維持透析5年 後に不明熱を呈しancaと の関連が 考えられた血液 ... ·...

1

Upload: others

Post on 26-Jun-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 維持透析5年 後に不明熱を呈しANCAと の関連が 考えられた血液 ... · 2019-07-13 · 血液透析患者における不明熱の鑑別としては結核な どの感染症,

透 析 会 誌 36 (2): 147~151, 2003

症例報告

維持透析5年 後 に不明熱 を呈 しANCAと の関連が

考 え られ た血液透析 患者の1症 例

吉 岡 淳 子*1 猪原 登志 子*1 野 村 啓 子*1 小林 いけい*1

渡 部 仁 美*1 小 野 孝 彦*1 深 津 敦 司*2 武 曾 恵 理*3

小 西 憲 子*4

京都大学医学研究科循環病態学*1 同人工腎臓部*2

田附興風会医学研究所北野病院腎臓内科*3 川端診療所*4

key words: 不 明 熱 (FUO), ANCA, 血 液 透 析, ANCA-related vasculitis, 慢 性 腎 不 全

<要旨>

症 例 は56歳 男 性. 44歳 時 慢 性 糸 球 体 腎 炎 と診 断 され50歳 時 に血 液 透 析 に 導 入 され た. 透 析 導 入5年 目頃 よ り,

透 析 後 に38度 台 の 発 熱 を呈 す る よ う に な り, そ の 後, 透 析 以 外 の 日 に も発 熱 を きた す よ うに な っ た . CRP上 昇 (4.6

mg/dL), 白 血 球 増 加 (10,700/μL), 好 酸 球 増 加 (36%), 抗 核 抗 体 陽 性 を認 め, 透 析 膜 ア レル ギ ー に よ る発 熱 , 透

析 液 中 の 発 熱 物 質 の 存 在, 感 染 症, 膠 原 病, 悪 性 腫 瘍, 薬剤 熱 等 が疑 わ れ た が, 精 査 の結 果 い ずれ も否 定 的 で あ っ

た. Myeloperoxidase (MPO)-ANCA, proteinase 3 (PR3)-ANCAが 陽 性 で あ り, ANCA-related vasculitisが 強 く

疑 わ れprednisolone 40mgを 開 始 した と ころ 発 熱 は軽 快 し, CRPの 陰 性 化, 好 酸 球 の 減 少 を 認 め た. 血 液 透 析 患者

の 不 明 熱 の 原 因 と して これ まで 指 摘 され て きた もの 以 外 にANCA-related vasculitisも 考慮 す る必 要 が あ る と考 え

られ た.

Fever probably due to newly developed ANCA-related vasculitis in a

patient under maintenance hemodialysis for 5 years

Atsuko Yoshioka*1, Toshiko Ihara*1, Keiko Nomura*1, Ikei Kobayashi*1, Hitomi Watanabe*1,

Takahiko Ono*1, Atsushi Fukatsu*2, Eri Muso*3, Noriko Konishi*4

Division of Nephrology, Department of Cardiovascular Medicine, Graduate School of Medicine*1 and Division

of Artificial Kidneys, Kyoto University*2; Department of Nephrology, Kitano Hospital, the Tazuke-Kofukai

Foundation Medical Research Institute*3; Kawabata Clinic*4

A fifty-six-year-old male on maintenance hemodialysis (HD) from the age of 44 due to chronic glomerulone

phritis, was admitted to our hospital because of FUO. In the 5th year after the introduction of HD, he developed

high fever (38℃) after each HD session, which later became an almost daily event. Laboratory data showed

CRP 4.6mg/dL, WBC 10,700/μL, eosinophil 36%, and a positive ANA test. Series of examinations excluded the

possibilities of dialysers incompatibility, endotoxin, infection, collagen disease, malignancy or drug fever.

