加速するグローバル競争下の開発購買の役割6 plant engineer dec.2012...

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Plant Engineer Dec.2012 6 購買・調達 る。日本では、長引く不景気に対 して、市場を喚起するために新商 品投入のサイクルが短くなってき ている。その結果、商品のライフ サイクルも短くなっている。従来 であれば、量産開始後に引き続き 改善を進め収益を確保していく期 間があった。商品ライフサイクル の短縮により、その継続的改善の 期間も短くなり、量産開始時点で は十分に完成度を上げた状態にし ておくことが求められている。こ れに対応するために、調達では開 発購買の重要性が高まっている。 はじめに 1 日本の製造業は、現在たいへん厳しい経営環 境に直面している。とくに東日本大震災以降の 電力供給のひっ迫や価格上昇のみならず、一向 に反転せずに安定化の様相の円高、さらに尖閣 問題の影響を受けた中国の対日圧力などが大き くのしかかっている。 このような厳しい経営環境のもと、企業の自 助努力として自社商品の競争力を高め、業績を 上げていくために調達の重要性は増している。 しかしながら、調達を取り巻く環境は、調達が 成果をあげていくことをむずかしくしており、 調達自身が仕事の進め方を革新していくことが 求められている。 本稿では、まず日本の製造業が直面する近年 の環境変化を概観し、直近のグローバル化のね らいを整理する。そして、本稿の主題である開 発購買について、その定義を確認し、開発購買 を機能させるためのポイントを整理する。ポイ ント整理では、ツール紹介を含めて考え方をお 伝えする。 なお本稿は、昨年 11 月の一般社団法人日本 能率協会主催「2011 購買・調達革新大会」での 講演内容に基づき、その後の社会情勢等を考慮 しつつ原稿にしたものである。 製造業を取り巻く環境と調達への影響 2 上述した直近の動向だけでなく、近年の環境 変化を列記したものが、図表—1 である。ここ では、3 項目だけ取り上げ、その調達への影響 を確認しておく。 まず「2)新商品開発サイクル競争の激化」であ 日本能率協会コンサルティング シニア・コンサルタント 加速するグローバル競争下の開発購買の役割 2)商品開発サイクル競争の激化 3)新技術への転換 5)ビジネスのグローバル化拡大 6)材料のひっ迫、市況の高騰 1)グローバルなローコスト競争の激化 4)顧客要求のさらなる多様化 (多品種少量・即納要求の強まり) 7)企業の社会的責任への要求の高まり 中でもグローバル化は 国内の六重苦の影響を受け 海外展開圧力が増大 ①高い法人税率 ②自由貿易協定(FTA)の立遅れ ③労働規制(製造業の派遣労働禁止) ④エネルギーのひっ迫 ⑤温室効果ガス排出量の25%削減目標 ⑥急激な円高 図表—1 日本製造業を取り巻く環境 加賀美 行彦

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Plant Engineer Dec.20126

購買・調達

る。日本では、長引く不景気に対して、市場を喚起するために新商品投入のサイクルが短くなってきている。その結果、商品のライフサイクルも短くなっている。従来であれば、量産開始後に引き続き改善を進め収益を確保していく期間があった。商品ライフサイクルの短縮により、その継続的改善の期間も短くなり、量産開始時点では十分に完成度を上げた状態にしておくことが求められている。これに対応するために、調達では開発購買の重要性が高まっている。

はじめに1

日本の製造業は、現在たいへん厳しい経営環境に直面している。とくに東日本大震災以降の電力供給のひっ迫や価格上昇のみならず、一向に反転せずに安定化の様相の円高、さらに尖閣問題の影響を受けた中国の対日圧力などが大きくのしかかっている。

このような厳しい経営環境のもと、企業の自助努力として自社商品の競争力を高め、業績を上げていくために調達の重要性は増している。しかしながら、調達を取り巻く環境は、調達が成果をあげていくことをむずかしくしており、調達自身が仕事の進め方を革新していくことが求められている。

