壁へは熱伝達,固体内は熱伝導,固体壁から流体

は熱伝達が行われ,しかもそれらは同時に行われている.例えば,平板の熱通過は,図のように

高温の流体から固体壁を通して低温の流体に熱が移動する.

熱通過では次の3つの方程式が考えられる.

高温流体側熱伝達 1111 wfhq

熱伝導

熱伝達

熱伝達

固体壁 低温流体

温度境界層が発達

高温流体

Page 81: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 10 章 伝熱 81

81

固体壁内熱伝導 212 wwq

低温流体側熱伝達 2223 fwhq

一般に 21 hh (流れの速度が異なるため).前式より

2

322

221

1

111

h

q

q

h

q

fw

ww

wf

辺々加えると

2

32

1

121

h

qq

h

qff

定常状態では

qqqq 321 とおくと,

21

21

11

hhqff

21

21

11

1ff

hh

q

ここで

21

11

1

hh

k

[W/(m2・K)] (10.9)

とおけば

21 ffkq (10.10)

ここで,k は熱通過率と呼ばれる.平板の熱通過率の単位は熱伝達率の単位[W/(m2・K)]と同じであ

る(重要:円管および球殻の熱通過率の単位は熱伝導率と同じ[W/(m・K)]).

(3) 熱抵抗(thermal resistance)

平板の通過熱量を

R

kAQff

ff

21

21

(10.11)

と表すと,

21

1111

hhAAkR

[K/W] (10.12)

となる.R を熱通過抵抗(もしくは,全熱抵抗)という.

注意:次のように熱通過率の逆数 R を熱通過抵抗とする場合もある.この場合,単位が異な

るので注意が必要.

21

111

hhkR

[(m2・K)/W]

10.2.2 円管

平板の場合,xのどの位置においても

熱流束 constdx

dq

(一定)

通過熱量 constqAQ

すなわち,熱流束 q,通過熱量 Q とも,どの断面でも一定.

Page 82: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 10 章 伝熱 82

82

一方,円管の定常熱伝導では,任意の半径 r における熱流束は変化する.重要

通過熱量 Q は一定.

熱流束 21 qq

通過熱量 21 QQ

注意: 21 QQ 円管の温度が上昇 or 降下する過程(途中)にある非定常

(1) 伝熱量の計算式

半径 r の位置での熱の通過面の面積を A とすると

dr

dAQ

ここで, rlA 2 より

r

dr

l

Qd

dr

drlQ

22

Crr

dr ln より,与式を積分すると

Crl

Q ln

2

B.C.

)2(

)1(

22

11

rr

rr

(1)より

)3(ln2

11 Crl

Q

(2)より

)4(ln2

22 Crl

Q

(3)-(4)より

21

2

1

2

12121

ln

2

ln2

lnln2

r

r

lQ

r

r

rl

Qrr

l

Q

1

2

2

1 lnlnr

r

r

r より

]W[

ln

221

1

2

r

r

lQ (10.13)

(2) 円管の熱通過

円管内側

高温流体側(熱伝達) 11111 wfldhQ (1)

円管壁内部(熱伝導)

1

2

212

ln

2

d

d

lQ ww

(2)

円管外側

低温流体側(熱伝達) 22223 fwldhQ (3)

l

dr

r 2 r 1

q2 q1

r

1

2

Page 83: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 10 章 伝熱 83

83

定常状態では

QQQQ 321

とおけるから

ldh

Qwf

11

11

Ql

d

d

ww

2

ln1

2

21

ldh

Qfw

22

22

辺々足し合わせると

ldhd

d

dh

Qff

11ln

2

11

221

2

11

21

これより

221

2

11

21

1ln

2

111

dhd

d

dhl

Qff

(4)

したがって,R

Qff

21 とおけば,熱通過抵抗は

221

2

11

1ln

2

111

dhd

d

dhlR

[K/W] (5)

また,

221

2

11

21

1ln

2

11

dhd

d

dh

lQff

と表されるから

21 fflkQ (10.14)

とおけば,熱通過率は

221

2

11

1ln

2

11

1

dhd

d

dh

k

[W/(mK)] (10.15)

となる.この場合,熱通過率の単位[W/(mK)]が平板の場合[W/(m2K)]と異なるので注意のこと.

10.2.3 フィン(Fin)

保温する=伝熱抵抗を増やす=保温材(断

熱材)を巻き付ける.

放熱を促進する=伝熱(放熱)面積を増や

す=フィンを付ける.

(1) 温度分布の式と全放熱量

微小部分への入熱 dQ’

微小部分からの放熱

熱伝導によるもの dQ”

大気への熱伝達 dQ

断面積 A,周囲長 S の断面が円形のフィン

を考える.定常状態を仮定すれば,微小要素

l

d2 d1

Q2 w1

w2

f1

f2

Q1

Q3

h1

h2

内側熱伝達による熱伝達量

壁の熱伝導による

熱伝導量

外側熱伝達による

熱伝達量

Q1

内側から外側に通過する熱通過量

断面積 A

0

x dx

dQ” dQ’

dQ

周囲長 S

雰囲気温度

壁面

フィン

フィンの温度分布

Page 84: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 10 章 伝熱 84

84

において流入熱量と放熱量を等しくおくことができる.

①"'

"'

dQdQdQ

dQdQdQ

ここで,フーリエの法則から

dxdx

d

dx

dAdQ

dx

dAdQ

"

'

①式に代入すると

dxdx

dAdx

dx

d

dx

dAdQ

2

2

熱伝達の式より

SdxthdQ 0 ③

②=③とおけば

Sdxthdxdx

dA 02

2

変形すれば

02

2

tA

hS

dx

d

:温度 θに関する線形2階常微分方程式

が得られる.ここで, Θt =0 とおくと

ΘA

hS

dx

Θd

dx

Θd

dx

d

dx

dx

d

2

2

2

2

2

2

,

と変形される.さらにA

hSm

2 とおくと

Θmdx

Θd 2

2

2

(10.16)

となる.この微分方程式の一般解は

mxmx eCeCΘ 21 (10.17)

とおくことが出来る.ただし, 21, CC :積分定数

よって

ΘmeCeCmemCemCdx

Θd

meCmeCdx

mxmxmxmx

mxmx

221

222

212

2

21

B.C. 0x で 0 より 00 tΘ を代入すると

210

20

100 CCeCeCt

フィンの長さを l とする.