Myeloperoxidase (MPO)-ANCA and proteinase 3 (PR3)-ANCA were positive. It was highly speculated that

fever was due to ANCA-related vasculitis. After daily administration of prednisolone 40mg, CRP and eosinophil

decreased to the normal ranges and fever disappeared. To date, many causes of FUO in HD patients have been

reported. We conclude that ANCA-related vasculitis should be considered as one of the causes of FUO in HD

patients.

吉 岡 淳 子 現 市 立 島 田市 民 病 院 内 科 〒427-8502 静 岡 県 島 田 市 野 田1200-5

Atsuko Yoshioka Tel: 0547-35-2111 Fax: 0547-36-9155

E-mail: atsuyosh@municipal-hospital.shimada.shizuoka.jp

〔受 付: 平 成14年6月20日, 受 理: 平 成14年9月12日 〕

Page 2: 維持透析5年 後に不明熱を呈しANCAと の関連が 考えられた血液 ... · 2019-07-13 · 血液透析患者における不明熱の鑑別としては結核な どの感染症,

148  吉 岡 ほか: ANCA陽 性 で不 明熱 を呈 したHD症 例

緒 言

血液透析患者ではantineutrophil cytoplasmic anti

bodies (ANCA) 陽性率が高いとの報告がある. その

原因 として は頻回のblood access穿 刺による感染の

増加 と透析膜 との反応で好中球が活性化されるためと

考えられている1,2). ANCA高 値を示す血液透析患者の

中で症状 を示す割合 は必ず しも高 くない2) が, 発熱を

主症状 とする場合 もある.

血液透析患者 における不明熱の鑑別 としては結核な

どの感染症, 悪性新生物, 透析液中のendotoxinや 透

析膜 とのアレルギー反応などが従来考 えられてきてい

るが, このたびわれわれ は上記のいずれにも当てはま

らず, ANCA測 定 とその後の治療経過 によって診断し

えたANCA-related vasculitisと 思われ る1症 例 を

経験 したので, ここに報告する.

Ⅰ. 症 例

症例: 55歳, 男性.

主訴: 発熱.

既往歴: 24歳 時 より慢性糸球体腎炎 ・高血圧 を指

摘 され, 49歳 で腎不全, 血液透析導入にな り, 現在維

持透析中である. また49歳 時に狭心症 にてPTCAを

施行 された (冠動脈以外 の血管の検査 は施行 されな

かった).

家族歴: 姉が慢性糸球体腎炎による慢性腎不全にて

25年 前 より透析中.

表1 Laboratory data (1)

表2 Laboratory data (2)

現病歴: 血液透析 (HD) 導入から5年 経過した平成

10年 の11月 頃より, HD終 了後 に帰宅 してか ら発熱

が出現するようになった. シャントは左前腕 に形成 さ

れてお り, シャン ト血流 は良好で穿刺困難は認 められ

なかった. 平成11年1月 頃には発熱の頻度 は増 し,

CRPは4.8mg/dLと 上昇 した. この頃行われたツベ

ルク リン反応は陰性であった. 抗生剤投与にても完全

な解熱は得 られず, 発熱は透析 日の透析終了後 にみら

れたため, 透析膜 に対す る反応 としての発熱が考えら

れ, ダイアライザーを変更 して経過観察された. 発熱

出現時の平成10年11月 より好酸球 が増加傾 向を示

し, 平成11年3月 にはWBC 10, 700/μL, 好酸球36%

と上昇 した. 4月 よりprednisolone 20mgを 毎回の透

析終了後 に静脈内投与され, 一旦発熱の頻度は低下し

たが, 再度発熱するようにな り抗生剤 も併用された.

