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No. 85 [企画]みんなの体育編集委員会 り正確に検討できるようになるといえる。また,こ の期間に授業研究が進められ,その成果を踏まえた 質の高い授業の実現が改訂後には期待されることに なる。実際,2012 年度には,学習指導要領実施状 況調査が実施され,体育以外の教科の結果が公開さ れている(国立教育政策研究所,2012)。 学習指導要領は,教育基本法に記された教育の目 標達成に向け,各学校において教育の内容を組織的 かつ計画的に組み立てた教育課程の規準を大綱的に 示した文書である。また,その役割の一つが,学校 における教育水準の全国的確保である。そのため, 各学校がその特色を生かし,創意工夫を重ねて学習 指導要領を踏まえた教育活動の更なる充実を図って いくことが重要になる(文部科学省,2017,p.2)。 同時に,実際の授業の質保証に向けては,改訂され た学習指導要領を踏まえた解説書の発行や教師教育 プログラムの提供が同時に進行することになる。 このような性格を備えた学習指導要領の今回の改 訂に際して検討された内容が,次の 6 点である。 ⑴ 「何ができるようになるか」(育成を目指す 資質・能力) ⑵ 「何を学ぶか」(教科等を学ぶ意義と,教科 学習指導要領の改訂に際しては,多くの人々が改 訂の方向に大きな関心を示すことになる。しかし, 他方で,改訂された内容に教員が追いつけないと いった指摘も常にみられる。今回の改訂で外国語や 道徳への対応が求められたことは,その例である。 もっとも,改訂は急に進められたわけではない。 先回の 2008 年改訂は,2006 年に改訂された教育 基本法を受けた改訂であった。この間,2014 年には 「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容 と評価の在り方に関する検討会−論点整理−」が出 されている。そして,2016 年 12 月 21 日には中央 教育審議会より「幼稚園,小学校,中学校,高等学 校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必 要な方策等について(答申)」が出され,2017年2 月 14 日から3月 15 日にかけて,学習指導要領案 に対するパブリック・コメントが受け付けられた。 この過程は,現行の学習指導要領が公示されて以 降,長い時間をかけて今回の学習指導要領改訂に向 けた検討が進められてきたことを示している。この 時間は,改訂された学習指導要領で示された指導内 容を実際に指導し,その成果を確認しつつ,課題を 検討し,将来を模索するために必要な時間といえ る。逆に言えば,改訂された学習指導要領の元でそ れが確実に実施されることで,次の改訂の方向がよ ソフトバレーボールの学習指導について考える 信州大学教育学部准教授 渡辺 敏明 シリーズ 34 基本の運動で使える楽しい運動遊び 新学習指導要領が求める資質・能力(1) 日本体育大学教授 岡出 美則 新学習指導要領が求める資質・能力(1) 日本体育大学教授 岡出 美則 学習指導要領改訂の背景 1 学習指導要領の性格: 授業の質保証 2

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No.85[企画]みんなの体育編集委員会

り正確に検討できるようになるといえる。また,この期間に授業研究が進められ,その成果を踏まえた質の高い授業の実現が改訂後には期待されることになる。実際,2012 年度には,学習指導要領実施状況調査が実施され,体育以外の教科の結果が公開されている(国立教育政策研究所,2012)。

学習指導要領は,教育基本法に記された教育の目標達成に向け,各学校において教育の内容を組織的かつ計画的に組み立てた教育課程の規準を大綱的に示した文書である。また,その役割の一つが,学校における教育水準の全国的確保である。そのため,各学校がその特色を生かし,創意工夫を重ねて学習指導要領を踏まえた教育活動の更なる充実を図っていくことが重要になる(文部科学省,2017,p.2)。同時に,実際の授業の質保証に向けては,改訂された学習指導要領を踏まえた解説書の発行や教師教育プログラムの提供が同時に進行することになる。

このような性格を備えた学習指導要領の今回の改訂に際して検討された内容が,次の 6 点である。

⑴ 「何ができるようになるか」(育成を目指す資質・能力)

⑵ 「何を学ぶか」(教科等を学ぶ意義と,教科

学習指導要領の改訂に際しては,多くの人々が改訂の方向に大きな関心を示すことになる。しかし,他方で,改訂された内容に教員が追いつけないといった指摘も常にみられる。今回の改訂で外国語や道徳への対応が求められたことは,その例である。