本稿では、まず日本の製造業が直面する近年の環境変化を概観し、直近のグローバル化のね

らいを整理する。そして、本稿の主題である開発購買について、その定義を確認し、開発購買を機能させるためのポイントを整理する。ポイント整理では、ツール紹介を含めて考え方をお伝えする。

なお本稿は、昨年 11 月の一般社団法人日本能率協会主催「2011 購買・調達革新大会」での講演内容に基づき、その後の社会情勢等を考慮しつつ原稿にしたものである。

製造業を取り巻く環境と調達への影響2

上述した直近の動向だけでなく、近年の環境変化を列記したものが、図表—1 である。ここでは、3 項目だけ取り上げ、その調達への影響を確認しておく。

まず「2)新商品開発サイクル競争の激化」であ

日本能率協会コンサルティング シニア・コンサルタント

加速するグローバル競争下の開発購買の役割

2)商品開発サイクル競争の激化

3)新技術への転換

5)ビジネスのグローバル化拡大

6)材料のひっ迫、市況の高騰

1)グローバルなローコスト競争の激化

4)顧客要求のさらなる多様化 (多品種少量・即納要求の強まり)

7)企業の社会的責任への要求の高まり

中でもグローバル化は国内の六重苦の影響を受け海外展開圧力が増大①高い法人税率②自由貿易協定(FTA)の立遅れ③労働規制(製造業の派遣労働禁止)④エネルギーのひっ迫⑤温室効果ガス排出量の25%削減目標⑥急激な円高

図表—1 日本製造業を取り巻く環境

加賀美 行彦

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購買・調達

次の「5)ビジネスのグローバル化拡大」では、海外生産比率を高めていく方向に各社とも動いている。海外生産メリットを高めるには、現地調達を拡大していくことも重要である。現地調達の拡大では、日系サプライヤーだけでなくローカルサプライヤーの活用もポイントとなるが、いかに新規のローカルサプライヤーを探索するか、いかにローカルサプライヤーの品質や納期を担保するかを課題とするケースが多い。「7)企業の社会的責任への要

求の高まり」は、CSR への対応で

市場ピラミッド

T.O.P

B.O.P

M.O.Pボリュームゾーン

従来日本が得意としてきた領域

当面の重点となっていく領域

欧米企業に比べて大きく遅れ

年間所得$20000以上約1.8億人年間所得$3000以上約14億人

約40億人

◆ボリュームゾーンの攻略には、

・消費者に受け入れられる価格で、・消費者の顕在/潜在ニーズやテイストに合った製品・サービスの提供が求められている

◆ボリュームゾーン市場では、日本基準のものは必ずしも評価されておらず、日本製品の優位性が活かされていない

◆これまでのところ、食品業界を除いた多くの日本メーカーは、うまく対応ができていない

図表—2 市場ピラミッドとグローバル化のねらい

2010 年時点の日本製造業の海外生産比率は約18%である。産業別では、輸送機械が突出して約 39%であり、情報通信機械、汎用機械それぞれ約 28%が続いている。その他の産業は、10%前後かそれ以下の水準である。

昨年以降、国内製造業の六重苦などと言われていた経営環境からの海外展開化圧力を受けて、グローバル化の進展・拡大が加速している。この直近のグローバル化のねらいは、従来とは様相を異にしていると感じられる。日本の人口は減少し始めており、日本市場の成長が望めない中で、海外市場に向けた生産拠点確保の観点の色が濃くなっている。

図表—2 は、市場ピラミッドとグローバル化のねらいを示したものである。従来、日本企業をはじめ世界経済を牽引してきた先進国の各企業がターゲットとしてきたのは、購買力のあるトップ・オブ・ピラミッド(T.O.P.)の市場であった。このターゲットが世界の新興国市場の勃興にともない、ミドル・オブ・ピラミッド(M.O.P)の攻略をねらった動きとなっている。M.O.P. ゾーンは、T.O.P に比べ購買力は劣るものの、圧倒的に大きな市場であり、ボリュームゾーンと呼ばれている。グローバルでの市場競争に勝ち残っていくには、ボリュームゾーンでの成功は必須