5月 には抗核抗体陽性, C3 50mg/dL, C4 20mg/dL,

CH506.0U/mLで あり, HCVコ ア抗体陽性から, C

型肝炎 ウイルス感染による免疫異常が推測されたこと

もあった. 9月 頃より抗結核剤が約1か 月間投与 され

たが効果な く, 11月 よりprednisolone静 脈 内注射が

再開された. また血液透析から血液濾過へ変更するこ

とで, 一時的には解熱 した. このためprednisoloneを

10mgの 内服に減量 したところ, 再度発熱 し, 平成12

年2月 頃より非透析 日にも高熱が出現するようになっ

Page 3: 維持透析5年 後に不明熱を呈しANCAと の関連が 考えられた血液 ... · 2019-07-13 · 血液透析患者における不明熱の鑑別としては結核な どの感染症,

吉 岡 ほか: ANCA陽 性 で不 明熱 を呈 したHD症 例  149

たため, 4月 になって精査加療目的にて京都大学医学

部附属病院第3内 科 に入院 となった.

a b

図1 Chest X-ray photograph (a) and chest CT scan (b). Abnormal

shadow was observed in the left lower lung field (arrow heads).

身 体 所 見: 身 長158cm, 体 重51kg. 脈 拍88/分

(整). 血 圧116/68mmHg. 体 温39℃. 眼 瞼 結 膜 は貧 血

様 で 皮 膚 に色 素 沈 着 を認 め た. 表 在 リ ンパ 節 は腫 脹 な

く, 甲状 腺 触 知 せ ず. 心 音 は Ⅰ音 Ⅱ音 は 正 常, Ⅲ音 Ⅳ

音 聴 取 せ ず, 第2肋 間 胸 骨 左 縁 にLevine Ⅱ/Ⅳ の駆 出

性 雑 音 を聴 取 した. 左 背 側 下 肺 野 に湿 性 ラ音 を聴 取 し

た. 腹 部 は平 坦 で圧 痛 認 めず, 肝, 脾, 腎 を触 知 せ ず.

入 院 時 検 査 (表1, 2): CBCで は 白血 球 数, 血 小 板

数 上 昇 は 認 め られ ず, 単 球 数, 好 酸 球 数 が 上 昇 して い

た. CRP, γ-グ ロ ブ リ ン, IgGの 上 昇 を認 め た. 抗 核

抗 体 陽性 で, 補 体C3, C4は 正 常 で あ っ た. 可 溶 性IL-

2レ セ プ タ ー が 高 値 を示 した が, それ 以 外 の 腫 瘍 マ ー

カー と β-D-グ ル カ ン は 軽 度 の 上 昇 に 留 ま っ た. en

dotoxin陰 性 で あ り, 血 液 ・喀 痰 ・尿 培 養 は 一 般 菌, 抗

酸 菌 と も 陰 性 で あ っ た. 自 己 抗 体 は 抗 核 抗 体 と

myeloperoxidase (MPO)-ANCAと, proteinase 3

(PR3)-ANCAが 高値 を示 した以 外 は い ず れ も陰 性 で

あ っ た. 胸 部X線 (図1a) で は左 下 肺 野 に浸 潤 影 を認

め, 胸 部CT (図1b) で も肺 炎 の 像 と合 致 す る浸 潤 影

の 所 見 で あ った. 副 鼻 腔 炎 は認 め られ ず, 気 道 過 敏 性

テ ス トは 陰 性 で あ っ た.

臨 床 経 過 (図2): 入 院 時 β-D-グ ル カ ン が 高 値 で

あ っ た た め真 菌 感 染 症 を 疑 い, fluconazoleを 点 滴 静

注 し, CRPは7.1か ら4.5mg/dLと 一 時 低 下 す る も

発 熱 は持 続 した. また 入 院 時, 左 肺 下 葉 に肺 炎 像 を認

めた. そ こでerythromycinを2週 間 投 与 した結 果, そ

の 後 のCTで 浸 潤 影 は消 失 して い た が, 発 熱 は続 き,

好 酸 球 も高値 が 続 い た. な お, Aronoffら3) は末 期 腎不

全 患 者 へ のerythromycinの 高 用 量 投 与 は聴 神 経 障 害

を きた す 危 険 性 が あ る た め, GFR<10mL/minの 患

者 で は常 用 量 の50~75%に 減 量 す る こ と を 推 奨 し て

い る. そ こで この症 例 で は500mg/day投 与 と した.