もっとも,改訂は急に進められたわけではない。先回の 2008 年改訂は,2006 年に改訂された教育基本法を受けた改訂であった。この間,2014 年には

「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会−論点整理−」が出されている。そして,2016 年 12 月 21 日には中央教育審議会より「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」が出され,2017 年2月 14 日から3月 15 日にかけて,学習指導要領案に対するパブリック・コメントが受け付けられた。

この過程は,現行の学習指導要領が公示されて以降,長い時間をかけて今回の学習指導要領改訂に向けた検討が進められてきたことを示している。この時間は,改訂された学習指導要領で示された指導内容を実際に指導し,その成果を確認しつつ,課題を検討し,将来を模索するために必要な時間といえる。逆に言えば,改訂された学習指導要領の元でそれが確実に実施されることで,次の改訂の方向がよ

ソフトバレーボールの学習指導について考える信州大学教育学部准教授 渡辺 敏明

シリーズ34 基本の運動で使える楽しい運動遊び

新学習指導要領が求める資質・能力(1)日本体育大学教授 岡出 美則

新学習指導要領が求める資質・能力(1)日本体育大学教授 岡出 美則

学習指導要領改訂の背景1

学習指導要領の性格:       授業の質保証2

等間・学校段階間のつながりを踏まえた教育課程の編成)

⑶ 「どのように学ぶか」(各教科等の指導計画の作成と実施,学習・指導の改善・充実)

⑷ 「子供一人一人の発達をどのように支援するか」(子供の発達を踏まえた指導)

⑸ 「何が身に付いたか」(学習評価の充実)⑹ 「実施するために何が必要か」(学習指導要

領等の理念を実現するために必要な方策)(中央教育審議会,2016,p.21)

この内容は,2030 年以降の社会に生きる子どもに学校を卒業した時点でも学び続ける力を保障したいという要望を踏まえている。そこで想定されている社会とは,不確定性の高い社会であり,多様な問題を主体的に解決していくことが求められる社会だといえる。また,その先には,人工知能が人間を追い越す時代が想定されている。人間が担っている仕事が人工知能に肩代わりされていく時代には,職業や生活のイメージも大きく変わっていくことは想像できる。そこでは,既知を活用し,人と共同しながら創造的に課題解決に向かう人材の育成が求められることになる。現行の体制では,この課題への対応に課題が残されているという認識である。

実際,中央教育審議会答申は,日本の子どもたちが国際的には高い学力を維持していることを認める一方で,「学ぶことと自分の人生や社会とのつながりを実感しながら,自らの能力を引き出し,学習したことを活用して,生活や社会の中で出会う課題の解決に主体的に生かしていくという面から見た学力には,課題がある」(中央教育審議会,2016,p.6)と指摘している。同時に,子供の発達や学習を取り巻く個別の教育的ニーズを把握し,一人一人の可能性を伸ばしていくことも課題として挙げられている

(中央教育審議会,2016,p.8)。この過程で,⑴から⑶の相互依存関係が強調され

たことも見過ごせない。児童に身に付けてほしい資質・能力は,個々の教科の教科内容の意図的な学習指導の結果として獲得されるのであり,個々の教科内容の習得には最適の学習指導方略の適用が必要になると考えられているためである。

このような時代認識と課題を見据えつつ,新学習

指導要領は,次の3点の実現を図ることで,児童に生きる力を育むことを意図している。

⑴ 基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ,これらを活用して課題を解決するために必要な思考力,判断力,表現力等を育むとともに,主体的に学習に取り組む態度を養い,個性を生かし多様な人々との協働を促す教育の充実に努めること。

⑵ 道徳教育や体験活動,多様な表現や鑑賞の活動等を通して,豊かな心や創造性の涵養を目指した教育の充実に努めること。

⑶ 学校における体育・健康に関する指導を,児童の発達の段階を考慮して,学校の教育活動全体を通じて適切に行うことにより,健康で安全な生活と豊かなスポーツライフの実現を目指した教育の充実に努めること。

(文部科学省,2017,pp.3-4)

また,⑴と関わり,各教科,道徳科,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動の総称である各教科等において,次の3点を偏りなく実現することが求められている。

⑴ 知識及び技能が習得されるようにすること。

⑵ 思考力,判断力,表現力等を育成すること。⑶ 学びに向かう力,人間性等を涵養すること。

(文部科学省,2017,p.4)

学びに向かう力のように,言葉が耳新しく響くこれら三つの資質・能力は,次のように説明されている。

⑴ 発達の段階に応じた生活の範囲や領域に関わる物事について理解し,生活や学習に必要な技能を身に付けるようにする。

⑵ 情報を捉えて多角的に精査したり,問題を見いだし他者と協働しながら解決したり,自分の考えを形成し伝え合ったり,思いや考えを基に創造したりするために必要な思考力・判断力・表現力等を育成する。