フィンの先端で

・熱伝達による放熱 lllx hAΘthAQ 0

・熱伝導による入熱 Adx

dΘA

dx

dQ

lxlx

lx

放熱面積

l

x dx

θ

dx

S:周囲長

Page 85: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 10 章 伝熱 85

85

021

2121

Ch

meCh

me

eCeCh

m eCm eC

Θh

dx

Adx

dΘhAΘ

mlml

mlmlmlml

l

lx

lx

l

ここで

1002 CtC

を代入すると

001

1001 0

teh

mCeh

meh

m

Cteh

mCeh

m

mlmlml

mlml

より

mlmlmlml

ml

mlml

ml

eem

hee

em

h

t

eh

meh

m

eh

m

tC

1

00001

mlmlmlml

ml

mlml

ml

eem

hee

eh

t

eh

meh

m

eh

m

tCtC

1

00001002

(10.18)

11

11

000

000

00000

0

mlmlmlml

lxmlxmlxmlxm

mlmlmlml

mlmxmlmx

mx

mlmlmlml

ml

mx

mlmlmlml

ml

eem

hee

eem

hee

tt

eem

hee

em

he

m

h

tt

e

eem

hee

em

h

te

eem

hee

em

h

tt

Θt

フィンからの全放熱量は

Page 86: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 10 章 伝熱 86

86

(10.19)

11

00

00

210

20

1021

0

mlmlmlml

mlmlmlml

mlmlmlml

mlml

x

mxmx

x

eem

hee

eem

hee

tAm

eem

hee

em

he

m

h

tAm

CCAmm eCm eCAm eCm eCA

dx

dAQ

配に比例フィン付け根の温度勾

(2) フィン効率

フィンの形状や配置が複雑になると,解析的に伝熱量を求めることが困難となる.このような

場合,次のフィン効率を用いて評価を行う.

(10.20)11

00

00

00

0

00

00

0

t

t

A

AtA

tA

dAtdA

t

Ath

dAth

mmx

x

熱量温度に等しい場合の放フィンの全表面が根元

実際の放熱量

ただし,

x :根元より,x の距離におけるフィン表面の温度

0 :根元の温度

m :フィン表面の平均温度

0t :周囲媒質の温度

A:フィンの表面積

フィン効率を用いると,フィン表面の平均温度は

000 ttm (10.21)

と表される.

矩形断面のフィン効率は

b

h

ee

ee

l ll

ll

2

1

(10.22)

である.

10.3 熱伝達率の式

熱伝達率は経験値であるため、実験結果に基づく推定式(実験式)が多く提案されている.た

だし、実験式は無次元数で表されるため、無次元数への理解が必要となる.

10.3.1 無次元数について

① 基本単位と次元式

比重や比率などの例外を除き,たいていの物理量(長さ,重さなど)には単位がある.物理量

の数は多数あるものの,興味深いことに力学系の場合,基本となる単位は 4 つしかない.すなわ

ち,力学系の物理量の単位は 4 つの基本単位(長さ[m],質量[kg],時間[s],温度[K])の組み合わ

b

l

Page 87: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 10 章 伝熱 87

87

せで決定される.たとえば,圧力の単位は N/m2=(kgm/s2)/m2=kg/(ms2)となり,長さ[m],質量[kg],

時間[s]の 3 つであることが分かる.

物理量が単位を持つとき,物理量は次元を持つともいう.(このほか,次元は空間の軸を示す

ことがある.例.3 次元空間)

物理量に単位がない場合,その物理量は無次元であるという.例.比重,比率

② 無次元数

単位を持たない数を無次元数(dimensionless number)という.次元を持つ数を次元のない状態

にすることを無次元化という.たとえば,マラソンの距離を例にとると,「ランナーが 21.0975km

の地点を通過」と表現することと「ランナーが全行程 42.195kmの 1/2 を通過」は同じ意味になる.

21.0975km=全行程の 1/2

21.0975kmを無次元数である 1/2 という比率で表したことになる.物理現象の中には流体現象のよ

うに相似則が成り立つものがあり,無次元数を用いることで大きさに関係なく現象をパターン化

して表すことができるという工学上のメリットが生まれる.

(2) レイノルズ数 Reynolds number(Re 数): 流れの特性を表す無次元数

たとえば,翼の断面形状を同じにして,流速を調節すれば,全く同じ流れのパターンを作り出

すことができる.このときの条件は,Re 数と呼ばれる無次元数を同じにすることである.Re 数が

同じなら,流れのパターンは同じになることから,飛行機の翼周りの流れの様子を模型の翼で確

かめることが出来る.

Re 数が同じ=翼周りの流れのパターンは同じ=相似則

① 定義:

uLLuRe

動粘性係数

代表長さ代表速度 (10.23)

単位計算 1/sm

mm/s2

(無次元)

平板の場合,前縁からの距離 x [m]におけるレイノルズ数は

xuRe

ただし, u :主流速度[m/s],x:前縁からの距離[m],

:動粘性係数 [m2/s],μ:粘性係数[Pa・s],ρ:流体密度[kg/m3]

管内流の場合,内径 d [m]の管内におけるレイノルズ数は

duRe

管の断面が円以外の場合は,次の相当直径 deを用いる.(円管の場合, dde となる)

L

Sde

4

ただし,S:流路断面積[m2],L:管断面のぬれぶち長さ[m]

② レイノルズ数(Re数)の物理的意味

uLuL

LL

uL

uL

Re

2

23

粘性力

慣性力

飛行機の翼,Re 数=3.0×105

模型の翼,Re 数=3.0×105

Page 88: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 10 章 伝熱 88

88

慣性力=質量×加速度L

uL

23

粘性力=せん断応力×面積 22 LL

uL

dy

du

Re 数→小=慣性力が小,粘性力が大=粘り気のある流れ=乱れが発生しにくい=層流

Re 数→大=慣性力が大,粘性力が小=さらさらの流れ=乱れが発生し易い=乱流

参考:Re 数は粘性の影響を受ける流動現象の解明に用いられる.

③ 臨界 Re数・・・層流から乱流に遷移の始まる Re数

平板に沿う流れ

層流←小←3.2×105→大→乱流

円管内流れの場合

層流←小←2300→大→乱流

熱伝達率小←→熱伝達率大

(3) ヌッセルト数 Nusselt number(Nu 数): 熱伝達の大きさを表す無次元数

① 定義:

hLLhNu

熱伝導率

代表長さ熱伝達率 (10.24)

単位計算 1W/(mK)

mK)W/(m2

(無次元)

熱流束は, wfhq

流速が増加すると,壁面近傍の温度分布は Aから B に変化する.このとき,熱伝達率は BA hh

となる.

注意:伝熱の本質は壁面における流体の温度勾配によっ

て発生する熱伝導である.