ある。近年は、CSR 経営といわれるだけでなく、CSR 調達として取組みが進められるようになってきている。CSR 調達では、サプライヤーにおける CSR を逸脱する行為の責任は、バイヤー企業にあるとの考え方がある。多くのサプライヤーとの取引があるバイヤー企業にとっては、自社の考え方をサプライヤーに理解してもらうとともに、順守してもらうように促す努力と工夫が必要である。一方、現在の CSR は、海外の NGOや NPO が主導している面があるが、彼らが重視する CSR の内容と、多くの日本企業の現在の取組みの焦点は、合致していない面がある。とくに大手企業にとって今後のグローバル化の拡大は、十分に注意を要する領域である。

ここに述べた項目のみならず、図表—1 にあげたいずれの項目も、高い競争力を実現することを目指す調達にとっては逆風であり、成果をあげることをむずかしくしている。しかし、調達はこれを乗り超える必要があり、そのためには、従来の仕事の仕方を変えることで調達戦略の水準を高めることが求められている。

グローバル化のねらい3

経済産業省の海外事業活動基本調査によれば、

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購買・調達

原価企画とは、・事業の目標利益達成をねらいに、・企業の関係部署の総意を結集して、製

品ごとの新製品の企画・計画段階から始める、

・目標コスト達成を図る一連の活動

また、開発購買は、原価企画活動の一環として調達の立場からの取組みであるが、こちらの定義は、原価企画ほどには明確に世の中に浸透したものはないと思われる。そこで、本稿では次のように定義したい。

開発購買とは、・企画された商品の QCD 目標の達成に

向けて、・サプライヤーの開発機能を調達する

活動 そのために、

・新素材・新技術・サプライヤー情報を先行して収集し、

・VE・IE・QC などの改善技術を活用しながら、

・各関連部門と連携し、・製品開発の企画・開発段階から積極

的に提案していく活動

一般的には、開発購買とは調達が開発段階で仕様決定に参画していく取組みと解されていることが多いように思われる。しかし、その定義では調達の開発購買における役割が不明確である。

上述の定義では、「開発購買とはサプライヤーの開発機能を調達する活動」としている。もちろんそのためには開発段階での関与が求められるわけであるが、調達がより意識すべきは、早期にサプライヤーを探索し、サプライヤーからの提案を引き出し、その提案内容を改善技術や関連部門との連携を通じて磨きをかけながら、開発への提案に仕上げていく取組みである。

4.2 原価企画で開発購買が役割を果たすためのポイント

条件である。ボリュームゾーンの攻略には、その市場の顕

在/潜在ニーズに合った製品やサービスの提供が求められていることは論をまたないが、それを消費者に受け入れられる価格で提供できるかが重要なポイントである。この市場ではバイイングパワーが大きく、価格低減要求が厳しい一方で、単なる廉価版の製品では顧客に訴求しない。

従来、日本企業は、他社を凌駕するような高い品質で顧客との信頼を築いてきた。ボリュームゾーンでも品質水準は高い方がよいが、日本基準の品質を現地の購買力を超えるような価格で提供しようとしても市場には評価されない。韓国・中国を先頭に、日本製品に比べれば品質は若干劣る場合でも消費者ニーズを満たすものであり、かつ日本製品よりも安く提供される製品が市場シェアを大きく占めるようになってきた。日本企業の従来の優位性が活かされていないのである。これまでのところ、食品業界を除く多くの日本メーカーは、うまく対応ができていないように思われる。