⑶ 伝統や文化に立脚した広い視野を持ち,感性を豊かに働かせながら,よりよい社会や人生の在り方について考え,学んだことを主体

全ての教科で育む   三つの資質・能力3

的に生かしながら,多様な人々と協働して新たな価値を創造していこうとする学びに向かう力や人間性を涵養する。

(中央教育審議会,2016,p.44)

多くの人々の関心を集めた主体的・対話的で深い学びと表現されるアクティブ・ラーニングは,これらの資質・能力を育成する手続きに関わる提案といえる。しかし,その提案には極めて慎重な立場が取られている。

実は,我が国の学習指導要領は特定の指導法の導入に常に慎重な態度をとってきた。実際,今回の改訂の過程では,指導法の工夫が特定の学習や指導の型に拘泥する事態を招きかねないとの懸念が示されていた(中央教育審議会,2016,pp.48-49)。

他方で,育成すべき資質・能力に対応した指導内容の確実な習得に向け,一単位時間内で全てを実現させようとするのではなく,単元全体の中で期待する資質・能力を培う場面を意図的に設定していくことが必要になることが示されている(中央教育審議会,2016,p.52)。目的に対応した適切な学習指導方略の適用や指導と評価を一体化させ,単元や授業を計画していくことが求められたといえる。

このような動きの中で,2016 年 12 月の中央教育審議会答申では東京オリンピック・パラリンピックに対応したスポーツの教育的価値に対する期待が明示されている。その期待は,グローバル化への対応や多様性を尊重する態度の育成という文脈の中で語られている。まさに,スポーツを通した価値教育という文脈である。例えば,保健体育科における共生の観点に立った関わり方は,それと関連付けながら学校教育内で障害者理解や交流,共同学習を推進させていくことが期待されているといった記述が見られることやスポーツを通して多様性を尊重する態度や他者への共感や思いやりを育むことが求められていることは,その具体例である(中央教育審議会,2016,p.59)。

この動きの中では,学校教育内においてスポーツとの多様な関わり方を保証していくことが求められている。「する・みる・支える」に「知る」が加えられたことは,その例である。

もっとも,スポーツに対するこのような期待は,

かつてであれば,スポーツの手段化との批判を招いた。スポーツは,スポーツを行うこと自体を目的に実施されるべきであり,それ以外の目的達成の手段として用いることは好ましくないという考えである。

確かに,スポーツに期待し得る教育的な価値は,今日では国際的にも高く評価されている。スポーツを通した開発支援に向けた取組は,その例である。しかし,スポーツに期待し得るこれらの機能は,スポーツを行えば自動的に発揮されるわけではない。あくまで期待できる効果という意味での可能性である。実際,期待される機能とは異なる結果が生み出されている危険があることを,スポーツ関係者は自覚している。スポーツ指導場面における暴力やドーピングは,その具体的な例である。このことは,体育の授業においても,授業外で行われているスポーツの質の維持,改善,発展に向けた意図的な取組が必要になることを示している。それだけに,スポーツに期待し得る教育的な価値実現に向けた意図的で適切な学習指導が必要になる。体育の授業は,この中で中心的な役割を期待されることになる。

もっとも,前記の三つの資質・能力は,全ての教科等で育成すべきとされている。しかし,この指摘は,個々の教科が必要なのかという疑問を生み出すことになる。どの教科であっても等しく目指すべき資質・能力だというのであれば,個々の教科はいずれも等しく,それらを達成する手段として貢献することを期待されることになる。なぜ,わざわざ教科という枠組みを設定する必要があるのかという疑問である。

このような疑問に答える形で示された概念が個々の教科の「見方・考え方」である。小学校の学習指導要領(文部科学省,2017)では,主体的・対話的で深い学びと関連付けて,それが次のように説明されている。「特に,各教科等において身に付けた知識及び技

能を活用したり,思考力,判断力,表現力等や学びに向かう力,人間性等を発揮させたりして,学習の対象となる物事を捉え思考することにより,各教科等の特質に応じた物事を捉える視点や考え方(以下

「見方・考え方」という。)が鍛えられていくことに留意し,児童が各教科等の特質に応じた見方・考え

スポーツにかけられた期待4

体育の見方・考え方5

方を働かせながら,知識を相互に関連付けてより深く理解したり,情報を精査して考えを形成したり,問題を見いだして解決策を考えたり,思いや考えを基に創造したりすることに向かう学習の過程を重視すること。」(文部科学省,2017,p.8)