Drug-induced feverを 除外 す る た め に, 投 生 剤 点 滴

を含 め 全 て の 内服 薬 を 中 止 した と こ ろCRPは 低 下 し

た が, 発 熱 は持 続 し, 好 酸 球2.9%か ら7.6%と む し ろ

上 昇 を 示 した.

こ の 時 点 でANCAの 陽性 が 明 らか に な り, ANCA-

related vasculitisが 強 く疑 わ れ, 入 院前 に も少 量 の ス

テ ロ イ ド治 療 が 試 み られ て い た も の の, 5月25日 か ら

強 力 な ス テ ロ イ ド治療 を決 定 した. 感 染 症 の 可 能 性 が

完 全 に否 定 で き な い た め, cefotiam, fluconazoleを 併

用 投 与 し, prednisolone 40mg/日 の経 口 投 与 を 開始 し

た と ころ, そ の後 発 熱 は お さ ま り, CRPは 陰 性 化 し,

好 酸 球 は7.6か ら0%に 減 少 した. ANCAは 治 療 開 始

2か 月 後 の7月26日 に はMPO-ANCA 20 EU, PR3-

ANCA 24 EU, 半 年 後 の2001年2月14日 に はMPO-

ANCA 10 EU, PR3-ANCA 16 EUと 減 少 した.

Ⅱ. 考 察

不 明 熱 を きた す 疾 患 の鑑 別 の た め, 悪 性 腫 瘍 検 索 と

し てGaシ ン チ, CT, 内視 鏡 検 査, 腫 瘍 マ ー カ ー測 定

を行 っ た が 有 意 な所 見 は得 られ なか っ た. 入 院 前 に 一

時 補 体 価 の 低 下 を 指摘 され た こ とが あ っ た が, 入 院 時

は正 常 範 囲 に あ っ た. SLEな ど発 熱 を きた す 自 己免 疫

性 疾 患 は皮 疹 や 関 節 痛 な ど発 熱 以 外 の所 見 に乏 し く,

各 種 の 自 己 免 疫 抗 体 が 陰 性 で あ り, 皮 膚 生 検 で もSLE

に特 有 の 変 化 は 認 め ら れ な か っ た た め否 定 的 で あ っ

Page 4: 維持透析5年 後に不明熱を呈しANCAと の関連が 考えられた血液 ... · 2019-07-13 · 血液透析患者における不明熱の鑑別としては結核な どの感染症,

150  吉 岡 ほか: ANCA陽 性 で不 明熱 を呈 したHD症 例

た. 透析膜 との反応や透析液中のendotoxinに よる発

熱は, 入院前に透析膜 を変更 した り透析施設を変更 し

ても発熱が続いた ことより否定的であった. 感染症 を

除外するため一般菌, 抗酸菌を対象に培養検査を行 っ

たが, 全て陰性であった. CT, Gaシ ンチ, 腹部エ コー

でも深部感染は認められず, 経食道エコーで感染性心

内膜炎は否定的であった. また左肺下葉の肺炎像に対

し抗生剤投与 した ところ, 肺炎像 は消失 したが発熱は

改善 しなかったため, 入院時, 肺炎があったものの,

この肺炎のみがそれ までの発熱の原因 とは考 えに く

かった.

図2 Clinical course of the case with ANCA-related fever.

FLCZ, fluconazole; EM, erythromycin;

CTM, cefotiam; PSL, prednisolone

表3 Causes of FUO in HD patients

透析膜による発熱

透析液中の発熱物質の存在

感染症

膠原病

悪性腫瘍

代謝性疾患

薬剤熱

透析患者における不明熱の鑑別診断 としては表3に

示 したものが考 えられる. しか しこの症例では上に述

べたようにその項 目のいずれ にも当てはまらなかっ

た. ANCAや 好 酸 球 が高 値 を示 す 疾 患 として,

ANCA-related vasculitisの 可能性が高いと考 えられ

た. 確定診断には組織生検で血管炎の所見を得 ること

が望 ましいが, この症例ではすでに慢性糸球体腎炎に

より血液透析に導入 されてから5年 が経過 してお り,

両腎 とも萎縮が甚だしく腎生検の適応にはならず, 肺

生検は危険性が大 きかった.