熱伝達量は

AhQ wf

壁面での熱伝導量は

Ady

dQ

y 0

両者は等しいから

Re=3.0×105

Re=0

Re=100 Re=20000

x 層流境界層

乱流境界層

層流底層

乱流

層流

流速分布

d

Re>2300 の場合

入口

層流速度境界層

B

θf

温度分布 hB

B

固体壁

A

hA

u θw

Page 89: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 10 章 伝熱 89

89

m

1

W/(mK)

K)W/(m,,

20

0

単位:wf

y

y

wf

dy

d

hA

dy

dAh

代表寸法を乗じると,無次元化できる.整理すると

基準温度勾配

壁面での温度勾配

L

dy

d

hL

wf

y

0

これを Nu 数という.

(4) プラントル数 Prandtl number(Pr 数): 流れと熱移動の相関を示す無次元数.

aa

Pr

熱拡散率

動粘性係数 (10.25)

密度

粘性係数 ,

pCa なので,

pCPr

(5) グラスホフ数 Grashof number(Gr 数): 自然対流の強さを示す無次元数.

gLgLGr

33

動粘性係数

温度差体膨張係数重力加速度代表長さ (10.26)

注意:グラスホフ数はレイノルズ数の一種である.

10.3.2 対流熱伝達の実験式

熱伝達率を無次元化したヌッセルト数 Nu に関する式が用いられる.

① 強制対流: PrRefNu ,

c, m, n を定数として

nmPrcReNu (10.27)

と表される.ここで,

hLNu であるから,

LNuh

として,熱伝達率を求めることができる.

② 自然対流: PrGrfNu ,

c, m, n を定数として

nmPrcGrNu (10.28)

と表される.

10.4 熱放射

10.4.1 熱放射

物体からはいろいろな波長のエネルギー(熱放射エネルギー)が電磁波として放出されている.

放射される波長の範囲や放出されるエネルギー量はその物体の温度によって異なる.電磁波を受

けた物体は,物体表面で電磁波を吸収し,表面近傍の分子の振動させることにより,熱エネルギ

ーへの変換が起こる.物質は相互に電磁波の放出と吸収を同時に行う.電磁波は真空中でも伝播

するため,熱を伝える媒質を必要としない.

Pr<1

温度境界層 速度境界層

Pr=1

温度境界層 速度境界層

Pr>1

温度境界層 速度境界層

Page 90: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 10 章 伝熱 90

90

10.4.2 黒体および実在物体からの熱放射

(1) 反射(reflection)と吸収(absorption)

入射エネルギーQ が平面に入射するとき,平面で一部は反射され,一部は吸収され,残りは透

過される.これらのエネルギーには,エネルギー保存が成り立つから

DRA QQQQ (10.29)

の関係がある.両辺を Q で割ると

Q

Q

Q

Q

Q

Q DRA 1

となる.ここで

*a

Q

QA :全吸収率

*

rR

Q

Q :全反射率

*

pD

Q

Q :透過率

とおくと

1*** pra (10.30)

となる.このとき,

1* a , 0**

pr のとき,完全黒体(perfectly black body)(すべてを吸収する)

1*

r , 0** pa のとき,完全白体(absolute white body)(すべてを反射する)

1*

p , 0** ra のとき,透過体(すべてを透過する)

と呼ばれる.

(2) 熱放射の基本法則

① プランクの法則

単位時間,単位面積当りに放出されるエネルギー量(放射能)は波長と温度の関数となり,波

長 λでの放射能(=単色放射能)は次のように記述できる.

TfE , [W/m3] (10.31)

ただし,T:絶対温度

また,全放射能 E は,単色放射能 E を波長 λで積分したも

のとなり,次式で表すことができる.

dEE

0

[W/m2] (10.32)

完全黒体について,黒体の単色放射能は

1

/5

1

2

Tcbe

cE

[W/m2] (10.33)

で表され,これをプランクの法則(Planck's law)という.

ただし,

λ:波長 m

T:物体表面の絶対温度 K

c1=3.7413×1016 Wm4/m2=Wm2プランクの第1定数(m4は波長)

c2=1.4388×10-2 mK プランクの第2定数

ある物体のある温度における放射能と同じ温度における完全黒体の放射能の比を放射率

(emissivity)と言う.

放射率

bE

E (10.34)

λ

Ebλ

灰色体

完全黒体

Q

QR

QA

QD

Page 91: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 10 章 伝熱 91

91

放射率がすべての波長に対して一定となる物体を灰色体(gray body)という.実際の物体の放射率

は波長によって異なる.

② ウイーンの変位則

物体表面の温度が増加すると,単色放射能のピークは短波長側へずれる.これは物体の温度が

高くなるにつれて,表面の色が赤→黄→白へと変化することに対応している.

ピーク波長 max と絶対温度 T には次の関係が成立する.これをウイーンの変位則(Wien's

displacement law)という.

mK108978.2 3max

T (10.35)

③ ステファン-ボルツマンの法則

物体が放出する全エネルギー量は

4

0 /5

1

0 12

Tde

cdEE

Tcbb

(10.36)

この式をステファン-ボルツマンの法則(Stefan-Boltzmann's law)という.σ はステファン-ボ

ルツマン定数(Stefan-Boltzmann's constant)という.

81067.5 W/(m2K4) (10.37)

完全黒体の場合 484 1067.5 TTEb

灰色体の場合 481067.5 TEE b

④ キルヒホッフの法則

灰色体と完全黒体間の熱放射を考える.灰色体

の温度を bTT とし,定常状態の場合を考えと,

2面は平衡状態にあるから,灰色体から放出され

るエネルギーE と灰色体が受け取るエネルギーQ

は等しい.

QE

吸収率を a とすると,

baEQ

であるから,

baEE

となり,吸収率は

bE

Ea

となる.一方,放射率の定義は

Ebλ

λ

黒体の単色放射能と波長の関係

800K

1200K

可視部 赤外部

ウイーンの変位則

温度が上がると,ピークの

位置が短波長側へずれる

Eb

(1-a)Eb

T Tb

灰色体

完全黒体

E

完全黒体は放射

エネルギーをす

べて吸収

(1-a)Eb

等しい

Page 92: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 10 章 伝熱 92

92

放射率bE

E

であるから,結果的に a となる.すなわち,物体の放射率 εと吸収率 a は等しい.これをキル

ヒホッフの法則(Kirchhoff's law)という.

10.4.3 黒体 2面間の放射伝熱

(1) 黒体 2面間の放射伝熱の式

面要素 dA1から,半径 1 の球面上の面要素 dA2に到達す

るエネルギーdQ12は次式で表される.

dwdAIdQ cos112 (10.38)

ただし,

dwは面要素 dA1の中心から見た面要素 dA2の立体

I は放射強さ

放射強さ I と放射能 E には次の関係がある.