個々の教科で「見方・考え方」の表記の仕方は異なる。その中で,「体育の見方・考え方」は,次のように記されている。「「体育の見方・考え方」については,生涯にわ

たる豊かなスポーツライフを実現する観点を踏まえ,「運動やスポーツを,その価値や特性に着目して,楽しさや喜びとともに体力の向上に果たす役割の視点から捉え,自己の適性等に応じた『する・みる・支える・知る』の多様な関わり方と関連付けること」と整理することができる。」(中央教育審議会,2016,p.187)

ここでいわれる運動やスポーツの価値の例としては,「公正,協力,責任,参画,共生,健康・安全」等が挙げられている(中央教育審議会,2016,p.187)。

現行の学習指導要領では体育は楽しく明るい生活を営む態度を育てることを究極の目標とし,そのために生涯にわたって運動に親しむ資質や能力の基礎を育てること,健康の保持増進,体力の向上を図ることの三つの目標が密接に関連していることが記されている。「体育の見方・考え方」は,この目標観を踏まえている。運動やスポーツの楽しさや喜び,体力の向上,自己の適性等に応じたスポーツとの多様な関わり方と関連付けていくことで,生涯にわたりスポーツに親しむ資質・能力を育成していくことを期待しているといえる。また,その資質・能力が,先述した三つの資質・能力に関連付けられることが期待されている。

今回の改訂では,スポーツ好きの児童,生徒が増えてきたこと,体力の低下傾向に歯止めがかかったこと,スポーツへの多様な関わりの必要性や公正,責任,健康・安全等,態度の内容が身に付いてきたことが成果として示されている。他方で,運動する子供とそうでない子供の二極化傾向が見られることや昭和 60 年頃に比較して体力が依然として低いことが課題として挙げられている(中央教育審議会,2016,p.186)。

この点を踏まえた改善の方向は,三つの資質・能力を育成する観点から内容の改善を図ること,並びに保健領域との一層の関連を図る内容等について改善を図ることに求められている。また,運動の苦手な児童や運動に意欲的ではない児童への指導等への配慮,並びにオリンピック・パラリンピックに関する指導の充実が示されている(中央教育審議会,2016,pp.188-189)。

これらは,学校教育に期待される目標の達成や生涯スポーツに主体的に取り組む資質・能力の育成という観点からみて,現行学習指導要領以上に高い期待が示されたことを意味している。

これらを受けた目標,内容,方法については,次回以降に言及したい。

【参考文献】

1)中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会

(2015) 教育課程企画特別部会における論点整理に

ついて(報告)平成 27 年8月 26 日

 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/

chukyo3/053/sonota/1361117.htm(2016.9.23 現在)

2)中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会

(2016) 次期学習指導要領等に向けたこれまでの審

議のまとめについて(報告)平成 28 年8月 26 日

 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/

chukyo3/004/gaiyou/1377051.htm(2016.9.24 現在)

3)中央教育審議会(2016) 幼稚園,小学校,中学校,

高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善

及び必要な方策等について(答申)(中教審第 197 号)

平成 28 年 12 月 21 日

 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/

chukyo0/toushin/1380731.htm(2016.12.30 現在)

4)国立教育政策研究所(2012)小学校学習指導要領

実施状況調査

 http://www.nier.go.jp/kaihatsu/kyouikukatei.html

 (2017.3.4 現在)

5)文部科学省(2017)小学校学習指導要領

 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/__

icsFiles/afieldfile/2017/03/31/1383995_2_1.pdf

 (2017.4.10 現在)

体育の現行学習指導要領に対する評価6

(注):シリーズ名の「基本の運動」は,平成 10 年告示の学習指導要領における運動領域名です。基本の運動で使える楽しい運動遊びシリーズ34

ソフトバレーボールの学習指導について考える信州大学教育学部准教授 渡辺 敏明

ソフトバレーボールは,ボールを落とさずに空中でつなぐ「ボレー」を,仲間と協力して競い合うところに楽しさがある運動です。

小学校では,ネット型(ゲーム)のカテゴリーに位置づけて学習指導が展開されており,「ラリーを続ける楽しさ」や「意図的な攻撃で得点する楽しさ」を味わわせるための技能とともに,友達との関わり合いを育てていく学習指導が大切にされています。