現地ニーズをしっかり吸い上げて、商品企画に反映させるとともに、現地で受け入れられる価格で提供できるように品質・コストをつくり込むことが求められている。

開発購買4

4.1 開発購買とは上述のようなグローバル化対応に向けて、原

価企画・開発購買のプロセスを再構築することは一つの重要な施策であろう。以下に、とくに原価企画における開発購買の役割についてポイントを述べる。

まず、あらためて原価企画と開発購買の定義を整理しておきたい。

原価企画については、多くの本も出されており、それぞれの著者が定義しているが、要約するならば、以下の 3 点がポイントといえるであろう。

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購買・調達

1

2

3

1

2

3

モニタリングの仕組みを構築し、目標達成度が常に見えるようにすること

連携プロセスを構築すること

開発に対して、タイムリーに有意な情報提供をすること

⇒ 確実に進捗管理できる目標設定      …目標割付の単位(ユニット/部品別の目標明確化、最新単価の共有化、等)⇒ 課題展開 …ギャップを埋める具体的な施策立案、施策方向の意思決定、等⇒ 短サイクルマネジメントによる早期のCheck-Actionの実施      …事前見積もり(明確な積算根拠、積算プロセスの標準化・効率化、等)

開発計画と連動した調達先行課題の展開⇒ 情報収集力…収集すべき情報の早期展開、情報ソース拡充、等⇒ 情報評価力 …評価基準の明確化、等⇒ 提案力の強化…改善構想立案、コーディネート、情報共有システム、等

⇒ 開発からのインプットと調達からのアウトプットの明確化開発プロセスを標準化し、どのタイミングの、どのようなインプットに対して、どのようなアウトプットをするのかを明確化する

⇒ 継続的にプロセスのレベルUPを図ること…振返りを通じプロセスブラッシュUPを図る

⇒ タイムリーな施策方向の意思決定を図ること活動を引っ張っていく推進責任者の設置(受注可否判断含む)

図表—3 原価企画で開発購買が役割を果たすためのポイントこのような取組みを成功させるには、図表—3 にあげた 3 項目がポイントとなる。

まずは、「1)モニタリングの仕組み構築」である。これは、原価企画活動を通じて、目標に対する進捗状況の見える化を図り、確実にマネジメントサイクルを回すための仕組みである。マネジメント対象の目標を適切に設定する方法は後述する。ここではとくに、マネジメントサイクルを早く回すことをポイントとして強調しておきたい。つまり、目標達成に向けて十分な施策が立案されているのかを早期に確認できるようにし、不十分なところに対して対応策を打っていくことである。

早くマネジメントサイクルを回すには、目標を適切な粒度に細分化し、その細分化された目標達成に必要な課題を具体化し、施策を立案する。そして、その施策によりあげられる効果予測を早く出すことがポイントである。バイヤーはサプライヤーからの見積もりに頼りがちになるが、仕様が不確定な段階での見積もりは価格が高めに出てくることが少なくない。施策内容に応じて、バイヤー自身が効果を見積もれる力量を高めるとともに、効率的な見積もりができるツールの整備が重要である。「2)連携プロセスの構築」とは、調達が開発に

対して先行した情報収集を行い、具体的な提案をしていくためのプロセスである。開発購買とは、開発部門と調達部門を中心に、複数の関連部門が互いに連携しながら仕事を進めていく取組みである。この部門連携をしっかりしたものにするために、部門間での情報のやり取りの標準化を図ることが重要である。つまり、どのタイミングで、どのような情報が、どこから誰に渡され、その情報に基づいて、調達はどのような取組みを行い、どのような提案内容をアウトプットとしてまとめていくのかということを明確にするのである。

調達が情報収集をするには、ある程度のリードタイムが必要である。そのリードタイムを確保したうえで、開発が求めるタイミングにタイムリーに提案するには、早い時期に開発の方向性を確認する必要がある。そして得られた情報に基づき、調達としての課題展開を行い、情報探索を行うのである。開発にタイムリーに提案をするには、開発からタイムリーに情報収集して、調達活動を進めるための連携プロセスを構築することが必要なのである。

「3)タイムリーに有意な情報提供」を行うことは、調達からの提案の完成度を高めることを指している。そのために調達は、より競争力のあるサプライヤーを発掘する必要がある。サプライヤー探索は同じ情報ソース(情報源)に頼っていては新しい情報を得られる可能性は低くなる。したがって情報ソース自体の拡充を図ることが重要である。また、サプライヤーから収集した個別の情報をそのまま開発に提供しても、開発としては新製品に織り込むのがむずかしいことが少なくない。調達は収集した情報を精査するとともに、他の情報とも組合わせを図りながら、施策の完成度を高めることが重要である。