EI

1 (10.39)

図において,dA1,dA2 は黒体面 A1,A2 上の微小要素面,r を 2 面間の距離,21, を垂線と r

とのなす角とする.

dA1から dA2に放射されるエネルギーは,より

111112 cos ddAIdQ b (10.38)

立体角の定義より

2

221221

2 coscos

r

dAddAdr

参考

円周 rl 2 (2πrad = 360 度=1 周)→円弧なら rddl

円の面積2rS 扇形なら d

rdS

2

2

球の表面積22 4 rdS 扇形なら drdS 22

212

2112

2211112

coscoscoscos dAdA

rI

r

dAdAIdQ bb

同様に,dA2から dA1に放射されるエネルギーは,

A1

A2

r

r

(立体角)

aEb

dA1

dA2

φ

φ r=1

Page 93: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 10 章 伝熱 93

93

212

21221

coscosdAdA

rIdQ b

正味の放射伝熱量は

212

21212112

coscosdAdA

rIIdQdQdQ bb

(10.41)

放射強さ I と放射能 E には, EI

1 の関係があるから,黒体 2 面間の放射伝熱の基礎式は

212

2142

41212

2121

coscoscoscos1dAdA

rTTdAdA

rEEdQ bb

(10.40)

となる.微小要素面 dA1から黒体面 A2への放射伝熱量 Q は,

(10.43)coscos

coscos

1 2

1 21 2

212

2142

41

212

2142

41

A A

A AA A

dAdAr

TT

dAdAr

TTdQQ

ここで,

1 2

212

21

1

2,1

coscos1

A AdAdA

rAF

(10.44)

とおくと,放射伝熱量 Q は

14

24

12,1 ATTFQ [W] (10.44)

と簡単な表記となる. 2,1F は面相互の位置関係から幾何学的に決定されるため,形態係数

(geometrical factor)という.2 つの面が互いに平行な場合, 12,1 F となる.このほか,形態係

数の値は,いろいろな伝熱関連の資料に掲載されている.

(2) 形態係数の例

1 の面から 2 の面に放射する場合の形態係数の定義式は,次式で表わされ二面の幾何学的な配

置によってさまざまな値をとることになる.

1 2

212

21

1

2,1

coscos1

A AdAdA

rAF

形態係数の計算式の具体例を以下に示す.

① 周囲を取り囲まれた面

2

11,22,1 ,1

A

AFF

② 小さな円から平行な大きな円(軸一致)

222222222

22,1 42

1bahbahba

bF

上記の式を含め,形態係数の式の詳細は,下記資料を参

照のこと.

『埼玉工業大学 技術資料(小西克享) 形態係数の式(平

行面間)』

http://www.sit.ac.jp/user/konishi/JPN/Tech_inform/Pdf/ParallelGeometricFactor.pdf

『埼玉工業大学 技術資料(小西克享) 形態係数の式(垂直面間)』

http://www.sit.ac.jp/user/konishi/JPN/Tech_inform/Pdf/VerticalGeometricFactor.pdf

形態係数の導出過程は,小西研究室のホームページから下記 URL(技術資料のページ)を参照の

こと.(形態係数の式ごとに用意された pdf ファイルを参照可)

http://www.sit.ac.jp/user/konishi/JPN/Tech_inform/Tech_inform.html

A1

A2

面 1

面 2

h

A1

A2

l

a

y

x

b

半径 a の円

半径 b の円

Page 94: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 10 章 伝熱 94

94

10.4.4 灰色体系の放射伝熱

(1) 無限平行二平面の場合

形態係数は 12,1 F となる.

① 黒体の場合

2 つの面が共に黒体の場合,単位面積当たりの放射伝熱量は

4

2

4

1 TTQ [W/m2] (10.45)

となる.

② 灰色体の場合

黒体ではない場合,一部のエネルギーは吸収され,残りは反射されることになる.この吸収と

反射は無限に続く.

面 1 と 2 の放射能と吸収率をそれぞれ, 2211 ,,, EE とすれば,面 2 が吸収する放射エネルギ

ーは

22

212112

12

22

121212122

11111

1111

E

EEEQ (10.46)

となる.大括弧の中は,初項 1,公比 21 11 の等比級数であるから,二項級数の公式

x

xx1

11 2

に当てはめると

21

22

2121

111

111111

よって

21

122

111

EQ (10.46)

となる.

4

111 TE

なので,代入すると

21

4121

2111

TQ [W/m2] (10.47)

同様に,面 1 が吸収する放射エネルギーは

21

4221

1111

TQ [W/m2] (10.48)

面 1 から 2 に伝わる放射伝熱量 Q は両者の差であるから

1 2

E1

Page 95: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 10 章 伝熱 95

95

(10.49)

111

11111

42

41

21

42

41

2121

42

41

21

2112

TT

TTTTQQQ

ここで,

111

1

21

sf (10.50)

とおけば,

42

41 TTfQ s [W/m2] (10.51)

となる. sf を放射係数(emissivity factor)という.

まとめ: 二面間の放射伝熱量

二面間の放射伝熱量は,次式で表される.

1

4

2

4

1 ATTfQ s [W] (10.52)

放射係数 sf は物質が完全黒体であるか灰色体であるかや二面間の形態によって異なる.

① 完全黒体

完全黒体の無限平行平板の場合, 12Ffs

② 灰色体

灰色体の無限平行平板の場合,

111

1

21

sf

灰色体の有限平行平板の場合,

21

2

12

2

1

2112

111

FA

A

Ffs

灰色体が完全に囲まれる場合,

111

1

22

1

1 A

Afs

10.4.5 形態係数に関する法則

(1) 形態係数の交換則

面積が A1と A2の 2 面間の形態係数には次の関係がある.

122211 ,, FAFA (10.53)

(2) 離れた位置におかれた平板間の形態係数

4,342,3

1

34,3142,31

1

321 1 FF

A

AFF

A

AF

, (10.54)

10.5 非定常熱伝導

非定常熱伝導はフーリエの微分方程式と呼ばれる非定常熱伝導方程式を解くことで計算するこ

とができる.直交座標系(x, y, z, t)における 3 次元非定常熱伝導方程式は,次のとおりである.

A2

A1

A3

A4

Page 96: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8 版) 第 10 章 伝熱 96

96

2

2

2

2

2

2

zyxa

t

(5.55)

ただし, は温度[K,℃],t は時間[s],x, y, z は空間座標[m]である.また,右辺の定数 a は

]s/m[ 2

pca

(5.56)

と定義され,熱拡散率(thermal diffusivity)もしくは温度伝導率(thermal diffusivity)という.

熱拡散率は熱の広がりやすさ(伝わる速さ)を表す指標であり,物質によって固有の値を持つ.