ところで,ボールを空中でつなぐ「ボレー」で生まれる仲間との協力(連係プレー)は,転がるボールやバウンドしたボールをつなぐゲームとは必然的に異なる運動感覚が求められます。そのため,子どもがソフトバレーボールを楽しむには,いくつかの課題があるようです。

そこで本稿では,ネット型(ゲーム)で取り扱われるソフトバレーボールを取り上げて,中学年の段階から楽しく取り組むことができ,チームでつないで攻防を競い合うことのできる学習指導について考えていきたいと思います。

ソフトバレーボールに初めて取り組む子どもは,バレーボール系の学習に不可欠の「先取り能力(ボールの軌跡や落下地点を読み取る能力)」が十分育っていないことで,ラリーが続かないでいたり,意図的な攻撃ができなくてゲームを楽しめないことが多いようです。

そこで,空中でボールをつなぐことに焦点を当てて,「ボール操作を緩和する」「攻防(攻撃やそれに対応する守備)を易しくする」という視点からルールを工夫することによって,チームで連係して意図的にプレーを継続することができるように促していくことが大切になります。例えば,「レシーブ(トス)ではキャッチを認める」「サーブ(返球)は両手で投げ入れる」など,ゲーム中の技能課題を易しくするとよいでしょう。

はじめに1 もちろん,最低限のボール操作の技能が保障されないとゲームが成立しないため,「ボールの落下地点を先取りして動く要領(カン)」「ボールを手ではじき返す要領(コツ)」を身に付けるための,楽しく取り組める教材を用意してあげることが大切になります。

ゲームの攻防においては,意図的な攻撃で得点したときに大きな喜びが味わえます。そこで攻撃を組み立てる「レシーブ」「トス」「アタック」の技能のうち,早い段階から手で打ち返す技能(アタックの技能)を育てていくことが大切になるのです。アタックの技能が育ってくると,攻撃では「誰が打つのか」「どこに打つのか」,守備では「レシーブ

(キャッチ)の守備隊形をどうするか」という戦術的理解に基づいた関わりも芽生えてくるのです。

このような学習指導のポイントを踏まえて,中学年から取り組めるソフトバレーボールの教材づくりを紹介します(表1)。表1 ソフトバレーボールの単元計画例(6時間扱い)

ソフトバレーボールの魅力でもある,連係プレーやラリーの発生する頻度を高めるには,ゆっくり飛んで扱いやすいビニールボールを使用するとよいでしょう(ボールの例:円周 78cm,重量 50g か100g)。ゲームを行う場として,バドミントンのコートとネット(高さ 155cm)を利用することで,中学年から取り組みやすくなります。また,ルールとして,子どもと「ネットを触ったり,引っ張ったりしないこと」を約束します。

ソフトバレーボールの    学習指導のポイント2

ソフトバレーボールの       教材づくり3

時間 1 2 3 4 5 6

●ボールの投捕

 (距離に  挑戦)

●ボールを打つ

 1人で 2人組で

●ボールをはじいて返す 対面で(距離に挑戦) 円形で(回数に挑戦) 三角形で(個数に挑戦)

●チームタイム (チームの作戦を確か  めて練習)

●キャッチバレー

 (3回で   返球)

●アタックゲーム ●アタックキャッチ バレー (初球をレシーブ)●チームタイム(チームの作戦を考える)

●アタックキャッチバレー

 (アタックで返球)

●アタックキャッチ バレー (初球をキャッチ,  またはレシーブ)

(1)ボールのパスキャッチ(距離に挑戦)

(2)キャッチバレー(3回の触球で返球)

(3)ボールを打つ(1人で・2人組で)

(4)アタックゲーム

【行い方】①2人組になり,ボールを1個持ちます。②3m程度離れて向かい合い,ボールを両手で操作して,交互にパスします(キャッチします)。③お互い1回ずつパスキャッチができたら,1歩離れます(ボールを落としたら,1歩近づきます)。6mの位置にコーンなどで目印を置いて,それ以上離れないようにします。④初めは「下手投げ」で行い,慣れたら「上手投げ」で行います。

【ゲームの進め方とルール】1チーム3〜4人のチーム対戦とします。1コート 3 チームで編成し,待機チームが審判役になります。ゲームは,1セット5分,ラリーポイント制で行い,得点の多いチームの勝ちとなります。