以上、原価企画において開発購買が役割を果

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購買・調達

たすためのポイントとして、3 項目について概要を述べた。以降は、次の 2 点に絞ってもう少し詳しく解説を進めたい。① もらえるコスト展開の考え方② 開発購買推進の手順

4.2.1 もらえるコスト展開の考え方もらえるコストとは、原価企画において開発

製品に与えられる目標コストのことである。目標コストは、事業上の必要性から決まってくるものである。そしてコスト展開とは、当該商品を構成するユニットや部品に対して、目標コストを分解して個別に割り付けるこという。このときに、ユニット間に差をつけずにコストダウン目標を一律に配分しているケースが少なくない。製品規模にもよるが、設計者はユニットごとに担当が分かれていることも多いため、一律展開は、表面上公平なようだが、実はそうではない。ユニットによって原価構成や適用できる技術革新の可能性は異なるので、コストダウンの可能性はばらつきがあるのが普通である。したがって、トータルの目標コスト設定では、達成可能性よりも事業上の必要性からの目標設定を重視すべきだが、ユニットや部品単位の目標展開では、トータルの目標コストの範囲内で可能性を考慮した配分をすべきである。

また、多くの場合、目標コストを割り付けると、現行製品からいくら引き下げるかというこ

とに意識が集中しがちである。既存の部品構成や構造を前提として考えることで、かえって技術革新の誘発を止めてしまっているケースがある。コスト展開の段階で検討する施策の幅を狭めないようにすることは重要である。

図表—4 は、上述のもらえるコスト展開の考え方と手順を示したものである。もらえるコスト展開では、まず製品を構成する機能に対してもらえるコストを割り振り、次にその機能を実現するためのユニット/部品に対して機能別のもらえるコストを再配分していく。図表—4 の右表を見ていただきたい。縦軸に製品を構成する機能を、横軸にユニットを展開している。縦軸の機能別に「重み」があるが、この重みづけにしたがって、もらえるコストを配分する。さらに横軸のユニット別にも各機能に対する重みが、1~ 10 の形で割り振られている。この重みに応じて、機能別に割り振られたもらえるコストをユニットごとに再配分していく。各機能からユニットに配分されたもらえるコストを、ユニットごとに集計した縦軸の合計値が、当該ユニットに与えられるもらえるコストである。このユニット別のもらえるコストに対して、現状コストもしくは現状に要求仕様を織り込んだ成行きコストを比較し、その差異がコストダウンの必要額となる。最後に、必要に応じてユニット別目標コストに補正を加え、目標展開を完了させる。