一般に,非定常熱伝導方程式を解析的に解くことは困難であるが,フーリエは無限級数を用いた

解を考案した.それがフーリエ級数(Fourier series)と呼ばれるものである.現在ではコンピュ

ータの発達により,差分近似と呼ばれる数値解法を適用して数値的に解くことが可能となってい

る.詳細は下記資料を参照のこと.

『埼玉工業大学 技術資料(小西克享) Excelによる非定常および定常伝熱計算 Ver.3』

http://www.sit.ac.jp/user/konishi/JPN/Tech_inform/Pdf/HeatTransferByExcel3.pdf

Page 97: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 理解度チェック 97

97

理解度チェック No.1(第 1章「熱と温度」)

次の Aから U に当てはまる語句をそれぞれ解答群から選べ.

① 圧力も熱も分子の Aに起因するものである.圧力は分子の B のエネルギーが大きいほど大き

い.温度は分子の C または D のエネルギーが大きいほど大きい.(Cと Dは逆も可)

【解答群】化学変化,運動,衝突,分裂,消滅,合体,振動,回転,

② 温度変化を伴う熱は E 熱といい,伴わない熱は F 熱という.F 熱には G 熱と H 熱がある.

(Gと Hは逆も可)

【解答群】蓄,顕,潜,融解,反応,気化(蒸発潜)

③ 絶対温度 T[k]と摂氏 t[℃]の関係は,T=I となる.0K(絶対零度)では,分子は Aを停止する

ため,J も必ず 0となる.

【解答群】t,t+273.15,t-273.15,体積,圧力,分子数,重力

④ 系と系における K に関する法則を熱力学第 0法則という.

【解答群】温度,圧力,熱平衡

⑤ ある質量の物質・物体を 1℃上昇させるのに必要な熱量のことを L という.ある物質・物体

を単位質量あたり 1℃上昇させるのに必要な熱量のことを M といい,記号を cで表す.熱量を Q,

温度を Tとすれば,M の定義式は c=N となる.M の値は温度に対して O.

【解答群】熱量,熱容量,比熱,dQ

dT,

dT

dQ,変化する,一定となる

⑥ 圧力一定のまま加熱するとき,単位質量の物質を 1℃上昇するのに必要な熱量を P といい,

記号を Q で表す.容積一定の場合の熱量を R といい,記号を S で表す.P と R の比を

T といい,記号をで表す.T の定義式は =U となる.T の値は気体の種類によって異なり,2

原子ガスでは= V である.

【解答群】圧力比熱,定圧比熱,容積比熱,定容比熱,cv,cp,熱量比,比熱比,p

v

c

c,

v

p

c

c,1.3,

1.4,1.5

⑦ SI単位系における熱量や仕事の単位は,W である.

【解答群】N,W,J

理解度チェック No.2(第 2章「熱力学第 1法則」)

次の問いに答えよ.

① 「熱力学第 1法則」を簡単に説明せよ.

② エンタルピーの定義として正しいものはどれか?記号を選べ.

A: dTchT

v 15.273,B: dTch

T

p 15.273,C: dTch

T

v 0,D: dTch

T

p 0,E: dTch

T

0

③ 気体が膨張することによって外部に仕事をする場合,この仕事を何というか?

④ 圧力 pと体積 Vの積を何仕事というか?

⑤ 比エンタルピーhと比内部エネルギーuの関係を表す式はどれか?記号で答えよ.

A: pvuh ,B: pvuh ,C: pvuh ,D: pvuh ,E: pvuh

Page 98: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 理解度チェック 98

98

⑥ 熱力学の第 1基礎式および第 2基礎式を示せ.

⑦ 等温変化で,熱量 dqが与えられたとき,内部エネルギーの変化分 duと仕事の変化分 dwはそ

れぞれいくらか?

⑧ 等圧変化で,熱量 dqが与えられたとき,内部エネルギーの変化分 duと仕事の変化分 dwはそ

れぞれいくらか?

⑨ 等容変化で,熱量 dqが与えられたとき,内部エネルギーの変化分 duと仕事の変化分 dwはそ

れぞれいくらか?

⑩ pv線図で作動流体が 1から 2に状態変化するとき,絶対仕事および工業仕事はどの領域にな

るか.記号で示せ.

⑪ 図に示す流動系において,作動流体のエネルギー保存則を示せ.

12Q

理解度チェック No.3(第 3章「理想気体」)

次の問いに答えよ.

① 理想気体とはどのようなものか?

② 系全体の理想気体の状態方程式を式で示せ.また,式の単位は何か.

③ 一般ガス定数の値と単位を示せ.

④ 定圧比熱pc および定容比熱 vc に関する以下の式を完成せよ.

vp

vv

v

pp

p ccdT

d

dTdT

dqc

dT

d

dTdT

dqc ,,

⑤ 比熱比 を定圧比熱 cpおよび定容比熱 cvで表せ.

⑥ 比熱比 は 2原子分子の理想気体ではいくらになるか?

⑦ エントロピーの定義式を示せ.

⑧ 状態変化を示す次の図 a, b, c, d, e, f, g, hはそれぞれ何変化を示しているか.

比容積 v

図 a

2T

圧力

p

constpv

1T

12 TT 1 2

12w

比容積 v

図 b

1T

圧力

p

constpvk

2T

12 TT

1

2

12w

1p

2p

比容積 v

図 c

2T

圧力

p

constpv

1T

12 TT 1

2

012 w

1p

2p

比容積 v

図 d

2T

圧力

p

constpv

1T

12 TT 1

2

12w

容積 V

1

2

圧力

p a

b

c d

e

1

2

m

Page 99: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 理解度チェック 99

99

比エントロピ s

温度

T

図 h

2T

1T 1

2

1212 hs

比エントロピ s

温度

T

図 e

1T

2T 2

1

012 s

比エントロピ s

温度

T

図 g

2T

1T 1

2

1212 us

等圧変化

比エントロピ s

温度

T

図 f

2T

1T

12 TT

1 2

1212 qs

⑨ 次の pv線図および Ts線図で,記号 a, b, c, d, e, f, g, hの状態変化はそれぞれ何変化か?また,

それらのポリトロープ指数 nはいくらか?

等温,等圧,等容,断熱の各変化における外部仕事(膨張仕事) 12w を式で示せ.

⑪ 図のように n 種類のガス成分を混合した場合,混合後の質量 m,容積 V,圧力 p を求める式

を示せ.温度はすべて等しいとする.

理解度チェック No.4(第 4章「熱力学第 2法則」)

次の問いに答えよ.

① 熱効率とは何か?