Weidemannら2) は透 析 患 者1,277人 を 対 照 にper

inuclear (p)-ANCA (MPO-ANCA), cytoplasmic

(c)-ANCA (PR3-ANCA) を測 定 した 報 告 を して い

る. p-ANCA, c-ANCAは 蛍 光 抗 体 法, MPO-ANCA,

PR3-ANCAはELISAに よ る測 定 値 で あ る . そ の 結

果, p-ANCA (MPO-ANCA), c-ANCA (PR3-

ANCA) の 陽 性 率 は, 透 析 前 の 末 期 腎 不 全 患 者, 健 常

人 と比 べ 有 意 に高 か った. Andreiniら1) はHD患 者 と

持 続 的腹 膜 透 析 (CAPD) 患 者 を比 較 した が, CAPD患

者 のANCA陽 性 率 は 末 期 腎 不 全 患 者 や健 常 人 と差 は

認 め られ ず, HD患 者 は それ ら と比 して 有 意 に高 か っ

た. こ の2つ の 報 告 の 中 で は 腎 不 全 の原 疾 患 や 年 齢,

HDを 開 始 して か らの 年 数 とANCA陽 性 率 の 問 に 関

連 は認 め られ て い な い.

血 液 透 析 の 技 術 的 要 因 と し て は, 頻 回 のblood

accessへ の 穿刺 や 透 析 液 の 汚 染 に よ る感 染 の 反復, 透

析 膜 との 反 応 が 指 摘 され1), そ の 際 単 球 か らcytokine

が産 生 さ れ る こ とが 報 告 され て い る4~6). 血 中 をcyto

kineが 循 環 す る こ と に よ り, 免 疫 系 が 常 にpre

inflammatory stateに あ り, 好 中球 が 活 性 化 した 状 態

に あ る7,8). その 状 態 で は好 中球 表 面 のMPOやPR3の

抗 原 の 発 現 頻 度 が 増 加 す るた め, 健 常 人 に比 べ 血 液 透

析 患 者 で はANCAが 産 生 され や す い こ とが 推 測 され

て い る2). 血 中 をANCAが 循 環 して い る状 態 で感 染 や

局 所 の 炎 症 な どが起 こ り, 単 球 か ら さ らにcytokineが

産 生 され る と, 血 管 内 皮 に接 着 因 子 が 発 現 す る. 血 管

内 皮 に 接 着 因 子 が 接 着 す る こ と で 好 中 球 の 表 面 の

PR3やMPOの 発 現 が さ ら に増 加 し7), PR3やMPO

とANCAが 反 応 す る結 果, 好 中 球 のapoptosis, oxy-

Page 5: 維持透析5年 後に不明熱を呈しANCAと の関連が 考えられた血液 ... · 2019-07-13 · 血液透析患者における不明熱の鑑別としては結核な どの感染症,