もらえるコスト展開の手順を簡単に言えば、

図表—4 もらえるコスト展開の進め方

【もらえるコスト展開のイメージ】【もらえるコスト展開の進め方】

1 企画意図の展開

コストの使い方の第一歩は、企画意図へのコスト配分である各々の企画意図へどのぐらいコストを使うかという観点で配分する

2 機能ユニットへの展開

企画意図へ配分したコストを、その企画意図を達成する機能ユニットへ配分する

3 目標展開の補正

各ユニットへのコスト配分を集計し、0次試算値(成行きのコスト予測)とのギャップを把握するこれに補正を加え、各ユニットの使えるコストを決定する

企画意図 もらえるコスト エンジン ミッション サスペンション ボディ 内装 …基本要件 重み ¥100000

キビキビした走り 18 点

8 10 8 2 0 …18/78X100000 8/40X23077 10/40X23077 8/40X23077 2/40X23077 0/40X23077

¥23077 ¥4615 ¥5769 ¥4615 ¥1154 ¥0

快適空間 16 点1 0 3 0 10 …

16/78X100000 1/16X20513 0/16X20513 3/16X20513 0/16X20513 10/16X20513¥20513 ¥1282 ¥0 ¥3846 ¥0 ¥12821

十分な剛性 20 点

0 0 3 10 0 …20/78X100000 0/20X25641 0/20X25641 3/20X25641 10/20X25641 0/20X25641

¥25641 ¥0 ¥0 ¥3846 ¥12821 ¥0

… 8 点2 1 2 5 3 …

8/78X100000 2/15X10256 1/15X10256 2/15X10256 5/15X10256 3/15X10256¥10256 ¥1368 ¥684 ¥1368 ¥3419 ¥2051

… …

合計 78 点 ¥100000 ¥7265 ¥6453 ¥13675 ¥17393 ¥14872 XXX0 次試算 ¥137500 ¥9650 ¥8890 ¥15890 ¥21250 ¥17550ギャップ ¥37500 ¥2385 ¥2437 ¥2215 ¥3857 ¥2678

コストダウン% 27% 25% 27% 14% 18% 15%補正 ¥37500 ¥2700 ¥2600 ¥1500 ¥4200 ¥2900

コストダウン% 27% 28% 29% 9% 20% 17%

目標コストの達成に向けた検討を行う。技術開発や海外生産なども含めた必要策を抽出し、自社の不足技術や調達力向上などの必要性、方向を明確にする

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購買・調達

以上のようになるが、ここで重要なことは、その展開の考え方である。もらえるコスト展開のねらいは、各ユニットの設計のコストダウンへの意識を、「いくら下げる」「いくら削る」といったマイナスする思考の考え方から、各ユニットを 「いくらで設計するのか」「いくら使うのか」といったプラスする思考に変換することである。 「いくら使うのか」という発想で取り組むことで、従来の延長を脱した検討を可能にするのである。もらえるコスト展開の手順でまず縦軸の機能別に展開するのは、コストの使い方を商品の企画意図=機能に対して配分することを意味している。そして、ユニットへの展開は、その企画意図を構成する機能ユニットへの展開を意味している。「重み」とは、製品を構成する機能の重要性を、顧客の立場から評価して点数配分したものと考えるのがよい。重みづけの方法にはいくつのかのやり方があるが、特定の機能を基準として相対評価で点数配分を決めていく方法がわかりやすいやり方であろう。

各ユニットへのもらえるコストの展開後、最後に補正をする場合があるが、この補正は単に厳しい目標となったユニットの緩和を図ることが目的ではない。すでに開発に織り込める具体的な技術革新施策がある場合や、たとえコスト上は不利に働くことであっても商品戦略上は必要な機能がある場合に応じて、それらの要素を織り込むことで調整を図るという内容に留めるべきである。

4.2.2 開発購買推進の手順開発購買では、調達は受け身になっているこ

とが多い。つまり、開発の DR(デザインレビュー)に出席するようになっても、その場で開発から情報探索の依頼を受けた動きとなっているのである。そのために、せっかく情報探索して提案を行っても、設計のタイミングに間に合わず、当該製品に織り込まれないといったことが起こったりする。調達が役に立つ存在や頼りになる存在となるためには、開発に対して先行的に提案していくことが重要である。開発方針に則

り、調達に求められることを調達自らが課題展開し、情報探索~提案をしていくことが必要なのである。そしてそのためには、その推進プロセスを標準化したり、必要なツールを整備したりする必要がある。

図表—5 は、開発購買の推進手順とツールの事例である。まず、開発側への開発方針の確認・把握が必要である。開発段階に応じて、開発としても方針が未決定のケースもあり、そのケースでは情報は逐次更新することも含めて、その時点で見通せる範囲の情報を収集する。あわせて、関連する調達市場の情報収集も行う。次に、収集された情報に基づき調達が開発購買に取り組む重点ユニットを絞り、調達としての方向性を検討する。このときに、「開発・調達方針リスト」といったツールがあると検討をしやすい。このツールについては後述する。調達方針が決まれば、当該ユニットに対して、目標コスト達成に向けた課題抽出を行う。課題抽出のためには、現行品をベースにそのコスト発生要因を明らかにする。コスト発生要因とは、当該品のどこに、どんなコストが、なぜ発生しているのかというコストの発生構造のことで、当該品の要求仕様、費用構造、製造プロセス等を明らかにする。コスト発生要因が明確になれば、どの部分をいかに変えることが目標達成につながるのかという観点から改善仮説を立案し、その仮説実現の