② カルノーサイクルが高熱源から Q1の熱量を受け,低熱源に Q2の熱量を捨てるとき,熱効率

はいくらになるか?式で示せ.

③ カルノーサイクルが温度 T1の高熱源と温度 T2の低熱源で動作するとき,熱効率はいくらにな

るか?式で示せ.

④ カルノーサイクルの効率が 100%にできない理由を述べよ.

⑤ 「熱力学第 2法則」を簡単に説明せよ.

⑥ 「熱力学第 2法則」に対応する別の法則名は何か?

⑦ 可逆サイクルに対するクラジウスの積分を式で示せ.

⑧ 不可逆サイクルに対するクラジウスの積分を式で示せ.

⑨ 図 1の pv線図で,シリンダ内の気体が 1から 2に状態変化した.このとき,外界に対してピ

pv線図 比エントロピ s

圧力

p

温度

T

Ts線図

a

b

c

d e

f

g

h

比容積 v

混合前

混合後 →

Page 100: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 理解度チェック 100

100

ストンが実際に行うことができる仕事分はどの領域となるか?記号で答えよ.また,1 から膨張

した場合,エクセルギーはどの領域となるか?記号で答えよ.

⑩ 図 2の Ts線図で,有効エネルギーおよび無効エネルギーはそれぞれどの領域となるか?記号

で答えよ.

理解度チェック No.5(第 5章「熱力学の一般関係式」)

次の問いに答えよ.

① 独立変数 X, Yで表される関数 Zを YXZZ , と表すとき,Zの全微分 dZを式で示せ.

② マクスウェルの関係式を4つ示せ.

③ マクスウェルの関係式を利用すると,比熱差vp cc はどのように表されるか?式を2つ示せ.

④ 気体の等温変化では常に, 0 vp cc となるのはなぜか?

⑤ 自由膨張における温度変化(ジュール効果)を表す式を示せ.

⑥ 絞りにおける温度変化(ジュール・トムソン効果)を表す式を示せ.

理解度チェック No.6(第 6章「蒸気」)

次の問いに答えよ.

① 図 1で,Cの点は何というか?ACの線は何か?

CBの線は何か?Dの領域は何か?Eの領域は何か?

Fの領域は何か?

② 図 2 から 4 の pv 線図で水の等圧変化および,等温変化を

示すものはどれか?

③ 図 5から 7の Ts線図で水の等圧変化および,等温変化を示すものはどれか?

v

1

2

a

c b

d e

f

3 膨張停止

図 1

p

v

C p

v

C

a b c d e

a

b c

d

e

A B A B

p

v

C

a

b c d

e

A B

図 2 図 3 図 4

p

v

C

A B

D

E

F

図 1

s

T

1 2

3 4

a

b

c d o

図 2

Page 101: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 理解度チェック 101

101

④ 湿り蒸気 1kg中に含まれる乾き蒸気が 0.1kg含まれるとき,乾き度と湿り度はいくらか?

⑤ c点における湿り蒸気の乾き度が xのとき,c点の比容積 xv ,エンタルピー xh ,エントロピー

xs を式で表せ.ただし,湿り蒸気の状態量は,飽和液の状態を’,飽和乾き蒸気の状態を”で表し,

v’,h’,s’,v”,h”,s”のように表記すること.

⑥ 大気の飽和水蒸気分圧が wsp ,実際に含まれる水蒸気分圧が wp のとき,相対湿度φを式で表

せ?

理解度チェック No.7(第 7章「熱力学のサイクル」)

次の問いに答えよ.

① 熱機関は燃焼形式の違いから,A機関と B 機関の 2種類に分類される.Aと B に当てはまる

用語を答えよ.

② 次の図は,ガスサイクル機関における熱力学的サイクルの 3 基本形を示している.サイクル

の名称はそれぞれ何か?

容積 V 1V 2V

1

2 3d

4d

41Q

23Q

34W

12W

断熱膨張

断熱圧縮

等圧加熱

等容放熱

23W

W

圧力

P

容積 V 1V 2V

1

2

3s

5

4s

34Q

23q

51Q 12W

45W

断熱膨張

断熱圧縮

等圧加熱

等容加熱

等容放熱

34W

W

圧力

P

容積V 1V 2V

1

2

3o

4o

23Q

断熱膨張

41Q

34W

12W 断熱圧縮

等容加熱

等容放熱

W

圧力

P

図 A 図 B 図 C

③ ガスサイクル機関における熱力学的サイクルの 3 基本形の理論熱効率の式をサイクル名とと

T

s

a

b c d

e

A B

T

s

C T

s

C

a

b c d

e a b c d e

A B A B

C

図 5 図 6 図 7

p

v

C

等温変化

T

s

C

等温変化

a

b c d

e a b c d e

A B A B

x x 1-x 1-x

v’ v” vx s’ s” sx

Page 102: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 理解度チェック 102

102

もに示せ.

④ κ=1.4,ρ=2,λ=2,圧縮比 10 のとき,オットーサイクルの理論熱効率はいくらか?

⑤ ガスサイクル機関における熱力学的サイクルの 3 基本形で,圧縮比および供給熱量が同じ場

合,理論熱効率がもっとも大きくなるのはどのサイクルか?

⑥ ガスサイクル機関における熱力学的サイクルの 3基本形で,最高圧力および出力が同じ場合,

理論熱効率がもっとも大きくなるのはどのサイクルか?

⑦ ガスタービンのサイクルの 2基本形は何と何か?

⑧ 蒸気サイクルの 4基本形は何と何か?

理解度チェック No.8(第 8章「気体の流れ」)

次の問いに答えよ.

① 次の記号に当てはまる言葉を解答欄に記入せよ.

流れの様子を解くには,A,B,C に関する保存を考慮しなければならない.それぞれの保存則

には,D の式,E の式,F 式という式が対応する.

D の式は,G と表される.

E の式は,非圧縮性流れでは,Hと表され,圧縮性流れでは,I と表される.

F 式は,J と表される.

② 摩擦がない可逆断熱流れ(等エントロピー流れ)で,熱落差が adh のとき,入り口速度が無

視できるとすれば,流速はいくらになるか.式で示せ.

③ 次の記号に当てはまる言葉を解答欄に記入せよ.

K 流れの場合,先細ノズルでは,質量流量が L となるノズル出口と入口の圧力比が存在する.

このときのノズル出口圧力は M と呼ばれる.

理解度チェック No.9(第 9章「燃焼」)

次の問いに答えよ.

① 次の記号に当てはまる言葉を解答欄に記入せよ.

水の蒸発潜熱分を含まない燃料の発熱量を A,含む発熱量を B という.

② 発熱反応を示すポテンシャルエネルギーの変化はどちらの図か?