吉 岡 ほか: ANCA陽 性 で不 明熱 を呈 したHD症 例  151

gen radicalの 発生が起 こり, 組織が障害される8). そ

れに対する単球の遊走が, さらなるcytokineの 産生 と

好中球の集合 を引き起 こし, 炎症が拡大す る結果, 局

所に限定 した炎症か ら, 全身の小動脈の血管炎 に進展

すると考えられている9,10). HD患 者 のANCA-related

vasculitisの 臨床症状 として, Weidemannら2) は関節

痛, 肺浸潤影, 皮膚炎, 中耳炎, 不明熱, 副鼻腔炎,

角膜炎などを挙げている. 本症例では臓器症状 を呈す

る前にステロイ ド治療 を行 ったため, 臓器症状 は示 さ

なかったが, CRP上 昇や発熱か ら, 潜在的な血管炎の

存在が考えられた. 症状の出現頻度 とANCAの 測定

値 とは必ずしも相関せず, ANCAが 検出されて も臨床

症状 が出ていない患者 も少な くない2). これには,

ANCAのMPOやPR3に おける抗原決定基への認識

部位による炎症惹起性の違いや, 血管炎の発現のため

の トリガー としての 炎症 の存 在 が 指摘 され て い

る1,2). 本症例において も, 入院時に肺炎が指摘された

ように, 感染症を頻 回に繰 り返す ことによりANCA

が産生 され, 血管炎に至ったもの と推測 された.

本症例の慢性糸球体腎炎の詳細は不明であるが, 慢

性糸球体腎炎の発症 と不明熱 の発症 は30年 もの乖離

があるため, 慢性腎不全の原疾患 としての慢性糸球体

腎炎がANCA-related vasculutisに よるもの とは考

えに くかった. また49歳 時にPTCAを 受けた既往が

あるが, 当時多臓器の血流障害は指摘 されなかった.

結 語

血液透析患者の不明熱の原因 として, これまで指摘

されてきた もの以外 にANCA-related vasculitisも

考慮す る必要があると考 え られ る. また, 無症状 の

ANCA陽 性患者が感染症の反復 により将来的に何 ら

かの症状 を発症する可能性は常に念頭においておく必

要があると考 えられる.

本論文の一部は第21回 京都透析医学会 (平成13年)

にて発表した.

文 献

1) Andreini B, Panichi V, Cirami C, Migliori M, De

Pietro S, Taccola D, Aloisi M, Antonelli A, Giusti R,

Rindi P, Buoncristiani U, Giovannini L, Palla R:

ANCA in dialysis patients: a role for bioin

compatibility? Int J Artif Organs 23: 97-103, 2000

2) Weidemann S, Andrassy K, Ritz E: ANCA in

haemodialysis patients. Nephrol Dial Transplant

8: 839-845, 1993

3) Aronoff G, Berns J, Brier M, Golper T, Morrison G,

Singer I, Swan S, Bennett W: Antimicrobial agents

In "Drug prescribing in renal failure" p48, Amer

ican College of Physicians-American Society of

Internal Medicine, Philadelphia, 1999

4) Tesar V, Masek Z, Rychlik I, Merta M, Bartunkova

J, Stejskalova A, Zabka J, Janatkova I, Fucikova T,

Dostal C, Becvar J: Cytokines and adhesion mole

cules in renal vasculitis and lupus nephritis. Nephrol

Dial Transplant 13: 1662-1667, 1998

5) Cappelli G, Di Felice A, Perrone M, Ballestri D,

Bonucchi A, Savazzi M, Ciuffreda A, Lusvarghi E:

Which level of cytokine production is critical in

haemodialysis? Nephrol Dial Transplant 13 (Suppl

7): 55-60, 1998

6) Tetta C, Turello E, Salomone M, Aimo G, Priolo G,

Segoloni G, Vercellone A: Production of cytokines

in haemodialysis. Blood Purif 8: 337-346, 1990

7) Herper L, Cockwell P, Adu D, Savage CO: Neutro.

phil priming and apoptosis in anti-neutrophil cyto

plasmic autoantibody-associated vasculitis. Kidney

Int 59: 1729-1738, 2001

8) Pertosa G, Grandaliano G, Gesualdo L, Schena FP:

Clinical relevance of cytokine production in

hemodialysis. Kidney Int 58 (Suppl 76): S 104-111,

2000

9) Falk R, Terrell R, Charles L, Jennette J: Anti

neutrophil cytoplasmic autoantibodies induce

neutrophils to degranulate and produce oxygen

radicals in vitro. Proc Natl Acad Sci USA 87: 4115-

4119, 1990

10) Herper L, Savage CO: Pathogenesis of ANCA-

associated systemic vasculitis. J Pathol 190: 349-

359, 2000