【行い方】①サーブは,サービスライン上に立ち,両手でボールを相手コートに投げ入れます。サーブがネットを越えなかった場合はやり直します。交互に1回ずつサーブをしたら,ローテーションします(時計回りに1つずつずれて,位置を変える)。②ネットを越えてきたボールを「両手でキャッチ」して,両手投げでパスをします(第1触球者)。キャッチしたら,その場から動けません(足の踏み出しは認める)。③ボールを「両手でキャッチ」して,両手投げでパスをします(第2触球者)。④ボールを「両手でキャッチ」して,返球します(第3触球者)。返球は両手で相手コートに投げ入れます。⑤ボールを自分のコートに落とすと,相手チームに得点(1点)が入ります。

※ボール数が不足する場合や,ボール操作の苦手な子どもには,レジ袋に新聞紙(4〜5枚)を詰めた「ゴミゴミボール」で取り組ませます(参考:小学校体育ジャーナル 55 号,69 号)。

【行い方】1人で:両手でボールを小さく投げ上げて,片手で打ちます。投げ上げることが難しい場合は,片手でボールを支えて,もう片方の手で打ちます。 2人組で:1人が両手でボールを小さく投げ上げて,もう1人が片手でボールを打ちます。慣れたら,ボールを大きく投げ上げ,打つ子は2・3歩踏み込んで打ちます。

●教師は,「遠くでパスキャッチしているペアが上手である」,「相手の捕りやすいボールを投げられると上手である」ことを伝えます。「ボールをキャッチする際には,胸で抱え込まず,両手で捕ること」を目標にさせます。また,ボールを遠くに投げられない子には,「1歩踏み出して投げるとよいこと」「投げる際の準備動作を大きくするとよいこと」をアドバイスします。

●教師は,攻撃では「相手コートをよく見て,人のいない所にボールを投げ入れると得点しやすいこと(ボールを持たない子:投げ入れる場所を指示する)」,守備では「ボールをよく見て,ボールにおへそを向けるとキャッチしやすいこと(チーム:声を掛け合う)」を伝えます。 また,サーブやパスなどの迷いでボールの移動が止まるのではなく,仲間と声を掛け合ってテンポよくボールをつないでラリーが続くことがよいゲームであることをアドバイスします。

第1触球者

第3触球者

サーブ

第2触球者

2人組で

1人で

両手で投げて片手で打つ。

●打つ子には,「ボールの真ん中を手のひ

らでたたくと,コントロールしやすく,遠くにも飛ばせる」ことをアドバイスします。ボールを投げ上げる子には,「声で投げ上げのタイミングを合図するとよい」ことや,「一定の高さ

(コース)でボールを投げ上げると上手である」ことを伝えます。

【ゲームの進め方とルール】2チーム対戦とします(全チーム対戦でもよい)。半面コートを使って,セルフジャッジ制で行います。全員がアタックして,全員の得点を合計したものをチーム得点とし,合計点の多いチームの勝ちとなります。

【行い方】①ジャンケンで「先に行うチーム」「後に行うチーム」を決めます。後に行うチームは得点集計やボールの管理などのサポートをします。②先に行うチームは,順番を決めてバドミントンコート(半面)に入り,サービスラインの手前でボールを投げ上げてもらいアタックを打ちます(アタックする子は2・3歩踏み込んで打っても構わない)。③ボールがネットを越えて落ちたゾーンで得点が決まります。目印のコーンの手前側(1点),向こう側(2 点),ネットを越えなかった場合は 0 点とします。また,アタックする子は,自分で打つゾーンを決めてア

2 点ゾーン

1 点ゾーン

1点加点ゾーン

2点加点ゾーン

サービスライン

1歩ずつ下がる。

3m

3m

(5)ボールをはじいて返す①向かい合って(距離に挑戦)

②円形になって(回数に挑戦)

③三角形になって(回数・大きさに挑戦)

(6)アタックキャッチバレー(アタックで返球)

【行い方】①2人組になり,ボールを1個持ちます(チームから2人ずつ取り組んでもよい)。ジャンケンで「ボールを投げる子」「レシーブする子」を決め,2m程度離れて向かい合う。②パスキャッチの要領でボールを投げ,レシーブする子はボールを両手(アンダーハンドやオーバーハンド)ではじいて,投げた子に返します。投げた子は戻ってきたボールをキャッチします。初めは,下手投げでボールを投げます(アンダーハンドではじいてパスを返します)。慣れてきたら,上手投げで投げます(オーバーハンドではじいて返します)。③ボールを落とさずに3回返せたら,役割を交代します。④慣れてきたら,4m程度まで距離を広げて行うことに挑戦します。