③ メタンガスの反応式 OHCOOCH 2224 cba において,a,b,cはそれぞれいくらか?

④ 反応前後の状態を 1,2とすれば,熱力学第 1法則から

反応前

反応後 ポテンシャルエネルギー

時間

反応前

活性化エネルギー 活性化エネルギー

時間

ポテンシャルエネルギー

反応後

図 1 図 2

Page 103: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 理解度チェック 103

103

LUUQ 12

と表されるが,この場合,Qと Lはそれぞれ,何を意味しているか?

⑤ 0.1013MPa,298.15Kにおける標準反応熱は何と呼ばれるか?

⑥ 「化学反応によって生成される熱は,反応経路の関係なく,反応前後の標準生成熱の差によ

って決定される」という法則を何の法則というか?

⑦ 1kgの燃料が完全燃焼するのに必要な酸素量,空気量をそれぞれ何というか?

⑧ 当量比φが 1より大きい場合,酸素量は完全燃焼に必要な量より多いか少ないか?

⑨ 当量比φが 2のとき,空気過剰率はいくらか?

⑩ 周囲が断熱されている場合の燃焼温度を何というか?

⑪ ガソリンエンジンおよびディーゼルエンジンで特に問題となる有害排気ガス成分を 3 つずつ

挙げよ.

理解度チェック No.10(第 10章「伝熱」)

次の問いに答えよ.

① 次の記号に当てはまる言葉を解答欄に記入せよ.

伝熱(熱移動)という現象は基本的に,A と B の 2 つからなる.また,伝熱の形態によって,

C,D,E に分けることができる.これを伝熱の 3形式という.

C の伝熱形式では,伝熱量は F の法則を用いて計算することができる.この法則は,熱流束 q

に関して,q=G と表すことができる.この式の比例定数は Hといい,物質固有の物性値となる.

D は,I が存在する場を熱が伝わる場合の伝熱形式で,温度分布は J に依存し,一般に,J が大

きいほど,伝熱が促進される.これは分子間の接触がより活発となり,エネルギーの伝播が促進

されることによる.この伝熱形式における熱流束は q=K と表すことができる.この式の比例定数

は L といい,物質固有の物性値ではなく,J やその他の条件に影響を受ける経験値である.

固体壁をはさんで,流体から別の流体に熱が移動する伝熱形式は,M と呼ばれる.この伝熱形

式における熱流束は q=N と表すことができる.この式の比例定数は O といい,物質固有の物性

値ではなく,J やその他の条件に影響を受ける経験値である.

すべての物体からは P が放出されている.その強さは絶対温度の Q 乗に比例している.

E は物体表面から放射される P が他の物体 R に吸収され,物体 S で熱に変わる現象である.

② フィンの伝熱における温度 θに関する線形2階常微分方程式を示せ.

③ 熱伝達の大きさを表す無次元数は何と呼ばれるか? また,その式を示せ.

④ 物体が電磁波として放出する全エネルギー量bE を式で示せ.この式は何の法則と呼ばれる

か?また,式の比例定数は何と呼ばれ,値はいくらか?

⑤ 直交座標系(x, y, z, t)における 3次元非定常熱伝導方程式を示せ.また,この方程式に含まれ

る定数は何と呼ばれるか?この定数は何を表す指標となっているか?

Page 104: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 理解度チェック 104

104

熱力学講義ノート(第 6版) 理解度チェック解答用紙

理解度チェック No.1 解答欄

A B C D E F

G H I J K L

M N O P Q R

S T U V W

理解度チェック No.2 解答欄

③ ④

⑥ 第 1基礎式 第 2基礎式

⑩ 絶対仕事 工業仕事

⑪ 12Q

理解度チェック No.3 解答欄

② 式: 単位: ③

Page 105: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 理解度チェック 105

105

dT

d

dTdT

dqc

pp

p

dT

d

dTdT

dqc

vv

v

vp cc

⑤ ⑥ ⑦

⑧ a b c d e f g h

a: n

b: n

c: n

d: n

e: n

f: n

g: n

h: n

等温: 12w

等圧: 12w

等容: 12w

断熱: 12w

⑪ m V p

理解度チェック No.4 解答欄

Page 106: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 理解度チェック 106

106

② ③

⑦ ⑧

⑨ 発生しうる仕事: エクセルギー:

⑩ 有効エネルギー: 無効エネルギー:

理解度チェック No.5 解答欄

③ および

Page 107: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 理解度チェック 107

107

理解度チェック No.5 解答欄

③ および

Page 108: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 理解度チェック 108

108

理解度チェック No.6 解答欄

C:

ACの線:

CBの線:

Dの領域:

Eの領域:

Fの領域:

② 等圧変化: 図 等温変化: 図

③ 等圧変化: 図 等温変化: 図

④ 乾き度: 湿り度:

⑥ [%]

理解度チェック No.7 解答欄

① A: B: (逆も可)

図 A:

図 B:

図 C:

Page 109: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 理解度チェック 109

109

理解度チェック No.8 解答欄

A: D:

B: E:

C: F:

G:

H:

I:

Page 110: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 理解度チェック 110

110

J:

K:

L:

M:

理解度チェック No.9 解答欄

① A: B:

③ a= ,b= ,c=

Q:

L:

ガソリンエンジン:

ディーゼルエンジン:

理解度チェック No.10 解答欄

① A: B: C: D: E:

Page 111: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 理解度チェック 111

111

F: G: H:

I: J: K: L:

M: N: O:

P: Q: R: S:

bE

法則名:

定数名:

値:

式:

定数の名称:

定数の意味:

Page 112: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 理解度チェック 112

112

熱力学講義ノート(第 6版) 理解度チェック解答例

No.1 解答

A B C D E F

運動 衝突 振動 回転 顕 潜

G H I J K L

融解 気化

(蒸発潜) t+273.15 圧力 熱平衡 熱容量

M N O P Q R

比熱 dT

dQ 変化する 定圧比熱 pc 定容比熱

S T U V W

vc 比熱比 v

p

c

c 1.4 J

No.2 解答

① 熱はエネルギーの一種である.熱を仕事に変換することも,その逆も可能である.

② D ③ 外部仕事

もしくは膨張仕事 ④ 排除仕事 ⑤ B

⑥ 第 1基礎式 pdvdudq 第 2基礎式 vdpdhdq

⑦ dqdwdu ,0

⑧ dqdwdq

du

1,

⑨ 0, dwdqdu

⑩ 絶対仕事 1-2-d-c-e, 工業仕事 1-a-b-e-2

⑪ 1212

2

1

2

212122

1yymgWwwmHHQ t

No.3 解答

① 気体分子の体積および分子間力を無視した仮想の気体.