・現段階の開発方針の把握・調達市場情報収集

↓・重点テーマ部品の考え方の整理と設定

↓・調達方針の検討

↓・重点テーマ部品のコスト発生要因の調査と課題の設定

↓・改革案(何をどう変えるか)の策定

↓・基本計画の検討開発/調達担当との役割分担、スケジュール

↓・検討推進 & 進捗管理(日程、目標コストと見込み)

開発・調達方針リスト

重点テーマ管理表

コスト発生要因調査

図表—5 開発購買推進事例

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購買・調達

 既存の調達の枠組みを変化させる視点で、国内・海外調達の配分変更や商社経由の調達をメーカー直接取引化するなどの施策開発購買では、とくに調達政策面、仕様面

が重要である。調達政策面ではサプライヤー集約や新興国を含めた海外新規サプライヤーの探索、技術力の高いサプライヤーとの開発段階からの協業といった方向があげられる。仕様面では、サプライヤーを巻き込んだ VE の強力推進、仕様の標準化、汎用品の活用などがあげられる。また、サプライヤーと協同して、つくり方の改革に取り組むことも有効である。

このツールで重要なのは、このような調達方針の視点を事前に整理し、標準化しておくことである。これらの視点は、コストダウンのノウハウであり、これを整理することがノウハウの蓄積と標準化につながる。そして、マトリックス形式で検討をすることが、漏れのない検討を可能とする。

まとめ5

以上、開発購買が役割を発揮するためのポイントとして 3 点をあげ、とくにもらえるコスト展開の考え方と開発購買の推進手順について、例をあげてその概要を解説してきた。共通するポイントは、手順を標準化し、ツール類を整備することである。調達の業務は属人化しやすい業務と言われている。属人化した業務は、担当者本人にしかわからない独自のやり方ということであり、組織をあげて厳しい経営環境を打開していくということに不向きである。開発購買プロセスのみならず、調達業務全般のプロセス標準化とその継続的なブラッシュアップを今後も継続して行っていただきたい。

本稿が、皆様の「強く頼りになる調達の実現」の一助となれば、幸いである。本稿では、誌面の都合上、概要説明に留まる内容が多くなった。ご不明な点は、お気軽にお問い合わせください。

ための課題・アイデアに基づき改革案を策定していく。改革案の具体化がなされれば、その実行計画をまとめ、開発との役割分担や推進スケジュールを明確化して、実行を進める。当然のことながら、実行計画は具体的に書面化し、開発部門と進捗を共有しながら、推進のマネジメントができるようにして進める。

開発購買の概略手順は上記のとおりであるが、以降は図表—5 にあるツールに関して、もう少し解説をしたい。

「開発・調達方針リスト」とは、対象の開発製品のユニットを縦軸に並べ、横軸に調達方針の視点を並べて、どのユニットにどのような調達方針の視点が適用できるのかを整理できるマトリックス表である。調達方針の視点とは、調達コストに関わる条件を変更するための切り口である。この切り口は、「買い方」「つくり方」「仕様」「調達政策」に層別することができる。この4 つの切り口の考え方は、次のとおりである。・買い方:サプライヤー選定・価格決定プロセ

ス面の変更をすること より有効な調達条件や調達価格を設定するためのサプライヤー探索、サプライヤー選定や調達価格決定に関わる施策

・つくり方:モノづくりプロセスを変更すること サプライヤーにおけるつくり方だけでなく、バイヤー企業側からサプライヤーまでの一貫したサプライチェーンを見渡して、最適な内外作編成や物流条件、納入頻度、納入荷姿などの適正化といった施策

・仕様:設計仕様を変更(適正化)すること 個々の調達品の要求機能に対するコスト適正化を図る VE 施策や品種の統合(共通化・標準化)などを行う VR(Variety Reduction;部品品種統合)、新技術や新工法の採用、自社仕様品ではなく汎用的なメーカー標準品採用などの施策

・調達政策:既存の調達構造を大きく変更すること