【行い方】①1グループ6〜8人(2チーム一緒)になり,手をつないで大きな円を作ります。手を放してボールを投げ上げ,ボールを落とさないように手ではじいてレシーブした回数を数えます。レシーブは,アンダーハンドでもオーバーハンドでも構いません。②回数に挑戦:「2分間で,何回ボールをはじくことができるか」に挑戦します(グループ同士で競ってもよい)。途中でボールを落とした場合には,続きの回数から数えます。

【行い方】①3人組になって,「三角形」を作って立ちます。ボールを持った人から反時計回り(時計回り)にボールを回すことを確認します。②最初の子が,ボールを下手投げで投げ,2番目の子はボールを両手ではじいて次の子にパスします。3番目の子は,飛んできたボールを両手でキャッチします。この「投げる→はじく→捕る+投げる」の動きを順番に繰り返します。■回数に挑戦:制限時間(30 秒から1分)を決めて,「ボールを落とさずに何回続けられるか(何回落としたか)」に挑戦します。途中でボールを落とした場合には,落とした人が「投げる」ことから再スタートします。■大きさに挑戦:小さな三角形で始め,ボールが2周したら1歩ずつ広がって大きな三角形にしていきます。2回ボールを落としたら,元の三角形に戻ります。大きな三角形で行っているグループが上手なグループになります。

投げる

【ゲームの進め方とルール】1チーム3〜4人のチーム対戦とします。1コート 3 チームで編成し,待機チームが審判役になります。ゲームは,1セット5分,ラリーポイント制で行い,得点の多いチームの勝ちとなります。

【行い方】①サーブは,サービスライン上に立ち,両手で相手コートに投げ入れます。サーブがネットを越えなかった場合はやり直します。交互に1回ずつサーブをしたらローテーションします(時計回りに1つずつずれて,位置を変える)。②ネットを越えてきたボールを「両手でキャッチ」して,両手投げでパスをします(第1触球者)。キャッチしたら,その場から動けません(足の踏み出しは認める)。③ボールを「両手でキャッチ」して(第2触球者),両手でボールを投げ上げます。④ボールをアタックして(第3触球者),相手コートに返球します。返球は,片手で打っても,両手で打っても構いません。⑤ボールを自分のコートに落とすと,相手チームに得点(1点)が入ります。

●教師は,ボールを遠くに飛ばすには,「高い位置で打つ」「しっかり準備して打つ」「ボールの真ん中を手のひらでたたく」ことが大切であることをアドバイスします。よい動き方をしている子を「ナイスアタッカー」として称賛し,動き方を解説します。

●ボールを投げる子には,相手の子がはじき返しやすい位置(アンダーハンドではおなかの辺り,オーバーハンドでは顔の辺り)に投げること,レシーブする子には,投げる子が捕りやすい所にボールをはじき返すことが大切であることを伝えます。

●教師は,「円形を崩さない」「円が小さくならないようにする」「極端に大きくはじかない」ことが回数を続けるために有効であることをアドバイスします。

●教師は,「レシーバーがはじきやすいボールを投げる」「極端に大きくはじかない」ことが大切であることを伝えます。

タックします。アタック側のサービスラインの手前からは 1 点加点,2m下がったゾーンからは 2 点加点とします。

2m

2m

上手投げ下手投げ上手投げ

アンダーハンド オーバー

ハンド

はじく

捕る→投げる

投げる

はじく

捕る→投げる

1

2 3アタック

1

2

3アタック

返してパスする)」(第1触球者)。③ボールをキャッチして(第2触球者),両手でボールを投げ上げます。キャッチしたら,その場から動けません(足の踏み出しは認める)。④ボールをアタックして,相手コートに返球します(第3触球者)。返球は,片手で打っても,両手で打っても構いません。⑤ボールを自分のコートに落とすと,相手チームに得点(1 点)が入ります。

小学校体育ジャーナル 85号●企 画 みんなの体育編集委員会●発行人 渡邉 洋二●編集人 近藤  茂●発行所 株式会社 学研教育みらい

◎お問い合わせは,「学校教育事業部」へ 〒141-8416 東京都品川区西五反田2-11-8 学研ビル内 内容については, TEL03-6431-1568(編集) それ以外のことは,TEL03-6431-1151(販売) 「学研 学校教育ネット」:http://gakkokyoiku.gakken.co.jp/◎「小学校体育ジャーナル」のPDF版は,上記ホームページから。 電子版(iOS,Android用)は,「学研BookBeyond」から。