② 式: mRTpV 単位:J ③ 8314.3J/(kmolK)

④ RccdT

du

dT

pdvdu

dT

dqc

dT

dh

dT

vdpdh

dT

dqc vp

vv

v

pp

p

,,

⑤ v

p

c

c ⑥ 1.4 ⑦ T

dqds

⑧ a等圧 b断熱 c等容 d等温 e断熱 f等温 g等容 h等圧

Page 113: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 理解度チェック 113

113

⑨ a:等容∞,b:等圧 0,c:等温 1,d:断熱κ,e:断熱κ,f:等温 1,g:等圧 0

h:等容∞

等温:1

21112 ln

v

vvpw or

2

1112 ln

p

pRTw

等圧: 1212 TTRw

等容: 012 w

断熱:

1

2

11112 1

1

v

vvpw or 21221112

11

1TT

Rvpvpw

n

i

imm1

n

i

iVV1

n

i

iiRmV

Tp

1

No.4 解答欄

① 高熱原から供給する熱量のうち,何%が仕事に変換できるかを示す指標.

② 1

21Q

Q ③

1

21T

T

④ 効率が 100%になるためには,低熱源の温度が 0Kにならなければならないが,0Kは実現で

きないから.

⑤ 自然界では,熱は高温側から低温側に流れる.

⑥ エントロピー増大の法則

⑦ 01

QdT

⑧ 01

QdT

⑨ 発生しうる仕事:1-2-a-d-e-1 エクセルギー:1-2-3-a-d-e-1

⑩ 有効エネルギー:1-2-3-4 無効エネルギー:4-3-d-c

No.5 解答欄

① dYY

ZdX

X

ZdZ

XY

② vs s

p

v

T

pss

v

p

T

Tv v

s

T

p

Tp p

s

T

v

③ Tp

vpv

p

T

vTcc

2

および

Tv

vpp

v

T

pTcc

2

等温変化では, constpv の勾配は

0

Tv

pもしくは 0

Tp

v

であり,問③の式に代入すれば,それぞれ

Page 114: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 理解度チェック 114

114

0

2

Tp

vpv

p

T

vTcc , 0

2

Tv

vpp

v

T

vTcc

となるから

⑤ vvu T

p

Tc

T

v

T

2

⑥ pph

T

v

Tc

T

p

T

2

No.6 解答欄

C:臨界点

ACの線:飽和液線

CBの線:飽和蒸気線

Dの領域:圧縮水(加圧水)

Eの領域:湿り蒸気

Fの領域:過熱蒸気

② 等圧変化: 図 3 等温変化: 図 2

③ 等圧変化: 図 7 等温変化: 図 6

④ 乾き度: 0.1 湿り度: 0.9

'1" vxxvvx

'1" hxxhhx

'1" sxxssx

⑥ 100ws

w

p

p [%]

No.7 解答欄

① A:内燃 B:外燃 (逆も可)

図 A:ディーゼルサイクル

図 B:サバテサイクル

図 C:オットーサイクル

オットーサイクル:1

11

th

ディーゼルサイクル: 1

111

1

th

サバテサイクル: 11

111

1

th

④ 0.60189 もしくは 60.189%

Page 115: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 理解度チェック 115

115

⑤ オットーサイクル

⑥ ディーゼルサイクル

⑦ ブレイトンサイクル(定圧燃焼サイクル),エリクソンサイクル

ランキンサイクル

再熱サイクル

再生サイクル

再熱再生サイクル

No.8 解答欄

A:質量 D:連続の式

B:エネルギー E:エネルギー

C:運動量 F:運動方程

G: 222111 AwAwm

H:

02

2

21

2

1

22

ppwpw

I: 02

2

21

2

1

22hh

wh

w

J: Cgypw

12 2

② adadhw 22

③ K:等エントロピー L:最大 M:臨界圧力

No.9 解答欄

① A:低位発熱量 B:高位発熱量

② 図1

③ a=2,b=1,c=2

④ Q:反応によって生じる反応熱

L:反応に伴う体積変化(膨張または収縮)によって発生する仕事

⑤ 標準生成熱

⑥ ヘスの法則

⑦ 理論酸素量,理論空気量

⑧ 少ない

⑨ 0.5

⑩ 断熱火炎温度,理論燃焼温度,理論火炎温度など

⑪ ガソリンエンジン:CO,HC,NOx

ディーゼルエンジン:NOx,SOx,PM

Page 116: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 理解度チェック 116

116

No.10 解答欄

A:伝導 B:放射 C:熱伝導 D:対流熱伝達 E:熱放射

F:フーリエ G:dx

d H:熱伝導率

I:流れ J:流速 K: wfhq L:熱伝達率

M:熱通過 N: 21 ffkq O:熱通過率

P:電磁波 Q:4 R:表面 S:内部

② 02

2

tA

hS

dx

d

③ ヌッセルト数(Nu数)

hLNu

4TEb

法則名:ステファン-ボルツマンの法則

定数名:ステファン-ボルツマン定数

値: 81067.5 W/(m2K4)

式:

2

2

2

2

2

2

zyxa

t

定数の名称:熱拡散率(もしくは温度伝導率)

定数の意味:熱の広がりやすさ(伝わる速さ)を表す指標

Page 117: 熱力学講義ノート 第8版...埼玉工業大学(小西克享)熱力学講義ノート(第8 版) 表紙&目次 2 2 はじめに 熱力学は熱の概念を教える科目である.熱は工業生産や日常生活とは切っても切れない関係に

埼玉工業大学(小西克享) 熱力学講義ノート(第 8版) 理解度チェック 117

117

熱力学講義ノート(第 8 版)

http://www.sit.ac.jp/user/konishi/JPN/Lecture/Thermodynamics/Thermodyanmi

cs_8thAll.pdf

熱力学講義ノート 平成 20 年 4 月 1 日 初版

熱力学講義ノート(第 2 版) 平成 21 年 4 月 1 日 第 2 版

熱力学講義ノート(第 3 版) 平成 21 年 12 月 1 日 第 3 版

熱力学講義ノート(第 4 版) 平成 22 年 4 月 1 日 第 4 版

熱力学講義ノート(第 5 版) 平成 23 年 4 月 1 日 第 5 版

熱力学講義ノート(第 6 版) 平成 24 年 4 月 1 日 第 6 版

熱力学講義ノート(第 7 版) 平成 25 年 4 月 1 日 第 7 版

熱力学講義ノート(第 8 版) 平成 27 年 4 月 1 日 第 7 版

個人的な学習の目的以外での使用,転載,配布等はできません.

著者 小西克享

印刷・製本

非売品

Copyright ⓒ 2008, 2015 小西克享, All Rights Reserved.