平成29(2017)年5月発行 ※この冊子は,環境に配慮した紙,インキ,CTP方式で製作しています。

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紹介してきた教材は,子どもが今持っている身体能力で簡単に取り組めるもので,ネット型(ゲーム)になじませるとともに,発展的なゲームの学習にも役立つ運動感覚を育てようとしたものです。ボールを落とさずに空中でつなぐラリーでの攻防の楽しさや,意図的な攻撃で得点する楽しさを味わえますから,バレーボール系の本質的な学習内容を持っているといってもよいでしょう。

ソフトバレーボールに取り組む全ての子どもに,自分の身体の可能性を感じさせてあげることで,生涯スポーツの素晴らしい世界に招き入れることができると考えています。

【参考文献】1)「特集 体育授業への構成主義的アプローチ」『体育科教育』62 ⑴,大修館書店,20142) 関野智史「小中高の連携によるネット型ゲームの一貫指導の提案」『体育科

教育』61 ⑸,大修館書店,20133)髙橋健夫,立木正,岡出美則,鈴木聡編著『新しいボールゲームの授業づくり』

体育科教育別冊 58 ⑶,大修館書店,20104)髙橋健夫監修『小学校体育科教師用指導書 1 年〜 6 年』学研教育みらい,2010

(7)アタックキャッチバレー(初球をキャッチ,    またはレシーブ)

(8)アタックキャッチバレー(初球をレシーブ)

【ゲームの進め方とルール】1チーム3〜4人のチーム対戦とします。1コート 3 チームで編成し,待機チームが審判役になります。ゲームは,1セット5分,ラリーポイント制で行い,得点の多いチームの勝ちとなります。

【行い方】①サーブは,サービスライン上に立ち,両手で相手コートに投げ入れます。サーブがネットを越えなかった場合はやり直します。交互に1回ずつサーブをしたらローテーションします(時計回りに1つずつずれて,位置を変える)。②ネットを越えてきたボールは,「両手でキャッチしてパス」しても「レシーブ(はじき返してパス)」しても,どちらでも構いません

(第1触球者)。キャッチしたら,その場から動けません(足の踏み出しは認める)。③ボールを両手でキャッチして,両手でボールを投げ上げます(第2触球者)。④ボールをアタックして,相手コートに返球します(第3触球者)。返球は,片手で打っても,両手で打っても構いません。⑤ボールを自分のコートに落とすと,相手チームに得点(1 点)が入ります。

【ゲームの進め方とルール】1チーム3〜4人のチーム対戦とします。1コート 3 チームで編成し,待機チームが審判役になります。ゲームは,1セット5分,ラリーポイント制で行い,得点の多いチームの勝ちとなります。

【行い方】①サーブは,サービスライン上に立ち,両手で相手コートに投げ入れます。サーブがネットを越えなかった場合はやり直します。交互に1回ずつサーブをしたらローテーションします(時計回りに1つずつずれて,位置を変える)。②ネットを越えてきたボールは,「必ずレシーブしてパスします(はじき

まとめにかえて4

●教師は,攻撃では「相手コートをよく見て,人のいない所にボールをアタックすると,点を取りやすいこと(ボールを持たない子:アタックする場所を指示する)」,守備では「ボールをよく見て,ボールにおへそを向けるとキャッチしやすいこと(チーム:声を掛け合う)」を伝えます。また,サーブやパスなどの迷いでボールの移動が止まるのではなく,テンポよくボールを移動させてラリーが続くことがよいゲームであることをアドバイスします。また,「どうやって守るか」「どこに打つか」などのチームの目標の達成に向かって話し合う「チームタイム」を設けることが大切になります(短時間でよい)。

●教師は,子ども同士の励ましや認め合いを促します。例:仲間のよいプレーに「○○さん,ナイス!」,仲間の失敗に「おしい,ドンマイ」。また,よいプレーや作戦が見られたら,「人のいない場所を見つけてアタックしたから点が取れたね」「声を掛け合ってタイミングを合わせたね」と具体的に称賛したり,クラス全体に紹介したりします。加えて,チームの目標の達成に向かって「作戦を確かめる・練習する」など,自主的に活動する

「チームタイム」を設けて主体的な関わり合いを促します。

3アタック

1

2

サーブ

1

23アタック

キャッチして投げ上げるよ。

サーブ

1

2

3 アタックするよ。

レシーブするよ。

打つよ。

レシーブするよ。

キャッチしたら,投げ上げるよ。

1

23

●教師は,「初球をレシーブしている子」「はじき返されたボールに飛びついてキャッチしている子」を称賛することで,そうしたプレーが広がることを促します。